『輝き』と歪み
「ふあ〜……あ、すいません。じゃ、お願いします……え、ちょ!!なに言ってるんですか!?」
マリちゃんは起きてから、あるところに電話をしている。だけど、途中であくびをかいてしまい相手に色々な意味でからかわれているらしい
……昨日、何時に寝たっけ?
ちなみに今の時間は10時を余裕で切っていた。普通、平日でこんなに寝過ごしたら社会人としては『失格』だろう。だけど、僕の実家は基本裕福であり、僕の職業は小説家のために基本的になんとか大丈夫だ。ただし、自分で言うのもどうかと思うけど基本真面目な性格の僕にとっては心苦しい。しかし、マリちゃんの笑顔には負ける。いわゆる『惚れた弱み』だ。そして、マリちゃんは何かを言おうとしている
「もう!!ステラと言い、あなたと言いどうして、あなたたちは私をからかうんですか!!だから、あなた方は―――」
「て、ちょっとマリちゃんストップ!!」
僕はなぜかいつの間にか彼女から受話器を奪った。いや、奪わざるをえなかった。だって、この光景を僕はどこかで見た気がしたから。そう、それは
『うわあああああああああああああああああああああん!!』
昨日のステラさんのことを思い出したからだ。
二度とあのような『悲劇』は起こさせない……
「あ、明さん?」
マリちゃんは僕が突然を奪ったことに驚いたようだが、僕は相手に聞こえないようにマリちゃんを電話相手から離そうと適当に、
「ま、マリちゃん、後は僕が話すから、その、とりあえずマリちゃん……服を着よう?もし、ここでステラさんが来たら、さらに面倒なことになるよ?それに僕はその姿のマリちゃんも好きだけど、服を着ているマリちゃんも好きだから」
と言った。だけど、はっきりと言おう。後半は本音だ……今、僕と彼女は
『全裸』だ。まあ、夫婦の営みを終えてからずっと体をお互いに抱きしめて寝ていたんだからそうなるよね。ちなみに決して、僕らは『露出狂』ではないし、普段の生活においてもそう言った『アブノーマル』な『趣味』や『習慣』はない。『変態』かと言うとそれは怪しいかな?と言うか、『人間の常識』と『魔物の常識』は違うし、少し夜の生活が激しくお互いに激しく求め合い、それを『幸福』に思うのは人間でも魔物でも愛し合う男女としては『普通』だと思う。これって僕が間違っているのかな?。まあ、僕としてはそこに『愛』があればの話だとは理解している。そして、
「あ、はい……そうですね。じゃ、服を着てきますね」
彼女は素直に僕の言ったことを聞いて二階に向かって行った。
しかし、僕は見逃していない……彼女の尻尾が嬉しそうに揺れていることを……
僕は彼女が気着替えにいったことを確認してから
「ふぅ……て、アミさん!?少しは自重してくださいよ!」
僕は電話の相手に対して、注意した
『ごめん、ごめん♪つい、茉莉てからかいたくなっちゃうのよ♪あの娘、魔物娘なのに、未だに恥ずかしがり屋だし♪そこが可愛いのよ〜、私があの娘を魔
物娘にしていたら確実に『ナイトメア』になってたわよ?』
「!?」
僕は少し、その言葉にドキッとしてしまった
……ナイトメアのマリちゃん……なんというか、すごくそそられる……マリちゃんには……何と言うか……守りたくなる『オーラ』がある……だから、昨日は普段は冷静な僕でもあんなことをしてしまった……つまりはもし、マリちゃんがナイトメアになったら……ダメだ……!!普段の上目使いだけで僕は……毎度、陥落寸前なのに僕は……僕は……!!
『あらあら、マリもおもしろいけどあなたも十分、おもしろいわよ?残念ね?ふふふ……』
どうやら、彼女は僕の状態をお見通しのようで『悪魔』のように僕をからかおうとする。だが僕は
「ふふふ……アミさん、あなたは勘違いしていますよ?」
『うん?』
僕は不適に笑いながら反撃に出た
「茉莉はダークプリーストになったことで……『清楚』さを完全にものにしたんですよ」
『……は?』
魔物娘の生態的に『清楚』と言う言葉が似合うかなんては分からない。しかし、魔物娘の中には『ワイト』、『龍』、『白蛇』、『ぬれおなご』、『シー・ビショップ』、『マーメイド』、『稲荷』、『ゆきおんな』などと言った『淑女』のような性格をした魔物娘がいるのも事実だ。ちなみにここに誇り高い『ヴァンパイア』と『ドラゴン』などがいないのはちょっと、彼女たちは性格が高圧的なところがあるためでありベクトルが違う気がするからだ。だが、『魔物娘』はマリちゃんを見て理解できるように『種族』で性格が決定するわけではない。『人間』だって、良い人もいれば悪い人もいる。つまりは基本的に全てをそれで決定するのは傲慢だ。性格が『好色』とされているダークプリーストなのにマリちゃんは普段は『淑女』そのものだ。実際、彼女を実家に紹介した時、親族は彼女の洗練された『美しさ』に彼女の境遇が特殊なのに彼女を認めた。
そう、時として『真の美しさ』とはあらゆる人々を魅了する…
「魔物娘の本能を13年間も耐えるなんて、普通の人にはできないはずです……これで彼女が『清楚』じゃないかと言ったら何が『清楚』なんですか!!」
『え、えぇ……』
彼女は若干引き気味だが、僕は口を止めることができない。だって、マリちゃんの魅力はこれだけじゃないのだから僕は彼女の魔物娘としての姿をかつての彼女の住居である、彼女の教会を毎週見ている。彼女の堕落神に祈りを捧げる姿は祈っている神が神だから、どうかと思うけど
まさしく……『聖女』だ……
そう、彼女はダークプリーストと言う『種族』でありながら『堕落』と言う言葉が似合わないほど神々しさを感じる。むしろ、ダークプリーストと言う『種族』だからこそ、『清楚』と言う言葉が似合っている
「僕にとってはもったいないくらい最高の『女性』です!!ですから、たとえ彼女がどの種族でも僕は彼女を愛します!!」
『あらあら……こんなに情熱的とはね……』
僕が満足気にマリちゃんへの愛を語り終えるとアミさんは
『そんな、感じならもしあなたが本気になれば多くの女性があなたの虜になったわね〜』
とからかうように言ってきた
「残念ながら、僕は彼女以外の女性を愛せませんよ……」
と断言した。これは『絶対』に自信を持って言える。だって、実際、僕はかつて実家が決めた『婚約者』を愛そうと努力はしたけど、愛せなかった。まあ、彼女の実父からは『娘を愛してた』と言われたけど。そして、僕は『裏切られた』。そして、僕を救ってくれたのがマリちゃんだ
……そんな彼女を裏切ることなんて絶対にしない……僕は彼女に誓ったんだ……二度と『裏切らない』と……
すると、アミさんは
『いや〜、そこまで愛されるなんて本当に茉莉は幸せね〜これは本人に聞かせてあげないとね♪』
「………………え?」
彼女はよくわからないことを言ってきた
え、本人……?どういうこと……?
