連載小説
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夜行
「う〜、緊張するな〜……」

 俺は今、貴水との待ち合わせの約束をした夏の象徴とも言える万緑を湛える杉の木々が彩り、御祭神が稲荷であることを示すよう使いである一対の狐の石像と赤い鳥居のある神社の境内で待ち人である彼女が来るのを胸の鼓動をドキドキと強く激しく速めながら待っている

 うぅ……昨日は緊張のあまりに眠れなかった……

 今日、俺は貴水に昨日した告白の答えを聞かせてもらうためにここに来た
 しかし、やはり好きな女に対する告白と言うのは答えを聞くまでは微かながらのフラれることへの不安と彼女と付き合えることへの期待で興奮してしまうものだ
 おかげで俺は毎晩、熟睡しているのに昨日は寝付けず、いつもは休日を長く過ごしていたいと思って八時には起きている土曜日の起床時間が3時間も遅れてしまった

 修学旅行前の中学生かよ……俺……

 自分の思春期の様な年甲斐のない心の高鳴りに俺は自分のことなのにツッコんでしまった
 だけど、これは仕方のないことだ
 好きな人に想いを伝えると言うのはいくつになっても勇気がいることであり、緊張することであり、そして、嬉しいことなのだ

 まあ、俺の場合は勇気と言うよりは勢いの方が強いんだけどな……

 はっきり、言えば昨日俺が貴水に告白した原動力はほぼ勢いだ
 だけど、俺の貴水への想いは本物だ
 そもそも、俺が貴水に告白したのは俺の潔白を彼女が知って謝ってくれたことで好きな貴水に嫌われていなかったことを知ることができた喜びによるものだった
 俺が貴水と出会ったのは5年前の新入社員の挨拶のときだった
 最初、見た時は可愛い娘と言う印象だけだった
 しかし、同僚として一緒に働いていくうちに貴水と言う女性のことを徐々に理解できた
 彼女は何事も一生懸命で気配りのできる娘で彼女がたまに見せる笑顔には庇護欲をそそらされるあどけなさがあった
 俺はそんな貴水の色々な魅力に惹かれていき、彼女に恋心を抱いた
 だけど、俺は彼女に告白をすることができなかった
 貴水は俺の元上司である加藤優さんのことが好きだったのだ
 貴水が加藤さんを見る目には色々な感情が込められており俺はそれを悟ってしまった
 俺は当時悩んでしまった
 なぜなら、加藤さんは俺にとっては最も尊敬する人間だからだ
 あの人は俺が入社してから慣れない仕事に苦労していた俺のことを丁寧に指導してくれて自らの仕事も完全にこなしていたことから俺にとっては憧れの先輩だった
 それにあの人は優しい。あの人は俺達の同僚から上司になってもあの人は地位に驕らず、部下である俺達をたまに厳しい説教や指示はするが、普段は温厚で部下を無駄に怒鳴る人ではなかった
 そして、何よりも彼は『夫』や『父親』としても理想的な人だった
 彼はいわゆるデキ婚だったらしいが、それでも彼は自らの責任から逃げることはせず、妻子をしっかりと養い愛する人だった

 よく考えたら……俺はあの人にいなかった父親としての姿を重ねたんだろうな……

 俺は幼い頃に父親と死別した
 お袋はそんな俺のことを亡き夫の菩提を弔いながらも女手一つで厳しくも優しく育ててくれたが、やはり、片親がいないのは寂しかった
 だから、俺は自分が妻子を持つことがあったら、加藤さんの様な『父』になりたいと願った

 でも……やっぱり、俺は加藤さんに嫉妬してんだろうな……

 加藤さんは家庭を顧みながらも上司としても最高の人であった。そして、貴水はそんなあの人に惹かれていた
 俺はそこに敗北感と僅かながらの嫉妬と劣等感を抱いていた
 俺の心の中は好きな女に好かれている加藤さんへの男としての嫉妬と尊敬する上司に対する尊敬の天秤に揺らいでいた
 だけど、だからと言って、俺は加藤さんのことを憎くは思えなかった
 俺にとっては加藤さんは尊敬する人物に変わりはなかった
 そして、それを証明するかの様な事件が起きた

 あの人だけは……俺のことを信じてくれた……

 あの人は俺のことを絶対に見捨てはしなかった
 俺は以前の職場で身に覚えのない『横領』の罪を問われてクビを言い渡された
 その際、同僚の多くは俺のことを白い目でジロジロと見て軽蔑し、ひそひそと俺にわざと聞かせているんじゃないかと思うぐらい陰口をたたいていた
 もちろん、俺に敵意を抱かない人間も中にはいたが、内心では俺と距離を取ろうとしていたのを俺は理解できた。その中には貴水もいた
 だけど、そんな俺に対して変わらない態度で接してくれたのが加藤さんだった

『すまない……君を守れなくて、だけど……僕は君を信じるよ
 だから、今は耐えてくれ……』

 と言って、俺に自分のコネを使って新しい職場を与えてくれた
 そして、俺は感謝と共に

 やっぱり……敵わないな〜

 改めて、加藤さんの器の大きさを知ることになった
 その後、俺は加藤さんの紹介してくれた職場で受け入られたおかげもあり、自分が独りではないことに安堵感を覚えた
 それだけで満足なのに俺は昨日、好意を寄せていた貴水に再会してさらには彼女が俺の『潔白』を知り、自分の非を認めて謝ってくれたのだ
 そして、俺は彼女と告白すると言うチャンスも得れた
 仮にフラれても俺は多少は悲しいが構わない

 まあ、欲を言えば付き合いたいけど……

 俺が色々と物思いに耽っていると

「的場さん……」

神社の入り口の赤い鳥居の方から俺のことを呼ぶ声がした
 俺はその声を聞いて、鳥居の方を見るとそこには白いワンピースを着たいつ見ても愛おしさを感じる肩まで伸びる黒い髪と少し丸みを帯びた可愛い目を持つ俺の待ち人である貴水がいた

「貴水……その……こんにちわ」

 俺は好意を寄せており、さらには昨日告白したばかりで今からその返答を口に出してもらう彼女に緊張感から少し、ぎこちない声で挨拶をした

「……こんにちわ」

 すると、貴水が少し伏し目がちな表情をしながら小さい声で返した

 ……どうしたんだ?

 俺は貴水のその表情に微かな違和感を感じた
 しかし、俺はそれを告白の返事と言うある意味ではそれを待つ人間よりも勇気がいることをこれから行うことが原因であると思った

 ……まさか、返事は『NO』なのか……?

