連載小説
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6.舟に乗りしは、弁天さま
 師走…
 いつもは泰然としている坊主も、その忙しから走るという。
 年の暮れなんざ、坊主だろうが侍だろうが…はたまた貧乏人だろうが忙しくしているってもんだ。
 色彩もなく、表から見える戸や障子も継ぎ接ぎだらけの連なった家家。
 そんなところのひと部屋でひとりの男が、慌しく掃除をしながらぶつぶつと呟いていた。

 今年も、お疲れ様でした
 貧乏長屋の一室だが、雨風凌げりゃ問題なし。住めば都とはこのことよ!
 長いこと部屋の片隅にあった、主のいない埃だらけの蜘蛛の巣も掃った。
 長いこと干してなかった煎餅布団も干した。
 今まであった借金も、返してこうして証文を取り返すことも出来た。
 酒に、餅に、雑煮の用意。
 大根・葱…ご近所さんからの贈り物…。
 ちっと値が張ったが、数の子の塩漬けも手に入れた。塩気がたまんねぇ酒の友ってな。
 これだけで正月は酒が続く。
 おうおう、蕎麦も忘れちゃぁなんねぇ。
 年越し蕎麦…。
 カチコチンの鰹も剃って入れりゃ。
 具なんてものはァ、何にもいりませんとくらぁ。
 最近じゃ天麩羅なんてものを入れるやつがいると聞くが、屋台の出店で作る奴なんざ食えたモンじゃねぇよっと…。
 さぁて…後は…。
 何が必要だっけぇな…。

 外では、早めに家の中で正月気分を味わおうとしているのか、いつもはガヤガヤとやかましい人の声も聞こえない。
 時折、大通りの方から寺や神社へと行こうというのか、子供をつれた者達の声が響いてくる。

 今日は、近くの寺で宝舟の絵を買ってきた。初夢だけでもいい夢見ようという縁起物だ。
 いい夢が見れますように…っと!
 紙の舟も、一晩ならば人を乗せる事も出来るだろう…ってな。
 貧乏がすこしでも楽になればいいとも思う。

 福を呼び寄せる七人の神さん。
 むさ苦しい爺の神さん…そんな中で一人だけ艶やかなお顔の神さん。鮮やかな朱の口元が笑いかけている。そのお名は、弁天さん。なんで、出来れば弁天さんにお出ましいただきたいところよ。
 色っぽく艶やかな弁天さん
 そのふくよかな、しなやかなお姿で、この俺の元へとやって来てくだせぇ
 そんな好い女の夢でも見られれば、一年の始まりにはもってこいの縁起夢だぜ!



 煎餅布団に入りながら、火鉢の上の餅を突っついて焼いてる俺はもう正月気分。
 まァ普通の家ならば、正月の仕度で忙しくてならねぇというのが普通なんだろうが…俺はひとりモンで気楽な人生よ。細かいことは気にしない。
 数の子の塩抜きはしておいた。後は、食べられるようになるのを待つのみ!
 おっとっと、竈の鍋がぐらぐら言ってら!蕎麦を茹でるんだったな。

 蕎麦を茹でてると餅が焦げた。そのまま蕎麦に入れちまおう。
 へへへっ、今年最後の力蕎麦。来年の糧にしろってか?神さん仏さんも、粋な計らいしてくれんぜ!

 あったかいものを食べると、一杯やりたくなってくる。
 ここは一つ…。
 柄樽から酒を椀に注いで飲もうとしたが…その冷たさに寒気が背筋を伝う。
 蕎麦を茹でた湯で、燗にしちまおう。

 出来た燗に、つまみはないかと考える。見渡せば、塩抜きしている数の子が見えた。

 コイツをつまみにやっちまおう!
 顔が縮み上がるほどの塩気だが…、燗によく合うつまみだぜ!
 後は、鐘突き聞きながら寝るだけだ。

 チビチビと酒をやっていると、すぐ隣にある枕の横には、宝舟の絵が…。

 七福神。誰が考えたか知らねぇが…福よこいか…。
 福なんてものは、金と同じで天下の回りモンよ。そのうち来んだろうさ。
 けど、いまの俺にはどうしても来ねぇだろうものが一つ…。
 それは…女だ。
 女。
 
 貧乏背負って生きてるような俺に、嫁の来ても無く。
 容姿もいいわけでもねぇ、甲斐性があるわけでもない俺に、女が出来るはずもなく。
 どうしようもねぇ俺が、女と唯一戯れられるのは…夜鷹ぐらいのあばずれもんだ。
 どうしょうもねぇ俺と、どうしょうもねぇあばずれ…
 へっ、お互いさんだなぁ…。

 ちびちびと酒と数の子をやりながら、自虐的にほろ酔いになっていると宝舟。

 そういえば…宝舟の絵を売っていたあの売り子…。
 ありゃぁ…若い女だったなぁ。
 尼さんのように白い頭巾を被って、顔も隠すようにしていたが…あの声。
 確かに若い女だった。
 声からして、初初しい…やさしげな雰囲気。言葉少なげなその売り子。
 ああ、もうちょっと話してみればよかった…。
 後悔が頭をよぎる。が、もう遅い。
 ちぃっ! 悔いを残しちまったなぁ…。
 だからよう!弁天さん。夢の中だけでいい。俺のところへ来てくれや!

 布団に横になると…外は妙にしんっと静まり返っている。
 布団からそっと足を伸ばして障子を開けりゃ…。
 空には、白いモンがちらほらり。

 どうりで寒いわけだ。戸を閉め、布団の中へ足を引っ込める。

 ああ、俺の弁天さんよぉ…一緒にあっためあおうぜぇ
 
 そう、思わずにはいられなかった。
 寝ようとしたら、もう鐘が聞こえてきた。

 ああ、一〇八つの煩悩を振り払う鐘の音か…
 冗談じゃねぇや!
 弁天さんとの逢瀬を邪魔されてたまるかい!
 祓われる前に…寝ちまおう!

 鐘の音を遠くに聞きながら、まどろみの中へと落ちていった。






 ん?ここは?

 気が付くと、俺はどこか知らないところにいた。
 見慣れた薄汚い天井はなくなり、どこまでも透き通るような青い空が突き抜けている。
 起き上がり辺りを見回してもまた同じ。広い広い板間。そこかしことなにかが転がるように無造作に置かれている。
 近寄って手を伸ばしてみると…

 足元にあった、きらきらと輝いているものに手を伸ばすと…ふたつに並べた手のひらより大きい黄金色した米俵のような形の板。
 その隣には、同じような形の牛の舌のような手のひら程のもの。
 紅いキラキラとした枝のようなものも転がっている。

 そんなものを見ても特に興味がわくわけではない。すぐに隣を振り向いた。

 手すりがある。そっちにいって下を覗き込むと…
 ぎっしりと積まれた米俵が!
 どこかの大店の米問屋の蔵にも、ここまでたくさんの米は積まれちゃいまい。
 そんなことを考えていると…米俵になにかキラリとしたものが飛び込むのが見えた。
 それは、ビチビチと米俵の上を跳ね回っている。…赤いなにか。
 大鯛だった。ここから見ても大きな鯛。近寄れば一体どれほど大きな鯛なのか…。
 けれども、そんなものを見ても食欲がわくわけでもなく、興味はない。

 手すりの隣には階段が。
 下の階に通じているようだ。下の階段を見れば、ぽっかり空いた穴が。穴の中には階段も見える。
 そこよりも、もっと下へと繋がっているようだった。

 下の階につくと…米俵の向こう…ずーっと伸びた廊下の向こうに大きな帆が。
 いっぱいに膨らんで、風を受け止めている。
 どんなにこの舟は大きいのだろうか?
 まぁ、船乗りでもない俺には興味のない話だった。

 下への階段を降りる。真っ暗闇のそこには、ところどころに明かりが灯っていた。
 そんなところの片隅に、長い長い白髭を生やした甲冑がどすんと置かれていた。
 歴戦の甲冑なのか、いくつもの傷跡や紐に解れを見ることが出来る。
 顔に被せる仮面は、鬼のように恐ろしげな顔をしていた。口元、顎鬚から伸びる長い白髭。
 勇ましいと思うものの興味はない。
 興味もなく、ただ足の向くままに歩き出す。

