サイクロプスの秘密の遊び
サイクロプスの殆どは鍛冶をして暮らしている。
彼女達はその誰もが神業級の鍛冶の腕を持っていたのだが、同時にその誰もが進んで人前に出たり、大きな町に出向いてそこで鍛冶屋を営もうとはしなかった。このように他人と触れ合うのを避けるのは、自分達が単眼である事に劣等感を持っているからだとも言われているが、正確な事は判らなかった。
とにかくサイクロプスはそのような特徴を持っていたので、彼女達が開く鍛冶屋も町や集落からずっと離れた所にひっそりと存在している事が普通であった。そして偶然そこを見つけた者だけが、そのサイクロプスの持つ神の如き腕にあやかる事が出来るのだ。
そしてサイクロプスのキャスもそれと全く同じ理由から人の寄り付かない樹海の中に鍛冶屋を開き、また冒険者のウィンは旅の途中に偶然そこを見つけ、以来そこを利用していたのだった。
「じゃあこれ、いつも通りによろしくね」
「うん……わかった……」
そして今日も鍛冶場兼生家の小屋の中でお得意様であるウィンが差し出した剣を受け取りながら、キャスは小さい声で了承の返事を返した。
ウィンは親魔物寄りの考えを持つ若い冒険者であり、子供の頃から大陸中に散らばる遺跡や古戦場跡に出向いては珍しい武具や装飾品をかき集め、それらを鍛冶屋で直してもらってから市場に売りだして生計を立てていた。修復の費用は一緒に持って来た財宝の一部で支払っていた。
キャスの店を見つける前は人間の鍛冶屋に修復を頼んだりしていたのだが、彼女の店を見つけ、彼女の奇跡とも思われる腕に驚愕してからは、もう彼女の処以外の店で修復を頼む事は無くなってしまった。
「ほ、他には? 他にはないの?」
「ああ、ちょっと待ってて。今持ってくるから」
キャスの言葉にウィンがそう返し、一度小屋の外に出てそこに留めてあった荷車に向かった。そして暫くしてから背中にパンパンに膨れ上がった白い布袋を担ぎながらウィンがキャスの元に戻ってきた。そしてキャスの目の前でウィンが袋の封を開ける。
「今日はこのくらいかな」
「うわあ……!」
キャスが驚きの声を上げ、それを見たウィンがどこか自慢げに言った。
剣、鎧、盾、兜。錆びて朽ち果てた物から新品同様の輝きを放つ物まで、ありとあらゆる武具がその袋の中に入っていた。さらに金や銀の塊からそれらを加工して作られた豪華な装飾品などが、その中に混じって燦爛たる光を放っていた。
「この前入った遺跡が『当たり』でね。色々面白いのが見つかったんだよ」
「凄い……こんなに……」
ウィンの説明を耳に入れながらキャスがその場に腰を下ろし、鞘に納められた状態の鋼鉄の剣を真っ先に手にとった。
「ああ、やっぱりお宝よりそっちに手が出るんだ」
「わ、私にとっては、こっちの方がお宝だから……」
いきなり話しかけられたからか、キャスが顔を耳まで赤くして答える。その姿を微笑ましく見つめながら、ウィンが不意に自分の懐に手を伸ばした。
「それとさ、キャス」
「え、なに?」
剣を鞘から引き抜き、その汚れ一つない刀身にうっとりしていたキャスが、そのだらしない顔を引き締めて立ち上がりウィンに向き直る。その顔を間近に見て今度はウィンが顔を赤くしながら、懐に突っ込んでいた手を抜いてその中にあった横長の箱をキャスに差し出した。
「これは?」
「遺跡の中でみつけたんだ。あげるよ」
「あ、あげるって、どうして?」
「いつもお世話になってるしさ。その感謝の気持ちだよ」
緊張で僅かに震えていたウィンの掌にあったその箱を、キャスが恐る恐る受け取って封を開く。
その瞬間、キャスの顔が驚きと喜びでいっぱいになった。
「これって……!」
「気に入ってくれるとありがたいんだけど、どうかな?」
それは一振りのナイフだった。それも刃から柄までが鈍い銀色の輝きを放つ、装飾を一切廃しひたすら実用性を求めて作られた無骨な代物だった。
だが二人にとっては、その方が遥かに値打ちのある物だった。外見だけ取り繕っておいて中身はおざなりにして、肝心な時にへし折れるような不良品などこちらから願い下げであったからだ。
「あ――」
