連載小説
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動き始めていた時
「はあ〜すっかり、遅くなっちゃたよ……」
 僕はため息をつきながら帰路についている。例の教会から出てから僕は時間の感覚が狂ったんじゃないのかと思う
「絶対におかしいよね?」
 いつの間にか夕方になってるし僕はあの教会にいたのはほんの30分ぐらいだと感じたのに……なぜだろう?
「進藤さんか……なんであの人は僕の『悩み』に気付いてるんだろう?」
 僕は彼女について考えていた。彼女にはなぜか自分の心が見透かれている気がする
 まあ、聖職者なら信者の悩みを聞くこともあるし当然かな……?
 だけど、僕はどうしても気になることがある
「なぜか、懐かしい気がする……」
 そう、僕は彼女と会ったことがあると思う……だけど、それは本当だろうか?気のせいな気がする……そもそも、僕はこの町に引っ越してくる2年前まで僕はこの町を訪れていない……最後にこの町を訪れたのは13年前だ……それに教会には一回も行ったこともなかったし、教会の存在を知ったのも恵美さんに教えてもらってからだし……あ
「まずい、恵美さん……心配してるだろうな……」
 僕は今朝のことを今思い出した。僕は自分の『醜態』を晒すまいと恵美さんに対してやせ我慢をしたままだったが、恵美さんはその場を去ろうとする僕の名前を呼び続けていた
「はあ〜、どうしよう……」
 僕は明日、すぐに恵美さんに謝罪しに行きたいところだけど、もし理由を聞かれたら……と想像すると
「うっ・・・!!」
 僕は再び、吐き気を感じた
「はあはあはあはあ………………ダメだよ、やっぱり……」
 僕はなんとか気を落ち着かせた。そして、少しあきらめを感じた 
「だけど、約束したし……とりあえず、明日も教会に行こうか……」
 僕は優柔不断だ……昔からそうだ……今まで周りに言われてきたことしかしてこなかった……だから『彼女』は……
 自分の過去を振り返った僕は自分を自虐的に見ることしかできなかった。そして、『彼女』のことを思い浮かべ夕空を見上げることしか僕はできなかった。そして、しばらく虚しさを感じていたがそれは意外な形で破られた
「九条君じゃないか?どうしたんだ?」
 その声を聞いた僕はすぐに反応した。そこには
「あ、東さん……」
 恵美さんの夫である東 総一郎(そういちろう)さんがいた
「恵美から話を聞いたけど、大丈夫なのかい?」
「いえ、その……」
 僕は返答に困った。なぜなら
「すまない……」
「え?」
 いきなり東さんに謝罪された。しかしその謝罪の意味を僕は理解していた
「恵美の不注意な発言で君を傷付けてしまった……」
「いえ、その……」
 そう、この町で彼だけは僕の過去を知っている。東さんはこの町に住んでいた僕の祖父とも仲が良かったらしく祖父から僕のことを頼まれたらしく僕の『経歴』を知ることができた。だから、東さんは僕がこの町に来てから色々と世話をしてくれた恩人だ。でも、だからこそ僕はこの人だけには頭を下げられたくない
「やめてください……東さん、仕方ありませんよ……恵美さんは知らないんですから。むしろ、心配をかけた僕の方が謝罪すべきです……」
「そうか、ところで九条君」
 東さんは突然声色を変えてきた……なんだろう?
「なんでしょうか?」
 僕はそれを聞いたら、彼は
「今から飲みにいかないか?」
「は?」
 予想外のことを言った
「実はな、今から地元の同期と飲みに行くんだがちょうど九条君がいたので少しでも数が多い方が飲みは楽しくなるからね……どうだい?」
 僕は突然のことに少し唖然としたが
「……まあ、予定はないので大丈夫です」
 と了承した。そう言うと東さんは
「そうか!!よし行こうか!!」
 と屈託のない嬉しそうな顔で喜んだ。そういえば以前恵美さんが
『全く、総一郎さんはいつも飲みに行くとべろんべろんになって帰ってくるのよ……今度も同じようなことがあったら……』
 て愚痴ってた気が……もしかすると、東さんにダシに使われた気がする……これ確実に僕も恵美さんに怒られるような気がする
 余談ではあるが僕は幼い頃からやんちゃすると毎回の如く恵美さんに叱られていた……だから、東夫妻の両者に対してものすごく頭が上がらないが優先順位は恵美さんの方が上だ……
「……ごめんなさい」
「ん?なにか言ったかい?
