キマイラさんに取材しに行こう!
これはある時代、ある町に住む変人な小説家のお話――
僕の名前は岸谷弘彦(きしたにひろひこ)、小説家だ。今日はなんてことは無い打ち合わせ、平々凡々な担当編集者と行きつけのカフェで他愛の無い話をして、興味が湧きそうな話題があれば体験しに放浪しに行くというだけの予定だ。
「・・・・おい君、小説家の打ち合わせに『五分も早く着くなんて』どういう神経してるんだ?」
「えぇ?! でも先生、ほかの作家の担当者の方々はそれが当たり前だ、と・・・」
「それはほかの作家の場合だろう? 僕の場合は時間ちょうどに来てくれないか。せっかく構想が浮かび上がっていたアイデアが霧散してしまう、そうなれば君も困るだろう?」
僕の主張にあわあわと狼狽しているのは入社一年目で僕の担当になれた幸運な男、矢部仁(やべじん)。まったくなんでこんなぺーぺーをこの私の担当にしたのかね、理解に苦しむよ。
「さ、打ち合わせをしようじゃあないか。君、ちゃんとそういう『ネタ』持ってきているんだろうな?」
僕は小説を書くにあたって一番重要視していることがある。それは『リアリティー』だと思っている。リアリティーがあるから作品に深みが増すだろうし、リアリティーがあることでよりリアルな作風を読者に提供できると思っている。その考え方から僕はいつも気になる事柄があると、自分で現地に赴き取材をして回っている。これも重要なことなのだ。
「はい、勿論です先生! 実は、この町の郊外の荒野に見たことも無い魔物娘がいるっていう噂があるんですよ!」
「見たこともない魔物娘だってぇ?」
「はい、噂によると獅子のように激情家で、竜のように冷静で、山羊のように淫靡で、蛇のように嫉妬深い魔物娘なんだとか」
「なんだそりゃあッ!? そんなサイコロの出目みたいにコロコロコロコロ性格が変わるヤツなのかそいつは」
「噂では、そうらしいですよ。ほら先生、次の作品は人外ものをかこうといっていたじゃあないですか、だからいいネタかな・・・・と思ったんですけど」
それを聞いた弘彦は長考した後すっと立ち上がる。
「もしかして先生! 興味が湧かれたんですか?」
「ああ、したり顔でニヤつく君の顔には腹立つが、確かにネタは一回調べる価値ありだ。ただ勘違いするんじゃあないぞ、行くのは作品のリアリティーのためだ。君のためじゃあないからな」
「はいはい(素直じゃないなぁ)」
「おい君、僕には君が今心で何を考えているのかぐらいわかるからな?」
ところ変わって町の郊外の荒野に弘彦はやってきていた。スケッチブックとメモ帳と、多すぎない護身用の道具を持ってだ。だが二時間待ち続けても一向にその魔物娘は現れない。
「はぁ〜〜っ。あの担当め、『ホラ』吹いたんじゃあないのか? これで嘘だったら精神的苦痛と無駄な時間の浪費の対価を毟り取ってやるからな・・・・・んっ?」
がさり、という物音がしたので弘彦は反射的に物陰に隠れる。すると件の魔物娘が現れた。それは獅子、竜、山羊、蛇、四つの獣の特徴をその身体に宿し、絹のように透き通る白い肌、赤とコバルトブルーの澄んだオッドアイ、クリーム色の艶やかな髪が特徴的であった。
「そこに居る人間。何者だ」
「ばれちゃあ仕方ないな、出てくるよ・・・・」
物陰からスッと両手を挙げて出てくる弘彦、彼を彼女は品定めするような目つきで見やった。
「なんだ? お前は、こんなところに人間が来るなんて珍しい」
「お前がこの辺りに現れるっていう噂を小耳に挟んでな、取材させてもらいに来た。僕の名前は岸谷弘彦、小説家だ」
「ほう、この私に取材、ますます珍しいな「君だけじゃあない」・・・・なに?」
「言葉通りの意味だ。最初あのくそったれの担当から聞いたときはわからなかったが、君の姿を見て確信した。君は『キマイラ』だろう? それならあのコロコロコロコロ噂が二転三転転がった理由も頷ける。人格(なかみ)が違うんだからな」
「お前は人間の中ではかなりの聡明なようだな」
