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「どうしたんですか?あれから1週間も経ってませんよ?」 「ああ、まぁ。」 そう尋ねる椿の声にそっけなく返しながら、大人しく部屋へと案内される。 椿が驚くのも無理は無い。いつもなら月に3回程度しか来ないからだ。給料日と中日と給料日前の3回。役があるとは言え、サラリーマンの金銭事情はいつも逼迫している。月に5万1,000円の出費があるだけでも痛手なのだ。 だが、今はそんな金銭的苦痛はどうでもいい。俺が受けた精神的苦痛に比べれば慰謝料にすらならない。 ふざけやがって。 「さぁ、おかえりなさいませ♪狂矢さ、きゃっ!」 いつもの挨拶をかまそうとした椿をベッドへと突き飛ばす。もちろん、頭を打ったりしない様に配慮してだが、少々力の加減が利かなさそうだ。 「ど、どうされました?椿、なにかいけないことでも?」 「これだ!」 俺は例の髪束を椿の胸へ投げつける。ビニールに入っていたので一瞬何か理解できなかった椿は、中身がわかると大事そうに抱えなおした。 「そんなもん渡しやがって。俺がどれだけ恥をかかされたか解かるか!もういらん!返す!」 そんな感じのことを怒鳴った気がする。 椿はどんな反応を見せるのかと思いきや、抱えた袋の口を開け、そこに鼻と口を突っ込み思い切り深呼吸し始めたのだ。 大きく膨張と収縮を繰り返すビニール袋は、椿の吐息で見る見る曇っていく。あんなことをしていては酸素が少なくなって息苦しい筈だが、それでも椿はやめない。 何度目かの深呼吸の後、袋がくしゃくしゃになるくらいに空気を吸い込んでようやく口元から袋を放した。 しばらく天井を仰ぎ見て、ぷはっ、と一息はいてから壁へともたれかかった。髪に隠れてどんな顔をしているのかわからないが、息が荒く首筋から胸元にかけてじとりと汗ばんだ姿は欲情を誘うには十分だ。 そんな黒い感情が起き上がるのを感じながらも、俺は状況が理解できずにぼけっと突っ立っていた。最初に感じていた怒りなど存在そのものがぶっ飛んでいた。 「あ♥ありがとう♥ん♥ございます♪一生大切にしますからね♥」 こちらを振り向き、恍惚と細めた瞳で俺を見てくる。 <ングッ。。。 思わず飲み込む生唾の音を抑えられない。 「お、おれは、俺はそんなつもりで渡したんじゃない!」 「解かっています。お礼の方が気になるんですね?」 「ち!ちがっ・・・!?」 「遠慮なさらずに、さぁ♥スゥー、ハァ〜♥ンン♪この股間の匂い♥やっぱり直がいいですねぇ♥」 椿は俺のベルトを外し、ホックを外し、口でジッパーを下げると、ズボンの中に顔を埋めるとパンツの上からモノに喰らい付いた。既にでかくなっていたモノをパンツに染みをつけながら甘ガミされると限界まで張り詰めさせられる。 涎だけじゃない、先走りの染みがヌルヌルして滑りのよくなったパンツに一発抜かれそうだ。 「ンっ!ハァ、アァ。」 「じゅ、ジュゾゾ、ン///ひもひいいでひょう?ぷは、もっと気持ちよくしますからね。」 そう言うと再びモノを咥え込む。歯が当たらない様に口をすぼめ、舌で持ち上げ、喉奥に誘い込む様に唾と一緒に嚥下し、喉で締め上げる。 ああ、上目遣いで俺を嬲ってくるな。 頭を時々視線を変えて見上げられてる筈なのに見下されてる気分にさせるな。 俺を、いじめるな。 「ングッ?ん!ンブッ!んふぅ〜。ン!ング!ンック、んうぇ。。」 いじめたい。こいつを、この清ました顔をメチャクチャにしてやりたい。ゲェゲェ吐きそうにしながら涙と涎と鼻水で濡れた顔にしてやる! 「ングゥブ!ンッ!んぶぅぅうぅ〜!!んぐえっ♥エブッ♥♥」 フ、フハハ!見ろ!ちょいと頭と顎を押さえて逃げられないようにして、腰を突き出してやるだけでこの女は喜ぶんだ。 