読切小説
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残虐非道なドラゴンに玩具にされた少年の末路
 その小さな宿場町から一つ谷を越えた所に、旧魔王が支配していた時から存在していた古城があった。そして旧魔王が討伐され、新たな魔王が即位してから数年後、そこには一体のドラゴンが住み着いていた。
 そのドラゴンはここより遥か遠方の地から飛来して来た個体だった。そしてドラゴンはその城に着く前に、行き掛けの駄賃とばかりに件の宿場町にいた一人の少年をさらって行ったのだった。
 当然、その町の町長は憤慨した。自分の町の住民をみすみす奪われて黙っているなど、町長としても人としても出来ない相談であった。
 少年がさらわれた次の日から、町長はそのドラゴンの首に多額の懸賞金をかけた。そしてそれを餌に冒険者や傭兵を募るだけでなく、教団に接触して勇者を寄越してもらうよう打診したりもした。町長はドラゴン討伐に必死になった。
 だがそのドラゴンは強かった。そしてそのドラゴンはただ強いだけでなく、返り討ちにして半死半生の身になった討伐者の目の前で攫った少年を虐待すると言うサディスティックかつ残忍な面も持ち合わせていた。
 傭兵と言わず勇者と言わず、そのドラゴンの振舞いを前に討伐者達は怒り狂った。必ずやあの残虐非道なドラゴンを討ち倒してやると誰も彼もが躍起になった。




 それが町の見解だった。




 そして今日もまた、一組のパーティがドラゴンの元へ赴き、そして満身創痍で床に這いつくばっていた。




「ふん。弱いな」

 縦長に広がった玉座の間。地面には赤い絨毯が敷かれ、床には赤い天幕が張られていた。
 その空間の中で、その赤い鱗に身を包んだドラゴンの女は贅の限りをつくして装飾された玉座に座り、その横に自らが攫ってきた少年を後ろ手に縛り上げて跪かせていた。そして肘掛けに肘をついて鱗に覆われた肉厚の手で頬杖をつきながら、自分の目の前で倒れ伏す勇者一行を見下すように鼻で笑った。

「貴様ら、その程度なのか? それで勇者とは笑わせる」
「くっ……黙れ……っ!」

 嘲るように言ったドラゴンの言葉に怒りの色を露わにし、剣を杖代わりにして体を支えながら勇者が立ち上がった。その体はもうボロボロだった。

「この、悪逆無道なドラゴンめ……! 欲のままに暴れまわるだけの獣め……!」
「口だけは元気だな。腕の方はまるで駄目だったが」
「なんだと――」

 そう言って起きかけた勇者目掛けて、ドラゴンが軽く腕を振り上げる。それと共に風が逆巻き、猛烈な上昇気流となって勇者の体を打ち上げる。

「ケビン!」

 同じく地面に倒れ伏していた女賢者が叫ぶ。ケビンと呼ばれた勇者は風邪に煽られる木の葉のように宙を舞い、そしてボール球のように受け身も取る事無く地面に激突した。

「雑魚が」

 ドラゴンが吐き捨てる。彼女にとって目の前の連中はまさに雑魚だった。
 玉座に座ったまま無傷で勝ってしまえるような奴らは雑魚以外の何者でもなかった。腕を振るだけで勝てた先の戦いを思い出してとてもつまらなそうに顔をしかめながら、ドラゴンが立ち上がって言った。

「もう貴様らには飽きた」

 そして玉座の横に跪いていた少年の首根っこを掴んで強引に持ち上げ、勇者達の方を向いて嗜虐的笑みを浮かべて言葉を吐いた。

「ここからはこいつで遊ぶとしよう」
「それは――!」

 女賢者が口を開けて硬直する。それまで倒れていた女魔導師と男戦士、そして勇者の視線が一斉にドラゴンに向けられる。

「おい」
「が、がはっ……」

 その視線を一身に受けながら、ニヤついた笑みを浮かべてドラゴンが少年に言った。

「貴様の主は誰だ?」
「げほっ、げほ……はい。僕の主は、貴方様に、ございます……」

 息も絶え絶えに、だが言い慣れた口調でその少年が答える。クックッと昏い笑みをこぼしながら、ドラゴンが再び尋ねた。

「貴様の主の名はなんと言う? 言ってみろ」
「……はい。シェルディア様。シェルディア様と、げほっ、おっしゃいます」
「そうだ。よく言えたな」

 自分の名前を言われ、シェルディアが再び小さく笑みを浮かべる。持ち上げている手を捻って口を僅かに下げ、それと同時に尻尾を動かしてその先端を少年の口元へ向かうよう狙いを定める。
 片目を吊り上げ、シェルディアが一際邪悪な笑みを浮かべる。