『実はね、この会話……録音してあるのよ〜』
―――ビクッ―――
彼女はイジワルそうに僕にそのことを告げてきた。僕はそれ聞いた瞬間、身体が一瞬震えた
「は、はい?」
『いや〜、実はね……電話が変わってからずっと録音しているのよ〜』
「なぁ!?」
僕はそれを聞いた瞬間、いつもマリちゃんがステラさんたちにからかわれている時のような反応をしてしまった
『じゃ、これ……店に来たら彼女に聞かせるわね♪じゃあね♪』
「ちょっ、ま、待って!!」
―――トゥートゥー―――
電話は非情にも切られた
「は、はめられた……」
そうとしか言えなかった。そして、僕は今夜に起きると思われる『ワルプルギスの夜』を想像して覚悟を決めた……いや、僕らはサバトには所属してないけど……
私は今、昨日であったばかりの女性である茉莉さんを待っている。今日、私は生まれて初めての『エステ』に行く。だけど、その動機は不純だ。ただ、昨日久しぶりに同級生に会って、メアドを交換され明日、遊ぶ約束をされただけ。相手に嫌われたくない。だから、拒否できない
仙田君はきっと、下心はないと思う。だけど……私は……
そして、私は相手にどう見られるのかを気にしてるだけ。本当に好きなわけじゃないのに。私は姉の日記の
『周りに笑顔と言う仮面で応えるのはもう辛い』
と言う文章を思い出した。きっと、姉は今の私のようになにかを演じることに苦しみを感じていたんだろう。私はそれを
『陽姉も少しは明るく生きればいいのに……』
と軽い気持ちで考えていた。そして、私は姉を支えようとしなかった。助けようともしなかった。姉を支えていたのは弟だけだったのに。そして、これは憶測だけど、私は弟を犠牲にしてしまった。私は姉としても妹としても最低だ
こんな私が『幸福』になる権利ないのに……誰かに愛される権利なんてない……私は……
私が自己嫌悪に陥いって俯いていると
「瀬川さ〜ん!ごめんなさい、お待たせしました」
待ち人がきた
「ま、茉莉さん……いえ、大丈夫です」
「本当ですか?では、いきましょうか?」
「……はい」
私たちは駅を出て茉莉さんが紹介してくれるエステに向かった。道中、私は茉莉さんの顔をよく見た。昨日、思ったけど改めてみると茉莉さんは美人だ。それは外見だけじゃない。立ち振る舞いや雰囲気は『気品』に溢れている。しかし、彼女の持つその『気品』は決して相手を威圧するようなものではなく、『聖女』のような暖かい何かを感じさせる
「どうしたんですか?」
「い、いえ……その……」
彼女はどうやら私の視線にきづいたようだ。私は慌て誤魔化すために
「あの……茉莉さんてご家族はどうしているんですか?」
となぜか私は自分は聞いてほしくない質問を彼女に聞いてしまった……すると、彼女は顔を顰めるがすぐに表情を和らげ
「実は私、孤児だったんです……幼い頃に両親が亡くなって……」
「え」
彼女はそう言った。私はそれが信じられなかった。私は昨日、いや、今、目の前で幸せそうな女性が私と同じように『家族』を失っていたとは思わなかった。だけど、私は一つ理解できなかった。それは
「……どうして、笑っていられるんですか……」
「え?」
私は俯きながら彼女にそう尋ねた。私は分からなかったと同時に家族を失いながらも笑っていられる彼女に『嫉妬』を感じた。だから、こんな馬鹿な質問をした
「『家族』を失ったんですよ!?どうして……」
私は彼女に噛みつくように言った。自分でもそれは勝手な『嫉妬』だと思った。だけど、目の前の彼女は眩しすぎた。本当は私も彼女のように姉と弟を失ったことを乗り越えたい。だけど、私にはできない
だって、私が2人を……
「それはですね、明さんに出会えたからですよ……」
「……?」
私はよく分からなかった
茉莉さんは自分の夫に出会っただけでその『過去』を乗り越えたと言うの……?
私が悩んでいると彼女は続けて
「あの時、たった1人で生きることしかないと思った私にあの人は手を差し伸べてくれました……」
彼女は懐かしむように言った
「あの人と出会ってからの3年間は本当に幸せでした……まあ、その後に彼の実家の都合で13年間会えませんでしたが……」
彼女はその後、彼と13年間も会えなかったのにそれでも彼を待った
「どうしてですか……」
私は苛立ちを感じながら聞いた
「どうして……あなたは彼を信じられたんですか……」
私は心の中で叫びたかった。だけど、さすがに通行人がいる中で叫ぶことはできなかった。それでも私は耐えることができず、彼女に声に力を入れながら言うしかなかった。そうしないと心が壊れそうな気がして
わからない……この人は私と同じように家族を失ったのに……自分の好きな人とも長い間会うことができなかったのに……どうして……
「瀬川さん言っておきますが私はあなたと違って、信じていた人に『存在の否定』なんてされたことはありませんよ?」
―――ズキン―――
彼女の言葉は私のトラウマを確実に貫いた。そう、私は姉から存在を否定された。恐らく、彼女は一度たりとも愛した人間から『拒絶』なんてされていない。その時点で私とは違うんだ。しかし、次の言葉はさらに私を混乱させた
「私の両親は生前、私のことを本当に愛してくれました。明さんも私のことを大切に想ってくれる……だから、それだけで十分なんです……」
「え……?」
私はその言葉の意味が分からなかった
『それだけで十分』……?なんで……なんで……そんなこと言えるのよ!!
「瀬川さん、あなたは勘違いしています……全ての人間に嫌われない人間なん
て……そんな人なんていないんですよ?」
―――ズキン―――
再び彼女の言葉は私の心を抉った。それは私の『逃げ道』をなくすような言葉だった
「あなたは……」
「や、やめて……」
私は彼女の言葉が怖かった。彼女の言葉は紛れもない『真実』そのものだった。だけど、今の私にはそれを受ける止めることなんてできない。だから、私は演じてきた
演じてきた……?
私は自分の頭に浮かんだ言葉であることを考え出した
本当の私て……なんだっけ……?