この変態が。変態の癖に俺をハメようなんて、俺に恥をかかせるなんて。許せない。許さない!! 「おらッ!もっと奥まで飲み込め!まだ根元まで入ってないじゃないか。」 「んぶぅうぅぅう〜!!ン、グブゥ。うげ、ブッんぐくぅ。エグッ。」 「あ〜、いいぞぉ。すごくいい。」 首を少し傾けてやってチンポの付け根に唇が当たるまで押し込んでやった。涙を貯めて、ギュッと目を瞑りながら、首を引いて逃れようとするが、俺はそれを許さない。時々、ゴフッゴフッ!と嘔吐く椿がたまらなく愛おしいからだ。 椿の柔らかく赤い唇がチ○ポを咥え、白い頬には涎と汗でベタ付いた陰毛が貼り付いてやがる。 この光景のエロさだけで出ちまいそうだ。 なのに、こいつときたら、嬉しそうにしやがって! 「くぅあああ!もっとだ!もっと口を窄めろ!ふぅぅぅ!」 「ん!ぶぅ、ぅ。ん!んっくッ!んおっ♥」 「フヒッ!ひはは!あああ、出そうだ!でるよぉ!でるよぉおっ!」 「じゅる!じゅぷ♥んひへぇ♥んひへぇえ♥♥♥」 「あああああああ!」 <ぶびゅ!びゅるるる!ドクッドクッドクッ 「んん!ぬぐ!んぐ♪ん♥ンク♥」 体が内側にギュッと凝縮される。俺の怒りや欲望が内圧に押されて吐き出されていくのだ。憑き物が落ちたと言うのか、体をしていた感情が抜け出ていくのが感じられた。 そして、別の感情で満たされていく。愛おしさ、悲しみ、不安。今だ股間に押し付けたままの椿の額を優しくぬぐってやった。玉のような汗を指で拭い、口に運び、しゃぶり、味わう。甘い口当たりが美味かった。 「ン、ブッゥ。ング・・・んはぁ、はぁ。おいしかったです♥」 一滴も零さぬ様、口を窄めながら引き抜くせいで射精感が止まらない。最後に尿道の搾りカスさえも吸い尽くされて、ようやく口を離してくれた。 恍惚と天井を見上げて、喉に、胃袋に、精液を嚥下する。美しい。 「はぁ、はぁ、ああ、こっちもよかったよ。」 「フフ、でもまだまだ足りませんよね?」 「えっ?」 「だって、いろいろとご迷惑を掛けたようですし、もっともっとお礼とお詫びをしないと♪」 「あ、ああ、そうだね。それじゃあ!君の体で!」 「たっぷり抜き上げて差し上げますわ。この口で、ネ♪」 「えっ?あっ!」 椿は、俺の体をオムツを換える赤ちゃんの如くひっくり返し、あろうことかケツの穴を舐め始めたのだ。 ケツの中に入ろうとする違和感が半端じゃない。だが、それがチンポの奥を刺激して再び勃起してきた。椿はそれをすかさず口に収める。 溢れ出てくる涎が陰毛を濡らしていく。右手で玉を転がされながら吸い上げられると上ずった声が抑えられない。我ながら情けない声だ。 「ぅ、ぅぅ。つ、つばきぃ・・・。ああ!」 「じゅるるる、ちゅっぷ♥ッはぁ、まだまだ、泣いて許しを請うまで抜いて抜いて抜いて抜いて・・・、アハハ♥キャハハ♥」 「お前ッ!怒っているのか!?俺が怒ったから?」 「いいえ、怒ってなどいませんよ♪私は、ただ狂矢さんに気持ちよくなって欲しいだけです♪たっぷり、たっぷりと、私の胃を狂矢さんの精汁で満たしたいだけなのです。お腹いっぱいにしてください♥吐いても吐いても許さないでください♥♥精汁を吐いて塗れた私を愛してください♥♥♥そのためなら・・・・・・」 チ○ポにむしゃぶりついていた顔を急に俺の横へと寄せる。艶やかな闇に覆われながら囁かれた言葉は、俺の心に絡みつき、心臓を締め上げて、体の支配権を奪い去った。 「私は何でもいたします。どんなことでも。絡みつくこの黒髪が貴方を逃がしはしない。」 またチ○ポが温かい刺激に包まれた。本当に一滴残らず吸い出すつもりか。だが俺にはどうすることも出来ない。艶やかな闇に視界を覆われ、赤ん坊の様に寝かされた状態ではどうすることも出来ないし、何より俺にその意思がないからだ。