深紅の日記
1日目
私がいつも根城にしている廃墟をウロウロしていると、いかにも道に迷いましたと言わんばかりの冒険者に出会った。
見た所、貧相な格好でふらついているが故になぜこんな山奥の廃墟に来るか気になった。一瞬声を掛けるか迷ったが、好奇心には勝てなかった。
「あははは!!こんな所に何をしに来たのだ人間よ!ここは我の縄張りであるぞ! 早々に立ち去れい!」
なぜこんな馬鹿みたいな台詞を恥ずかしげもなく吐けるのか、私自身分からない。
夜の枕に顔をうずめて死にたくなる時もあるが、きっと性分だろうから仕方ない。
「あ、どうも」
意外にも冷静に対処されて泣きたくなる。
鉈で頭を掻っ捌きたくなるテンションの落差だ。
だがそれにもめげずに私が青年を追い出そうとくっついていると、やはり落ち着かない様子だ。
そりゃあ鉈を持ったかわいい女の子がくっついていれば気になるってもんよ。
「凄い歴史を感じる廃墟だなあ。ここに住んでいた人はどんな思いで暮らしていたのか、とても興味深いよ」
「えぇ……」
全然気にしてなくないこの人?
私を恐れるどころか、美術館の添乗員にでも話しかけるが如く紳士的だ。
いや私は説明係じゃないんですけど!
廃墟ツアーのガイドじゃないっての!
「……大昔に国の王様が別荘として家来に建てさせたんだって。でも戦争が激化して建築も頓挫して、数年したらもう廃墟だったんだとさ」
「へええ。物知りだね」
気づいたら口が勝手に開いて語り出してしまった。
いやだもう、この人といると調子狂う。
鉈でかち割りたい。
「で、ガイドさんの名前はなんていうの?」
やっぱりガイドだと思ってやがった!こいつスイカ割りのスイカ代わりに使いたい。
それか薪割りの薪代わりに使いたい。
「レリーだよ。名乗るからにはあんたも名乗りなよ」
「リズって言うんだ。一応冒険家やってる」
何して生計立てているのかだけ気になったけど聞かなかった。私は大人だからプライバシーには気を使うのだ。
たぶんこの人にはそんな気遣い死ぬほど無駄だろうけど。
「そっか。で、リズ。日が沈むからそろそろ帰ったほうがいいんじゃないか?」
「そうだな。もう日が沈むし、テントに泊まろう」
おいおい居座る気まんまんじゃないか。
まあ確かに腐っても皇族の邸宅だから雨風は凌げるだろうけど。
私みたいな危険な存在がいる事に対して危機感覚えないのかね。
「……なあなあ。本当に泊まる気か?この辺魔物とか出て危ないんだよ?」
「その時は教えてくれ。すぐ逃げるから」
いやいや!私はいつの間にリズさんの仲間になったんですか!私が敵を呼ぶとか考えないの!? まあぼっちだけど!ぼっちキャップだけど!
「……変な人間」
気を削がれて付き合いきれなくなった私はテントから距離を離れて根城に戻る。
妙に気になるけど、明日にはもういなくなるだろう。
そして、また私の天下が始まるのだ。
2日目
天下は始まらなかった。
「いやあよく寝たなあ。今日はどこまで探索しようかな」
ほけーっとしてるリズに気付かれないように尾行するもすぐに見つかった。何か人一倍気配には敏感らしい。変な所でスペック高いな。
「あ、帽子が赤いガイドの子だ」
またリズは私をガイドさんだと思い込んでいたので、ガイドさんじゃなくてレリーだと主張していたら数分無駄にしてしまった。
リズの動向を眺めていたら、そこらの景色の写真を撮ったり、山菜を収集したり、マイペースに廃墟探索を楽しんでいる。
邪魔する気にもならずぼけっと見ていると、ちょうど昼に差し掛かった辺りに声を掛けられる。
一応私の事を認識しているらしいが、面倒事なら容赦なく鉈を振りかぶる。
「昨日寄った町でご飯買ったんだけど一緒にどう?」
「ご、ご飯? 魔物の私と?」
「うん」
確かに腹は減ってきたし魅力的な提案ではあるけど、どうせそんな事言って毒でも入れているのだ。
油断するな。ここは戦場だ。
「ああ、まあ、旨そうなら食べる」
「良かった。隣おいでよ」
まだ食べるとは言ってないのに笑顔を浮かべるリズ。ああ断り辛い。断り辛いなあもう!