 一体、俺はどこへと向かっているのだろうか?
 これだけの品々が並んでいるというのに、一向に興味をひくものは無い。
 導くように灯された明かり。

 いつまでも続くと思われる長い長い廊下。
 真っ暗な廊下に、鬼火のようにポツリ…ポツリ…と灯る明かりがゆらゆらと揺れていた。
 先の見えない廊下。いい加減引き返そうかと思ったその時…なにか、今までとは違うことに気が付いた。
 匂いだ。
 甘い匂いが漂っている。
 それがなんなのか…もっとよく嗅ごうと鼻をヒクつかせると、頭の中がぼんやりとしてくる。まどろみのまったりとした心地よさみたいな匂いに吸い寄せられるかのようだ。
 匂いに引き寄せられる虫のように、辿っていくと…目の前に障子戸が。
 中は、薄ぼんやりと光が灯っているのか…やけに目に付いた。
 戸の隙間からは、あの甘い匂い。どうしようもなく中に入りたくて戸を開き、足を踏み入れた。
 
 中は…むせ返るような甘い匂いが漂っていた。これが香ってやつだろうか?
 目の前に、淡い桃色の布のすだれ。 
 光はその向こうに灯っているようだった。
 足を忍ばして周りを窺う。
 と…人の影があることに気が付いた。
 すだれの向こう側。
 丸く、なだらかな曲線を持つ影。
 女…女だ。
 薄い布のすだれの向こうに女がいた。

「よう参られた。そなたがなにを欲しているかは、よう分かっておるぞ?」

 突然、声が聞こえた。それは、若い女の声。まるで俺がここへ来るのが判っていたように、すだれの向こうからまっすぐに言葉を掛けられた。

「ここは、宝舟。数々の宝物も食材も、そなたの心を捕らえることはできなかったようじゃな」

 ここに来るまでに見たものは、宝舟のものだったのかと思う。

「物や品…そんなものでは、そなたの欲する心を埋めることはできぬ。なぜならば、それは淋しさなのだから…」

 淋しさ?

「そなたの心からの?淋しいと訴えかけるものが漏れ出ているのよ。そんなものを埋めるにはただひとつ」

 ひとつ?

「愛じゃ。愛欲、肉欲…。その心を満たすのは何を望む?」

 言われたままに心に問う。すると、心がスースーしていて隙間風のように寒々しい。
 寒いし、淋しい…。
 ああ、欲しいさ!この心を埋めるものをよ!あんたの言うものでこの心を埋めることが出来る事なら、そいつを俺にくれ!

「欲しいならば、そのすだれに手を掛けよ。さすれば、なにをすべきかはおのずと分かるであろう」

 透き通るような薄いすだれ。
 俺は、何のためらいも無く手に取った。

 すだれの向こうにいたのは…弁天様だった。
 見たこともないような美人が笑みを浮かべて、俺を見ていた。
 骨と皮ばかりでやつれた様の夜鷹みてぇな女じゃねぇ!ふくよかで、なんていうか…あったかそうな雰囲気に包まれた女。そのみずみずしい肌の張り。つやつやと輝く髪の毛。やわらかな曲線美。透けるような薄い黒の襦袢。目を離せられなくなっちまった。
 唖然とする俺を目の前に、自らの手で黒い薄絹の長襦袢の前を開き、胸元を肌蹴させて見せた。
 透き通るような白い肌。零れ落ちるようなたわわな乳房がそこから見え隠れする。

「ふふふ、そんなに緊張せずともよい。すぐにわらわは、そなたのものとなるのだから」

 この美しい弁天さんが俺のモノに?
 どこか挑発するかのような顔で、弁天さんは胡坐をかき、片膝をかき上げ胸元でその足を抱いてみせる。
 ふっくらとむっちりとした太もも。匂いたつようにきめ細かい白い肌が目線を釘付けにする。
 けれど、弁天さんの小股…片足を上げたことによって見えるはずのアソコは、襦袢の影に隠れて見えない。
 見えそうで見えない。ヤキモキとした。

「そう硬くなるでない。硬くするのはひとつ…そなたの分身ひとつで十分じゃ」

 くぅぅ!とびっきりのイイ女が俺を誘っていやがる。
 これは、“夢”だ。それは、わかっている。けれども、ただの夢だけにはしたくない。こうして、手も動く、足も動くし意識もある。ひとつ頼みがあるとするならば…飛びかかる寸前で目が覚めねぇでくれよ!



 気が付くと、俺は仰向けに寝かされていた。
 甘い匂いが足の方から漂ってきて、そちらを見れば弁天さんのうつくしい顔立ちが。

「ふ、ふふふ」

 胸元で笑っている。にじむような白い肌の中、焼きつくように目線を引く紅い唇が目に残る。
 ふっくらとみずみずしく光る、紅い唇から零れるように漏れる笑みが、すぐ手に届くところにある。

「そなた…いや、おまえ様を今宵はいただくぞ? おまえ様のこの胸の内から零れだす“心”にの、誰かを…人肌の温もりを心待ちにする寂しさが…充たされぬ想いが漏れ出ているのよ。そんなおまえ様の心をの?我が慰めてやろう」

 その紅い唇から覗いたのは、これまた鮮やかな紅い肉の色をした舌だった。
 てらてらと輝く舌が、鳩尾にゆっくりと接し、ぺろん…ぺろん…と舐めている。まるで、そこに埋もれる心の臓を味見でもしているかのように…。

「どうした? ふふ、ふ…物欲しそうな顔をしておるぞ? ふ、ふ…夜はまだ長い。そう焦らずとも、今宵の逢瀬を愉しもうぞ?」

 胸元を舐めていたその舌は、鳩尾を胸元を喉をゆっくりと舐めながら顔へと這って来る。腹ばいにそのやわらかな身体を擦りつけながら、俺の表情を楽しもうと上目づかいでこちらを覗き込みながらだ。
 身体は動かない。夢の中特有の意識はあっても体を動かすことが出来ないまま、弁天さんの為すがままにされている。
 彼女の手が俺の肩を掴んだ。撫でるように肩、首…そして頬を…。そして、口を開けさせるつもりか…顎を動かそうとする。
 とうとう、ひびでも入るかのようにわずかに開いた唇を見るや、目と鼻の先でにやりと笑い…。

「潤いのない泉じゃ。すぐにでも湧き出させてやるとしよう」

 彼女の舌先がほんのすこし唇をなぞるように舐めると、そのまま差し込むようにぬるりと入ってきた。
 熱くてどろりとしたなにかが口の中を探るように動く。ぬめぬめと熱いそれは探し物でもしているかのように動き回る。
 口のなか中を味わったのか、舌を見つけるや絡ませてきた。
 舐めまわされ、唾が出てきてじゅるじゅると音を響かせながら、その動きは止まらない。
 彼女の顔は、ずっと翻弄されている俺を楽しむかのように笑っていた。

「ん…ん…ちゅっ……ちゅるっ……んっ……ふぅぅん……んふふふ……れろぉ…ちゅ……」

 唾が出るように丹念に舐め、それを絡めとるように…ひとつの飴を互いの舌の上で舐めあっているように、絡めて絡めて舐めている。
 体を動かすことができない俺を玩具にするかのように、口づけを交わしながらその手は身体を弄っていく。
 滑らかですべすべの手のひらが肌を伝い、指先がその反応を楽しむかのように動き回る。
 いつの間にか…弁天さんのその手は逸物を揉んでいた。

ちゅ…ふ、ふ。まだ、柔い。もっと…もっと硬くするのじゃ」

 やわやわとその感触を楽しむかのように、揉んでいる。竿を揉み、玉袋の感触を楽しむかのように揉みしだくのだ。
 刺激が足りないとでも思ったのか、口づけはそのままに、両手で揉みしだくようになった。
 弁天さんのほどよい胸の膨らみが、胸板の上で広がって…その心地よさがまたなんとも言えない。
 けれどもそんな思いのさなかも彼女は、玉袋を揉みながらも、片手で竿を揉み扱く。
 すべすべですこし冷たい弁天さんの手が俺の逸物を、こすこすとしごいている。否応も無しにどんどんと下半身に熱がこもるようになっていった。

