3.道場破り
とある町の貧乏長屋の一部屋での日常風景
「はいっ!…あーん♪ 」
ほどよく焼かれたそれは皿の上で湯気を上げていた。
「…自分で食べれる」
目の前、口元…すぐそばに食べてくだされと差し出されたそれは、知らず唾がでてしまいそうな良い匂いを放っていた。
「そうおっしゃらずに♪♪♪ わたしはあなた様の“妻”なのですから♪ はいっ♪ あーん♪ 」
焼きたての魚。その身を解して、愛しき人へ食べさせてあげようと箸でとって差し出していた。
「志保よ…あー…そのな?」
「なんですか?正之助様♪ 」
どこかむず痒そうなのは田崎 正之助。そして対照的に寄り添う満面の笑顔の女…その名は、志保。
「……」
「正之助様?お口をあけて下さりませ。生きのよい鯵のヒラキですので、食べればきっと宵の疲れも取れお力もまた漲ることでしょう♪ 」
にこにこと笑う志保。その後ろを見れば深緑色した尻尾があった。
機嫌よさそうにそのしっぽが、ひょこひょこと動く。
よく見れば、着物から覗くその手も足も人のソレとは違い爬虫類の手足のように厳つい…
そう…この志保は、蜥蜴人だったのだ。
彼らの出会いは驚きのものだった。
街に辻斬りが出たというので、退治してみたらそれは蜥蜴人だったのだ。そんな、奇妙な縁がきっかけで夫婦となっていた( 詳しくは、日の国小話奇談 其之壱:5.辻斬り )
「なァ、一人で食べられるから…な、な?」
恥ずかしいのか、赤い顔をして正之助は一人で食べれると言うが…。
「駄目です!わたしは妻の務めをはたしているだけなのです。ですからっ!そうご遠慮なさいますな。あーんが嫌だというのであるならば…あん…」
どうあっても食べさせたいようだ。
「口移し…を所望なのですね?さっささ…んーーー」
そういうと、魚を口に含み唇を差し出す志保。
「まっ?!まて、まてまてまてまて!!!待つのだ!そ、それはぁ!」
逃げようとする正之助の腰に志保のしっぽが巻きつき…捕らえて放さない。
「んーーー♪ 」
そのまま圧し掛かり、押し倒す。
その瞳は、妖しく笑っている。
「しほーーー?!……ん……んぐ……」
押しのけることもできずに…その抱擁と口づけを受ける正之助…
「んっ…ちゅ…。はぁ…はぁ…いかがですか?とぉってもおいしいでしょう♪ 」
「んっ…んぐんぐっ…ごくっ……そ、そうかもな…」
「そうなのです。さっ…もう一口♪ 」
志保は焼き魚を大きく切り取って口にくわえた。
押し倒されたままで、飯よりもその志保の重みに欲情を覚えそうになった正之助…
唇からはみ出ている魚を口づけするかのように噛み切ってから、なんとか志保を抱き起こした。
「まひゃのふけ様?」
「ん…もぐ…。ん…。す…すまぬ。それは志保が食べてくれ…。口移しは…刺激が強すぎる…。だから…その…」
目が泳ぐ正之助。それを察したのか、股間を見つめて悪戯っぽく撫でてから笑いながら言った。
「ん…んふふふ。…ならば…"あーん”ですね♪ ヤンチャなここは、今宵また頑張ってくれることを期待しましょう♪ 」
股間をなでられる恥ずかしさに顔を赤くしながら、渋々あーんを承諾した正之助。とりあえず…志保にも“あーん”をしてやらねばと、とってやる。
「…ほら、志保…。あーーー」
「あーーーん♪ ん…ん…うんん…」
「うまいか?」
「とってもぉ…♪ おいし♪ 」
蕩けてしまいそうな顔をして微笑む志保。
「では…正之助様も…あーーーーん♪ 」
「……ッ!……ぁーーーん…」
顔が茹で蛸のようにさらに赤くなる正之助。
「んふふふふ…♪ 」
正之助が“あーん”をすると、本当にうれしそうに抱きついてすりすりと頬ずりをする志保。
「志保…大げさだ」
「正之助様が、わたしの“あーん”を受けてくれたのですもの…うれしくて涙がでてしまいます♪ 」
「おおげさな……」
「正之助様には、精をつけて頂かなくてはならないのです。ですから…もっともっと食べてくださいましね♪ 」
「む……むぅぅぅぅ…わかった…」
「さっ…今度は、あさりの貝飯ですよ。この貝が疲れを取るのです。…さっ…あーーーん」
「あーーー…ん…」
きゃっきゃっと志保のうれしそうな声…新婚の初々しさそのままに甘く爛れそうな会話は続く…
田崎家の幸せな昼飯はもう少し掛かりそうだった…
長い昼食が終わった頃…
外から声がしてきた。
『…すまぬが…田崎の家はここか?……そうか、かたじけない』
正之助を訊ねて誰かが来たようであった。
『田崎の家に用があって参ったのだ…。そこをどいてくれぬか?』
貧乏長屋の人々のがやがやとした声がする…そして…
『ごめん!田崎 正之助殿はご在宅か?』
凛とした男の声が辺りに響き渡った。
「はーい!」
志保が戸を開けると、30前後の男が立っていた。
「私は、村上 新三郎と申すものですが…正之助は…居りますでしょうか?」
身なりはほどよく草木色の着物に灰色っぽい袴を履いていた。
刀は、太刀のみ…
「…村上。入ってくれ」
「おう、いたか…。では…ごめん」
奥で茶を飲んでいた正之助は、手を上げて呼んだ。
「では、お茶をご用意いたしまする…」
そう言うと、志保は茶の湯の支度を始めた。
「久しぶりよな正之助…」
「うむ。変わりはないか?新三郎」
「特に変わらん。それにしても…あれは誰だ?」
新三郎の目線の先…紫の着物を身に着けた志保の姿が…。
「志保という…俺の…俺の…」
「俺の?」
赤い顔をして動揺したようにどもる正之助を興味深げに見る新三郎。
「俺の、つ…つま…だ」
「妻?!…では、あの話は…」
辻斬りと仕置きの件に驚く新三郎。
「…うむ。本当だ」
渋い顔をして腕を組むと、こっくりと頷く。
「茶をどうぞ」
「これは…かたじけない」
茶を出してくれたその手が人の手とは違うのをまじまじと見てしまう
「わたしの名は、志保。見てのとおりの蜥蜴です。どうぞよろしく」
「あ、これはご丁寧に…。私は、村上 新三郎と申します。正之助とは同じ道場で鍛えあった仲でしてな」
「それはそれは…」
にこにこと微笑む志保
「正之助…いい嫁さんをもらったな」
「ぬ…う、うむ…」
正之助は、どこか困ったように頷くが…、志保の顔は晴れやかだ。
「正之助様はこのように人前では、いっつもつれないお言葉。ですが…それが照れ隠しなのは分かっております」
袖で口元を隠して微笑み、幸せそうに良人の顔を見つめる志保。
「よかったな。この人はおまえのことなどお見通しだ」
「……」
「さぁ、ではわたしはこれで。なにかとお話がございましょう。どうぞごゆっくり」
にっこりと笑ってそう言うと、志保は外へと出て行った。
「で?今日は一体どうしたというのだ?」
「なに、暇つぶしがてらおまえの所に寄ったのだ。聞けば辻斬りを倒しそれを娶ったとな。ならば挨拶でも…と散歩がてらに見に寄った」
「そうか…暇つぶし…ということは、まだ道場には人がいないのか?」
「…うむ。そうさなぁ…」
村上 新三郎…
彼は、この町の片隅にある道場で師範代を勤めていた。
そこはかつて、正之助も通っていた道場であった。師範が老齢の故に新三郎が師範代となって切り盛りしていたが…いまは、門下生もおらず、どうやって門下生を獲得しようかと悩んでいる最中でもあった。
「なにかやったらどうなんだ?」
「なにか、とは?」
「縁日で青竹を斬ってみたり…」
「見世物でもしろと?」
「“腕に覚えあり一勝負勝ったら金1両”…とか」
「賞金稼ぎか?!」
「とにかく名を売れ!名を!!技を習いたくなるようにその腕前を宣伝しないでどうするのだ!」
「うむ…そうさな」
眉を寄せ頭を捻る新三郎。
「まぁ…そのうちいい手が見つかるか。それはそうと…新三郎。俺もな貴様に相談したいことがあったのだ」
「相談?」
「…うむ。志保のことよ…」
「志保さんか」
外で井戸端会議でもしているのかにぎやかな声に志保の華やかな声が混ざっている。
下ネタで盛り上がっているのか卑猥な言い回しが聞こえる。
「…俺には…な?出来すぎた嫁なんだ」
「は?」
「だから…本当にこんな俺でいいのか時々わからなくなるのだ!」
「…おまえな。冗談も大概にしないと怒るぞ?」
「冗談ではない。朝目が覚めるとうまそうな飯ができているのだ。飯はうまいし…いや、作ってくれるものはなんでもうまい。身の回りの世話から床に入った後まで…」
「のろけか?惚気なのか?一人身の私にそんなことを言って、悪意でもあるのか?だが、もし本当にそんなことで悩んでいるならば…怒るぞ!何が不満なのだ!」
「いや…不満では無く…。…そうだな。俺は、今まで独り身で…これからもそうして生きていこうとしていた矢先…志保に会って…、一緒になろうという誘いを断った。だが、あいつはどんなに一緒になるのを断っても押しかけてきた。そのうち…情がわいて……一緒になった。だが、本当にこんな俺でいいのか?仕官のあてもない…一生浪人のままのこんなむさ苦しい男と一緒になってあいつは…それでいいのか?」
新三郎は話を聞いている間、心底この男に呆れていた。
妖怪は、惚れた相手に何をされても生涯ついていくと聞いた。いや、例え妖怪でなくとも心底惚れているのならば一生ついていくだろう。あんなにうれしそうにしている志保。心の底から惚れた相手なのだろう。たとえ暮らし向きが苦しくても…
この男は、何が不満なのだろうか?新三郎には、そこがなんだかよくわからなかった。…だが、なんだかんだ言いながら志保に惚れているのはわかる。良い女房だからこそ、こんなうだつの上がらない男と一緒になったら不幸にしてしまうのでは?と、そんな細事なことを気にしているのだろう。
不器用な男だ。志保のあのうれしそうな様子を見れば、一目瞭然しゃないか…
「自信を持て!志保さんのあのうれしそうな様子を見て貴様はなにも分からないわけではあるまい?おまえに惚れ抜いているからこそああして、幸せの笑顔でいるのではないか。お前がおればそれで、一緒にいられればそれでいいのだ。だから貴様、そんな自信なさげなことは絶対に志保さんの前で言うな!おまえはその幸せを信じて一緒にいてやればいいのだ!」
「…そうだな。だが…」
めずらしく愚図つく正之助に、新三郎はなんとか元気付けてやりたいと思った。
「ただいま戻りました。あら?なんだか渋いお顔。如何されたのですか?」
「いや、なんでもないぞ志保」
「さようですか?村上様?なんの話をされていたのですか?」
「ええ、ま、ちょっと…」
正之助の惚気と不安をどう言えばいいのか…。どうにかしてやりたいが…。
「正之助様?村上様とはどのような仲なのです?」
「む?ああそうさな…」
「正之助とは同じ道場で技を磨き競い合った間柄なのです」
「まぁ、そうでしたの」
「うむ。この男はな、俺とは違い師範代を勤めるほどの男…俺よりも強いぞ」
剣を振るまねをしてみせた正之助だが…、それに新三郎が食いついた
「なにをいうか!貴様、あの師範代を決める試合のとき…力を抜いていただろうが!」
「そうなのですか?」
「ああ、こいつは神聖な試合であるにもかかわらず…力を抜いて私を師範代にしおったのだ!」
「…買い被りすぎだ。あの時の俺にはあれが精一杯だったのだ」
「私は見たぞ?私が全力で戦った後…もう精も根も尽きその場に立っているのもやっとだったのに貴様は…すぐに汗も引き、なにごともなかったようにその後、他の者と立会いをしていたではないか!」
「そうであったか?だが、俺には師範代などというものは性に合っていないのだ。こうして、気楽に日々を過ごす…それが俺の道よ」
「私は、貴様こそが師範代に相応しいと思っていた。剣の腕もある。人からの信頼は厚い。貴様の求心力…正直、うらやましかったものだ。おまえの周りにはいろいろな者がいつもいたではないか!」
「…いや、おまえの言うほどではないさ。おまえは、師範やそのお上に厚い信頼を受けていたろうが…武道に一片の曇りもなく直向なおまえの性質とその技量をな」
どこか遠い目をする正之助…
と、新三郎は正之助の隣にいる志保の様子が気になった。そわそわとそのしっぽが揺らめいて、その顔はなにやら聞きたそうに新三郎と正之助の顔を忙しなく、興味深く二人のことを見つめている。どうやら、昔の正之助のことをもっと知りたいようだった。
新三郎に悪戯心が芽生えた。
「知っているぞ?貴様…」
「何を、知っていると言うのか?」
「貴様…あの頃、師範のお上に惚れていたろ」
志保と正之助に目線を送りながら、興味があるであろう話をすることにした。
すると、かつて正之助が惚れていた人がいるという話に志保が俄然、身を乗り出した。
「それは、どのような方なのですか?」
興味津々という志保の声に、正之助の眉間にシワが寄った。
「あの方は…美しかった。そして…強かった」
「おい!新三郎!よけいなこと…」
「いいえ!聞かせてくださいませ!!」
「強く、美しく、やさしい。そんな人だった。こいつが惚れるならばそんな人だ。志保さん?正之助の心の底は貴女に惚の字…ぞっこんなんだ」
「まぁ♪ うれしい。そうなのですね?やはり、そうなのですね?志保にそこまで惚れて下さっているのですね?」
「新三郎!余計なことを!!」
「貴様の悩みなど、やはり惚気にしか聞こえん!何を不安と思っているか知らんが…そんな悩みなど志保さんに打ち明けて任せてしまえ。大事と思って苦心しているならばなおのことだ」
「うむ…」
「村上様?正之助様にはこの志保のことでなにか悩みがあるのですか?」
正之助に苦心があると聞いて心配そうに身を乗り出した。
「そうです。志保さんという人を娶って不釣合いなのでは…「おい!新三郎!やめろ!!」」
強い口調で遮った正之助。
「いや、この際だ言わせろ。貴様はきっと後回しにしても言いだせん。志保さん?こいつは貴女に自分は不釣合いなのでは?と思っているのですよ。さっき“俺には不釣合いなほどよく出来た女房なのだ”とかなんとか、呆れた事を言ったのですから!」
「…正之助様?そうなのですか?志保は…とてもうれしゅうございます。そこまで想っておいでくださったのですね。あの時、わたくしを打ち破ったのは他ならぬ正之助様。不釣合いなことなどありませぬ。強い男に惚れて尽くす…それのどこに不釣合いがありましょうか?わたくしの心はもはや正之助様ただ御一人のもの。わたくしの身も心も貴方様へ捧げるためにあるのです。ですから、なんと言われても後をついていきまする。…それにしても、正之助様?水臭いです。…不安と思っているのならば何故、言ってくださらなかったのです。言ってくだされば、もっともっと身を粉に貴方様を愛して差し上げたのに…。お慕いの言葉も床入りでの献身も足らなかったのでありましょうか?ならば、もっとこの心根を知っていただかなければなりませぬ!」
そう言うと、横に寄り添い抱きつく志保。
「こら、人前ぞ?!志保はなれ…」
「いいからいいから…お前はじっくりとその人を抱きしめて愛でてやれ。おまえの不安など最初から杞憂だったのだ。だから、きつく抱きしめてやるのだ。片時も放してはいかんぞ?」
「…すまん」
正之助は素直に頭を下げた。
「嫁の宛などない私に比べれば…はぁうらやましいもんだ。贅沢すぎる悩みだ。だから、貴様!絶対に幸せにしてやれよ!」
「ありがとう、新三郎…。志保?好きだ。心の底から好きなんだ。だから、いつまでも一緒にいてくれ」
「正之助様!志保とて負けないほどあなたをお慕いしております!」
強く抱きしめ合う二人。邪魔してはならんと村上は立ち上がった。
「では、新婚の邪魔してはいかんしな…これにて帰る。頑張れよ」
そうして、村上 新三郎は帰っていった
後には、顔を潤ませて抱きつく志保と安堵したような顔つきの正之助がいつまでも抱きしめ合っていた。
その日…
港に一隻の廻船が着いた。
ジパング人には見られない洋服姿の者や、着物とはまた違ったような服装の者も見える。
しゃべり方からどうやら南のほうからやってきた者たちらしい。
船が接岸すると、港は一段と活気付いた。
廻船を心待ちにしていた商人達。船を見ようと集まってきた者など。どこからか荷役たちがやってきて船に乗り込んでいく。
多くの荷役が船倉の荷を運び出そうと出入りする。
船の者を迎える人や、船から下りて新たな旅に出発しようと街中へと足を向ける者…さまざまが行き交う。
そんな中、一人の者が船から下りてきた。その者はとにかく赤かった。目に焼きついてしまうほどの赤さ。一目で人との違いに目が行く。
初めて見るものにはやはり珍しく人の目を引くが、その者はそんなことはもう慣れっこなのか気にする風でもない。
船から降りると周りを見渡し、不敵な微笑を浮かべて街中へと歩み去っていった…
田崎家宅…
ある日、いつものように傘作りのため、骨組みに糊をつけ紙を貼っているときだった
長屋住民たちがいつもに増してやかましくなった
どよめきが人を呼び長屋住人でもない者の声すら聞こえる
「なんでしょうか?ちょっと見てまいります」
すぐ横で着物を繕っていた志保が立ち上がりかけた
「放っておけ。あの者達がやかましいのはいつものことだ」
「はい…」
だが…
どよめきは田崎家の前に移り動こうとしない。そればかりか…
『田崎 正之助って奴はここにいるかい?』
正之助を呼ぶ女の声まで聞こえてきた
『たのもー!田崎 正之助殿ー』
その声に、志保が戸を開けた
「なっ?!」
その瞬間、志保の絶句が聞こえた
「どうしたのだ?志保?」
絶句して立ち尽くした志保の後ろから、正之助が外を見ると…なにか火が揺らめいているようだった。
「ぬ?」
「お、あんたが田崎 正之助かい?」
それは、女だった。いや、人の女ではなく…妖怪の類
着物などは身に着けておらず…やたらと露出の多い出で立ち…
「そうだが…?そなたは?」
「アタシの名は、華鈴。南の地より強い奴求めて旅をしてきた沙羅曼蛇さ」
一歩踏み出した華鈴とやら。厳つい鱗に覆われた大きな足が目に入った。
その見た目は、志保とほぼ同じ見慣れた姿。だが、すこし違う。着物は、この辺りのものとは違う…露出の多い衣を身につけ、人の手とは違う大きな手のひら。鱗ある大きな足。そして、腰辺りから伸びる尻尾…。鱗は赤い色して、肌は褐色…。
志保は、黄緑色の手足や尻尾。だが、志保とは大きく違う特徴がある。それは、尻尾が火を点していること。
火が逆立つ毛のように盛っている…
「沙羅曼蛇?」
「あんたは火蜥蜴を見たことはないのかい?」
「火トカゲ?蜥蜴人ならば、この志保がそうだが…火トカゲは…?」
「おう。これが話に聞いた辻斬り女かい?」
華鈴が無遠慮に志保を見つめると、志保は硬い声で言った。
「なんのようです?ここはあなたのような破廉恥な火トカゲの来るところではない」
「破廉恥?ふ、あんたが言うかね?人前で百叩きされ女が!」
「され女?!なんなのですか?あなたは!人の家にやってきた早々喧嘩を売って!」
「アタシは、弱いただのトカゲなんて興味はない。アタシの求めているのは強い男だけ!…というわけで田崎正之助!勝負だっ!」
「すまんが…お引取り願おう。今の俺はそのような試合はしないことにしているのだ。そういうことは、志保との一件で十分懲りているしな」
「なんだって?!」
「あの時は、立場上仕方がなく辻斬りを捕まえることとなったのだ。だが、しかし今の俺にはそなたとやり合う理由はない」
「アタシの勝負より大切な事があるっていうのかよ?!」
「いまは…この志保と寄り添って生きていくほうが大事。なれば…無用な勝負などする気も起こらんな」
そう言うと、志保を抱きしめてやる。
「正之助様♪ 」
「うむ」
安心しろと頷いてやる。
華鈴はキッと正之助を睨むと言った。
「いいのかい?アタシはね…そこのトカゲよりもしつこいよ?アンタ…はじめはそのトカゲを自分の女にする気がなくて言葉巧みに逃げ回っていたんだってね?そのしつこさに心動かされたアンタはついに、そのトカゲと一緒になった…と。しつこさに弱いアンタ…アタシはね、きっとアンタと戦ってみせる。折角の強い男だ。だから、きっとね」
「その強い男と言うのは誰に聞いたのだ?」
「この町に着いた時、いろいろな者に聞いたよ?役人も手を焼いていた辻斬りを打ち倒して、しかも百叩きで相手を腰砕けにした男がいるって…それがアンタだ!」
正之助はため息を吐いた。まさか、あの時のことでまた同じような輩が来てしまうとは思わなかった。
「どういわれようが俺は、やらん」
「なら、アンタより強い奴はいないかい?」
「む?強い奴?」
「そうさ。そんな奴がいたらアンタを諦めてやるよ」
「俺より強い奴…か」
誰か…いただろうか?