「ただ、自分が否定されるのが怖いだけの『欲張り』です」
―――ドクン!!―――
その言葉は容赦なく私を襲った。
そう、私は……私は……
「あ、着きましたよ?じゃ、入りましょうか?」
「………………」
私は彼女にそう導かれるように件の店に入っていった
私は今、自分の中の『罪悪感』と戦っています。私は彼女に『真実』を何も覆い隠さずに言い放ってしまいました。しかし、そうしなければ彼女はいつまでも自分を責め続けます。私は彼女の中の『姉』を壊そうとしました。そうしなれば彼女はいつまでも必要以上に自分を責め続けます。
そして、いずれは……
―――ガシャン―――
「失礼しま〜す」
私たちが店に入ると
「いらっしゃい、茉莉」
この店の店長であるアミさんが現れました
「あの……」
静香さんが声を出してきた
「あら?この子が静香さん?可愛いわね〜」
アミさんは瀬川さんに気づいたようで笑顔で彼女に言いました
「え……その……ありがとうございます……」
瀬川さんはそう言われて顔を赤らめました
まあ、アミさんは美人ですし……なんというか独特の雰囲気……いわゆる
『カリスマ』性を持っていますからね……私も最初に会ったときは同じ女性なのに惹きつかれるほどでしたし。まあ、私は明さん一筋ですが……
「じゃ、茉莉少し待っていてね?それとこれ……」
「ん?」
彼女は突然、私にカセットテープを手渡してきました
「なんですか……これ?」
「それは最近、入手した美容に役立つ『音』が入ったものよ。リラックスルームでこれを聞きながら待っていなさい♪」
彼女は明るくそういい、カセットプレイヤーも一緒に渡してきました
セイレーンの新曲でしょうか?
「ありがとうございます。じゃあ、マッサージチェアでゆっくり聴いてますね。瀬川さんをよろしくお願いします……」
私はそう言ってすぐにリラックスルームへと向かいました
「じゃ、先ずはシャワーがあるから浴びてね♪準備ができたらそこにあるバスローブを来てね」
「え・・・あ、はい」
私は彼女に指示されるままにシャワールームへと向かった。そして、服を脱ぎ裸になりシャワールームに入りシャワーのレバーを引いた
―――ジャー――――
流れ出すシャワーを浴びながら私はあることを考え続けた
『瀬川さん、あなたは勘違いしています……全ての人間に嫌われない人間なん
て……そんな人なんていないんですよ?』
「っう……!!」
茉莉さんがそう指摘した言葉は紛れもない『真実』だった。どんな良い人だって嫌われることはある
だけど、私はただ嫌われることを恐れている……私は結局は自分が可愛いだけの『卑怯者』だ……
「だって……!!仕方ないじゃない!!大好きだった人に憎まれるなんて……嫌……嫌……嫌……嫌わないで……置いていかないで……」
私は不思議と自分の『歪み』を曝け出していた。そう、私の『歪み』とは
『嫌われたくないのに愛している人間を常に自分が安心できるように繋ぎ止めたい』
と言う自分本位のものだった。私は恐い。自分が誰かを愛してしまったらその人がいつか自分を嫌ってしまうのじゃないか?……と。だけど、同時に私は人に嫌わることを異常に恐れるようになってしまった
「うぅ……」
私はシャワーを浴びながら涙を流した。もはや、顔を伝うのが水滴なのか涙なのかはわからなかった。だけど、不思議だった
「はあはあ……」
突然、私は身体に熱を感じた。それは苦しさも感じたが同時になにか暖かいものを感じさせた
「ん……」
そして、涙が止まると私はシャワーを止めて身体をタオルで拭いた。それでも、身体中が未だに熱を持っていた。しかし、なぜかそれは不快感を感じさせなかった。私はバスローブを着た。すると、
「あ、準備できた?」
アミさんがシャワールームの前で待っていた
「あ、はい……」
と俯きながら答えた。すると、彼女は
「もう、静香さん?女の子がそんな顔をしたらだめよ♪」
「え……」
彼女は笑顔でそう言ってきた。そして
「女性にとって一番美容に良いことは笑顔でいることなのよ?」
と言った。私はその時、ふと思った
何も考えずに笑顔でいられたのって……
「それに笑顔は人を幸せにできるのよ?だから、暗い顔はだめ」
『今日も晴太の笑顔で癒される』
私は姉の日記に書かれていたある言葉を思い出した。それは姉の歪んだ感情だった。しかし、同時にそれは苦しんでいた姉を救っていたものだった
「……こんな私の笑顔でも誰かを『幸せ』にできますか?」
私はアミさんにそう聞いた。すると
「できるわよ……でも、それには条件があるの……」
「なんですか?」
アミさんは私に何か条件を突きつけてきようとしてきた。それは
「まず、あなたが幸せになること」
―――ドクン―――
「え……」
そう彼女は言ってきた。私はそれを聞いて戸惑い、そして
「無理ですよ……]
と呟いた
「どうして?」
彼女は聞いてきた
「だって、私なんか……」
「幸せになる権利なんか……ないかしら?」
彼女は遮るように言ってきた
「………………はい」
だって、私のせいで陽姉と晴太は……そんな私が幸せになれるはずなんて……
そう、私は自分に言い聞かせようとしようとしていると
「いい?静香さん?幸せになる権利は誰にもあるの……だから、あきらめちゃだめ」
彼女は優しさと強さが込めるように言った
「………………」
彼女は優しくそう呟いた。その姿は茉莉さんとは違う意味で美しかった。こ
の人の持つ優しさと強さは全ての人の幸福を願う『女神』のようなものだ
「アミさん……私……」
「………………」
私は今にも泣きだしそうになりながら声を振り絞って
「もう一度……笑いたい……」
ごめんね……陽姉……晴太……こんなワガママで自分勝手な私を許して……
「そう、それだけでいいの……よく言ったくれたわね……」
彼女は優しく頭を撫でながら私に言ってくれた。この人の言葉だけで私は
『勇気』が湧いてくる気がした
「じゃあ、まずはこれを食べてね」
そう言って、彼女は私にあるものを渡してきた
「なんですか、これ?」
彼女は不思議な果実を渡してきた。この果実はハートの形をしており、まる
でピンク色の宝石のように透明であり、非常に綺麗だった
「それはね、女性の美しさを引き立ててくれるものなの」
「そ、そうなんですか」
「あ、大丈夫よ?体に悪い成分は入っていないから」
彼女はそう言うが実は私はこの果実に夢中だった。宝石のような美しさとこの果実が甘い香りは私の食欲を誘った。そして
―――パク―――
「え、なにこれ……美味しい……」
私はその果実を口にした瞬間、私の口の中には信じられないほどの甘味が広がった。そして、その甘さはしつこくなくあっさりとしていた