それに何より、キャスは今まで異性からプレゼントと言う物を貰った事がなかった。だからウィンから贈られたそのナイフは、彼女にとって眼前で爆弾が爆発したかの如き衝撃を彼女に与えたのだった。
「嬉しい……!」
「本当!? 良かった!」
その感想を聞いて、ウィンもまた安心したように頬をほころばせる。そして上機嫌な様子で袋とその中身を置いたままキャスに言った。
「じゃあ、俺はこれで。支払いとかはいつも通り、そこにある奴を好きに使っていいから」
「うん、わかった」
キャスが笑顔で返す。それを聞き届けたウィンは彼女に背を向け、外に出て荷車を押しかけた所で立ち止まり、キャスの方を向いてウィンが言った。
「また来るから!」
キャスはその一言を聞いてたまらなく嬉しい気持ちになったが、彼女が何か言葉を返そうとする前にウィンはそそくさと立ち去っていってしまった。
ウィンが去ってから、キャスは気持ちを切り替えて仕事にかかろうとした。
「……はあ」
だが直す武具と修復用具一式を揃えて作業場に着いた所で、彼女の腕は一向に動こうとはしなかった。眼前にある溶鉱炉に火を点ける事もせず、ただ岩塊を四角に切り揃えただけの無骨な椅子に座り腿に肘を載せ、両の掌の上に顎を乗せたまま終始上の空であった。
「……はあ」
いつもならこの時点で、対象となる武具の修復手順とその完成図がその頭の中に浮かび上がっているところだった。そして彼女のそれまで蓄えた知識と直感から選び抜いた、それらの武具を直す際に必要な素材のリストも。
だが今、彼女の頭の中に描かれていたのはそれとは全く違う物だった。
「ウィン……」
本来作業のために使うべき脳内のスペースを、あの冒険者の青年の顔が完全に占拠していたのだ。
キャスはウィンに恋していた。初めて出会った時から今に至るまで、彼女を怖がったり「魔物だから」と憎んだりせずにいつも自然に接して来たウィンに、キャスはいつの頃からか恋心を抱いていたのだ。
だがそれを言葉に出そうと思った事は一度もなかった。
「……はあ」
根暗な自分と明るい彼とでは全く釣り合う気がしない。それに口下手で、うまく自分の気持ちを彼に伝えられる自信もない。最後の手段として「あなたの為に武器を作るから、代わりにあなたの精を貰いたい」と頼み込むと言うのもあったが、それ以前にキャスはウィンの棲家の場所を知らなかった。合った時に尋ねる勇気もない。
そして何より、自分は一つ目だ。
「……」
その最後の事実が、彼女をいつも絶望の淵に叩き落としていた。自分が化け物であると言う何よりの証。人間と根暗な化け物の恋は実るはずがないと、殆ど諦めていた。
だからウィンと話す時は、自分の感情を押し殺していようと常に心を頑なにしていた。本心を心の底に閉じ込めて蓋をして、必死に自分自身を押し殺していた。
だがそれも、あの時ウィンが手渡した『プレゼント』で全て台無しになってしまった。
蓋が外れ、『好き』と言う気持ちで心が溢れ返ってしまっていた。
好きと言ってしまいたい。でもそれで嫌われたくないそのジレンマで、彼女の胸は張り裂けそうになっていた。
「あ……」
その相反する気持ちに挟まれる中で、キャスは気づいた時にはウィンから貰ったナイフを握りしめていた。まるでここにはいない彼に助けを求めるかのように。
「……」
藁にも縋るような気持ちで、その真円状の柄を――横向きの溝が上から下まで等間隔で刻まれたその金属製の棒を、両手でしっかりと握り締める。
「ウィン……」
ウィンがくれたナイフを目に焼き付けるように凝視する。
ウィンが見つけ、手に取ったナイフを。
ウィンの匂いと体温を吸い取り、それまでウィンの温もりに包まれていたそのナイフを。
「……」
照明を受けた刃が跳ね返す銀色の光に中てられたかのように、キャスの頭に桃色の靄がかかり始める。理性や躊躇いを奪い、ひたすら恋慕と情欲に狂わせる悦楽の靄。
キャスはそれを否定しなかった。否定するだけの時間さえ与えられなかった。魔王の代替わりと共に心に抱いた愛を受け入れ、快楽と共に生きるように作りなおされた、全ての魔物の性である。
「ウィン」
うわ言のように恋い慕う者の名を呼びながら立ち上がり、反対側にある作業台の上に置いてあったミトン――耐熱・防刃製の高い頑丈な代物である――を取って両手にはめる。