「ふふふ。よいぞ? 興奮をしておるのじゃな? この手で扱かれて感じてきおったのじゃな? よいぞぉ良いぞ!その切なげな吐息をもっと聞かせておくれ?」

 体の動かせない俺は、木偶のよう。呻き声しか上げられない。
 そんなものでも、感じるものがあるのか。うれしそうに口づけを繰り返し、時折股間のほうをチラと見ながら笑う。
 指先で竿を扱きながら、手のひらで亀頭を撫で上げる。

「それ、汁が出てきおったぞ。我慢汁じゃ…おまえ様の汁が我の手のひらを汚しておるわ」

 見せびらかすように、手を目元に持ってくると…どうだと言わんがごとく見せ付ける。
 その手についたものを鼻元に近づけて臭いを嗅ぐや、臭いと言いつつ…うっとりとした貌を見せた。

「あっ……んんん〜〜〜…………臭い。…………じゃが…香しい。さぁ……おまえ様の味はどんなであろうな?」

 そのまま、手についた我慢汁をもったいつけるように、舌の上にこすりつける様に舐めとる。
 しょっぱいと言いながらも、目を閉じ味わっているようだ。
 目を開いたとき…期待に満ちた顔を見せた。そうして、また逸物を扱き始める。

 我慢汁の影響か、その手のひらはぬるぬるでそれがまた、快感を呼ぶ。俊敏になっている逸物を弁天さんは、一心に早く出せといいながら扱いていくのだ。
 玉袋を揉まれながら扱かれるその気持ちよさに、限界はすぐにも来た。

「ほぁっ!…ああっ!き、きおった!熱いものが手のひらに!ああっ!零さぬようにせねば!!」

 気持ち良さの余韻の只中にある俺は、放って置かれている。
 両手で湧き出すものを掬いとろうというのか、目の前では逸物から飛び出た白濁を受け止めた手に、あの舌で飛び散ったものを舐めている姿がある。猫が魚の油を舐めとるように、その舌をぴちゃぴちゃと音を立てながら零れてしまった白濁を舐め取っている。下腹のやわい肉を、太ももを、逸物に残った汁を、残り火のように湧き出すその精を…。
 くすぐったさと気持ちよさに身をよじる俺をおもしろそうに眺めながらも、弁天さんはソレを舐めとることにご執心のようだ。
 それが済むと、今度は掬い取ったものを大事そうに舐め始めた。
 その様子は、とても幸せそうだ。
 舌の上にまんべんなく広げ、ゆっくりと口の中へと運び、じっくりと咀嚼している。
 呆けたその顔が、とてもさっきまで俺を責め立てていた弁天さんらしくなく可愛らしくなった。口の中いっぱいに広げて味わっているのだろう、もごもごとその頬肉が形を変えるたびに、気の強そうにすこしつり気味な目元は下がり、にんまりと笑っている。
 そんな姿に、身体を舐めまわされた感覚が余韻を曳いていて、すぐ次を期待して逸物はしな垂れることなく立ち続ける。
 この次は…手コキの後はどうしてくれるのだろうか?
 動かせない身体ながら、心は期待に溢れている。
 けれど、弁天さんは手の中のモノに夢中で、俺に一切興味を失ったがごとくだ。そのうちに、意識が曖昧になっていく。

 ああ、弁天さんよぉ…口づけと手コキだけじゃぁあんまりだ。
 生殺しにもほどがある。
 手コキをしたろう? と?
 確かにおめぇさんの手コキは、自分でするよりも気持ちよかったさぁ…
 けんど…あんまりだ。
 あんまりだ。

 俺は、沈み行く意識の中…手についた白いモノを嬉々と舐めとる弁天さんの笑顔を恨めしげに見ながら、深い深い闇の中へと落ちていった。







 明けましておめでとうございます〜
  今年も貧乏などに気にせず頑張りましょうなぁ…皆が元気であるならば笑顔で暮らせるならば、貧乏もへっちゃらよ

 どこからともなく甲高い声が響いてきた。この声は…隣の子沢山のかかぁの声だ。薄い壁の向こう側からそんな声が聞こえてきた。
 それに応えるおっさん声が聞こえる。子供達の声は聞こえない。きっと近くへ遊びにやっているのだろう。
 陽はとうに上がり、真っ青な空が広がっていた。
 正月参りの者達のガヤガヤとした声が響いている。長屋の者たちの声、家主の声。子供達の声。新年の挨拶とガヤガヤとやかましい中に、礼を正すような雰囲気が含まれているのは、やはり正月だからだろう。
 煎餅布団を跳ね上げると、その寒気に身が縮む。けれど、それよりも気になったのが股間の寒気だ。
 冷たいものがチンコに張り付いて思わずヒヤッとした。
 見れば、チンコに褌が張り付いていた。あんな夢を見ちまったからだろう。弁天さんよぉ…どうしてくれるんだい!
 正月早々、なんでこんなにも残念な気持ちにならなくちゃいけねぇんだ!

 それはまぁさておいて…とにかく腹が減った。
 雑煮の用意をしなくちゃぁな。嫌なことは忘れて、一年で最もめでたい日。ゴロゴロしてても文句の言われねぇ日だ。気楽にゴロゴロさせてもらおう。

 酒と食事の準備が終わると、真昼間からコタツを作ってそれに入り込む。
 ガキ共がやかましい。戸を開ければ、空には凧が。遠くのほうから、太鼓の音も聞こえてくるから獅子舞でもやっているかも知れねぇな。
 酒に雑煮に煮売り屋のツマミ、塩抜きしておいた数の子…。チビチビとやりながら今年がどんな様子になるかを考える。
 まァ変わり栄えのねぇ一年となるだろうさ。金のねぇのはいつものこと。女っ気のねぇのもいつものこと。気ままに働いて、気ままに酒飲んで、気ままにボーっとする。いつもの日常だ。毎年そんな感じだったが…今年は早々に宝舟が現れた。なんかいいことあんのかねぇ。

 火鉢に掛けといた鉄瓶から湯気が上がっている。気が付けば…いくつか入れておいた銚子は消えていた。
 あったまった体も頭もだるくて…うとうとと舟を漕ぎ出す。俺は、動くのがだるくてそのまま意識を投げ出した。





「……ん……ん…ちゅ……はむ…ちゅる…」

 股間が寒い。風でも吹いているのか…すーすーとする。
 時折、人肌よりもすこし熱いくらいの温かさが包み込むように股間を覆う。

「ちゅ……んんん……ちゅー…ちゅー…ん…はっ…はよう……んっれろ…はよう…」

 おかしい?股間が熱い。こんなこと、つい最近もあったな…と思う。あれは…弁天さんだ。弁天さんが俺のチンコを弄くってやがったんだっけ。そんなことを考えているとハッと思い出す。…あの弁天さんの口づけの顔を。
 あのふくよかな顔つきが頭の中をよぎる。ああ、また会いてぇなぁ。今度はなすがままじゃぁなくてよぉ。
 そんなことを考えていると、肌がぬるぬるする。チンコが熱くて熱くて変な感じなのだ。
 まるで、女に舐めてもらっているかのように…
 あ?!
 舐めてもらっている?

「はよう…ちゅ…だせ……だすのじゃぁ……」

 寝ぼけた頭が一気に目覚めた。
 目の前には、障子みたいに格子のある天井が。桃色のすだれに周りを囲まれ、あの甘いにおいのする部屋。
 体を起こそうとしたら…髪を振り乱した女が足元にうずくまり、一心に俺の逸物を舐めしゃぶっていた。
 思わず腰を引こうとしたが…。

「ん…ちゅ…これ、どこへゆく?」

 がっちりと腰をつかまれ、逸物の先を咥えたまま放そうとしない。
 女は、なにも身に着けていないようで、白い肌の背中と乱れて長く伸びる髪が見える。
 そして、その向こうには、緩やかな曲線美を描く大きな桃尻が見て取れた。

「ん? ふんんんっ!……ちゅぁ…い、いきなりナニを大きくさせるでない!」

 形のいい尻を見せ付けられて、俺の心は一気に昂ぶる。
 弁天さんだ!また、俺んところに来て下さったのだ!
 夢の中とはいえ、女が通ってきてくれたことに喜びを感じる。
 豊かな体つきの弁天さん。今日は一体どんなことをして下さるっていうのだろうか?

