彼女の向日葵
ガタン···ガタン···
田舎の風情溢れる景色を受け、電車は走る。線路の上を独特の金属音を鳴らしながら。ここはとある町のとある場所。そこに一人の青年が故郷へと帰ってきた。
「もう、ここまで来たのか・・・早いなあ・・・」
青年の名前は「川本 治」この田舎生まれの人間だ。里帰りだろうか・・・?少しだるそうな体を動かしながら、外の景色を眺めている。
「どれくらい前かな・・・?その時も向日葵は咲いてた・・・ミア・・・」
ーーーーーーーーーー
「へへ、山奥に化け物なんかいないじゃん。やっぱり母さん達の嘘だな。」
あれはまだ俺が小さかった時だ。村の約束を破って、山奥に入った。確か、母さん達は山奥には化け物がいるから入ってはいけない。って言われた。悪ガキだった俺は確かめられずにはいられなかった。
今思えば・・・
「グルル・・・」
「え?」
「グワアッ!」
「ひっ・・・!助けてえええ!!」
熊や、猪。獣がいるから入ってはいけない。って警告だったんだろう。そこで俺は死ぬんだと思った。その時だった。
「ハッ!」
「ふぇ・・・?」
「ギャオッ!」
「帰りなさい。この子はただ迷いこんだだけ。だからもう怒らないで。」
「グルル・・・」
ズシッ···ズシッ···
彼女と初めて会ったのは。
「あの、ありがとう・・・」治
「少年。なぜ入ってきた?ここは危険だ。すぐに帰りなさい。」
「ぼ、僕は治です!少年じゃないです!お姉さん!」治
「ふむ、そうかそれはすまない少年。それと私はミアだ。少年。」ミア
「む〜!」治
「フフッ。早く行け。お母さんが心配しているぞ。」ミア
「あ・・・」治
「どうした?」ミア
「道分かんない・・・」治
「・・・・はあ」ミア
最初は呆れられた。それと彼女の姿はとてもかっこよくみえた。かわいいではなかった。俺にとって憧れの存在。そして、家に帰ると物凄く怒られた。
数日たってかな・・・?
「少年。また来たのか・・・」ミア
「へへっ。お姉さんと話をしたいと思ったから。」治
「また怒られるぞ。」ミア
「いいよ別に。お姉さんがいるもん。」治
「まったく・・・」ミア
「へへっ!」治
本当にクソガキだった。そのクソガキは俺だ。ミアはいっつもため息をついていた。
「お姉さんはなんでここにいるの?」治
「ん〜。気に入ったから。だよ。」ミア
「ふ〜ん。なんで金色の髪してるの?」治
「それは私がエルフだからだよ。」ミア
「エルフ?」治
「うん。この森の番人。」ミア
「うっそだー!お姉さん全然恐くないもん!」治
「そうか。けどこの耳を見てくれ。少年と違って、尖っているだろう。」ミア
「ん?あっホントだ!」治
「だろ?嘘じゃないさ。」ミア
「じゃあお姉さんは魔物っていうの?」治
「ああ。」ミア
「カッコいい!」治
「そうか?」ミア
「うん!」治
「そうか。」ミア
他愛ない会話だった。それでも幸せだった。ミアといることが、何よりの幸せだった。
「少しついてこい。少年。」ミア
「どうしたの?」治
「見せたいものがある。」ミア
「?」治
その時はまだ分からなかった。どんな光景が広がっているのか。
「ほら、見てみろ。」ミア
「わあ!すごい!」治
覚えている限りでは・・・赤い薔薇、アイビー、白い薔薇、モモ。そして向日葵。全て、見事なモノだった。どの花も生きているかのように輝いていた。
「全部お姉さんが育てたの!?」治
「ああ、種からな」ミア
「すごい!」治
「そうか。」ミア
よく考えれば、季節が混ざっていた。それが魔物としての彼女の力だったのかもしれない。
「この向日葵が綺麗!」治
「ん?良い選択だ。私も特に気に入っている。」ミア
「けど、僕より大きい・・・」治
「じきに身長ものびるさ。」ミア
「頑張る!」治
「頑張れ。」ミア
「うん!」治
その日はそれで帰った。その先もそんな日が続いていた。けど、少し事件が起きる。
ピシャアアアアアンッ!!!