「ご褒美をくれてやる」

 一度引き、そして勢いをつけて、尻尾をその少年の口の中にぶち込んだ。
 突然の衝撃に、少年が一瞬白目をむく。

「ぐがっ!? が――ッ!」
「フハハハハッ! そうか、そんなに美味しいか!?」

 だがその苦悶の叫びを聞いて、シェルディアは実に嬉しそうに笑い声を上げた。そして首を僅かに左右に振ってそれを否定する少年に、シェルディアが更に追い打ちを掛ける。

「何を否定している? 認めてしまえ。ドラゴンの尻尾を咥えて嬉しがる変態め!」
「んんっ、もがっ、んんんん!?」
「レイシス! この変態のレイシスめ! これだろう!? 貴様はこれが好きなんだろう!? 変態ッ! 変態レイシスめッ!」

 ゲラゲラ笑いながら口に挿しこんだ尻尾を激しく前後に突き動かす。レイシスと呼ばれた少年は目から涙を流しながら、やがてシェルディアに屈服したかのように首を縦に振り始めた。それを見てシェルディアは更に笑い声を上げ、尻尾の挿入スピードを早めていく。

「気持ちいいなあ! 弱い奴を叩きのめすのは全く気持ちがいいものだ! これだけてイッてしまいそうだ!」
「ふむっ! む、んんんんむっ!?」
「そうか! 貴様もイッてしまうのか! やはり貴様は変態だな! 貴様みたいな変態、もう誰も婿にもらおうとは思わないだろうなあ!」
「やめて! もうやめてえ!」

 女賢者の悲痛な叫びが響き渡る。魔導師も戦士も勇者も、皆一様に顔を悲痛に歪めていた。だが誰も体を動かせない。身に受けたダメージが酷すぎて、もはやシェルディアに抗うだけの力を持っていなかったのだ。

「……そうだ。貴様達にチャンスをやろう」

 その時不意に、思い出したかのようにシェルディアが勇者達の方を向く。そして尻尾を動かしたまま、顔を嗜虐に歪めて言い放った。

「私は暫くこいつと遊ぶ事にする。貴様達に構うつもりはない。その間に、どこへなりとも逃げるがいい」
「な――」
「それとも、私の隙を突いて襲い掛かるか? それも良いがな。だが今の貴様達にそれだけの余裕があるのか?」
「……ッ!」

 ある訳が無かった。もう彼らの体力は、逃げ帰るだけで精一杯だったのだ。

「さあどうする? 二つに一つだ。好きにするがいい」
「んむっ、む、んんんっ!?」
「勇者様……」

 三人が視線を勇者にぶつける。うつぶせの姿勢からよろよろ立ち上がった勇者は、歯を食いしばってシェルディアとレイシスを交互に見やった。
 レイシスは助けてくれと言わんばかりに目を見開き、涙を流し口に尻尾を咥えながら勇者を見つめていた。シェルディアはその様をニヤニヤ笑いながら楽しげに眺めていた。
 勇者がシェルディアを睨みつける。怒りと憎しみの赴くままに握り拳を作る。
 そして勇者は。

「……すまん!」

 逃げた。
 レイシスの顔に絶望が広がっていく。
 シェルディアは爆笑した。

「そうか逃げるのか! 良い判断だ! ここで逃げれば、また後でチャンスがあるからな! だが――」

 勇者と、それに続くようにしてシェルディアに背を向けて走り去っていく他のメンバーの背中に、シェルディアの言葉が容赦なく突き刺さる。

「見捨てられたこの人間はどう思っているだろうなあ!? 助けに来た奴に見捨てられて、こいつは今どんな気持ちなんだろうなあ!?」

 そしてシェルディアが勝ち誇ったように笑い声を上げる。その咆哮を背に受け、屈辱と怒りに震えながらも、勇者達はほうほうの体で拠点である町へと逃げ帰っていったのだった。