リズは背負ったバックパックから中ぐらいの大きさの箱を取り出して、蓋をあける。
そこには様々な種類のサンドイッチがきっちり並べられており、ほのかに香る麦の香りが食欲を静かに湧き立たせる。サンドイッチなんて何週間、いや、何ヶ月ぶりだろう。
町を歩いていた時にパン屋のおじさんに貰ったくらいかな。貰うというより、差し出すみたいに怯えていたけど。
「食べ方分かる?」
馬鹿にしてんのかこいつは。
まあでもサンドイッチを目の前にして無意識にうろたえていたのだろう。
奇妙に思うのは仕方ないか。
見たところ禍々しい色をした劇物は入ってないし異臭もしない。
「不安なら僕が先に食べるから、どれ食べるか選んでよ」
ああ、なるほど。5つあるサンドイッチを私に選ばせて食べる事で毒が入ってない事をアピールするわけか。
案外頭良いな。でもこの程度の事でちょろすぎるか私。
「じゃあ……これ」
私が選んだのはレタスがみっちり入ったヘルシーっぽいサンドイッチだ。こんなにもレタスが入っているなら中に毒があっても判断に難しい。
そんな理由で選んでみたがリズは恐れる事なく食べていく。
うーん、平気なのかな。魔物にだけ効く毒なら確実に死ぬけどそんなの聞いた事ないし。
まあ少しでも異変を感じたら吐き出して斬りかかればいいか。そうしよう。
「むぐっ」
私はハムが入っているサンドイッチを小さく齧り付く。
もぐもぐと咀嚼しその旨さを舌で感じるとまた一口と齧り付く。
もう一回、もう一回と繰り返すとすぐになくなってしまった。
おいしい。
「もう一個食べてもいいか?」
「ああ、いいよ」
リズは一心不乱にがっつく私を見て微笑ましく笑っている。
サンドイッチってこんなにおいしいものだったっけ。
2個目もあっという間に平らげると、リズはマイペースに1個目のサンドイッチを口にしていた。
「この辺は雰囲気が良いな。また来たい」
「またって……そろそろ行くのか?」
「うん。あまり長居してもいけないしね。とはいっても物足りないから今日と明日散策して明後日には帰るよ」
帰る、と聞いてちょっと切なくなる。
いやいや、気のせいだ。
会って間もない人間と別れるだけで私が寂しいと思うわけがない。
否定する心とは反対に、心のどこかで相反する思いが募っていく。
散歩と採集を終えて満足したリズはテントに戻りゆっくり眠った。
私はその光景をぼんやりと見つめながら目を閉じた。
3日目
廃墟探索の合間に、そこら中に生えている草を丹念に調べてバックパックにポコポコ入れていくリズ。
何が楽しいか分からないけどその目は妙に真剣だった。
気を引こうとほっぺをつねったり、顔をぐっと近付けて見るも効果なし。
ようやく採集を終えると憑き物が落ちたようにいつものリズに戻った。
よく分からない、相変わらず謎めいている。
「そんなもの拾ってどうするんだ?」
「これ?これは人の病気を治すために使うんだ」
てっきり商売で使う品物を調達しているのかと思った。それにしては金にならなそうな草ばかりとは思っていたけど。
「治したい人でもいるのか?」
「うん。大事な人だから、尚更ね」
その言葉を聞いた時、私の鼓動は少し早くなった。
詮索していいのか、触れないでおくべきか。
