連載小説
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第4話 2日目その3「私は甘くないって」
(うわぁ……うわぁ……これが男の人の……)
ヴァネッサは間近で見る男の肉棒に圧倒されていた。
はやる気持ちを抑え、ゆっくりと根元から先端まで視線を移していく。
ちぢれた陰毛、淫水焼けした赤黒い先端の鈍い光沢。
そのどれもがヴァネッサの目を捉えて放さなかった。
(まだ小さいけど、アレが大きくなって、そこからアレ的な食料が噴射するのよね……)
「オナホなります」宣言が飛び出した後、逡巡していたレイを一喝。観念したレイは両耳に手を添えるようにしてヴァネッサを持ち、ゆっくりと構えた。
(う……凄いニオイ)
眼前まで来ると、すえた体臭が鼻腔に突き刺さり、ヴァネッサは眉をひそめた。
馬車上での生活では水浴びもままならない。ましてや山を登り汗もかいている。
体臭もキツくなるのは当然だろう。
(でも、凄く……興奮する……)
しかし一瞬の嫌悪感の後にヴァネッサの元にやってきたのは凄まじい興奮であった。
ニオイを嗅いだ瞬間、昨夜の眠っていた飢餓感が再び目を覚まし、レイの指をしゃぶった時の味が脳裏によみがえる。またあの時の、いやきっとそれ以上のものが味わえるのだと思うと、口中から粘度の高い唾液が次々と分泌されていく。
「じゃあ、いくぞ……」
「あ、ちょっと待って!」
そしていざ、となったところでヴァネッサは突如、制止をかけた。
「……なんだよ、やっぱりやめるか」
「違うわよ!その……」
一瞬だけ言い淀んだが、ヴァネッサは意を決してそれを口にした。
「その……こーゆーのは……私、は、初めてだから、あまり……激しくしないでよ」
「初めて」という言葉に、レイが息を呑む気配が伝わる。
(あ、やっぱり引かれた……?)
その態度に、言わなきゃよかったと後悔の念がよぎった。が、
「……んぶっ!?」
それもすぐに、重ねられたレイの唇にかき消された。
「……ぷはっ。あ、あああああなた、なに、いきなりキッ、キスなんか……」
「だって初めてなんだろ?いいのか、初めて唇を許すのがチ○コで」
いきなりファーストキスを奪われたヴァネッサの問いに、なに食わぬ顔でしれっとレイは答えた。
「うぐ」
確かに、あのままシていたら甘酸っぱい初めてのキスの味が、生じょっぱいカウパー味になるところだった。
「でも、だからって、キスは……」
ファーストキスはもっと雰囲気ある場面で。そう思い描いていたのだが、この男のせいでそれも打ち砕かれてしまった。
「それじゃ、気を取り直して、舌を出して口を開けろ」
「……あーん」
気を取り直すのはあなたじゃなくて私なんだけど、と言おうと思ったが、再び眼前に迫る怒張を前におとなしく口を開いた。
心なしか、先ほどよりも大きくなっているソレが近づき、先端が舌の腹と接触した。
「うっ」
ビクンと先端が跳ねる。それと同時に
(あ、ちょっと大きくなってきた)
自分の手ではまったく勃起しなかった男根が、ムクムクと半勃ち程度にまで膨らんできた。
「これなら、イけるかもしれねえ……ヴァネッサ、咥えてくれ……歯ぁ立てるなよ」
そう前置きをすると、レイの腰が前進してきた。
「……あむ」
ヴァネッサの口腔内に肉棒が侵入する。
(これが、レイの……)
昨夜レイの指をなめしゃぶった時の要領で、恐る恐る舌を伸ばす。
「はむ……ん……ぺちょ……」
まずは舌先で肉棒の下腹部を上下になぞってみる。
「うお、やべえ。やっぱ手とは違うな……」
(気持イイんだ)
自分の口で気持ちよくなってくれている。首だけでも興奮してくれている。
その事実が、女として矜持と自信を持たせ、さらに舌を動かしていく。
「ちゅる……れろれろ……」
舌の上に乗った唾液がぬるりと絡みつき、分泌されてきたカウパー腺液と混ざり、口の中に広がっていく。
(なにこれ……苦くてしょっぱくて、マズイはずなのに、凄く美味しい……)
あの時もそうだった。美味い訳がないレイの指が至高の料理かのように感じられ、貪るように吸い立ててしまった。
そして今も、目覚めた飢餓感が訴えていた。この先に自分の欲しているモノがある。