「いえ、何も……」
 僕はこれから起きるであろう『惨劇』を予測し、東さんを裏切ることに罪悪感を感じて前もって謝罪した
 だって、恵美さんの説教怖いし……
〜移動中〜 
 僕たちは駅付近の居酒屋に到着した。店の中は週末を迎えたことから仕事帰りのサラリーマンで溢れていた
 そうか、世間一般ではもう金曜日か……ほぼ毎日が家事と文章の作成、題材選び、散策に費やされる小説家は曜日感覚が失われる……まあ、僕の場合はそれに加えて、祖父の遺産や実家の援助で生活しているからはっきり言うと……『ニート』だ……虚しい……
 僕は自分の情けない現状を改めて認識していると
「お、東!!こっちだ!!」
 と東さんを呼ぶ声がする。どうやら、彼が東さんの同期の人らしい
「すまんな中田(なかた)、待たせて」
 どうやら、彼は中田と言う名前らしい、見かけはまあ、いわゆる独身貴族て感じのおじさんだ。ちなみに東さんは33歳なのに25歳前後ぐらいの見かけだ
「まあ、良いって……ん?そこの彼は?」
 中田さんは僕の存在に気づいたらしい
「ああ、彼は九条明君だ。恵美と俺の共通の友人だ。今日、途中で会ったから誘ってみた」
 と東さんは軽く僕の紹介をしてくれた
「そうか、よろしく九条君……ん?九条?」
 彼は僕の苗字を聞いて考え事をしているようだ
 それはわかる。なぜなら……
「九条君は政宗(まさむね)さんのお孫さんだ」
「マジかよ!?」
 彼はいきなり驚いた。当然だこの町で『九条』の苗字は大きい。特に僕の祖父である九条 政宗はこの町で知らない人はいない。元々、九条家は大地主であり、祖父はその豊富な資金力を背景に『不動産業』を運営していてそこから得た利潤のお陰で全く働かないで暮らしていけるレベルの資金を得たお陰で九条家はかなり裕福だ。まあ、僕の父親は実家に頼るのではなく正真正銘自分の力で僕と姉さんを育てたから実感は湧かないけど
 だから、あまり特別視してほしくない……
「え〜と、中田さん……」
「はい!!」
 と勢いよく返事された
 ダメだ……いきなり、九条の人間と思われたのは大きい……だけど……
「僕はその……祖父や叔父、父のように優れた人間じゃないので、あまり、そういう風な態度はなるべく遠慮してほしいのですが……」
 と僕は特別視をなるべくやめて欲しいことを懇願した
 まあ、そんな簡単には直るとは思わないけど……
「じゃあ、あきらっちでいいかい?」
「はい!?」
 中田さんはいきなりニックネームを付けてきた
 いくらなんでも適応力高すぎだろ!?何!?公務員てこんなに軽い性格の人たちばっかしなの!?
「ところで中田?確かお前さんとこの同僚も来るんだよな?」
「おう、そろそろ来るはずだが……」
 どうやら、もう一人来るらしい……
 と僕がそう考えていると
「すいません、遅れました」
 妙に軽そうな声が聞こえた。どうやら、彼がもう一人の人間なのだろう
「遅いぞ、川田」
「すいません、どうも中田さんと同じ住民課の川田です。よろしく」
「君が川田君か、よろしく」
「あ、九条 明です」
「ん?中田さん、この人は?」
 川田さんは僕の存在に気付いたらしく、中田さんに尋ねた
「彼は東が連れてきた彼の友人だ」
「へえ〜、どうせなら女の子が来てくれれば良かったのに……」
 ……この人失礼だな
 僕たちは互いに挨拶をし終えると中田さんが注文したビールで乾杯した
〜食事中〜
「ところで川田〜、お前一昨日、ふられたらしいな〜?」
 アルコールが回ってきた中田さんは川田さんに唐突に聞いてきた
「そうなんですよ、あんな美人初めて見たんすけどね……」
 予想通り川田さんは軽薄らしい
 僕はこう言う人は苦手だ……
「へえ〜、お前さんが言うなんてすごいな……どんな人だったんだ?」
 中田さんはその女性について気になったらしく、追求してきた。ちなみに東さんは結構酔いが回ってきたようで爆睡している
 どうしよう……
 僕が恵美さんの『鬼の表情』を想像していると川田さんは話を続けた
「なんというか、清楚でおしとやかって感じの大和撫子て感じでしたよ?ですけど……」
「ん?どうした?」
 川田さんは件の女性の話をしているといきなり言葉を濁らせた
「俺がメアド聞いた瞬間になんか震えだして、書類だけ出して帰ったんですよ……」
(それ……あなたの軽薄な性格が見えたから本能的に逃げたんじゃないですか?)