そんな道徳的な行動の迷いではなく、ある種異色の感情が生まれて私を戸惑わせた。
「そっか。治ると良いな」
手に持った鉈を後ろ手に隠して、私は平静を装いつぶやいた。
言葉と本音が一致しているのか、自分でも分からない。
広間に出て、リズはサイドポーチから怪しい機械を取り出すと先程バックパックに詰め込んだ薬草を機械の受け皿に少し入れた。
そして水筒から水を捻り出して受け皿に流し込み、マッチで火をつける。
「何してるんだ? 」
「薬湯を作ろうと思ってね。良かったらガイドさんも飲もうよ」
「だからガイドじゃないってーの!」
もはやお約束のようなやりとりに笑顔をこぼすリズを片目に、コポコポと音を立てる薬湯機械。冬に一人で温めて食べた鍋を思い出す。
リズは火を消して、蛇口のような物を捻ると湯気を立てた水が容器に流れ込む。
澄んだ薄茶色をしていて美味しそうではない。
むしろマズそうだ。
「どうぞ」
匂いはない。
薬湯というぐらいだから美味しい物でもないんだろうけどせっかく作ってくれたんだから……と勿体無い気分になる。
「どんな効能があるんだこれ?」
「心が落ち着いてストレスが取り除かれるんだ」
「専門的なことはわからないと思って適当言ってないか?」
「あはは。ごめん」
やっぱり適当じゃないかこいつめ。
私は渋々薬湯を口にして、容器から手を離す。
美味しくはない。けど、体の底がじんわりと温まるような感覚を覚えた。
「悪く、ないな」
その感覚が消え失せるまで、私は胸をぎゅっと締め付けた。
4日目
最終日。のはずだった。
「ひどい雨だな」
バケツをひっくり返したような雨が降り注ぎ、廃墟の外に出ようものなら一瞬でずぶ濡れになる。
「傘はなくしてしまってね。大きな葉っぱ程度じゃ代用できないし、しばらくここにいるよ」
「そうか」
「最悪、今日は出発出来ないな。まあ急いでいるわけでもないからいいんだけどさ」
冷たくなった空気に晒されて身震いする。陰鬱な気分になるはずなのに、何故かとても気分は晴れやかだった。
「な、なあ! 暇なら場所を変えないか? 隠れ家ならここよりは多少暖かいぞ」
「え?いいの?」
「今更遠慮することもないだろ!」
隠れ家、といっても廃材を掻き集めて家っぽくしただけなのだが、招き入れたリズは凄い気に入っていた。
リズが座っている廃れたソファーは意外にも柔らかく、バネが飛び出してたり生地が裂けて中身が挨拶していることを気にしなければ使い心地は悪くない。
「本当だ。ここなら寒くない」
「だろう?気に入ったならずっと居てもいいぞ」
何を言っているんだ私は。
人間と一緒に暮らすなんて出来っこないのに。
ほら、リズも困って……
「っ……」
なんでそんな優しそうな笑顔を浮かべるんだ。そんな顔されたら、期待するだろ。
馬鹿……。
「たまに寄らせてもらってもいいかな?ここはすごく気に入ったから」
「ほ、ほんとか?」
お世辞でも嬉しかった。
ずっと一人の私だったけど、話し相手が出来るだけでも嬉しかった。
でも、リズはここを出たら多分二度と戻ってこない。
だって、大事な人がいるのだから。
こんな辺鄙なところにわざわざ来て、大事な人を放って置くわけない。
そんなの分かりきっていた事だろう……?
