ぷろろーぐ:全ての始まりは。
人は、自分にはないモンに憧れる。
体操選手とか、サッカー選手とか…凄い、カッコイイって思うだろう?
それが、当たり前なんだ。
自分にない才能を持つやつには、憧れる。
少なくとも、俺はそうだ。
実感がないなら、問おう。
…例えば、自分に不思議な力があれば何をしたい?
無難な問題。だろ?
考えつかない。そう思う奴だっているだろう。
ならこれは例え話だけど、自分に時間を止める力があるなら?
まずは、何をする? 何がしたい?
時間を止めてしまえばいついかなる時だろうが、どんな悪事だって出来てしまう。
まあ、簡単に言えば盗みとか。
最初に思い浮かぶのは、悪事。違うか?
だが、考えて見ろ。自分の欲の為に力を使って、何か良い事があるのだろうか。
確かに自分は幸せになるかもしれない。
だけど。…だけど。
もしそんな力があって、“もし本当に時間が止められるのだとしたら”。
俺は、この…霧茅紀徒は。
ヒーローに、なれる。時間が止まれば、敵なんかいねぇ。
そう、例えるなら目覚ましっつう強敵とかな。
「だから、だから時よ…止まれ……ッ!」
…止まる訳がない。
時刻は刻々と進み、目覚ましが鳴ってから早三十分。
勿論、わかっている。世界はそんなに優しくない…。
ならば、と右手を掴み、叫ぶ。
「ああああああっ!! 右手が疼くぅ…!」
虫に咬まれた箇所が痒いだけ。蚊なんか嫌いだ。
…じゃなくて! ここはぬ〜べ(ry)みたいに鬼の(ry)みたいなあれが発現すべきだろ!
と、叫んだところで変わりゃしねぇ。
ならば、と最近見ていたカブトムシ男の真似事。
「…おばあちゃんが言っていた……って、あれ? 俺婆ちゃんに会った事なくね?」
元も子もない。ついでに古いって? いやいやまだイケんだろ諦めんなよ。
「……はぁ。今日も奈落へ墜ちるか…」
因みに奈落=学校である。我ながらハイセンスだと思う。
“はいすくーるおぶあびす”って呼ぶと尚更…イエス! イエッス!!
そう脳内で叫びながら、鏡に自分のキメ顔を映す。
「…流石、俺」
そして自惚れ、いつものように遅刻する。
毎回の事なので、さして危機感はないのだが。
…さて、感の良い方もそうでない方も、既にお気付きだろうか。
霧茅紀徒、17歳。
彼は、良い歳をした所謂…“ちゅーにびょー”患者であると。
この話は、彼…霧茅紀徒が、本物のヒーローになる物語である…!
「…そんなプロローグで、俺の話始まんないかな…」
始まる訳がない。
何処までも現実的な脳内の自分に「だまれビッチめ!」と叫びながら玄関を出る。
良く考えたら自分で自分に罵声浴びせんなよ、とも思ったり。
※
良く晴れた空。眩しい日差し。はよ沈め太陽。
そんな嫌気のさす天気の中、重い足を引きずって学校につくも、如何せん自分には居場所が無い。
だから何時も誰も居ない屋上屋から外を眺めて、その先の広さに憧れる。
「…世界って奴は、果てが無いよな…」
頬を撫でる風が気持ちよくて、フェンスによじ登る。
街並みも、空も、グラウンドも、全部が見渡せる、俺だけの特等席。
そこに座って思いつくのは、自分の下で呑気に勉強してる奴ら。
今頃、教室じゃ授業でもしてんだろうなぁ。と、こんな感じに。
けれど、よく考えたら自分には関係ないか。
―――――居ても居なくても、変わんないんだから。
「あーっ! 鳥になりてぇ!!」
叫んでみた。でも、響かない。虚しく、空回るだけ。
…つまらない。味気ない。
「けっ、しらけてやがる。このくさったせかいで…ってうぉ!?」
そう思い、口にして…そこで。そんな台詞を棒読みで言っていた俺に一際強い風がふく。
言うなれば、突風。背中を押されるような感覚と、ふわりとした感覚が入り混じる。
ドキッとして、気が付いた頃にはもう遅くて。
goodbye、俺。hello、冥界。
ああ、落ちる、落ちる…。
まるで他人事のように考えて。
眼前に迫る地面。そして――。
「おお! 勇者様の召喚に成功しましたぞ!!」
「はい!?」
知らないオッサンの声と、俺の声が重なった。
………へ?