それが欲しい。今すぐ欲しい。
飢餓感の声に突き動かされたヴァネッサは、口をすぼめると思い切り吸い上げた。
「じゅるるるるるっ!!」
「くっ……」
肉棒の中のモノをムリヤリ引きずり出すよかのような吸引に、レイの手と腰が打ち震えた。
魔物特有の淫乱さのなのか、どこをどうすれば男の精を得る事ができるのかを本能的に知っている、そんな動きだった。
角ばったエラを舌先で突き、裏筋を舌の腹で押し潰す。
「んっ、れろ……れろぉる……」
「は……ぁ……」
尿道口をほじり、ダラダラと漏れ出る体液を啜る。
「ひゅっちゅ……ちゅる……ちゅっぷぅぅぅ……!」
繰り出される口撃の前に気づけばレイの肉茎も最大限にまで勃起していた。ギュッと縮んだ睾丸から噴射口へと衝動が駆け上がっていく。
ここ暫く性欲処理をしていなかったため、限界を迎えようとしているのだ。
「ぐ……そろそろ出る……」
「じゅっぱ……んあ……?」
言うや否や射精が始まった。
「ごはぁっ、うっぶぐぐ……っ!」
レイの言葉に反応する間もなくいきなり喉奥まで衝撃が走り、嘔吐反射で吐き出してしまいそうになる。それを必死に堪え、できるかぎり迸りを舌で受け止めた。
暫くシていなかっただけあって、その量もさる事ながら濃さも相当な物だった。
噛み切れないほどの粘度を持った精液が口の至るところにべっとりとこびりついていた。
(凄い、口の中からでもニオイが分かるくらい、ドロドロォ……)
「ふぅ……」
賢者となったレイはヴァネッサを精液の味に恍惚としているヴァネッサを引き抜いた。
「あん……もっほぉ……」
「おいこら、いつまで呆けてやがる」
「おぶっ!」
舌をくゆらせて味わっているヴァネッサの額を小突くと、蕩けていた目の焦点が戻ってくる。
「目、覚めたか?」
「ん」
「よし、飲み込まず、そのまま口に含んでろ。一度、袋に戻すからな」
「ん!」
もう一度、合図したのを確認し、レイはずだ袋の口を開け、ヴァネッサを入れた。
その時、ヴァネッサの髪を結っていたコームが、袋の口に引っかかり、落ちてしまった。
「ん!!」
一瞬、素早く外された髪留めをもの惜しげに見るヴァネッサ。
「心配すんな、後で渡すから。ほら、閉めるぞ」
それを見て取り、レイはヴァネッサを言い含め、口を閉めた。
「よし……と」
ずだ袋を背負い、コームを拾うとレイは静かに呟いた。
「さぁて、最後の最後で、商売といくか」


− − − − −


「こいつ……随分と弱っているみたいだな」
年長の騎士は捕縛された胴体を見下ろした。
胴体はロープで両手を拘束された状態で、地面に転がっていた。
「足は縛らなくていいんすか?」
「構いやしねぇよ。弱ってる足じゃ逃げ切れねえだろう」
もし仮に胴体が逃げ出そうとすれば、その場で槍が捉えているだろう。
「そうですね……にしてもそんな状態で出てくるなんてバカな奴ですね。どうします、サクッと殺りますか?」
長身の騎士が槍を扱きながら、年長の騎士に聞く。合図さえあれば今すぐにでも胴体へ突き出さんばかりの勢いだった。
「……いや、街まで連れて帰る」
「え?ぶっ殺さないんすか?」
「そうだ、そろそろいつもやる公開処刑用の魔物がなくなってきたからな。こいつは処刑台に上げる」
「なるほど、そういう事ですか。わかりましたよ。それなら馬車を寄越した方がいいですね。おい、新人」
ニヤリと笑みを浮かべると、長身の騎士は新人騎士の肩を叩いた。
「は、はい」
「お前、下まで行って馬車を手配しておいてくれ」
「わ、わかりました」
新人はしゃちこばって頷くと一目散へと山を駆け下りていった。
それを見送ると、長身の騎士は手持ちぶさたに槍をもてあそびつつ、ため息をついた。
「しかしまぁあの新米が来るまで待機かぁ……」
「だったらそれまで酒でも飲んでろ」
「いや、それなら……」
チラリと拘束されている胴体に視線を送る。
「ねぇ、隊長」
「あ?」
「街まで連れていくのは承知してますが、なにも無傷でっていう訳じゃなくてもいいんですよね」
長身の騎士がニヤリと笑った。その笑みに、仕方ない奴だなと言わんばかりに年長騎士はため息をつき、
「……まだ歩かせるんだ。ほどほどにしとけよ」
と同じくニヤリと笑った。