考え込むのは良くないと、朽ちたドアを開けて大雨が降りしきる空を見る。ポツンポツンと水滴が落ちる水溜りには無表情の私がゆらゆらと揺れていた。
そこに映っていた赤い帽子は、いつも以上に赤く染まり上がっていた。
5日目
今日もひどい雨だった。
雨に加えて猛烈な風も吹いている。
傘があったとしても、壊れて体をなさないだろう。
私はバンッと机を強く叩きつける。
ソファーに座り込むリズが体をビクッと震わせる。
「今日は雨!雨だよ! これだけひどい雨なら外には行けないよね?ね?」
「うん……ま、まあそうだね」
「よしっ! じゃあ今日もゆっくりしてくといいさ! 」
半ば元気な私を演じている。
私の心はすでに不安定だった。
寒さが気にならないほどに発情して火照った体は抑えつけるのが精一杯で心に余裕を持てない。
朝水溜りを覗いて分かったのは、どんよりとした深い赤みの帽子。
このままではまた一人になる。自分勝手でどうしようもないけど、一人は、やっぱりつらい。
焦る気持ちを悟られないように手の平を思い切りつねりこむ。
数日くらいなら大丈夫だと思っていたのに、人間の男と接するのは思った以上に刺激が強過ぎた。
震えて持つ鉈を今にも振りかざしたくなる寸前で何度も止める。
ダメだ。それをしたら、良いガイドだと思われなくなる。
……、ガイドじゃないってあれだけ自分で主張していたのに、何言ってんだか。
「ちょっと散歩してくる! まあゆっくりしてくれたまえよ!」
リズと居ると気が狂いそうになる。
心を落ち着かせようと外へと飛び出した。
鉈を握る手は冷や汗でぬるっとしていて気持ち悪い。
何度も何度も空を切り裂いては息を吐く。
煮えたぎる欲望が、湧き上がっては私を理性の淵まで追い込んでいく。
本能だと分かっていてもそれはダメと心が警鐘を鳴らしている。
でも、でも!
どうしてもリズを縛り上げて自分の物にしてしまいたい。
いけない、いけないんだ。
このままではどうしてもダメ。
だけど、けど。
私にはもう、失うものなんてないじゃないか?
散々虐げられて逃げるように廃墟へ忍び込み、ハリボテの砦を作り自尊心を守って来た。
けど、そんな薄っぺらい生活を守る価値なんてあるのか?
私は、私は。本能を抑え込んでまで道徳に従う価値などあるのか?
ない。ない。
魔物にとっての道徳なんて、人間にとっては奇妙で理解し難く見えるだろう。
魔物なんだから、それ相応の動きをしても、罪にはならない。
そもそも人間に友好的であろうとした私がおかしかったんだ。
魔物は襲う者、人間は襲われる者。ゆえに獲物。
それが普通であり、レッドキャップとしての正しい行動だろうから。
6月24日 午前4時。
ひどかった雨はすっかり止み、太陽が姿を見せようとしている。
今日までずっとお世話になっていたレリーに挨拶したかったが、昨日の朝別れたきり戻ってくることはなかった。
本来、魔物と人間はどこかで線引きをしないといけないから、ちょうどよかったかもしれない。深く立ち入ってしまえばお互い不幸になりかねない。
しかし、幸いレリーは人当たりが良い魔物で助かった。
凶器を持っていたから正直怖くて仕方なかったが、話してみると意外と常識人で助かった。
ああやって脅し道具でも持っていないと部外者に舐められるのだろう。
特に僕達人間の中でも、盗賊なんかの連中には。
この界隈で生きる事の辛さが窺いしれる。
僕は慣れ親しんだバックパックに荷物をまとめて、朽ちたドアを開ける。
そういえばレリーはどこで寝ているのか。
……気にしたところで仕方ない。こっそり抜けよう。
抜けた先、歩く度に僕は恐怖で何度も後ろを振り返る。
いるわけないのに、いると思い込み、何度も何度も振り向いてしまう。
何も後ろめたい事はない。
むしろ感謝している。なのに、この違和感はなんだ?
何か、間違えたか……?
