連載小説
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ep6「蟲喰らい」
深夜を回った時間帯に俺は一人で真っ暗闇の森の中で刀を構え瞳を閉じていた。
今はギルドからの依頼である魔界蟲の討伐だ。
今回の獲物はとてつもなく凶暴で人間やインキュバスを主食としている為排除命令を出されているものだ。
暫しの沈黙の中を冷たい風が頬を撫でる。
それと同時に何かの足音がこちらへと近づいてきた。

「……ようやくお出ましか」

ギギッ……ギギギッ……

俺は目を半分開いて刀を垂直に構えて目の前から来る相手と向き合った。
目の前には巨大なサソリのようなハサミや甲殻、尻尾には大きな鎌のような歯がついた危険度Sの魔界蟲『デスインセク』。
これを倒せば俺はきっと彼女たちを支えてやれることができるはずだと思い刀を相手に突き刺して威嚇をした。

「さぁ、今夜の武道会は苦労しそうだ」

俺とデスインセクの行動は同時に直行した。
相手の尻尾の鎌が円を描くように振り回されたのでバク天をして回避。
その後、刀に黒いオーラを纏わせて瞳を閉じた。

「……死眼……開眼ッ!!」

俺は瞳を開けると頬に何かが伝ってきた。
……この目を使うと俺の寿命が五分に一年の計算で消えてゆくのだ。
所謂もろ刃の剣でもあるのだ…この目は彼女らには見せたことは無い。

「さぁ、楽しもうか……赤き月の元で踊ろうか?」

目の前のデスインセクは俺にハサミを振り下ろした。
それを俺は一瞬にして切り刻んだ。
相手のハサミは数個の肉片として辺りに散らばった。

ギギッ……ギギギッ……

デスインセクの瞳が急激に赤くなったのを見えたので怒りで活性化したのだと予想した。
どうやらこれから本気で俺と立ち会ってくれると言う意味をあらわす。
俺は頬を引き上げ刀を上段の構えで相手を迎え撃った。

「……ッ!?」

すると俺は右腕に何かの違和感を感じたのだ。
右腕の付け根から腕が無くなっていた。
デスインセクの方を見てみると別のハサミで俺の右腕を持っていた。

「……こいつ……面白いな」

俺は黒い笑みを浮かべつつ右肩に魔力を集中させた。
すると右肩からは黒い腕が生え始めたのだ。
これは母さんから教わった強制蘇生というチートくさいものだ。

「その腕はお前にやるよ。その代り……」

俺は一瞬にして相手の眼の前に近づき刀をデスインセクの核が入っている顔面に突き刺した。
相手の顔面の甲殻にヒビが入り刀が容易く突き刺さったのだ。
デスインセクは力なくしてその場にひれ伏せる。

「……もう刀は使い物にならないな」

俺は刀を縫いだして刀身を見ると無残に砕け散る。
これで俺は祖父を超えることができたという証。
いうなれば……祖父『緒方修一郎』に認められたということだ。
俺の血は『緒方一族(呪われし者たち)』と魔物化した母さんの血が混じった所謂、人間でもない魔物でもない存在と化したのだ。

「……ごふッ」

俺は口から大量の血を吐いてその場に膝をつく。
瞳は赤色から普段通りの茶色へと色が戻った。

「これで……十年分の寿命がなくな……った……」

そうして俺はその場に倒れ意識を手放したのだ。
俺の眼の前では灰と化して風に舞うデスインセクの最後を見ながら……。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「……ぅ……きて……」

誰かが俺を呼んでいた……しかし、俺は瞳を開けることができない。
体にも力が入らないのだ……これは死を意味する。

「……ろ……しゅ……」

誰かが俺を呼ぼうにも手には力が入らない。
声を出そうにも出ることができなかった。

「いつまで寝ているのバカ息子ッ!!」
「……ッ!!」

俺は一瞬にして起き上がった。
視界に広がるのは真っ白な部屋、聞こえるのは何かの音だった。
そして、鼻の中に広がる潮のにおいからすると恐らくアクアフォースにある「オオノギ診療所」という医療施設だろう。

「ようやく目を覚ましたわねシュート」
「……かあさ、ッ!?」

俺は何故かベットの横で椅子に座り俺を見ていた母さんであるサティアがいた。
巨乳のロリ体系のバフォメットを母さん以外知らない。
気づいた時には母さんの平手打ちが俺の頬に直撃した。

「何を考えているのよッ、ヴァンちゃんやセツちゃんを残して先に逝こうとしたの!?」
「……。」
「どうして……どうして貴方やお兄様はそうやって勝手に死を簡単に引き受けようとするの……」
「……母さん」
「ごめんなさい……私……わたし……」

母さんは膝に拳を力いっぱいに握り大粒の涙を流していた。
その姿を見た瞬間、俺の胸がすごく痛かった。
これは父さんが死んだときと同じ感覚だった。
俺の父さんは大型トラックに引かれそうになったところを父さんが押し出して代わりに引かれ命を落としたのだ。
丁度その頃に俺は母さんのおなかの中に居たのだと母さんから聞かされた。

「……ごめんよ母さん……俺は……」
「分かってるから何も言わなくていいわ」
「……母さん」
「まさかリザリアから通信があったと思ったらあなたがこんな状態だったのには心臓が止まるんじゃないかと思ったわよ」

母さんは腕で涙を拭って優しい笑みを見せてくれた。
俺はやはり、母さんの子どもでもあり半分は魔物だということに気づいた。
俺はそんな母さんを見てその場で涙を我慢していた。
そんな俺を母さんが抱き寄せて優しく頭を撫でてくる。

「今のうちに名一杯泣いておきなさい。それも枯れるほどにね?」
「……ッ……」

俺は母さんの背に腕をまわして母さんの暖かい優しさの中で大声を上げてその場で泣いた。
それも部屋を通り越して鳴き声が聞こえるほどにだ。

「シューも相変わらず臆病になったよね?」
「あぁ、まったくだ。でも……生きていて良かった」
「うん、僕たちもシューに負けない様に今よりもっと強くならないとね」
「……あぁ、そうだな」

部屋の外では微笑みあっているヴァンとセツが部屋をこっそりのぞいていたのには気づかないまま俺はそのまま母さんの腕のなかで涙を名一杯流した。
この感覚はとても嬉しくて、母さんたちに迷惑をかけたことに対してもの悔し涙が一緒に混じったのだ。
俺は母さんの背に回してある両腕で母さんの和服をぎこちない強さで握りしめた。
そうでもしないと俺はまた臆病なままで居てしまいそうだったからだ。
13/05/04 19:47更新 / オガちゃん
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■作者メッセージ
はい、オガちゃんです。
いやはや…エロは何処にいったの?
そう言う人たちの為にもう少し練ってからエロシーンを投稿しようと思う限りです。
今回はシリアスを含んだお話となったのには変わりないですが…。
まぁ、頑張ってやって行こうと思います。
ではノシ

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