「ちゅ…ぢゅ……。んふ、ふふ。期待しておるの。期待に満ちた顔をしおってからに。今日は、おまえ様を寝かせんかの。その身体に秘めたる精をたっぷりと頂くからの」

 もちろんドンっとこいっ!だ!!
 俺だって弁天さんの味を貪りつくしてやるぜ!
 にんまりと笑った弁天さん。
 それを見て、俺は身体を起こそうとしたが止められた。

「これ、おとなしく横になっておれ。まずはおまえ様を前戯で喜ばしてやらねばならぬ」

 さっきから弄くられていた逸物は、もう臨戦態勢だ。その大きく柔らかそうな桃尻が目に付いてはなれなくなっちまったからなぁ。
 昂ぶり立ち上がった逸物をやさしく掴むと、カリ首の裏筋をこれでもかと舐め始めた。
 舌の先で、丁寧に…そうかと思えば、舌の横腹を使ってカリ首周りを満遍なく。
 舌裏のぬめぬめとした粘膜が亀頭をなめたと思えば、唇が竿を扱き上げ唾でドロドロにしあげた。
 俺の両足は、がっちりと抱きかかえられて動くことさえも出来ない。
 なにかをしてやりたいと思っても、それを許さないとばかりに身体は動かなかった。
 与えられる快感に身じろぎもできないまま、ただただ呻き声を上げるだけだ。
 弁天さんは、吐息が短くなってきたと思ったのか、逸物を飲み込む勢いで扱き出した。
 亀頭は喉の奥深くを小突いたり、舌の誘導で頬肉を弛ませる。彼女の口は俺の逸物を根元まで味わおうというのか、伸ばした唇で情けない顔になっていた。
 俺は、限界を迎えたことを鋭く告げた途端…その溜めきったモノを吐き出した。

 突然吐き出された欲望は、彼女の口の中だけに収まることはなかった。
 跳ねるように逸物が痙攣して、弁天さんの口を離れるや、そのふくよかで整った顔を、白濁がどろりとかかって汚していく。
 口の中に飛び込んだそれをゆっくりと咀嚼している弁天さんは、いつぞやのようにうっとりとしていた。

「美味じゃ」

 満足げにつぶやくと、頭や顔、胸についたそれを丁寧にふき取っては舐めていた。
 時折、こちらを見ては微笑み、しな垂れそうになっている逸物を見るや、何を思ったのか俺の足の間に座ると股間に足を伸ばした。肉づきのよい足が伸びてくる。
 どうするのかと思うと間もなく、足の裏で逸物をそっと包み込んだ。

「まだまだであろう?まだまだできるはずじゃ。さぁ、たたせておくれ。そして…もっと美味なる精を」

 女の足の裏…そんなところで逸物を扱われたことのない俺は、味わったことのない気持ちで興奮をしていた。
 弁天さんは、神さんだ。そんな高貴なお方のお足を煩わせているのだ。
 やわらかな土踏まずが、しゅこしゅこと扱き出す。唾と精でべとべとになったそれは、ぬるぬるとしていてたちまち元気を取り戻していた。熱く火照った逸物に、冷たい足がゆっくりと扱く。
 俺みたいな小汚い男の逸物を、高貴なお方がお足で扱いてくださっている!それがなんとも背徳的な気がして、もっと気持ちよくしてくれと訴えた。
 お足で、扱いてくださっている弁天さんは、頭や顔などに飛び散った精を手でかき集めて舐めていたが、自ら腰を浮かすほどに気持ちよくなりたいとの願いをお聞きとげて下さったようで、待望の言葉を口になされた。

「どれ…おまえ様のその淋しそうに震えておる逸物を、我が蜜壷で慰めてやろうとするかの」

 白濁を口元から滲ませながら、さも楽しみだと言わんがごとく目尻のたれ下がった顔を向ける弁天さん。
 今の俺はどんな顔をしているだろうか?腹を空かせた犬が、おあずけをくっているのような情け無い顔をしているのだろうか?
 目の前の弁天さんの蜜壷のお口は…とろりとろりと待ちきれないというように涎をたらしていた。

「ふふふふふ。腹を空かせた犬のようじゃ。良いと言うまで動いてはならぬぞ?」

 横たわる俺に見せびらかすように、膝立ちになり見下ろしている。
 ぽたぽたとたれる涎が逸物の先に垂れてくる。それがなんとも待ち遠しくて、見ているだけでは物足りない。
 見せ付けられている俺は、頭の中で弁天さんとヤったらどんなに気持ちいいかを思い、もうハァハァと荒い息をしていた。

「本当に犬のようじゃ。ふふふ、ここは夢。わらわの花園。動きたいであろ?早く触れたいであろ?もどかしいであろ?心趣くまま飛び掛りたいであろ?力任せにねじ伏せたいであろ?…ふふふ。……ふふふ………ダメじゃ。わらわの気が趣くまま犯され、獣のように喘ぐがよい!」

 腰を下ろしてくれ!下され!もう、俺の心はそれだけだった。けれど…弁天さんは焦れる俺を愉しむように、その小股の愛液滴る唇で逸物に口づけするように触れさせただけ。愛液をすりつけるだけでじれったい。
 弁天さんといえば、こすり付ける感触だけで、甘い声を上げていた。

「ふ、ふふ……。おまえ様の逸物は青筋を浮き上がらせてビクビクと震えておるの。辛抱たまらんと言った具合かの?
 ああ…んん…わらわとて…ふぅふぅ…はやく、そなたの…その肉棒を……ぁぁ…待ちわびて………おるのじゃよ」

 さっきの飛び散った精を下の唇に擦り付けながら、期待に満ちたように肉棒だけを見つめている。
 時を見極めているかのように…。
 あああ、待ち遠しい。はやく…はやく…
 不意に、こちらを見た弁天さん。妖しく笑う瞳と、激しく渇望する瞳が絡み合った瞬間…
 一気…、熱いなにかに逸物は覆われていた。

 みちみちと…肉を掻き分けているのがわかるような…
 きつい…こんなに狭いのははじめてだ。
 中の肉が粒のように絡みついてくるような気がした。ゆっくりと中を進む逸物…腰を砕かれるような気がして恐怖した。
 ふと、弁天さんを見れば…歯を食いしばるように目を瞑っている。ゆっくりと腰を下ろしながら耐えているのか?
 俺の腰を食い込むほどに掴んだその手。痛いと思うよりも、申し訳ない気持ちとうれしさでいっぱいになった。
 弁天さんの初めてのお相手が、俺だったのだ。こんなうれしいことはない。

「ふぅぅぅぁ……はいった…入ってしまったの……んふ…んふふふふふふふふふ

 時々、目を瞑りお腹をさすっている。中に入った俺を感じているのか口元は歪んでいた。

「んぁ…びくびくしておるの。どうじゃ?…………あん……中で…跳ねおった。口よりも先に逸物で返事ができるのかえ?」

 にやにやと笑い、先ほどとちがって余裕がでてきたのか俺の腹を撫で繰り回す。
 俺といえば…逸物から伝わってくる感覚にどうしたらいいのかわからなくなっていた。

「どうした?まだ中に入れただけであろう?切なげな顔などしおってからに…ふ、ふ…そのようなことでは先が思いやられるの」

 締め付けられる。もう、きつい感じも苦しい感じもない。じくじくと熱いものが弁天さんと俺の間に割り込んできているのがわかる。仰向けになっている俺の股間には、弁天さんの汁…が伝ってくる。

「…さて、わらわももういいようじゃ。たっぷりと味わおうぞ?」

 ゆっくり…ゆっくりと…腰を浮かせ…ニヤリと笑いかけ
  ぐっ!と腰を下ろす

 俺は、鋭く叫んでいた。弁天さんの腹で、グチャっと汁っぽい音がしたような…。
 甘美なものが頭を襲ったような気がした。
 腰を下ろした瞬間から、弁天さんの腰使いはどんどんと快楽を楽しもうとするかのように激しい腰使い。

