読切小説
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ドS男は仮面を外す
いろいろあった夏休みがあけ、新学期がスタートした。真壁啓(まかべ けい)は、新学期早々月風亮(つきかぜ りょう)に呼び出された。

「どうしたんだい月風君! こんなところに呼び出して!」

「いや・・・もうお前の猫被りには慣れたわ。そんなことより・・・・おーい津上ぃ」

と月風が呼ぶと、教室に一人の青年が入ってきた。その顔に真壁は見覚えがあった。たしか名前は津上真(つがみ まこと)。最近一年の笹野樹(ささの いつき)と付き合っていると評判だ。だがそんな彼が何故? と考えていると、彼は重苦しい表情で語り始めた。





彼の沈んでいた訳は、三年の不良集団に目をつけられてしまったかららしい。付き合うのは結構だがそのイチャイチャぶりに腹が立つ。ボコボコにしてやるからこい。ついでに火山と小野田と神木と交流がある真壁と月風もつれて来いという独身貴族の逆恨みだった。

「な〜んというか・・・・なあ啓?」

「うん。完璧な逆恨みだね・・・・ま、行こうじゃないか、つれてってくれ」

「・・・わかった」





彼につれてこられて場所は廃工場。不良がつるんでいるので近づかないように言われている場所だった。中に入るといかにも柄の悪い集団が、人数は二十人ほど。

「よぉ〜つれてきたな津上君。えらいえらい!」

リーダー格の男がそういった。ことを皮切りにつれてきたわけを手下が語りだす。

「テメェあの火山と小野田と神木とつるんでるそうだなぁえぇ?! 真壁! こっちにも寄越せよ俺らがマワしてやるからよぉ!」

「おい津上、どうだい後輩ちゃんとの仲は? もうヤることヤったのかぁ?」

「おい月風お前家に美人なメイドさん雇ってるらしいなあ! スミにおけねえなあお前も!」

「「・・・・・」」

「(うわぁ。二人とも露骨に嫌そうな顔をしていらっしゃる)」

「で? 君たちはどうするのかな? ボコボコにでもするのかい?」

「いや? 今回は忠告だ。あいつらにも言っておいたほうがいいぜぇ? 夜道に気をつけろってなぁ!」





あの後は普通に解放された三人だったが、その顔はあまり良いものではなかった。

「もし手を出されたらどうするよ?」

「そうだな。あいつ等に抜け出して来いと命令すればあいつらはどんな手を使っても抜け出すだろう。が、それでは私の気が治まらん。私がじきじきにもてなしてやるよ」

「そうですね。っていうか真壁変わってないか?」

「ああ。これが本来の性格なんだ。驚いたか?」

「いや。まあこれからいろいろよろしく頼むわ」

「ああ。よ ろ し く」ニタァ

「(ああ・・・・また悲しき犠牲者が・・・・)」

月風はその二人を見てなんともいえない寂寥感を感じるのだった。





二週間後、頭の片隅にあの日のことは覚えていたが、三人が三人とも、まさか本当に実行はしないだろ。と思っていた。

「行ってくる」

「いってらっしゃいませご主人様!」

ただ、一つだけ誤算があるとするなら、

「は〜い。今出ます〜・・・あら?」






「――どーも。俺ら月風君の友達なんすけど。ちょっといいですか?」

「はい! ・・・あ、れ・・・きゅうに・・・ねむく・・・」ドサッ

「・・・つれてけ」

そいつらが救いようがなく腐っていた、ということだ。





その日、終業のベルが鳴った頃事件は起きた。バイクに乗った不良たちが構内のグラウンドに侵入した。よく見ると、縄で縛られ猿轡をされたフリズと笹野、火山と小野田と神木がいた。