 そして、俺はその表情から告白の返事を悪い方向へと考えてしまった

「的場さん……その……」

 俺がフラれることに対して不安を募らせていると貴水が妙に口オドオドとぎこちない口調でシドロもどろ何かを伝えようとしてきた

「昨日の告白のことなんですけど……」

 俺はその声を聞いた瞬間、ドキドキと心臓の鼓動が早まるのを
感じた

―ゴクリ―

 ついにこの時が来たのか……

 俺は固唾を呑んで返事を待った
 内心、俺は先ほどからの貴水の態度から告白が失敗に終わったと勝手に想像して落ち込みそうになっていた
 だが、俺に悔いはない
 そして、俺は覚悟を決めて貴水の方を見据えた

 貴水……俺は

 俺は貴水がどんな返事を言おうとしても彼女が困らない様にニッコリと笑った
 すると、貴水は少し俺のことを見つめると一瞬、目を瞑ってから口を静かに開いて

「私と……付き合って下さい……」

「……え?」

 俺が予想していた答えとは反対の答えを口にした

 え……嘘だろ……

 俺は彼女が発した答えに貴水の態度から予想ができなかった結果への驚きと好意を寄せている女と晴れて恋人になれることに対する歓喜が混ざった感情の中ですぐに現実を理解することができなかった
 俺はあまりの嬉しさのあまりに、すぐにこれが夢ではないことや嘘ではないこと実感したいがために彼女に再度、確認しようとするが

「なあ……貴水……」

 彼女の表情を見て、俺はここで聞くべきなのは告白の答えの確認なのに俺は

「どうして……お前……」

 僅かな疑惑からなのか自分でもわからず、聞くべきではないのにも拘らず

「辛そうな顔してるんだよ……」

 目を俺から背けて口を歪ませて唇をワナワナと震わせて笑顔を必死に繕おうとしているどこか憂いと辛さを感じさせる貴水の表情の訳を訊こうとしてしまった



「え……?わ、私、そんな表情してませんよ?」

 私は彼の問いに恐怖を感じながら震えを抑えて笑顔を必死に繕い、その疑問を否定しようとするが声は震えてしまい、明らかに動揺していることを曝してしまった
 私は今、自分に好意を向け、昨日告白してくれた的場さんにその返事を告げた
 彼は一度はその返事に目を大きく開いて、歓喜と驚きに満ちた表情をしたが私の顔を見ると私にとって、踏み入れられたくない心の領域へ入るための扉を開けるための鍵の様な質問をしてきた
 そんな私に対して、私の答えに納得がいかないのか再び的場さんは訊いてきた

「なあ、貴水?別に俺に遠慮して無理に付き合う必要なんてないんだぞ?嫌なら嫌でもいいんだぞ?」

 違う……!

 的場さんは私が自分に遠慮をして告白の返事をしたと勘違いして、私にどこまでも優しい笑顔で諭してきた
 だけど、それは二つの意味で間違っている
 私は自分の真意を悟られるのを恐れて慌てて否定しようとした

「何を言ってるんですか?女性が恋愛のことで嘘を吐くなんて……最低なことなんですよ?
 どうして、私がそんなことをしなきゃいけないんですか?」

 私は苦し紛れになるべく嘘を吐かない様に私が最も忌み嫌うことを教えることで的場さんに自分の本当の気持ちを隠そうとするが

「ほら、また無理してる……」

「え……」

 的場さんは私の心を見透かしながら怒るのでなく咎むもでなく再び優しさで私を包むように指摘した
 私は再び的場さんに自分の心に手を伸ばされた様な感覚に襲われた
 しかし、その手は心に温もりを与える暖かさがあった。その手は温もりが私の心に染み渡る

「……やめてください」

 それが怖かった

「貴水……」

 私がこれ以上言葉を続けることを止めるのを嘆願すると、再び彼は慈しみに満ちた目を私に向けてきた
 私は彼の暖かさが怖かった
 彼の優しさは穢れた風俗嬢である私に向けてもらうこと自体がおこがましいものなのだ
 そして、何よりも私は的場さんを騙そうとしたのだ

『的場にバラされたくなかったら、明日の告白の返事はOKにしてね』

 私は斉木に脅迫されて的場さんに偽りの返事をした
 的場さんは少し、勘違いをしている
 私が的場さんの告白を受け止めたのは的場さんに遠慮したからではない。こんな私にも表の世界にいた頃からの変わらない好意を向けてくれる的場さんに斉木によって嫌われることが怖かったらかわ私は告白の返事を『YES』にしたのだ

 そして、的場さんはもう一つ勘違いをしている
 それは

「あ〜あ、何やってんのさ……貴水さん?」

―ビク!―

「……っ!?」

 突如、神社の境内にある万緑を彩る大人の男性が腕で囲める幹を持つ杉の木の一つから私が聞きたくもない男の声が神社の境内に響き、私の心がゾクリと震えた
 そして、声の持ち主はソーッと杉の木から不適な笑みを浮かべて姿を現した

「斉木……?」

「やあ、的場……久しぶりだね?」

 的場さんはかつての同僚の1人である斉木の登場に目を開いて口をポカンと開けて状況の整理が上手くいかず驚いていた
 対して、斉木は自らがこの状況を仕組んだことから状況を理解していることから、愉悦と嗜虐心、優越感に歪んだ表情で的場さんと私を見つめた
 私はその表情と斉木が姿を現した理由を理解してしまい、底の見えない深淵に身体と心がズルズルと引きずり込まれる様な恐怖と不安に襲われた

「どうして、お前がいるんだ……?」

 的場さんが先ほどからしていた困惑としていた表情かた警戒するような表情に切り替えて斉木に対して敵意を剥き出しにする様に睨みながら訊いた

「おいおい、何怖い顔してるんだよ?」

すると、斉木は余裕を崩すどころか、的場さんのことをさらにおちょくる様にへらへらとした態度で応えた
 私は今、自分の置かれている状況が最悪なものだと理解しながらも焦りよりも恐怖が先行して何もできずにビクビクと怯えるだけだった
 だけど、そんな惨めな私に対して悪魔と運命は僅かな慈悲するも与えてくれなかった

「今回はさ、君にそこの女……貴水さんのことで面白いことを教えてあげようかなと思ったんだ」

「……何?」

「……っう!!」

 斉木の言葉に的場さんは剣幕を弛ませはしなかったが耳をピクリと動かす様に傾けた
 私はその瞬間、夏の日差しと高い湿度によってムシムシとする蒸し暑さの中にもいるにも関わらず、冬の寒気と乾燥によって生じる凍える様な湿気よりも冷たく辛い不快感を感じた

 ごめんなさい……的場さん……

 私はこれから斉木が真実を自らの愉しみのために告げる最中に心の中で的場さんに謝罪した
 どんな理由や事情があったとしても私は自分のために彼を裏切ったのだ
 斉木のことは殺したいほど憎いけど、それ以上に自分のことが許せなかった
 そして、斉木が口を開いて

「こいつ……風俗嬢なんだぜ?」

「は?」

 私が風俗嬢であることを的場さんに教えた
 すると、的場さんはすぐにその言葉の意味が理解できず唖然とするが

「お前、何言ってんだ?……冗談でも言って良いことと悪いことがあるだろ……」

 冷静さを取り戻すと斉木の告げた事実を冗談だと受け止めて斉木のことをギロリと先ほどよりも強く睨みつけて、今にも殴りかかりそうなぐらいの苛立ちを抑えて斉木に向かって低い声で言った
 恐らく、的場さんは自分が好意を向けている私のことをたとえ、冗談でも女性に対しては言ってはいけないことで侮辱したことに怒りを覚えたのだろう