「しかし僕は運もよかったらしいな、君の今の人格、『竜』だろう? もし『獅子』だったら襲われていた。人間の僕じゃあ太刀打ちできずに殺されてたかもしれない。『山羊』じゃあ甘やかされて堕落させられて小説を執筆できなかったかもしれない。『蛇』なら文字通り、その身体に縛られていただろうな。聡明で思慮深く、冷静沈着な『竜(きみ)』だったから、今僕は生きたまま君に取材ができているという訳さ」
「ほう・・・・ますます興味深い。そんな聡明なお前が、何故『小説家なんか』に就いているんだ?」
その一言で、今まで余裕の笑みを浮かべていた弘彦の表情が怒りのそれに変貌する。
「――この岸谷弘彦が、金や自分の生活のために小説を書いていると思っていたのかァーーーーーーッ!」
「なんだと? では何故お前は小説を書いているんだ」
「『読んでもらうため』! 単純な理由だがそれ以外はどうでもいいのだ。僕は『読んでもらうため』に小説を書いている! 僕はいつも、小説を書いて投稿した後いつも言い知れぬ不安感にさいなまれるんだ。『これを誰にも読んでもらえなっかったらどうしよう』だとか、『言い知れぬスランプに陥ってこのまま小説を書けなくなったらどうしよう』だとかいう不安感になッ! だから僕はリアリティーを追及する! 読んでもらうために! だからこうして君に取材しに着たんだ!」
「ほう。だがもし私が獅子や山羊、蛇の人格ならどうしていたんだ?」
「それならそれで本望さ、獅子ならその苛烈さを、山羊ならその甘美な匂いを、蛇ならその縛り縛られる関係を、僕自身の身をもって! 読者に! 同業者の方々にリアリティをもって伝えることができるッ! その結果死ぬことになろうとも悔いはない! 僕はそういう『覚悟』をもって君に会いに着たんだぜ」
するとキマイラがウットリとしたような、恍惚な表情を浮かべて彼に告げた。
「お前の『覚悟』気に入った。存分に『取材』していくといい」
キマイラが糸が切れたように数瞬意識を失い項垂れた。次の瞬間ッ!
「やっと出てこれたッ! 『リヴィ』と喋ってる間から襲い掛かりたくてうずうずしてたんだぜッ!」
「う、うおおおおおおおおおーーーーーッ!」
一瞬で勢いよく彼は地面に押し倒されてしまった。見ると、彼女の顔つきから纏う雰囲気まで、全てが静から動に一変している。
「お前は『獅子』だな? そして『リヴィ』という名・・・あの竜の人格のヤツの名前だなッ」
「そんなことはどうだっていいのさ! アンタは大人しくオレに喰われてりゃ――」
「お前、さっきのリヴィと僕の会話聞いてたんだよな? なら僕がどんな性格か、わかってる筈だ。この岸谷弘彦を舐めるなよ」
そう言いながら彼は彼女の豊かな双丘を揉みしだいた。それだけで彼女の身体がビクリと跳ね、艶かしい声を一帯に響かせる。
「んぁあっ?! てめぇ・・・・」
「お前のとの出会い頭からずっと、媚薬の効果があるお香を焚いていたんだ。あのリヴィだからなんとか抑制できていたらしいが、猪突猛進型のお前には効果覿面だったらしいな、もうこんなにビチャビチャじゃあないか」
すっと彼女の愛唇を撫でてやると、双丘を揉んだ時とは比べ物にならないほど、甘い声を出しながら身体を跳ねさせた。
「ひゃあああっ?! ふ・・・ふざけんな・・・おま(変わりなさい)ちょ・・・」
がくりと急に彼女が項垂れたことを確認すると、彼はゆっくりと立ち上がった。
「なんだ・・・また中身が変わるのか、急に主導権を変わられる、よくよく考えると、彼女たちも結構大変なのかもしれないな」
「ふぅ・・・まったくリオったら強情っぱりで苦労するわ・・・・お初にお目にかかるわね、岸谷弘彦さんだったかしら?」
「さっきの獅子・・いや、リオか? 彼女、中々面白い反応をしてくれたよ、読者に好かれそうなキャラクターだな。して君はその語り口調から察するに、山羊だな?」
「正解♪ 山羊のプシーっていいます。これからよろしくね? ところで、貴方小説家を引退する気はないの? 私たちと一緒に住めば、まさに理想郷。決して後悔はさせないわ、どう?」