「ウィン」
そして向き直り、椅子の上に置いておいたナイフの刃先の方を、そのミトンをはめた手で握り締める。
銀色の柄を、ウィンとキャスの体温を備えた棒を、愛でるようにじっと見つめる。
「ウィン……ん……」
口を開き、唾液で濡れそぼった真っ赤な舌を突き出し、先端を棒に押し当てる。
「ん……」
最初はそっと、躊躇いがちに。体温の残滓が残る温く無機質な感覚を舌先で味わう。
「はあ……ん、あむ……」
そして次第に大胆に。舌全体を使ってその棒を絡め取るように舐めしゃぶる。柄の先端から根元まで、はしたなく水音を立てながら口の中へと咥えこんでいく。
「じゅる……ん、ぴちゅ……ぶじゅる、ちゅるっ……はあ、あ……ぴちゅ……」
口から漏れた唾液が刃を伝ってミトンに垂れ落ちるほどに、狂ったように口をすぼめて顔を上下させる。そんなキャスの頭の中では、もはやそれは只の柄ではなくなっていた。
「ん、ちゅるっ……すき、はあ……好きだよ、ウィン……あむ、ぴちゅ……」
それはウィンの――愛しい男の肉棒と化していた。
「ん、ちゅる、好き、すき、すきすきすき……んっ!」
強くしないように。刺激を与え過ぎないように。時々加減を和らげて、再び強くするように。
鍛冶をするのと同じように繊細な力加減でもってウィンの肉棒を舐めしゃぶり、彼に気持ちよくなってもらおうと懇切丁寧に奉仕する。
そして無意識の内に、彼女はミトンの片方を脱ぎ捨ててその手を股座に這わせ、自らの秘所に指を挿しこんでいた。
割れ目からは愛液が止めどなく溢れだしており、キャスの指によってそれは更に増幅された。腰布がずり落ちるのも気にせずに、割れ目に指を挿しこみ前後左右に動かしていく。
「ちゅ、くちゅ、じゅるるっ、好きっ……ん、あん! やあん! ……ぴちゅ、ちゅるっ」
ぐちゃぐちゃと上からも下からも卑猥な音を響かせ、それを耳にしたキャスは否が応にも羞恥を膨れ上がらせていった。そしてその羞恥はすぐさま快感へと変じ、彼女を更に高みへと上り詰める。
「ああ! ああん! んっ、んん! じゅぷ、ぴちゃ、くちゃ……ん! 好き、ちゅちゅっ、じゅる……好きぃ!」
ぐっちゃぐっちゃぐっちゃぐっちゃ。
じゅっぽじゅっぽじゅっぽじゅっぽ。
何度も何度も、求めるように柄をしゃぶる。そのドロドロに蕩けきった心の底では、尚もそれを下品とも淫乱とも思える程にしっかりと自意識が保たれていたが、それが却って羞恥を燃え上がらせ、背徳の炎を更に強烈な物としていく。
「じゅぷ、ちゅっ……あん! やん! ふわ、ふわああああん!」
そしてそれを強く認識した時、キャスの精神と肉体にトドメが刺された。
「あん、はあ、じゅぷ、くぷっ……や、くる、きちゃうっ!」
絶頂の波がとてつもない快楽と共に押し寄せてくる。正面から迫り来る津波を一人で待ち構えるがごとく、その強烈な波を前にキャスは一瞬恐怖する。だがそれはすぐに期待と興奮に塗りつぶされ、柄から口を離して舌を突き出し、涙と唾液をダラダラ垂れ流しながらそれの到来を懇願する。
「はあ、く、くるッ! ウィン! ウィンッ! わたしきちゃうッ! わたし、イク、イッちゃううううん!」
キャスが普段出すことの無い、あられもない咆哮を上げる。その直後、彼女の意識を絶頂の大波が食い潰す。
「イッちゃ、イッちゃ……ふやあああああああああああん♪」
一度だけではない。何度も何度も、彼女の意識を高みへと舞い上がらせる。
「イクん♪ イクん♪ ああああん♪ イクイクイクイクイクイク、イッちゃうううううううんんんんん♪」
暫くの間、その作業場から嬌声が途切れる事は無かった。
「はあ……」
絶頂の波から開放され、ようやっと意識を取り戻した後、キャスはどうしようもない程に自己嫌悪に陥っていた。
「……やっちゃった……」
キャスはそう力なく呟きながら、ナイフと床を交互に見やった。
床には自ら垂れ流した愛液と潮でびちゃびちゃに濡れそぼり、ナイフはその柄から刃まで唾液でびっしょりだった。
そんな惨状を目の当たりにして、キャスはますます落ち込んでいく。
「……はあ」
もしこんな所を見られたら?
もし自分がこんなはしたない事をしているとバレたら?
もしウィンにこの事が露見したら?
