連載小説
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2.錠と鍵をひとつに

「よう。今回のお勤めは大層うまい事行ったぜ」
 強面の鬼のような顔つきの男が、ほくほく顔してニヤついている
「あんたを紹介してくれたあのお頭にゃ頭が下がる思いだぜ。まさかこの街にこんなにも腕のいい型師がいたなんてよう!」
 男は懐から四角い粘土のようなモノを取り出すと、それを二つに割ってその中を覗き込んだ
「こいつのおかげで、仕事の半分は終わっちまったようなもんだったしなぁ」
 粘土の中には、複雑な形の溝があった
「あんたがあそこの大店の金蔵の鍵を模ってくれなかったら、えらいめんどくせぇことになっていたことだろうぜ」
 型師とは…盗賊一味の業師のことで、蔵にかけられている鍵を文字通り“模って”しまう。鋳物型師とも呼ばれる者だ
「じゃぁ、今度のお勤めも?」
「ああ、あそこにいた連中は俺たちの気配すらも気づかないほど眠りこけて朝を迎えたことだろうぜ」
「そうかい」
「まぁ俺たち盗人にも仁義があらぁな。犯さず殺さず貧しい者からは盗まず…。人知れずに忍び込んで頂く物は頂いてずらかる。そうして、後々になってその家の奴が気が付いても、もう…後の祭り…。こいつは言ってみれば、職人技だ。大工やら職人に名人技があるならば、盗人には盗人の名人技よ!」
「盗人の名人技か…」
「そうよ!あんたの型師としての職人技が冴えていたからこそ、それが成し遂げれたっていうもんだぜ…なぁ!飾り職の庄次郎さんよう!」

 飾り職の庄次郎…
 本職は飾り職人。だが、この男には、裏の“顔”があった
 数年前…とある店の金蔵の鍵を紛失したからと、持ち込まれた鋳物の“型”を使って鍵を作ったことがあった
 どこか大店の番頭風の男…店の名や男の素性を確かめ、仕事代と目の前に積まれた金に相手のことを信用してその依頼を受けたのだったが…
 それは、真っ赤な嘘だった。その男の本当の素性は盗人だったのだ。その店の番頭として店に入り込み、盗みの手引きをしていたのだった
 盗人と縁を持ってしまった庄次郎。できるだけ盗人との縁を持ちたくなかったが…その後、同じような仕事を頼みにやってくる者がいたために、あるお頭の下につくことにした
 殺しなどの血なまぐさいことなど、できるだけ関わりたくない。犯さず、殺さず、貧しいものからは盗まず…という掟をきっちりと守っていた盗賊のお頭の下でならば…この腕を振るっても、目を覆いたくなるような惨状はないだろうと思ってのことだった。
掟をつくり、きっちりとそれを守っていたお頭の下にいたが、お頭が老齢で引退した後は、本職の飾り職で身を立てていた
今回、その引退したお頭からどうしても顔を立ててくれと頼まれて、とある大店に忍び込むとその金蔵の錠前の穴の型を模ってきたのだった

「で、だ。これは、今度のお勤めがうまくいったことに対するお頭からの礼金だ!とっておいてくれや」
 仕事料とは別の礼だという。その金は50両くらいあるように見える
 庄次郎は迷った。これを受け取ったならば、また盗人の仲間にされてしまうのではないかと…
「遠慮することはねぇ!これは本当に礼なんだからよ!これであんたに貸しを作ろうだなんて思ってねぇよ!」
 渋る庄次郎だったが…
「これはれっきとした礼なんだ。これを受け取ったからと言って次もよろしく!…なんてぇこたぁ言わねぇよ!あんたがこの盗賊家業から抜けたいと言っていたのは俺も聞いている。だから、こいつはれっきとした礼ってことだ!んで、何かの足しにしてくんな!…ほら!ほらよぅ!とっておいてくれよぅ!な!!」
 その男は、金を掴むと無理やり手に握らせた
 庄次郎は、ため息を一つつくとこくりと頷いた
「ようし!ありがてぇ。あんたに礼を受け取ってもらったと、俺はお頭にきちんと伝えられるってもんだい。じゃぁ庄次郎さんよう。ありがとうよ!」
 そう言うと、男は帰っていった
 本当に受け取ってしまってよかったのだろうか?と、もう一度ため息をつく庄次郎だった