「それ、明らかにお前の軽い性格が彼女にとって「生理的に無理」と思わせたんじゃないのか?」
 ……中田さんの方が僕よりひどかった……
「やめてくれませんか……それ結構気にしてるんすから」
 気にしてるんなら治せよ
「と言うか、そう言う川田さんだって土木科の涼子ちゃんにちょっかいだしてんじゃないすか!?」
「おい!!初対面の人間がいる前でそんな話すんな!!」
 衝撃の事実に僕は苦笑するしかなかった……
「いや〜、お二人とも公務員なんだから風紀は守りましょうよ……あんたら一応お役所勤めなんだから」
 僕は冷めた笑顔で二人に言った
「待ってくれ!!あきらっち、俺たちはもう大人なんだ!!誰と恋愛しようが勝手だろ!?」
「そうっすよ!!むしろ、九条さんこそどうなんすか!?」
「え」
 その言葉は僕を凍てつかせた
「そうだよな、さっきから俺らばっかりで君だけがそう言った話をしていないじゃないか?」
「いいじゃないすか、酒飲んでの話なんすから軽く話ましょうよ?ね」
「え、いや、その……」
 彼らはアルコールが回っており、自制が聞かないようでしつこく僕に『女性関係』の話を強要してきた。だけど、僕はその先を話せなかった
「・・・う!?」
「ん?」
「え?」
 二人は僕の突然の変化に一瞬呆気にとられるが
「おい?九条君!?大丈夫か!?」
「ちょ、おい!!」
 僕の容態に二人は心配するが、それは無駄に終わった
「……はあはあ」
 吐き気をなんとか抑えた僕に待っていたのは過呼吸だった
「おい!!誰か、ビニール袋持ってないか!!」
「九条さん、しっかりしてくれ!!」
 二人の声を聞きながら僕の視界は突然失われた

「明さん……」 
 私は水晶越しに想い人の姿を見ました
「茉莉……やっぱり、これは多少強引に言った方が……」
 ステラは提案してきましたが
「ダメです」
 私はそれを頑なに拒みました
「あんな状態の彼を無理矢理誘惑しても、彼はその過程で余計に傷つきます……そうなったら私は……」
「茉莉……」
 確かにステラの言う通りに多少強引に誘惑すれば必ず私は彼と結ばれるはずです。ですけど……
「ごめんなさい、ステラ……こんな私に彼と結ばれる力を与えてくれたのに……だけど、私は……」
 私は13年前彼に対して人生で初めて異性に対しての好意を抱きました。だけど、私は彼にその想いを告げる前に失恋しました。あの時の彼の幸せそうな笑顔を奪いたくなくて、その後、私の失恋の悲しみに応えるようにステラはわざわざ現れて、私を含めた教会の住人を魔物娘とインキュバスに変えました。でも、私は最後までそれを拒み続けました
「良いんですよ、茉莉……それがあなたの良い所なんですから」
「ステラ……」
 ステラは懐かしむように語りだしました
「本当に驚いたんですよ……魔物娘になれば、好きな人と一緒になれるのにその好きな人の幸せを壊したくないからと言って最後まで魔物娘になるのを拒み続けるなんて……そして、魔物娘になってからもその人のことを見守り続けるだけなんて……」
 そう、私はあの時
『お願いです……私はあの人だけを想い続けたいんです……』
『あの人の幸せを壊したくない……だから、私は彼のことを見守るだけでいいんです……』
 と懇願しながら、未練がましく魔物娘になることを拒み、その後も襲い来る魔物娘の本能を耐えながら13年間彼を見守り続けました。そして、私は彼の『苦しみ』を理解してしまった……
 同時に私はこうも思ってしまいました
『これはチャンスだ、彼を今こそ私のものに』
 と浅ましい欲望を抱いてしまいました……だけど、私はその瞬間
『私はこんな状態でしか『彼女』に勝てない』
 と自分に対する劣等感を抱き、そして
『私は彼の幸福を願いながら結局はこうなることを望んでいた……自分のことしか考えてなかった』
 と自分の愚かさと醜さに気づき、私はそんな自分を許せずこう誓いました
『彼が救われるまで彼を誘惑しない』
 独りよがりな偽善だけど私は誓いました。それが私の女性としての意地であり、私なりのケジメです
13/09/19 12:23更新 / 秩序ある混沌
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■作者メッセージ
 最初の答え……少女は彼を未練がましくも見守り続けました。それが彼女が『苦しみ』を知る理由でした……なんと、単純な答えでしょうか?しかし、彼女の想いは一途でした……これをつまらないとは一概には私には言えません……そして、彼の『幸せ』とはなんだったのでしょうか?彼女が自らの本能や欲望に抗ってでも守り抜きたかったかけがえのない『宝石』とは一体?……どうか皆様でお考えください……

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