「そうこなくちゃ……なっと!」
喜び勇んだ長身の騎士は槍の石突きを縛られた胴体へと突き出した。手足を拘束された胴体は防ぐ事もできず腹部に命中する。
「ったく……この化け物がっ」
鉄に包まれた脚甲で、倒れている胴体の背を踏みつける。
「このっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねぇっ!!」
何度も踏みつける。怨嗟を漏らしながら、何度も何度も踏みつける。鎧と脚甲がぶつかり甲高い金属音が辺りに響き渡った。
「おい、大概にしとけ」
「……はぁはぁはぁ、すいません」
その殺気だった様子に、とうとう年長の騎士が咎め立てた。
「まったく、お前は魔物の事になると頭に血が昇って見境がなくなっていけねえ」
「す、すいません」
「……気持ちはわからんではねえがな。ま、気にすんな」
諭されてうな垂れる長身の騎士に、肩に手を置く。
その様だけを見れば、失敗した部下と鷹揚に慰める上司のようであった。
「まぁ、もう少し続けていてもよかったんだが、どうやら客のようだ。構えろ」
「え、あ、はいっ!」
しかし、そう言うと暖かい上司の態度を、また一転させて険しい表情で持っていた剣を構えた。
「……おい、そこにいるのは誰だ。さっさと出てきやがれ」
剣先が伸びる方向、茂みの奥から一人の男が現れた。
「……いやぁ、どうもどうも」
ずだ袋一つを背負ったその男は、にこやかにそしてどこか軽薄そうな笑みたたえ騎士達に近づいてくる。
「お前は……いつもの商人か」
「はい、毎度ありがとうございます」
見知った顔だと分かると、年長の騎士は剣を収めた。
「隊長、知り合いですか?」
「ああ、騎士団でもよく頼む商人だ。いつも使う蜜蝋はこの商人から発注してんだ」
「へぇ……」
その説明に感心したように頷くと長身の騎士も構えを解く。
「しかしなんで商人のお前さんがこんな場所にいるんだ?」
「こんな場所とは心外ですね。需要ある所に商人の利がある。ここはお宝の山だと思うのですが」
青年は方をすくめる。
「宝?ああ……魔物の死骸か?」
「ええ、死骸の蜜蝋漬けは、貴族の方に大変評判でして」
「あ、それ俺も知ってますよ。うちの国でもかなりの額で取引されてるって話です。第一、騎士団にもいくつかありますよね」
青年の話を補足するように、長身の騎士も言葉を重ねた。
「なるほど、材料をあさりに来たって訳か」
「それももちろんありますが、今回私は客として来たのです」
「客……?なんだ、売る物なんてないぞ。いったいなにが欲しいってんだ?」
首をかしげる年長の騎士を前に、青年は胴体へと視線を移す。
「単刀直入に言いましょう……そこで転がっている魔物を殺す権利、私が買い取りたいのです」


− − − − −


「ほぉ……」
(即却下してこない。これならいけるか……?)
眉一つ動かさない年長の騎士に、レイは必死で笑顔を作りながら話を続ける。
「この国では定期的に捕らえた魔物を公開処刑していますよね。以前何度かそれを見て思ったのです。私も、あの処刑台で魔物の首を落としていた執行人のように、殺してみたい……と。そう思う日々が続く中、こうやって入った山でチャンスが訪れました。是非ともそのチャンスを手に入れてみたい」
淀みなく言葉を並べていくレイ。
「なるほど……まぁ肉親を魔物に奪われたあんたの気持ち、わからねえでもねえ……その場にいた俺ですらあれは酷かったと思ったんだからな」
「……父は運がなかったんです。オークの群れに襲われるなんて……ってあなた『も』、という事は」
「ああ。俺も、それとこいつもな」
長身の騎士へと顎で示す。
「……俺の場合は、兄貴だったがな」
当の本人は長身の騎士は忌々しげに吐き捨てた。
「……っと、話が逸れちまったな。あんたには悪いが、今言った処刑台にこいつを上げようと思ってな。殺らせる訳にはいかねえんだわ」
「なら腕の、いえ指の一本でもダメですかね。お金ならば、いかようにもお支払い致します」
「しかしなぁ……」
レイはなおも食い下がるが、素人が手を出す事に懸念を抱いているらしく年長の騎士は渋ったままだ。
(ちっ……意外と金に転ばねえな……どうする……?)