 的場さん……

 その様子を見て、私の胸にズキリち鈍くて重い痛みが走った
 それは的場さんを騙そうとしたことへの罪悪感と彼の向ける好意に私があまりにも不釣り合いなことへの劣等感によるものだった
 彼の私への好意はあまりも純粋で優しく、まるで少年の様なものであった
 だからこそ、加藤先輩に対する長年の恋心があったのにも係わらず彼を助けようとも信頼せず、失恋の傷を癒したいがために斉木にも下心があったと言え、一度は斉木を利用して自分の処女を捧げ、会社をハメられて借金をして娼婦に身を落として穢れた女になり、そして、的場さんを自分のために裏切ろうとした私には相応しくない

「……本当のことです……」

「……え?」

 私はいつの間にか口を開いていた
 的場さんはそれを聞いた瞬間、私が何を言っているのか理解できず呆然とした
 それでも私は続けて

「私は……お金のために色々な男の人と寝た女です……」

「え……た、貴水……?」

 私は罪悪感に苛まされながらもなるべく嘘を吐かないようにわざと的場さんが傷つくように事実を言葉にした
 的場さんは案の定、私の言葉を聞いて目を開いて瞳をウロウロと泳がせて口をワナワナと震わせてショックを受けていた

「だから……あなたとは付き合えません……ごめんなさい……」

 そして、最後に本心からの想いを隠しながら謝罪を口にしながら、あくまで『娼婦』の仮面をつけて的場さんに告白の答えを口にした

 これが……正しい選択よね……

 今の言葉を聞いた的場さんはきっと、私のことを薄汚い女と思って自分の恋情を踏みにじったことから私に激しい嫌悪と憎悪を抱くことになるだろう
 だけど、それこそ私の望むことだ
 もし、私がここで的場さんに助けを求めたら的場さんは一生、私のことを疑念を抱いたまま生きていかなくてはならない
 たとえ私が的場さんを裏切らなくても斉木やその仲間が私のことを犯し続ける的場さんの子供じゃない子を孕ませようとする可能性もありえる
 私が拒絶しても斉木が的場さんは風俗嬢と結婚した男と言うレッテルを貼られて彼の人生に暗い影を落とすかもしれない
 だから、的場さんには私のことを嫌いになってもらって、次の恋を探してもらい私のことを忘れて欲しかった

「ふ〜ん、素直に言うなんて……驚きだね?」

「………………」

 斉木が悪趣味なニヤケ面をしてそう言った
 どうやら、斉木は私のこの選択を予想できなかったらしい
 だけど、余裕そうなのはどんな結末になっても斉木にはデメリットが存在せず、私のことをこれからも娼婦として、玩具のように弄ぶことができるからなのだろう

『あ、今度会社の皆にこの店のことを教えるよ?良かったね、すぐに借金を返せるよ?』

 恐らく、数日中に私の働いている店に多くの私の元同僚が押し寄せることになるだろう
 そして、彼らは私のことを自分の心のままに『淫乱』、『淫売』などろ遊び半分に罵り、かつての同僚を自らの手で犯すことに愉しみを覚えて欲望のままに私のことを嬲り続けるだろう
 そんな未来が私に脳裏に浮かんだが、最早、私にはそれを悲嘆することも恐怖することもできなかった
 もう、希望を持つこともないのだから、これ以上悲しみや苦しみを感じることすらも無駄なのだ

「さようなら……的場さん……」

 私はこれ以上、私に希望を与え続けてくれた太陽とも言える的場さんの近くにいることが耐えられず、的場さんに背を向けて別れようとした

「貴水!!」

 しかし、そんな私のことを引き止めるように神社の境内に的場さんの私の名前を呼ぶ声が響き渡った
 私はその声に一瞬、顔を振り向けそうになったがここで再び私にとって眩しすぎる存在である的場さんを見ることで希望を失ったことへの悲しみを感じたくないことからその場でジッと立ち止まった

「……なんですか?」

 私は本当は泣き叫びながら助けを求めたい気持ちを必死に押し殺して冷淡な声で的場さんにシレッと面倒臭そうな態度で応えた
 私はどれだけ罵倒されてもよかった。私はそれだけのことをしたのだし、それぐらいの罰を彼から受ける覚悟もあった

「本当に……お前は俺のことを騙したのか……!?」

 的場さんは声を荒げてそう訊いてくると私は

「……そうですよ?」

 少し、間を置いてから感情をなるべくこめない様にそう答えた
 的場さんが私に同情や憐憫などと言った感情を向けて、私を助ける気がなど起こさない様に

「嘘だ……」

 だけど、的場さんは自分の恋心を穢されたくないためなのか、私の語った事実を否定する様にそう言った
 私は的場さんになんとしても諦めてもらおうと

「嘘じゃありません……本当です……」

 ダメ出しの如くそう告げた

「嘘だ!!」

 だが、的場さんは全く引き下がろうとせず、今度はかなり強い口調で言い放った

「嘘じゃありません!!」

 私は的場さんがいつまでも私のこと諦めず、私に希望を持たせようとしていることに身勝手ながらに苛立ちを感じて、彼のことを激しく強く突き放そうとした
 それでも

「嘘を吐くな!!貴水!!」

 的場さんは私との間にできた断崖絶壁の様な壁をよじ登るかの様な勢いで私のことを追求してきた

「だから、私は嘘なんて……吐いてません!!」

 私は背中越しに聞こえてくる的場さんの言葉を必死に否定して彼を拒絶しようとするが

「嘘吐け!!だったら……どうして……」

 的場さんは再びそれを否定して

「お前……なんで、そんな辛そうな声をしてんだよ!!」

「えっ……」

 その指摘に私は振り向いてしまった
 そして、私が必死に悟られまいと隠し続けていた私の秘めていた悲しみと苦しみを彼は追求してきた



 今、俺の心の中では貴水への好意、疑惑、怒り、悲しみと言った複雑な感情がグルグルと渦巻いている
 はっきり言えば、俺は貴水が風俗嬢であると告げられたことに関しては胸が抉られる程ショックを受けて、それが嘘であって欲しい願った
 貴水の性格や貴水が隠そうとしているのがバレバレな隠しきれなかった罪悪感に苦しんでいるかの様な表情、そして、今まで見たことがない程の冷淡すぎる態度が逆に不自然に思えたことから彼女が風俗嬢など人に言えないことをしているのは理解できたが、それは同時に彼女の態度に再び俺が疑念を抱く理由にもなった

「お願いだ……貴水……本当のことを言ってくれ……」

 俺はまだ貴水が何かを隠していると考えて、自分でも分かっていながら貴水の心の中にずかずかと勝手に踏み入る様に言った
 
「な、何を言ってるんですか……?わ、私はもう……話すことなんてありませんよ?」

 すると、貴水はこれ以上話すことはないと返した
 だが、もはや彼女は自分の動揺を隠すことができず、声も震わせて明らかに何かを隠していることが誰の目にも解かった
 俺はその様子を見て、なぜかホッと心の中で安堵感を覚えながら