落ち込めば落ち込むほど、ネガティブなイメージばかりが頭の中に広がっていく。そうして心が深く沈み込んでいく中で、キャスの視界にある物が映った。
「あ……そうだ……」
床に転がったまま放置されていた無傷な武具と作業用具を見て、キャスは自分が何をすべきかを今更ながらに思い出した。
「仕事……仕事しなきゃ……」
修復作業。その自身に課せられた使命が、朦朧としていた彼女の意識を再び水面上に引き上げる。
「仕事しよう……仕事して、全部忘れよう……」
そして頬を両手で強く叩き、打ち沈んだ心に活を入れ、それまで自分が抱いていた昏い気持ちを払拭するかのように作業に打ち込み始めた。
「はい。出来たよ」
「ああ! ありがとう!」
それから四日後、キャスはウィンに自分が直した武具たちを手渡した。そのどれもが新品同様に輝いており、強度の面も普通に使って何ら問題ないレベルにまで鍛え直されていた。
たとえテンションが底辺値にあろうとも、決して作業の手は抜かない。キャスの鍛冶屋としての――サイクロプスとしてのプライドのなせる成果であった。
「相変わらず凄いね! ちょっと前まで埃かぶってたのに、こんなに凄い物に生まれ変わらせる事が出来るなんて!」
生まれ変わった鎧の表面を拳で軽く叩きながら、子供のように明るい表情でウィンが言った。そのウィンの嬉しげな顔を見るのがキャスの一番の楽しみであったのだが、この時ばかりはそんな彼の笑顔を見て、キャスは前に自分がしでかした事を思い出して更なる自己嫌悪に陥っていた。
最初の一回をしてからと言うもの、キャスは他の刀剣類――柄のある物を使って自慰行為に耽る事が何度かあった。その場にウィンはいなかったのでバレている筈も無いのだが、それでも『ウィンの持って来た武器で自慰をした』と言う事実はキャスの心の中に重く伸し掛かり、ウィンに対する負い目を更に強くしていく事となった。
「うん、これも……これも……全部新品にしか見えない! やっぱりキャスに頼んで良かったよ!」
ウィンが自分が『使った』剣の柄を持つのが見えて、一瞬ドキリとする。だが使用後にしっかり汚れを洗い落としたのでウィンはそれに気づくはずもなく、満足した顔でその剣を荷車――前と同じ荷車だ――の中に入れていく。そしてウィンは全ての武具の点検を終え、それら全てを荷車に乗せた後で実に上機嫌な顔でキャスに向き直った。
「いつもありがとうな! キャスに頼んで、本当良かったと思ってるよ!」
「う、うん……」
「それとさ、この前渡したナイフだけどさ、あれちゃんと役に立ってるかな?」
「も、もちろん。ちゃんと役に立ってるよ……?」
そう、ちゃんと『役に立っていた』。
顔を真っ赤にしてそう返したキャスだったが、その言葉の持つ本当の意味に気付くことも無くウィンが顔を喜びに輝かせて言った。
「そう!? いやあ、良かった! 最初はこれが恩返しに渡す物でいいのかなって思ったりもしたんだけど、キャスが喜んでくれて本当に良かったよ!」
「え、ええ。私こそ、こんなに良い物を貰って、とても嬉しいわ。ありがとうね……」
切れ切れにそう言ったキャスに対してウィンが更に明るい笑顔を向け、そして「じゃあ次はもっと凄いの探してこようかな!」と言ってから荷車に向かった。
「ま、待って」
キャスがウィンを呼び止めたのはその時だった。足を止めキャスの方を向くウィンに、組み合わせた両手を胸元に押し当てるようにしながらキャスが言った。
「あ、あの、その……」
「どうしたの?」
ウィンが一歩前に出る。そんなウィンに向けて精一杯の笑顔を作りながらキャスが言った。
「ま、また、待ってるから」
「え?」
「もっと、もっと完璧に仕上げてみせるから、だから次も、その……ご贔屓に……」
恥ずかしさで最後の方を消え入りそうな声で放ってしまったキャスに対して、ウィンはその日一番の明るい表情で返した。
「ああ! 次も沢山持ってまた来るから、その時は宜しくな!」
「う、うん! 私も待ってるから。よ、よろしくね……!」
互いにそう言い合った後、ウィンは悠々と荷車を引いて元来た道へと帰っていった。その背中を、キャスはそれが消え去るまでただ黙って見つめ続けていた。
「また来る、か……」
ウィンの姿が見えなくなった後、キャスは小屋に戻ってウィンから渡されたナイフを弄んでいた。
「また、来る……」
また来る、と言うウィンの言葉を、キャスは飽きもせずに反芻し続けていた。
今まではキャスはその言葉だけで天にも昇る気持ちになった。また彼に会えるからだ。だが今はそれ以外にも、彼が再び来る事に対して喜びを感じる理由があった。
「また、来る……いっぱい持って……」
武具を持ってやって来る。
剣やナイフを持って。
柄を――あのまっすぐにそそり立つ棒を持つ物を。
太いモノ。細いモノ。長いモノに短いモノ。
ああ、次はどんな武器でシようかな……?
どれをウィンにしようかな……?