「隊長、俺からもお願いしますよ」
もはやダメか、と脳裏をよぎったその時、思わぬ方向から援護射撃が来た。
「なんだ、お前。随分と肩を持つじゃねえか。やっぱ同じ境遇だからか?」
「まぁ、そうっすね。なんだかこの人、俺と似てるっぽいし、叶えさせてやりたいんすよ」
まるで同士を見るかのような目でレイへ視線を送る。
「はぁ……しょうがねえな……いいぜ、好きにしな……ただし、指だけだぞ」
部下にここまで言われたら、面倒見のいい上司としても折れるしかなかったのだろう。ため息混じりに首を縦に振った。
「ありがとうございます」
笑みを浮かべ、レイは腰を折った。
「よかったな」
長身の騎士がレイに笑いかけ、
「た・だ・し、今度仕入れる蜜蝋は半額にしてもらうからな」
年長の騎士もニィッと、人懐こそうな笑みで返した。
「あ、隊長抜け目ないっすね」
「うっせ、これぐらいならいいだろ」
それは意気投合した男達が笑い合う、とても人情味のある微笑ましい光景だった。先ほどまで指を切断する交渉をしていたとは思えない程に。
「……しかし、手ぇ縛ってるから指だけ切るのも難しいな」
「なら解いちゃいます?どうせろくな抵抗もできないでしょうし、俺と隊長で押さえつければ大丈夫じゃないですかね?」
「そうだな、じゃああんたはその剣で指を叩っ斬ってくれ」
話がまとまると、年長の騎士は無造作に転がっていた剣を指差した。胴体が持っていた剣だ。
「わかりました」
背負っていたずだ袋を足元に置くとその剣を拾い、レイは逆手に構えた。大振りではなく、指だけを突き立てるようにする構えだ。
「てめえの剣でてめえの指落とされるなんて皮肉なもんだな」
「よっしゃ、それじゃやるか」
年長の騎士の一声と共に、二人の騎士は未だにぐったりと横たわる胴体の縄に手をかけた。
うつぶせに倒し年長の騎士が肩と腰を押さえると、長身の騎士が後ろに回されていた手の戒めを解いた。
右腕だけを前に突き出すようにして地面に押さえつける。
「……お、こいつ微かに震えてやがる。へっ、頭がなくても今から指切られるってのはわかるらしいな」
押さえている手首から伝わる震えに嬉々とする長身の騎士。やはり魔物を傷つけるという行為に、興奮を隠せないでいるようだ。切断されようとしている胴体の指先を、今か今かと食い入るように見つめている。
「……よし、斬っていいぞ」
そしてその興奮は年長の騎士の合図により最高潮を迎えようとしていた。
「思い切りやっちまえよっ!!」
「……!!」
剣を逆手に掲げたレイは一拍の間を置いて、そして「降り」下ろした。
ブゥンという風切り音と共に順手に持ち変えた剣が袈裟懸けの軌道を描く。
「うおっ!」
「あぶねっ!」
剣が閃いた瞬間、それを察知した二人は押さえつけていた胴体からとっさに飛び退いた。
もとより当たるとは思っていない。ただ胴体から二人を離し、一瞬でも胴体の拘束を解ければいい。
その一瞬が勝負だった。
「なっ、なにしやがる!」
「おい、どういうつもりだ……?」
突然のレイの不意打ちに戸惑っているこの短い一瞬。
その一瞬があったからこそ、胴体は立ち上がる事ができた。
その一瞬があったからこそ、剣を地面に突き刺してレイは足元のずだ袋からヴァネッサを取り出す事ができた。
「ああっ!!」
「な……に?」
その一瞬があったからこそ、ヴァネッサを本来の姿に戻す事ができたのだ。
首が胴体に置かれた瞬間、喉が盛り上がり、口に含んでいた精液を飲み込む音が聞こえた。
「ありがとう、レイ」
完全に嚥下し終えると、ヴァネッサが振り返った。
こうして完全な形を見るのは初めてになるのだが、レイは息を呑んだ。
(これが、あのヴァネッサなのか……)
端整な顔立ちをしているとは思っていたが、驚くべきはそのたたずまいだった。
スラリと背筋が伸び、意志の強さとも言うべきオーラが全身から発せられている。
形容すればまさに凛々しい女騎士がそこにいた。