「じゃ、バスローブを脱いでそこに横になって」
「あ、はい」
私は彼女に言われるままにバスローブを脱いで寝台に横たわった
「始めるけど、準備はいい?」
―――コクリ―――
私は頷いた……
「じゃあ、最初は背中からね」
彼女は私の背中にオイルを塗った手で触れてきた
「力加減はいかがですか?」
「あ、大丈夫です」
私はそう言うが本当は彼女の手がもたらすものが心地よかった……それに彼女に触れられた箇所は暖かいなにかが伝わってきた……しばらくすると
―――ドクン―――
「え……」
突然、心臓の鼓動が強くなり
「あつい……」
身体中に先ほど……いや、それ以上の熱が込みあがってきた
「はあはあ」
呼吸が荒くなるもそこに苦しさはなかった。そして
「うっ!!」
突然、私の身体を青い炎が覆った。しかし、私はそれに恐怖も苦痛も感じなかった。むしろ、暖かさを感じた。そして、私はそこで意識を失った
『僕にとってはもったいないくらい最高の『女性』です!!ですから、たとえ彼女がどの『種族』でも僕は彼女を愛します!!』
「はあはあ……明さん……」
私はイヤホンから流れてくる夫の声を聞きながら自分の秘所を弄りつづけました
「あぁん!!」
そして、私はこれで8度目の絶頂を迎えました。
物足りません……
『残念ながら、僕は彼女以外の女性を愛せませんよ……』
「あぁん、明さん……もう、今日も寝かせませんよ〜」
私は今日の夜のことを考えて、再び自分の秘所に手を伸ばしますが
「はい、そこまでよ茉莉?」
「ひゃん!!」
私はその声に驚き慌てて手を引っ込めましたが自慰による快感が少し残って
いたこともあり変な声を出してしまいました
「あ、アミさん……」
「あ〜ら、カセットのこうかはばつぐんね……ふふふ」
「うぅぅぅぅぅぅぅぅ」
うぅ……今回ばかりは流石に反論はできません……
「続きは本人としなさい」
「は、はい!!言われずともそうさせていたただきます!!」
私は尻尾を振り、翼をはためかせながら今日の夜を楽しみに想像しました
「そうだ、アミさん?瀬川さんは?」
「静香さんね……かなり追い詰められてたわね……もし、遅かったら本当に手遅れになっていたわ」
「やはり、そうですか……」
私は瀬川さんを初めて見た時、あの時の明さんと重なってしまい他人事には見えなかったのでここに連れてきましたが……しかし、私は少し迷っています……本当に彼女を『魔物娘』にしてよかったのでしょうか?
「大丈夫よ、茉莉。あなたの選んだ答えは間違いじゃないわ……きっと、あなたの夫も同じ意見よ」
アミさんはどうやら私の考えていることを見通したらしくそう言いました
「そう言ってくれますと少しは気持ちが楽になります」
私は少しほっとしますが
「だけど、これで全部解決したわけではないわ……」
彼女は少し真剣な顔でそう言いました
「どういうことです?」
「彼女は確かに少しは心に余裕を持てたわ……だけど、本当の意味で救われたわけじゃないの」
彼女の言っている意味はわからなかった
「彼女はやっと、自分に幸せになる権利があることを認識できたけど傷は癒えていないのよ」
そして、最後に彼女は
「下手をするとトラウマが原因で錯乱する可能性があるわ」
「……!」
魔物化しても残る傷。それほど、彼女の傷は深かった
「ある意味あなたと同じね……だけど、あなたの場合は明さんへの『祈り』だ
ったけど、彼女の場合は『トラウマ』だから楽観はできないわ」
それを告げるアミさんの顔は複雑だった。彼女は自らの両親が掲げる『理想』を信じ少しでも実現へと向けようとしています。しかし、ステラに聞きましたが彼女はこことは違う世界で兄を魔物娘に連れ去られ、それが原因で家族が貧しくなり家族を失った『主神教』の兵士の1人に
『お前たちが家族を奪ったんだ!!』
と言われたことで自らの両親が望んだ『理想』が1人の人間の平穏な幸せを壊したことに苦悩したらしいです。だけど、それでも彼女は信じ続けています。いつか、自らの両親が望んだ『理想郷』が全ての人々を幸せにすることを
「あの……アミさん、ところで聞きたいのですが瀬川さんは一体どんな魔物娘に?」
「はあ……」
私がそう聞くと彼女はため息をつくだけでした。彼女がため息をつくと言うことはよほど厄介な種にでもなったのでしょうか?
「あの、もしかすると『ウシオニ』ですか?」
私は知っている限りでは一番マズイ種類の魔物娘を言いました
『ウシオニ』……それは数ある魔物娘の中で1、2を争う凶暴性を持ち、その腕からは岩を一撃で粉砕する剛力を放ち、傷を与えてもすぐに回復するほどの再生力を持ち、なによりも『ウシオニ』の最も恐ろしい武器は彼らの『血』です……彼女たちには高濃度の魔力が込められており人間の女性がこれを浴びると身も心も『ウシオニ』そのものとなり、男性ならば『インキュバス』となって彼女たちと交わることしか考えなくなると言われています……
「いえ、『ウシオニ』ではないわ」
私はそれを聞いて少し安心しました。瀬川さんのご両親はもう、彼女しか子どもがいないのに彼女が『ウシオニ』になったら二度と会うことができなくなり、さらに悪化したことでしょう……
「じゃあ、なんですか?」
私が再び聞くと彼女は
「自分で見た方がいいわ」
そう言って私を彼女の元へと案内しました。そして、私は
「なっ!?」
私は彼女がある意味最も厄介な『魔物娘』になったことに驚愕することしかできませんでした
彼女の髪は今や黒髪から絹のような純白を放ち、肌はその髪のように美しい陶磁器のように白く、そして……彼女の下半身はもはや人のものではなく非情に長い一つの尾となり、その尾もまた純白の美しさを持つ鱗が輝いていました……
「『白蛇』……!」
『白蛇』……それは下半身が蛇と言う『異形』を持つが温厚で献身的な性格をしています。しかし、最大の問題は彼女たちの『嫉妬深さ』です……ラミア属の魔物娘は総じて嫉妬深いですが彼女たちはそれに輪をかけて嫉妬深く、夫が少しでも浮気もしくはそれに近いことをすれば青い炎で夫を永遠に自分のものにすると言われるほどです……
私がしばらく、呆然としていると
「茉莉、少し聞きたいことがあるのだけど……いいかしら?」
「なんですか?」
私は彼女に声をかけられたので少し我に返りました
まあ、彼女のことは仙田さんに賭けるしかありません
「実はね……」
マリちゃんは起きてから、あるところに電話をしている。だけど、途中であくびをかいてしまい相手に色々な意味でからかわれているらしい
……昨日、何時に寝たっけ?