「とりあえず、今日のところは顔見せってことで帰るが…次来た時は、いい返事を期待しているぜ。もし、アタシとやりたくないんだったらせいぜい強い奴でも見つけておくんだね!」
そう言うと華鈴は去っていった
「やれやれ…」
「正之助様…」
志保は不安げに見つめていた
「安心しろ志保。俺は、もうあんな勝負事はせん」
笑いかけてやるが、その顔はすぐれず不安そうな顔をした。
「正之助様はわたしだけの良人…あの女が正之助様に何か特別な感情を生むかもしれない…そんなことを考えると志保は不安でなりません。あなたのような人、あんな破廉恥になど勿体無いのです」
「そうか…だが安心しろ。なんといわれようが勝負などせん。それでだが…なぁ志保?あの火トカゲが言っていた強い奴…だが、心当たりはないか?俺にはとんと思いつかんのだ…」
すぐには心当たりを思いつかなかった正之助は、とりあえず聞いてみた。
すると、志保はしばらく思案していたようだが唐突にその名を口にした。
「それならば…確か、むらかみ…村上 新三郎様…は、どうでしょうか?」
「新三郎?」
「はい。前に正之助様は仰っておりました。“この男はな、俺よりも強いぞ!”と…」
確かにそんなことを言ったような気がする
「確かにそんなことも言ったな…。そうよな…あの時、あいつには世話になったしな。あいつの強さならば…あるいは…。あの華鈴なる者の強さがどうかわからぬが…?どうだ?あの女の強さは?」
「はい。おそらくとても強いでしょう。なれど…正之助様の強さならばなんとか除けられるほどかと…」
「そうか。なら、新三郎でもなんとかなるか。…それにあいつは言っていたな。嫁の宛などない私にはうらやましいものだ…と」
「わたしたち蜥蜴は強い相手であるならばあるほど、それを求める心は強くなります。まして、火トカゲは勝ち負けなど関係のない…節操のない種です。ですからきっと…」
「そうだな。華鈴をあいつにぶつけてみるか…」
次の日…昼ごろに華鈴はやってきた。
「たのもー!田崎 正之助ー!勝負だぁ!!」
「勝負する気などない」
ぴしゃりと言い放つ。
「なんだって?臆病風に吹かれたのかい?」
「勘違いをするものではない。俺はしないといっているのだ」
「俺…は?」
「うむ。そなたは言っていたの?他に強い男がいるならばそいつを…と」
「そうだ。いるのかい?強い男」
「いる。うむ…俺より強いのが。あいつならば、そなたも気に入るだろうさ」
「そうかい!そんなに言うのならば…!愉しみだねぇ!」
ゆらりとしっぽの逆立つ炎が強く舞い上がった。
「愉しみにしているといいさ。では、志保。あいつのところへ行って参る」
「いいえ?志保も参りまする。新三郎様の腕をがどの程度なのか分からぬ以上、もし破れてしまったのならば正之助様に火の粉が及ぶことがありましょう。ですから、わたしも見届けまする」
「わかった。ならば、一緒に行こう」
そうして、二人は華鈴を連れて街中を行く。
ごうごうと炎が逆巻く華鈴のしっぽ。それが如何にこの試合を楽しみにしているかがわかるというもの。
腰に下げた剣に手を掛けながら、時々不敵に笑っていた。
「華鈴殿…華鈴よ。あいつの性格は良く知っている。なんの気なしの勝負はあいつは受けんかもしれん」
「なんだって?」
「だから、なにか理由でもつけてみてはどうだ?」
「理由?…まどろっこしいね。強い奴と勝負したいっていう理由じゃだめだっていうのかい?」
「もしも、ということだ。あいつとて一道場を背負っている身。勝負したいと言えばすると思うが…」
「…道場、か。なら、ここは…道場破りの名でも語ってみようか。そうすりゃ、どんな腰抜けでも勝負するだろうさ」
そのとき、村上新三郎は朝の稽古を終わらせ道場の雑巾拭きに取り掛かっていた。
手伝いの者もおらず門下生もいない、一人だけの身でこの道場は広すぎた。
故、何もかもを一人でこなさなくてはならない。
この後は、昼飯の支度をと、やることは山積みだった。そんな時…。
「ごめん!村上ー?いるかー?」
聞き知った声が外から聞こえてきた。
「おお、正之助ではないか。それに志保さんも!」
「喜べ!おまえの嫁を連れてきたぞ!」
「は?」
「いや、なに…。おまえの腕を見てみたいという御仁がいてな。だから是非、相手をしてやってくれ」
「強い奴ってのはあんたかい?」
正之助の後ろから聞こえてきた声。その姿を見たとき、新三郎は絶句した。
志保の色変えをしたようなその姿。何よりも、背中には炎が揺らめき盛っている。
勝気そうなその眼は、柳の葉のように細まり獲物をみつけたぞと言わんばかりにジッとこちらを見つめていた。
「正之助?!」
いったいこれは何事か?という視線を送る。
「強い奴を求めているそうだ」
「そう。アタシの名は、華鈴。強い奴を求めてやってきた。腕っ節でもいい。剣の腕でもいい。とにかく、強い奴!そんな奴を求めてるんだ。あんたは、強いんだろ?勝負しとくれよ」
顔の前でその大きな手を握り締め、ギュッと握り締めたこぶしを見せる。
人の手のひらとは違う握りこぶし。闘気が漲っているように揺らめいて見えた。
「強いかどうかは、知らん」
「そうなのかい?田崎正之助。あんた、強いかどうかの自信の無い奴をこのアタシにぶつけようとしたのかい?道場を背負っていると聞いたけど…これじゃやっぱりその看板、脆くもなくなっちまうかもね」
華鈴は、ギロッと正之助を睨みつけた。
「相手の腕を見極めるのも実力のうち。そなたの腕に私は足らぬかもしれない。だが、私はここでこの道場を背負い立つ者。相手が己より強いからと言って、背を向けるような腑抜けではないと知れ!…看板?貴様、道場破りか?ならば、この看板奪えるものならば奪ってみよ!」
「なんだいなんだい?やっぱりやる気満々ってわけかい!いいねぇ。そうこなくっちゃ!」
新三郎は、背を向けると“ついてこい”と言い歩いていく。
塵ひとつなく丹念に磨きこまれた道場。
黒光りして艶やかなそこは、神聖な場であるかのように清浄な空気で満ちていた。
新三郎は、手桶に水を入れ布巾を持ってきて言った。
「これで、足を拭かれるとよかろう。道場での試合は、真剣の使用を認めぬ。木刀での試合でも良いならば、そこにある木刀を手に取られよ」
「これで?これじゃ、強く振ったら折れるんじゃないかい?」
「その心配は無い。芯に鋼の棒を仕込んであるから折れる心配は無い。重さとて刀と同じ…。どうだ?」
華鈴はぶんぶんと木刀を振り回して、確かめている。
「確かに、刀くらいはあるかね。でもアタシの剣とはちっと軽いねぇ。まぁいいさ、とにかく勝負勝負!!」
「あいわかった。ならば、正之助と志保さん。こちらでわれらの試合のほどを見ていただきたい」
廊下で見守っていた二人を、中へと招き入れる。
「新三郎。良い試合をな?」
「ああ、久々の試合だ。勝ち負けなど関係なく一人の剣客として純粋に愉しませてもらおう」
二人は、道場で向かい合い礼をする。
正眼に構える新三郎。
一方の華鈴は、構えなどせずに木刀を片手に突っ立ったまま。楽しみだというかのようにニヤニヤと口元を歪めた笑いを見せる。
「……」
沈黙したまま一向に動かない。攻めあぐねているようだ。
「…ふ、アンタ。アタシみたいのとの立会いは初めてかい?攻めかねているなら、こっちから行くよ?」
挑発するかのようにそっぽを向き、空いている手で手招きをして、わざと隙を見せる。が、それに乗る新三郎ではない。息を整えて静かに華鈴を見据えた。
「ふふ。せっかく踏み込めるようにそっぽを向いて隙を見せたのに来ないんだねぇ。正々堂々かい?…なら!」
声と同時に、踏み込んできた。何気なしに振り上げた木刀は、遠心力にまかせるようにそのまま振り下げられた。
カキィィィンンンン
それは、木刀同士だというのに金属のような音をたてた。
「……はやいな」
「そうかい?まぁ、振り上げて振り下げただけだからね。でも!次はこんなのさ」
そう言うと、まるで片手で太鼓を打ちつけるようにでたらめに振り始めた。
乱舞のように打ちつけてくる。それをなんとかかわしてやり過ごし、必要なときは受け流す。
華鈴の様子は、まるで様子見。小手先を見るようにでたらめに振り回しているように見える。
キンキィィン…ヒュン…スッ…キィィン
相変わらず、笑みに歪めた顔をして見守っているようだった。
打ち合いの相手をしてやっているような動き。けれど、すぐに華鈴が不満の声を上げた。
「アンタ!マジメにやったらどうなんだい?これじゃ、試合なんてもんじゃない打ち合いしてるだけじゃ…っ?!」
不満に声を上げたその瞬間。新三郎は軽くいなしていた華鈴の木刀を強く弾き飛ばし、がら空きになった正面に一撃を加えようとした。
「くぅぅ。へっ、しゃらくせい!」
鋭く迫る一撃を、体を捻ってかわす華鈴。新三郎は、更なる一撃を入れようとするが…
追撃をしようとした途端に、何かが横殴りに飛んできた。
ヒュン!っとしなる音をたてて新三郎の目の前を飛んでいくそれは…蜥蜴特有の尻尾。
それは、鞭のようにしなやかに飛んでいった。
「っく。……はぁ」
無駄口は叩かず息一つついてから、目を閉じて構えなおす新三郎。
「どうだい?アタシの尻尾は?やりにくいだろう?」
「……」
「どうやら、尻尾の火をまともに見たみたいだね。けどそんなんじゃ、隙を与えているだけじゃないのかい?試合いなんだ、休んでる間なんて無いと思うけどねぇ」
そう言いながらもまた木刀を振り回す。
けれども目を瞑っているにもかかわらず、新三郎にはかすりもしない。
腰を落して、すばやく動きながら退いてかわしている。目が見えていないはずなのに見えているかのように、華鈴が踏み込めば退き下がれば踏み込んでくる。
そんな動きにイラつきだしたのか、華鈴の纏う炎が盛んに逆巻きだした。
「アンタ!目も見えてないのに、なんでそんな動きが出来るんだい?!」
怒気を含んだようなその声。それと共に、片手持ちだった木刀を両手で持つと一気に床を踏みしめ…叩きつけるように振り下げた。
乾いた音が辺りに響き渡る…
渾身の振りかと思われるようなその一撃は、目を瞑っているはずの新三郎に見事に防がれていた。
ゆっくりと眼を開いた新三郎は言った。
「地の利よ」
両の手で木刀を振り切ろうと力を込める華鈴。握手と棒先を持って木刀を盾に防いでいる新三郎。
力比べのようにじりじりとした時が過ぎていく。
「…地の利?」
互いの鋭い視線が交錯する。
「私は、幼き時よりこの道場で過ごしてきた。それゆえか、床のどこを踏めばどのようにな音が響くかをなんとなくわかるようだ」
「へぇ…。こんな試合の最中にそれを判別できているってことかい?」
「明確な判別など…つかん。だが、その炎をまともに見て視野がおかしくなっている今は、目に頼るよりは耳で感じた方が集中力も上がっているようでな?判るのよ。それに、そなたのその人の足ではない…鋭い爪と硬い甲羅のような鱗がある足では地面と違ってかすかな音でも良く響く」
「っははは。確かに、こんな板間での試合なんて…あんまりしないからね。そこまでは気にして無かったよ」
面白いことを聞いたと、笑う華鈴。対峙するのを一旦やめると、ドシンドシンとそこいらを歩き始めた。
ミシミシと音をたてる床。キュッキュッと音を鳴らす足。新三郎が立ち位置を変えようと、歩いたがまったく音はしない。
「ははは。こんな単純なからくりがあったのか…。まったく面白いねぇ」
「人と人の試合ならば、正々堂々の試合は己の技量による勝敗となる。けれども、そなたのような者…妖怪などとの試合などしたことがないのでな。敵に回したら、それが如何に厄介かと以前より思っていたのよ。単純に人の強さとは比較にならんその身体。中には、尻尾の他にも羽のある者までいるのだ。どんな戦いをしてくるか…想像も及ばぬだろうとな。どうしたら対等に戦い、有利に動くことができるのか?とな」
「だから、道場内での試合と言ったのかい」
「そうだ。道場主との試合ならば中での試合と言って不審と思うものは居らぬからな。その上でどう戦うか…。試合うからには負けるわけにはいかぬ。剣客であるからには、勝たねばならぬ」
この道場の看板は意地でも守り通すと、固い意思を持って言い切った。
「っく…は、ははははは!!はっはっは…面白い!面白いよアンタ!基より妖怪と人は違うから、いろいろと考えていたなんてなぁ。本当に面白い。じゃぁ…もっといろいろヤリあってみたいねぇ」
ゆらりと構えるその姿。後ろの炎は、ますます盛んに立ち上がっている。
最初に向かい合った時よりも轟々と、その炎が盛って天井が燃えているようにも見える。新三郎から華鈴を見れば…その炎が、こちら側を影のように暗く見せその表情は見えない。今にも飛び掛らんとするかのように構え、その口元は笑うように歪んで見えた。
炎を見まいとする狭い視界の中、瞬きをした途端、腕を振り上げて一気に踏み込んできた。釣られるようにそれを迎え撃とうと木刀を振るが…
新三郎が木刀を繰り出そうとした瞬間に、華鈴は木刀を放りだし懐に肉厚した。そして、腕を掴む。一気に足払いをしながら掴んだ腕を引き、そのまま放るかのような動きをした。
体勢を崩した新三郎は、大またで転ばないように地団太を踏みながらも、なんとか華鈴の手を振り解こうとした。…が掴む力は強く、そのままガラ空きになった身体の腹に華鈴の腰を入れられて、そのまま投げられてしまった。
道場に、大きな音が響き渡った。
「くっ…あっ…」
新三郎は、なんとか受身を取れたのだが、背中の痛みとしびれですぐに起き上がれそうも無い。
「アンタぁ…降参かい?」
転がった新三郎を見て、そのまま押さえつけようと跨る華鈴。苦痛に歪む新三郎を見て、小首を傾げながらニヤリと笑った。
「くっ…誰が!」
何とか、力を入れようとする新三郎。そんな新三郎の目に、突然赤いモノが映った。
ちゅ…
ふさがれる口。
何がおきたのかと、視線を滑らせると…。華鈴のあの勝気な瞳がすぐそばで笑っていた。
「…っ!……っぷはっ!!……一体何を?!」
「アンタぁ?……アンタぁ………アタシね…好き」
「え?…え?…え?…何を?」
「決まってるじゃァないか。今口付けしてるアンタのことだよぅ…ん…」
「んっ?!」
「…んっ…ちゅ……」
浅い口づけをすると新三郎の顔を眺めるようにゆっくりと唇を放した。
「はぁぁぁ…アンタぁ……イイよぉ?すきよぉ………ちゅ……」
「ちゅ…うぁ…ま、まて……なんだ?ち、ちが……ぅ」
何がおきたのか混乱する新三郎。
「ふ、ふふふ♪ はははっ♪ もう…アタシの心はアンタのものだァ……。だから……アタシのこの身もアンタのモノにぃしておくれよォ……んっちゅぅ」
ここには新三郎と華鈴の二人だけしかいないかのように、口づけを始めてしまった華鈴。
新三郎も、抑え込もうとする華鈴の絞めを解こうともがくが…がっちりと押さえつけられてどうこうできるものではなかった。
「ダメだよぉ。これから、アンタとアタシは男と女の関係になるんだ。ヤル気のアタシを振りほどこうなんて無粋だよぅ」
「ま、待て!何をしている?勝負はどうなったというのだ?!男と女?なんでそうなったのだ?私は、会ったばかりのそなたのことを何も知らぬのだぞ?!」
「知らぬ?…いいや。アタシは知ってるよぉ…アンタはぁ、アタシをワクワクさせてくれる。それだけで十分じゃないかぁ。アタシはねぇ?そんなアンタにもぅ…ココロがこんなにも……しびれちゃってるのさぁ♪ だから…アンタァ、好きぃ…むちゅぅ!」
「コラッ!……っ…ん……はなれっ」
放れるどころか、新三郎の額にこつんと自らの額をくっつけて、囁くようにその胸のうちを語りだした。
「放れないよ、アタシは…んちゅっ。アタシはアンタに決めたのさ。アンタぁ?…アンタとやっているとねぇ?心がね?こんなにもワクワクしてくるんだぁ。ほら、こんなにも愉しいんだぁ。こんな風に思えたのは初めてよぉ。勝敗?勝負なんてそんなものはいつでも出来るじゃないかよぉ。アンタとここにいる今が、愉しくってしかたがないのさぁ。アタシはねぇ?どっかの鈍間みたいに勝負の決着つけてからなんてどうでもいい。今が、イイか愉しいかそうでないかそれだけなんだよぉ。だって考えてもみてくれよ?勝負して勝敗が決まっちまったら相手はどっかに逃げちまうかもしれないんだぜ?そんな勿体無いことできないよぉ。だからアンタ?いまここで、アタシの物となっとくれよ。代わりにアンタにメロメロになったアタシをあげるからさぁ」
その胸板に口づけをしだした華鈴。
未だ、何が起きているのか頭が回っていない新三郎は華鈴にされるがままとなっている。
なんとか、やめさせようと押しのけようとするが…あの厳つい大きな手で押さえつけられているのだ。とても敵いそうもないと思っていても、押しのけずにはいられなかった。
「どっかの鈍間ですって?」
片隅で見守っていた志保が、自分のことを言われていることに気が付いて声を上げたのが聞こえた。
「アンタぁ。そんな風にアタシを押しのけようとしないでおくれよぉ。好きなんだよぉ。ココロに火が宿っちまってね?今もこう…じりじりと焦がして行くのさぁ。アンタが欲しいのぉ。アンタの心にもアタシの火を灯しておくれよぅ!」
新三郎の手を取るとやわらかな膨らみの間へと誘った。
「そなたとはさっき会ったばかりではないか!それで好き?莫迦な!そなたの本当の目的はなんなのだ?私を慕うことが本心ではあるまい!言っておったな?道場の看板が欲しいと!この道場は私にとって私そのものと言って過言ではない。剣の道しか知らん私にとって師より受け継いだ剣術。いままで剣のみに磨いたこの年月、ここを受け継ぐことの出来たその誉れ!貴様のような輩に奪われてなるものか!」
新三郎は、必死になって振りほどこうともがいた。
「違うっ、違うんだよ!違う!!アタシが本当に欲しいのは、アンタという男なんだよぉ!手合わせをしてもらってアンタという男の強さにうれしくなっちまったのさ。それと同時にわくわくしてきちまった。試合ううちにそれはどんどん心の中で熱くなってきて…アンタがいい男に見えてきた。アタシの前で真剣に試合ういい男…そんなアンタに惚れたのさ!わかんないかい?」
「…わからん。そもそも、勝ち負けはどうなる?」
「だからぁ、今のアタシにとってそんなことはどうでもいいのさぁ。だからさぁ、アンタぁアタシにその身ィ任せてよぉ♪ 」
そんな時、鋭い声が華鈴に飛んだ。
「お待ちなさい!火トカゲ!勝敗はどうなるのです!決着を!!決着もつかぬまま男を欲するなど…あなたは、種の繁栄ということについてどう考えているのですか!?」
勝負そっちのけで盛りのついた雌のようになってしまった華鈴に、志保はその決着を強く望んだ。
「アンタァ?煩いのは放っておいて…ほらぁ…力を抜いてぇ」
華鈴は未だ動けない新三郎の上体を抱こうと、着物の中にゆっくりとその手を入れていく
「ほらぁ…腰に手が回らないじゃないのさ。腕を緩めて」
抱きつかれないようにイヤイヤをする新三郎。それを見た華鈴は抱きつくのをやめ今度はくすぐり始めた。
「だめっ…やめっ…ひゃ!ひゃはははは。くすぐったい!!」
「ほらほらぁ、そんなに意固地になってると…こうやってこの鋭い爪先で…キュッとね♪ 」
華鈴の鋭い爪先が、新三郎の乳首を摘み上げた。
「うはっ?!やめてくれ!そんなところを摘むな!」
「ふふふ、かわいいね。そんなにうれしがってもらうと、どんどんイタズラをしたくなってくるじゃないのさ!」
そんな時、バンバンと床を叩く者がいた。志保である。
「コラッ!この雌トカゲ!何を盛っているのですか!!お聞きなさい!」
散々無視されたせいかその声は、怒気をはらんでいる。
「…何?アンタ?さっきから煩いよ?…勝負かぁ…そんなのどうでもいい。今はこの男とこうして乳繰り合いたいだけだよ。邪魔、しないでくれるか?…種の繁栄?知ったこっちゃないね。そんなどうでもいいことより、気に入った男をものにする方がどれだけ重要か、アンタにはわからないのかい?」
新三郎の身体をなんとか抱えると、その大きな手でさも大事そうに背中と頭を撫で回す華鈴。
「なにを言うのですか!われ等はもっともっとその血を強いものにしていきたいがこそ、強い男を求めるのです。あなた方は違うと言うのですか?火トカゲとは、種の繁栄よりも己の感情のまま男を襲うと言うのですか?それでは、そこら辺にいる淫魔と同じではないですか!」
志保の鋭い声に、一瞬だけ華鈴の力が弱まった隙を見逃さず、袴の帯を解いてその懐から逃げ出す新三郎。
逃げ出す新三郎を逃すものかと布を掴むが…後には袴だけが残された。
「同じじゃないさ。戦って気に入った奴を相手に選んで何が悪い?自分よりも劣っているならば、っしょに鍛えあって強くすりゃいいんだよ!…っちょ!アンタどこ行くのさ!」
「元は同じ種として恥ずかしい。強い男に、身も心も惚れてこそすべてを賭そうと思うのではないのですか?」
「そんなの知らない。アンタみたいな分からず屋なんてどうでもいいんだ!今、アタシが求めているのはソイツなんだ!だから…」
「いいえ!今ここできっぱり言わないと済まないようなので、この際はっきりとあなたに申しておきます!」
二人が固唾をのんで見守っていると、言い合っている合間に志保は片手を後ろに回して、そっと払うような合図をした。
今のうちに逃げろということか?