 盗人の仁義があるとはいえ、罪を犯しているということには変わりなく…
 罪の意識に苛まれる庄次郎だったが、自分が模った型がきちんと作られ、ましてそれが大店と呼ばれる蔵の鍵を開けることが出来たと聞くと、どこか“開ける事ができたのだ”とか“してやったり”といったような高揚感や爽快感があってわくわくしてしまうのもまた事実
 罪の意識と爽快感に板挟みさながらも、なんとなく頼まれれば引き受けてしまうのだった



 礼として受け取った金。どうするかと悩んだが、とりあえず…金の相場も上がってきているし、本職の材料の金を仕入れるために使うわせてもらうことにした
 金や銀、装飾に使う宝石などを扱っている馴染みの問屋に行く。すると、主と話し込んでいる者がいた
「ごめんよ!」
「いらっしゃい!おう、庄次郎さんじゃないか!」
「ごぶさたです。っと…先客ですか。じゃぁちっと待たせてもらいます」
 主の前には、ちいさな女の子が立っていた
 少し赤毛のその子は、親しそうに主と談笑している
「あ、お甲さん。紹介するよ!飾り職の庄次郎さんだ!」
 気が付いたように主がお甲に庄次郎を紹介する
「こちらは、錠前鍛冶師のお甲さんだ。庄次郎さん?ちいさな女の子だなんて思ったら大間違いだよ!こちらは鉱山衆なのさ」
「鉱山衆…妖怪ですかい」
 鉱山衆…大陸方面から渡来してきた一族で金銀や人の手では採掘が困難な鉱物などを採掘し見事な工芸品などを作り出す者達として名が通っていた。ドワーフとかいう種族で一見、幼い童女だが見た目に反して力強く頑丈な者としても有名であった
 小さな女の子はつぶらな瞳で庄次郎を見上げると、一言
「お甲だ。よろしくな」
「こちらこそ。庄次郎です」
 お辞儀をしたお甲…ますます小さくなったお甲に、本当にちっちゃいんだなと庄次郎は改めて思った
「このお甲さんの作る錠前は、いままで破られたことがないんで有名なんだよ。だからってごついワケでもない。丸みを帯びていて、 そう…どこか女性的で、それでいて見事な飾りをつけている。まさに宝玉のような錠前をつくるのさ」
「おいおい主さん。それは褒めすぎだよ。アタシは自分の心にあるものをきっちり作りたいだけさ。アタシの感性と美学であんなモノになるのさ!まぁ、それが宝玉のようだといわれればアタシの腕も満更でもないのだろうね。でもね、本当に大切なのは蔵の中身。それをきっちりと守り通せないようじゃ錠前鍛冶師失格だよ!」
 腕を組んでふふんと胸を反らすお甲。それに同意するように庄次郎は頷いて言った
「使い勝手や構造をとことん追及したものは、それだけで美しい形になることがあります。例えば…いい例として刀。あれは斬るということに特化したためにあのような形になったのです。そして、それで戦うからには己の魂を乗せて戦いたいという武士の心と気概、そんな武士の魂を入れるに相応しいものにしたいという職人の心意気や真心を込めた魂があったからこそあのようなものになったのでしょう。…あれこそまさに“美”ではないでしょうか?我々職人は、どんなものでも、己の“美”を信じて一つ一つ魂を込めて物を作っています。もし、それが人の心に通じるものであらば…それは職人にとって本望…だと思います」
 庄次郎は、ものづくりに対して日々思っていることを口にした。すると、お甲もうんうんと頷いていた
「まさに!まさにそうだよ!庄次郎さんと言ったね?あんたとは気が合いそうだ!!主さんよ!今日はありがとうな!こんな人を紹介してもらうなんて!とてもいい日だ!」
「それはようございました。畑は違えど同じ職人。気も合いましょう!」

「庄次郎さんと言ったね。どうだい?これからうちに来ないかい?アタシはあんたと語り合ってみたくなっちまったのさ!」
お甲はわくわくしているといった顔をして言った
「わかりやした。ちょうど暇を持て余していたところだったのです。すこしばかりお邪魔することとしましょう」
「なら、善は急げ。早速行こうじゃないか!」

 ということで、お甲の家へと行くことになった
 ちいさな体を走らせるように歩くお甲
 歩幅の大きな庄次郎は、うっかりすると置いていってしまいそうだ。なのでゆっくりと歩く
「すまないね。小さくて。歩幅を合わせてくれているんだろう?」
 大人と子供の違いに、お甲は小走りに庄次郎はゆっくりゆっくりと歩幅を小さく歩いていった