 バタリと扉が閉まる。




「……行ったか?」
「……んんむ」
「ああ、そういえば尻尾を咥えたままだったな。それ」
「んんっ……ぷはぁっ! ……はあ、はあ、はあ……」
「……」
「はあ、はあ、はあ……はあ……」
「……レイシス、落ち着いたか?」
「はあ、……ふう……はい、何とか……」
「そうか……」
「……」
「……」
「……」
「……レイく〜んッ♥」
「ちょ、シェル、いきなり――!」
「ごめんね! ごめんねレイくん! あんなに酷い事してごめんね? あんなに酷い事言っちゃってごめんね? ……ごめん……ね……?」
「シェル……?」
「……ごめん、ひっく、本当にごめんなさい……」
「……大丈夫だよ、シェル。僕は君になら何されても良いって思ってるからさ。尻尾も舐めてて美味しかったし。だから泣き止んで」
「ひくっ、ぐすっ……うん……」
「良かった。やっぱりシェルは笑顔が一番キレイだ」
「も、もう、レイくんってば♥ 大人をからかうのは程々にしないと駄目なんだぞ?」
「わかった、わかった。ふふっ。じゃあわかったついでにさ……」
「ついでに、何?」
「僕の胸に顔埋めるの止めてくれないかな? 恥ずかしいから」
「……え〜? 恥ずかしいの〜? どうしようっかな〜? やめよっかな〜? ふふっ♪」
「シェル……」
「……やっぱやーめないっ♥ えいっ♥ す〜りすり♥」
「も、もう! シェルってば甘えん坊なんだから!」
「……甘えん坊な私は、嫌い?」
「……嫌いじゃないに、決まってるでしょ?」
「え? レイくんなに――んむっ!?」
「ん……ん、ちゅっ……」
「ちゅっ、あむ……くちゅっ……」
「ちゅっ、ちゅっ、ぴちゅ……ぷあっ」
「あっ……はあ、はあ……もう……レイくん不意打ちは卑怯だよう……」
「ふふっ、ごめんごめん。でも、これでわかった?」
「……うん。わかった。レイくんの好きって気持ちが、とっても伝わって来た♥」
「……僕も、シェルの好きって気持ちが伝わってきた」
「……キスって、すごいね……」
「うん……」
「……ねえ、レイくん」
「……なに?」
「……キスよりもっと凄いこと、しない?」
「……いいの、シェル?」
「うん。本当言うと、私ももう我慢出来ないんだ……」
「そうなんだ……実を言うと僕も、その……もう我慢出来ない」
「じゃあ――」
「うん」




 一つになろう。




 向かい合い、二人の瞳が熱く交わる。




 その時、扉が勢い良く開かれた。




「悪の龍シェルディア! 今日こそは貴様に引導を渡してやる!」

 先ほど逃げた勇者とは別の傭兵の一団が勢い良く玉座の間に乗り込んでくる。かるく二十人はいるだろうか。
 そんな彼らが見たのは、レイシスの腰に尻尾を巻きつけてその体を宙に浮かし、それを満足そうな顔で眺めていたシェルディアの姿だった。

「……なんだ。もう来たのか。気の早い連中だ」
「黙れ! 無抵抗の人間を嬲り、いいように辱める貴様の所業! もはや許してはおけん!」
「ああ、もういい。黙れ。面倒を見てやるから黙っていろ」

 先頭に立ち、声高に叫ぶ傭兵団のリーダーらしき男にそううんざりして答えながら、乱暴に尻尾を振り下ろしてレイシスを地面に叩きつける。その顔にシェルディアが顔を近づける。

「ごめんね?」
「大丈夫だよ。寧ろ好きなだけやっていいから」
「……この変態め♥」

 前に言ったよりもずっと熱の篭った口調で囁いた後、シェルディアは立ち上がって『連中のイメージ通りの雰囲気』を身に纏い、凄みのある視線を傭兵団にぶつけた。

「まあ、いい。来たからには歓迎しよう。ただし――」
「――ッ!」

 シェルディアが全身から魔力を解き放つ。その予想外の魔力の強力さに、集団で攻めればどうにかなると考えていたその屈強な傭兵達は思わずたじろいでしまった。
 その無様な姿を見て昏い笑みをこぼしながら、シェルディアが既に勝ち誇った口調で言った。

「簡単に逃げられると思うなよ?」




 魔王の代替わりによって魔物達が全て女性と化してから数年後、その宿場町に一人のドラゴンが降り立った。そのドラゴンはシェルディアと名乗った。
 その町では旧魔王の時代から奴隷売買が一般的に行われていた。そして今も平然と行われている人身売買の様を見て、シェルディアは怒りに燃えた。
 シェルディアはその怒りのままに奴隷の収容所を襲撃した。民兵を蹴散らし、鉄の檻を1つずつ素手でひん曲げていった。
 そしてその中でレイシスと出会った。
 シェルディアは一目惚れした。

「貴様、気に入ったぞ。ついてくるか、人間?」

 そう言って手を伸ばしたシェルディアに、レイシスはきっぱりと言ってのけた。

「僕はレイシスです。人間て名前じゃありません」
「……強いな。ますます惚れたよ」

 そうして奴隷商人ごと施設を文字通り『粉々』にした後、レイシスとシェルディアは一緒に古城へと向かった。だがその町のメインの財源を破壊されて、町長は我慢ならなかった。