「わあ!」治
雷雨だ。それも異常気象。怖かった。恐ろしかった。その日の夜はよく眠れなかった。そして、翌日の事だ。
「お姉さん!」治
「少年・・・!」ミア
「大丈夫だった!?ケガしてない!?」治
「ああ、私は大丈夫だ。しかしなぜ来た?危ないだろう。」ミア
「だってケガしてるかと思って・・・」治
「大丈夫。この通りピンピンしている。」ミア
「花畑は!?」治
「・・・・少々、被害が大きかった。」ミア
「・・・!ダッ!」治
「・・・!待て少年!」ミア
夢中で走り出してた。あの花畑が無事か?向日葵は?ミアが育てた傑作達は?
そうこうしてる間に花畑についた。
「あ・・・・」治
ひどい光景だった。大きな怪物に踏み荒された後のように見えた。地面はドロドロ、木々は倒れ、向日葵の茎はへし折れていた。
「少年・・・!」ミア
「うぐ・・・!ひぐっ!」治
「大丈夫だ・・・」ミア
「うわああああああああああん!」治
「大丈夫だ!再び花は芽吹き、また同じようになる!だから泣くな・・・」ミア
「だって・・・!もう花畑めちゃくちゃだよ・・・!グスッ!もうなおらないよ!ヒック!」治
「私は魔物だぞ?大丈夫。すぐになおる。まあ少し時間はかかるがな。」ミア
「ほんと・・・?」治
「ああ。エルフの力をナメてもらっちゃあ困る。」ミア
そこからだった。彼女の力を見せつけられたのは。確かに少し長い時間がたった。といっても、一年だ。あの花畑を復活させるのには、もっとかかるハズだ。だけど彼女は成し遂げた。再び芽が出て、咲き乱れた。
そこから俺が中学になった時か。憧れの心は、青臭い恋心に変わった。
「ねえ、ミア」治
「なんだ?少年」ミア
この辺りから、俺はお姉さんではなくミアと呼ぶようになった。彼女は相変わらず少年としか呼んでくれない。
「人を好きになったりする?」治
「それは家族愛か?それとも友としてか?」ミア
「ち、違うよ。その・・・異性の意味で・・・」治
「ほう、少年も初恋の時期か?かわいいヤツめ。」ミア
「違うよ!僕そんなんじゃないし・・・!」治
「ふふ・・・真っ赤だぞ・・・」ミア
「・・・・っじゃあミアはどうなんだ!」治
「あるよ」ミア
「あるの!?」治
びっくりした。あのミアが。
「しかも今だし。」ミア
「今なの!?」治
しかも現在進行形で。
「ちくしょう・・・誰なんだよ」治
「クスクス・・・」ミア
その頃になると、俺の身長は向日葵を越していた。
彼女の笑顔が好きだった。
彼女の花畑が好きだった。
彼女の勇ましさが好きだった。
彼女の声が好きだった。
ミアの全てが好きだった。
ずっとずっと一緒だ。
ずっとずっと一緒がいい。
ずっとずっとずっとずっと。
憧れは友情に、友情は恋心に変わった。
時に、ケンカしたり、からかわれたりもした。だけど楽しかった。愛しかった。
それでも、別れがやってきた。
ーーーーーー
朱色に染まる空。少し肌寒い風。その時の俺は、急いで花畑に向かっていた。
「はあはあ・・・!ミア!」治
「おお少年!どうだったんだ・・・!?」ミア
「・・・・っ」治
「ゴクリ・・・」ミア
「受かった!」治
ポケットから書類のコピーを取りだし、叫んだ。この時俺は難関大学の試験に合格し、ミアに報告しに行った所だった。
「良かった・・・」ミア
「受かったよ・・・」治
「一時期本当に鬱になりかけてたろう。心配したぞ。」ミア
「言わないでよ・・・俺はこうして受かったんだから。」治
「ふふ、良かったよ。向日葵もこうして増えたしな。」ミア
「うん。ミアが気に入ってた花だもんね。」治
「・・・少し、寂しくなるな。」ミア
「・・・・うん」治
その大学の距離は新幹線で通うような遠さだった。とても家からは通えない。つまりミアと四年間会えなくなる。
「大丈夫だよ!就職はこっちでする!だから・・・!四年たったら俺と・・・」治
スッ・・・
「ダメだ。」ミア
口に人差し指をつけられ、告げられた。何を言っているのか分からなかった。
「え・・・」治
「もう、お別れだ。」ミア
「何を言って・・・!」治