世の男性諸君からすれば、まさに喉から手が出るほど待ち望んでいた言葉、まさに夢だろう。だが弘彦の返答はそれとは間逆のもの。
「だが断る。僕の好きなことは小説を書くこと、君たちと一緒に住むことじゃあないんでな・・・それに僕は一度に四人も相手できるほど、絶倫でもないしな」
「そう・・・・残念。なら「それと、『スイッチ』入ってるからな」スイッチ・・・? ふぁああああっ?!」
急にみだらな声を上げてその場に崩れ落ちるプシー、見ると、彼女の双丘の頂点と愛唇に、小型のバイブがつけられていた。
「い・・・・つ、のまに・・ひぅう?!」
「さっき、リオに襲い掛かられた時につけさせてもらった。しかし最近の科学技術には感嘆するよ、魔物の目をごまかせるほど小型なものをつくれるんだからな・・・世界を相手に勝負できるんじゃあないか?」
「これ・・・・・・と、りなさい・・・ふぁあ?!」
「断る。僕は何も感じないんでな。それよりそんなにビクンビクンと感じていていいのか? 気を張っていないと、乗っ取られるんじゃあないのかい?」
「! (変わって・・・)しまっ・・・・」
「また強制終了か。見て思うんだが、バイブをつけられたまま、がくりと項垂れる魔物娘って、えらくシュールだよな・・・・・」
「こんにちは私ネーラ。ねぇ貴方、私と一緒に居て欲しいの・・・・いいでしょう? 貴方がいないと、私、生きていけないの・・・」
またもや甘い蛇の言葉。これを聞き首を縦に振らない男など居ない、彼を除いては。
「・・・・・僕はさぁ、こんな偏屈で頑固な正確だと自分でも思っているが、結構純愛が好きなんだ。その僕から言わせてもらえれば、君は、いま数時間前にあったばっかりのこの僕が、そんなにも大切なのか?」
「そうよ。ほかの人格なんてどうでもいい、私を見て、私だけを愛して」
「それはできないな、小説家からの意見でも、一人の岸谷弘彦という男からの意見でも、それは変わらない。リヴィにも、リオにも、プシーにも、そしてネーラ、君にもそれぞれ違う良い所がたくさんある。一人を独善的に愛すことはできない。それに、小説家が一人のキャラクターを優遇してしまえば、その時点でその一つの物語はお釈迦になってしまう。僕の持論だがね」
その言葉に我慢できなくなってしまったのか、ネーラは弘彦に抱きついた。そしてトロンとした上目遣いで、彼に問いかける。
「なら、いっぱい愛して、私が出てきている間でいいから、いっぱい・・・」
「それは是が非でもそうさせてもらおう。取材もかねているんでね」
そういうと弘彦は彼女の桃肉を思い切り揉みしだいた。面白いほど柔らか形が変形するそれに、弘彦も自然と笑みがこぼれる。
「うぅん・・・ふぁああん!」
「思うが、君・・・・いや、君たち、性格も体も、とてもいいポテンシャルを秘めている。君たちのおかげで、とてもリアリティーのある作品が書ける気がするよ、ありがとう」
「そう・・・よかった・・」
がくりと項垂れたように倒れるネーラ、すると、頬を桃色に上下させながら、上目遣いでこちらを見上げるリヴィの姿があった。
「くう・・・・」
「どうしたんだ? ああ、彼女らに先を越されてもう辛抱たまらんって顔だな」
彼女は返答することなく、弘彦を押し倒し、彼の張り詰めるそれを、自身の愛唇に挿し入れた。瞬間、荒れ狂う快楽の荒波に彼は放り出された。これまでのものとは比べ物にならない、圧倒的な快楽。それを彼は夢中で貪った、子供のように、一心に。
「んんっ! うんっ、あぁん!」
「こ、こいつは凄いッ! お、圧される! とろける! 腰の動きが止まらないッ!」
限界だった。彼はあっけなく、彼女の秘部にぶちまけた。
「ま、まだだ・・・・搾り取ってやる!」
「う・・・・・・・うおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーッ!? し、搾り取られる! カラカラになるまで! なんていう精力だッ! だが、このリアリティー! 存分に作品に活かせるぞッ! ははははははははーーーッ!」