「あの忌々しいドラゴンを殺せ! 金はいくらでも出す!」

 シェルディアはこうなる事を予測していた。そして存分に体を重ねあわせた後、彼女はベッドの上でレイシスにこう告げた。

「ねえレイくん、一つお願いがあるんだけど」

 この時、既にシェルディアは一匹のメストカゲと化していた。

「あのね、遠からず私の所に刺客がやってくると思うの」
「ああ、やっぱり……それで?」
「うん。それで、万が一の事なんだけど……もし万が一、私が負けた場合に備えて――」
「シェル!」
「お願い、最後まで聞いて」
「……うん」

 渋々黙ったレイシスに微笑み返して、シェルディアが続けた。

「ありがと。それで、万が一私が負けた場合に備えてなんだけど……私、連中の前では暴君でいようと思ってるの」
「どうして?」
「私が君を一方的に誘拐してイジメ抜いているって事にしておけば、私が倒れた後でも君は助かるかもしれないでしょ?」

 そのシェルディアの提案にレイシスは目を丸くした。

「そんな! それじゃあ君は、自分から悪名を背負おうって言うの!?」
「レイくんが助かるならそれでいいの」
「僕は嫌だ! シェルだけ貶められて、自分だけ助かるだなんて!」
「私は、あなたが死ぬのが一番イヤなの」
「……ッ」

 目を細めて睨みつけるシェルディアを前に、レイシスが息を呑む。
 拒絶を許さない、強い意志の込められた瞳。レイシスも負けじと睨み返したが、結局は彼が折れた。

「……わかった。君の好きにやって良いよ」
「本当に?」
「うん。ただし条件がある」

 レイシスはシェルディアの考えを採用する代わりに一つの条件を出した。
 曰く。

「負けないで」
「……え?」
「どれだけキツくいじめても構わない。僕の事は好きに使ってもいい。痛いのには慣れてるからね。だから――」

 負けないで。
 レイシスからの心からのお願いに、シェルディアが力強く頷いた。

「……うん。私負けない。絶対に負けない!」
「僕も君に協力する。出来る事は何でもやる。だから」
「うん。私も絶対に負けない。もう君を一人にはしない」
「シェルディア……」
「レイシス……!」




 そしてそれ以来、シェルディアは刺客の前でレイシスをボロ雑巾のように扱った。レイシスは文句ひとつ言わず、ただ為すがままに、彼女の仕掛けてくる行為を全身で受け止めた。
 いじめは苛烈を極めた。勇者達の前で失禁し、気絶したのも一度や二度ではなかった。そしてそんなレイシスを、シェルディアは『使えない玩具』と吐き捨てて何度も地面に叩きつけた。
 ごめんなさいと心の中で泣き叫びながら。
 しかしどれだけ罵声を浴びせられ、どれだけ辱めを受けようとも、レイシスはシェルディアを嫌いになろうとはしなかった。心の底で彼女が泣いているのを知っていたからだ。
 レイシスは彼女を支えようと誓った。どれだけ傷めつけられようとも彼女を支えていこうと固く誓った。そしてシェルディアもまた、自らが与えた傷を癒すように刺客のいない所で彼を深く愛した。
 いびつな形であったが、二人は強く結ばれていた。




「ふん、所詮貴様らもその程度だったか。傭兵が聞いて呆れる」
「く、くそっ……!」
「さて、貴様らはそこで見物していろ。今から楽しいショーを見せてやる」

 そう嘯きながら、シェルディアがレイシスの背後に立つ。

「――ッ! やめろ! そいつに何する気だ!?」
「SMプレイと言う奴だ。少し痛い目にあってらう……つもりだッ!」

 シェルディアの爪がレイシスの背中を裂く。

「が――ッ! あ――」
「ハハハハハッ! 痛いか!? 痛いのか!? 痛いくせにここはしっかり反応しているんだなあ!」
「ふああっ!」

 そう罵りながら尻尾を前に回し、ズボンの上から存在を主張し始めた肉棒を締め上げる。半殺しになった傭兵連中は悔しさに顔を歪ませ、その憎悪をシェルディアに向ける。

「フフフ……貴様はずっと私のモノだ。私の玩具だ。絶対に、絶対に逃しはしないぞ……フフフフッ♪」

 全て計画通り。




 全ては愛するレイシスを守るため。
 全ては愛するシェルディアに尽くすため。
 二人は今日も、敵に対して一芝居打つのだった。

12/08/24 08:17更新 / 蒲焼

■作者メッセージ
ギャップ萌えってゾクゾクしますよね。

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