このまますべてを吸い出されてしまいたい。すべてを失ってもここに・・・。 じゅぞぞ♥ングッ♥じゅるる///じゅぷっ♪んぶっん///ぷっはぁ♥ブビュ!びゅる!ドプッ!どぴゅ!ドクッドクク!んぐっ!?ン///ゴクッ!ンギュ♥んく♥じゅりゅるる♪ちゅー♥んぶんッ///れりゅ♥ジュる!ジュプッ!ちゅぶっ!ドプッ!ぶぴゅ!ゴプッ!んぐ!ンン〜ッ♥ぉえ・・・!ぉご♥ゴフッ!オブッ///えぐぇ♥おぐぅ♪じゅぶっ!じゅぞっ!ングッ!んぶっ!ンゴッ!!ドピュッ!ぶぴゅっ!びゅるるるる〜ッ!!! 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 惚けた顔で店から出て行く彼を、私は笑顔で送り出す。しばしの別れ。でも、私には何の不安も無い。だって、彼は帰って来るから。彼の靴紐や衣服の隙間に編みこまれた私の髪の毛がそれを教えてくれる。 「難儀なことしよるのう、あんさん。」 見送りのお辞儀をしていたタヌキ娘が、私に向き直り話しかけていた。 「何も難しい事なんてありませんわ。彼のためですもの。彼を得るためなら何だってしますよ♪」 「そないなことせんだって、あれは完璧にあんさんに惚れとるよ。素直に告白したらええのんちゃいまっか?」 「ええ、それでも私のモノになってくれるでしょう。でも、それじゃ嫌なの。」 「そないに我慢してまでする価値がありますやろかねぇ?そないに精液で腹膨らましたかて、おマンマンに貰わな魔物は満足しませんやろ。」 「貴女は仕事の片手間にされる恋愛で我慢できるのですか?」 「まぁ、それはねぇ。あたしは旦那をヒモにするくらいわけないけどねぇ。」 「私は我慢できない。彼のすべてが欲しい。人生のすべてが、その愛のすべてが私に向いていないと我慢できないのです。そのためなら・・・。」 「あれの周りすべてを奪ったかて気にも止めんと?」 私は彼女の質問には答えず、エレベーターに乗り込んだ。彼と私の愛の巣に帰るために。 「やっぱり難儀な乙女やねぇ。憎しみも怨みも愛のうち、ってか。」 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「はぁ・・・。」 疲れが取れない。いや、体には異常は無い。むしろ、階段を登っても息切れしなくなったし、キツイ日差しの中を営業しに行っても息一つ乱れない。俺より一回り若い部下はシャツに汗染みを作りまくっているというのに。 そう言うのとは違う。気分が乗らないというか、何をするにも億劫に感じるというか。 椿の店で抜きすぎたか?あの後何発抜かれたのか覚えていない。気持ちよすぎて小便まで漏らしていたらしいがまったく覚えていないくらい気持ちよかった。 今考えれば、それだけやられれば気だるくもなるわな。 一人得心を得てると、部下が話しかけて来た。 「山口さん大丈夫っすか?なんか顔色悪いッすよ?」 どうやら気分の悪さと言うのも外に漏れ出てしまう様だ。部下に心配されるとは上司として情けない。 「ああ、心配ないよ。最近寝つきが悪いだけだ。」 「本当っすか?顔青いっすよ?」 「そう言うお前は若いのになんだそのだらしない格好は?顔が青い俺より汗をかいてるじゃないか。」 「僕は若いからっすよ。新陳代謝がいいんです。」 「それじゃ俺が年寄りだから汗をかかないみたいじゃないか。」 軽口で答えて何でもない風を装うが、それでも納得のいかない顔を崩さない、生意気だが良くできた後輩。今はそれが少しウザい。 「安心しろ。体調は万全だ。それより今日の会議資料はどうなってる?」 「できてますよ。これが原稿、こっちがスライド資料っす。」 「ああ、っておい。さっそく写真が抜けてるじゃないか。」 「えっ!あ、あぁ〜。サーセン。」 「まったく。人の心配より自分の心配をしろ。