ここから、俺の物語は始まる。
体操選手とか、サッカー選手とか…凄い、カッコイイって思うだろう?
それが、当たり前なんだ。
自分にない才能を持つやつには、憧れる。
少なくとも、俺はそうだ。
実感がないなら、問おう。
…例えば、自分に不思議な力があれば何をしたい?
無難な問題。だろ?
考えつかない。そう思う奴だっているだろう。
ならこれは例え話だけど、自分に時間を止める力があるなら?
まずは、何をする? 何がしたい?
時間を止めてしまえばいついかなる時だろうが、どんな悪事だって出来てしまう。
まあ、簡単に言えば盗みとか。
最初に思い浮かぶのは、悪事。違うか?
だが、考えて見ろ。自分の欲の為に力を使って、何か良い事があるのだろうか。
確かに自分は幸せになるかもしれない。
だけど。…だけど。
もしそんな力があって、“もし本当に時間が止められるのだとしたら”。
俺は、この…霧茅紀徒は。
ヒーローに、なれる。時間が止まれば、敵なんかいねぇ。
そう、例えるなら目覚ましっつう強敵とかな。
「だから、だから時よ…止まれ……ッ!」
…止まる訳がない。
時刻は刻々と進み、目覚ましが鳴ってから早三十分。
勿論、わかっている。世界はそんなに優しくない…。
ならば、と右手を掴み、叫ぶ。
「ああああああっ!! 右手が疼くぅ…!」
虫に咬まれた箇所が痒いだけ。蚊なんか嫌いだ。
…じゃなくて! ここはぬ〜べ(ry)みたいに鬼の(ry)みたいなあれが発現すべきだろ!
と、叫んだところで変わりゃしねぇ。
ならば、と最近見ていたカブトムシ男の真似事。
「…おばあちゃんが言っていた……って、あれ? 俺婆ちゃんに会った事なくね?」
元も子もない。ついでに古いって? いやいやまだイケんだろ諦めんなよ。
「……はぁ。今日も奈落へ墜ちるか…」
因みに奈落=学校である。我ながらハイセンスだと思う。
“はいすくーるおぶあびす”って呼ぶと尚更…イエス! イエッス!!
そう脳内で叫びながら、鏡に自分のキメ顔を映す。
「…流石、俺」
そして自惚れ、いつものように遅刻する。
毎回の事なので、さして危機感はないのだが。
…さて、感の良い方もそうでない方も、既にお気付きだろうか。
霧茅紀徒、17歳。
彼は、良い歳をした所謂…“ちゅーにびょー”患者であると。
この話は、彼…霧茅紀徒が、本物のヒーローになる物語である…!
「…そんなプロローグで、俺の話始まんないかな…」
始まる訳がない。
何処までも現実的な脳内の自分に「だまれビッチめ!」と叫びながら玄関を出る。
良く考えたら自分で自分に罵声浴びせんなよ、とも思ったり。
※
良く晴れた空。眩しい日差し。はよ沈め太陽。
そんな嫌気のさす天気の中、重い足を引きずって学校につくも、如何せん自分には居場所が無い。
だから何時も誰も居ない屋上屋から外を眺めて、その先の広さに憧れる。
「…世界って奴は、果てが無いよな…」
頬を撫でる風が気持ちよくて、フェンスによじ登る。
街並みも、空も、グラウンドも、全部が見渡せる、俺だけの特等席。
そこに座って思いつくのは、自分の下で呑気に勉強してる奴ら。
今頃、教室じゃ授業でもしてんだろうなぁ。と、こんな感じに。
けれど、よく考えたら自分には関係ないか。
―――――居ても居なくても、変わんないんだから。
「あーっ! 鳥になりてぇ!!」
叫んでみた。でも、響かない。虚しく、空回るだけ。
…つまらない。味気ない。
「けっ、しらけてやがる。このくさったせかいで…ってうぉ!?」
そう思い、口にして…そこで。そんな台詞を棒読みで言っていた俺に一際強い風がふく。
言うなれば、突風。背中を押されるような感覚と、ふわりとした感覚が入り混じる。
ドキッとして、気が付いた頃にはもう遅くて。
goodbye、俺。hello、冥界。
ああ、落ちる、落ちる…。
まるで他人事のように考えて。
眼前に迫る地面。そして――。
「おお! 勇者様の召喚に成功しましたぞ!!」
「はい!?」
知らないオッサンの声と、俺の声が重なった。
………へ?
ここから、俺の物語は始まる。
13/04/13 09:07更新 / 紅柳 紅葉
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