「剣、返してもらうわ」
「あ、ああ……」
呆気に取られているレイを尻目に、突き刺さった剣を取るヴァネッサ。
「そうか……結局はお前もゴミって訳か……」
「まんまと一杯食わされたな」
騙されていた、と悟りそれぞれの獲物を手にした二人の騎士は身震いするほどの殺気を飛ばし、レイとヴァネッサと相対した。
(階段は……向こうか)
その殺気を一身に浴びつつ、レイは騎士の後方へと目配せする。
目的地である魔方陣へと続く階段は、ちょうど二人の騎士の背後に位置していた。
突破するならば、衝突は避けられないだろう。
もっとも、なにも騎士を倒す必要はない。目的はあくまで突破、騎士達をすり抜ければいいのだ。
いいのだが、
「……どっちがゴミよ」
二人の騎士に劣らない殺気を隠さずに、ヴァネッサは剣を持つ手に力を入れていた。
(おいおいおい、なんでそんなにヤル気満々なんだよ。空気読んでくれよ)
KY全開のヴァネッサを全力で止めたいレイであったが、両者の間に割ってはいるほどの勇気を持ってはいなかった。
「レイ。このゴミ共は私が片付けるから、あなたはそこで見てなさい」
「へっ、一撃でやられた奴が大口叩きやがって」
ゴミという単語に、長身の騎士がヴァネッサに憎悪の視線を投げかける。
(ひぃっ、このバカいらん挑発までしくさってからに……!)
次いでレイの方を向くと、
「おい、てめえ……この化け物ぶっ殺した後は、次はてめえだからな。ぶち殺してやる」
仲間意識を持った直後の裏切りに、怒り心頭といった様子で睨みつけられる。
(あーやっべー、選択誤ったかな……)
早くも後悔の念がよぎるレイをよそに、
「残念だけど、ゴミごときにそれはムリね」
ヴァネッサが今までに見せた事のない冷酷な笑みを浮かべた。
(ちょ、おま、これ以上挑発すんなって!!)
「……てめえ、もういっぺん言ってみろよ」
限界までまなじりを吊り上げる長身の騎士に対し、ヴァネッサもさらに口を吊り上げた。
(お願いです、やめて下さい、マジで)
レイの祈りもむなしく、ヴァネッサは嘲笑的に言い放った。
「何度でも言ってあげる。ゴミに殺されるほど私は甘くないって言っているの」
「この……!」
「言うじゃねぇか。えぇ、化け物が」
それまで静かに押し黙っていた年長の騎士も、侮蔑交じりの視線で前に出る。
「化け物……?」
その言葉を発した瞬間、ヴァネッサの殺気がより強くなった。その殺気に当てられた年長の騎士は剣を構え直し、
「楽に死ねると思うなよ……おい、二人同時に行くぞ」
自分の部下に指示を下す。
「ええ、わかりました」
年長の騎士の槍先もほんの少しだけ動く。
(おいおい、いくらなんでも騎士二人を同時に相手にするのは分が悪いんじゃないか……?)
ましてや胴体の方はほんの数分前まで弱っていた。言わば病み上がりのような状態だ。
対して目の前には、ヴァネッサの挑発に激怒しちゃってくれた意気軒昂の騎士二人。
「ヴァネッサ、ここは引いた方が……」
不安に駆られ撤退を口にしようとしたが、
「死ねぇっ!化け物がぁっ」
「うおぉぉぉっ!!」
駆け出した騎士達の張り上げた怒声に遮ぎられた。
恐ろしいほどの死の圧力が、恐ろしいほどの速度で接近してくる。
「レイ、言ったはずよ」
その圧力をものともせず、ヴァネッサは力強く地面を蹴った。
11/11/22 19:15更新 / 苦助
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■作者メッセージ
胴体がようやく元通りになりました。第2話で蜜蝋はイロイロ使われるとありましたが、蜜蝋漬け(剥製)にも用いられています。剥製の用途は仕留めた証としてであったり、騎士団では若手に魔物を切る感触を教えるための教材として用いられています。そんな作者の脳内設定です。

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