ほら、直しに行くぞ。」 「チッ。」 注意されたのが気に入らないのか、部下はふてくされた様子を垂らしながら俺についてきた。可愛げのない奴だ。 エレベーターでオフィスに向かおうと思ったが、生憎点検中のようだ。うちのオフィスは、オフィス街の一角にあるのだが、周りの建物に漏れず15階建ての高層ビルだ。しかも、ビルとビルの隙間を埋めるように造られたので細長い構造をしている。そして、エレベーターは一つだけ、あとは急な階段が一つだけ、ちなみにうちのオフィスは真ん中の10階だ。 部下は絶望的な顔をしていたが、俺には大したことではない。こいつのこんな顔を見れただけで小気味いい。 「さぁ、行くぞ。」「はぁ〜ぁ。」 <カンカンカンカンカンカンカンカンカンカン 非常階段と言っても過言ではない、実際に非常時に使うように訓練してるが、質素で鉄製で薄汚れた階段を上がっていく。 後輩は5階辺りで既にふぅふぅ言い始めたが、俺は何ともない。むしろ、遅い後輩にイラつくくらいだ。 淡々と階段を上がっていると、途中の踊り場から誰かが合流してきた。 人影に気づき顔を上げると、反射光が目に入って視界が一瞬霞んだ。光る頭頂部、それはふさふさの黒髪によってすぐに隠された。 「しゃ!社長!お疲れ様です!」「えっ?あっ。お疲れさまでぇーす。」 「うぉっほん!・・・やぁ、お疲れ様。下から来たのかい?」 うちの社長はハゲだ。それは周知の事実。だがそれを指摘する訳にはいかない。 若い奴が忘年会の席で社長のハゲをネタにしたことがあった。皆、冷や冷やしながら社長の反応を窺っていたが、意外とにこやかで何事もないように思われた。 週明け、そいつには海外転勤の辞令が下った。そして、数年経つがそいつは未だ帰ってきていない。当時、結婚したばかりだというのに・・・。 「はい。社長は、出張では?」 「今日の夕方出ればいい。出張と言うよりお食事会だからね。」 三人で階段を登る。社長の前を歩くわけにはいかないから俺たちは後ろから登る。 ちょうどいい。最近の俺は自分でも運が悪すぎると感じていた。ここに来て社長相手にドジを踏んでみろ、国内と国外どちらか選べと言われても不思議じゃない。 そんな風に自分の危機回避能力を褒めていると、また先客が階段を登っていた。 今度の先客はうちの女性社員で、ダンボールを抱えながらフラフラと一段づつ足の感覚で確かめるように登っていた。自分の肩幅と同じくらいでかいダンボールを胸の前に抱え、高いハイヒールを履いていては無理もない。 嫌な、予感がする。 俺はちょっともたつく振りをして最後尾に移動、更に距離を空けて折り返しの影に隠れた。 「重そうだね。おい君たち。ちょっと手伝ってあげなさい。」 「社長!ありがとうございます♪」 「えっ!マジっすか?先輩、っていねぇし・・・。」 「何をしている?早くしなさい。」 流石に社長の前では舌打ちはしないか。悪いな部下よ。したたかさも出世には必要なんだよ。 部下が荷物を持ったタイミングを見計らって階段を登る。思った通り、社長と女性社員は談笑を始め、部下だけが段ボール一抱えを持って先頭を登り始めていた。 「あ!山口さん、こんにちは。すいません手伝ってもらっちゃって。」 「いやいや、気にしないでいいよ。彼も若いからね。」 「そう言う君も十分若いじゃないか。ほら、君はこっちの手提げの方だ。」 そう言われて手提げを渡された。だが、重くはない。試供品やカレンダー、キャンペーン用のシャーペンじゃたかがしれてる。まぁ、彼女はそう言った広報所属なのを知っていたし、しょっちゅうこうやって男性社員に手伝わせているから内容も把握済みだ。まさに計画通り。 部下、俺、社長、女性の順で階段を登る。もうすぐ目的の階だ。何の失敗もなく、黙々と社長のセクハラトークを邪魔しないように階段を登る。 