ウラギリモノ
走れば気付かれると思い、歩幅を小さくして進むことしか出来ない。
誰に、というわけでもない。
何事もないまま出口まで連れて行ってくれと、祈るような気持ちで歩き続けた。
コロシテヤル
呪詛が渦巻く呪われた廃墟は、僕にとって魅力的に映っていた当初とは姿形が変わっていた。
いつ何処から残忍で凶悪な魔物が飛び出してもなんらおかしくない。
吹き荒れる風が草むらを揺らすだけで異様なほど心拍数が跳ね上がる。
朽ちた廃材を踏みしめながら歩を進めると、ようやく出口の大きな門が見えて来た。
ほっと一息ついたのも束の間、安心は出来ない。
早まる足をぐっと抑えて警戒を怠らない。
「……?」
門の所に誰かがいる。
魔物であれば非常に厄介だ。
しかし目をよく凝らしてみると、その姿はこの数日間よく見た姿だった。
真っ赤な帽子に小柄な体型。
そして大きく目立つ鉈。確かにレリーに間違いなさそうだ、
しかし、何か様子がおかしい。
ある程度の距離まで近付くと、レリーは顔を上げて微笑む。
この数日間の中でとびきり純粋な笑顔で。
「もう帰るの?」
本能がざわついている。
この質問に対する回答は僕の人生を大きく変える。
そんな気がした。震える手を悟られないように隠して笑顔で答える。
「雨も上がったから、そろそろ頃合と思ってさ。また会いにくるよ」
「そっか。また来てね!」
シンプルな回答に疑念を浮かべるほど僕は異様に警戒していた。
何も起きないはずがない。
そう信じ込んでいた僕は冷や汗を垂らしながらゆっくり足を前に出して行く。
真っ赤に染まった帽子は血で淀んでいるようにさえ見える。
ちょうどレリーの横を通り過ぎろうとした時、何か光る物が落ちている事に気が付いた。
屈みこんで拾ってみるとそれはキラキラと輝く貝殻のようだった。
この辺に水辺なんかないの……に!?
「うわっ!!」
思い切り振りかぶった鉈が地面に突き刺さる。
思わず尻餅をついてしまったが、つかなければ間違いなく胴体に突き刺さっていただろう。
「……次は当てるよ」
「や、やめろ!! 僕を殺してもいいことなんかない!」
「殺す……? あはっ、アハハハっ……何言ってるの? ちょっと動けなくするだけだからさぁ……♡」
レリーは再び鉈を振りかぶる。
動作が俊敏でかわす隙が全くない。
身の危険を感じた一瞬で、僕の体に鉈が振り下ろされた。
腕を切断せんとする勢いで思い切り振り下ろされたのだから、大量の血液が飛び散ってもおかしくはない。
しかし、体から血は一滴も外へ噴出しなかった。
その代わり、四肢を動かす事が全く出来なくなる。
そういえば、特定の魔物の武器は対象を殺傷するためではなく、動きを封じるために使われると聞いた事があった。
なんのために?……考えたくない。
レリーは一仕事終えたかのように額を拭うと、鉈を放り投げる。
「さあて、もう逃げられないから……おとなしく全てを受け入れてね」
「なんでこんなことするんだ!? 僕は、恨みを買うようなことはしてない!」
「馬鹿だねぇ……いい人だからこうなるんだよ……?」
レリーは僕を怪力で押し倒すと、半ば乱暴に服を脱がせ始める。
バックパックも引き剥がされ、衣服も乱暴に脱がされる。
僕は体が動かないから抵抗しようがない。ねっとりと絡みつくような視線を浴びせながら、柔い体でぎゅうっと抱き付かれると、尋常じゃない体の火照りを感じさせる。
熱でもあるんじゃないかと思うほど体温を高めながらレリーは性を欲している。
はあはあと息を荒くしながら顔を近づけると、溢れかかった唾液を隠しもせずに僕の唇に重ね合せる。
くちゅくちゅと唾液を流し込まれては僕の唾液を無理やり吸われる。
ちゅうっと激しく吸い込まれるとサキュバスとキスでもしているかのように思えてくる。
舌を何度も絡ませ、発情した目でじっと僕を見てくるが、落ち着く気配は無い。
「ん……美味しい……久々の男の味ぃ……♡んぅ……」
淫靡なキスを執拗に迫られ、かわそうとしても中々思うように動かせない。
手で払いのけることは出来ないし、なんとか首を振って追撃から逃れる事ぐらいだが、じれったくなったのか両手で頰を抑え込んで逃げられなくされる。
その後はひたすら口内を蹂躙され、女体の柔らかさを刻みこまれる。