ちなみに今の時間は10時を余裕で切っていた。普通、平日でこんなに寝過ごしたら社会人としては『失格』だろう。だけど、僕の実家は基本裕福であり、僕の職業は小説家のために基本的になんとか大丈夫だ。ただし、自分で言うのもどうかと思うけど基本真面目な性格の僕にとっては心苦しい。しかし、マリちゃんの笑顔には負ける。いわゆる『惚れた弱み』だ。そして、マリちゃんは何かを言おうとしている
「もう!!ステラと言い、あなたと言いどうして、あなたたちは私をからかうんですか!!だから、あなた方は―――」
「て、ちょっとマリちゃんストップ!!」
僕はなぜかいつの間にか彼女から受話器を奪った。いや、奪わざるをえなかった。だって、この光景を僕はどこかで見た気がしたから。そう、それは
『うわあああああああああああああああああああああん!!』
昨日のステラさんのことを思い出したからだ。
二度とあのような『悲劇』は起こさせない……
「あ、明さん?」
マリちゃんは僕が突然を奪ったことに驚いたようだが、僕は相手に聞こえないようにマリちゃんを電話相手から離そうと適当に、
「ま、マリちゃん、後は僕が話すから、その、とりあえずマリちゃん……服を着よう?もし、ここでステラさんが来たら、さらに面倒なことになるよ?それに僕はその姿のマリちゃんも好きだけど、服を着ているマリちゃんも好きだから」
と言った。だけど、はっきりと言おう。後半は本音だ……今、僕と彼女は
『全裸』だ。まあ、夫婦の営みを終えてからずっと体をお互いに抱きしめて寝ていたんだからそうなるよね。ちなみに決して、僕らは『露出狂』ではないし、普段の生活においてもそう言った『アブノーマル』な『趣味』や『習慣』はない。『変態』かと言うとそれは怪しいかな?と言うか、『人間の常識』と『魔物の常識』は違うし、少し夜の生活が激しくお互いに激しく求め合い、それを『幸福』に思うのは人間でも魔物でも愛し合う男女としては『普通』だと思う。これって僕が間違っているのかな?。まあ、僕としてはそこに『愛』があればの話だとは理解している。そして、
「あ、はい……そうですね。じゃ、服を着てきますね」
彼女は素直に僕の言ったことを聞いて二階に向かって行った。
しかし、僕は見逃していない……彼女の尻尾が嬉しそうに揺れていることを……
僕は彼女が気着替えにいったことを確認してから
「ふぅ……て、アミさん!?少しは自重してくださいよ!」
僕は電話の相手に対して、注意した
『ごめん、ごめん♪つい、茉莉てからかいたくなっちゃうのよ♪あの娘、魔物娘なのに、未だに恥ずかしがり屋だし♪そこが可愛いのよ〜、私があの娘を魔
物娘にしていたら確実に『ナイトメア』になってたわよ?』
「!?」
僕は少し、その言葉にドキッとしてしまった
……ナイトメアのマリちゃん……なんというか、すごくそそられる……マリちゃんには……何と言うか……守りたくなる『オーラ』がある……だから、昨日は普段は冷静な僕でもあんなことをしてしまった……つまりはもし、マリちゃんがナイトメアになったら……ダメだ……!!普段の上目使いだけで僕は……毎度、陥落寸前なのに僕は……僕は……!!
『あらあら、マリもおもしろいけどあなたも十分、おもしろいわよ?残念ね?ふふふ……』
どうやら、彼女は僕の状態をお見通しのようで『悪魔』のように僕をからかおうとする。だが僕は
「ふふふ……アミさん、あなたは勘違いしていますよ?」
『うん?』
僕は不適に笑いながら反撃に出た
「茉莉はダークプリーストになったことで……『清楚』さを完全にものにしたんですよ」
『……は?』
魔物娘の生態的に『清楚』と言う言葉が似合うかなんては分からない。しかし、魔物娘の中には『ワイト』、『龍』、『白蛇』、『ぬれおなご』、『シー・ビショップ』、『マーメイド』、『稲荷』、『ゆきおんな』などと言った『淑女』のような性格をした魔物娘がいるのも事実だ。ちなみにここに誇り高い『ヴァンパイア』と『ドラゴン』などがいないのはちょっと、彼女たちは性格が高圧的なところがあるためでありベクトルが違う気がするからだ。だが、『魔物娘』はマリちゃんを見て理解できるように『種族』で性格が決定するわけではない。『人間』だって、良い人もいれば悪い人もいる。つまりは基本的に全てをそれで決定するのは傲慢だ。性格が『好色』とされているダークプリーストなのにマリちゃんは普段は『淑女』そのものだ。実際、彼女を実家に紹介した時、親族は彼女の洗練された『美しさ』に彼女の境遇が特殊なのに彼女を認めた。
そう、時として『真の美しさ』とはあらゆる人々を魅了する…
「魔物娘の本能を13年間も耐えるなんて、普通の人にはできないはずです……これで彼女が『清楚』じゃないかと言ったら何が『清楚』なんですか!!」
『え、えぇ……』
彼女は若干引き気味だが、僕は口を止めることができない。だって、マリちゃんの魅力はこれだけじゃないのだから僕は彼女の魔物娘としての姿をかつての彼女の住居である、彼女の教会を毎週見ている。彼女の堕落神に祈りを捧げる姿は祈っている神が神だから、どうかと思うけど
まさしく……『聖女』だ……
そう、彼女はダークプリーストと言う『種族』でありながら『堕落』と言う言葉が似合わないほど神々しさを感じる。むしろ、ダークプリーストと言う『種族』だからこそ、『清楚』と言う言葉が似合っている
「僕にとってはもったいないくらい最高の『女性』です!!ですから、たとえ彼女がどの種族でも僕は彼女を愛します!!」
『あらあら……こんなに情熱的とはね……』
僕が満足気にマリちゃんへの愛を語り終えるとアミさんは
『そんな、感じならもしあなたが本気になれば多くの女性があなたの虜になったわね〜』
とからかうように言ってきた
「残念ながら、僕は彼女以外の女性を愛せませんよ……」
と断言した。これは『絶対』に自信を持って言える。だって、実際、僕はかつて実家が決めた『婚約者』を愛そうと努力はしたけど、愛せなかった。まあ、彼女の実父からは『娘を愛してた』と言われたけど。そして、僕は『裏切られた』。そして、僕を救ってくれたのがマリちゃんだ
……そんな彼女を裏切ることなんて絶対にしない……僕は彼女に誓ったんだ……二度と『裏切らない』と……
すると、アミさんは
『いや〜、そこまで愛されるなんて本当に茉莉は幸せね〜これは本人に聞かせてあげないとね♪』
「………………え?」
彼女はよくわからないことを言ってきた
え、本人……?どういうこと……?