何の失敗もない、何のトラブルもない、順調だ。なのに、部下は何故か途中で足を止めた。 「おい、どうした?」 急に立ち止まったせいで部下のケツに顔を埋めそうになったのを堪えながら尋ねる。するとイライラが若干混じった声で答えた。 「どうしたもこうしたも、扉開けてくださいよ。両手塞がってるんっスから。」 「あ?ああ、そうだな。」 と言っても、俺も両手はふさがっている。荷物を置けばいい話だが、ここで社長が出しゃばってきた。 「まったくしょうがないな。どれ、私が開けよう。」 そう言って社長が扉を開けようと俺たちの横を通り抜けた刹那、俺の左腕は釣り上がるように引っ張られた。 「えっ?」「おっ?」「あっ。」「ん?」 俺の左腕は社長の右腕のカフス部分に吸い付くようにぴったりと貼り付き、その動きに連動する形で引っ張られ、その手に握り締めた物を勢い良く前の人物にぶち当てた。 前の人物。そう、部下に。もっと正確に言うなら部下の膝裏に。 不意の膝カックンを食らった部下が踏ん張れるはずもなく、重い段ボールと星との間に芽生えた重力の赤い糸によって俺たちは階下へと引き込まれていった。 そして、そのオマケの如く社長も引きづられて俺たちの上に。 「「「うおおぉぉぁああああああああ!!!」」」 「キャアアアアアアアアアア!!」 <ドカッ!ゴロロロロ!バサァバサバサ!バッシャァー! もつれ合い、折り重なるように俺たちは踊り場に叩きつけられた。俺・部下・段ボール・社長の順で折り重なり、撒き散らされた大量の書類とボールペン等の雑貨がチョコレートサンデーのように俺たちをデコレートした。 強かに打ち付けた頭がガンガン響いて身動きがとれなかった。仮に打たなかったとしても、大の大人二人に伸し掛られてはどうしようもない。 それよりも。 そう、それよりも重大なことがある。 俺は見てしまった。あれを、蛍光灯の光を眩く照り返すあれを。 「ぬ、うぅ。たたた、いったい何が?・・・ハッ!?」 そして、彼も気づいてしまった。隠していた秘密が露呈したことに(いや、実際にはもっと前に露呈していたのだが)。 慌てて起き上がろうとした社長の腕を俺の腕が引っ張り、離れたくない恋人のように引き止める。 見れば、俺の上着の袖口から細い細いほつれが飛び出しており、それが社長のカフスに引っかかっていた。 「ウオッホン!・・・君、すまないがこれを何とかしてくれないか?」 そう社長は唯一被害から逃れていた女性社員に助けを求める。 一瞬何を言われたのか理解できなかったようだが、女性はハッと意識を取り戻して急いで解きにかかった。 <ザワザワ ザワザワ> 上や下から顔を出す野次馬達。大の大人四人が叫んだあとにあの散乱音、気にならない方が無理だろうな。 だがそれは、腕のほつれが治るまでハゲ頭を晒し続けるしかない社長にとって酷な状況である。頭はみるみる茹でダコのように赤くなり、じっと俺を睨みつけてくる。 俺はそれをさも「天井の蛍光灯が眩しいのです!」という雰囲気を出して目線を避け、回避していた。 ダメだ。見たら死ぬ。 「と、解けました。」 女性社員がそう言うやいなや、その体型と年齢から想像もつかない俊敏さでカツラを回収した社長は、 「他所のご迷惑になる。早急に片付けなさい。私は、出張の用意があるから先に行かせてもらう。」 と言い残すと脱兎のごとく野次馬をかき分けて逃げていった。 その際見せた怨嗟の隠った瞳は、俺に辞表を決意させるには十分だった。 絶望と諦念が支配する頭を投げ出したとき、女性社員の手に握られていた糸くずは、とても見覚えのある髪の毛のように見えた。
15/01/25 01:26 up
特車2課
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