「おい啓あれ見ろ! フリズたちが・・・・!」

「樹っ! ・・・・あいつら・・・」

「・・・ああ。そうらしい」

『あれって神木さんだよね?!』『一年も居るぞ!?』『どうしてこんなこと・・・』『誰か止めてよぉ!』

クラス、いや学校中がざわつきだす。教師たちが狼狽し右往左往している。その中、リーダーの男が拡声器で呼びかける。

「おーい! 見てるか僕ちゃんたちぃ! 情けねえな! 自分の女くらい守ってみろや! 安心しろよ! この娘らは俺らで存分に愉しんでやるからよ!」

「何でこんなことをするんだ?」

「わからねえか真壁! 楽しいからよ! 俺ら失うもんは何もねえからよ!」

「んんんー! ぷはっ! ご主人! 逃げてください! 私のことは放っておいて!」

「まこちゃん! 助けて!」

「「「・・・っ」」」

二人の悲痛な叫びが木霊する。ちなみに三人が喋らないのは、真壁に「余計なことは喋るな」といわれているためである。

「うるせえ女共だ! テメエらはこれから俺らにマワされんだよ!」

「どうするよ啓! このままじゃあいつらに・・・」

「真壁! 俺は行くぜ! 大切な後輩守れねえで、何が先輩だよ!」

――『私が・・・何処かに居なくなったり、誰かに連れ去られたりしたら・・・助けに来てくれますか? 見つけ出してくれますか?』

彼の頭の中に、あの日の彼女の言葉がフラッシュバックした。そして血気盛んな二人を手で制し、ポツリと呟いた。

「なあ・・・私はもう仮面を外すことにする・・・」





三人の作戦会議はこうだ。まず真壁が火山に「今から三人が飛び降りるから頑張って受け止めろ」と命令し、三人をグラウンドに下ろす。後はノリ。

「「まてまてまてまて!」」

「ん? どうした?」

「「一番大事なとこが一番ふわっとしてる!」」

「・・・・それじゃあ今ここから飛び降りるか?」ニコニコ

その言葉で二人を強制的に黙らせた後、いつものサディスティックな顔と声色で、こう高らかに告げた。

「おい! お前ら!」

「「「!」」」

「今から私は素に戻る。お前らもいつもの状態に戻ってかまわん。助けを呼ぶなりなんなりしろ! ・・・・あと、犬コロ!」

「はいぃ!」

「いまから私と月風と津上がここから飛び降りる。絶対に無事に受け止めろ。それができたら・・・そうだな。『ご褒美』をやる」

すると彼女の顔がパアアと明るくなる。それを愉快そうに確認すると、彼らはためらいなく窓から飛び降りた。

「シッ!」

「なに言ってんだてめえら・・・・ブゲラ!」

火山は縛られたまま全速力で不良の一人を蹴り飛ばしながら駆け出し、三人を命令どおり無事に地面に下ろした。

「・・・・毎度毎度お前は無茶するよな」

「あいつを誰だと思っている? 私の犬コロだぞ? 私があいつを信じてやらんでどうする?」

「ははは。違いない」

「は〜・・・死ぬかと思った・・・」

「ご主人様! ご褒美を・・・っ?!」

彼女は真壁が今とてつもなく。神木の時よりも怒りに狂っていることを察し、後ろに下がった。


「な・・・てめえらこの人数に勝てると思ってんのか?!」

「勝てるかじゃねえ、勝つんだ」

「コーハイに手えだしやがって・・・」

「・・・・私は今とてつもなく怒っている。私のモノに手を出した挙句、マワすだと? ふざけるな! あいつらの居場所は私の隣だ。貴様らのような肥溜めの中ではない!」

「うるせええええっ! てめえらやっちまえええええええッ!」





大規模な喧嘩が始まった。教員もことがことなので手が出せず固唾を呑んで見守る中、三人が暴れまわる。

「おらあ!」

「「「たわばっ!」」」

「らぁ!」

「「「「「ぐぎゃ!」」」」」

「あーあ、よく狙わないからナイフが仲間に刺さってしまったぞ!」

「「いっでえええええええ!」」

尤も、三人が優勢ではあったのだが、そのことに業を煮やしたリーダーが命令する。

「お前ら、女どもをやっちま・・・」

だがそれは実行されなかった。なぜならその前に手下が全員伸びていたからだ。

「な・・・なんだお前!?」

「ふー・・・凶悪な不良どもっていうからどれくらいの門下と期待したら武器持っていきがってるだけのヒヨっこもいいとこだぜ、あ? 俺が誰かって?」

彼は彼女たちの縄を解きながら不敵な笑みで告げる。

「葉山透(はやま とおる)、二年。ただのメイド好きの男子だよ」

「これで・・・お前は丸裸なわけだが」

「・・・落とし前つけてもらおうか」

「なあ、リーダー君」

「うるせえぞてめえらあああっ!!」

その手に握られているのはメリケンサック。一瞬動揺したのを見逃さず、月風と津上の即頭部に一撃。彼らは血を流しながらグラウンドに倒れた。

「まこちゃん!」

「ご主人様!」