『実はね、この会話……録音してあるのよ〜』
―――ビクッ―――
彼女はイジワルそうに僕にそのことを告げてきた。僕はそれ聞いた瞬間、身体が一瞬震えた
「は、はい?」
『いや〜、実はね……電話が変わってからずっと録音しているのよ〜』
「なぁ!?」
僕はそれを聞いた瞬間、いつもマリちゃんがステラさんたちにからかわれている時のような反応をしてしまった
『じゃ、これ……店に来たら彼女に聞かせるわね♪じゃあね♪』
「ちょっ、ま、待って!!」
―――トゥートゥー―――
電話は非情にも切られた
「は、はめられた……」
そうとしか言えなかった。そして、僕は今夜に起きると思われる『ワルプルギスの夜』を想像して覚悟を決めた……いや、僕らはサバトには所属してないけど……
私は今、昨日であったばかりの女性である茉莉さんを待っている。今日、私は生まれて初めての『エステ』に行く。だけど、その動機は不純だ。ただ、昨日久しぶりに同級生に会って、メアドを交換され明日、遊ぶ約束をされただけ。相手に嫌われたくない。だから、拒否できない
仙田君はきっと、下心はないと思う。だけど……私は……
そして、私は相手にどう見られるのかを気にしてるだけ。本当に好きなわけじゃないのに。私は姉の日記の
『周りに笑顔と言う仮面で応えるのはもう辛い』
と言う文章を思い出した。きっと、姉は今の私のようになにかを演じることに苦しみを感じていたんだろう。私はそれを
『陽姉も少しは明るく生きればいいのに……』
と軽い気持ちで考えていた。そして、私は姉を支えようとしなかった。助けようともしなかった。姉を支えていたのは弟だけだったのに。そして、これは憶測だけど、私は弟を犠牲にしてしまった。私は姉としても妹としても最低だ
こんな私が『幸福』になる権利ないのに……誰かに愛される権利なんてない……私は……
私が自己嫌悪に陥いって俯いていると
「瀬川さ〜ん!ごめんなさい、お待たせしました」
待ち人がきた
「ま、茉莉さん……いえ、大丈夫です」
「本当ですか?では、いきましょうか?」
「……はい」
私たちは駅を出て茉莉さんが紹介してくれるエステに向かった。道中、私は茉莉さんの顔をよく見た。昨日、思ったけど改めてみると茉莉さんは美人だ。それは外見だけじゃない。立ち振る舞いや雰囲気は『気品』に溢れている。しかし、彼女の持つその『気品』は決して相手を威圧するようなものではなく、『聖女』のような暖かい何かを感じさせる
「どうしたんですか?」
「い、いえ……その……」
彼女はどうやら私の視線にきづいたようだ。私は慌て誤魔化すために
「あの……茉莉さんてご家族はどうしているんですか?」
となぜか私は自分は聞いてほしくない質問を彼女に聞いてしまった……すると、彼女は顔を顰めるがすぐに表情を和らげ
「実は私、孤児だったんです……幼い頃に両親が亡くなって……」
「え」
彼女はそう言った。私はそれが信じられなかった。私は昨日、いや、今、目の前で幸せそうな女性が私と同じように『家族』を失っていたとは思わなかった。だけど、私は一つ理解できなかった。それは
「……どうして、笑っていられるんですか……」
「え?」
私は俯きながら彼女にそう尋ねた。私は分からなかったと同時に家族を失いながらも笑っていられる彼女に『嫉妬』を感じた。だから、こんな馬鹿な質問をした
「『家族』を失ったんですよ!?どうして……」
私は彼女に噛みつくように言った。自分でもそれは勝手な『嫉妬』だと思った。だけど、目の前の彼女は眩しすぎた。本当は私も彼女のように姉と弟を失ったことを乗り越えたい。だけど、私にはできない
だって、私が2人を……
「それはですね、明さんに出会えたからですよ……」
「……?」
私はよく分からなかった
茉莉さんは自分の夫に出会っただけでその『過去』を乗り越えたと言うの……?
私が悩んでいると彼女は続けて
「あの時、たった1人で生きることしかないと思った私にあの人は手を差し伸べてくれました……」
彼女は懐かしむように言った
「あの人と出会ってからの3年間は本当に幸せでした……まあ、その後に彼の実家の都合で13年間会えませんでしたが……」
彼女はその後、彼と13年間も会えなかったのにそれでも彼を待った
「どうしてですか……」
私は苛立ちを感じながら聞いた
「どうして……あなたは彼を信じられたんですか……」
私は心の中で叫びたかった。だけど、さすがに通行人がいる中で叫ぶことはできなかった。それでも私は耐えることができず、彼女に声に力を入れながら言うしかなかった。そうしないと心が壊れそうな気がして
わからない……この人は私と同じように家族を失ったのに……自分の好きな人とも長い間会うことができなかったのに……どうして……
「瀬川さん言っておきますが私はあなたと違って、信じていた人に『存在の否定』なんてされたことはありませんよ?」
―――ズキン―――
彼女の言葉は私のトラウマを確実に貫いた。そう、私は姉から存在を否定された。恐らく、彼女は一度たりとも愛した人間から『拒絶』なんてされていない。その時点で私とは違うんだ。しかし、次の言葉はさらに私を混乱させた
「私の両親は生前、私のことを本当に愛してくれました。明さんも私のことを大切に想ってくれる……だから、それだけで十分なんです……」
「え……?」
私はその言葉の意味が分からなかった
『それだけで十分』……?なんで……なんで……そんなこと言えるのよ!!
「瀬川さん、あなたは勘違いしています……全ての人間に嫌われない人間なん
て……そんな人なんていないんですよ?」
―――ズキン―――
再び彼女の言葉は私の心を抉った。それは私の『逃げ道』をなくすような言葉だった
「あなたは……」
「や、やめて……」
私は彼女の言葉が怖かった。彼女の言葉は紛れもない『真実』そのものだった。だけど、今の私にはそれを受ける止めることなんてできない。だから、私は演じてきた
演じてきた……?
私は自分の頭に浮かんだ言葉であることを考え出した
本当の私て……なんだっけ……?