「私はエルフだ。人間とは相成れない。里の長に言われたんだ。お前は禁忌に触れたって。」ミア
「それがどうしたんだよ!俺はずっと――――!」治
「ダメなんだ!」ミア
「――――!」治
「恐らくこれ以上私と話すと長は少年を殺すだろう。長は私に猶予をくれたんだ。君が大学に行くまで。」ミア
「そんな・・・!」治
「少し、話をしよう。」ミア
「・・・?」治
「あなたを愛してる。」ミア
「へ・・・!?」治
「永久不滅。」ミア
「へ・・・?」治
「私はあなたに相応しい。」ミア
「どういうこと・・・?」治
「私はあなたのとりこ。」ミア
「・・・・」治
「全部私の花畑にある花の花言葉だ。そして、私の気持ちでもある。」ミア
「・・・・それじゃあミア!」治
「・・・・時間だ。」ミア
「待ってミア!」治
「・・・さらばだ。永遠に、ずっと愛してる。治・・・」ミア
「待って・・・!ミ・・・ア・・・」治
その時急に眠くなった。魔法の一つだったんだろう。皮肉にも初めて名前を呼んでくれたのは、別れの時。その時だけだった。目が覚めたら、向日葵に見下ろされていた。わあわあ泣き続けた。目が腫れても、喉が痛くても。けれどミアは戻って来なかった。
大学に行って、少したったある日、花束が届いた。向日葵のだ。俺とミアが特に気に入ってた花の束。
花言葉は・・・
―――――
「何だったけな・・・」
俺はずっと電車に乗った時から考えてる。スマホで調べりゃいいけど、意地でも思い出したい。
「えー次はー」
「おっと、降りなきゃな。母さん元気かな。」治
俺は体を起こして、荷物を持ち、改札へ向かう。久し振りの故郷だ。大学は終わり、こっちで住むことにもなった。ただ一つ気になるのはミアだ。もうずっと会っていない。差出人不明のあの向日葵は・・・
「花言葉は何だっけか・・・」治
「あなたを見守ります。だ。少年。」ミア
聞き慣れた声がした。すぐに振り返った。そこには・・・
「久し振りだな・・・少年。」ミア
一番大好きな、一番愛しい女性が。
そこに立っていた。
END
田舎の風情溢れる景色を受け、電車は走る。線路の上を独特の金属音を鳴らしながら。ここはとある町のとある場所。そこに一人の青年が故郷へと帰ってきた。
「もう、ここまで来たのか・・・早いなあ・・・」
青年の名前は「川本 治」この田舎生まれの人間だ。里帰りだろうか・・・?少しだるそうな体を動かしながら、外の景色を眺めている。
「どれくらい前かな・・・?その時も向日葵は咲いてた・・・ミア・・・」
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「へへ、山奥に化け物なんかいないじゃん。やっぱり母さん達の嘘だな。」
あれはまだ俺が小さかった時だ。村の約束を破って、山奥に入った。確か、母さん達は山奥には化け物がいるから入ってはいけない。って言われた。悪ガキだった俺は確かめられずにはいられなかった。
今思えば・・・
「グルル・・・」
「え?」
「グワアッ!」
「ひっ・・・!助けてえええ!!」
熊や、猪。獣がいるから入ってはいけない。って警告だったんだろう。そこで俺は死ぬんだと思った。その時だった。
「ハッ!」
「ふぇ・・・?」
「ギャオッ!」
「帰りなさい。この子はただ迷いこんだだけ。だからもう怒らないで。」
「グルル・・・」
ズシッ···ズシッ···
彼女と初めて会ったのは。
「あの、ありがとう・・・」治
「少年。なぜ入ってきた?ここは危険だ。すぐに帰りなさい。」
「ぼ、僕は治です!少年じゃないです!お姉さん!」治
「ふむ、そうかそれはすまない少年。それと私はミアだ。少年。」ミア
「む〜!」治
「フフッ。早く行け。お母さんが心配しているぞ。」ミア
「あ・・・」治
「どうした?」ミア
「道分かんない・・・」治
「・・・・はあ」ミア
最初は呆れられた。それと彼女の姿はとてもかっこよくみえた。かわいいではなかった。俺にとって憧れの存在。そして、家に帰ると物凄く怒られた。
数日たってかな・・・?