「……ふふっ♪」
その逆手に持ったナイフの柄の先端を、まるで鈴口をつつくように舌の先端で触れ合わせながら、キャスがぞっとするほど淫らに蕩けた笑みをこぼす。
胸の内に燻り始めた黒い情念を、キャスはもう隠そうとはしなかった。
彼女達はその誰もが神業級の鍛冶の腕を持っていたのだが、同時にその誰もが進んで人前に出たり、大きな町に出向いてそこで鍛冶屋を営もうとはしなかった。このように他人と触れ合うのを避けるのは、自分達が単眼である事に劣等感を持っているからだとも言われているが、正確な事は判らなかった。
とにかくサイクロプスはそのような特徴を持っていたので、彼女達が開く鍛冶屋も町や集落からずっと離れた所にひっそりと存在している事が普通であった。そして偶然そこを見つけた者だけが、そのサイクロプスの持つ神の如き腕にあやかる事が出来るのだ。
そしてサイクロプスのキャスもそれと全く同じ理由から人の寄り付かない樹海の中に鍛冶屋を開き、また冒険者のウィンは旅の途中に偶然そこを見つけ、以来そこを利用していたのだった。
「じゃあこれ、いつも通りによろしくね」
「うん……わかった……」
そして今日も鍛冶場兼生家の小屋の中でお得意様であるウィンが差し出した剣を受け取りながら、キャスは小さい声で了承の返事を返した。
ウィンは親魔物寄りの考えを持つ若い冒険者であり、子供の頃から大陸中に散らばる遺跡や古戦場跡に出向いては珍しい武具や装飾品をかき集め、それらを鍛冶屋で直してもらってから市場に売りだして生計を立てていた。修復の費用は一緒に持って来た財宝の一部で支払っていた。
キャスの店を見つける前は人間の鍛冶屋に修復を頼んだりしていたのだが、彼女の店を見つけ、彼女の奇跡とも思われる腕に驚愕してからは、もう彼女の処以外の店で修復を頼む事は無くなってしまった。
「ほ、他には? 他にはないの?」
「ああ、ちょっと待ってて。今持ってくるから」
キャスの言葉にウィンがそう返し、一度小屋の外に出てそこに留めてあった荷車に向かった。そして暫くしてから背中にパンパンに膨れ上がった白い布袋を担ぎながらウィンがキャスの元に戻ってきた。そしてキャスの目の前でウィンが袋の封を開ける。
「今日はこのくらいかな」
「うわあ……!」
キャスが驚きの声を上げ、それを見たウィンがどこか自慢げに言った。
剣、鎧、盾、兜。錆びて朽ち果てた物から新品同様の輝きを放つ物まで、ありとあらゆる武具がその袋の中に入っていた。さらに金や銀の塊からそれらを加工して作られた豪華な装飾品などが、その中に混じって燦爛たる光を放っていた。
「この前入った遺跡が『当たり』でね。色々面白いのが見つかったんだよ」
「凄い……こんなに……」
ウィンの説明を耳に入れながらキャスがその場に腰を下ろし、鞘に納められた状態の鋼鉄の剣を真っ先に手にとった。
「ああ、やっぱりお宝よりそっちに手が出るんだ」
「わ、私にとっては、こっちの方がお宝だから……」
いきなり話しかけられたからか、キャスが顔を耳まで赤くして答える。その姿を微笑ましく見つめながら、ウィンが不意に自分の懐に手を伸ばした。
「それとさ、キャス」
「え、なに?」
剣を鞘から引き抜き、その汚れ一つない刀身にうっとりしていたキャスが、そのだらしない顔を引き締めて立ち上がりウィンに向き直る。その顔を間近に見て今度はウィンが顔を赤くしながら、懐に突っ込んでいた手を抜いてその中にあった横長の箱をキャスに差し出した。
「これは?」
「遺跡の中でみつけたんだ。あげるよ」
「あ、あげるって、どうして?」
「いつもお世話になってるしさ。その感謝の気持ちだよ」
緊張で僅かに震えていたウィンの掌にあったその箱を、キャスが恐る恐る受け取って封を開く。
その瞬間、キャスの顔が驚きと喜びでいっぱいになった。
「これって……!」
「気に入ってくれるとありがたいんだけど、どうかな?」
それは一振りのナイフだった。それも刃から柄までが鈍い銀色の輝きを放つ、装飾を一切廃しひたすら実用性を求めて作られた無骨な代物だった。
だが二人にとっては、その方が遥かに値打ちのある物だった。外見だけ取り繕っておいて中身はおざなりにして、肝心な時にへし折れるような不良品などこちらから願い下げであったからだ。