二人が駆け寄って揺すっても反応がない。彼女たちはそれでも涙を流しながら身体を揺すり続ける。

「ははっははは! 俺の勝ちだ。後は真壁、お前だけだ!」

「・・・・・・・それだけか?」

もう彼の瞳は、リーダーを見ていなかった。激怒した彼は真壁の頭を殴りつける。ゴリ、という音が鳴り、生暖かい赤い液体が滴る。

が、

「それだけか? これしきの痛み、彼女たちのものと比べれば砂粒にも満たん」

「な・・・・化けものか!?」

彼は素早くメリケンサックを奪い取ると、彼の足を踏み砕いた。彼は痛みに絶叫し醜く地を這い回る。

「うぎゃああああああああっ・・・」

「貴様は許さん。私のモノを、月風の家族を、津上の恋人を傷つけた。・・・・・その罪、償わせてやる」

その顔は、いつものサディスティックな笑みではなく。憤怒一色の、侮蔑に満ちたものだった。





彼に行ったことは凄惨であった。まずバイクでグラウンドを引きずり回し、木にくくりつけた挙句メリケンサックでサンドバック。間接をキメ、全身に手錠を掛けた。

「ヒュ・・・ヒュー・・・ひゅー・・・・」

「喜べ。コレで最後にしてやる・・・・・靴をしゃぶれ」

ゴガッ!! ともはや蹴り砕く勢いで足を口内に叩き込む真壁、リーダーは白目を向き気絶した。それを見て、満足そうに笑みを浮かべる真壁。

「っ・・・・七割方気は済んだ・・・後は・・・あ・・・い・・つらで・・・・」

出血と激痛で、彼は意識を手放した。





後から聞いたことだが、あの後三人は病院に救急搬送された。不良たちは全員逮捕され、少年院をすっ飛ばして刑務所行きとなった。三人への処分は彼女たちの必死の訴えと人命救助、正当防衛といった形でなくなった。

そして、彼らは退院した。

「・・・・」

あれから真壁は仮面を完全に外した。誰に対しても控えめにサディスティックに対応するようになった。それが一部の女子に受けたのかファンクラブが出来てしまう始末。彼はそのことで仏頂面だったが、どこか嬉しそうでもあった。それは毎日が退屈じゃなくなったからであろう。

あれから津上と笹野の仲は急接近、学校一のお似合いカップルとして生徒はおろか教師からも支持される始末。末永く爆発しろといわれているようだ。

あれから月風はメイドを雇っていることを公表。爆発しろといわれている。フリズだが父兄の代わりとして学校行事に積極的に参加するようになった。じゅぎょうさん間の際後ろから手を振られて彼は反応に困っているそう。

そして途中から乱入した葉山だが、フリズを助けたことがフリズの元々の所属だった会社に伝達され、お礼に無料でキキーモラのフレアを雇うことが出来たそうで、喜んでいた。





「えへへーまこちゃんいいじゃないですか! ねっ♪ 退院したことですし・・・・あたしとシましょうよ?」

「・・・わーったよ。ただし・・・」

「ただし?」

「・・・耳かきしてくれ。ご褒美に」

「へ? ・・・・お安い御用ですよ。まこちゃん」





「じゃ」

「ぼっちゃま、よろしかったのですか?」

「うん。あいつメイドメイド五月蝿いし、コレじゃ雇う前と一緒じゃないか・・・」

「フフフ・・・面白い方ですね! 葉山様も」

「・・・・・・なあフリズ。俺、ちゃんと主人らしいこと、できたかな?」

それを聞いてフリズは月風を抱きしめる。

「なっ・・・苦しいよフリズ・・・」

「大丈夫ですよ。ぼっちゃまはいつでも私のだーいすきなご主人様ですから♪」




「あの後結局お前たちにご褒美をやるのを忘れていたから今やろうと思っていたが私はとてつもなく眠たい。・・・そこで!」

「「「そこで?」」」


「四人で添い寝だ。耳を舐めるなり語りかけるなりマッサージするなりで私を寝かしつけるんだ。いいな?」

「わかりました!」

「あたしの口で癒してあげる!」

「・・・・・添い寝する」

「・・・・・・なあ、コレはアキにも言ったことだが、お前たちは私のものだ。いつでも傍に駆けつけて、何時でも私の傍に居ろ。私を退屈させてくれるなよ?」

「「「・・・・・はい。真壁様!」」」


「それと・・・・今日だけは、啓、と呼んでかまわんからな」

それを聞きあたふたしている三人を見て楽しそうに目をつぶる。その笑顔は、退屈などしていない。人生を心から楽しむ真壁啓そのものの心からの笑顔だった。
15/05/10 14:49更新 / クロゴマ

■作者メッセージ
どうもこんにちはクロゴマです。11作目です。今回は珍しくシリアス・バトルよりです。書いていて結構難しかったですがやり応えがありました! 今回は某学園ドラマによくあるようなテンプレ的展開を書きたかったので、私的には満足です。

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