「あ、あ、あん……こ、これ……イイ……ィっィイの…」

 その動きは、だんだんと早さを増していく。

「はぁ…はぁ…ああ、クセになるのぉぉぉ……」

 粗い息を振りまきながら、彼女は腰を揺らしている。
 足の動きだけで…腰を振り、中すべてで味わおうとするかのように、俺の腹に手をついて腕立てをするように身体を揺らしたり、身体をくねらせるようにして味わっている。
 逸物は、弁天さんに吸い上げられるような感覚。熱く甘く融けるて混ざり合うような…。
 俺は、身体の中身を吸い取られるような恐怖心と、それでもいいと思ってしまう心で揺れていた。

 腰が熱い。身体の中がどろどろになってかき混ぜられているかのような気がした。
 そのどろどろに熔けたものが体中を巡っていく。気持ちいいという熱のようなものが身体を覆いつくしてしまったようで、頭の仲間でも弁天さんの体に溶け込んでしまったような錯覚が…。
 頭の中は、もういつまでも続くことだけを望んでいた。

「ああ、んはぁ…いっ……いっ……いいのぉ……あっん…か、かたっ…くて…あつ…あつっ……くて……いいのぉぉぉ」

 俺は…汗まみれで嬌声を上げながら、腰を振っている弁天さんがたまらなく美しく見えていた。
 今さらながらに、これが夢である事が残念で残念で仕方がなかった。

「そ、そう…そう!もっと…もっとぉ…はっ…はっ…突き上げるのぉぉ…はぁっ…な、なにも…ああっ…わ、わからなくなるっ…ほどっ…ぁん……もっとぉぉぉぉ」

 弁天さんが…神さんが…俺を…
 夢であるなんて事は忘れよう!今は…もっと、もっとこの神さんを喜ばす事だけを考えよう!刹那の快楽でもいい。もっと!
 頭がばらばらになる!そんな気がした。気持ちよさで、頭が膨らみきった袋のようになったような気もする。
 俺は…何がなんだかわからなくなって、自分の口がうまく言葉を紡げたかもわからないまま限界を告げていた。

「ふっふっあん、あんっ♪ あなたの精…せいっ!…はんっ…ちょ、ちょうだいっ!…んぁ…ちょうだいぃぃぃ」

 ぶつりと、なにかの線がぶちきれたような音がした。
 溜めていた熱いどろどろを解き放ったような開放感。身体がなくなってしまったかのような虚脱…。

「ィ、イィィィっっっ……んぁぁぁぁぁぁっーーー」

 甲高い弁天さんの声が、俺の上を通り過ぎていった。
 その時に、胸の上が重くなったような気がした…。



 気が付けば…
 弁天さんは俺の上に、前のように跨っていた。
 蕩けたような顔をして、お腹を撫でてはうっとりと…

「気が付いたかえ?」

 頭が重くてぼうっとしている俺に、今までとは違う慈しむような声で語りかけてくれた。

「おまえさま…の子種。見えるかの?こんなに…おまえさまの子種で腹が膨らんでおる。ふぅ…愛しいの…」

 うっとりと腹を撫で回す弁天さん。
 俺は、礼を言った。こんなに気持ちいいのは初めてだったと…。
 すると…弁天さんは愛しそうにゆっくりと頷いて、うれしい申し出をしてくださった。

「ふふふ…朝までには、もう少し刻がある。ならば、それまでに今一度楽しんでみてはどうかの」

 と…
 願ってもない申しで。一も二もなく頷いていた。

 その後…俺という馬に乗った弁天さんは、嬉々としながら笑っていた。
 下から突き上げられるその動きに合わせて腰を振う。そのたびに、うれしそうな嬌声を上げている。
 弁天さんにご満足いただけたのだ。その満足感と快感が、味わったことの無いような達成感を与えてくれた。
 俺は、いつしか気持ちいいまま闇の中へと引きづりこまれ、意識を失っていった。






 その日…新年早々、寺で開かれていた富くじの抽選に来ていた
 夢で弁天様に会えたし、今年は必ず何かあると期待して、なけなしの金を叩いてこうしてやってきた。
 正月の今だ参拝者が後を絶たない寺の本堂の前には、大勢の人々が今年最初の運試しと集まっていた。
 本堂の扉は開かれ、中の観音様が人々に慈悲の微笑を浮かべている。
 その手前、集まった人々の前には、坊主や小僧達が神妙な面持ちで刻限になるのを待っている。
 そして、いつもあまり人々の前には出てこない僧正様が当たり符の入った箱の前に立っておられた。

「明けましておめでとう。新年を無事に迎えることができ、たいへんうれしく思う。さて、今年最初の当たり籤。当たるも八卦当たらぬも八卦。当たった者は御仏のお導き。当たらなかった者は日々の精進あるのみ…。
 では、はじめよう。当たった者はここでそのことを申してはならない。不心得者が居らぬとは思うが、人の心は弱きもの。恨みを持って悪行に走る者もまた然り。当たった者はまた後日、ここへと来なされ」

 僧正様はそうおっしゃられ合掌すると、符を突き刺すための五尺ほどの槍を持たれた。
 富くじは、箱の中にいくつもある符を槍で突き刺し掲げ、読み上げるというもの。
 若き坊主が符が入れられた箱を振る。
 僧正様これに“よし”と声をかけ止めさせた。
 そして、”えい!!”と裂帛の気合のもと…上から突き刺し、一枚の符を突き出された。

 辰巳の廿!

 わずかな緊張の元、どこからともなくうれしそうなため息が!
 これを当てた者がいる?!思わずため息が上がった方を見そうになるが、そんな事をしている暇はない。
 羨みながらも、符当ては続く。片時も見逃してはならない。

 酉の参拾一

 次!

 午の壱拾八

 次!

 ……!

 すべてが終わったとき…
 残念そうに肩を落とすもの、わずかに顔が綻んでいるもの…様々だった。

 俺といえば…
 辰巳の七!
 大当たり!!
 後日やって来るの日が待ち遠しい。
 いくら当たったのだろうか?
 やはり、弁天さんのおかげだろうか?宝舟に乗ったあの夢のおかげなのだろうか?
 ホクホク顔で家路へとついた。





「あん…ああんっ……はっ……つ、ついて……もっと…もっと…はっ…ああんん…」

 俺は、またもや弁天さんと一緒にいた。
 今晩は、どうやら後ろから責め立てているらしい。
 ふっくらとしたお尻に手を置いて、鷲掴みにしていた。

「んあぁぁぁーーー。も、もっと…もっとぉぉぉ……」

 長い長い髪を振り回しながら、弁天さんは突かれるに任せている。
 後ろから四つんばいの弁天さんをそのやわらかな腰に手を掛けて、その曲線美の背中がしなるのを見ていた。
 髪の毛の、毛先をまとめている髪留めが目の前を跳ねていく。
 彼女の中は、熱すぎて正直溶かされているような気すらするほどだ。
 けれど、やわらかであったかい。
 それが気持ちいい。腰を振るたびにいつまでもヤっていたい、終わりなどなくなってしまえと思うのだ。
 くちゅくちゅと水音が聞こえ、その度に女の嬌声が沸きあがる。
 そんな様が嫌に獣っぽさを感じさせる。やっぱり、俺も彼女も獣なのだ。
 腰を引こうとすると、掴みかかってくるよう中に収めようとしてくる。
 長い髪の毛を振り乱して、もっとぉ…もっとぉ…と叫ぶのだ。
 乞われるまま、これでもかとばかりに腰を突き入れる。

「そ、そう…ああ……そうっ!……お、おく…奥までぇッ……」

 必死に腰を突いてと、乞う弁天さん。
 神さんといえども、根はケダモノなのだと思うと、愛しさがこみ上げてくる。
 俺は乞われるままに突き出される大きな桃尻に、無我夢中で突き入れていた。
 腰を掴んで、暴れる髪などものとせず…。
 なんていったって、気持ちいい。いい気分だ。
 掴むその体は、はちはちとした弾力でいつまでも掴んでいたい。
 弁天さんのおマンコの中は、どこまでも絡み付いてくるようにうねってた。ジュクジュクと熱い何かが絡みついて、いつまでも吸いとろうとするかのように…。
 腰を引けば、逃がさないよう掴み捕ろうとするかのよう。突き入れれば受け入れ掴み掛かるように締め上げようとする。
 ぴっちりと隙間なく逸物を包み込み、そのときを今か今かと待ちわびている。