「貴水……俺は……」

 そして、決意をこめて

「俺はお前を信じたい!!だから、お前の本音を教えてくれ……!!」

「……っ!?」

 心の底から俺が望む想いを貴水へとぶつけた

 どんな過去でも俺は背負ってやる……

 俺は貴水を信じたい。
 けれども、それは貴水が風俗嬢ではないと言うことを信じたいわけではない
 俺が信じたいと願ったのは

「お前……変わっていないよ……」

「え……」

 俺の好きな貴水自身だった
 これは俺の身勝手な根拠のない推測だが、貴水は嘘を吐いたがそれには理由があるはずだ
 俺の知っている俺が好きな貴水 奏は平気で他人を自分のために利用する人間じゃない
 そして、他ならぬ目の前で辛そうな表情をしている貴水がそれを証明している
 貴水は変わってなどいなかった
 だから、俺は

「貴水、本当のことを言ってくれ!!」

 彼女を守りたかった
 俺は彼女の全てを受け入れる覚悟をしていた
 その覚悟をさらに強固なものにするには彼女の言葉が必要だった

「ま、的場さん……私……」

 すると、貴水は堤に穴が生じてそこから今まで溜めていた水が流れ出すかの様に目に涙を浮かべそうになっていた
 俺はそれを見た瞬間、再び僅かながらも安堵感を覚えてそっと肩を撫で下ろした

「いや〜、あついあつい……本当に泣かせてくれるね」

 しかし、その平穏は無粋な声で掻き消された

「斉木……!」

 この場にいる俺を最も苛立たせる下種の声で俺は再び緊張感を取戻して歯をギリッと強く噛み締めて怒りをこめる様に奴のことを戦場で敵を見るかのように目を向けた

「おお、こわいこわい」

 そもそも、俺はこいつが同僚時代から気に喰わなかった。と言うよりは、むしろ、警戒していた
 斉木は顔が整い爽やかな女性受けのいい容姿と仕事に関する能力の高さから職場での評価は特に女性社員からの評価は高かった
 だが、こいつは付き合っている女子をひっかえとっかえに変えいていた。しかも、その女子はなぜか斉木に抗議や文句を言うことはなかった。俺はそれを不審に思い、なるべく貴水を斉木に近づけないようにしていたほどだ
 また、俺はこいつの女癖の悪さと言うよりはそこから考えられる斉木の人間性のなさを心のどこかで感じて、当時俺達の直属の上司であった加藤さんに警戒する様にも忠告した

『わかった。注意しておくよ』

 しかし、あの人は一応は斉木に注意したがあの人はあまり深く斉木を警戒しなかった
 加藤さんは非常に有能で人間的にも上司としても尊敬できる人物ではあったが、『人を信用しすぎる』と言う欠点があった
 そして、案の定、いや斉木は俺の予想を超える下種だ

「でもさ〜、的場……お前、本当にそんな女のことを好きでいられるの?」

「何だと……?」
 
 俺は斉木の問いに顔をしかめた
 俺の反応を見ると斉木は顔を醜く歪ませたどす黒い笑顔で俺に訊いてきた
 そして、口を開いて

「だって、そいつ……風俗嬢だぜ?そんな女を恋人とかにしたら、お前にとってはキツイんじゃないか?」

 悪魔が囁く様に俺が貴水と結ばれる場合に生じるデメリットを口に出して、俺の心を揺さぶろうとしてきた
 その言葉が意図するものは俺の心への揺さぶりもあるが、その他にも二つの悪意が込められていた
 俺は貴水の方をチラッと顔を覗くと貴水は顔を地面に俯かせて、拳をギュッと爪を立てて握りしめていた

 貴水……

 斉木の質問で確実に貴水は傷ついていた
 斉木が質問をしてきた真意は貴水に自分は風俗嬢であり、俺と結ばれることで生じる俺への負担と俺が貴水を捨てるかもしれないと言う不安を植え付けるためだ

―ギリっ……!―

 斉木……!

 俺はこんな卑劣なことを平気でできる斉木のことを歯ぎしりしながらギロッと睨んだ
 俺はここまで他人を憎いと思ったことはない
 だけど、俺はそれよりも何よりも優先すべきことがあった
 それは

「んなもん、どうでもいい」

「は……?」

「え……?」

 俺はただその一言だけ、何の前触れもなくそう呟いた
 その一言を聞いた斉木も貴水もポカンと呆然としていた
 だけど、俺はここで心の底から叫びたいことがあるのだ

 
「俺にとっては自分の地位とか、外からの評価なんかよりも好きな女の方が大事なんだよ」

 それは言葉にすると恥ずかしいながらも俺の心の底からの想いだった
 俺にとっては貴水が風俗嬢でも貴水自身は決して変わっていないと思っている
 俺はそれだけで貴水のことを信じられるんだ

「ば、馬鹿じゃないか、お前?そんなことのために自分のことを犠牲にするのか?」

 俺の言葉を聞いた斉木は先ほどまでの余裕をなくして動揺してきた
 当然だろうな
 何せこいつは女を性欲処理の道具か自分の装飾品程度にしか思っていない奴だ
 だから、貴水が好きな俺や加藤さんのことが好きな貴水の持っている『恋心』を理解できないのだ
 そして、何よりもこいつは

「そんなもん、俺はどうでもいい
 ま、どんだけ頑張っても加藤さんに勝てない小物のお前には一生理解できないと思うけどな?」

「……!?お、お前……!!」

 『小物』だ。ぶっちゃけると、こいつは自分の虚栄心を守るためなら何でもする男だ
 まあ、他人よりも優秀になりたいと言う向上心と努力はこいつの唯一の褒めるべきところだ
 だが、こいつは自分の上に誰かいることを認められず、自分が上に上るためならどんな手を使ってでも他人を傷つけたり利用することを平気でする
 そして、こいつが唯一勝てなかった相手がいる
 それは加藤さんだった
 加藤さんはどれだけ斉木が努力をしても常にその上にいた。だから、こいつにとっては加藤さんに比べられること自体が苛立つことだろう

「ふ、ふざけんなよ!!俺があいつに劣っているだと!?」

 案の定、斉木は激昂して今まで装っていた紳士の面の皮がはがれた
 俺はそれを見て、笑いながらこう指摘した

「当然だろ……?そもそも、お前みたいな奴が加藤さんに勝てるわけないだろ?
 人間としても、上司としてもさ」

 そう、あの人は俺の知っている人間の中で一番強い人だった
 だからこそ、俺は目の前の斉木の姿が滑稽に見えた。どんなに自分を大きく見せようが斉木はあの人と比べることすらおこがましい程の小物だ
 それほど、俺にとっては加藤さんは大きな人だった
 俺は斉木が悔しさのあまりに殴りかかって来ると考えて身構えた
 しかし、奴は

「……ぷっ」

「……?」

 俺の予想とは違い突然吹き出してきた
 そして、続けて奴は

「あっはあっはははっはははははっはははっはははははっはははっははっははっはははははははっはははは!!!」

「……!?」

 狂ったように笑い出した
 俺と貴水は斉木のあまりに異常な反応に驚きを隠せなかった

「『人間としてね』……こりゃ、傑作だ」

 斉木は笑い終えると俺を小馬鹿にする様に目をニヤケさせながら再び笑い出すのをこらえながら言った

「何だよ……斉木?」

 俺は今さらだと思うが再び斉木の態度にイラついた

「だってさ……お前が尊敬している加藤はさ……もういないんだよ!!」

 斉木は突然、そう告げた

「え……」

「……っ!」

 俺はその言葉の意味が理解できなかったが貴水は辛そうな表情をしだした

「あいつさ、『DV』で離婚して、なぜかその噂が職場で流れて部下からの信用が失ったんだよ!!」

「な、なんだと……?」

 斉木の口に出した『DV』の一言に俺は再び、理解が追いつかなった
 いや、正確には信じられなかったのだ

 加藤さんが……奥さんや子供に暴力を振るうだと……?