「少年。また来たのか・・・」ミア
「へへっ。お姉さんと話をしたいと思ったから。」治
「また怒られるぞ。」ミア
「いいよ別に。お姉さんがいるもん。」治
「まったく・・・」ミア
「へへっ!」治
本当にクソガキだった。そのクソガキは俺だ。ミアはいっつもため息をついていた。
「お姉さんはなんでここにいるの?」治
「ん〜。気に入ったから。だよ。」ミア
「ふ〜ん。なんで金色の髪してるの?」治
「それは私がエルフだからだよ。」ミア
「エルフ?」治
「うん。この森の番人。」ミア
「うっそだー!お姉さん全然恐くないもん!」治
「そうか。けどこの耳を見てくれ。少年と違って、尖っているだろう。」ミア
「ん?あっホントだ!」治
「だろ?嘘じゃないさ。」ミア
「じゃあお姉さんは魔物っていうの?」治
「ああ。」ミア
「カッコいい!」治
「そうか?」ミア
「うん!」治
「そうか。」ミア
他愛ない会話だった。それでも幸せだった。ミアといることが、何よりの幸せだった。
「少しついてこい。少年。」ミア
「どうしたの?」治
「見せたいものがある。」ミア
「?」治
その時はまだ分からなかった。どんな光景が広がっているのか。
「ほら、見てみろ。」ミア
「わあ!すごい!」治
覚えている限りでは・・・赤い薔薇、アイビー、白い薔薇、モモ。そして向日葵。全て、見事なモノだった。どの花も生きているかのように輝いていた。
「全部お姉さんが育てたの!?」治
「ああ、種からな」ミア
「すごい!」治
「そうか。」ミア
よく考えれば、季節が混ざっていた。それが魔物としての彼女の力だったのかもしれない。
「この向日葵が綺麗!」治
「ん?良い選択だ。私も特に気に入っている。」ミア
「けど、僕より大きい・・・」治
「じきに身長ものびるさ。」ミア
「頑張る!」治
「頑張れ。」ミア
「うん!」治
その日はそれで帰った。その先もそんな日が続いていた。けど、少し事件が起きる。
ピシャアアアアアンッ!!!
「わあ!」治
雷雨だ。それも異常気象。怖かった。恐ろしかった。その日の夜はよく眠れなかった。そして、翌日の事だ。
「お姉さん!」治
「少年・・・!」ミア
「大丈夫だった!?ケガしてない!?」治
「ああ、私は大丈夫だ。しかしなぜ来た?危ないだろう。」ミア
「だってケガしてるかと思って・・・」治
「大丈夫。この通りピンピンしている。」ミア
「花畑は!?」治
「・・・・少々、被害が大きかった。」ミア
「・・・!ダッ!」治
「・・・!待て少年!」ミア
夢中で走り出してた。あの花畑が無事か?向日葵は?ミアが育てた傑作達は?
そうこうしてる間に花畑についた。
「あ・・・・」治
ひどい光景だった。大きな怪物に踏み荒された後のように見えた。地面はドロドロ、木々は倒れ、向日葵の茎はへし折れていた。
「少年・・・!」ミア
「うぐ・・・!ひぐっ!」治
「大丈夫だ・・・」ミア
「うわああああああああああん!」治
「大丈夫だ!再び花は芽吹き、また同じようになる!だから泣くな・・・」ミア
「だって・・・!もう花畑めちゃくちゃだよ・・・!グスッ!もうなおらないよ!ヒック!」治
「私は魔物だぞ?大丈夫。すぐになおる。まあ少し時間はかかるがな。」ミア
「ほんと・・・?」治
「ああ。エルフの力をナメてもらっちゃあ困る。」ミア
そこからだった。彼女の力を見せつけられたのは。確かに少し長い時間がたった。といっても、一年だ。あの花畑を復活させるのには、もっとかかるハズだ。だけど彼女は成し遂げた。再び芽が出て、咲き乱れた。
そこから俺が中学になった時か。憧れの心は、青臭い恋心に変わった。
「ねえ、ミア」治
「なんだ?少年」ミア
この辺りから、俺はお姉さんではなくミアと呼ぶようになった。彼女は相変わらず少年としか呼んでくれない。
「人を好きになったりする?」治
「それは家族愛か?それとも友としてか?」ミア
「ち、違うよ。その・・・異性の意味で・・・」治
「ほう、少年も初恋の時期か?かわいいヤツめ。」ミア
「違うよ!僕そんなんじゃないし・・・!」治