「ただ、自分が否定されるのが怖いだけの『欲張り』です」
―――ドクン!!―――
その言葉は容赦なく私を襲った。
そう、私は……私は……
「あ、着きましたよ?じゃ、入りましょうか?」
「………………」
私は彼女にそう導かれるように件の店に入っていった
私は今、自分の中の『罪悪感』と戦っています。私は彼女に『真実』を何も覆い隠さずに言い放ってしまいました。しかし、そうしなければ彼女はいつまでも自分を責め続けます。私は彼女の中の『姉』を壊そうとしました。そうしなれば彼女はいつまでも必要以上に自分を責め続けます。
そして、いずれは……
―――ガシャン―――
「失礼しま〜す」
私たちが店に入ると
「いらっしゃい、茉莉」
この店の店長であるアミさんが現れました
「あの……」
静香さんが声を出してきた
「あら?この子が静香さん?可愛いわね〜」
アミさんは瀬川さんに気づいたようで笑顔で彼女に言いました
「え……その……ありがとうございます……」
瀬川さんはそう言われて顔を赤らめました
まあ、アミさんは美人ですし……なんというか独特の雰囲気……いわゆる
『カリスマ』性を持っていますからね……私も最初に会ったときは同じ女性なのに惹きつかれるほどでしたし。まあ、私は明さん一筋ですが……
「じゃ、茉莉少し待っていてね?それとこれ……」
「ん?」
彼女は突然、私にカセットテープを手渡してきました
「なんですか……これ?」
「それは最近、入手した美容に役立つ『音』が入ったものよ。リラックスルームでこれを聞きながら待っていなさい♪」
彼女は明るくそういい、カセットプレイヤーも一緒に渡してきました
セイレーンの新曲でしょうか?
「ありがとうございます。じゃあ、マッサージチェアでゆっくり聴いてますね。瀬川さんをよろしくお願いします……」
私はそう言ってすぐにリラックスルームへと向かいました
「じゃ、先ずはシャワーがあるから浴びてね♪準備ができたらそこにあるバスローブを来てね」
「え・・・あ、はい」
私は彼女に指示されるままにシャワールームへと向かった。そして、服を脱ぎ裸になりシャワールームに入りシャワーのレバーを引いた
―――ジャー――――
流れ出すシャワーを浴びながら私はあることを考え続けた
『瀬川さん、あなたは勘違いしています……全ての人間に嫌われない人間なん
て……そんな人なんていないんですよ?』
「っう……!!」
茉莉さんがそう指摘した言葉は紛れもない『真実』だった。どんな良い人だって嫌われることはある
だけど、私はただ嫌われることを恐れている……私は結局は自分が可愛いだけの『卑怯者』だ……
「だって……!!仕方ないじゃない!!大好きだった人に憎まれるなんて……嫌……嫌……嫌……嫌わないで……置いていかないで……」
私は不思議と自分の『歪み』を曝け出していた。そう、私の『歪み』とは
『嫌われたくないのに愛している人間を常に自分が安心できるように繋ぎ止めたい』
と言う自分本位のものだった。私は恐い。自分が誰かを愛してしまったらその人がいつか自分を嫌ってしまうのじゃないか?……と。だけど、同時に私は人に嫌わることを異常に恐れるようになってしまった
「うぅ……」
私はシャワーを浴びながら涙を流した。もはや、顔を伝うのが水滴なのか涙なのかはわからなかった。だけど、不思議だった
「はあはあ……」
突然、私は身体に熱を感じた。それは苦しさも感じたが同時になにか暖かいものを感じさせた
「ん……」
そして、涙が止まると私はシャワーを止めて身体をタオルで拭いた。それでも、身体中が未だに熱を持っていた。しかし、なぜかそれは不快感を感じさせなかった。私はバスローブを着た。すると、
「あ、準備できた?」
アミさんがシャワールームの前で待っていた
「あ、はい……」
と俯きながら答えた。すると、彼女は
「もう、静香さん?女の子がそんな顔をしたらだめよ♪」
「え……」
彼女は笑顔でそう言ってきた。そして
「女性にとって一番美容に良いことは笑顔でいることなのよ?」
と言った。私はその時、ふと思った
何も考えずに笑顔でいられたのって……
「それに笑顔は人を幸せにできるのよ?だから、暗い顔はだめ」
『今日も晴太の笑顔で癒される』
私は姉の日記に書かれていたある言葉を思い出した。それは姉の歪んだ感情だった。しかし、同時にそれは苦しんでいた姉を救っていたものだった
「……こんな私の笑顔でも誰かを『幸せ』にできますか?」
私はアミさんにそう聞いた。すると
「できるわよ……でも、それには条件があるの……」
「なんですか?」
アミさんは私に何か条件を突きつけてきようとしてきた。それは
「まず、あなたが幸せになること」
―――ドクン―――
「え……」
そう彼女は言ってきた。私はそれを聞いて戸惑い、そして
「無理ですよ……]
と呟いた
「どうして?」
彼女は聞いてきた
「だって、私なんか……」
「幸せになる権利なんか……ないかしら?」
彼女は遮るように言ってきた
「………………はい」
だって、私のせいで陽姉と晴太は……そんな私が幸せになれるはずなんて……
そう、私は自分に言い聞かせようとしようとしていると
「いい?静香さん?幸せになる権利は誰にもあるの……だから、あきらめちゃだめ」
彼女は優しさと強さが込めるように言った
「………………」
彼女は優しくそう呟いた。その姿は茉莉さんとは違う意味で美しかった。こ
の人の持つ優しさと強さは全ての人の幸福を願う『女神』のようなものだ
「アミさん……私……」
「………………」
私は今にも泣きだしそうになりながら声を振り絞って
「もう一度……笑いたい……」
ごめんね……陽姉……晴太……こんなワガママで自分勝手な私を許して……
「そう、それだけでいいの……よく言ったくれたわね……」
彼女は優しく頭を撫でながら私に言ってくれた。この人の言葉だけで私は
『勇気』が湧いてくる気がした
「じゃあ、まずはこれを食べてね」
そう言って、彼女は私にあるものを渡してきた
「なんですか、これ?」
彼女は不思議な果実を渡してきた。この果実はハートの形をしており、まる
でピンク色の宝石のように透明であり、非常に綺麗だった
「それはね、女性の美しさを引き立ててくれるものなの」
「そ、そうなんですか」
「あ、大丈夫よ?体に悪い成分は入っていないから」
彼女はそう言うが実は私はこの果実に夢中だった。宝石のような美しさとこの果実が甘い香りは私の食欲を誘った。そして
―――パク―――
「え、なにこれ……美味しい……」
私はその果実を口にした瞬間、私の口の中には信じられないほどの甘味が広がった。そして、その甘さはしつこくなくあっさりとしていた