ようやく行為が終わり、服装を正した二人(五人か?)は、談笑にふけっていた。
「しかし、小説のために私を訪ねたのはわかったが、なんの小説を書いているんだ? 官能小説か?」
「いや、僕はラブコメからほのぼの、シリアスからホラー、官能まで何でもこなすが、今回調子に乗った会社が無理難題をこの僕に押し付けてきやがったんだ・・・『人外恋愛(多重人格・官能もの)』。この僕の腕では書くのは簡単だ。だがリアリティーがない。流石に人外の多重人格者なんて身近に居ないからな」
「そこで私の噂を聞いて、尋ねて来たと」
「ご名答。しかし、本当に助かったよ。リヴィ、リオ、プシー、ネーラありがとう。おかげで充実したいい取材になった。・・・・・そこでだ、頼みがあるんだが・・・・」
数日後、締め切り当日。行きつけのカフェで担当を待っていると、今度は時間ちょうどに担当がやってきた。ちゃんと言いつけは守ってくるところを見ると、そこらへんはしっかりした男のようだ。
「いやー先生、おまた、せ・・・」
「ん。どうした。なに狐につままれたような顔をしているんだ?」
彼は顔を青ざめさせて対面した。ああ、そりゃあ僕の隣に件のキマイラがいればそんな顔にもなるか。
「えぇーーーーーッ!? 先生、その子、魔物娘なんじゃあ・・・」
「なんだ君、まさか僕の初めてのアシスタントがキマイラだからってケチつける気じゃあないだろうな。言っておくが、彼女たちは君なんかよりよほど有能なんだからな」
「矢部君、リヴィという。リオだ。プシーよ♪ ネーラ・・・・。よろしく頼む」
「ははは・・・いえ、こちらこそ・・・・」
「おいおいおいおいおいおいおい。なに帰ろうとしているんだ? 君はまだ僕が書いた作品を受け取っていないだろう? ちゃんと受け取ってから帰れよな」
原稿を受け取って急いで帰っていく担当を見てコーヒーを飲みながら二人は顔を見合わせ子供のように無邪気に笑いあった。
僕の名前は岸谷弘彦(きしたにひろひこ)、小説家だ。今日はなんてことは無い打ち合わせ、平々凡々な担当編集者と行きつけのカフェで他愛の無い話をして、興味が湧きそうな話題があれば体験しに放浪しに行くというだけの予定だ。
「・・・・おい君、小説家の打ち合わせに『五分も早く着くなんて』どういう神経してるんだ?」
「えぇ?! でも先生、ほかの作家の担当者の方々はそれが当たり前だ、と・・・」
「それはほかの作家の場合だろう? 僕の場合は時間ちょうどに来てくれないか。せっかく構想が浮かび上がっていたアイデアが霧散してしまう、そうなれば君も困るだろう?」
僕の主張にあわあわと狼狽しているのは入社一年目で僕の担当になれた幸運な男、矢部仁(やべじん)。まったくなんでこんなぺーぺーをこの私の担当にしたのかね、理解に苦しむよ。
「さ、打ち合わせをしようじゃあないか。君、ちゃんとそういう『ネタ』持ってきているんだろうな?」
僕は小説を書くにあたって一番重要視していることがある。それは『リアリティー』だと思っている。リアリティーがあるから作品に深みが増すだろうし、リアリティーがあることでよりリアルな作風を読者に提供できると思っている。その考え方から僕はいつも気になる事柄があると、自分で現地に赴き取材をして回っている。これも重要なことなのだ。
「はい、勿論です先生! 実は、この町の郊外の荒野に見たことも無い魔物娘がいるっていう噂があるんですよ!」
「見たこともない魔物娘だってぇ?」
「はい、噂によると獅子のように激情家で、竜のように冷静で、山羊のように淫靡で、蛇のように嫉妬深い魔物娘なんだとか」
「なんだそりゃあッ!? そんなサイコロの出目みたいにコロコロコロコロ性格が変わるヤツなのかそいつは」
「噂では、そうらしいですよ。ほら先生、次の作品は人外ものをかこうといっていたじゃあないですか、だからいいネタかな・・・・と思ったんですけど」