 俺は『DV』の言葉の意味からそう推測した
 だが、それは俺の知っている加藤さんの姿からは絶対に想像できるのものではない

「そんな訳ねえだろ!!加藤さんは……!!」

 俺は最も尊敬して憧れていた人を侮辱されたことに我慢できず激昂して斉木を怒鳴った
 俺は少なくともこんな奴にだけはあの人のことを馬鹿にされたくない
 すると、俺が怒りで我を忘れたことに自分の優位性を取り戻したことを感じた斉木は俺とは対照的に冷静さを取り戻して再びあおの心をイラつかせる余裕のこもった笑顔をしてこう言った

「本当の話だよ。それで周りの目から耐えられなくて、失踪したよ?
 ……ねえ、貴水さん?」

―ビク!―

「……っう!!」

「貴水……?」

 俺は斉木の口にしたこれまでの話が信じられなかった
 なぜなら、俺にとっては加藤さんは尊敬すべき人間であり、憧れの人であり、そして、恩人だった
 だから、そんな話を信じられる筈がなかった
 だけど、俺は誰よりもあの人のことが好きだった貴水の心苦しそうな反応を見て、それが事実だと嫌でも思い知らされた

「それにさ、そいつ……加藤がいなくなった後に俺に『処女』をくれたんだぜ?」

「な……!?」

 斉木はさらに俺にとっては聞きたくもなかった事実を口にした

「そいつさ、加藤がDVで離婚してから、あんなに好きだったくせに加藤のことを助けもしなかったんだぜ?」

「………………」

 斉木が続けた事実に俺は衝撃を受けることしかできなかった
 貴水は目を伏せながら、身体をフルフルと震わせながら黙っていた
 だが、俺はこの瞬間あることを想像できた

「お前……もしかすると、加藤さんのことが好きだった貴水を最初から狙ってたのか……!?」

 それは斉木のあまりにも醜悪な虚栄心による欲望だった

「まあね……だって、加藤に勝ったんだから、別にあいつの全部をもらってもいいだろう?」

 俺の指摘を斎木はしれっと肯定し信じられない一言を口にした
 斉木は加藤さんにずっと勝ちたいと願い続け、その渇望は醜悪な嫉妬に変化していたのだ
 そして、いつしかこいつは加藤さんに勝ったと言う『戦利品』として、貴水のことを狙っていたのだ
 ただそれだけのために

「たった、それだけのために……!!お前は貴水の心を弄んだのか!?」

 俺は怒りをとっくに通り越した炎よりも熱い激情を斉木に叩きつけた
 俺は悔しかったのだ
 好きな女を守れなかったことも好きな女の『処女』をこんな奴に奪われたことも好きな女の『初めて』をそんな程度に見られたことも

「別にいいだろ……?まあ、とりあえずこれだけは言っておくか……俺は加藤に勝ったんだよ!!あははははははははははははは!!」

「……!!?」

 斉木は俺の悔しさに滲んだ顔を見て、勝ち誇りながらそう告げた
 俺は一瞬、怒りのあまりに殴りかかろうとしたが

「いいえ……あなたは先輩に一度も勝ってませんよ……斉木さん……」

 斉木の虚栄と俺の悔恨に満ちたこの場の空気を掻き消す様に声が響いた

「何……?」

「貴水……?」

 その声を出したのは先程まで散々、斉木によって玩弄され続けていた貴水だった
 目には怯えが残っていたがその目には何かしらの決意を込められていた

「斉木さん……言っておきますけど、先輩は奥さんや子供に暴力なんて振るってませんよ……」

「え、貴水……?」

 貴水は斉木のことを哀れむ様な目でそう語った
 俺はなぜ貴水がそんなことを知っているのかが分からず困惑したが、斉木が本来なら笑い飛ばすはずなのに目をギョッとして開いて驚いているのを見て疑念を抱きなぜか冷静になれた
 そして、貴水は口をさらに動かして

「私……知っているんですよ……先輩の奥さんと進藤社長が不倫していたのを……」

「なっ……!?」

 俺はその事実に愕然とするしかなかった
 斉木の反応は

「ど、どうして……お前、そのことを……!?」

 俺が知らなかった貴水の語った衝撃の事実をまるで知っているかの様に動揺した
 俺はその反応を見てこのことが真実であることを理解した

「私、あの2人の会話を聞いたんです……そして、先輩と的場さんが無実だということも……」

 そういうことだったのか……

 俺はこの瞬間、どうして貴水が俺の『潔白』を知っているのかを理解できた
 そして、同時に俺は貴水と加藤さんの心中を察して、無力感を感じてしまった

 くそっ……!!貴水、お前……ずっと、1人でそんな重すぎる物を背負ってたのかよ……!!
 加藤さん、どうして……あんた……俺のことを頼ってくれなかったんですか……!?ハメられたのに……!!

 二人は俺と同じ様な、いや、俺以上に孤独と言う地獄の中で戦っていたんだ
 俺は加藤さんと言う味方がいたが、2人には誰も味方がいなかったんだ
 

「そして……あなたは先輩に勝てないから……彼らと協力して卑怯な方法で蹴落としたんですよね?……先輩の家庭の事情をばらすことで……」

「ぐっ……!?」

 貴水は斉木が加藤さんの『離婚話』を職場で流したことを指摘した
 恐らく、斉木の反応からしてそれは当たりなんだろう。どこまでも救いようのない小物だ
 そして、貴水は斉木にとっては最も屈辱的な言葉を放った

「それを勝ったなんて……おかしいわ……
 そして、あなたは永遠に先輩に勝つことができなくなった『負け犬』になったのよ」

 貴水の言う通りだ
 斉木は結局は加藤さんに勝ってなんかいない
 自分じゃ勝てないからと言って他人の力を利用して加藤さんと言う大きな存在を取り除いただけだ
 そして、同時にそれは永遠に加藤さんに挑むチャンスを失ったことに他ならない
 貴水は言いたいことを言いきって満足したのか斉木のことを嗤って斉木の愚かさを露わにした

「ふざけるなよ……」

 すると、斉木は今まで聞いたことのないドス黒くて低い地の底から聞こえてきそうな声を発した

「ふざんけんなよ!!てめぇ!!?」

―バン!!―

「きゃあ!?」

「貴水!?斉木……お前ぇ!!」

 突然、斉木は冷静さどころか理性を忘れて貴水に襲いかかり、貴水は体勢を崩し張り倒された
 俺は再び襲いかかりそうな斉木から貴水を守るために彼女の前に立って奴の前に立ちはだかった
 すると、興奮状態の斉木は息をフーフーと吐きながら歯をギリギリときしらせて目を大きく開いて