「あ――」
それに何より、キャスは今まで異性からプレゼントと言う物を貰った事がなかった。だからウィンから贈られたそのナイフは、彼女にとって眼前で爆弾が爆発したかの如き衝撃を彼女に与えたのだった。
「嬉しい……!」
「本当!? 良かった!」
その感想を聞いて、ウィンもまた安心したように頬をほころばせる。そして上機嫌な様子で袋とその中身を置いたままキャスに言った。
「じゃあ、俺はこれで。支払いとかはいつも通り、そこにある奴を好きに使っていいから」
「うん、わかった」
キャスが笑顔で返す。それを聞き届けたウィンは彼女に背を向け、外に出て荷車を押しかけた所で立ち止まり、キャスの方を向いてウィンが言った。
「また来るから!」
キャスはその一言を聞いてたまらなく嬉しい気持ちになったが、彼女が何か言葉を返そうとする前にウィンはそそくさと立ち去っていってしまった。
ウィンが去ってから、キャスは気持ちを切り替えて仕事にかかろうとした。
「……はあ」
だが直す武具と修復用具一式を揃えて作業場に着いた所で、彼女の腕は一向に動こうとはしなかった。眼前にある溶鉱炉に火を点ける事もせず、ただ岩塊を四角に切り揃えただけの無骨な椅子に座り腿に肘を載せ、両の掌の上に顎を乗せたまま終始上の空であった。
「……はあ」
いつもならこの時点で、対象となる武具の修復手順とその完成図がその頭の中に浮かび上がっているところだった。そして彼女のそれまで蓄えた知識と直感から選び抜いた、それらの武具を直す際に必要な素材のリストも。
だが今、彼女の頭の中に描かれていたのはそれとは全く違う物だった。
「ウィン……」
本来作業のために使うべき脳内のスペースを、あの冒険者の青年の顔が完全に占拠していたのだ。
キャスはウィンに恋していた。初めて出会った時から今に至るまで、彼女を怖がったり「魔物だから」と憎んだりせずにいつも自然に接して来たウィンに、キャスはいつの頃からか恋心を抱いていたのだ。
だがそれを言葉に出そうと思った事は一度もなかった。
「……はあ」
根暗な自分と明るい彼とでは全く釣り合う気がしない。それに口下手で、うまく自分の気持ちを彼に伝えられる自信もない。最後の手段として「あなたの為に武器を作るから、代わりにあなたの精を貰いたい」と頼み込むと言うのもあったが、それ以前にキャスはウィンの棲家の場所を知らなかった。合った時に尋ねる勇気もない。
そして何より、自分は一つ目だ。
「……」
その最後の事実が、彼女をいつも絶望の淵に叩き落としていた。自分が化け物であると言う何よりの証。人間と根暗な化け物の恋は実るはずがないと、殆ど諦めていた。
だからウィンと話す時は、自分の感情を押し殺していようと常に心を頑なにしていた。本心を心の底に閉じ込めて蓋をして、必死に自分自身を押し殺していた。
だがそれも、あの時ウィンが手渡した『プレゼント』で全て台無しになってしまった。
蓋が外れ、『好き』と言う気持ちで心が溢れ返ってしまっていた。
好きと言ってしまいたい。でもそれで嫌われたくないそのジレンマで、彼女の胸は張り裂けそうになっていた。
「あ……」
その相反する気持ちに挟まれる中で、キャスは気づいた時にはウィンから貰ったナイフを握りしめていた。まるでここにはいない彼に助けを求めるかのように。
「……」
藁にも縋るような気持ちで、その真円状の柄を――横向きの溝が上から下まで等間隔で刻まれたその金属製の棒を、両手でしっかりと握り締める。
「ウィン……」
ウィンがくれたナイフを目に焼き付けるように凝視する。
ウィンが見つけ、手に取ったナイフを。
ウィンの匂いと体温を吸い取り、それまでウィンの温もりに包まれていたそのナイフを。
「……」
照明を受けた刃が跳ね返す銀色の光に中てられたかのように、キャスの頭に桃色の靄がかかり始める。理性や躊躇いを奪い、ひたすら恋慕と情欲に狂わせる悦楽の靄。
キャスはそれを否定しなかった。否定するだけの時間さえ与えられなかった。魔王の代替わりと共に心に抱いた愛を受け入れ、快楽と共に生きるように作りなおされた、全ての魔物の性である。
「ウィン」
うわ言のように恋い慕う者の名を呼びながら立ち上がり、反対側にある作業台の上に置いてあったミトン――耐熱・防刃製の高い頑丈な代物である――を取って両手にはめる。