さすがに女体を何回も擦り付けられてキスを重ねられてはペニスが反応しないわけがない。
硬くなった僕のペニスに膝を擦り寄せて確認すると、レリーは嬉しそうに口を開く。
「なんだ……リズはこういうの嫌いじゃないんだ……♡」
ぐりぐりと膝を押し当て、硬直化を更に促進させるとレリーは自分の秘所に指を入れてくちゅくちゅと淫らな音を湧き立たせる。
情欲が詰まった熱くて透明な粘液が僕の下腹部に滴り落ちる。
「ま、待て!落ち着け! そんな事したら」
「ん? ……ああ、魔物と交わりたくないんだね。それは残念だけど」
「っ!?」
「あきらめて……♡」
ばらんな服を脱ぎ捨てると、レリーは自らの秘所へ僕の肉棒を沿わせて挿入する。
小柄な体ながらも蜜壺に入れられた肉棒を悦ばせるだけの性能は申し分ないほどに高かった。
並みの男性であれば入れた瞬間即座に射精し、あまりの気持ちよさに自分から求めて自爆するほどのシロモノだ。
僕は寸前の所で耐え忍んだ。が、それもただの意地にすぎず、レリーがゆーーっくり腰を上下に動かすだけでもう白旗を上げてしまう。
出したくないと思ってもレリーがそれを許さなかった。
「我慢しないで早くイきなよ…… すっごく気持ち良いんでしょ……?」
急かすように腰を振られ、交わった粘液が結合部から音を立てて肌を滑っていく。
キスをしながら搾り取るような腰使いに、僕はあっけなく精を吐き出した。
「う……あああ……」
「あ♡ああああぁ♡で、でたぁ……♡ 男のセーエキ、熱いのが……すっごいぃぃ……♡」
何年も待ち望んだかのように、その刺激を思う存分堪能し、じっくり味わいながら腰を振り続ける。
溜め込まれた精液を根こそぎ搾り取ると、焦点が定まっていない危うい目でじっと見つめられる。
じゅるるるるううぅ……ぬちゅぅ……くちゅ……くちゅ……
何度も何度も唇を重ね、お互いの体液を交換する。
甘く、脳天が痺れそうなほどに催淫の効果をもたらす悪魔の液体。
レリーは物足りないといった様子で口内を貪ると、僕は蕩けさせられる。
「イく時の顔かわいいね……普段表情崩さないだけにギャップが合ってステキだよぉ……もっと崩したくなる……」
はあはあと息づき、レリーは会った時とは比べ物にならないほど乱れていて、鉈など手に持たなくとも盗賊達を追い返すのには十分すぎる恐怖を与えられるだろう。
「どう? ヨカッた?」
悪いと言ったらどうなるんだろうと思いつつ、気持ち良すぎて脳が痺れ、まともに話す事もままならない。
これほどまでに魔物と交わるのは甘美な物なのかと思い知らされた。
交わった後に気付いた事だが、レリーが被る赤い帽子が憑き物でも落ちたかのように白く変貌を遂げていた。
淀んだ目が今度はとろんと夢うつつのような目に変わる。
耳元まで顔を近付けると、ふうっと息を吹きかけられる。
「でも、まだまだ終わりじゃないよ。……当然だよね」
引き抜かれビクビクしたペニスを撫でられ、指に張り付いたぐじゅぐじゅになった粘液をこれ見よがしに見せつけてくる。
固まっていた四肢がある程度動くようになって来た。
「あ、動くようになったんだ。ちょっと待っててね」
レリーは落ちた鉈を拾い上げると、容赦なく僕の胴体向けて振り下ろして来た。
普通の鉈であれば肌は割かれ、臓器は潰れ、大量の血液が迸り、絶命は免れない。
何度も何度も斬りかかれ、僕はまた全く動けなくなってしまった。
愛液でドロドロになった下腹部をまた擦り始めて精を放った肉棒はまた硬さを取り戻し始める。
精を貪る魔物は興奮を抑え切れないようで僕の顔を見つめながら腰を振り始める。
愛液が潤滑油になり、滑りが良くなると快感も増幅される。
熱い体に抱きしめながらの濃厚なセックスは禁忌を犯している背徳感で目を背けたくなる。
でも体はどうしようもなく反応してしまう。
「わ、分かった。たまにとは言わず月1回は来るから!」
「えぇ……?毎日の間違いでしょ♡」
真顔で淡々と答えるレリーに恐怖を覚えながらも動かない体をなんとかしようと悶えてみる。
しかし、案の定全く動く事は出来ず、そんな様子を見ても目は見開き、口は半開きのレリーが恐ろしい。
「私が何もしなければ大事な人の元へ行っちゃうから……三日三晩犯して余計な事は考えられない様にしないと……」
(大事な人……?)