 お甲の家にたどり着くと、そこはまさに鍛冶師の作業場といったところだった
 壁際一面に木槌や金槌、ふいごの類などがある
 そんな所を通り過ぎると、母屋なのか寝泊りしているというところに案内された

「さぁやっとくれ!」
 囲炉裏の前に座ると、いきなり酒を出された
「…頂きます」
「…ん…ん……ん…ぷはぁぁぁ!!ぅんまい!」
 お甲はそう言うが、庄次郎には喉が焼け付くような酒に目を白黒させた
「……うわぁ」
「ん?うまいだろ?…だめかい?なら…水で割ってみな。そうすれば、飲めるようになるかね?」
 言われたように割ってみると飲めるようになった。それをちびちびと飲み始めた庄次郎
「お甲さん。酒と違ってこいつはきついねぇ…なんていう酒なんだい?」
「焼酎というのさ。南のほうから船でやってくるんだ。こいつは富士の山を眺めてやってくる縁起物よ!」
「…焼酎。って飲みモンだったのか…。てっきり怪我治しのモンだとばっかり思ってた」
「ははは。莫迦言っちゃぁいけないよ?怪我治しだけじゃ勿体無いだろう?南の方じゃ、酒と言ったら焼酎のことをいうのさ。ま、こ こいらあたりじゃ米の醸造酒が当たり前だから仕方がないのかもしれないけどねぇ…」
 そういって、うまそうに酒を仰ぐお甲。それを見ながらまじまじと酒を見つめる庄次郎
「…この酒は、フジのお山を拝してやってきたのか」
「そうだよ?アタシはこれが好きだからねぇ…。わざわざ、廻船持ってる酒問屋に直接頼んで仕入れているのさ。…ぷはぁ」
 ゴクゴクといい音を立てながら、うまそうに飲んでいく
「不二のお山は、別名を不死の山とも不尽の山というけれど…。俺たちの作ったモンもそれにあやかりたいところだな」
「そうだねぇ…」
「自分が作ったものがいつまでも…いつまでもずっと誰かに使ってもらえれば…って思うよな」
「それはそうだ。いつまでもいつまでも…誰かに使い続けてほしいね。そうしてもらうのが職人冥利に尽きるって言うんだよ」
 部屋を見渡すと竈の近くの壁には、何度も研いたのだろうすっかり磨耗して小さくなってしまった包丁が何本かあった。研いでは使い、研いでは使うを繰り返してきたからこそ、これらはすっかり小さくなっていったのだ
同じ職人達が作ったものであるからこそこうして、お甲は最後まで使ってやろうとしているのだろう
「まったく、そのとおりだね。俺も、作ったかんざしが親から子へと伝わっていくのを見かけるとうれしくなっちまうよ」
「ふふふ。アタシの錠前はいつまでも使われるものだからねぇ…そこらはうれしいとともにいつまで使えるか見守っていくたのしみがあるよ」
 笑顔を浮かべて酒を飲んでいくお甲に、酒を注ぎながら庄次郎は久しぶりに心意気の合う職人を見つけたことに感謝をしつつ一緒に酒を飲んでいくのだった




 なにごともなく平穏無事な日々…
 簪や小間物を作って問屋に卸す毎日
 時たまに、自分の簪をつくってほしいというお客様のためにその家にお邪魔して、要望を聞くために出向いたりしていた

 この日もそんな仕事の帰りに、ふらっとあの小さな女のところへと寄ってみることにした
 寄ってみると、仕事部屋で鉄塊を金ヤスリで削っているお甲がいた

「庄次郎?アタシは今度、井筒屋の錠前を作ることになったよ」
「井筒屋?あの材木商の?」
「ああ。名前が売れてきたからね。どんな悪い虫に狙われるかわからないってことでアタシに錠前を作ってくれって頼んできたのさ」
 井筒屋、堅実な商いをしていると評判の店で繁盛しているという話は聞いていた。材木は多くの金が動く。だからこそ、きちんとした錠前を金蔵へ…と思ったのか。お甲のつくる錠前が破られたことのないものだと知って頼んだのだろう
「そうなんだ。あそこはどんな錠前を求めているんだ?」
「ふふふ。それには答えられないな。だが…これは今のアタシにとって最高のものにするつもりだよ。頭の中にずっと温めているカラクリも使おうと考えてあるしね!普通の鍵じゃぁ絶対に開けられない。盗人に狙われようがなんだろうが…絶対に開けられないさ!」
 目の前に盗人を前にしているように不敵に笑ってそう言うお甲。庄次郎はお甲の職人魂が燃えているのだと思った
 お甲の最高傑作…己も盗人の片棒を担いでいることもある身故に、そのことを聞きたいと思う気持ちもあった。けど、職人としての心意気を通わせることの出来る数少ない友人の傑作をみすみす悪事に利用したいなどと思いもしたくない
 庄次郎は、以後このことを聞かないようにした