「てめえみたいな薄汚い『風俗嬢』が俺のことを下に見るんじゃねえ!!」

 と自分の醜い虚栄心から来る身勝手な怒りを俺の奥にいる貴水にぶつける様に怒鳴った
 俺はこの瞬間、怒りを通り越して呆れを感じた

「お前、本当に救い様がないな」

 俺は本音を呟いた
 こいつは屑だ。救うとか救わないとか以前にここまで腐りきった人間は俺は見たことがない
 いるとしても、加藤さんをハメた進藤と加藤さんの元妻ぐらいだろう

「うるせぇ!!お前みたいな負け犬も俺を馬鹿にするな!!」

 負け犬である斉木は俺にそう罵声を浴びせると俺に殴りかかって来た
 もはや、こいつは虚栄心を守るための本能による怒りのあまりに理性を忘れて、自分が見下されていると思うだけで他人が敵に見えるのだろう
 

「的場さん!!」

 貴水は俺のことを心配して叫んだ
 実は今の状態は非常にマズイ
 斉木は性格は最悪だが、基本的に体力や運動はかなり上だ。ケンカをしたら確実に俺は負ける
 そして、今から斉木の拳を避けるには遅すぎら。何よりも俺がここからどくと斉木は今度は貴水を狙うだろう
 だから、俺はここからどくわけにはいかない
 それに好きな女の盾になれるなら、その位の痛みは別にどうでもいい
 俺は痛みが来るのを覚悟して歯を食いしばって目を瞑って覚悟をした

―ガシっ―

「おい……」

 しかし、痛みは来ることはなく、その代わりに聞きなれないドスの効いた低い声が境内に響き渡った

「何だよ!!お前!?」

 斉木の怒鳴る声が聞こえてきて目を凝らすとそこには身長が190p近くはある、黒いサングラスをかけたトレーナーを着た体格ががっちりとした厳つい男が立っていた
 そして、その男は俺のことを殴ろうとしていた斉木の右腕をがっしりと自らの左腕で掴んでいた

「い、磐田さん……」

 俺の背後から貴水の怯えに満ちたどうやら男のものらしい名前を呼ぶ声が聞こえた
 すると、磐田と言う男は貴水のことを見て

「おい……貴水……店に迷惑を掛けそうな客がいたら、あれほどすぐに黒瀬か久川に伝えろと言っただろうが……」

―ゾクっ!?―

「ひっ……!ごめんなさい……!」

 俺は目の前の男の声だけで震えが来るほどの寒気を感じ、さらには向けるだけで人を殺しそうな視線までも加わり、俺は寿命が縮まるぐらいの恐怖を感じた
 いや、『人を殺しそうな』なんて言うレベルじゃない、こいつは何人か殺している
 そして、貴水があんなに怯えていると言うことは恐らく、その筋の人間なのは明らかだ
 俺が男のあまりの迫力に圧されていると

―ドゴォ!!―

「うぎゃ!!」

―ドサ―

 磐田が突然、斉木の左頬に大きな杭を打ちつける様な勢いで自らの太い腕で殴り、辺りに鈍い音と斉木の悲鳴にもならない声が響き渡り、斉木は地面に倒れ伏した
 そして、倒れた斉木の辺りまで磐田はゆっくりと近づくと腰を下ろして自らの大きな手を斉木の頭まで近づけて

―クシャ―

「ひっ……!?」

 斉木の髪をしっかりと掴むと自分の顔を斉木の顔を覗き見る位置まで下げて

「おい、兄ちゃん……てめぇ、うちのシマで何やってくれてんの?」

―ドゴッ!!―

「ぐぎゃ……!!」

―グギ!!―

 とさらに低い声で訊ねると今度は斉木の顔の真正面から殴り、斉木の圧し折られた音が聞こえて、よく見ると斉木の華から血が流れ、鼻は折れている様に見えた

「ぜぇ……ぜぇ……てめぇ……許さねぇ……絶対に警察に……!!」

 斉木は痛みに耐えながら自分にここまでの屈辱と痛みを与えた磐田に涙を流して悪態をつこうとするが

「警察……?はん……!」

 すると、磐田は斉木の口にした言葉を歯牙にもかけず、ニヤリと見ていると震えが来そうな笑みを浮かべてすっと立ち上がり

―バコッ!!―

「おぼぁ……!!」

 と斉木の腹をサッカーボールを蹴り飛ばすかのように蹴った
 そして、

「サツが怖くて、極道がやってられるか!!」

―ドゴっ!!―

「うぎゃ……!?」

―ガスっ!!―

「ごほっ……!?」

―ボコっ!!―

「や、やめて……ぎゃっ……!?」

 と斉木がプライドも虚栄心もかなぐり捨てて暴行を止める様に懇願しながらも磐田はそれを意に反さず、殺しかねない程の殴る蹴るの暴行を繰り返し続けた
 その時、俺はあまりの凄惨な光景に恐怖で立ちつくしてたが

「お、おい……!?もうやめろ!!死んじまうぞ!?」

「ま、的場さん……!?」

 と俺はなけなしの勇気を振り絞って目の前の極道者に制止を呼びかけた
 俺はぶっちゃけると、斉木のことを殺したいほど憎いが、流石に目の前で死なれると胸糞が悪い
 それにこれ以上、貴水にこんな陰惨な光景は見せたくはなかった

「あん?」

 すると、磐田は暴行を止めて俺の方へと顔を向けて来た
 同時に先程まで斉木にだけ向けられてきた獲物を殺す熊の様な肉食獣の目に似た恐ろしい殺気が込められていた視線までも向けられてきた

―ゾクリ―

 う……

 俺は磐田のあまりの迫力に足がガタガタと震え、心拍数が一気に高くなり心がジワジワと蝕まれる様な錯覚に陥った

「おい、あんた……首を突っ込むな
 言っておくがな、これはな『落とし前』だぞ」

「……落とし前?」

 俺が怖気づいて、何も言わなくなると突然、磐田は既に顔がボコボコに殴られ、鼻は曲がって血が流れて頬は赤いを通り越して青黒い痣だらけになり、顔は風船の様に脹れていた斉木のことを一瞥してそう言った

「こいつは俺達の組が管理している店で商売以外で『商売道具』であるその女に手を出そうとしやがったんだ……
 こう言う連中は放っておくと付け上がりやがって店に迷惑を掛ける……
 この業界じゃ、カタギにも舐められちゃ同業者の連中に好き勝手される口実になりかねぇんだよ」

 磐田は自らの暴行を正当化しながら、自分達の住む世界のルールを口にした
 俺は自分の住む世界とは違う理でありながらも、心のどこかで磐田の主張が理解できた
 確かに斉木の様な屑を放っておいて客として扱うとロクな客がいなくなる可能性が出てくる
 それに表の住人である人間に自分達のいわゆる『シマ』を荒らされれば、裏の住人に舐められて好き勝手されるのも理解できた
 しかし、一つだけ俺は納得ができなかったことがある
 それは