レリーが時折悲しそうな表情をしながら僕の体をぎゅうっと抱き締めてくる。
何か勘違いをされているようだ。もしかしたら、その勘違いを正しく指摘してあげれば彼女の凶行も止められるかもしれない。
「もしかして……僕に恋人でもいると思ってる?」
「……え? 違うの?」
「……確かに大事な人だけど、家族だから恋人じゃないよ」
「な、なっ……!……ええっ!」
僕の言葉を聞いた途端、目を丸くさせ信じられないといった様子でレリーは体をガタガタと震わせている。
冷静になってきたのかと思って安心したのも束の間。レリーは、僕の首筋に吸い付いた。
「っ!」
「じゃあ……リズはまだ誰の物でもないんだ♡ なら、私の物だっていう印を体に刻み込んであげるね♡」
艶っぽく上目遣いで視線を向けてくると、ちゅうちゅうと皮を引っ張られる。微妙な痛みが心地良く、粘液まみれの肉棒をじゅこじゅこ片手で刺激されると出したばかりだというのにまた精液が昇ってくる。
自らの秘所にも指を入れ、愛液を噴出させると、準備万端といった様子でまた肉棒をずぷりと差し込んでくる。
嬌声が響き渡る中、嗜虐的な笑みを忘れずにレリーはぱんぱんと腰を振り続ける。
びりびりと伝わる振動と快楽の波が襲い掛かり、真っ赤に腫れた肉棒は歓喜の涙を流し続ける。あまりに献身的なレリーの責めに欲情を抱き始めていた。
魔物との交わりはあまりにも中毒症状が強いため、危険な事は僕だけじゃなく多くの人間が理解していることだ。しかし、いざ自分が交わるとあまりに濃密で甘美な交わりに背徳感を抱きつつも、止める事が非常に難しくなる。
体はどうしようもないから、後は精神しか対抗する術は残っていない。
大丈夫だ、死にはしない。
「ほらほらぁ♡黙っててどうしたの?気持ちいいなら口に出した方が楽だよぉ……」
ごめん、やっぱり死にそう。
僕はレリーの体を思い切り抱き寄せてその体の温もりを感じるとともに名器を味わった。
もうどうにでもなれ。
「ん〜よしよし、ようやく諦めたようだね♡えらいぞ〜♡」
ビクビクと震える肉棒が律動を始め、射精前の幸福感が駆け上がってくる。
「ほら、ぴゅっぴゅしちゃえ……」
レリーはトドメと言わんばかりに名器をきつく締めあげると、耐えていた肉棒が存分に刺激され、為す術なく射精してしまう。
どぴゅうぅぅぅう……ぴゅっ……ぴゅくっ……ぴゅっ……
2回も精液を流し込んでしまい、レリーはまた悦びに震えている。
僕はといえば出した幸福感と、出してしまった自責の念に駆られて震えている。
粘液が糸引く中、レリーは笑顔を見せると僕に顔を近付ける。
「もう終わりだと思ってる? ふふっ、そっかぁ。じゃあ続きしようか♡」
6月26日 午後5時
日が静まって来たのでテントを立て、夜に備える事にした。
最近はじとじとした雨も止み、快晴が続いていたので夜は寒さに身を震わせる事もないだろう。
「リズ……? あ、こんなところにいたの? 」
湖の側で水を汲んでいると、かのレッドキャップ様が現れた。
毎晩異様な性欲を見せつける彼女に敬意を表すが、たまにおとなしくなって横にちょこんと座ったりするのはなんなんだろうか。
「私、嬉しいんだよ。ようやく一人でいる必要もなくなったから」
「そ、そうか」
「だから、リズは逃げないでね……いや、違うか」
「逃がさないから、これからもよろしくね♡」
16/11/28 00:15更新 / コロメ