BLAZE HEART
昔、あるところに、一人の男の子がいました。
男の子は毎日、朝ごはんを食べると、
「いってきまーす!」
と言いながら、木の剣を持ってお家を飛び出していきました。
そして、日が沈む頃になると、ボロボロになってお家に帰ってきました。
男の子のお母さんは心配していましたが、男の子のお父さんは
「男の子はこのくらい元気な方がいいよ」
と言って笑っていました。
木の剣を持ってお家を飛び出していった男の子は、村の裏にある小さな森の中を駆けていき、やがて開けた場所に着きました。
そこにいたのは、男の子と同じように、木の剣を持った一人の女の子でした。
赤い髪の毛に、鱗に覆われた手と足、めらめらと燃えるしっぽの、可愛い女の子でした。
男の子は、女の子に向けて剣を構えながら言いました。
「きのうはまけたけど、きょうはおれがかつからな!」
それを聞いて、女の子も剣を構えながら言いました。
「ちがうよ、きょうもあたしのかちだよ!」
「いったなー!」
「そっちこそー!」
「それなら、いざじんじょうに!」
「しょうぶ!」
勇ましい掛け声をあげて、男の子と女の子は木の剣で戦い始めました。
男の子が押せば女の子が押し返し、女の子が押せば男の子が押し返し。
女の子のしっぽの炎もさらに大きくめらめらと燃えて、胸がどきどきするほど楽しい戦いでした。
二人は日が傾く頃まで戦い続け、とうとう男の子が降参しました。
「ちくしょー、このまま100しょういけるとおもったのにー!」
「ふっふーん、これであたしも99しょう、ならんだねっ!」
これまでの勝負は、どちらも99勝99敗。
明日、どちらが先に100勝するかが決まります。
「…あした!」
男の子は突然大きな声で言いました。
「ふぇ?」
「あした、おれがかったら、おまえにいいたいことがあるんだ。だから、かくごしとけよ!」
女の子も、負けじと言い返しました。
「それなら、あたしだってあんたにかったら、いいたいことがあるんだから! かくごしときなさいよ!」
「おう! それじゃ、またあしたな!」
男の子はそう言うと、村へと走っていきました。
女の子は、まだどきどきする胸をおさえながら、男の子が走っていくのをじっと見ていました。
女の子は、いつしか男の子のことが好きになっていたのです。
明日、勝負に勝ったら、男の子に「好き」って言うつもりでした。
女の子はお家に帰りながら、明日の勝負のことを考えてどきどきしていました。
そして次の日になりました。
女の子がいつもの場所でそわそわしながら待っていると、男の子がやってきました。
でも、男の子は剣を持っておらず、いつものような元気もありませんでした。
「…どうしたの?」
と女の子が尋ねると、男の子は言いました。
「…ごめん。おわかれをいいにきたんだ」
女の子はその言葉を聞いてとても驚きました。
「おわかれって…どういうこと?」
「きゅうなようじで、きょう、じょうかまちにひっこすことになったんだ」
「きょう、って、そん、な…」
女の子は目に涙を浮かべ、そう言いました。
男の子も、涙をこらえているようでした。
村と城下町はとても離れているので、もう、ずっと会えなくなるでしょう。
男の子は突然、こう言いました。
「やくそく、する」
「え?」
「おれは、10ねんごのきょう、つよーいけんしになって、ここにもどってくる。それまで、しょうぶはおあずけだ! だから、おまえも、つよくなってまってろよ!」
女の子は、泣きながら頷きました。
「うん、わかった。あたしだって、あんたにまけないようにつよくなって、まってるから…!」
「おう、やくそくだぞ! 10ねんごのきょうだからな!」
「うん、やくそくだよ…っ!」
最後は二人とも涙声でした。
そして男の子は女の子を振り返ることもせず、村へと戻っていきました。
女の子はその後もしばらくぽろぽろと涙をこぼしていました。
それから10年間、女の子は約束を守るため、剣を振り続けました。
時には強そうな旅人に戦いを挑み、時には強そうな旅人から戦いを挑まれ、そして勝ち続けていきました。
どんな相手と戦っても、女の子の尻尾は男の子と戦った時のように燃え上がることはありませんでした。
それでも、来る日も来る日も、女の子は強くなろうと努力し続けました。
そして、約束の日になりました。
女の子は、男の子との思い出の場所で男の子を待ちました。