「取消せ……」

「あ?」

 俺は磐田への恐怖がいつの間にか消えて自然と口を動かした

「貴水は……『道具』なんかじゃねえ……!!」

「的場さん……」

「………………」

 俺は的場のその言葉だけは我慢できなかった
 確かに貴水は風俗嬢なのだろう
 だけど、だからと言って、物扱いなんて俺は絶対に許さない

「おい……もしかすると、あんた……本気でその女を恋人にするつもりなのか?」

 磐田は相変わらず迫力と威圧感を放ちながら俺に対して訊いてきた
 俺はそんな中でも毅然と奴の目を見つめた
 すると、しばらくして磐田は少しため息を吐いてから

「はあ……悪いことは言わねえ……やめておきな……」

「何だと……?」

 俺に対して、そう告げた

「言っておくがな、この女はまだ俺らから借りた金を返しきれてねえ……
 それにな、一度こっちの業界に落ちた奴と付き合うてのはかなりきついことだぜ?」

 磐田は俺を説得する様に貴水と俺が付き合うことで生じる俺への負担を口にした
 だけど、それでも俺は

「俺はそれでもいい……!!俺は貴水と――!!」

 彼女と一緒にいたいと変わらぬ決意を口に出そうと強い口調で言おうとした

「的場さん……もういいです……」

 しかし、俺の言葉は予想外の人間によって遮られた
 俺の言葉を遮ったのは

「貴水……どうしたんだよ……?」

「………………」

 他ならぬ俺が一緒にいたいと願った貴水本人だった
 俺は彼女が口にした言葉に俺は否定して欲しくて彼女に確認しようとした 
 俺の聞き間違えだと願って
 だが、貴水は顔を俺から背けて少しの間沈黙すると

「私……もういいんです……的場さんに信じてもらっただけで私は本当に嬉しかったんです……
 これ以上、何か望んだら……罰が当たっちゃいますよ……」

 かつて、同僚時代に俺が見ているだけで幸福だと思っていたパッチリとして、とても澄んでいる優しい暖かさを持つ黒目を細めることで生まれるあのあどけない笑顔で俺にそう告げた
 だが、その目には涙が浮かんでいた

 何、言ってんだよ……俺はそんなことを聞きたくなんかない……
 何で、幸せを求めることが悪いんだよ……!?
 俺が見たかったのはそんな笑顔じゃない……!!

 俺は貴水のその切なさと悲しさ、諦めの込められていた笑顔に対してどうしようもない空しさを感じて、自然と憤りを感じていた

「何、言ってるんだよ!?俺はお前と……!!」

 俺はその憤りと貴水への想いをぶちまける様に彼女を強い口調で説得しようとするが

「ごめんなさい……だけど、私にとって……あなたは眩しすぎるんです……」

「え……」

 貴水はそっと優しくそう呟いてからまるで諦めを付ける様に

「ありがとうございました……的場さん……さようなら……」

―ザッ!―

 涙を流して、俺の大好きな笑顔で俺に感謝し終えると身を翻して俺に背を向けてこの神社の境内から跡にしようとした

「貴水……!!」

 俺は貴水を追いかけようと駆けだそうとするが

―ガシ―

「待ちな……」

「……ぐっ!?」

 磐田が俺の腕を掴み俺が彼女を追いかけられない様にした
 そして、貴水の姿はこの神社から見えないところまで遠ざかってしまった

「ちっ……!離せ……!」

 俺は磐田の腕を振り払うと自らの腕を激しく動かすが磐田の先程まで斉木に対して圧倒的な暴力を繰り返していた力には俺が敵う筈もなくビクともしなかった
 俺は貴水を追いかけられない悔しさから磐田のことをキッと睨んだ

「ふ……おいおい、そんな顔すんなて
 言っておくが、これはあの女のためなんだよ……」

 すると、磐田は俺の敵意を笑って受け流して俺に向かってそう呟いた

「貴水のため……だと?」

 俺は磐田の口にした言葉の真意が理解できずにいた

「貴水のためて……なんでだよ……!?」

 俺は磐田に噛みつく様にそう言った
 俺からすれば、貴水の現状には未来に『希望』が全く見えない
 それでも貴水には『幸福』を求める権利があるはずだ
 それなのにどうして、貴水が幸せを望むことがいけないのか理解できない
 だが、俺は次の磐田の言葉で貴水の『真意』が理解できてしまった

「はあ……いいか、仮にあの女がお前と付き合うとして、あの女がお前に借金をお前と背負うと思うか?」

「な……そ、それは……」

 俺は貴水と磐田の関係についてはある程度は察することはできていたが、やはり、貴水は借金を磐田達にしており、その返済のために風俗で働いている様だった
 そして、磐田は仮に俺と貴水が付き合って、貴水が俺と一緒に借金の返済をするのかと言う疑問をぶつけてきたが、その問いの答えは『NO』だ
 貴水は真面目な女であり、俺に迷惑を掛ける様なしたくないはずだ

「それにな、お前……自分の女が他の男に抱かれるのが耐えられるのか?」

「ぐっ……!?」

 磐田の次の言葉に俺は先程、斉木に抱いていた憤りが蘇るのと同時にとある状況を思い浮かべてしまった
 それは貴水が小汚いおっさんどもの性器を作り笑顔をして口で咥えて、自らの裸体を押しつけて、さらには自らの秘部へとそれを挿入れてよがる姿だった

「……うっ!?」

 俺は自分の妄想に先程、斉木による貴水の『初めて』を奪われたと言う発言の衝撃の時よりも吐き気や悲しみ、憤りなど人間に害を及ぼすあらゆる感情が沼の様に広がっていく感覚を感じた

「ほらな……それにな、あの女も苦しいと思うぞ?お前と言う男がいながら他の男に抱かれるなんて……罪悪感やら色々な感情に圧し潰されちまうぞ?」

「そ、それは……」

 確かにそうだ
 俺がどれだけ貴水を『寝取られる』ことを覚悟しても、貴水は俺への罪悪感に耐えられるはずがない

「だから、諦めろ……お前さんのためにも……あの女のためにもな……
 お前さんもよくやった……」

 磐田はそう言うと俺を労わるかの様に俺の肩に自らの手を置いた
 俺はこいつのこの行動でこいつがただのチンピラじゃないことは理解できた
 こいつは裏の人間の割には以外にも他人を思いやる気持ちは多少ドライだがあるらしい。それでも、人を何人か殺してそうだが
 しかし、俺は

「それでも……俺は……」

 俺は貴水と一緒にいたい
 あいつは裏の世界なんていてはいけない
 あいつがどれだけ苦しんでも俺はあいつと一緒にいてやる

 俺の心の中の貴水への執着はそんな簡単に折れるものではない
 と言うか、好きな女のためなら俺は嫌でもあいつの業を背負ってやるよ
 俺の一度は折れそうになった決意は再び、折れた刀が刀鍛冶の手によって作り直されたことで強靭になる様に俺の決意は強く蘇った
 そして、俺は磐田にその決意を込めた目を向けた
 すると、磐田は