「ウィン」
そして向き直り、椅子の上に置いておいたナイフの刃先の方を、そのミトンをはめた手で握り締める。
銀色の柄を、ウィンとキャスの体温を備えた棒を、愛でるようにじっと見つめる。
「ウィン……ん……」
口を開き、唾液で濡れそぼった真っ赤な舌を突き出し、先端を棒に押し当てる。
「ん……」
最初はそっと、躊躇いがちに。体温の残滓が残る温く無機質な感覚を舌先で味わう。
「はあ……ん、あむ……」
そして次第に大胆に。舌全体を使ってその棒を絡め取るように舐めしゃぶる。柄の先端から根元まで、はしたなく水音を立てながら口の中へと咥えこんでいく。
「じゅる……ん、ぴちゅ……ぶじゅる、ちゅるっ……はあ、あ……ぴちゅ……」
口から漏れた唾液が刃を伝ってミトンに垂れ落ちるほどに、狂ったように口をすぼめて顔を上下させる。そんなキャスの頭の中では、もはやそれは只の柄ではなくなっていた。
「ん、ちゅるっ……すき、はあ……好きだよ、ウィン……あむ、ぴちゅ……」
それはウィンの――愛しい男の肉棒と化していた。
「ん、ちゅる、好き、すき、すきすきすき……んっ!」
強くしないように。刺激を与え過ぎないように。時々加減を和らげて、再び強くするように。
鍛冶をするのと同じように繊細な力加減でもってウィンの肉棒を舐めしゃぶり、彼に気持ちよくなってもらおうと懇切丁寧に奉仕する。
そして無意識の内に、彼女はミトンの片方を脱ぎ捨ててその手を股座に這わせ、自らの秘所に指を挿しこんでいた。
割れ目からは愛液が止めどなく溢れだしており、キャスの指によってそれは更に増幅された。腰布がずり落ちるのも気にせずに、割れ目に指を挿しこみ前後左右に動かしていく。
「ちゅ、くちゅ、じゅるるっ、好きっ……ん、あん! やあん! ……ぴちゅ、ちゅるっ」
ぐちゃぐちゃと上からも下からも卑猥な音を響かせ、それを耳にしたキャスは否が応にも羞恥を膨れ上がらせていった。そしてその羞恥はすぐさま快感へと変じ、彼女を更に高みへと上り詰める。
「ああ! ああん! んっ、んん! じゅぷ、ぴちゃ、くちゃ……ん! 好き、ちゅちゅっ、じゅる……好きぃ!」
ぐっちゃぐっちゃぐっちゃぐっちゃ。
じゅっぽじゅっぽじゅっぽじゅっぽ。
何度も何度も、求めるように柄をしゃぶる。そのドロドロに蕩けきった心の底では、尚もそれを下品とも淫乱とも思える程にしっかりと自意識が保たれていたが、それが却って羞恥を燃え上がらせ、背徳の炎を更に強烈な物としていく。
「じゅぷ、ちゅっ……あん! やん! ふわ、ふわああああん!」
そしてそれを強く認識した時、キャスの精神と肉体にトドメが刺された。
「あん、はあ、じゅぷ、くぷっ……や、くる、きちゃうっ!」
絶頂の波がとてつもない快楽と共に押し寄せてくる。正面から迫り来る津波を一人で待ち構えるがごとく、その強烈な波を前にキャスは一瞬恐怖する。だがそれはすぐに期待と興奮に塗りつぶされ、柄から口を離して舌を突き出し、涙と唾液をダラダラ垂れ流しながらそれの到来を懇願する。
「はあ、く、くるッ! ウィン! ウィンッ! わたしきちゃうッ! わたし、イク、イッちゃううううん!」
キャスが普段出すことの無い、あられもない咆哮を上げる。その直後、彼女の意識を絶頂の大波が食い潰す。
「イッちゃ、イッちゃ……ふやあああああああああああん♪」
一度だけではない。何度も何度も、彼女の意識を高みへと舞い上がらせる。
「イクん♪ イクん♪ ああああん♪ イクイクイクイクイクイク、イッちゃうううううううんんんんん♪」
暫くの間、その作業場から嬌声が途切れる事は無かった。
「はあ……」
絶頂の波から開放され、ようやっと意識を取り戻した後、キャスはどうしようもない程に自己嫌悪に陥っていた。
「……やっちゃった……」
キャスはそう力なく呟きながら、ナイフと床を交互に見やった。
床には自ら垂れ流した愛液と潮でびちゃびちゃに濡れそぼり、ナイフはその柄から刃まで唾液でびっしょりだった。
そんな惨状を目の当たりにして、キャスはますます落ち込んでいく。
「……はあ」
もしこんな所を見られたら?
もし自分がこんなはしたない事をしているとバレたら?
もしウィンにこの事が露見したら?