正之助は、志保の意図に頷き新三郎を連れて、言い争っているを傍目に…そっと道場を抜け出した。
「逃げろとのことだ」
「よしならば…華鈴から逃げられるところがいい」
「そんなところあるのか?」
「…特に思いつかん。だが、しばらく逃げ続ければ頭を冷やすだろうさ」
「そうだといいが…」
一抹の不安を残しながらも、静かに道場を飛び出した。
道場の門を出ると、いそいそと夕暮れ時の街へと走り行く。
長く伸びた影を引き連れながら二人は行く。街中は、家路へと急ぐ者。夕餉を食べ終わりゆっくりと散歩を楽しむ者などが往来を行く。
片隅の開けはなたれた居酒屋からは、明るい灯の光と客の笑い声で満ちていた。
酒が入って騒ぐ声が、街中を走る二人の耳にも入ってきた。
「一杯、やっていくか?」
「いや、ここでは追ってきた時に、すぐばれてしまうのではないか?」
「そうだな。ならば…」
「とにかく、もっと道場から離れなければ!」
「では、花街の方でも行くか」
たくさんの人が集う花街。
ところどころからは、三味線や太鼓の音が聞こえてきては気分を盛り上げる。
身なりを整えた伊達男達や華やかな着物を身に包んだ女たちが練り歩く
人である者。ない者。笑い声の尽きない街中はいつまでもその時が続くように思える。
「この中に紛れ込んでしまえばこっちのものだ」
「そうだな。これだけの人だ。人と妖怪の混ざり合う街の中では、いくらなんでもすぐに見つけられるわけもあるまい」
「そうだ。如何に鋭い感覚を持っているとはいえ、すぐにはわからないはず」
「正之助?志保さんで試したことがあるのか?」
「無い。いつも…どこかへと行くときは二人で行くしな。行き先で、相手を見失うなどということは無い。志保とて武士。互いの気配くらいわかるものさ」
「そうだったな。だが、これほどの人の坩堝であるならば…あるいは」
人も妖怪も楽しげに歩むさまは目にも微笑ましい。
だが、そんな様子を眺めている暇はないのだ。志保が華鈴を引きとめている間になんとしても逃げなくてはならない。
そんな人ごみの中を、二人は早足で通り抜けていく。…と、そんな時誰かに呼び止められた。
「田崎様?田崎様ではありませんか!」
声の方を見れば、いつかの商人…藍屋こと葵田又右衛門が番頭を連れ添っているのが見えた。
「藍屋殿。お久しぶりですな」
「はい。田崎様もお元気そうで!」
「新三郎?こちらの方は、藍屋という呉服問屋の主でな?俺と志保が、まぁ夫婦になるきっかけでもあるお人なのだ」
恰幅の良い初老の商人に、挨拶をした。
「そうなのか。お初にお目にかかります。…私は村上 新三郎。この街の片隅で道場をやっております。この正之助とは同門。もし、剣を習いたいと仰る者がおりますならば、いつでも門を叩いてくだされ」
「そうでございますか!田崎様のご同門。ならば…相当お強いのでしょうなぁ?」
「いえ、それほどでも…ありませぬよ」
「いいえ、わたくしはそれで一度助けていただいています。相手にてまえを殺す気がなかったとはいえ、あのときの恐怖は今も思い出すだけで鳥肌が立つほどです。それだけの恐怖を味あわせた相手をいとも容易く倒し、あろうことか嫁にまでしてしまったのですから!」
途端に正之助が苦笑したような顔をした。
「藍屋殿。その話は…」
「おっと、申し訳ありませんな。田崎様」
「それにしても、藍屋殿。こんな時間にこのようなところでどうしたのですか?寄り合いでもあるのですか?」
「っははは。いやいや違いますよ。なんといいますか…」
藍屋は何故か言葉を濁した。
「 ? 」
「ははは。そうだ!もしよろしければ…今宵ご一緒しませんか?」
「一緒?」
「はい。実は…。てまえ、年甲斐も無く女郎遊びをしておりましてな?今、とある店の太夫との遊びに興じているのですよ」
「太夫?!」
「これまで何度となく足しげく通っているのですが…今宵ようやく酒の席を設けていただけるようになりましてな?折角ですので、命の恩人である田崎様もご一緒にどうか?と、思いまして…。もちろん、そこの村上様もご一緒にいかがでしょうか?」
「よろしいので?」
「はい、是非に。てまえのような年寄りよりあなた方のような若人が居った方が、場も華やぐというもの。…されど、お気をつけなされ?太夫は男を魅了してしまう妖怪そのもの。惚れ、惚れられてもだれも止めることはできない。入れ込むのはほどほどにしませんとなぁ?」
「藍屋殿が一番怪しい。妖怪の魅了に取り憑かれているからこそ、こうして足繁く通っているのでしょう?」
「はははは、確かに。女房がいても愉しい女遊びはやめられぬもの…。まぁとにかく、行きましょう」
上機嫌な藍屋と、逃げるため一時でも身を隠すところがあれば…っと二人はそれについていった。
花街にある一軒の女郎屋。
その二階。奥座敷にて…
見事な金屏風や漆器の数々。ふかふかの座布団。座敷の一番奥にその女性が座していた。
隣には禿なのか、赤い着物を纏ったかわいらしい少女が座っていた。
「今宵は、ほんにようお越しくださいました」
きりりとした表情の中に水仙のような麗しさを持ったそのヒトは、確かに人外の美貌をもって微笑んでいた。
藍屋殿の満足げな口上や紹介に耳を傾けるふたり。
正之助は、志保とは違った美しさに心奪われ、新三郎はその優雅で優美な立ち振る舞いに目を見張った。
これぞ、男を立てる女ともいえる太夫。華鈴のあの男勝りでざっぱな様子と比べられぬその振る舞いにうっとりとしていた。
淑やかな中に強さを感じるなでしこのような…どこか武家の女子を感じさせる太夫。
南国の色鮮やかで華々しい花を思わせる華鈴。その美貌は、やはり人と比べるまでも無いのだが…。
太夫に酒を勧められ、赤面してしまうほど緊張している様子の彼はその美のヒトを見ながら、自分の理想の女性とは?と思いを馳せる新三郎。
正之助とて、太夫などという華の世界の頂点に立っているような女の接待を受けたことはないのだ。鼻の下はいくらでも伸びるというもの。
そんな、初々しい若者の様子に座は盛り上がる。
男を誘うその美貌と手練手管に心奪われながら、誘いに答え杯を呷る二人。
ほろ酔い気分になっている時であった…
下の階が騒がしくなった。
何かを言い争う声が聞こえてくる。
耳を澄ませば…
どこかで聞いた女の怒号。怒鳴り散らす声がこの二階の座敷まで聞こえてきた。
「…なんでしょう?こんな廓で…。どうやら、女の声のようですが?遊女の出す声ではありませんな」
折角の酒の座に騒ぎが持ち込まれたと、機嫌を悪くする藍屋。
「藍屋さん?あの声には、どこか…そう…、自分の男を捜し求めるようなそんな想いが現れているように聞こえますよ?」
なぜか楽しそうな太夫。
押し問答でもしているのか、だんだんと騒ぎが近づいてくる。
騒ぎを聞きつけて、座敷の障子を開けてみると…
外が異様に明るかった。
下の中庭にまるで篝火でも焚いているような明かりが…
正之助と新三郎は恐る恐る下を覗いた。
「アンタぁ…そこにいたねぇ。どぉしていなくなっちまったんだい?こんなにも好きだって言っているのに。さぁ、はやく戻ってさっきの続きをやろうじゃないかよぅ。見ておくれよぉ。アタシのしっぽ、こんなにも燃え盛っちまって!これはねぇ?アンタを求めるアタシの心の叫びなんだ。どこにいてもアンタにこれが見えるように、こうゴウゴウと燃え盛ってるのさ。アンタァ…好きよぉ…どこにいるのぉ…ってさ。だから、アンタァ…好きなの。堪らないのさァ。アンタを慕って求めて求めたくて仕方が無いのさ。アンタァ…はやくヤろうよぉ。アタシの胸の中にはやくおいでよぅ」
期待に満ち満ちた声で華鈴は呼びかける。その後ろに志保がいた。
「正之助様?正之助様!そこにおいでなのですか?志保です。あなた様を慕っている妻はここにいますぞ?正之助様。ここは…廓?……この志保という者がありながら、このような、いかがわしいところに何故いるのですか…?」
華鈴とは反対に、志保のその声は悲しむように沈んだ声をしていた。
新三郎と正之助は外をまともに見ることができずに顔を見合わせた。
二人の女達は店の者達に抑えられながら、身を乗り出すように部屋を見上げて呼びかける。
「アンタぁ…好きよぉ…。だから、そこでじっとしてるんだょう?そこで待ってなァ。すぐ、すぐに迎えに行くからなァ?」
「正之助様?そんなところで何をなさっているのですか?…そこにいるのは…淫魔?。…正之助様!!わたくしという者がおりながら淫魔などと酒を酌み交わしているのですか?…あああ、なんということでしょう。わたくしがいないのをいいことに羽を伸ばしておいでなのですか?……正之助様!!そこで待っていてくださいまし!いますぐにその真意!しかと聞かせていただきましょう!!」
そういうと、我先に店の中へと乗り込んでいく。ドタドタという音が二人のいる部屋にまで聞こえてきた。
それを聞いた二人は飛び上がった。
「まずい!まずいまずい!!くる!華鈴が来る!あの獲物を見つけたような目つきっ!私は知らぬ女子と、肌を合わせるつもりなど無い!無いのだ!!望まぬ床入り…女子に手篭めにされるなどまっらだ!…正之助すまぬっ!私はここで失礼する!太夫殿、藍屋殿まことに不躾ながらこれにて失礼つかまつる。今日の無礼の詫びはまた日を改めてということに…っ?!来たっ!来たっ!!」
「何を言う貴様!一人で逃げるだと?!俺だって志保は好きだ。だが、この太夫というお人といるこの状況!マズ…マズイ!!新三郎っ!俺も逃げるぞ!」
「あらあら、ふふふ。お二人ともいいヒトがいるのね?うらやましいわ。でも、嫉妬させちゃダメでしょう?あんなにもあなたに焦がれているのですものね。お気張りあそばせ?妖がその気になったならば、当分は寝かせてくれぬもの。その浮気な心を自分だけのものにするためにどんな手段をも辞さないでしょう」
逃げ出した二人の背にその言葉が突き刺さった。
ふたりは、大きな足音に追われるように屋根へと飛び出した。
屋根を伝って、店の裏に降りた。外へと通じる裏戸を出ようとしたとき、悲鳴のような怒号のような声が聞こえてきた。
「アンタァ!どこぉぉぉ!!待ってろって言ったろうがァァァ!!こんなにも好きって言ってんのに、なんでわかってくれないんだよぅぅぅ!!」
強く強く想う心のまま叫ぶ華鈴。
「正之助様?正之助様!!…この杯。…なんてことでしょう。やはり、淫魔などと一緒に酒を…」
悲しみにくれた志保の声
「正之助様!弁明をせずに逃げ出したこと…志保は決意いたしました!必ずや…必ずや、その身の程を懲らしめてやりまする!!」
後ろから聞こえてくるその声に、震え上がりながら裏道に飛び出した。そこは、川へと通じる道であったためすぐに駆け出した。
二人は、泊めてあった舟を見つけるとそれに飛び乗り、川へ漕ぎ出した。
本気になって追いかけ始めたふたりの女の闘気が、逃走者の背を突き刺そうとするように追ってくる。
「正之助っ!早くしろ!火があの炎が近づいているぞ!」
「わかっている!俺だって今はこの身が危ないのだ!とにかく急ぐぞ!!」
慣れない手つきで艪を漕いでく。
ゆっくりと、岸が離れ…次第に街の景色も変わっていった。
だが…、はっきりと見える。
華鈴の纏う、その炎。遠く離れたというのに二人の目にもはっきりと…。天高く夜目にもはっきりと見えた。
「…志保が…。志保が…あんなに怖かったとは…。華鈴のように炎は出てなかったが…身に纏うあの気は?…あんなに怖かったとは」
「華鈴…頭を冷やすどころではない。道場にいた時よりも…もっと、もっとすごい気を放っていたぞ?なぁ、正之助?沙羅漫蛇という者は…蜥蜴人とはなんなのだ?あんなにも執拗に執念深い生き物なのか?あれではまるで蛇のようではないか!」
二人の男は、己の犯した間違いに気がついてがっくりとうな垂れた。
もう追って来ないだろうと、川の流れに乗ってゆっくりと艪を漕いでいたときだった。
彼方に見えた“火”が明るくなったように見えた。
時間が経つにつれ明るくなる。
「正之助?!あの火!あの火は?!」
「…追ってきたのか?まさか…追って来ているというのか?!」
「早くしろ!なんだか早いぞ?!」
「あ、ああ!」
その“火”は明らかに近づいて来ていた。
数刻前…とある船頭の身に災難が降りかかった。
それは…例のふたりの女である。
煙草を呑みながら、船宿の人を待っているときであった。突然、辺りが騒がしくなった。
目の前が昼間のように明るくなったと思ったら、突然妖怪が胸倉を掴んで言ったのだ。
『舟を出しな!さもないと、アタシのこの火で火あぶりにしちまうよ!!』
怒気をはらんだその声に気おされて、頷くしかなかった船頭は荒ぶるオンナ二人を乗せ舟を漕ぎ出した。
さすがの本職。巧みな操船とはやく逃げ出したい一心でふたりの目標へと漕いで行った。
遥か向こう。暗闇にまぎれて一艘の舟が見えてきた。
はしゃぐ女達。船頭は、向こうの舟が素人であることを見て取った。艪を漕ぐ者の体が不慣れに揺れていたからだ。
早く逃げ出したい一心で、追う。女は、舟を近づけろと言う。捕まえて躾けると凄みを帯びた声で言い放つのが怖くて仕方が無かった。
この辺りの川のことは良く知っていた。ここら辺りは、川の深さが突然変わる場所。うまく追い込めば簡単に座礁させることが出来るだろう。
だんだんと近づく相手の舟に歓声をあげる女を尻目に、向こうの舟に乗っている男二人の狼狽振りを気の毒に思いながら舟を寄せていく。そんな時に、待ちに待ったその音が聞こえた。
がりがりと船底をこすり合わせる音だ。
向こうの男達は衝撃で浅瀬に落ちたのが見えた。
それを見て、女達は意気揚々と川の中に飛び込んでいく。
当然、船頭はこれからさも恐ろしい出来事が、ここで行われのであろうと思い、狼狽と助けを求める男の声を背に逃げ出した。
「逃げろぉぉ!」
そこは完全な中洲。逃げられるところなどどこにも無かった。
「どこに逃げろというのか!!」
ぬかるみに足を取られながら、辺りを見回す。
後ろからは、黙々と女達の足音だけが聞こえてきた。
正之助は、もう一度舟を動かそうと走った。
ゆっくりとした志保の歩み。それを感じながら無駄な足掻きに興じる。
船首を押している時に、背後に気配が…
振り向くと、志保は袖で顔を隠しながら言った。
「正之助…さま?あなた様は、この志保の心根を知っているというのに…遊郭にて淫魔と杯を酌み交わしていたのですか?志保よりも淫魔の方がいいとっ……いいと…言うのですか…?」
袖の下から現れたその顔。志保の瞳がゆっくりと潤い、涙となってその頬を流れた。そんな志保に正之助は狼狽した。
「ちっ、ちがう!違うぞ!志保!!俺が好いているのは志保のみ。俺には志保しかおらぬのだ!だから、あそこにいた者と酒を酌み交わすといったようなことは決して、そう!決してっ!決してしておらぬのだ!ああ、志保よ!泣かないでくれ!俺はおまえに泣かれたらどうしたらいいのかわからなくなってしまうではないかっ!」
うろたえながら、正之助は志保に駆け寄ってその身を抱きしめる。
「本当ですか?」
「本当だ!この心に一片の曇りも無い!」
「…ほっ。…それを聞いてわたくし、胸のつかえが取れたように思いまする」
涙を流しながら気丈に微笑む志保。そんな様子に胸を撫で下ろすように息を吐きながら正之助は言った。
「そうかァ…。分かってくれたか…。そなたが我等を逃がすために作ってくれた貴重な時を、そのようなことに使うはずもなかろう?俺が心から好いているのは志保!そなただけなのだ。だから、」
志保への想いを込めた説得をわかってくれたようでほっと、安堵のため息を洩らす正之助だが…。
「はい。正之助様はわたくしの…良人。我が殿。そして、廓などの他の女子に手を出すこと無き方。さぁ、正之助様?あなた様の…お心。志保のことを慕っているという証、わたくし達が真の夫婦であるという証をすぐくださりませ!」
その顔を見れば、いつのまにやら涙は消え、期待に満ち満ちた顔をしていた。
「は?」
証?なんのことだ?