「きゃぅぅぅん……きもちイッイィィィ……も、もっと……ついてぇぇぇ……」

 彼女の吐息と喘ぎ声に、心の中の獣が引きづり出されるような感覚を覚える。その獣が、この女の身体を味わい尽くせと言っている。
 これが、神さんの力というものだろうか?人ではないその魅力。
 そんな疑問も考える暇を与えまいと、もっと、もっとと快楽を引き出そうとしてくれる…そう思うと強く抱え込んで腰を振るっていた。

「あっ…ああっ……そう…そうっ…そう…っあ……は、早馬を…責め立てるッ…よう…ようにっ!」

 汗で肌に貼り付く髪が邪魔だった。髪留めを口に噛む。その様子はまるで、本当に馬を責め立てているみたいだ。
 手綱を引いてはやくはやくと責め立てる。彼女の張り上げる声が、俺の心を強く責め立てる。
 いつしか、我慢できなくなって叫びながら逸物の底に溜めていたものを、彼女の中に叩き込んでいた…。

「……イッ…イッくぅぅぅぅぅ!!」

 大きな叫び声を上げて、その背を弓のようにしならせる弁天さん。
 そのまま、前へと倒れこむのを抱え込み横に寝かせる。
 大きく息をする弁天さん。その顔は、涙に濡れつつ微笑んでいた。
 そんな彼女がとても可愛く見えて、腹の上に乗せて抱きかかえる。

 弁天さんよう…すげぇ気持ちよかったぜ? おめぇさんとはやっぱり肌が合うのかもなぁ。
 こう何度も夜な夜な俺のところに現れてくれる。お前さんもそう思っていてくれんのかい?
 だったらよぅ…これからもよろしく頼むぜ?

 幸せそうに微笑む弁天さんの頭を、抱えるように口づけをしていると…。
 重々しい鐘の音が聞こえてきた。
 朝だ。
 近くの寺の朝一番。明け六つの鐘の音。
 ああ、起きたくねぇ。弁天さんとまた離れ離れかい。今夜も弁天さんが来てくれればなぁと、薄れ行く視界に見える弁天さんに祈らずにはいられなかった。




 チュンチュンと、鳥の声が聞こえた。
 朝だ。
 最近の俺は、気持ちいい目覚めでいっぱいだ。なんせ初夢からこっち、弁天さんが夜な夜な毎日俺の夢へとやって来てくれているのだ。
 今朝は、あの弁天さんと願い通りに最後まで出来たんだからなァ、目覚めるその時までなァ。うれしさがこみ上げて来るってもんだ。
 今朝は褌は着けてはいないから、いつもみたいに貼り付くなんてこたァねェだろうが…まぁ縁起夢だ気にしちゃ罰が当たる。

 そう思って、体を動かそうとしたが…動かない。

 なんだ?もう夢は覚めちまったはず…
 布団の中が嫌に温い。いや、何かが違う。
 がばっと布団を剥ぐと…女がいた。
 俺は、叫び声を上げそうになった。
 見知らぬ女が、俺の腰に抱きついていた。しかもよく見ると女の腰から下は人じゃない!馬のような毛皮のものが布団から土間にかけて横たわっていた。
 この時ばかりは、叫ばずにはいられなかった。

 誰だ!おめーは?!どっどうし…なんで布団の中にいやがる!そんなことより、おめーは人じゃないんかい!半身馬女なんてこの辺りにいたか?いや、知らねぇ!ど、どうして俺のところに!

 頭が混乱して一気にまくし立てたが…女の顔は、一瞬の寝ぼけた顔をした後、はっとなり…すぐにすごく悲しげで…泣きそうな顔つきになった。俺の煎餅布団で隠れようと被ろうとしたから、布団を取り上げると手で顔を隠して隅へとよちよち逃げていく。

 朝っぱらから頓狂な叫びを上げたせいか…隣や向かいから人が駆けつけてきた。
 ガヤガヤとやかましく、見慣れない来訪者に戸惑っているような声さえ聞こえる。
 人が来たのに、布団を抱えて驚いてあやかしを見ている俺と、今にも消え入りたそうな顔をして震えている馬娘。
 大きな身体を精一杯縮めて座っていた。
 今にも泣き出しそうだ。
 その女をあやすように隣のかかぁがワケを聞く…。

 名は?
「由愛…と…ぃ…」
 何者?
「夢魔…です」

 途切れ途切れの声。自信のないその声は、相当おびえてしまっていた。
 それにしても…あやかしは時々街で見かけるが、夢馬というのは初めてだ。
 どんなあやかしなのか訊ねてみると…

「男の人の夢の中に…入…込んで、夢を操りつつ精をとる…それが夢魔…です」

 消え入りそうな声で、由愛と名乗った馬のあやかしはうつむきながら答えた。
 なんで、俺のところに来たのか…と聞くと。


 彼女は、街で絵を売って生活をしていた。飴や薬に使う紙袋に絵を刷ったりもしているらしい。
 浮世絵師のような何人もの人の手が掛かる様な物を作っているわけではなく、艶本や春画の挿絵などを作り、本屋で見かける気に入った男の夢の中へお邪魔し精をもらう…。そんな生活をしているという。
 そして、季節は師走。当然やってくる正月の初夢のために宝舟の絵を描いて売る時季となった。
 晦日のその日、宝舟の絵を売っているとやってきた男。
 その男はしきりに笑いかけてきた。
 「女に縁がねぇんだ。せめて弁天さんにでもお出ましいただきたいところよ!」と言いながら、いくつか種類のある中で、弁天さんの絵が大きく描かれているものだけを選んでいるようだった。色っぽい弁天さんだねぇとしきりに褒めるその男。
 確かにその男からは、とても良い匂いが漂っていた。人の精をなによりも好む夢魔である彼女にはとても魅力的な匂いだった。
 漏れ出る精の匂い。もう何日も女に縁がないのだろう。そういう男は、時たまにいる。そんな時は、夢にお邪魔してほんのすこし精を貰うのが彼女のやり方。けれど、彼はお客として絵を買い、絵を褒めてくれた。絵が褒められたことにうれしく思い、絵が褒められたことでその男が気になるようになった。
 晦日の晩、普通の家々では正月の支度などで夜中起きているものだ。けれど、その男はすぐにも寝てしまったのか夢の中へと入り込む機会はすぐに来た。そうして、機会があればすぐにでも行って精を貰うのが日課になった…という。

「今…こうして、見つかってしまったのは…夢の中で…楽しかったから…です。…は、離れたく……なかった」

 夢の中でのことが楽しくて、目覚めが近いのがわかっていてもそのぬくもりが温かくて、もうすこし…もうすこし…と思っていたら、見つかってしまったらしい。

 惚れちまったんだねぇ。と、隣のかかぁがうんうんと頷いている。そのうち誰かが、貰ってやれよと言い放った。
 惚れられて悪い気はしないだろう?という。集まった奴らも、そんなことなら一緒になっちまえと言い出した。
 俺のところに何度も来ていたというこの娘。俺は、夢?もしかして…という思いであることを訊ねた。

「由愛…と、言ったか? …精が食べもので夢を操っていたと言ったが…おまえさんが…ここんところの弁天さん?」

 びくっとしてこちらを一瞬見ると、肩を震わせて抱きかかえるように顔を隠す女。
 その肩や馬の背がぶるぶると震えている。

 ああ…やはり弁天さんはこの女だったのだと確信した。道理で毎日、夜な夜な気持ちいい夢を見れるものだと思ったものだったが…そんなことだったのなら納得がいく。
 確かに惚れられて悪い気はしない。むしろ、女に縁がなかった俺に女が出来る。いいことだ。
 妖者と結ばれて睦まじく暮らしている、という話も珍しくは無い世の中だ、特に問題があるわけではない。
 でも…夢魔というのは聞いたことが無い。
 夢の中でのひとときを思い出す。あの弁天さんは、高貴そうで高飛車ではなかったか?この臆病な娘が弁天さん?本当なのだろうか?
 今、目の前にいる娘は部屋の隅にいつの間にか移動して、モジモジとしている。本当に同じ娘なのだろうか?と思ってしまうほどに恥ずかしそうに顔を背け、時折期待するようにチラリとこちらを見てはまた背ける。馬の耳が忙しなくぴくぴくと動いては、落ち着かないというようにしっぽが動いていた。