切り株に腰掛けて、ずっと待ちました。
ですが、日が傾いてきても、男の子はやってきませんでした。
「…はは、やっぱり忘れちゃったのかな、あいつ…」
女の子の目から、ぽろりと涙がこぼれました。
すると、誰かが女の子に声をかけました。
「失礼、この辺りで凄腕のサラマンダーの剣士がいると聞いてきたのだが。貴方がそうか?」
女の子に声をかけたのは、すらっとした背の高い男の人で、背中に大きな剣を背負った剣士でした。
「…多分、ね」
「そうか。私は見ての通りの、旅の剣士だ。もし貴方が良ければ、是非お手合わせ願いたい」
「…うん、いいよ。やろうか」
女の子はゆっくり立ち上がり、その剣士に剣を向けました。
「ありがたい。では、行くぞっ!」
剣士も大きな剣を構え、そして戦いが始まりました。
互いに何度も剣を打ち付けあい、押しては押され、押されては押し。
女の子がこの10年で戦ってきた中でも、間違いなく一番強い相手でした。
剣をぶつけあうたびに、女の子の心の中に、10年前の思い出が蘇ってきます。
この剣士との戦いは、女の子にとって、あの時と同じくらい楽しいものでした。
いつしか女の子の尻尾の炎も強く燃え上がっていき、心臓もどきどきして、自然と顔に笑みが生まれます。
そして、ついに、剣士の剣が女の子の剣をはじき飛ばし、勝負がつきました。
女の子は、負けてしまったのです。
「…参った。降参だよ」
女の子がそう言うと、剣士はゆっくりと大きな剣を背負いました。
そして、こらえきれないというように、大笑いしました。
「…くっ、ぶはははははははははは!!」
女の子がぽかんとしていると、剣士はこう言いました。
「俺の勝ち、これで俺の『100勝』、だなっ!」
その言葉を聞いて、女の子はとても驚きました。
「…あんた、まさか…!?」
「…なんだよ、まさか本当に俺の顔を忘れてたのか? …まぁ別人らしく振舞った俺も俺だけどよ」
剣士は、あの男の子でした。
10年前とは体つきも大きく変わり、見違えるようになっていたのです。
男の子は、ちゃんと約束を守って来てくれたのでした。
「…それにしても、お前も随分見違えたなぁ…って、うわぁっ!?」
たまらず、女の子は男の子に抱きつき、泣きじゃくりました。
男の子はしばらく、女の子の頭を優しく撫でていました。
そして女の子が泣き止んだところで、男の子はにやりと笑みを浮かべました。
「…さて、んじゃ、俺が勝ったことだし、あの時…いや今も、俺がお前に言いたかったことがあるから、聞いてもらおうかな」
ですが、女の子はそれを遮って、言いました。
「…ごめん、もう、我慢できない…っ!」
「え?」
そして、女の子は、尻尾の炎をこれまでで一番激しく燃え上がらせながら、叫ぶように言いました。
「あたし、あんたが、10年前からずっと、大好きなのっ!! だから、あたしと、結婚し…」
言葉の途中で、男の子は黙って女の子の頭をスパーンとはたきました。
「な、何すんのよっ!? あたしの、一世一代の告白の途中で!!」
「それはこっちのセリフだ! 何で俺が言いたかったことを先に言うんだよ!?」
女の子は、ぽかんとして男の子の顔を見つめました。
「…え?」
「……あ」
男の子ははっとしたようにそっぽを向きました。
男の子の顔は、夕日のように真っ赤でした。
「…今、何て…?」
女の子が聞き返すと、男の子は観念したように言いました。
「…あー、その、俺もさ、あの頃からずっとお前のことが好きだったんだよ。勿論、今も、な」
「……っ…!」
「だからさ、その、俺と、結婚してくれないか?」
返事の代わりに、女の子は男の子に思い切り抱きつきました。
そして、涙を流しながら何度も何度も頷いたのでした。
・・・・・・・・・・・・
「……それから二人は結婚し、幸せに暮らしました。めでたし、めでたし」
「えー、おしまいー? おもしろかったのにー!」
「おかーさん、つづきはないのー?」
「うーん、つづきかぁ。そうねぇ、男の子と女の子の間には可愛い二人のサラマンダーの娘が産まれたの。その後は……どうなるのかしらねー、お父さん?」
「そこで俺に振るのかよ…。まぁ、その後もずっと幸せに暮らしていくに決まってるさ。少なくとも、男の子はそう思ってる。女の子だって、そうだろう?」
「ふふ、勿論そうね。……はい、それじゃ二人とも、もう寝る時間よ」
「「はーい」」
…男の子と女の子のお話は、これからも、ずっと続いていくのです。