「如何なさいましたか?あなたさまのお心、わたくし達が夫婦であるというその証。今までも、何度となくくれたではないですか。それを、今すぐここで見せてくださいまし♪ 」
「…今、ここで?」
「さぁ、正之助様?夜はまだまだ長うございますよ?志保の準備はもうとうに出来ております。もう待ちきれぬのです。さぁ…こちらへ」
がっちりと正之助の身を掴むと、志保は動かなくなった舟の中へとグイグイと引き込んでいったのだった…
「志保をあなた様色にすべて染めてくださいまし!」
帯を取り、着物の胸元を肌蹴させ正之助に馬乗りになると甘えた声で言う。
「まさの…すけ様…。胸を見てくださいまし。わたくしの心は…いまのいままで正之助様とあの淫魔との間になにがあったのか…と、ずっと悋気(嫉妬)していたのです。それゆえ、心に硬いものがつかえて…ほら、このように…もうかたくなってしまっているのです」
志保の形のいい乳房。その先…赤くなった乳首はもう触れなくてもかちかちになっていているのがわかった。
「まさのすけ…様。そのちからづよい双手でいつものように、もみほぐしてくださいまし」
「…こうか?」
掴み上げるように、その胸を揉む。
「あぁ…んっ………もっとぉ……もっとつよく!」
「こうだな?」
「ひゅぅ…うんはぁぁぁぁぁ…ああ…ああぁぁぁ…もっとぉ…もっとぉ…続けてくださいましぃぃぃ」
「しほぉ。おまえの胸…ぐねぐねだぞ。いつもより、あつくて手に心地よい」
「で、ではぁぁぁ、もっとぉ…もっとぉ…ぐねぐねとしてぇぇ、このムネにむちゅうになってくださいましぃぃぃ」
カチカチになった乳首を抓るように揉んでやる。そのたびに甲高い声を上げる。
「コリコリとしておるぞ?こんなにしてしまいおって!悋気?そんなにも亭主のことが信じられんのか!はしたない!」
「ふぁあっああああっああああ!も、もうしわけっ…ありませぬぅぅぅ。ん!ふぅぅぅぅん」
乳首を責める正之助だが、胸全体で感じたいのか正之助の手のひらごと大きな手のひらで包むとそのまま揉みだした志保。
「ふぅぅぅん。あん…正之助様のお手が…お手が…あ、熱いのですぅぅぅ。しほ、しほの…むねがとろけてしまいそうですぅぅぅ」
ぐねぐねと形を変えるその胸。甲高い嬌声を上げ続ける志保に、いつしかイタズラ心が芽生える正之助。
「志保。大事な夫を差し置いて、自分の感じるところばかりいじくり遊ぶなどどんな了見だ?そんなおまえにはきっちりと罰を与えねばならん」
「罰?正之助様が悋気してしまうようなはしたない妻にお情けをくれるというのですか?…正之助様ァ…志保はどんな罰をも喜んでお受けしまする」
喜んで?罰を喜ぶのか?と、正之助は小首を傾げた。まぁ、言ったからにはやってやらねばならないと、思いついたことを言った。
「志保!四つんばいになるのだ!犬のように、獣のように!躾てやらねばならん!」
「はい、はいぃぃ。正之助さまぁ…すべてをまさのすけさま色にぃぃ♪ 」
四つんばいになった志保を見て、どうしようかと思い悩む正之助。
「…尻を突き出せ!そなたがどれほど、いやらしいかこの目で鼻で口で耳で手で存分に確かめてやろう」
「まさのすけさまァ。いやらしい妻の痴態、存分に味わってくださいませ♪ 」
華鈴の炎に弱く照らされたその体は、深い陰影を伴っていていつもに増していやらしく見えた。
彼女の身体の丸みが心をざわめかせた。
覆いかぶるように腹を背に付け胸を揉む。
「志保。俺のおまえの胸の遊び方はこうだ!」
まるで牛の乳絞りのようにぐにぐにと揉んでいく様に、嬌声は高くなる。
「あん!ああっ!!まさのすけさま、そんなにっ!あぁん…うんっ…されたらっ……はぁん…ちちが……あん…ちちがでて…ひゃん…しまいまするぅぅぅ……いっ…あはっ……うん…ィィン」
「子を成す前に乳がでるだと?……そうなったら…この俺が飲んでやろう。……そらっ……子はまだか?と叱りながらな」
「ひゃん。あぅ…あああっ…あああん。まさのすけさまにお叱り…♪ わたくし、いつでも叱られまする♪ ですから、お叱りで喜んでしまうしほにぃぃ、熱い子種を。熱い子種をしほに射ち込んで懲らしめてくださいましぃぃぃ♪ 」
叱りで喜ぶ?そんな声に困惑しながら、肌を密着していたからかもう自身の逸物が我慢できない。
「わかった。志保?おまえに叱りの杭を打ち込んでやろう。だから、もっと尻を高く上げるのだ!」
「こ、こうですか?」
一旦身体を放して、志保のそこがどうなっているかを確かめると…
そこは、蜜つぼのようにとろりとした液を垂れ流していた。それは、足を伝い下に水溜りを作っていた。
「すんすんすん。ああ、おまえのおまんこ。おまえの匂いが…。おまえのこの蜜…ん?もうこんなにも流れてしまっているではないか!胸を揉まれただけでここまでビショビショになるものか?いや、そうではあるまい!志保!これは仕置きと言ったではないか!夫が胸の責めを施しておる間、何をしておったのだ!!」
「なにもなにもしてはいりませぬ!」
「ほんとうか?ならば、この尻尾が濡れているのは何故だ?」
正之助は、しっぽについたその液を舐めてから、おまんこから滲み出る蜜を舐め啜った。
「ずっずっ…。志保!俺が胸を責めておる間、このしっぽでおのれの蜜つぼを慰めておったな?恥を知れ!」
「ひゃぁぁぁ!!そんなにっ…ああん。啜られてっ…そんなぁ」
「慰めておったのだなぁ?」
「慰めておりました!だって…だって…まさのすけさまのおちんぽが、しほのしっぽの根元にあたって…あたって…待ち遠しかったのですもの!」
「そうかぁ…。ならば、こんなにいやらしい蜜つぼには栓をせんとなぁ!それ、ほしがっていた杭をいますぐにでもせんと折角の蜜が零れ落ちてしまう!」
その瞬間に、猛った逸物を前戯もなしで捻じ込んだ。
「ひゃっぁぁぁぁ!!い、いきなりぃぃぃ♪ 」
中は、もうたっぷりの愛液で濡れていて、このままうごいてもその具合はよさそうだった。
つきたて餅のようにしなやかな尻に手をついたまましばらくその中を味わっていると、その逸物の弱点を知っているように伸縮を始め絡みつき始めた。
「くっはっ、志保!まだ動いていいなどと一言も言ってはおらんのに動きおって!」
「はぁ…はぁ…。なにも…なにもしてはおりませぬ。まさのすけ様こそ、動いて動いてくださりませ!しほは、しほはぁ…待ち遠しくて我慢できぬのです!」
「…よし!行くぞ!!」
「きゃん…あ、あ、ああっ!うごいてるぅ♪ まさのすけさまの杭がぁ、奥…奥までぇぇ」
ぎしぎしと軋む舟。
気持ちよさに顔をゆがめる正之助だが、そんな顔を叩くものがあった。
それは、志保の尻尾である。邪魔に思ったのかその先っぽを咥えたまま、腰を振るう。
「しぃほ…ひほぉぉ…ィィ…イイぞぉぉ。あっ…おまえは…はぁぁ…おまえは俺のモノ…おれのモノだぁぁぁ!」
「ひゃん、あん…イイ…いいのぉ!!しほ、しほはぁぁぁ、まさのすけさまのモノ♪ モノなのですぅぅぅ♪ 」
先っぽを咥えて尻尾を抱きかかえながらいつまでも、盛りのついたオスのように腰を振るう正之助だったが、そろそろイってしまいたかった。だが、せっかく志保と一緒に気持ちを重ねているのだ、どうしてもいっしょにイキたかった。
そんな時、尻尾の先が口から放れそうになったのを噛み直したとき、キュッとアソコの締りがよくなり、高い嬌声を上げた。
「志保ッ!志保ぉ!!そろそろっ!おまえにっ…おまえにっ…最後の仕置きをっ!!」
「まさのすけさまァァァ。しほに、しほにッ!!こだねをぉぉぉ!」
「ゆくッ…ゆくぞッ!!」
そのとき、正之助は尻尾にがぶりと噛み付いた。
「っっっ…〜〜〜〜っっっ!!!きゃふぅぅぅぅぅぅ!!」
「っっっ!!!ぐぅぅおぉぉぉぉ!!」
強烈な締め付け、子宮にたどり着いた逸物は、すべてを持っていかれるような恐怖と共に精を噴出した。
いまだ続く強烈な締め付けの中、熱いそれは迸る。
射精の感覚は、頭の天辺までを貫くような強烈なものとなって志保の身体を突き抜けていった。
締め付けは弛むことがない。いまだ続く射精に彼女のおなかはゆっくりと膨らんでいく。
時々、絶頂を感じているのかビクビクと震えるその身体を抱きしめてやりながらも、またまた逸物が滾ってきた正之助は、志保が落ち着くまで抱きしめてやるのだった。
「正之助様ァ…。これからも、もっともっと強く志保を抱きしめてくださいましね」
あの後、二回戦、三回戦と我慢できなくなった二人はもう獣として求め合った。
本来、相手を虐めるような睦み合いを良く思っていなかった正之助は、もうやめたいと思っていたが、なかなか面白かったとその時の様子を思い出して笑った。
「志保ぉ…。おれは…俺は…、おまえといっしょにいられればそれで…それでいいのだぁ」
「まさのすけ、さま…。志保は…志保は…いつまでもあなた様を信じ、お慕いしておりますぞ…」
動かなくなった舟の中で、いつまでも愛を囁きあうふたりだった。
一方、村上 新三郎と華鈴の様子はと言うと…
「アンタぁ…捕まえたよぉぉぉ。…もう、逃げられなぁぃぃぃ。うふ、うふふふふ。アンタぁぁぁ。好きぃぃぃ。うん…ちゅぅ…♪ 」
逃げ惑う新三郎に飛びつくと、我慢できないというかのようにすべての着物を剥ぎ取り、馬乗りになった華鈴。
「こ、こら!やめ!おちつけっ!!」
「これが落ち着いてられるかよぉぉぉ!アンタぁ…こんなにもアンタのこと好きになっちまったんだ。アンタのこと全部知らないともう、もうっ落ち着かないんだよう!さぁ、アンタァ。力を抜いてアタシに任せちまいなぁ。一緒に気持ちよくなろう?」
「だから、そなたなど知らんと…」
「だったら知ってよぉ。アタシのコト。アンタだったら…すべて見せちゃうんだからぁぁぁ!」
そういうと、どんな仕掛けか…ごつごつとした無骨な鱗や胸あてなどのものが消えた。
「ふふふ。アンタぁ?口で嫌がっていてもココは正直なんだねぇ♪ 」
我慢できないかのように、びくびくと震えるそこが、華鈴のことをもっと知りたいと代弁するかのようにもの語っていた。
「ち、ちがう。これは…」
「これは?アンタのチンチン、こんなにもおったっちまってるんだよ?アタシのこと知りたくないんだったらこんなにはならないよねぇ?ね、どう?ふっふふふ…ビクビクしてる。触って欲しい?どう?イヤ?…でもねぇ、アタシが触りたいんだよ!」
「うわっ!!」
大きな手のひらいっぱいで包み込まれた逸物は、ぐにぐにと解すようにもまれ続けた。
「あは、あははは。ここってこんなに硬くなるんだねぇ。おっかぁが、おっとぅに貫かれてるって言っていたのがよくわかるよぉ。アタシ、アンタのこれで貫かれるんだねぇ?…あはっあははは。待ち遠しいね。アンタも女とヤルっていうことをもう知っているのかい?それとも、このアタシが初めてだったりするのかい?初めてだったらいいねぇ。なんせ、アンタに女っていうものがアタシだけって、アタシしか知らないようになっちまうんだものなぁ。アンタ?アタシだけを見てくれな?他の女に手を出したら…拗ねてやるんだから!!」
「うわ、うわっ!そんなにむにむにと揉むなぁぁぁ!うっ…くっ…うはぁぁぁ。ダメッ!ヤメってくれぇ」
苦しそうにもがく新三郎。他人に、しかも初めての相手が訳も分からない女なのだ。嫌がっても放してくれないのだ。手篭めにされているという危機感がますます神経を過敏にした。
「カワイイよ、アンタ。感じてるんだろ?この手のひらで触られて感じてるんだろ?うれしいね。男って、このままにしておくと、精を放ってくれるんだろ?なぁアタシ、アンタの精…早く味わいたいんだよ。このまま出しちゃってくれよ。お礼はちゃんとするからさぁ♪ 」
途端に、その扱き方が変わった。指の平で形を確かめるように揉んでいたその動きは、手のひら全体で包み込むように扱き出したのだ。
「うわ、うわ、うわっ!ヤメッやめてくれぇぇぇ!くぅぅぅやめてくれぇぇぇ。うっはっダ、ダメ!」
すでに、限界まで来ていた新三郎は、我慢なんてできるはずもなく、すぐに達してしまった。
ぴゅるるるっと、華鈴の大きな手の間から吹き上がる精。
華鈴の顔を汚し胸を汚し、新三郎の腹にまでかかった。
「は、はは。うふ、うふふふ。これがアンタの精。ちゅ…ちゅる…。ああ、ああぁぁぁ…おいしいよぉ。アンタの精…こんなにも…ふぅぅぅ。極上の古酒も負けるうまさだねぇ。…ああ、こんなにも飛び散っちまって勿体無い」
荒い息をする新三郎の目の前で、ずるずると音をたてながら手についた精を啜り舐めていく華鈴。
目の前では、赤く艶やかな舌が精と涎を滴らせてくちゅくちゅといやらしい音を立て、今出したばかりの精を舐め取っているのだ。赤面しつつ、どうしてもその様子を見入ってしまう。
「ははは。アンタのこの精…どうやら極上ものみたいだね。…アタシうれしいよ♪ 」
「ぅぅぅ。おまえ…」
「アンタァ…気に入ったんだね♪ もう、そんなにもビクビクになってきたよ♪ 」
初めて自分以外の者に射精させられたその快感と艶かしく精を舐め取っていくその姿に、一度は萎えた逸物は再び元気を取り戻した。
「ふふふ。アンタァ?見ておくれよぉ…見てアタシのカラダを…」
勢いよく燃え盛る尻尾を、股の下からひっぱりだすと、その火の明かりで身体を浮き上がらせるように見せ始めた。
「うわぁ!その火、火!燃えるッ燃えるからッ向こうにやってくれ!!」
「アンタ♪ これはねぇ、燃えないんだよ?これは、アタシの力で見せているものだから、ほら…熱くない。焼けもしない。だからさぁ?今はこれでアタシの身体…じっくりと舐めるように見とくれよ。アタシのおっぱいはどのくらい大きくてどうなっているのか、アタシのおまんこはどうなっているのか?アンタを受け入れることができるようになっているのか…その目で見て確かめておくれよ!」
華鈴の女としての身体。下から見上げると火の明かりでとても美しく見えた。
やわらかい丸みを帯びたその輪郭。汗が光を帯びて光っていた。胸元を見れば、さっきの精の白濁としたものが張り付くようにゆっくりと滴り淫靡に見せていた。健康的に引き締まったお腹の曲線…。さらに下に目を移せば…生えそろってきれいな茂みが…。
炎の中に見える華鈴の股間。おまんこと呼んでいたその部分。赤い炎の中に何かが滴るように落ちていくのが見えた。
「ふあぁぁ。どう?どうなんだい?アタシの身体…見て、どう見えてるんだい?ほしくなった?さわってみたくなった?手をのばしたくなった?それとも…そのおちんぽをもう、もう、突き入れたくなっちまったかい?アタシはねぇ…アンタのそのおちんぽぅで…この中を埋めてもらいたいんだよう」
我慢できないというようにお腹を撫でる華鈴。
「見てよぉ!もうこんなにも涎をたらしてるの見えるかい?あんたのおちんぽぅを食べたい食べたいってせっついてくるんだよう。なぁ、アンタァ…いつまでおあずけにするつもりだい?」
「ゆっくり、じっくりと“見ろ”と言ったのは華鈴だろう?なら、もうすこしおあずけでもいいのかもな」
自分の逸物ももう耐え切れないほど刺激がほしくてうずうずとしているのだが、華鈴の耐えようとする表情の可愛さについ見惚れてしまっていた。
「そ、そんなぁぁぁ。殺生だよ。生殺しかい?アンタァ、お願いだよう。アンタのその逞しくなったおちんぽぅおくれよう!」
「華鈴。じゃぁその前に自らので達しているところみせてくれ。私のを見ただろう?あんな風に」
「イジワルだよぅ。そんな…そんなこと…」
「見せてみろ。無理に達せられるその心、おまえも味わってみよ。そしたら、可愛がってやる」
「ふわっ…」
我慢できなくなったのか、爪先で割れ目の付け根から豆のようなものを弄くりだした。
こねこねとこねくり回す、片手でその豆をこねまわし、もう片手では胸を弄くる。その動きはだいぶなれているようで、すぐに甘い声を洩らし始めた。ビクンビクンとその身体が跳ねる。
新三郎は、興奮のあまり…華鈴のおまんこに手を添えた。花びらのようにひくひくと震える割れ目のそれに手を押し当てて弄繰り回す。自分がやられたように絶頂を感じさせてやりたかったのだ。
「ふぁッ?!だめ、だめぇ!アンタぁ弄くっちゃダメぇ!あん…ぁっふぁぁぁん、アンタのてがぁ…おまんこをぉぉぉ」
弄くるなと言いながらも押し付けるように腰を落す華鈴。新三郎は、目の前で形をぷるぷると形を変える胸にも手を伸ばした。
「ふわっ!おっぱいにも!おっぱいにも!!アンタの、アンタの手がぁ♪ 」
「コリコリしているな」
「そ、そうだよう。そこ、そこぉいっぱいおっぱいさわってぇぇぇ!」
はぁはぁと唾を飛ばしながら乱れる華鈴。新三郎の方こそ我慢の限度だった。
この女に、この逸物を突き入れてやりたい!けれど、さっきイかされたのだからどうしても、他人の手によってイかされるということを味あわせてやりたい!それだけで頭がもんもんとしていた。
「あ、あ、あ、ん、んぁ、ぁ、ぁ、ぁん…アンタぁ…せつないよう。なか、なか、なかにィィィ…アンタァ欲しいよぉ…」
顔が熱い。火の熱さではない。顔の熱さをなんとかしようと華鈴の腹に頬を寄せた。
一瞬の冷たさの後に、べったりとした汗と顔の熱さと同し熱さが伝わってきた。
「あんたぁ…おちんぽぉ、限界なんだろう?…ん、あ、ふぁ…おくれぇ、アタシのなかにぃぃ限界になったぁおちんぽぉおくれよぉぉぉ」
その時、何かが切れた。
新三郎の心の中で、箍がはずれたように…
「華鈴!」
上に跨る華鈴を半ば強引に押し倒した。
「あんたぁ、やっと…やっとなんだね。やっとぉくれるんだねぇ」
「おまえのせいで、こんなになってしまったじゃないか!」
「あはっ♪ おおきぃ♪ あんたぁ…はやくぅぅぅ…」
燃え盛る火のせいで華鈴のあそこは丸見えだった。後から後から、蜜が滲み出ていく
「あんたぁ、や、やさしく入れるんだよぅ?あたしだって…初めてなんだからぁ」
「ほんとうか?しっぽでいたずらをしていたのではないのか?」
「…いじわるぅぅぅ。アタシだって、初めては大切な男にとっておきたかったんだからね?しっぽがあるからって奥までなんてしないよぉ」
「そうか」
盛りのついた牝トカゲかと思っていたが…初めては相手になんて言う可愛らしい女だとわかって、たまらなく愛しくなった。
「いくぞ?華鈴」
「来て、アンタ」
「…わすれるな?私の名は新三郎だ」
「新三郎。ん、でも…“アンタ”の方が呼びやすい」
「勝手にしろ」
「うん。あんたぁ…きて、しんざぶろう」
華鈴の張りのある引き締まった太もも抱えると、秘所に先をあてがいゆっくりと埋めるようにその中へと入れていく。
「ふ、うん、ぁぁぁ!あんたのが、あんたのぉ…ずっずっずって入ってくるよぅ」
「華鈴、そんなに締め付けるな!そんなにされたらはいらなっ!いっ!ちからっ…抜けっ!」
その中は、じゅうぶん濡れていた。けれども、それが太すぎたのかなかなか入っていかない。
それなのに、もう膣の中は締め付けようと伸縮を始めた。
息を整えてから、もう一度華鈴を抱きしめて逸物を突き入れていく。
それが終わったときには、華鈴の瞳に涙が…。
「しんざぶろう…あんたのおちんぽぅ…確かに感じるよう」
「かりん…。おまえのなか…熱いなぁ。融けてしまいそうだぞ」
「ほんとう?アタシぃアンタとなにもかも融けあいたいよぅ」
「かりん。可愛いことをいう。さぁ、このままずぅっとこうしていてもいいが…」
「いいけど、アタシはアンタの…しんざぶろうの精がほしい。しんざぶろう?あんたのその命、あたしにわけて?あんたのその命あたしの命に混ぜ合わしたいんだ。だから、アンタぁ。このまま動いて。んで、なにもかもどろどろになっちまおう?」
華鈴の足がゆっくりと動いて、新三郎の背を抱きかかえるように足を組んだ。
「これでもう、あたしとあんたは放れられない。どんなに激しくしたって、どんなに放そうとしたって最後までいっしょさ」
「そうか…なら、手を」
「ん♪ 新三郎」
手と手を組み合わせるふたり。笑いあい、口づけをしながらだんだんと腰を動かしていった。
途端に、とろとろに熱く蕩けた媚肉が逸物に絡み付いていく。
気持ちよさに歯を食いしばりながら奥へ、奥へと突きたてる。
華鈴は、もっともっと引き込もうと背をぎゅうぎゅうと締め上げてくる。手に込めるその力は痛いほどだ。
逸物を叩きつけるように抜き差しするたびに、甲高い嬌声と甘い吐息を吐き出す。
「うんはぁぁぁ!あん…あんたぁ…あんたぁ…あんたのぉがァひび、ひびいてくるのぉ」
頭に響くのか、いやいやするように頭を振る華鈴。
気がつけば彼女のしっぽも揺れているようだった。しっぽが揺れるたびに逸物のあたるところが変わるのか大きな声を上げる。
それに気がついてからは、ますます大きく腰を振るった。
「ひゅ、ひゃぁん!あっ、だ…だめ!おかしくなっちゃう!!やめっ、とめて!」
足の締め付けはもう腰が痛いほどだ。おまんこの花びらはぎゅぎゅうに逸物を放すものかと締め付ける。
獣じみた声を上げながら、二人…快楽の虜のようにお互いを貪りあった。
「も、もうだめ!だ!!か、かりん…ゆくぞッ!おまえの中にッおまえのなかにッ!すべてすべてを預ける!」
「来て!きてぇぇぇ!!も、もういつでもいいのぉ!あんたのものッ!ぜんぶなかにぃぃぃ!!」
我慢の限度という声を出して果てる二人。その声は、いつまでも辺りに響き渡っていった。
その後も、また波のようにやってきた快楽に呑まれて肌を合わせるふたり。
ぬちゃぬちゃと卑猥な音をたてながら、甘い言葉を交わしながら睦みあうのであった。
「アンタァ…好き。好きよォ…」
すがりつくように顔を寄せる華鈴。放心したまま身を任せる新三郎。
時間と共に頭が冷静になっていく。
「……は、ははっ……はっはっ…ヤっちまった…」