「じゃ、バスローブを脱いでそこに横になって」
「あ、はい」
私は彼女に言われるままにバスローブを脱いで寝台に横たわった
「始めるけど、準備はいい?」
―――コクリ―――
私は頷いた……
「じゃあ、最初は背中からね」
彼女は私の背中にオイルを塗った手で触れてきた
「力加減はいかがですか?」
「あ、大丈夫です」
私はそう言うが本当は彼女の手がもたらすものが心地よかった……それに彼女に触れられた箇所は暖かいなにかが伝わってきた……しばらくすると
―――ドクン―――
「え……」
突然、心臓の鼓動が強くなり
「あつい……」
身体中に先ほど……いや、それ以上の熱が込みあがってきた
「はあはあ」
呼吸が荒くなるもそこに苦しさはなかった。そして
「うっ!!」
突然、私の身体を青い炎が覆った。しかし、私はそれに恐怖も苦痛も感じなかった。むしろ、暖かさを感じた。そして、私はそこで意識を失った
『僕にとってはもったいないくらい最高の『女性』です!!ですから、たとえ彼女がどの『種族』でも僕は彼女を愛します!!』
「はあはあ……明さん……」
私はイヤホンから流れてくる夫の声を聞きながら自分の秘所を弄りつづけました
「あぁん!!」
そして、私はこれで8度目の絶頂を迎えました。
物足りません……
『残念ながら、僕は彼女以外の女性を愛せませんよ……』
「あぁん、明さん……もう、今日も寝かせませんよ〜」
私は今日の夜のことを考えて、再び自分の秘所に手を伸ばしますが
「はい、そこまでよ茉莉?」
「ひゃん!!」
私はその声に驚き慌てて手を引っ込めましたが自慰による快感が少し残って
いたこともあり変な声を出してしまいました
「あ、アミさん……」
「あ〜ら、カセットのこうかはばつぐんね……ふふふ」
「うぅぅぅぅぅぅぅぅ」
うぅ……今回ばかりは流石に反論はできません……
「続きは本人としなさい」
「は、はい!!言われずともそうさせていたただきます!!」
私は尻尾を振り、翼をはためかせながら今日の夜を楽しみに想像しました
「そうだ、アミさん?瀬川さんは?」
「静香さんね……かなり追い詰められてたわね……もし、遅かったら本当に手遅れになっていたわ」
「やはり、そうですか……」
私は瀬川さんを初めて見た時、あの時の明さんと重なってしまい他人事には見えなかったのでここに連れてきましたが……しかし、私は少し迷っています……本当に彼女を『魔物娘』にしてよかったのでしょうか?
「大丈夫よ、茉莉。あなたの選んだ答えは間違いじゃないわ……きっと、あなたの夫も同じ意見よ」
アミさんはどうやら私の考えていることを見通したらしくそう言いました
「そう言ってくれますと少しは気持ちが楽になります」
私は少しほっとしますが
「だけど、これで全部解決したわけではないわ……」
彼女は少し真剣な顔でそう言いました
「どういうことです?」
「彼女は確かに少しは心に余裕を持てたわ……だけど、本当の意味で救われたわけじゃないの」
彼女の言っている意味はわからなかった
「彼女はやっと、自分に幸せになる権利があることを認識できたけど傷は癒えていないのよ」
そして、最後に彼女は
「下手をするとトラウマが原因で錯乱する可能性があるわ」
「……!」
魔物化しても残る傷。それほど、彼女の傷は深かった
「ある意味あなたと同じね……だけど、あなたの場合は明さんへの『祈り』だ
ったけど、彼女の場合は『トラウマ』だから楽観はできないわ」
それを告げるアミさんの顔は複雑だった。彼女は自らの両親が掲げる『理想』を信じ少しでも実現へと向けようとしています。しかし、ステラに聞きましたが彼女はこことは違う世界で兄を魔物娘に連れ去られ、それが原因で家族が貧しくなり家族を失った『主神教』の兵士の1人に
『お前たちが家族を奪ったんだ!!』
と言われたことで自らの両親が望んだ『理想』が1人の人間の平穏な幸せを壊したことに苦悩したらしいです。だけど、それでも彼女は信じ続けています。いつか、自らの両親が望んだ『理想郷』が全ての人々を幸せにすることを
「あの……アミさん、ところで聞きたいのですが瀬川さんは一体どんな魔物娘に?」
「はあ……」
私がそう聞くと彼女はため息をつくだけでした。彼女がため息をつくと言うことはよほど厄介な種にでもなったのでしょうか?
「あの、もしかすると『ウシオニ』ですか?」
私は知っている限りでは一番マズイ種類の魔物娘を言いました
『ウシオニ』……それは数ある魔物娘の中で1、2を争う凶暴性を持ち、その腕からは岩を一撃で粉砕する剛力を放ち、傷を与えてもすぐに回復するほどの再生力を持ち、なによりも『ウシオニ』の最も恐ろしい武器は彼らの『血』です……彼女たちには高濃度の魔力が込められており人間の女性がこれを浴びると身も心も『ウシオニ』そのものとなり、男性ならば『インキュバス』となって彼女たちと交わることしか考えなくなると言われています……
「いえ、『ウシオニ』ではないわ」
私はそれを聞いて少し安心しました。瀬川さんのご両親はもう、彼女しか子どもがいないのに彼女が『ウシオニ』になったら二度と会うことができなくなり、さらに悪化したことでしょう……
「じゃあ、なんですか?」
私が再び聞くと彼女は
「自分で見た方がいいわ」
そう言って私を彼女の元へと案内しました。そして、私は
「なっ!?」
私は彼女がある意味最も厄介な『魔物娘』になったことに驚愕することしかできませんでした
彼女の髪は今や黒髪から絹のような純白を放ち、肌はその髪のように美しい陶磁器のように白く、そして……彼女の下半身はもはや人のものではなく非情に長い一つの尾となり、その尾もまた純白の美しさを持つ鱗が輝いていました……
「『白蛇』……!」
『白蛇』……それは下半身が蛇と言う『異形』を持つが温厚で献身的な性格をしています。しかし、最大の問題は彼女たちの『嫉妬深さ』です……ラミア属の魔物娘は総じて嫉妬深いですが彼女たちはそれに輪をかけて嫉妬深く、夫が少しでも浮気もしくはそれに近いことをすれば青い炎で夫を永遠に自分のものにすると言われるほどです……
私がしばらく、呆然としていると
「茉莉、少し聞きたいことがあるのだけど……いいかしら?」
「なんですか?」
私は彼女に声をかけられたので少し我に返りました
まあ、彼女のことは仙田さんに賭けるしかありません
「実はね……」
13/09/19 15:36更新 / 秩序ある混沌
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