「仕方ねぇ…飯ぐらいは炊けるだろう?」
「…は、はい」
「ったく、そんなにビクビクされてちゃろくすっぽ話もできねぇ。もっとこっちおいで」
「……」

 娘は下を向いたまま動こうとしない。だが、しきりにチラチラとこちらを窺い、目が合うとさっと顔を伏せてしまう。

「なんもしやしねぇから、こっちおいで」

 怯えてしまっているのがわかったので、できるだけやさしく言ったが…。

「…はぃぃぃ」

 消え入るような声をだすものの、やはりモジモジとしている。そのうちに、そわそわと周りのことを気にしだした。

「あー、すまねぇが野次馬の衆。大事な話があるみてぇだからよ、出てっちゃくんねぇか?これじゃ、話も進まなねぇからよ」

 口々に何を思ったのか、うまくやれなどそんなことを言って出て行く野次馬。
 二人きりになり、改めて由愛と名乗った夢魔を見る。
 赤い顔をして、ちらちらと見ている。落ち着きが無いようでしっぽが、ばさっ…ばさっ…と動いている。

「由愛だったな?」
「……はい
「俺の女になりたいんだな?」
「……ぁ…はい
「…後悔しねぇな?俺は、明日のお飯の宛ても不安定なろくでなしだ。幸せにしてやれねぇかもしれねぇんだぜ?」

 そういうと、由愛は耳をぴくぴくとさせながら精一杯の声を出そうとするかのように、胸の前で両手を握りしめて言った。

「そ、それでも…それでも…あなたがいい
「仕方ねぇ。それじゃ、もっとこっちにおいで」
「は、はい」

 窮屈そうに折りたたんだ馬の足をもじもじさせて、なんとかこちらへとやってくる。
 目の前へと辿りつくと、すぐに下を向いてしまった。

「由愛。こっち見な」
「…はぃ」

 こうなりゃ、隠し事はなしだと、俺も思っていたことを話すことにした。

「俺もな?実のこと言うと…あの売り場でな?おまえさんともっと話しときゃよかったと思っていたんだ。若い女なんて縁もなにもないからな」
「え?」
「おまえさん言ったな?俺のこと気に入ってくれたって。あの時も言ったが…女に縁がねぇんだ。だから、おまえさんが来てくれたこと…かなりうれしいんだぜ。夢で弁天さんに求められたとき…俺みてぇのもあんなイイ女から求められるんだってな」
「あ…」
「毎晩やってくる弁天さんと別れるたんびに、夢の中だけじゃなくこうやって…触れたいって思ったもんだ」

 由愛に触れたくて手を頬に当ててみると、その頬はやわらかく温かかった。

「あ、ああ…」
「何のとりえもねぇ俺が、弁天さんみたいな別嬪を満足させることができたってぇな!俺のところに通ってきて下さるってな!本当に、うれしかったんだぜ?」
「あ、ぁぅぅぅぅ…」

 今にも火を上げそうなほど真っ赤になっている由愛。
 こうやって間近に見れば、なんと可愛らしい娘なのだろうかと思わずにはいられなかった。

「弁天さんも別嬪だったが…おまいさんも別嬪さんだなぁ。…由愛?」
「……はぅ」

 恥ずかしさに我慢できなくなったのか、すがりつくように抱きついてきた由愛。いくら、どうした?と、問うても肩にかじりついて離れようとしない。それどころか、いやいやするように頭をふっているのだ。

「由愛?」
「あ、あ、ぅぅぅぅぅ」
「…………………由愛?あったかいなぁ」
「…………………………………………ふぇ?」

 驚かせないように、ゆっくりと抱きしめると…ようやく俺たちがどんなことになっているのか気が付いてくれたようだった。
 すぐにわたわたと慌てたような声をだした。

「あ、わ、わ、わ……ご、ごめん…な…ひゃぃ」
「由愛、おちつけ。おちつけな?そら、どうどう…。俺たちゃ、これから一緒にやって行こうっていう仲なんだ。慌てるこたぁねぇ。そうだろう?」
「…あぃ」
「俺に抱きしめられて恥ずかしいか?」
「あぃ」
「なら、もっとこのままでいよう。
  ………………………由愛」
「ふぁぃ」
「あったかくて、やわらかくて…いいな。おまえは…」
「っ…」

 ほめた途端、ぞくりと身を震わした由愛は愛しいものでも見つけたように、そっと抱き返してくれた。
 そして…一言。

「……あったかい」

 ほぅ…っと、口から零れ落ちるかのような一言は、俺の心をぐっと捕らえた。
 それがあまりに可愛いいと感じた俺はそんな由愛の頭を、撫でていた。

「ふぇ?………ふぁぁぁ…」

 どうしたのかというような顔をした後、気持ちよかったのか俺の頭に寄りかかると、撫でられるままにされている。
 そうして撫でていると、トクトクトクと心音が聞こえてくる。
 これは…どちらの音なのか?
 俺か、由愛か…。
 抱きしめていると、体が熱くなってきた。それとともに、はっきりと漂ってくるものが…。これは…由愛の身体の匂い?
 女特有の甘酸っぱい匂いが鼻をつく。俺は、由愛の衣の隙間から洩れ出てくるその匂いにくらくらとした。

「…ぁ」

 小さく声を上げた由愛は、頭を離すとちらちらと俺を見はじめた。そして、何かに気が付いたように下の方に視線を移す。
 どうしたのかと声を上げるよりも先に、下半身に違和感。…しこりが腹回りにある。
 俺がそのことに気が付いたのがわかったのか、今度はどこか期待するような顔をした。
 どんどんと顔が赤くなっていく由愛。耳の内側すらも真っ赤になってしまった。

「かわいいな、おまえは」
「ぁ…ぅ…」

 由愛というかわいい女を見ていると、はやく抱きしめてやりたくて…俺のものにしてやりたくて心がざわついた。
 真っ赤になっているこの女のすべてが見たくて、その衣の帯にゆっくりと手を添わせる。
 俺がなにをしたいのか分かったのか、きゅっと目を閉じると俺の肩に突っ伏した。
 ゆっくりと解かれる帯。その身体を締め付けていたものが解かれると…たわむ衣と共に、むわっと女の香りが広がった。

「…っはぁぁぁ………いい匂いだなぁ由愛」
「っくぅぅぅ」

 由愛の胸元を見たくて、顔を上げるように聞かせても、ぷるぷると震えながら顔を上げようとはしない。
 どうしたらいいのだろうか?…俺は、一計を思いついて今度は自分の帯を解いた。
 たぶん、由愛の時と同じように帯を解いたことで洩れ出た匂いでもあったのか…はっとしたように顔を上げた。
 そして…。一点を見つめたまま固まってしまった。
 彼女の視線の先…俺の逸物だ。
 衣の下に、腰巻をしている由愛とは違って、褌もしていなかった俺のあれは見事に見えてしまっていた。
 しかも由愛の温かさに、しっかりと硬くなっている逸物。
 見られている。片時も逃さないというかのようにじっと見つめている。
 恥ずかしさに、俺も同じように由愛の大事なところを見つめ返すと…彼女の腰巻に、水で濡れたような染みが広がっていた。だんだんとそれは広がっていく。

「由愛?」
「ぁ…ぁ……あぅぅぅぅ」

 俺の顔を見て、自分の股も疼くほどビショビショになっているのが恥ずかしかったのか、泣き顔で震えている。

「由愛、俺な?おまえがほしい。見えるだろ?おまえが欲しくてこんなになっちまっているんだ。はやくおまえを俺にくれ。おまえも俺を欲しいって思ってくれてんだろ?な?」

 そうあやす様に囁くと、ゆっくりと頷いてくれた。
 俺は、怖がらせないように腰巻を取ると伝えながら、ゆっくりとした動きで腰巻の紐を解いていった。

「…はぅぅぅ」

 鼻をつく湿った甘酸っぱい匂い。腰巻を取ったことで、茶色く黄ばんだ畳に雫が零れ落ちるのが見えた。
 恥ずかしさに手で顔を隠してしまった由愛。

「きれいだ由愛。見えるか?俺のが…。おまえと一緒になりたくてこんなにもびくびくしてるんだ。おまえもそんなにも涎を垂らしちまって…これがうまそうに見えるのかい?」
ん…ん……