男の子は毎日、朝ごはんを食べると、
「いってきまーす!」
と言いながら、木の剣を持ってお家を飛び出していきました。
そして、日が沈む頃になると、ボロボロになってお家に帰ってきました。
男の子のお母さんは心配していましたが、男の子のお父さんは
「男の子はこのくらい元気な方がいいよ」
と言って笑っていました。
木の剣を持ってお家を飛び出していった男の子は、村の裏にある小さな森の中を駆けていき、やがて開けた場所に着きました。
そこにいたのは、男の子と同じように、木の剣を持った一人の女の子でした。
赤い髪の毛に、鱗に覆われた手と足、めらめらと燃えるしっぽの、可愛い女の子でした。
男の子は、女の子に向けて剣を構えながら言いました。
「きのうはまけたけど、きょうはおれがかつからな!」
それを聞いて、女の子も剣を構えながら言いました。
「ちがうよ、きょうもあたしのかちだよ!」
「いったなー!」
「そっちこそー!」
「それなら、いざじんじょうに!」
「しょうぶ!」
勇ましい掛け声をあげて、男の子と女の子は木の剣で戦い始めました。
男の子が押せば女の子が押し返し、女の子が押せば男の子が押し返し。
女の子のしっぽの炎もさらに大きくめらめらと燃えて、胸がどきどきするほど楽しい戦いでした。
二人は日が傾く頃まで戦い続け、とうとう男の子が降参しました。
「ちくしょー、このまま100しょういけるとおもったのにー!」
「ふっふーん、これであたしも99しょう、ならんだねっ!」
これまでの勝負は、どちらも99勝99敗。
明日、どちらが先に100勝するかが決まります。
「…あした!」
男の子は突然大きな声で言いました。
「ふぇ?」
「あした、おれがかったら、おまえにいいたいことがあるんだ。だから、かくごしとけよ!」
女の子も、負けじと言い返しました。
「それなら、あたしだってあんたにかったら、いいたいことがあるんだから! かくごしときなさいよ!」
「おう! それじゃ、またあしたな!」
男の子はそう言うと、村へと走っていきました。
女の子は、まだどきどきする胸をおさえながら、男の子が走っていくのをじっと見ていました。
女の子は、いつしか男の子のことが好きになっていたのです。
明日、勝負に勝ったら、男の子に「好き」って言うつもりでした。
女の子はお家に帰りながら、明日の勝負のことを考えてどきどきしていました。
そして次の日になりました。
女の子がいつもの場所でそわそわしながら待っていると、男の子がやってきました。
でも、男の子は剣を持っておらず、いつものような元気もありませんでした。
「…どうしたの?」
と女の子が尋ねると、男の子は言いました。
「…ごめん。おわかれをいいにきたんだ」
女の子はその言葉を聞いてとても驚きました。
「おわかれって…どういうこと?」
「きゅうなようじで、きょう、じょうかまちにひっこすことになったんだ」
「きょう、って、そん、な…」
女の子は目に涙を浮かべ、そう言いました。
男の子も、涙をこらえているようでした。
村と城下町はとても離れているので、もう、ずっと会えなくなるでしょう。
男の子は突然、こう言いました。
「やくそく、する」
「え?」
「おれは、10ねんごのきょう、つよーいけんしになって、ここにもどってくる。それまで、しょうぶはおあずけだ! だから、おまえも、つよくなってまってろよ!」
女の子は、泣きながら頷きました。
「うん、わかった。あたしだって、あんたにまけないようにつよくなって、まってるから…!」
「おう、やくそくだぞ! 10ねんごのきょうだからな!」
「うん、やくそくだよ…っ!」
最後は二人とも涙声でした。
そして男の子は女の子を振り返ることもせず、村へと戻っていきました。
女の子はその後もしばらくぽろぽろと涙をこぼしていました。
それから10年間、女の子は約束を守るため、剣を振り続けました。
時には強そうな旅人に戦いを挑み、時には強そうな旅人から戦いを挑まれ、そして勝ち続けていきました。
どんな相手と戦っても、女の子の尻尾は男の子と戦った時のように燃え上がることはありませんでした。
それでも、来る日も来る日も、女の子は強くなろうと努力し続けました。
そして、約束の日になりました。
女の子は、男の子との思い出の場所で男の子を待ちました。
切り株に腰掛けて、ずっと待ちました。
ですが、日が傾いてきても、男の子はやってきませんでした。