それを聞いた弘彦は長考した後すっと立ち上がる。
「もしかして先生! 興味が湧かれたんですか?」
「ああ、したり顔でニヤつく君の顔には腹立つが、確かにネタは一回調べる価値ありだ。ただ勘違いするんじゃあないぞ、行くのは作品のリアリティーのためだ。君のためじゃあないからな」
「はいはい(素直じゃないなぁ)」
「おい君、僕には君が今心で何を考えているのかぐらいわかるからな?」
ところ変わって町の郊外の荒野に弘彦はやってきていた。スケッチブックとメモ帳と、多すぎない護身用の道具を持ってだ。だが二時間待ち続けても一向にその魔物娘は現れない。
「はぁ〜〜っ。あの担当め、『ホラ』吹いたんじゃあないのか? これで嘘だったら精神的苦痛と無駄な時間の浪費の対価を毟り取ってやるからな・・・・・んっ?」
がさり、という物音がしたので弘彦は反射的に物陰に隠れる。すると件の魔物娘が現れた。それは獅子、竜、山羊、蛇、四つの獣の特徴をその身体に宿し、絹のように透き通る白い肌、赤とコバルトブルーの澄んだオッドアイ、クリーム色の艶やかな髪が特徴的であった。
「そこに居る人間。何者だ」
「ばれちゃあ仕方ないな、出てくるよ・・・・」
物陰からスッと両手を挙げて出てくる弘彦、彼を彼女は品定めするような目つきで見やった。
「なんだ? お前は、こんなところに人間が来るなんて珍しい」
「お前がこの辺りに現れるっていう噂を小耳に挟んでな、取材させてもらいに来た。僕の名前は岸谷弘彦、小説家だ」
「ほう、この私に取材、ますます珍しいな「君だけじゃあない」・・・・なに?」
「言葉通りの意味だ。最初あのくそったれの担当から聞いたときはわからなかったが、君の姿を見て確信した。君は『キマイラ』だろう? それならあのコロコロコロコロ噂が二転三転転がった理由も頷ける。人格(なかみ)が違うんだからな」
「お前は人間の中ではかなりの聡明なようだな」
「しかし僕は運もよかったらしいな、君の今の人格、『竜』だろう? もし『獅子』だったら襲われていた。人間の僕じゃあ太刀打ちできずに殺されてたかもしれない。『山羊』じゃあ甘やかされて堕落させられて小説を執筆できなかったかもしれない。『蛇』なら文字通り、その身体に縛られていただろうな。聡明で思慮深く、冷静沈着な『竜(きみ)』だったから、今僕は生きたまま君に取材ができているという訳さ」
「ほう・・・・ますます興味深い。そんな聡明なお前が、何故『小説家なんか』に就いているんだ?」
その一言で、今まで余裕の笑みを浮かべていた弘彦の表情が怒りのそれに変貌する。
「――この岸谷弘彦が、金や自分の生活のために小説を書いていると思っていたのかァーーーーーーッ!」
「なんだと? では何故お前は小説を書いているんだ」
「『読んでもらうため』! 単純な理由だがそれ以外はどうでもいいのだ。僕は『読んでもらうため』に小説を書いている! 僕はいつも、小説を書いて投稿した後いつも言い知れぬ不安感にさいなまれるんだ。『これを誰にも読んでもらえなっかったらどうしよう』だとか、『言い知れぬスランプに陥ってこのまま小説を書けなくなったらどうしよう』だとかいう不安感になッ! だから僕はリアリティーを追及する! 読んでもらうために! だからこうして君に取材しに着たんだ!」
「ほう。だがもし私が獅子や山羊、蛇の人格ならどうしていたんだ?」
「それならそれで本望さ、獅子ならその苛烈さを、山羊ならその甘美な匂いを、蛇ならその縛り縛られる関係を、僕自身の身をもって! 読者に! 同業者の方々にリアリティをもって伝えることができるッ! その結果死ぬことになろうとも悔いはない! 僕はそういう『覚悟』をもって君に会いに着たんだぜ」
するとキマイラがウットリとしたような、恍惚な表情を浮かべて彼に告げた。
「お前の『覚悟』気に入った。存分に『取材』していくといい」
キマイラが糸が切れたように数瞬意識を失い項垂れた。次の瞬間ッ!