すりすりとほお擦りをして時々思い出しようにぺろぺろと口の中を舐める華鈴。考えもまとまらぬまま華鈴にされるがままの新三郎…。ふたりの時間は始まったばかりだった。
華鈴の激情と思慕の情念は、空を焼くほどの炎となって舞い上がった。
街から大分離れたところでの出来事だったのに、街中各所にある火の見櫓などから一時、一斉に警鐘が打ち鳴らされるといったこともあったほどだ。だが街中のことではないと知って次第にその鐘の音は消えていった。
しかし、それは人々の好奇心を呼び、瓦版の格好の餌食となって町中を駆け回っていった。
人々は田崎 正之助夫婦の再来と囃し立て、村上 新三郎と華鈴が夫婦になったことを祝い騒ぎ立てた。
そんな宣伝があったためか、その後…強い者を求めて嫁がやってくる道場とうわさが立ち、それにあやかろうという者達が是非に門下生にしてくれ!と訪れるようになった。それと共に、たくましい男を求める妖怪たちも同じようにやってくるようになった。
新三郎と華鈴で切り盛りする道場は、たちまち繁盛し評判となった。美しく強く豪快な華鈴。時に、突然発作のようにやってくる華鈴の発情と共にどこかへと消える師範を門下生達は生暖かく見守りながら…いつか自身も強く美しい妖怪と夫婦になりたいと思う者達がやってくる道場となったとさ
めでたし、めでたし…
「はいっ!…あーん♪ 」
ほどよく焼かれたそれは皿の上で湯気を上げていた。
「…自分で食べれる」
目の前、口元…すぐそばに食べてくだされと差し出されたそれは、知らず唾がでてしまいそうな良い匂いを放っていた。
「そうおっしゃらずに♪♪♪ わたしはあなた様の“妻”なのですから♪ はいっ♪ あーん♪ 」
焼きたての魚。その身を解して、愛しき人へ食べさせてあげようと箸でとって差し出していた。
「志保よ…あー…そのな?」
「なんですか?正之助様♪ 」
どこかむず痒そうなのは田崎 正之助。そして対照的に寄り添う満面の笑顔の女…その名は、志保。
「……」
「正之助様?お口をあけて下さりませ。生きのよい鯵のヒラキですので、食べればきっと宵の疲れも取れお力もまた漲ることでしょう♪ 」
にこにこと笑う志保。その後ろを見れば深緑色した尻尾があった。
機嫌よさそうにそのしっぽが、ひょこひょこと動く。
よく見れば、着物から覗くその手も足も人のソレとは違い爬虫類の手足のように厳つい…
そう…この志保は、蜥蜴人だったのだ。
彼らの出会いは驚きのものだった。
街に辻斬りが出たというので、退治してみたらそれは蜥蜴人だったのだ。そんな、奇妙な縁がきっかけで夫婦となっていた( 詳しくは、日の国小話奇談 其之壱:5.辻斬り )
「なァ、一人で食べられるから…な、な?」
恥ずかしいのか、赤い顔をして正之助は一人で食べれると言うが…。
「駄目です!わたしは妻の務めをはたしているだけなのです。ですからっ!そうご遠慮なさいますな。あーんが嫌だというのであるならば…あん…」
どうあっても食べさせたいようだ。
「口移し…を所望なのですね?さっささ…んーーー」
そういうと、魚を口に含み唇を差し出す志保。
「まっ?!まて、まてまてまてまて!!!待つのだ!そ、それはぁ!」
逃げようとする正之助の腰に志保のしっぽが巻きつき…捕らえて放さない。
「んーーー♪ 」
そのまま圧し掛かり、押し倒す。
その瞳は、妖しく笑っている。
「しほーーー?!……ん……んぐ……」
押しのけることもできずに…その抱擁と口づけを受ける正之助…
「んっ…ちゅ…。はぁ…はぁ…いかがですか?とぉってもおいしいでしょう♪ 」
「んっ…んぐんぐっ…ごくっ……そ、そうかもな…」
「そうなのです。さっ…もう一口♪ 」
志保は焼き魚を大きく切り取って口にくわえた。
押し倒されたままで、飯よりもその志保の重みに欲情を覚えそうになった正之助…
唇からはみ出ている魚を口づけするかのように噛み切ってから、なんとか志保を抱き起こした。
「まひゃのふけ様?」
「ん…もぐ…。ん…。す…すまぬ。それは志保が食べてくれ…。口移しは…刺激が強すぎる…。だから…その…」
目が泳ぐ正之助。それを察したのか、股間を見つめて悪戯っぽく撫でてから笑いながら言った。
「ん…んふふふ。…ならば…"あーん”ですね♪ ヤンチャなここは、今宵また頑張ってくれることを期待しましょう♪ 」
股間をなでられる恥ずかしさに顔を赤くしながら、渋々あーんを承諾した正之助。とりあえず…志保にも“あーん”をしてやらねばと、とってやる。
「…ほら、志保…。あーーー」
「あーーーん♪ ん…ん…うんん…」
「うまいか?」
「とってもぉ…♪ おいし♪ 」
蕩けてしまいそうな顔をして微笑む志保。
「では…正之助様も…あーーーーん♪ 」
「……ッ!……ぁーーーん…」
顔が茹で蛸のようにさらに赤くなる正之助。
「んふふふふ…♪ 」
正之助が“あーん”をすると、本当にうれしそうに抱きついてすりすりと頬ずりをする志保。
「志保…大げさだ」
「正之助様が、わたしの“あーん”を受けてくれたのですもの…うれしくて涙がでてしまいます♪ 」
「おおげさな……」
「正之助様には、精をつけて頂かなくてはならないのです。ですから…もっともっと食べてくださいましね♪ 」
「む……むぅぅぅぅ…わかった…」
「さっ…今度は、あさりの貝飯ですよ。この貝が疲れを取るのです。…さっ…あーーーん」
「あーーー…ん…」
きゃっきゃっと志保のうれしそうな声…新婚の初々しさそのままに甘く爛れそうな会話は続く…
田崎家の幸せな昼飯はもう少し掛かりそうだった…
長い昼食が終わった頃…
外から声がしてきた。
『…すまぬが…田崎の家はここか?……そうか、かたじけない』
正之助を訊ねて誰かが来たようであった。
『田崎の家に用があって参ったのだ…。そこをどいてくれぬか?』
貧乏長屋の人々のがやがやとした声がする…そして…
『ごめん!田崎 正之助殿はご在宅か?』
凛とした男の声が辺りに響き渡った。
「はーい!」
志保が戸を開けると、30前後の男が立っていた。
「私は、村上 新三郎と申すものですが…正之助は…居りますでしょうか?」
身なりはほどよく草木色の着物に灰色っぽい袴を履いていた。
刀は、太刀のみ…
「…村上。入ってくれ」
「おう、いたか…。では…ごめん」
奥で茶を飲んでいた正之助は、手を上げて呼んだ。
「では、お茶をご用意いたしまする…」
そう言うと、志保は茶の湯の支度を始めた。
「久しぶりよな正之助…」
「うむ。変わりはないか?新三郎」
「特に変わらん。それにしても…あれは誰だ?」
新三郎の目線の先…紫の着物を身に着けた志保の姿が…。
「志保という…俺の…俺の…」
「俺の?」
赤い顔をして動揺したようにどもる正之助を興味深げに見る新三郎。
「俺の、つ…つま…だ」
「妻?!…では、あの話は…」
辻斬りと仕置きの件に驚く新三郎。
「…うむ。本当だ」
渋い顔をして腕を組むと、こっくりと頷く。
「茶をどうぞ」
「これは…かたじけない」
茶を出してくれたその手が人の手とは違うのをまじまじと見てしまう
「わたしの名は、志保。見てのとおりの蜥蜴です。どうぞよろしく」
「あ、これはご丁寧に…。私は、村上 新三郎と申します。正之助とは同じ道場で鍛えあった仲でしてな」
「それはそれは…」
にこにこと微笑む志保
「正之助…いい嫁さんをもらったな」
「ぬ…う、うむ…」
正之助は、どこか困ったように頷くが…、志保の顔は晴れやかだ。
「正之助様はこのように人前では、いっつもつれないお言葉。ですが…それが照れ隠しなのは分かっております」
袖で口元を隠して微笑み、幸せそうに良人の顔を見つめる志保。
「よかったな。この人はおまえのことなどお見通しだ」
「……」
「さぁ、ではわたしはこれで。なにかとお話がございましょう。どうぞごゆっくり」
にっこりと笑ってそう言うと、志保は外へと出て行った。
「で?今日は一体どうしたというのだ?」
「なに、暇つぶしがてらおまえの所に寄ったのだ。聞けば辻斬りを倒しそれを娶ったとな。ならば挨拶でも…と散歩がてらに見に寄った」
「そうか…暇つぶし…ということは、まだ道場には人がいないのか?」
「…うむ。そうさなぁ…」
村上 新三郎…
彼は、この町の片隅にある道場で師範代を勤めていた。
そこはかつて、正之助も通っていた道場であった。師範が老齢の故に新三郎が師範代となって切り盛りしていたが…いまは、門下生もおらず、どうやって門下生を獲得しようかと悩んでいる最中でもあった。
「なにかやったらどうなんだ?」
「なにか、とは?」
「縁日で青竹を斬ってみたり…」
「見世物でもしろと?」
「“腕に覚えあり一勝負勝ったら金1両”…とか」
「賞金稼ぎか?!」
「とにかく名を売れ!名を!!技を習いたくなるようにその腕前を宣伝しないでどうするのだ!」
「うむ…そうさな」
眉を寄せ頭を捻る新三郎。
「まぁ…そのうちいい手が見つかるか。それはそうと…新三郎。俺もな貴様に相談したいことがあったのだ」
「相談?」
「…うむ。志保のことよ…」
「志保さんか」
外で井戸端会議でもしているのかにぎやかな声に志保の華やかな声が混ざっている。
下ネタで盛り上がっているのか卑猥な言い回しが聞こえる。
「…俺には…な?出来すぎた嫁なんだ」
「は?」
「だから…本当にこんな俺でいいのか時々わからなくなるのだ!」
「…おまえな。冗談も大概にしないと怒るぞ?」
「冗談ではない。朝目が覚めるとうまそうな飯ができているのだ。飯はうまいし…いや、作ってくれるものはなんでもうまい。身の回りの世話から床に入った後まで…」
「のろけか?惚気なのか?一人身の私にそんなことを言って、悪意でもあるのか?だが、もし本当にそんなことで悩んでいるならば…怒るぞ!何が不満なのだ!」
「いや…不満では無く…。…そうだな。俺は、今まで独り身で…これからもそうして生きていこうとしていた矢先…志保に会って…、一緒になろうという誘いを断った。だが、あいつはどんなに一緒になるのを断っても押しかけてきた。そのうち…情がわいて……一緒になった。だが、本当にこんな俺でいいのか?仕官のあてもない…一生浪人のままのこんなむさ苦しい男と一緒になってあいつは…それでいいのか?」
新三郎は話を聞いている間、心底この男に呆れていた。
妖怪は、惚れた相手に何をされても生涯ついていくと聞いた。いや、例え妖怪でなくとも心底惚れているのならば一生ついていくだろう。あんなにうれしそうにしている志保。心の底から惚れた相手なのだろう。たとえ暮らし向きが苦しくても…
この男は、何が不満なのだろうか?新三郎には、そこがなんだかよくわからなかった。…だが、なんだかんだ言いながら志保に惚れているのはわかる。良い女房だからこそ、こんなうだつの上がらない男と一緒になったら不幸にしてしまうのでは?と、そんな細事なことを気にしているのだろう。
不器用な男だ。志保のあのうれしそうな様子を見れば、一目瞭然しゃないか…
「自信を持て!志保さんのあのうれしそうな様子を見て貴様はなにも分からないわけではあるまい?おまえに惚れ抜いているからこそああして、幸せの笑顔でいるのではないか。お前がおればそれで、一緒にいられればそれでいいのだ。だから貴様、そんな自信なさげなことは絶対に志保さんの前で言うな!おまえはその幸せを信じて一緒にいてやればいいのだ!」
「…そうだな。だが…」
めずらしく愚図つく正之助に、新三郎はなんとか元気付けてやりたいと思った。
「ただいま戻りました。あら?なんだか渋いお顔。如何されたのですか?」
「いや、なんでもないぞ志保」
「さようですか?村上様?なんの話をされていたのですか?」
「ええ、ま、ちょっと…」
正之助の惚気と不安をどう言えばいいのか…。どうにかしてやりたいが…。
「正之助様?村上様とはどのような仲なのです?」
「む?ああそうさな…」
「正之助とは同じ道場で技を磨き競い合った間柄なのです」
「まぁ、そうでしたの」
「うむ。この男はな、俺とは違い師範代を勤めるほどの男…俺よりも強いぞ」
剣を振るまねをしてみせた正之助だが…、それに新三郎が食いついた
「なにをいうか!貴様、あの師範代を決める試合のとき…力を抜いていただろうが!」
「そうなのですか?」
「ああ、こいつは神聖な試合であるにもかかわらず…力を抜いて私を師範代にしおったのだ!」
「…買い被りすぎだ。あの時の俺にはあれが精一杯だったのだ」
「私は見たぞ?私が全力で戦った後…もう精も根も尽きその場に立っているのもやっとだったのに貴様は…すぐに汗も引き、なにごともなかったようにその後、他の者と立会いをしていたではないか!」
「そうであったか?だが、俺には師範代などというものは性に合っていないのだ。こうして、気楽に日々を過ごす…それが俺の道よ」
「私は、貴様こそが師範代に相応しいと思っていた。剣の腕もある。人からの信頼は厚い。貴様の求心力…正直、うらやましかったものだ。おまえの周りにはいろいろな者がいつもいたではないか!」
「…いや、おまえの言うほどではないさ。おまえは、師範やそのお上に厚い信頼を受けていたろうが…武道に一片の曇りもなく直向なおまえの性質とその技量をな」
どこか遠い目をする正之助…
と、新三郎は正之助の隣にいる志保の様子が気になった。そわそわとそのしっぽが揺らめいて、その顔はなにやら聞きたそうに新三郎と正之助の顔を忙しなく、興味深く二人のことを見つめている。どうやら、昔の正之助のことをもっと知りたいようだった。
新三郎に悪戯心が芽生えた。
「知っているぞ?貴様…」
「何を、知っていると言うのか?」
「貴様…あの頃、師範のお上に惚れていたろ」
志保と正之助に目線を送りながら、興味があるであろう話をすることにした。
すると、かつて正之助が惚れていた人がいるという話に志保が俄然、身を乗り出した。
「それは、どのような方なのですか?」
興味津々という志保の声に、正之助の眉間にシワが寄った。
「あの方は…美しかった。そして…強かった」
「おい!新三郎!よけいなこと…」
「いいえ!聞かせてくださいませ!!」
「強く、美しく、やさしい。そんな人だった。こいつが惚れるならばそんな人だ。志保さん?正之助の心の底は貴女に惚の字…ぞっこんなんだ」
「まぁ♪ うれしい。そうなのですね?やはり、そうなのですね?志保にそこまで惚れて下さっているのですね?」
「新三郎!余計なことを!!」
「貴様の悩みなど、やはり惚気にしか聞こえん!何を不安と思っているか知らんが…そんな悩みなど志保さんに打ち明けて任せてしまえ。大事と思って苦心しているならばなおのことだ」
「うむ…」
「村上様?正之助様にはこの志保のことでなにか悩みがあるのですか?」
正之助に苦心があると聞いて心配そうに身を乗り出した。
「そうです。志保さんという人を娶って不釣合いなのでは…「おい!新三郎!やめろ!!」」
強い口調で遮った正之助。
「いや、この際だ言わせろ。貴様はきっと後回しにしても言いだせん。志保さん?こいつは貴女に自分は不釣合いなのでは?と思っているのですよ。さっき“俺には不釣合いなほどよく出来た女房なのだ”とかなんとか、呆れた事を言ったのですから!」
「…正之助様?そうなのですか?志保は…とてもうれしゅうございます。そこまで想っておいでくださったのですね。あの時、わたくしを打ち破ったのは他ならぬ正之助様。不釣合いなことなどありませぬ。強い男に惚れて尽くす…それのどこに不釣合いがありましょうか?わたくしの心はもはや正之助様ただ御一人のもの。わたくしの身も心も貴方様へ捧げるためにあるのです。ですから、なんと言われても後をついていきまする。…それにしても、正之助様?水臭いです。…不安と思っているのならば何故、言ってくださらなかったのです。言ってくだされば、もっともっと身を粉に貴方様を愛して差し上げたのに…。お慕いの言葉も床入りでの献身も足らなかったのでありましょうか?ならば、もっとこの心根を知っていただかなければなりませぬ!」
そう言うと、横に寄り添い抱きつく志保。
「こら、人前ぞ?!志保はなれ…」
「いいからいいから…お前はじっくりとその人を抱きしめて愛でてやれ。おまえの不安など最初から杞憂だったのだ。だから、きつく抱きしめてやるのだ。片時も放してはいかんぞ?」
「…すまん」
正之助は素直に頭を下げた。
「嫁の宛などない私に比べれば…はぁうらやましいもんだ。贅沢すぎる悩みだ。だから、貴様!絶対に幸せにしてやれよ!」
「ありがとう、新三郎…。志保?好きだ。心の底から好きなんだ。だから、いつまでも一緒にいてくれ」
「正之助様!志保とて負けないほどあなたをお慕いしております!」
強く抱きしめ合う二人。邪魔してはならんと村上は立ち上がった。
「では、新婚の邪魔してはいかんしな…これにて帰る。頑張れよ」
そうして、村上 新三郎は帰っていった
後には、顔を潤ませて抱きつく志保と安堵したような顔つきの正之助がいつまでも抱きしめ合っていた。
その日…
港に一隻の廻船が着いた。
ジパング人には見られない洋服姿の者や、着物とはまた違ったような服装の者も見える。
しゃべり方からどうやら南のほうからやってきた者たちらしい。
船が接岸すると、港は一段と活気付いた。
廻船を心待ちにしていた商人達。船を見ようと集まってきた者など。どこからか荷役たちがやってきて船に乗り込んでいく。
多くの荷役が船倉の荷を運び出そうと出入りする。
船の者を迎える人や、船から下りて新たな旅に出発しようと街中へと足を向ける者…さまざまが行き交う。
そんな中、一人の者が船から下りてきた。その者はとにかく赤かった。目に焼きついてしまうほどの赤さ。一目で人との違いに目が行く。
初めて見るものにはやはり珍しく人の目を引くが、その者はそんなことはもう慣れっこなのか気にする風でもない。
船から降りると周りを見渡し、不敵な微笑を浮かべて街中へと歩み去っていった…
田崎家宅…
ある日、いつものように傘作りのため、骨組みに糊をつけ紙を貼っているときだった
長屋住民たちがいつもに増してやかましくなった
どよめきが人を呼び長屋住人でもない者の声すら聞こえる
「なんでしょうか?ちょっと見てまいります」
すぐ横で着物を繕っていた志保が立ち上がりかけた
「放っておけ。あの者達がやかましいのはいつものことだ」
「はい…」
だが…
どよめきは田崎家の前に移り動こうとしない。そればかりか…
『田崎 正之助って奴はここにいるかい?』
正之助を呼ぶ女の声まで聞こえてきた
『たのもー!田崎 正之助殿ー』
その声に、志保が戸を開けた
「なっ?!」
その瞬間、志保の絶句が聞こえた
「どうしたのだ?志保?」
絶句して立ち尽くした志保の後ろから、正之助が外を見ると…なにか火が揺らめいているようだった。
「ぬ?」
「お、あんたが田崎 正之助かい?」
それは、女だった。いや、人の女ではなく…妖怪の類
着物などは身に着けておらず…やたらと露出の多い出で立ち…
「そうだが…?そなたは?」
「アタシの名は、華鈴。南の地より強い奴求めて旅をしてきた沙羅曼蛇さ」
一歩踏み出した華鈴とやら。厳つい鱗に覆われた大きな足が目に入った。
その見た目は、志保とほぼ同じ見慣れた姿。だが、すこし違う。着物は、この辺りのものとは違う…露出の多い衣を身につけ、人の手とは違う大きな手のひら。鱗ある大きな足。そして、腰辺りから伸びる尻尾…。鱗は赤い色して、肌は褐色…。
志保は、黄緑色の手足や尻尾。だが、志保とは大きく違う特徴がある。それは、尻尾が火を点していること。
火が逆立つ毛のように盛っている…
「沙羅曼蛇?」
「あんたは火蜥蜴を見たことはないのかい?」
「火トカゲ?蜥蜴人ならば、この志保がそうだが…火トカゲは…?」
「おう。これが話に聞いた辻斬り女かい?」
華鈴が無遠慮に志保を見つめると、志保は硬い声で言った。
「なんのようです?ここはあなたのような破廉恥な火トカゲの来るところではない」
「破廉恥?ふ、あんたが言うかね?人前で百叩きされ女が!」
「され女?!なんなのですか?あなたは!人の家にやってきた早々喧嘩を売って!」
「アタシは、弱いただのトカゲなんて興味はない。アタシの求めているのは強い男だけ!…というわけで田崎正之助!勝負だっ!」
「すまんが…お引取り願おう。今の俺はそのような試合はしないことにしているのだ。そういうことは、志保との一件で十分懲りているしな」
「なんだって?!」
「あの時は、立場上仕方がなく辻斬りを捕まえることとなったのだ。だが、しかし今の俺にはそなたとやり合う理由はない」
「アタシの勝負より大切な事があるっていうのかよ?!」
「いまは…この志保と寄り添って生きていくほうが大事。なれば…無用な勝負などする気も起こらんな」
そう言うと、志保を抱きしめてやる。
「正之助様♪ 」
「うむ」
安心しろと頷いてやる。
華鈴はキッと正之助を睨むと言った。
「いいのかい?アタシはね…そこのトカゲよりもしつこいよ?アンタ…はじめはそのトカゲを自分の女にする気がなくて言葉巧みに逃げ回っていたんだってね?そのしつこさに心動かされたアンタはついに、そのトカゲと一緒になった…と。しつこさに弱いアンタ…アタシはね、きっとアンタと戦ってみせる。折角の強い男だ。だから、きっとね」
「その強い男と言うのは誰に聞いたのだ?」
「この町に着いた時、いろいろな者に聞いたよ?役人も手を焼いていた辻斬りを打ち倒して、しかも百叩きで相手を腰砕けにした男がいるって…それがアンタだ!」
正之助はため息を吐いた。まさか、あの時のことでまた同じような輩が来てしまうとは思わなかった。
「どういわれようが俺は、やらん」
「なら、アンタより強い奴はいないかい?」
「む?強い奴?」
「そうさ。そんな奴がいたらアンタを諦めてやるよ」
「俺より強い奴…か」
誰か…いただろうか?