落ち込めば落ち込むほど、ネガティブなイメージばかりが頭の中に広がっていく。そうして心が深く沈み込んでいく中で、キャスの視界にある物が映った。
「あ……そうだ……」
床に転がったまま放置されていた無傷な武具と作業用具を見て、キャスは自分が何をすべきかを今更ながらに思い出した。
「仕事……仕事しなきゃ……」
修復作業。その自身に課せられた使命が、朦朧としていた彼女の意識を再び水面上に引き上げる。
「仕事しよう……仕事して、全部忘れよう……」
そして頬を両手で強く叩き、打ち沈んだ心に活を入れ、それまで自分が抱いていた昏い気持ちを払拭するかのように作業に打ち込み始めた。
「はい。出来たよ」
「ああ! ありがとう!」
それから四日後、キャスはウィンに自分が直した武具たちを手渡した。そのどれもが新品同様に輝いており、強度の面も普通に使って何ら問題ないレベルにまで鍛え直されていた。
たとえテンションが底辺値にあろうとも、決して作業の手は抜かない。キャスの鍛冶屋としての――サイクロプスとしてのプライドのなせる成果であった。
「相変わらず凄いね! ちょっと前まで埃かぶってたのに、こんなに凄い物に生まれ変わらせる事が出来るなんて!」
生まれ変わった鎧の表面を拳で軽く叩きながら、子供のように明るい表情でウィンが言った。そのウィンの嬉しげな顔を見るのがキャスの一番の楽しみであったのだが、この時ばかりはそんな彼の笑顔を見て、キャスは前に自分がしでかした事を思い出して更なる自己嫌悪に陥っていた。
最初の一回をしてからと言うもの、キャスは他の刀剣類――柄のある物を使って自慰行為に耽る事が何度かあった。その場にウィンはいなかったのでバレている筈も無いのだが、それでも『ウィンの持って来た武器で自慰をした』と言う事実はキャスの心の中に重く伸し掛かり、ウィンに対する負い目を更に強くしていく事となった。
「うん、これも……これも……全部新品にしか見えない! やっぱりキャスに頼んで良かったよ!」
ウィンが自分が『使った』剣の柄を持つのが見えて、一瞬ドキリとする。だが使用後にしっかり汚れを洗い落としたのでウィンはそれに気づくはずもなく、満足した顔でその剣を荷車――前と同じ荷車だ――の中に入れていく。そしてウィンは全ての武具の点検を終え、それら全てを荷車に乗せた後で実に上機嫌な顔でキャスに向き直った。
「いつもありがとうな! キャスに頼んで、本当良かったと思ってるよ!」
「う、うん……」
「それとさ、この前渡したナイフだけどさ、あれちゃんと役に立ってるかな?」
「も、もちろん。ちゃんと役に立ってるよ……?」
そう、ちゃんと『役に立っていた』。
顔を真っ赤にしてそう返したキャスだったが、その言葉の持つ本当の意味に気付くことも無くウィンが顔を喜びに輝かせて言った。
「そう!? いやあ、良かった! 最初はこれが恩返しに渡す物でいいのかなって思ったりもしたんだけど、キャスが喜んでくれて本当に良かったよ!」
「え、ええ。私こそ、こんなに良い物を貰って、とても嬉しいわ。ありがとうね……」
切れ切れにそう言ったキャスに対してウィンが更に明るい笑顔を向け、そして「じゃあ次はもっと凄いの探してこようかな!」と言ってから荷車に向かった。
「ま、待って」
キャスがウィンを呼び止めたのはその時だった。足を止めキャスの方を向くウィンに、組み合わせた両手を胸元に押し当てるようにしながらキャスが言った。
「あ、あの、その……」
「どうしたの?」
ウィンが一歩前に出る。そんなウィンに向けて精一杯の笑顔を作りながらキャスが言った。
「ま、また、待ってるから」
「え?」
「もっと、もっと完璧に仕上げてみせるから、だから次も、その……ご贔屓に……」
恥ずかしさで最後の方を消え入りそうな声で放ってしまったキャスに対して、ウィンはその日一番の明るい表情で返した。
「ああ! 次も沢山持ってまた来るから、その時は宜しくな!」
「う、うん! 私も待ってるから。よ、よろしくね……!」
互いにそう言い合った後、ウィンは悠々と荷車を引いて元来た道へと帰っていった。その背中を、キャスはそれが消え去るまでただ黙って見つめ続けていた。
「また来る、か……」
ウィンの姿が見えなくなった後、キャスは小屋に戻ってウィンから渡されたナイフを弄んでいた。
「また、来る……」
また来る、と言うウィンの言葉を、キャスは飽きもせずに反芻し続けていた。
今まではキャスはその言葉だけで天にも昇る気持ちになった。また彼に会えるからだ。だが今はそれ以外にも、彼が再び来る事に対して喜びを感じる理由があった。
「また、来る……いっぱい持って……」
武具を持ってやって来る。
剣やナイフを持って。
柄を――あのまっすぐにそそり立つ棒を持つ物を。
太いモノ。細いモノ。長いモノに短いモノ。
ああ、次はどんな武器でシようかな……?
どれをウィンにしようかな……?
「……ふふっ♪」
その逆手に持ったナイフの柄の先端を、まるで鈴口をつつくように舌の先端で触れ合わせながら、キャスがぞっとするほど淫らに蕩けた笑みをこぼす。
胸の内に燻り始めた黒い情念を、キャスはもう隠そうとはしなかった。
12/09/15 01:09更新 / 蒲焼