「やっと出てこれたッ! 『リヴィ』と喋ってる間から襲い掛かりたくてうずうずしてたんだぜッ!」
「う、うおおおおおおおおおーーーーーッ!」
一瞬で勢いよく彼は地面に押し倒されてしまった。見ると、彼女の顔つきから纏う雰囲気まで、全てが静から動に一変している。
「お前は『獅子』だな? そして『リヴィ』という名・・・あの竜の人格のヤツの名前だなッ」
「そんなことはどうだっていいのさ! アンタは大人しくオレに喰われてりゃ――」
「お前、さっきのリヴィと僕の会話聞いてたんだよな? なら僕がどんな性格か、わかってる筈だ。この岸谷弘彦を舐めるなよ」
そう言いながら彼は彼女の豊かな双丘を揉みしだいた。それだけで彼女の身体がビクリと跳ね、艶かしい声を一帯に響かせる。
「んぁあっ?! てめぇ・・・・」
「お前のとの出会い頭からずっと、媚薬の効果があるお香を焚いていたんだ。あのリヴィだからなんとか抑制できていたらしいが、猪突猛進型のお前には効果覿面だったらしいな、もうこんなにビチャビチャじゃあないか」
すっと彼女の愛唇を撫でてやると、双丘を揉んだ時とは比べ物にならないほど、甘い声を出しながら身体を跳ねさせた。
「ひゃあああっ?! ふ・・・ふざけんな・・・おま(変わりなさい)ちょ・・・」
がくりと急に彼女が項垂れたことを確認すると、彼はゆっくりと立ち上がった。
「なんだ・・・また中身が変わるのか、急に主導権を変わられる、よくよく考えると、彼女たちも結構大変なのかもしれないな」
「ふぅ・・・まったくリオったら強情っぱりで苦労するわ・・・・お初にお目にかかるわね、岸谷弘彦さんだったかしら?」
「さっきの獅子・・いや、リオか? 彼女、中々面白い反応をしてくれたよ、読者に好かれそうなキャラクターだな。して君はその語り口調から察するに、山羊だな?」
「正解♪ 山羊のプシーっていいます。これからよろしくね? ところで、貴方小説家を引退する気はないの? 私たちと一緒に住めば、まさに理想郷。決して後悔はさせないわ、どう?」
世の男性諸君からすれば、まさに喉から手が出るほど待ち望んでいた言葉、まさに夢だろう。だが弘彦の返答はそれとは間逆のもの。
「だが断る。僕の好きなことは小説を書くこと、君たちと一緒に住むことじゃあないんでな・・・それに僕は一度に四人も相手できるほど、絶倫でもないしな」
「そう・・・・残念。なら「それと、『スイッチ』入ってるからな」スイッチ・・・? ふぁああああっ?!」
急にみだらな声を上げてその場に崩れ落ちるプシー、見ると、彼女の双丘の頂点と愛唇に、小型のバイブがつけられていた。
「い・・・・つ、のまに・・ひぅう?!」
「さっき、リオに襲い掛かられた時につけさせてもらった。しかし最近の科学技術には感嘆するよ、魔物の目をごまかせるほど小型なものをつくれるんだからな・・・世界を相手に勝負できるんじゃあないか?」
「これ・・・・・・と、りなさい・・・ふぁあ?!」
「断る。僕は何も感じないんでな。それよりそんなにビクンビクンと感じていていいのか? 気を張っていないと、乗っ取られるんじゃあないのかい?」
「! (変わって・・・)しまっ・・・・」
「また強制終了か。見て思うんだが、バイブをつけられたまま、がくりと項垂れる魔物娘って、えらくシュールだよな・・・・・」
「こんにちは私ネーラ。ねぇ貴方、私と一緒に居て欲しいの・・・・いいでしょう? 貴方がいないと、私、生きていけないの・・・」
またもや甘い蛇の言葉。これを聞き首を縦に振らない男など居ない、彼を除いては。
「・・・・・僕はさぁ、こんな偏屈で頑固な正確だと自分でも思っているが、結構純愛が好きなんだ。その僕から言わせてもらえれば、君は、いま数時間前にあったばっかりのこの僕が、そんなにも大切なのか?」
「そうよ。ほかの人格なんてどうでもいい、私を見て、私だけを愛して」