「とりあえず、今日のところは顔見せってことで帰るが…次来た時は、いい返事を期待しているぜ。もし、アタシとやりたくないんだったらせいぜい強い奴でも見つけておくんだね!」
そう言うと華鈴は去っていった
「やれやれ…」
「正之助様…」
志保は不安げに見つめていた
「安心しろ志保。俺は、もうあんな勝負事はせん」
笑いかけてやるが、その顔はすぐれず不安そうな顔をした。
「正之助様はわたしだけの良人…あの女が正之助様に何か特別な感情を生むかもしれない…そんなことを考えると志保は不安でなりません。あなたのような人、あんな破廉恥になど勿体無いのです」
「そうか…だが安心しろ。なんといわれようが勝負などせん。それでだが…なぁ志保?あの火トカゲが言っていた強い奴…だが、心当たりはないか?俺にはとんと思いつかんのだ…」
すぐには心当たりを思いつかなかった正之助は、とりあえず聞いてみた。
すると、志保はしばらく思案していたようだが唐突にその名を口にした。
「それならば…確か、むらかみ…村上 新三郎様…は、どうでしょうか?」
「新三郎?」
「はい。前に正之助様は仰っておりました。“この男はな、俺よりも強いぞ!”と…」
確かにそんなことを言ったような気がする
「確かにそんなことも言ったな…。そうよな…あの時、あいつには世話になったしな。あいつの強さならば…あるいは…。あの華鈴なる者の強さがどうかわからぬが…?どうだ?あの女の強さは?」
「はい。おそらくとても強いでしょう。なれど…正之助様の強さならばなんとか除けられるほどかと…」
「そうか。なら、新三郎でもなんとかなるか。…それにあいつは言っていたな。嫁の宛などない私にはうらやましいものだ…と」
「わたしたち蜥蜴は強い相手であるならばあるほど、それを求める心は強くなります。まして、火トカゲは勝ち負けなど関係のない…節操のない種です。ですからきっと…」
「そうだな。華鈴をあいつにぶつけてみるか…」
次の日…昼ごろに華鈴はやってきた。
「たのもー!田崎 正之助ー!勝負だぁ!!」
「勝負する気などない」
ぴしゃりと言い放つ。
「なんだって?臆病風に吹かれたのかい?」
「勘違いをするものではない。俺はしないといっているのだ」
「俺…は?」
「うむ。そなたは言っていたの?他に強い男がいるならばそいつを…と」
「そうだ。いるのかい?強い男」
「いる。うむ…俺より強いのが。あいつならば、そなたも気に入るだろうさ」
「そうかい!そんなに言うのならば…!愉しみだねぇ!」
ゆらりとしっぽの逆立つ炎が強く舞い上がった。
「愉しみにしているといいさ。では、志保。あいつのところへ行って参る」
「いいえ?志保も参りまする。新三郎様の腕をがどの程度なのか分からぬ以上、もし破れてしまったのならば正之助様に火の粉が及ぶことがありましょう。ですから、わたしも見届けまする」
「わかった。ならば、一緒に行こう」
そうして、二人は華鈴を連れて街中を行く。
ごうごうと炎が逆巻く華鈴のしっぽ。それが如何にこの試合を楽しみにしているかがわかるというもの。
腰に下げた剣に手を掛けながら、時々不敵に笑っていた。
「華鈴殿…華鈴よ。あいつの性格は良く知っている。なんの気なしの勝負はあいつは受けんかもしれん」
「なんだって?」
「だから、なにか理由でもつけてみてはどうだ?」
「理由?…まどろっこしいね。強い奴と勝負したいっていう理由じゃだめだっていうのかい?」
「もしも、ということだ。あいつとて一道場を背負っている身。勝負したいと言えばすると思うが…」
「…道場、か。なら、ここは…道場破りの名でも語ってみようか。そうすりゃ、どんな腰抜けでも勝負するだろうさ」
そのとき、村上新三郎は朝の稽古を終わらせ道場の雑巾拭きに取り掛かっていた。
手伝いの者もおらず門下生もいない、一人だけの身でこの道場は広すぎた。
故、何もかもを一人でこなさなくてはならない。
この後は、昼飯の支度をと、やることは山積みだった。そんな時…。
「ごめん!村上ー?いるかー?」
聞き知った声が外から聞こえてきた。
「おお、正之助ではないか。それに志保さんも!」
「喜べ!おまえの嫁を連れてきたぞ!」
「は?」
「いや、なに…。おまえの腕を見てみたいという御仁がいてな。だから是非、相手をしてやってくれ」
「強い奴ってのはあんたかい?」
正之助の後ろから聞こえてきた声。その姿を見たとき、新三郎は絶句した。
志保の色変えをしたようなその姿。何よりも、背中には炎が揺らめき盛っている。
勝気そうなその眼は、柳の葉のように細まり獲物をみつけたぞと言わんばかりにジッとこちらを見つめていた。
「正之助?!」
いったいこれは何事か?という視線を送る。
「強い奴を求めているそうだ」
「そう。アタシの名は、華鈴。強い奴を求めてやってきた。腕っ節でもいい。剣の腕でもいい。とにかく、強い奴!そんな奴を求めてるんだ。あんたは、強いんだろ?勝負しとくれよ」
顔の前でその大きな手を握り締め、ギュッと握り締めたこぶしを見せる。
人の手のひらとは違う握りこぶし。闘気が漲っているように揺らめいて見えた。
「強いかどうかは、知らん」
「そうなのかい?田崎正之助。あんた、強いかどうかの自信の無い奴をこのアタシにぶつけようとしたのかい?道場を背負っていると聞いたけど…これじゃやっぱりその看板、脆くもなくなっちまうかもね」
華鈴は、ギロッと正之助を睨みつけた。
「相手の腕を見極めるのも実力のうち。そなたの腕に私は足らぬかもしれない。だが、私はここでこの道場を背負い立つ者。相手が己より強いからと言って、背を向けるような腑抜けではないと知れ!…看板?貴様、道場破りか?ならば、この看板奪えるものならば奪ってみよ!」
「なんだいなんだい?やっぱりやる気満々ってわけかい!いいねぇ。そうこなくっちゃ!」
新三郎は、背を向けると“ついてこい”と言い歩いていく。
塵ひとつなく丹念に磨きこまれた道場。
黒光りして艶やかなそこは、神聖な場であるかのように清浄な空気で満ちていた。
新三郎は、手桶に水を入れ布巾を持ってきて言った。
「これで、足を拭かれるとよかろう。道場での試合は、真剣の使用を認めぬ。木刀での試合でも良いならば、そこにある木刀を手に取られよ」
「これで?これじゃ、強く振ったら折れるんじゃないかい?」
「その心配は無い。芯に鋼の棒を仕込んであるから折れる心配は無い。重さとて刀と同じ…。どうだ?」
華鈴はぶんぶんと木刀を振り回して、確かめている。
「確かに、刀くらいはあるかね。でもアタシの剣とはちっと軽いねぇ。まぁいいさ、とにかく勝負勝負!!」
「あいわかった。ならば、正之助と志保さん。こちらでわれらの試合のほどを見ていただきたい」
廊下で見守っていた二人を、中へと招き入れる。
「新三郎。良い試合をな?」
「ああ、久々の試合だ。勝ち負けなど関係なく一人の剣客として純粋に愉しませてもらおう」
二人は、道場で向かい合い礼をする。
正眼に構える新三郎。
一方の華鈴は、構えなどせずに木刀を片手に突っ立ったまま。楽しみだというかのようにニヤニヤと口元を歪めた笑いを見せる。
「……」
沈黙したまま一向に動かない。攻めあぐねているようだ。
「…ふ、アンタ。アタシみたいのとの立会いは初めてかい?攻めかねているなら、こっちから行くよ?」
挑発するかのようにそっぽを向き、空いている手で手招きをして、わざと隙を見せる。が、それに乗る新三郎ではない。息を整えて静かに華鈴を見据えた。
「ふふ。せっかく踏み込めるようにそっぽを向いて隙を見せたのに来ないんだねぇ。正々堂々かい?…なら!」
声と同時に、踏み込んできた。何気なしに振り上げた木刀は、遠心力にまかせるようにそのまま振り下げられた。
カキィィィンンンン
それは、木刀同士だというのに金属のような音をたてた。
「……はやいな」
「そうかい?まぁ、振り上げて振り下げただけだからね。でも!次はこんなのさ」
そう言うと、まるで片手で太鼓を打ちつけるようにでたらめに振り始めた。
乱舞のように打ちつけてくる。それをなんとかかわしてやり過ごし、必要なときは受け流す。
華鈴の様子は、まるで様子見。小手先を見るようにでたらめに振り回しているように見える。
キンキィィン…ヒュン…スッ…キィィン
相変わらず、笑みに歪めた顔をして見守っているようだった。
打ち合いの相手をしてやっているような動き。けれど、すぐに華鈴が不満の声を上げた。
「アンタ!マジメにやったらどうなんだい?これじゃ、試合なんてもんじゃない打ち合いしてるだけじゃ…っ?!」
不満に声を上げたその瞬間。新三郎は軽くいなしていた華鈴の木刀を強く弾き飛ばし、がら空きになった正面に一撃を加えようとした。
「くぅぅ。へっ、しゃらくせい!」
鋭く迫る一撃を、体を捻ってかわす華鈴。新三郎は、更なる一撃を入れようとするが…
追撃をしようとした途端に、何かが横殴りに飛んできた。
ヒュン!っとしなる音をたてて新三郎の目の前を飛んでいくそれは…蜥蜴特有の尻尾。
それは、鞭のようにしなやかに飛んでいった。
「っく。……はぁ」
無駄口は叩かず息一つついてから、目を閉じて構えなおす新三郎。
「どうだい?アタシの尻尾は?やりにくいだろう?」
「……」
「どうやら、尻尾の火をまともに見たみたいだね。けどそんなんじゃ、隙を与えているだけじゃないのかい?試合いなんだ、休んでる間なんて無いと思うけどねぇ」
そう言いながらもまた木刀を振り回す。
けれども目を瞑っているにもかかわらず、新三郎にはかすりもしない。
腰を落して、すばやく動きながら退いてかわしている。目が見えていないはずなのに見えているかのように、華鈴が踏み込めば退き下がれば踏み込んでくる。
そんな動きにイラつきだしたのか、華鈴の纏う炎が盛んに逆巻きだした。
「アンタ!目も見えてないのに、なんでそんな動きが出来るんだい?!」
怒気を含んだようなその声。それと共に、片手持ちだった木刀を両手で持つと一気に床を踏みしめ…叩きつけるように振り下げた。
乾いた音が辺りに響き渡る…
渾身の振りかと思われるようなその一撃は、目を瞑っているはずの新三郎に見事に防がれていた。
ゆっくりと眼を開いた新三郎は言った。
「地の利よ」
両の手で木刀を振り切ろうと力を込める華鈴。握手と棒先を持って木刀を盾に防いでいる新三郎。
力比べのようにじりじりとした時が過ぎていく。
「…地の利?」
互いの鋭い視線が交錯する。
「私は、幼き時よりこの道場で過ごしてきた。それゆえか、床のどこを踏めばどのようにな音が響くかをなんとなくわかるようだ」
「へぇ…。こんな試合の最中にそれを判別できているってことかい?」
「明確な判別など…つかん。だが、その炎をまともに見て視野がおかしくなっている今は、目に頼るよりは耳で感じた方が集中力も上がっているようでな?判るのよ。それに、そなたのその人の足ではない…鋭い爪と硬い甲羅のような鱗がある足では地面と違ってかすかな音でも良く響く」
「っははは。確かに、こんな板間での試合なんて…あんまりしないからね。そこまでは気にして無かったよ」
面白いことを聞いたと、笑う華鈴。対峙するのを一旦やめると、ドシンドシンとそこいらを歩き始めた。
ミシミシと音をたてる床。キュッキュッと音を鳴らす足。新三郎が立ち位置を変えようと、歩いたがまったく音はしない。
「ははは。こんな単純なからくりがあったのか…。まったく面白いねぇ」
「人と人の試合ならば、正々堂々の試合は己の技量による勝敗となる。けれども、そなたのような者…妖怪などとの試合などしたことがないのでな。敵に回したら、それが如何に厄介かと以前より思っていたのよ。単純に人の強さとは比較にならんその身体。中には、尻尾の他にも羽のある者までいるのだ。どんな戦いをしてくるか…想像も及ばぬだろうとな。どうしたら対等に戦い、有利に動くことができるのか?とな」
「だから、道場内での試合と言ったのかい」
「そうだ。道場主との試合ならば中での試合と言って不審と思うものは居らぬからな。その上でどう戦うか…。試合うからには負けるわけにはいかぬ。剣客であるからには、勝たねばならぬ」
この道場の看板は意地でも守り通すと、固い意思を持って言い切った。
「っく…は、ははははは!!はっはっは…面白い!面白いよアンタ!基より妖怪と人は違うから、いろいろと考えていたなんてなぁ。本当に面白い。じゃぁ…もっといろいろヤリあってみたいねぇ」
ゆらりと構えるその姿。後ろの炎は、ますます盛んに立ち上がっている。
最初に向かい合った時よりも轟々と、その炎が盛って天井が燃えているようにも見える。新三郎から華鈴を見れば…その炎が、こちら側を影のように暗く見せその表情は見えない。今にも飛び掛らんとするかのように構え、その口元は笑うように歪んで見えた。
炎を見まいとする狭い視界の中、瞬きをした途端、腕を振り上げて一気に踏み込んできた。釣られるようにそれを迎え撃とうと木刀を振るが…
新三郎が木刀を繰り出そうとした瞬間に、華鈴は木刀を放りだし懐に肉厚した。そして、腕を掴む。一気に足払いをしながら掴んだ腕を引き、そのまま放るかのような動きをした。
体勢を崩した新三郎は、大またで転ばないように地団太を踏みながらも、なんとか華鈴の手を振り解こうとした。…が掴む力は強く、そのままガラ空きになった身体の腹に華鈴の腰を入れられて、そのまま投げられてしまった。
道場に、大きな音が響き渡った。
「くっ…あっ…」
新三郎は、なんとか受身を取れたのだが、背中の痛みとしびれですぐに起き上がれそうも無い。
「アンタぁ…降参かい?」
転がった新三郎を見て、そのまま押さえつけようと跨る華鈴。苦痛に歪む新三郎を見て、小首を傾げながらニヤリと笑った。
「くっ…誰が!」
何とか、力を入れようとする新三郎。そんな新三郎の目に、突然赤いモノが映った。
ちゅ…
ふさがれる口。
何がおきたのかと、視線を滑らせると…。華鈴のあの勝気な瞳がすぐそばで笑っていた。
「…っ!……っぷはっ!!……一体何を?!」
「アンタぁ?……アンタぁ………アタシね…好き」
「え?…え?…え?…何を?」
「決まってるじゃァないか。今口付けしてるアンタのことだよぅ…ん…」
「んっ?!」
「…んっ…ちゅ……」
浅い口づけをすると新三郎の顔を眺めるようにゆっくりと唇を放した。
「はぁぁぁ…アンタぁ……イイよぉ?すきよぉ………ちゅ……」
「ちゅ…うぁ…ま、まて……なんだ?ち、ちが……ぅ」
何がおきたのか混乱する新三郎。
「ふ、ふふふ♪ はははっ♪ もう…アタシの心はアンタのものだァ……。だから……アタシのこの身もアンタのモノにぃしておくれよォ……んっちゅぅ」
ここには新三郎と華鈴の二人だけしかいないかのように、口づけを始めてしまった華鈴。
新三郎も、抑え込もうとする華鈴の絞めを解こうともがくが…がっちりと押さえつけられてどうこうできるものではなかった。
「ダメだよぉ。これから、アンタとアタシは男と女の関係になるんだ。ヤル気のアタシを振りほどこうなんて無粋だよぅ」
「ま、待て!何をしている?勝負はどうなったというのだ?!男と女?なんでそうなったのだ?私は、会ったばかりのそなたのことを何も知らぬのだぞ?!」
「知らぬ?…いいや。アタシは知ってるよぉ…アンタはぁ、アタシをワクワクさせてくれる。それだけで十分じゃないかぁ。アタシはねぇ?そんなアンタにもぅ…ココロがこんなにも……しびれちゃってるのさぁ♪ だから…アンタァ、好きぃ…むちゅぅ!」
「コラッ!……っ…ん……はなれっ」
放れるどころか、新三郎の額にこつんと自らの額をくっつけて、囁くようにその胸のうちを語りだした。
「放れないよ、アタシは…んちゅっ。アタシはアンタに決めたのさ。アンタぁ?…アンタとやっているとねぇ?心がね?こんなにもワクワクしてくるんだぁ。ほら、こんなにも愉しいんだぁ。こんな風に思えたのは初めてよぉ。勝敗?勝負なんてそんなものはいつでも出来るじゃないかよぉ。アンタとここにいる今が、愉しくってしかたがないのさぁ。アタシはねぇ?どっかの鈍間みたいに勝負の決着つけてからなんてどうでもいい。今が、イイか愉しいかそうでないかそれだけなんだよぉ。だって考えてもみてくれよ?勝負して勝敗が決まっちまったら相手はどっかに逃げちまうかもしれないんだぜ?そんな勿体無いことできないよぉ。だからアンタ?いまここで、アタシの物となっとくれよ。代わりにアンタにメロメロになったアタシをあげるからさぁ」
その胸板に口づけをしだした華鈴。
未だ、何が起きているのか頭が回っていない新三郎は華鈴にされるがままとなっている。
なんとか、やめさせようと押しのけようとするが…あの厳つい大きな手で押さえつけられているのだ。とても敵いそうもないと思っていても、押しのけずにはいられなかった。
「どっかの鈍間ですって?」
片隅で見守っていた志保が、自分のことを言われていることに気が付いて声を上げたのが聞こえた。
「アンタぁ。そんな風にアタシを押しのけようとしないでおくれよぉ。好きなんだよぉ。ココロに火が宿っちまってね?今もこう…じりじりと焦がして行くのさぁ。アンタが欲しいのぉ。アンタの心にもアタシの火を灯しておくれよぅ!」
新三郎の手を取るとやわらかな膨らみの間へと誘った。
「そなたとはさっき会ったばかりではないか!それで好き?莫迦な!そなたの本当の目的はなんなのだ?私を慕うことが本心ではあるまい!言っておったな?道場の看板が欲しいと!この道場は私にとって私そのものと言って過言ではない。剣の道しか知らん私にとって師より受け継いだ剣術。いままで剣のみに磨いたこの年月、ここを受け継ぐことの出来たその誉れ!貴様のような輩に奪われてなるものか!」
新三郎は、必死になって振りほどこうともがいた。
「違うっ、違うんだよ!違う!!アタシが本当に欲しいのは、アンタという男なんだよぉ!手合わせをしてもらってアンタという男の強さにうれしくなっちまったのさ。それと同時にわくわくしてきちまった。試合ううちにそれはどんどん心の中で熱くなってきて…アンタがいい男に見えてきた。アタシの前で真剣に試合ういい男…そんなアンタに惚れたのさ!わかんないかい?」
「…わからん。そもそも、勝ち負けはどうなる?」
「だからぁ、今のアタシにとってそんなことはどうでもいいのさぁ。だからさぁ、アンタぁアタシにその身ィ任せてよぉ♪ 」
そんな時、鋭い声が華鈴に飛んだ。
「お待ちなさい!火トカゲ!勝敗はどうなるのです!決着を!!決着もつかぬまま男を欲するなど…あなたは、種の繁栄ということについてどう考えているのですか!?」
勝負そっちのけで盛りのついた雌のようになってしまった華鈴に、志保はその決着を強く望んだ。
「アンタァ?煩いのは放っておいて…ほらぁ…力を抜いてぇ」
華鈴は未だ動けない新三郎の上体を抱こうと、着物の中にゆっくりとその手を入れていく
「ほらぁ…腰に手が回らないじゃないのさ。腕を緩めて」
抱きつかれないようにイヤイヤをする新三郎。それを見た華鈴は抱きつくのをやめ今度はくすぐり始めた。
「だめっ…やめっ…ひゃ!ひゃはははは。くすぐったい!!」
「ほらほらぁ、そんなに意固地になってると…こうやってこの鋭い爪先で…キュッとね♪ 」
華鈴の鋭い爪先が、新三郎の乳首を摘み上げた。
「うはっ?!やめてくれ!そんなところを摘むな!」
「ふふふ、かわいいね。そんなにうれしがってもらうと、どんどんイタズラをしたくなってくるじゃないのさ!」
そんな時、バンバンと床を叩く者がいた。志保である。
「コラッ!この雌トカゲ!何を盛っているのですか!!お聞きなさい!」
散々無視されたせいかその声は、怒気をはらんでいる。
「…何?アンタ?さっきから煩いよ?…勝負かぁ…そんなのどうでもいい。今はこの男とこうして乳繰り合いたいだけだよ。邪魔、しないでくれるか?…種の繁栄?知ったこっちゃないね。そんなどうでもいいことより、気に入った男をものにする方がどれだけ重要か、アンタにはわからないのかい?」
新三郎の身体をなんとか抱えると、その大きな手でさも大事そうに背中と頭を撫で回す華鈴。
「なにを言うのですか!われ等はもっともっとその血を強いものにしていきたいがこそ、強い男を求めるのです。あなた方は違うと言うのですか?火トカゲとは、種の繁栄よりも己の感情のまま男を襲うと言うのですか?それでは、そこら辺にいる淫魔と同じではないですか!」
志保の鋭い声に、一瞬だけ華鈴の力が弱まった隙を見逃さず、袴の帯を解いてその懐から逃げ出す新三郎。
逃げ出す新三郎を逃すものかと布を掴むが…後には袴だけが残された。
「同じじゃないさ。戦って気に入った奴を相手に選んで何が悪い?自分よりも劣っているならば、っしょに鍛えあって強くすりゃいいんだよ!…っちょ!アンタどこ行くのさ!」
「元は同じ種として恥ずかしい。強い男に、身も心も惚れてこそすべてを賭そうと思うのではないのですか?」
「そんなの知らない。アンタみたいな分からず屋なんてどうでもいいんだ!今、アタシが求めているのはソイツなんだ!だから…」
「いいえ!今ここできっぱり言わないと済まないようなので、この際はっきりとあなたに申しておきます!」
二人が固唾をのんで見守っていると、言い合っている合間に志保は片手を後ろに回して、そっと払うような合図をした。
今のうちに逃げろということか?