 それは、本当に小さな声だったが…期待に満ちた頷きだった。

「ゆっくりな?ゆっくり…入れるぞ?」

 由愛の見つめる側からだんだんと、ずっ…ずっ…と埋まる逸物。
 夢の中にあったように、ぼんやりとした意識ではない感触に、神経が研ぎ澄まされていく。
 肉のひとつひとつが、待ってましたとばかりに絡み付いてくる。それが、得もいえないほどの感触だ。
 気持ちいいと吐息を洩らす俺を、食い入るようにじっと見つめている由愛。そんな由愛の顔も、どんどんと弛んでいく。
 すべてが埋まったとき…俺たちは互いにその顔を見つめあっていた。

 はぁ…はぁ…と息をするその可愛らしい口元からは、俺を求めていると言いたげに舌が伸びていた。俺も、その口を味わいたくて舌を伸ばして、挿しいれた。
 どちらからともなく、ぴちゃぴちゃとした水音。とろりとした顔で口の中を、くまなく舐めまわしている。
 くぐもったような笑い声。必死に求めてくれる様に、どんどん心が惹かれていく。
 息継ぎがしたくて一旦、口と身体を離そうとした時だった。

「お、おい由愛!そ、そんなに向かってくるな!」

 由愛は、ぐいぐいと脚を踏ん張って逸物を奥へ…奥へ…と入れようとするかのように脚を踏ん張る。
 腰の抜き差しが出来なくなるからと、その都度後ろへと下がるが…たいして広くも無い部屋、すぐに壁へと追い込まれてしまった。

「はぁ…はぁ…はぁ……んぅぅぅ…もっと…うずめたい……あなたのを………なかに…かんじたい…」

 後ろ足で踏ん張って押し込もうとするものだから、対面ながらも覆いかぶさるような格好で由愛はぐいぐいと向かってくる。
 自然と抱きかかえる体勢になってしまった俺は、動けないまま胸元で潰れている乳房の温かさを堪能しながらも、トクトクと昂ぶる鼓動を耳にしながら抱きかかえていた。

「…あったかい」

 うれしさを洩らすようにそう呟いた由愛。夢の中の責め立てるようなまぐわいではなく、温かさを求めるような由愛に、俺はすっかりと身体を預けていた。
 逸物は、ぎゅっぎゅっと布を絞るような締め付けで絶えず包み込まれている。
 時々、逸物の具合を確かめるように脚の力を弱めて身体を引いては腰を振るようにまた押し込んでくる。
 その度に、ぎゅぅぅっと彼女のオマンコは締め付けるのであった。

「…はぁ…はぁ……だ、だんだん……あつく…なってきた…の」

 少しずつ、腰の動きがはやくなっていく由愛。その動きはぎこちない…けれど確かに気持ちよくなろうと身体を揺らして頑張っている。

「ひっ…うっ…ああ……あん……ん…」

 夢の中では、主導権を握って精を採ろうとしていたようだったが…今の由愛はそんなこともできないように、必死に身体を揺らしている。

「ん…あっ…ああん……あん…んっ…んっ……あは……」
「ど、どうだぁ?ゆ…由愛?」
「ぃ…ぃい……はぁ……い、いい……の…」
「気持ちいいのか?」
「はぁ…ぁ……は…はぃ……きもち……いい…です」

 夢の中とは違った、愛のある睦み合い。この可愛らしい由愛がどうしようもなく大事なものに見えて仕方がない。
 ゆっくりと腰をふりながら、どんどんとその勢いを激しくしていった。

「ああっ…あああっ……はぁ…ああんんん…わた…わたしの…なか……こ、こすれて…る……ずん…ずん…って…ああん…き、きて…くれてる……のぉ……ぁひゃ……んんん」

 口の中を貪るように、ぺろぺろと舐め、快感を与えてくれる逸物にどんどんと向かってくる由愛。
 欲望に素直になっていく由愛と、同じようにもっともっとその身体を貪りたくて仕方がない俺は、互いに身体を揺らして快感を高めあっていた。

「由愛…由愛…ゆめぇ…」
「あん…ああん…き、きもちいいのぉぉぉ」
「ゆ、由愛ぇ…お、おれ…そ、そろそろ……」
「あん、うん、うん……わ、わたし……っも……んあ……ああん……あん」

 お互い限界は近い。いっしょにこの気持ちよさの中で果てたい。その想いが身体に元気を与えていく。
 根元まですっぽりと飲み込まれた逸物を細かく揺らして、その全部で由愛の中すべてに俺を知ってもらいたい。

「あ、あ、あん…ん、ん、んんーーーあひゃぁぁぁぁんんんーーーーー!!」

 同時に上がったその叫び声。これで、身も心も俺たちは一緒になったのだと思うと、どうしようもない大切な宝を手に入れたのだと、心が打ち震えた。
 荒い息をつきながら余韻に浸っている由愛。汗と涙でぐしょぐしょだ。その精根尽き果てたようにぐったりとした身体を抱きかかえて撫でてやると、弱弱しい笑顔を見せた。

「このまま、いつまでもいたい…」

 胸の中で呟く由愛。そんな言葉に俺はいつまでも抱きしめ、髪を撫でてやるのだった。




 その日俺は、弁天さん…由愛の背に揺られながらあの富くじの寺へとやってきていた

「由愛?いくら当たっていると思う?」
「…わからなぃ……でも…そんなには…当たってない…と…おもぅ…」
「ここのところ、俺にはツキが回ってきているからな!一等の三十両なんて当たってたらどうする?濡れ手に粟の三十両だぞ?数年間遊んで暮らせる!いや、おまえとの暮らしやすい家を手に入れることだってできる!」

 俺たちはあの後、貧乏長屋を追い出されて由愛の住処で二人で暮らし始めていた。
 長屋では狭すぎて床が抜けては堪らんと、家主に追い出されたのだ。

「わたしにはあなたがいる…それだけでいい…。そんな大金いらない」
「まったく、俺の弁天さんは俺にはもったいないほどのいい女だぜ!まぁ、おまえと暮らせる足しになるならいくらでもいいけどな」
「うん…」

 寺の参道は石畳み。
 彼女の歩みが、ぽくぽくと鳴り響く。

 寺の裏手へと進むと、外から見えないように富くじの当たり籤交換場所があつらえてあった。
 辰巳の七の符を取り出すと中の坊主は、祝辞を述べて袱紗に包まれたものを持ってきた。
 金一両
 それが、俺たちの当てたものだった。

「やったぜ由愛!」
「うん」

 恥ずかしがりで、あまり表情を見せない由愛だが…笑顔で笑いかけるとふっと緩ませるような笑顔を見せてくれた。

「俺はツイているって言ったろ?」

 得意満面でそう言うと、由愛ははにかんだような笑顔をした。

「確かに…こんなことは、もう無い…ね」

 そんな時…ぽふっと、頭を預けて抱きしめてくれた由愛。
 俺は、そんな由愛に驚いた。いつもだったら、人がいるときは恥ずかしがってやってはくれない。
 人の目があるのに、親愛の情を見せてくれるようになった由愛。
 三十両ではなかったが…、むしろこっちの方がうれしかった。

「俺たちの出会いは大吉だ!、今年は初っ端から好い事尽くめだぜ!!」
「毎日…しあわせ…なの」


 幸せそうに顔を赤く染める由愛。これからは、ずっと隣でこの可愛いらしい顔を見せ続けてくれるのだろう。
 夜になれば、あの弁天さん姿で俺を愛しそうに愛しんでくれるのだろう。
 こんなにも愛してくれるのだ、今度は全力で由愛の支えになってやる。
 俺は、臆病な性格の由愛をいつまでも支え抱きしめ続けてやろうと、誓うのだった。




13/03/10 23:24更新 / 茶の頃
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■作者メッセージ


どうも、ご無沙汰しております。
ジパングのナイトメアさん如何だったでしょうか?
正月に出そうと思っていたものですが、いつの間にか三月に…orz
思えば、ちょうど2年前に日の国小話奇談の連載が始まって以来、voteや感想などで励ましていただき本当にありがとうございます。
更新ペースは落ちておりますが、続けていく気力はまだまだありますので、これからもどうぞよろしくお願い致します。

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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33