「それはできないな、小説家からの意見でも、一人の岸谷弘彦という男からの意見でも、それは変わらない。リヴィにも、リオにも、プシーにも、そしてネーラ、君にもそれぞれ違う良い所がたくさんある。一人を独善的に愛すことはできない。それに、小説家が一人のキャラクターを優遇してしまえば、その時点でその一つの物語はお釈迦になってしまう。僕の持論だがね」
その言葉に我慢できなくなってしまったのか、ネーラは弘彦に抱きついた。そしてトロンとした上目遣いで、彼に問いかける。
「なら、いっぱい愛して、私が出てきている間でいいから、いっぱい・・・」
「それは是が非でもそうさせてもらおう。取材もかねているんでね」
そういうと弘彦は彼女の桃肉を思い切り揉みしだいた。面白いほど柔らか形が変形するそれに、弘彦も自然と笑みがこぼれる。
「うぅん・・・ふぁああん!」
「思うが、君・・・・いや、君たち、性格も体も、とてもいいポテンシャルを秘めている。君たちのおかげで、とてもリアリティーのある作品が書ける気がするよ、ありがとう」
「そう・・・よかった・・」
がくりと項垂れたように倒れるネーラ、すると、頬を桃色に上下させながら、上目遣いでこちらを見上げるリヴィの姿があった。
「くう・・・・」
「どうしたんだ? ああ、彼女らに先を越されてもう辛抱たまらんって顔だな」
彼女は返答することなく、弘彦を押し倒し、彼の張り詰めるそれを、自身の愛唇に挿し入れた。瞬間、荒れ狂う快楽の荒波に彼は放り出された。これまでのものとは比べ物にならない、圧倒的な快楽。それを彼は夢中で貪った、子供のように、一心に。
「んんっ! うんっ、あぁん!」
「こ、こいつは凄いッ! お、圧される! とろける! 腰の動きが止まらないッ!」
限界だった。彼はあっけなく、彼女の秘部にぶちまけた。
「ま、まだだ・・・・搾り取ってやる!」
「う・・・・・・・うおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーッ!? し、搾り取られる! カラカラになるまで! なんていう精力だッ! だが、このリアリティー! 存分に作品に活かせるぞッ! ははははははははーーーッ!」
ようやく行為が終わり、服装を正した二人(五人か?)は、談笑にふけっていた。
「しかし、小説のために私を訪ねたのはわかったが、なんの小説を書いているんだ? 官能小説か?」
「いや、僕はラブコメからほのぼの、シリアスからホラー、官能まで何でもこなすが、今回調子に乗った会社が無理難題をこの僕に押し付けてきやがったんだ・・・『人外恋愛(多重人格・官能もの)』。この僕の腕では書くのは簡単だ。だがリアリティーがない。流石に人外の多重人格者なんて身近に居ないからな」
「そこで私の噂を聞いて、尋ねて来たと」
「ご名答。しかし、本当に助かったよ。リヴィ、リオ、プシー、ネーラありがとう。おかげで充実したいい取材になった。・・・・・そこでだ、頼みがあるんだが・・・・」
数日後、締め切り当日。行きつけのカフェで担当を待っていると、今度は時間ちょうどに担当がやってきた。ちゃんと言いつけは守ってくるところを見ると、そこらへんはしっかりした男のようだ。
「いやー先生、おまた、せ・・・」
「ん。どうした。なに狐につままれたような顔をしているんだ?」
彼は顔を青ざめさせて対面した。ああ、そりゃあ僕の隣に件のキマイラがいればそんな顔にもなるか。
「えぇーーーーーッ!? 先生、その子、魔物娘なんじゃあ・・・」
「なんだ君、まさか僕の初めてのアシスタントがキマイラだからってケチつける気じゃあないだろうな。言っておくが、彼女たちは君なんかよりよほど有能なんだからな」
「矢部君、リヴィという。リオだ。プシーよ♪ ネーラ・・・・。よろしく頼む」
「ははは・・・いえ、こちらこそ・・・・」
「おいおいおいおいおいおいおい。なに帰ろうとしているんだ? 君はまだ僕が書いた作品を受け取っていないだろう? ちゃんと受け取ってから帰れよな」
原稿を受け取って急いで帰っていく担当を見てコーヒーを飲みながら二人は顔を見合わせ子供のように無邪気に笑いあった。
15/03/01 16:51更新 / クロゴマ