「ふふ・・・真っ赤だぞ・・・」ミア
「・・・・っじゃあミアはどうなんだ!」治
「あるよ」ミア
「あるの!?」治
びっくりした。あのミアが。
「しかも今だし。」ミア
「今なの!?」治
しかも現在進行形で。
「ちくしょう・・・誰なんだよ」治
「クスクス・・・」ミア
その頃になると、俺の身長は向日葵を越していた。
彼女の笑顔が好きだった。
彼女の花畑が好きだった。
彼女の勇ましさが好きだった。
彼女の声が好きだった。
ミアの全てが好きだった。
ずっとずっと一緒だ。
ずっとずっと一緒がいい。
ずっとずっとずっとずっと。
憧れは友情に、友情は恋心に変わった。
時に、ケンカしたり、からかわれたりもした。だけど楽しかった。愛しかった。
それでも、別れがやってきた。
ーーーーーー
朱色に染まる空。少し肌寒い風。その時の俺は、急いで花畑に向かっていた。
「はあはあ・・・!ミア!」治
「おお少年!どうだったんだ・・・!?」ミア
「・・・・っ」治
「ゴクリ・・・」ミア
「受かった!」治
ポケットから書類のコピーを取りだし、叫んだ。この時俺は難関大学の試験に合格し、ミアに報告しに行った所だった。
「良かった・・・」ミア
「受かったよ・・・」治
「一時期本当に鬱になりかけてたろう。心配したぞ。」ミア
「言わないでよ・・・俺はこうして受かったんだから。」治
「ふふ、良かったよ。向日葵もこうして増えたしな。」ミア
「うん。ミアが気に入ってた花だもんね。」治
「・・・少し、寂しくなるな。」ミア
「・・・・うん」治
その大学の距離は新幹線で通うような遠さだった。とても家からは通えない。つまりミアと四年間会えなくなる。
「大丈夫だよ!就職はこっちでする!だから・・・!四年たったら俺と・・・」治
スッ・・・
「ダメだ。」ミア
口に人差し指をつけられ、告げられた。何を言っているのか分からなかった。
「え・・・」治
「もう、お別れだ。」ミア
「何を言って・・・!」治
「私はエルフだ。人間とは相成れない。里の長に言われたんだ。お前は禁忌に触れたって。」ミア
「それがどうしたんだよ!俺はずっと――――!」治
「ダメなんだ!」ミア
「――――!」治
「恐らくこれ以上私と話すと長は少年を殺すだろう。長は私に猶予をくれたんだ。君が大学に行くまで。」ミア
「そんな・・・!」治
「少し、話をしよう。」ミア
「・・・?」治
「あなたを愛してる。」ミア
「へ・・・!?」治
「永久不滅。」ミア
「へ・・・?」治
「私はあなたに相応しい。」ミア
「どういうこと・・・?」治
「私はあなたのとりこ。」ミア
「・・・・」治
「全部私の花畑にある花の花言葉だ。そして、私の気持ちでもある。」ミア
「・・・・それじゃあミア!」治
「・・・・時間だ。」ミア
「待ってミア!」治
「・・・さらばだ。永遠に、ずっと愛してる。治・・・」ミア
「待って・・・!ミ・・・ア・・・」治
その時急に眠くなった。魔法の一つだったんだろう。皮肉にも初めて名前を呼んでくれたのは、別れの時。その時だけだった。目が覚めたら、向日葵に見下ろされていた。わあわあ泣き続けた。目が腫れても、喉が痛くても。けれどミアは戻って来なかった。
大学に行って、少したったある日、花束が届いた。向日葵のだ。俺とミアが特に気に入ってた花の束。
花言葉は・・・
―――――
「何だったけな・・・」
俺はずっと電車に乗った時から考えてる。スマホで調べりゃいいけど、意地でも思い出したい。
「えー次はー」
「おっと、降りなきゃな。母さん元気かな。」治
俺は体を起こして、荷物を持ち、改札へ向かう。久し振りの故郷だ。大学は終わり、こっちで住むことにもなった。ただ一つ気になるのはミアだ。もうずっと会っていない。差出人不明のあの向日葵は・・・
「花言葉は何だっけか・・・」治
「あなたを見守ります。だ。少年。」ミア
聞き慣れた声がした。すぐに振り返った。そこには・・・
「久し振りだな・・・少年。」ミア
一番大好きな、一番愛しい女性が。
そこに立っていた。
END
15/09/20 21:25更新 / 海藻