「……ちっ……120万だ」

舌打ちしてからバツが悪そうに呟いた

「え?」

 俺がその言葉に戸惑っていると

「あの女が俺らに借りている金だよ……それさえ返せば、俺らとあの女は無関係の赤の他人だ
 その後にあの女がどんな決断をしようがしったこっちゃねえよ」

 素っ気なく俺に貴水を助ける方法を遠回しに伝えた
 俺はしばらく、磐田の行動に躊躇いを覚えて呆然としていたが

「ぷっ……」

 いきなり、なぜか笑いが込み上げてきてしまった

「おい、何がおかしいんだ?」

 俺が突然、笑ったことに磐田は少し訝しげながら睨んで訊ねてきた

「いや、てっきりそっち系の人間だから、もっと無理難題を吹っ掛けて来るかと思ったんだよ……」

 俺の答えを聞くと磐田は少し、タメ息を吐いてから恥ずかしげに

「んなもん、やったら
 ただでさえ、『売り』と言うオジキが嫌いそうなことを仕方なくしているのに
 余計に顔向けできなくなるだけだ……」

 とまるで、子供がイタズラをする際に父親の叱られることを恐れる様な顔でそう言った
 俺はその瞬間、こいつに自分と似たようなところを感じて、自然と

「そうか……ありがとうな
 あ、あと……いくらなんでも、それ以上そこの男は痛めつけないでやってくれ
 さすがに同情するし……何よりも死んだら俺も貴水も胸糞悪い」

 磐田に感謝してから神社を跡にした

 貴水……待ってろよ……俺は絶対にお前を逃がさないぜ!!

 貴水への思いを胸に秘めて、俺は抑えきれない情熱のままに貴水のことを探そうと駆けた



「ふ〜ん、告白にこの神社を使うのは結構ですけど……
 さすがに流血沙汰や暴力沙汰は許せませんね〜?」

―ビク―

 私は神社の社の中から声を出して、私の住んでいる神社の境内を血で穢したいつもここで的屋を営んでおり、よく縁日などで屋台を出させているとある『組合』の人間の一員である加害者に向かってそう呟き

―キィー―

 社の扉を開いて鼻が曲がり血塗れで痣だらけで気絶している男を指差しました

「く、倉科(くらしな)の姐さん……」

 加害者の男、磐田さんは私の顔を見ると恐る恐る声を出して首を低く立てつけの悪い扉が閉まる際に出しそうな音が出てきそうな勢いで首を振り向けて私のことを見た
 私は彼がこちらの方を見ると、ニッコリとした笑顔でこう口にした

「神社と言うのは穢れを嫌うものなんですよ?
 特に『死』や『血』なんて、神様にとって一番嫌いなものです……わかりますか?」

 私が訊ねると

「へ、へい……!!」

 先程まで圧倒的な暴力と迫力でこの場を支配していた磐田さんはなぜか私の言葉に及び腰になって気まずそうに返事をした

「……まあ、今回はそこの男を見ていて、私も非常にムシャクシャにしたのですぐに救急車を呼ぶことと10万円ぐらいで手打ちとしますか……あなた達なら簡単にそのぐらいは出せるでしょう?」

「え……いや、姐さん?流石にそれは横暴すぎ―――」

「何かいいましたか?」

「い、いいえ……!!」

「じゃあ、とっとと救急車を呼んできなさい……
 さもないと……縁日の土地代を少し高めにしますよ?」

「わ、わかりました!!行ってきやす!!」

 私がお願いと沙汰を下すと磐田さんは快く引き受けてくれて、すぐに救急車を呼びに行きました
 私はこの神社は私が御本尊様からお借りしている場所なのでこう言ったことは私の管轄ですのでこの対応で大丈夫でしょう

「ふふふ……」

 私が磐田さんの慌てっぷりにおかしくなって笑っていると

「はあ……静夜(しずや)?磐田をあまり、脅すのはやめてやってくれ……」

 奥殿の方から私の愛おしい殿方の声がしたので笑顔で振り向くと

「え〜、旦那様?良いじゃないですか〜?ああ言う人はからかうと面白いんですよ?」

 私の旦那様であり、この神社の御祭神であられる宇迦御霊様とその使いである眷属の私に代々仕えて来た一族の1人である倉科 永人(ながと)様が私のことを窘めてきました
 それでも、私は磐田さんをからかうのをやめるつもりはありませんけどね
 ああ、言った人は私の長年の勘からからかうのが面白い人と相場が決まっていますしね
 それに永人様にしたあの無礼は決して、忘れるつもりはありませんし

「はあ、お前な〜……まあ、いいか……
 それよりもどうするつもりなんだ?」

 永人様は私のそんな人を喰った様な性格に少し、呆れながらも私にとあることを持ち出してきました

「そうですね〜……私としては彼女に幸せになって欲しい所ですし、あの的場さんと言う男性の恋心には心を動かされましたしね〜」

 それは先程まで愛の告白をしていた男女のことです
 実は私達は失礼ながらも告白を最初から最後まで盗み見していました
 おかげで目の前で倒れているそこの男のことを殴りたいと思いながらも永人様に止められて必死に踏みとどまりました
 その点では磐田さんには感謝はしています
 神社を血で穢したことは別ですけどね
 そして、件の男女のことですが
 本来なら、借金をしている風俗嬢に対しては余程、理不尽な理由ではない限りは自業自得として放っておきますが、今回の件は明らかに彼女は被害者ですしね
 あの的場さんと言う男性もある意味では私達、魔物娘に負けないほどの恋に対する想いが強いですし助けたいところです
 何よりも

 あのような男女を見捨てるなんて、魔物娘としても宇迦御霊様の御使いとしても私にはできませんよ!!
 そして……かつて、永人様と必死にいたいと願った私も彼らの幸せを願いたいのです……

 私の神の御使いとしての魔物娘としての矜持、そして、かつて、結ばれることがないと思いながらも結ばれることができた私達と彼らを重ねてしまったのです

「そうだな……じゃあ、あの人達に連絡するか」

 私の意思を悟ってくれた永人様は頼れる笑顔で爽やかにそう言いました


「は、はい……!!」

 私は旦那様のその表情を見て、嬉しさのあまり、つい隠していた金色の耳と七本の尾が出てしまいした

 あぁ……永人様……私はもう一度、あなた様に惚れてしまいます〜……
 と、その前に……

 私は少し、我に返るとボコボコになっていた男、いや、人間の風上にも置けない男の近くに近寄り

―ツン―

 指で頭を突き、とある『呪い』をかけました

「静夜……?何したんだ?」

 永人様は少し、わたくしの不思議な行動に頭を少し傾げながら訊ねました
 私はそれに対して

「いえ、ちょっとこの人に本当の愛を知らない限りは解けない『呪い』をかけました……てへ♪」

 と明るい態度で答えました
 すると、永人様は少し冷静になって

「どんな『呪い』なんだ?」

 と訊いてきたので

「10円ハゲができる呪いです」

 とニッコリと普段以上の屈託のない満足気な表情で答えました
14/07/08 20:37更新 / 秩序ある混沌
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■作者メッセージ
 さて、皆様方……
 人はどうしても自分では幸せを求めようとするしても、自分に少しでも非があればそれに手を伸ばすことを躊躇ってしまいます……
 誰にも幸福を求める権利は存在します……それは哲学でも、宗教でも、倫理でも、道徳でも、法律でも認められています
 しかし、中にはそう言ったものを求めることができない弱い人もいるのです
 誰の上にも光が注がれているのに……
 さて、これからは夜の世界……夜は恐ろしい魔物の住む世界ですが……
 これから、皆様が見られる世界はどうなるか……お楽しみください

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