正之助は、志保の意図に頷き新三郎を連れて、言い争っているを傍目に…そっと道場を抜け出した。
「逃げろとのことだ」
「よしならば…華鈴から逃げられるところがいい」
「そんなところあるのか?」
「…特に思いつかん。だが、しばらく逃げ続ければ頭を冷やすだろうさ」
「そうだといいが…」
一抹の不安を残しながらも、静かに道場を飛び出した。
道場の門を出ると、いそいそと夕暮れ時の街へと走り行く。
長く伸びた影を引き連れながら二人は行く。街中は、家路へと急ぐ者。夕餉を食べ終わりゆっくりと散歩を楽しむ者などが往来を行く。
片隅の開けはなたれた居酒屋からは、明るい灯の光と客の笑い声で満ちていた。
酒が入って騒ぐ声が、街中を走る二人の耳にも入ってきた。
「一杯、やっていくか?」
「いや、ここでは追ってきた時に、すぐばれてしまうのではないか?」
「そうだな。ならば…」
「とにかく、もっと道場から離れなければ!」
「では、花街の方でも行くか」
たくさんの人が集う花街。
ところどころからは、三味線や太鼓の音が聞こえてきては気分を盛り上げる。
身なりを整えた伊達男達や華やかな着物を身に包んだ女たちが練り歩く
人である者。ない者。笑い声の尽きない街中はいつまでもその時が続くように思える。
「この中に紛れ込んでしまえばこっちのものだ」
「そうだな。これだけの人だ。人と妖怪の混ざり合う街の中では、いくらなんでもすぐに見つけられるわけもあるまい」
「そうだ。如何に鋭い感覚を持っているとはいえ、すぐにはわからないはず」
「正之助?志保さんで試したことがあるのか?」
「無い。いつも…どこかへと行くときは二人で行くしな。行き先で、相手を見失うなどということは無い。志保とて武士。互いの気配くらいわかるものさ」
「そうだったな。だが、これほどの人の坩堝であるならば…あるいは」
人も妖怪も楽しげに歩むさまは目にも微笑ましい。
だが、そんな様子を眺めている暇はないのだ。志保が華鈴を引きとめている間になんとしても逃げなくてはならない。
そんな人ごみの中を、二人は早足で通り抜けていく。…と、そんな時誰かに呼び止められた。
「田崎様?田崎様ではありませんか!」
声の方を見れば、いつかの商人…藍屋こと葵田又右衛門が番頭を連れ添っているのが見えた。
「藍屋殿。お久しぶりですな」
「はい。田崎様もお元気そうで!」
「新三郎?こちらの方は、藍屋という呉服問屋の主でな?俺と志保が、まぁ夫婦になるきっかけでもあるお人なのだ」
恰幅の良い初老の商人に、挨拶をした。
「そうなのか。お初にお目にかかります。…私は村上 新三郎。この街の片隅で道場をやっております。この正之助とは同門。もし、剣を習いたいと仰る者がおりますならば、いつでも門を叩いてくだされ」
「そうでございますか!田崎様のご同門。ならば…相当お強いのでしょうなぁ?」
「いえ、それほどでも…ありませぬよ」
「いいえ、わたくしはそれで一度助けていただいています。相手にてまえを殺す気がなかったとはいえ、あのときの恐怖は今も思い出すだけで鳥肌が立つほどです。それだけの恐怖を味あわせた相手をいとも容易く倒し、あろうことか嫁にまでしてしまったのですから!」
途端に正之助が苦笑したような顔をした。
「藍屋殿。その話は…」
「おっと、申し訳ありませんな。田崎様」
「それにしても、藍屋殿。こんな時間にこのようなところでどうしたのですか?寄り合いでもあるのですか?」
「っははは。いやいや違いますよ。なんといいますか…」
藍屋は何故か言葉を濁した。
「 ? 」
「ははは。そうだ!もしよろしければ…今宵ご一緒しませんか?」
「一緒?」
「はい。実は…。てまえ、年甲斐も無く女郎遊びをしておりましてな?今、とある店の太夫との遊びに興じているのですよ」
「太夫?!」
「これまで何度となく足しげく通っているのですが…今宵ようやく酒の席を設けていただけるようになりましてな?折角ですので、命の恩人である田崎様もご一緒にどうか?と、思いまして…。もちろん、そこの村上様もご一緒にいかがでしょうか?」
「よろしいので?」
「はい、是非に。てまえのような年寄りよりあなた方のような若人が居った方が、場も華やぐというもの。…されど、お気をつけなされ?太夫は男を魅了してしまう妖怪そのもの。惚れ、惚れられてもだれも止めることはできない。入れ込むのはほどほどにしませんとなぁ?」
「藍屋殿が一番怪しい。妖怪の魅了に取り憑かれているからこそ、こうして足繁く通っているのでしょう?」
「はははは、確かに。女房がいても愉しい女遊びはやめられぬもの…。まぁとにかく、行きましょう」
上機嫌な藍屋と、逃げるため一時でも身を隠すところがあれば…っと二人はそれについていった。
花街にある一軒の女郎屋。
その二階。奥座敷にて…
見事な金屏風や漆器の数々。ふかふかの座布団。座敷の一番奥にその女性が座していた。
隣には禿なのか、赤い着物を纏ったかわいらしい少女が座っていた。
「今宵は、ほんにようお越しくださいました」
きりりとした表情の中に水仙のような麗しさを持ったそのヒトは、確かに人外の美貌をもって微笑んでいた。
藍屋殿の満足げな口上や紹介に耳を傾けるふたり。
正之助は、志保とは違った美しさに心奪われ、新三郎はその優雅で優美な立ち振る舞いに目を見張った。
これぞ、男を立てる女ともいえる太夫。華鈴のあの男勝りでざっぱな様子と比べられぬその振る舞いにうっとりとしていた。
淑やかな中に強さを感じるなでしこのような…どこか武家の女子を感じさせる太夫。
南国の色鮮やかで華々しい花を思わせる華鈴。その美貌は、やはり人と比べるまでも無いのだが…。
太夫に酒を勧められ、赤面してしまうほど緊張している様子の彼はその美のヒトを見ながら、自分の理想の女性とは?と思いを馳せる新三郎。
正之助とて、太夫などという華の世界の頂点に立っているような女の接待を受けたことはないのだ。鼻の下はいくらでも伸びるというもの。
そんな、初々しい若者の様子に座は盛り上がる。
男を誘うその美貌と手練手管に心奪われながら、誘いに答え杯を呷る二人。
ほろ酔い気分になっている時であった…
下の階が騒がしくなった。
何かを言い争う声が聞こえてくる。
耳を澄ませば…
どこかで聞いた女の怒号。怒鳴り散らす声がこの二階の座敷まで聞こえてきた。
「…なんでしょう?こんな廓で…。どうやら、女の声のようですが?遊女の出す声ではありませんな」
折角の酒の座に騒ぎが持ち込まれたと、機嫌を悪くする藍屋。
「藍屋さん?あの声には、どこか…そう…、自分の男を捜し求めるようなそんな想いが現れているように聞こえますよ?」
なぜか楽しそうな太夫。
押し問答でもしているのか、だんだんと騒ぎが近づいてくる。
騒ぎを聞きつけて、座敷の障子を開けてみると…
外が異様に明るかった。
下の中庭にまるで篝火でも焚いているような明かりが…
正之助と新三郎は恐る恐る下を覗いた。
「アンタぁ…そこにいたねぇ。どぉしていなくなっちまったんだい?こんなにも好きだって言っているのに。さぁ、はやく戻ってさっきの続きをやろうじゃないかよぅ。見ておくれよぉ。アタシのしっぽ、こんなにも燃え盛っちまって!これはねぇ?アンタを求めるアタシの心の叫びなんだ。どこにいてもアンタにこれが見えるように、こうゴウゴウと燃え盛ってるのさ。アンタァ…好きよぉ…どこにいるのぉ…ってさ。だから、アンタァ…好きなの。堪らないのさァ。アンタを慕って求めて求めたくて仕方が無いのさ。アンタァ…はやくヤろうよぉ。アタシの胸の中にはやくおいでよぅ」
期待に満ち満ちた声で華鈴は呼びかける。その後ろに志保がいた。
「正之助様?正之助様!そこにおいでなのですか?志保です。あなた様を慕っている妻はここにいますぞ?正之助様。ここは…廓?……この志保という者がありながら、このような、いかがわしいところに何故いるのですか…?」
華鈴とは反対に、志保のその声は悲しむように沈んだ声をしていた。
新三郎と正之助は外をまともに見ることができずに顔を見合わせた。
二人の女達は店の者達に抑えられながら、身を乗り出すように部屋を見上げて呼びかける。
「アンタぁ…好きよぉ…。だから、そこでじっとしてるんだょう?そこで待ってなァ。すぐ、すぐに迎えに行くからなァ?」
「正之助様?そんなところで何をなさっているのですか?…そこにいるのは…淫魔?。…正之助様!!わたくしという者がおりながら淫魔などと酒を酌み交わしているのですか?…あああ、なんということでしょう。わたくしがいないのをいいことに羽を伸ばしておいでなのですか?……正之助様!!そこで待っていてくださいまし!いますぐにその真意!しかと聞かせていただきましょう!!」
そういうと、我先に店の中へと乗り込んでいく。ドタドタという音が二人のいる部屋にまで聞こえてきた。
それを聞いた二人は飛び上がった。
「まずい!まずいまずい!!くる!華鈴が来る!あの獲物を見つけたような目つきっ!私は知らぬ女子と、肌を合わせるつもりなど無い!無いのだ!!望まぬ床入り…女子に手篭めにされるなどまっらだ!…正之助すまぬっ!私はここで失礼する!太夫殿、藍屋殿まことに不躾ながらこれにて失礼つかまつる。今日の無礼の詫びはまた日を改めてということに…っ?!来たっ!来たっ!!」
「何を言う貴様!一人で逃げるだと?!俺だって志保は好きだ。だが、この太夫というお人といるこの状況!マズ…マズイ!!新三郎っ!俺も逃げるぞ!」
「あらあら、ふふふ。お二人ともいいヒトがいるのね?うらやましいわ。でも、嫉妬させちゃダメでしょう?あんなにもあなたに焦がれているのですものね。お気張りあそばせ?妖がその気になったならば、当分は寝かせてくれぬもの。その浮気な心を自分だけのものにするためにどんな手段をも辞さないでしょう」
逃げ出した二人の背にその言葉が突き刺さった。
ふたりは、大きな足音に追われるように屋根へと飛び出した。
屋根を伝って、店の裏に降りた。外へと通じる裏戸を出ようとしたとき、悲鳴のような怒号のような声が聞こえてきた。
「アンタァ!どこぉぉぉ!!待ってろって言ったろうがァァァ!!こんなにも好きって言ってんのに、なんでわかってくれないんだよぅぅぅ!!」
強く強く想う心のまま叫ぶ華鈴。
「正之助様?正之助様!!…この杯。…なんてことでしょう。やはり、淫魔などと一緒に酒を…」
悲しみにくれた志保の声
「正之助様!弁明をせずに逃げ出したこと…志保は決意いたしました!必ずや…必ずや、その身の程を懲らしめてやりまする!!」
後ろから聞こえてくるその声に、震え上がりながら裏道に飛び出した。そこは、川へと通じる道であったためすぐに駆け出した。
二人は、泊めてあった舟を見つけるとそれに飛び乗り、川へ漕ぎ出した。
本気になって追いかけ始めたふたりの女の闘気が、逃走者の背を突き刺そうとするように追ってくる。
「正之助っ!早くしろ!火があの炎が近づいているぞ!」
「わかっている!俺だって今はこの身が危ないのだ!とにかく急ぐぞ!!」
慣れない手つきで艪を漕いでく。
ゆっくりと、岸が離れ…次第に街の景色も変わっていった。
だが…、はっきりと見える。
華鈴の纏う、その炎。遠く離れたというのに二人の目にもはっきりと…。天高く夜目にもはっきりと見えた。
「…志保が…。志保が…あんなに怖かったとは…。華鈴のように炎は出てなかったが…身に纏うあの気は?…あんなに怖かったとは」
「華鈴…頭を冷やすどころではない。道場にいた時よりも…もっと、もっとすごい気を放っていたぞ?なぁ、正之助?沙羅漫蛇という者は…蜥蜴人とはなんなのだ?あんなにも執拗に執念深い生き物なのか?あれではまるで蛇のようではないか!」
二人の男は、己の犯した間違いに気がついてがっくりとうな垂れた。
もう追って来ないだろうと、川の流れに乗ってゆっくりと艪を漕いでいたときだった。
彼方に見えた“火”が明るくなったように見えた。
時間が経つにつれ明るくなる。
「正之助?!あの火!あの火は?!」
「…追ってきたのか?まさか…追って来ているというのか?!」
「早くしろ!なんだか早いぞ?!」
「あ、ああ!」
その“火”は明らかに近づいて来ていた。
数刻前…とある船頭の身に災難が降りかかった。
それは…例のふたりの女である。
煙草を呑みながら、船宿の人を待っているときであった。突然、辺りが騒がしくなった。
目の前が昼間のように明るくなったと思ったら、突然妖怪が胸倉を掴んで言ったのだ。
『舟を出しな!さもないと、アタシのこの火で火あぶりにしちまうよ!!』
怒気をはらんだその声に気おされて、頷くしかなかった船頭は荒ぶるオンナ二人を乗せ舟を漕ぎ出した。
さすがの本職。巧みな操船とはやく逃げ出したい一心でふたりの目標へと漕いで行った。
遥か向こう。暗闇にまぎれて一艘の舟が見えてきた。
はしゃぐ女達。船頭は、向こうの舟が素人であることを見て取った。艪を漕ぐ者の体が不慣れに揺れていたからだ。
早く逃げ出したい一心で、追う。女は、舟を近づけろと言う。捕まえて躾けると凄みを帯びた声で言い放つのが怖くて仕方が無かった。
この辺りの川のことは良く知っていた。ここら辺りは、川の深さが突然変わる場所。うまく追い込めば簡単に座礁させることが出来るだろう。
だんだんと近づく相手の舟に歓声をあげる女を尻目に、向こうの舟に乗っている男二人の狼狽振りを気の毒に思いながら舟を寄せていく。そんな時に、待ちに待ったその音が聞こえた。
がりがりと船底をこすり合わせる音だ。
向こうの男達は衝撃で浅瀬に落ちたのが見えた。
それを見て、女達は意気揚々と川の中に飛び込んでいく。
当然、船頭はこれからさも恐ろしい出来事が、ここで行われのであろうと思い、狼狽と助けを求める男の声を背に逃げ出した。
「逃げろぉぉ!」
そこは完全な中洲。逃げられるところなどどこにも無かった。
「どこに逃げろというのか!!」
ぬかるみに足を取られながら、辺りを見回す。
後ろからは、黙々と女達の足音だけが聞こえてきた。
正之助は、もう一度舟を動かそうと走った。
ゆっくりとした志保の歩み。それを感じながら無駄な足掻きに興じる。
船首を押している時に、背後に気配が…
振り向くと、志保は袖で顔を隠しながら言った。
「正之助…さま?あなた様は、この志保の心根を知っているというのに…遊郭にて淫魔と杯を酌み交わしていたのですか?志保よりも淫魔の方がいいとっ……いいと…言うのですか…?」
袖の下から現れたその顔。志保の瞳がゆっくりと潤い、涙となってその頬を流れた。そんな志保に正之助は狼狽した。
「ちっ、ちがう!違うぞ!志保!!俺が好いているのは志保のみ。俺には志保しかおらぬのだ!だから、あそこにいた者と酒を酌み交わすといったようなことは決して、そう!決してっ!決してしておらぬのだ!ああ、志保よ!泣かないでくれ!俺はおまえに泣かれたらどうしたらいいのかわからなくなってしまうではないかっ!」
うろたえながら、正之助は志保に駆け寄ってその身を抱きしめる。
「本当ですか?」
「本当だ!この心に一片の曇りも無い!」
「…ほっ。…それを聞いてわたくし、胸のつかえが取れたように思いまする」
涙を流しながら気丈に微笑む志保。そんな様子に胸を撫で下ろすように息を吐きながら正之助は言った。
「そうかァ…。分かってくれたか…。そなたが我等を逃がすために作ってくれた貴重な時を、そのようなことに使うはずもなかろう?俺が心から好いているのは志保!そなただけなのだ。だから、」
志保への想いを込めた説得をわかってくれたようでほっと、安堵のため息を洩らす正之助だが…。
「はい。正之助様はわたくしの…良人。我が殿。そして、廓などの他の女子に手を出すこと無き方。さぁ、正之助様?あなた様の…お心。志保のことを慕っているという証、わたくし達が真の夫婦であるという証をすぐくださりませ!」
その顔を見れば、いつのまにやら涙は消え、期待に満ち満ちた顔をしていた。
「は?」
証?なんのことだ?