「…はは、やっぱり忘れちゃったのかな、あいつ…」
女の子の目から、ぽろりと涙がこぼれました。
すると、誰かが女の子に声をかけました。
「失礼、この辺りで凄腕のサラマンダーの剣士がいると聞いてきたのだが。貴方がそうか?」
女の子に声をかけたのは、すらっとした背の高い男の人で、背中に大きな剣を背負った剣士でした。
「…多分、ね」
「そうか。私は見ての通りの、旅の剣士だ。もし貴方が良ければ、是非お手合わせ願いたい」
「…うん、いいよ。やろうか」
女の子はゆっくり立ち上がり、その剣士に剣を向けました。
「ありがたい。では、行くぞっ!」
剣士も大きな剣を構え、そして戦いが始まりました。
互いに何度も剣を打ち付けあい、押しては押され、押されては押し。
女の子がこの10年で戦ってきた中でも、間違いなく一番強い相手でした。
剣をぶつけあうたびに、女の子の心の中に、10年前の思い出が蘇ってきます。
この剣士との戦いは、女の子にとって、あの時と同じくらい楽しいものでした。
いつしか女の子の尻尾の炎も強く燃え上がっていき、心臓もどきどきして、自然と顔に笑みが生まれます。
そして、ついに、剣士の剣が女の子の剣をはじき飛ばし、勝負がつきました。
女の子は、負けてしまったのです。
「…参った。降参だよ」
女の子がそう言うと、剣士はゆっくりと大きな剣を背負いました。
そして、こらえきれないというように、大笑いしました。
「…くっ、ぶはははははははははは!!」
女の子がぽかんとしていると、剣士はこう言いました。
「俺の勝ち、これで俺の『100勝』、だなっ!」
その言葉を聞いて、女の子はとても驚きました。
「…あんた、まさか…!?」
「…なんだよ、まさか本当に俺の顔を忘れてたのか? …まぁ別人らしく振舞った俺も俺だけどよ」
剣士は、あの男の子でした。
10年前とは体つきも大きく変わり、見違えるようになっていたのです。
男の子は、ちゃんと約束を守って来てくれたのでした。
「…それにしても、お前も随分見違えたなぁ…って、うわぁっ!?」
たまらず、女の子は男の子に抱きつき、泣きじゃくりました。
男の子はしばらく、女の子の頭を優しく撫でていました。
そして女の子が泣き止んだところで、男の子はにやりと笑みを浮かべました。
「…さて、んじゃ、俺が勝ったことだし、あの時…いや今も、俺がお前に言いたかったことがあるから、聞いてもらおうかな」
ですが、女の子はそれを遮って、言いました。
「…ごめん、もう、我慢できない…っ!」
「え?」
そして、女の子は、尻尾の炎をこれまでで一番激しく燃え上がらせながら、叫ぶように言いました。
「あたし、あんたが、10年前からずっと、大好きなのっ!! だから、あたしと、結婚し…」
言葉の途中で、男の子は黙って女の子の頭をスパーンとはたきました。
「な、何すんのよっ!? あたしの、一世一代の告白の途中で!!」
「それはこっちのセリフだ! 何で俺が言いたかったことを先に言うんだよ!?」
女の子は、ぽかんとして男の子の顔を見つめました。
「…え?」
「……あ」
男の子ははっとしたようにそっぽを向きました。
男の子の顔は、夕日のように真っ赤でした。
「…今、何て…?」
女の子が聞き返すと、男の子は観念したように言いました。
「…あー、その、俺もさ、あの頃からずっとお前のことが好きだったんだよ。勿論、今も、な」
「……っ…!」
「だからさ、その、俺と、結婚してくれないか?」
返事の代わりに、女の子は男の子に思い切り抱きつきました。
そして、涙を流しながら何度も何度も頷いたのでした。
・・・・・・・・・・・・
「……それから二人は結婚し、幸せに暮らしました。めでたし、めでたし」
「えー、おしまいー? おもしろかったのにー!」
「おかーさん、つづきはないのー?」
「うーん、つづきかぁ。そうねぇ、男の子と女の子の間には可愛い二人のサラマンダーの娘が産まれたの。その後は……どうなるのかしらねー、お父さん?」
「そこで俺に振るのかよ…。まぁ、その後もずっと幸せに暮らしていくに決まってるさ。少なくとも、男の子はそう思ってる。女の子だって、そうだろう?」
「ふふ、勿論そうね。……はい、それじゃ二人とも、もう寝る時間よ」
「「はーい」」
…男の子と女の子のお話は、これからも、ずっと続いていくのです。
13/03/22 13:53更新 / クニヒコ