「如何なさいましたか?あなたさまのお心、わたくし達が夫婦であるというその証。今までも、何度となくくれたではないですか。それを、今すぐここで見せてくださいまし♪ 」
「…今、ここで?」
「さぁ、正之助様?夜はまだまだ長うございますよ?志保の準備はもうとうに出来ております。もう待ちきれぬのです。さぁ…こちらへ」
がっちりと正之助の身を掴むと、志保は動かなくなった舟の中へとグイグイと引き込んでいったのだった…
「志保をあなた様色にすべて染めてくださいまし!」
帯を取り、着物の胸元を肌蹴させ正之助に馬乗りになると甘えた声で言う。
「まさの…すけ様…。胸を見てくださいまし。わたくしの心は…いまのいままで正之助様とあの淫魔との間になにがあったのか…と、ずっと悋気(嫉妬)していたのです。それゆえ、心に硬いものがつかえて…ほら、このように…もうかたくなってしまっているのです」
志保の形のいい乳房。その先…赤くなった乳首はもう触れなくてもかちかちになっていているのがわかった。
「まさのすけ…様。そのちからづよい双手でいつものように、もみほぐしてくださいまし」
「…こうか?」
掴み上げるように、その胸を揉む。
「あぁ…んっ………もっとぉ……もっとつよく!」
「こうだな?」
「ひゅぅ…うんはぁぁぁぁぁ…ああ…ああぁぁぁ…もっとぉ…もっとぉ…続けてくださいましぃぃぃ」
「しほぉ。おまえの胸…ぐねぐねだぞ。いつもより、あつくて手に心地よい」
「で、ではぁぁぁ、もっとぉ…もっとぉ…ぐねぐねとしてぇぇ、このムネにむちゅうになってくださいましぃぃぃ」
カチカチになった乳首を抓るように揉んでやる。そのたびに甲高い声を上げる。
「コリコリとしておるぞ?こんなにしてしまいおって!悋気?そんなにも亭主のことが信じられんのか!はしたない!」
「ふぁあっああああっああああ!も、もうしわけっ…ありませぬぅぅぅ。ん!ふぅぅぅぅん」
乳首を責める正之助だが、胸全体で感じたいのか正之助の手のひらごと大きな手のひらで包むとそのまま揉みだした志保。
「ふぅぅぅん。あん…正之助様のお手が…お手が…あ、熱いのですぅぅぅ。しほ、しほの…むねがとろけてしまいそうですぅぅぅ」
ぐねぐねと形を変えるその胸。甲高い嬌声を上げ続ける志保に、いつしかイタズラ心が芽生える正之助。
「志保。大事な夫を差し置いて、自分の感じるところばかりいじくり遊ぶなどどんな了見だ?そんなおまえにはきっちりと罰を与えねばならん」
「罰?正之助様が悋気してしまうようなはしたない妻にお情けをくれるというのですか?…正之助様ァ…志保はどんな罰をも喜んでお受けしまする」
喜んで?罰を喜ぶのか?と、正之助は小首を傾げた。まぁ、言ったからにはやってやらねばならないと、思いついたことを言った。
「志保!四つんばいになるのだ!犬のように、獣のように!躾てやらねばならん!」
「はい、はいぃぃ。正之助さまぁ…すべてをまさのすけさま色にぃぃ♪ 」
四つんばいになった志保を見て、どうしようかと思い悩む正之助。
「…尻を突き出せ!そなたがどれほど、いやらしいかこの目で鼻で口で耳で手で存分に確かめてやろう」
「まさのすけさまァ。いやらしい妻の痴態、存分に味わってくださいませ♪ 」
華鈴の炎に弱く照らされたその体は、深い陰影を伴っていていつもに増していやらしく見えた。
彼女の身体の丸みが心をざわめかせた。
覆いかぶるように腹を背に付け胸を揉む。
「志保。俺のおまえの胸の遊び方はこうだ!」
まるで牛の乳絞りのようにぐにぐにと揉んでいく様に、嬌声は高くなる。
「あん!ああっ!!まさのすけさま、そんなにっ!あぁん…うんっ…されたらっ……はぁん…ちちが……あん…ちちがでて…ひゃん…しまいまするぅぅぅ……いっ…あはっ……うん…ィィン」
「子を成す前に乳がでるだと?……そうなったら…この俺が飲んでやろう。……そらっ……子はまだか?と叱りながらな」
「ひゃん。あぅ…あああっ…あああん。まさのすけさまにお叱り…♪ わたくし、いつでも叱られまする♪ ですから、お叱りで喜んでしまうしほにぃぃ、熱い子種を。熱い子種をしほに射ち込んで懲らしめてくださいましぃぃぃ♪ 」
叱りで喜ぶ?そんな声に困惑しながら、肌を密着していたからかもう自身の逸物が我慢できない。
「わかった。志保?おまえに叱りの杭を打ち込んでやろう。だから、もっと尻を高く上げるのだ!」
「こ、こうですか?」
一旦身体を放して、志保のそこがどうなっているかを確かめると…
そこは、蜜つぼのようにとろりとした液を垂れ流していた。それは、足を伝い下に水溜りを作っていた。
「すんすんすん。ああ、おまえのおまんこ。おまえの匂いが…。おまえのこの蜜…ん?もうこんなにも流れてしまっているではないか!胸を揉まれただけでここまでビショビショになるものか?いや、そうではあるまい!志保!これは仕置きと言ったではないか!夫が胸の責めを施しておる間、何をしておったのだ!!」
「なにもなにもしてはいりませぬ!」
「ほんとうか?ならば、この尻尾が濡れているのは何故だ?」
正之助は、しっぽについたその液を舐めてから、おまんこから滲み出る蜜を舐め啜った。
「ずっずっ…。志保!俺が胸を責めておる間、このしっぽでおのれの蜜つぼを慰めておったな?恥を知れ!」
「ひゃぁぁぁ!!そんなにっ…ああん。啜られてっ…そんなぁ」
「慰めておったのだなぁ?」
「慰めておりました!だって…だって…まさのすけさまのおちんぽが、しほのしっぽの根元にあたって…あたって…待ち遠しかったのですもの!」
「そうかぁ…。ならば、こんなにいやらしい蜜つぼには栓をせんとなぁ!それ、ほしがっていた杭をいますぐにでもせんと折角の蜜が零れ落ちてしまう!」
その瞬間に、猛った逸物を前戯もなしで捻じ込んだ。
「ひゃっぁぁぁぁ!!い、いきなりぃぃぃ♪ 」
中は、もうたっぷりの愛液で濡れていて、このままうごいてもその具合はよさそうだった。
つきたて餅のようにしなやかな尻に手をついたまましばらくその中を味わっていると、その逸物の弱点を知っているように伸縮を始め絡みつき始めた。
「くっはっ、志保!まだ動いていいなどと一言も言ってはおらんのに動きおって!」
「はぁ…はぁ…。なにも…なにもしてはおりませぬ。まさのすけ様こそ、動いて動いてくださりませ!しほは、しほはぁ…待ち遠しくて我慢できぬのです!」
「…よし!行くぞ!!」
「きゃん…あ、あ、ああっ!うごいてるぅ♪ まさのすけさまの杭がぁ、奥…奥までぇぇ」
ぎしぎしと軋む舟。
気持ちよさに顔をゆがめる正之助だが、そんな顔を叩くものがあった。
それは、志保の尻尾である。邪魔に思ったのかその先っぽを咥えたまま、腰を振るう。
「しぃほ…ひほぉぉ…ィィ…イイぞぉぉ。あっ…おまえは…はぁぁ…おまえは俺のモノ…おれのモノだぁぁぁ!」
「ひゃん、あん…イイ…いいのぉ!!しほ、しほはぁぁぁ、まさのすけさまのモノ♪ モノなのですぅぅぅ♪ 」
先っぽを咥えて尻尾を抱きかかえながらいつまでも、盛りのついたオスのように腰を振るう正之助だったが、そろそろイってしまいたかった。だが、せっかく志保と一緒に気持ちを重ねているのだ、どうしてもいっしょにイキたかった。
そんな時、尻尾の先が口から放れそうになったのを噛み直したとき、キュッとアソコの締りがよくなり、高い嬌声を上げた。
「志保ッ!志保ぉ!!そろそろっ!おまえにっ…おまえにっ…最後の仕置きをっ!!」
「まさのすけさまァァァ。しほに、しほにッ!!こだねをぉぉぉ!」
「ゆくッ…ゆくぞッ!!」
そのとき、正之助は尻尾にがぶりと噛み付いた。
「っっっ…〜〜〜〜っっっ!!!きゃふぅぅぅぅぅぅ!!」
「っっっ!!!ぐぅぅおぉぉぉぉ!!」
強烈な締め付け、子宮にたどり着いた逸物は、すべてを持っていかれるような恐怖と共に精を噴出した。
いまだ続く強烈な締め付けの中、熱いそれは迸る。
射精の感覚は、頭の天辺までを貫くような強烈なものとなって志保の身体を突き抜けていった。
締め付けは弛むことがない。いまだ続く射精に彼女のおなかはゆっくりと膨らんでいく。
時々、絶頂を感じているのかビクビクと震えるその身体を抱きしめてやりながらも、またまた逸物が滾ってきた正之助は、志保が落ち着くまで抱きしめてやるのだった。
「正之助様ァ…。これからも、もっともっと強く志保を抱きしめてくださいましね」
あの後、二回戦、三回戦と我慢できなくなった二人はもう獣として求め合った。
本来、相手を虐めるような睦み合いを良く思っていなかった正之助は、もうやめたいと思っていたが、なかなか面白かったとその時の様子を思い出して笑った。
「志保ぉ…。おれは…俺は…、おまえといっしょにいられればそれで…それでいいのだぁ」
「まさのすけ、さま…。志保は…志保は…いつまでもあなた様を信じ、お慕いしておりますぞ…」
動かなくなった舟の中で、いつまでも愛を囁きあうふたりだった。
一方、村上 新三郎と華鈴の様子はと言うと…
「アンタぁ…捕まえたよぉぉぉ。…もう、逃げられなぁぃぃぃ。うふ、うふふふふ。アンタぁぁぁ。好きぃぃぃ。うん…ちゅぅ…♪ 」
逃げ惑う新三郎に飛びつくと、我慢できないというかのようにすべての着物を剥ぎ取り、馬乗りになった華鈴。
「こ、こら!やめ!おちつけっ!!」
「これが落ち着いてられるかよぉぉぉ!アンタぁ…こんなにもアンタのこと好きになっちまったんだ。アンタのこと全部知らないともう、もうっ落ち着かないんだよう!さぁ、アンタァ。力を抜いてアタシに任せちまいなぁ。一緒に気持ちよくなろう?」
「だから、そなたなど知らんと…」
「だったら知ってよぉ。アタシのコト。アンタだったら…すべて見せちゃうんだからぁぁぁ!」
そういうと、どんな仕掛けか…ごつごつとした無骨な鱗や胸あてなどのものが消えた。
「ふふふ。アンタぁ?口で嫌がっていてもココは正直なんだねぇ♪ 」
我慢できないかのように、びくびくと震えるそこが、華鈴のことをもっと知りたいと代弁するかのようにもの語っていた。
「ち、ちがう。これは…」
「これは?アンタのチンチン、こんなにもおったっちまってるんだよ?アタシのこと知りたくないんだったらこんなにはならないよねぇ?ね、どう?ふっふふふ…ビクビクしてる。触って欲しい?どう?イヤ?…でもねぇ、アタシが触りたいんだよ!」
「うわっ!!」
大きな手のひらいっぱいで包み込まれた逸物は、ぐにぐにと解すようにもまれ続けた。
「あは、あははは。ここってこんなに硬くなるんだねぇ。おっかぁが、おっとぅに貫かれてるって言っていたのがよくわかるよぉ。アタシ、アンタのこれで貫かれるんだねぇ?…あはっあははは。待ち遠しいね。アンタも女とヤルっていうことをもう知っているのかい?それとも、このアタシが初めてだったりするのかい?初めてだったらいいねぇ。なんせ、アンタに女っていうものがアタシだけって、アタシしか知らないようになっちまうんだものなぁ。アンタ?アタシだけを見てくれな?他の女に手を出したら…拗ねてやるんだから!!」
「うわ、うわっ!そんなにむにむにと揉むなぁぁぁ!うっ…くっ…うはぁぁぁ。ダメッ!ヤメってくれぇ」
苦しそうにもがく新三郎。他人に、しかも初めての相手が訳も分からない女なのだ。嫌がっても放してくれないのだ。手篭めにされているという危機感がますます神経を過敏にした。
「カワイイよ、アンタ。感じてるんだろ?この手のひらで触られて感じてるんだろ?うれしいね。男って、このままにしておくと、精を放ってくれるんだろ?なぁアタシ、アンタの精…早く味わいたいんだよ。このまま出しちゃってくれよ。お礼はちゃんとするからさぁ♪ 」
途端に、その扱き方が変わった。指の平で形を確かめるように揉んでいたその動きは、手のひら全体で包み込むように扱き出したのだ。
「うわ、うわ、うわっ!ヤメッやめてくれぇぇぇ!くぅぅぅやめてくれぇぇぇ。うっはっダ、ダメ!」
すでに、限界まで来ていた新三郎は、我慢なんてできるはずもなく、すぐに達してしまった。
ぴゅるるるっと、華鈴の大きな手の間から吹き上がる精。
華鈴の顔を汚し胸を汚し、新三郎の腹にまでかかった。
「は、はは。うふ、うふふふ。これがアンタの精。ちゅ…ちゅる…。ああ、ああぁぁぁ…おいしいよぉ。アンタの精…こんなにも…ふぅぅぅ。極上の古酒も負けるうまさだねぇ。…ああ、こんなにも飛び散っちまって勿体無い」
荒い息をする新三郎の目の前で、ずるずると音をたてながら手についた精を啜り舐めていく華鈴。
目の前では、赤く艶やかな舌が精と涎を滴らせてくちゅくちゅといやらしい音を立て、今出したばかりの精を舐め取っているのだ。赤面しつつ、どうしてもその様子を見入ってしまう。
「ははは。アンタのこの精…どうやら極上ものみたいだね。…アタシうれしいよ♪ 」
「ぅぅぅ。おまえ…」
「アンタァ…気に入ったんだね♪ もう、そんなにもビクビクになってきたよ♪ 」
初めて自分以外の者に射精させられたその快感と艶かしく精を舐め取っていくその姿に、一度は萎えた逸物は再び元気を取り戻した。
「ふふふ。アンタァ?見ておくれよぉ…見てアタシのカラダを…」
勢いよく燃え盛る尻尾を、股の下からひっぱりだすと、その火の明かりで身体を浮き上がらせるように見せ始めた。
「うわぁ!その火、火!燃えるッ燃えるからッ向こうにやってくれ!!」
「アンタ♪ これはねぇ、燃えないんだよ?これは、アタシの力で見せているものだから、ほら…熱くない。焼けもしない。だからさぁ?今はこれでアタシの身体…じっくりと舐めるように見とくれよ。アタシのおっぱいはどのくらい大きくてどうなっているのか、アタシのおまんこはどうなっているのか?アンタを受け入れることができるようになっているのか…その目で見て確かめておくれよ!」
華鈴の女としての身体。下から見上げると火の明かりでとても美しく見えた。
やわらかい丸みを帯びたその輪郭。汗が光を帯びて光っていた。胸元を見れば、さっきの精の白濁としたものが張り付くようにゆっくりと滴り淫靡に見せていた。健康的に引き締まったお腹の曲線…。さらに下に目を移せば…生えそろってきれいな茂みが…。
炎の中に見える華鈴の股間。おまんこと呼んでいたその部分。赤い炎の中に何かが滴るように落ちていくのが見えた。
「ふあぁぁ。どう?どうなんだい?アタシの身体…見て、どう見えてるんだい?ほしくなった?さわってみたくなった?手をのばしたくなった?それとも…そのおちんぽをもう、もう、突き入れたくなっちまったかい?アタシはねぇ…アンタのそのおちんぽぅで…この中を埋めてもらいたいんだよう」
我慢できないというようにお腹を撫でる華鈴。
「見てよぉ!もうこんなにも涎をたらしてるの見えるかい?あんたのおちんぽぅを食べたい食べたいってせっついてくるんだよう。なぁ、アンタァ…いつまでおあずけにするつもりだい?」
「ゆっくり、じっくりと“見ろ”と言ったのは華鈴だろう?なら、もうすこしおあずけでもいいのかもな」
自分の逸物ももう耐え切れないほど刺激がほしくてうずうずとしているのだが、華鈴の耐えようとする表情の可愛さについ見惚れてしまっていた。
「そ、そんなぁぁぁ。殺生だよ。生殺しかい?アンタァ、お願いだよう。アンタのその逞しくなったおちんぽぅおくれよう!」
「華鈴。じゃぁその前に自らので達しているところみせてくれ。私のを見ただろう?あんな風に」
「イジワルだよぅ。そんな…そんなこと…」
「見せてみろ。無理に達せられるその心、おまえも味わってみよ。そしたら、可愛がってやる」
「ふわっ…」
我慢できなくなったのか、爪先で割れ目の付け根から豆のようなものを弄くりだした。
こねこねとこねくり回す、片手でその豆をこねまわし、もう片手では胸を弄くる。その動きはだいぶなれているようで、すぐに甘い声を洩らし始めた。ビクンビクンとその身体が跳ねる。
新三郎は、興奮のあまり…華鈴のおまんこに手を添えた。花びらのようにひくひくと震える割れ目のそれに手を押し当てて弄繰り回す。自分がやられたように絶頂を感じさせてやりたかったのだ。
「ふぁッ?!だめ、だめぇ!アンタぁ弄くっちゃダメぇ!あん…ぁっふぁぁぁん、アンタのてがぁ…おまんこをぉぉぉ」
弄くるなと言いながらも押し付けるように腰を落す華鈴。新三郎は、目の前で形をぷるぷると形を変える胸にも手を伸ばした。
「ふわっ!おっぱいにも!おっぱいにも!!アンタの、アンタの手がぁ♪ 」
「コリコリしているな」
「そ、そうだよう。そこ、そこぉいっぱいおっぱいさわってぇぇぇ!」
はぁはぁと唾を飛ばしながら乱れる華鈴。新三郎の方こそ我慢の限度だった。
この女に、この逸物を突き入れてやりたい!けれど、さっきイかされたのだからどうしても、他人の手によってイかされるということを味あわせてやりたい!それだけで頭がもんもんとしていた。
「あ、あ、あ、ん、んぁ、ぁ、ぁ、ぁん…アンタぁ…せつないよう。なか、なか、なかにィィィ…アンタァ欲しいよぉ…」
顔が熱い。火の熱さではない。顔の熱さをなんとかしようと華鈴の腹に頬を寄せた。
一瞬の冷たさの後に、べったりとした汗と顔の熱さと同し熱さが伝わってきた。
「あんたぁ…おちんぽぉ、限界なんだろう?…ん、あ、ふぁ…おくれぇ、アタシのなかにぃぃ限界になったぁおちんぽぉおくれよぉぉぉ」
その時、何かが切れた。
新三郎の心の中で、箍がはずれたように…
「華鈴!」
上に跨る華鈴を半ば強引に押し倒した。
「あんたぁ、やっと…やっとなんだね。やっとぉくれるんだねぇ」
「おまえのせいで、こんなになってしまったじゃないか!」
「あはっ♪ おおきぃ♪ あんたぁ…はやくぅぅぅ…」
燃え盛る火のせいで華鈴のあそこは丸見えだった。後から後から、蜜が滲み出ていく
「あんたぁ、や、やさしく入れるんだよぅ?あたしだって…初めてなんだからぁ」
「ほんとうか?しっぽでいたずらをしていたのではないのか?」
「…いじわるぅぅぅ。アタシだって、初めては大切な男にとっておきたかったんだからね?しっぽがあるからって奥までなんてしないよぉ」
「そうか」
盛りのついた牝トカゲかと思っていたが…初めては相手になんて言う可愛らしい女だとわかって、たまらなく愛しくなった。
「いくぞ?華鈴」
「来て、アンタ」
「…わすれるな?私の名は新三郎だ」
「新三郎。ん、でも…“アンタ”の方が呼びやすい」
「勝手にしろ」
「うん。あんたぁ…きて、しんざぶろう」
華鈴の張りのある引き締まった太もも抱えると、秘所に先をあてがいゆっくりと埋めるようにその中へと入れていく。
「ふ、うん、ぁぁぁ!あんたのが、あんたのぉ…ずっずっずって入ってくるよぅ」
「華鈴、そんなに締め付けるな!そんなにされたらはいらなっ!いっ!ちからっ…抜けっ!」
その中は、じゅうぶん濡れていた。けれども、それが太すぎたのかなかなか入っていかない。
それなのに、もう膣の中は締め付けようと伸縮を始めた。
息を整えてから、もう一度華鈴を抱きしめて逸物を突き入れていく。
それが終わったときには、華鈴の瞳に涙が…。
「しんざぶろう…あんたのおちんぽぅ…確かに感じるよう」
「かりん…。おまえのなか…熱いなぁ。融けてしまいそうだぞ」
「ほんとう?アタシぃアンタとなにもかも融けあいたいよぅ」
「かりん。可愛いことをいう。さぁ、このままずぅっとこうしていてもいいが…」
「いいけど、アタシはアンタの…しんざぶろうの精がほしい。しんざぶろう?あんたのその命、あたしにわけて?あんたのその命あたしの命に混ぜ合わしたいんだ。だから、アンタぁ。このまま動いて。んで、なにもかもどろどろになっちまおう?」
華鈴の足がゆっくりと動いて、新三郎の背を抱きかかえるように足を組んだ。
「これでもう、あたしとあんたは放れられない。どんなに激しくしたって、どんなに放そうとしたって最後までいっしょさ」
「そうか…なら、手を」
「ん♪ 新三郎」
手と手を組み合わせるふたり。笑いあい、口づけをしながらだんだんと腰を動かしていった。
途端に、とろとろに熱く蕩けた媚肉が逸物に絡み付いていく。
気持ちよさに歯を食いしばりながら奥へ、奥へと突きたてる。
華鈴は、もっともっと引き込もうと背をぎゅうぎゅうと締め上げてくる。手に込めるその力は痛いほどだ。
逸物を叩きつけるように抜き差しするたびに、甲高い嬌声と甘い吐息を吐き出す。
「うんはぁぁぁ!あん…あんたぁ…あんたぁ…あんたのぉがァひび、ひびいてくるのぉ」
頭に響くのか、いやいやするように頭を振る華鈴。
気がつけば彼女のしっぽも揺れているようだった。しっぽが揺れるたびに逸物のあたるところが変わるのか大きな声を上げる。
それに気がついてからは、ますます大きく腰を振るった。
「ひゅ、ひゃぁん!あっ、だ…だめ!おかしくなっちゃう!!やめっ、とめて!」
足の締め付けはもう腰が痛いほどだ。おまんこの花びらはぎゅぎゅうに逸物を放すものかと締め付ける。
獣じみた声を上げながら、二人…快楽の虜のようにお互いを貪りあった。
「も、もうだめ!だ!!か、かりん…ゆくぞッ!おまえの中にッおまえのなかにッ!すべてすべてを預ける!」
「来て!きてぇぇぇ!!も、もういつでもいいのぉ!あんたのものッ!ぜんぶなかにぃぃぃ!!」
我慢の限度という声を出して果てる二人。その声は、いつまでも辺りに響き渡っていった。
その後も、また波のようにやってきた快楽に呑まれて肌を合わせるふたり。
ぬちゃぬちゃと卑猥な音をたてながら、甘い言葉を交わしながら睦みあうのであった。
「アンタァ…好き。好きよォ…」
すがりつくように顔を寄せる華鈴。放心したまま身を任せる新三郎。
時間と共に頭が冷静になっていく。
「……は、ははっ……はっはっ…ヤっちまった…」
すりすりとほお擦りをして時々思い出しようにぺろぺろと口の中を舐める華鈴。考えもまとまらぬまま華鈴にされるがままの新三郎…。ふたりの時間は始まったばかりだった。
華鈴の激情と思慕の情念は、空を焼くほどの炎となって舞い上がった。
街から大分離れたところでの出来事だったのに、街中各所にある火の見櫓などから一時、一斉に警鐘が打ち鳴らされるといったこともあったほどだ。だが街中のことではないと知って次第にその鐘の音は消えていった。
しかし、それは人々の好奇心を呼び、瓦版の格好の餌食となって町中を駆け回っていった。
人々は田崎 正之助夫婦の再来と囃し立て、村上 新三郎と華鈴が夫婦になったことを祝い騒ぎ立てた。
そんな宣伝があったためか、その後…強い者を求めて嫁がやってくる道場とうわさが立ち、それにあやかろうという者達が是非に門下生にしてくれ!と訪れるようになった。それと共に、たくましい男を求める妖怪たちも同じようにやってくるようになった。
新三郎と華鈴で切り盛りする道場は、たちまち繁盛し評判となった。美しく強く豪快な華鈴。時に、突然発作のようにやってくる華鈴の発情と共にどこかへと消える師範を門下生達は生暖かく見守りながら…いつか自身も強く美しい妖怪と夫婦になりたいと思う者達がやってくる道場となったとさ
めでたし、めでたし…
12/06/24 23:56更新 / 茶の頃
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