 真剣な顔をして、ズリズリと鉄塊を削るお甲。友の一世一代の傑作作りを部屋の片隅で見守る
 削っては、光を当てて歪みを見、また削っては見る…それの繰り返し
 今まで見たどのお甲の顔とも違う、真剣な眼差し…
 そんなお甲を思わず見入ってしまうのだった



 その日、庄次郎はお甲を訪ねていた
「おーす!いるかい?」
「お、庄次郎じゃないか!いいとこきたねぇ!これから祝い酒をやろうとしてたんだ!どうだい?一緒に!!」
「祝い酒?」
「あれが完成したんだよ!今取り付けてきたとこだ!あそこの主人のえらい喜びようったら、そりゃぁたいしたもんだったよ!」
「ほーう」
「ほらほら庄次郎!ちぃっと散らかっているが…かまぁしない!こっちにおいで!祝杯を挙げようじゃないか!!」
 小さな手がぐぃっと腕を引っ張る。ちいさくてやわらかく…あったかい手だったけれど、見た目に反してその力強さに驚いた

「じゃ!やっとくれ!」
 土間に置いてあった一抱えもある木樽。お甲の背丈と同じくらいのそれを抱えてドシンと囲炉裏の前に運ぶと、木槌でふたを割って待てないとばかりにどんぶりで飲み始めた
「ぷはぁぁぁ!!うまい!うれしいときのこの一口はイイねぇ!」
「気が早いねぇ…なにか…つまみはないのかい?」
 勝手知ったる他人の家。庄次郎は気心知れた友人の台所をあさるときゅうりを見つけた。味噌と塩もみつけたのでそれを持っていく
「きゅうりを味噌と塩で…かな?」
「おう、つまりはできたみたいだね?なら酒盛りを始めようじゃないか!」

 祝杯を挙げながら笑いあい上機嫌で飲んでいると、突然お甲がしんみりと言った

「庄次郎…アタシはね、鍵を捜し求めてんのさ」
「鍵?」
「ああ。アタシに見合った男って意味さ」
 妖怪が男を捜すというのは、よくあることと気にもとめない庄次郎だったが…
「お甲の…婿ということかい?」
「そうさ。アタシだって女さ。妖怪うんぬんじゃなくて…いっしょにいてほしいと思える男がほしいと思うのも普通だろう?」
「そうかもな…」
「で、な?」
「うん?」
 お甲を見れば、真剣な眼差しで庄次郎を見つめていた
「アタシはいま、庄次郎のことが気になって仕方がないんだ」
 自分の名が出されて、ひっくりかえったような声が出た
「え?!」
「アタシはな?庄次郎。いままでずっと職人をしてきたが…こうやって気心知れて飲み明かすことが出来るような奴は、今までいなかったのさ。アタシはあんたとならうまくいく。ウマが合うんじゃないかってそう思ってる。それに、今な?一つ悩みがあるんだ」
「……悩み?」
「ああ。世間じゃ絶対に破れない錠前をつくる錠前鍛冶師として名が通っているけど…今、行き止っているのさ。なんて言うかねぇ…一つの理想の頂点に来ちまった後に…これからどんなモノを造ろうかって悩みだ。庄次郎だったら分かるだろう?自分の魂作…満足いくのものを造った時、次に何を造ろうか?って思ったことはないかい?そんな感じだよ。これをなんとかするには、今の自分に何か違うことを…今の自分が一皮剥ける必要があるんじゃないかってね?思っているのさ」
「……」
 お甲は、庄次郎に酒を持ったまま近づくと言った
「なぁ庄次郎?アタシの心の錠を開いとくれ。開いたら…今まで以上の何かを掴み取ることが出来ると思うんだよ」
 しな垂れかかるお甲…
「お甲。俺は…」
「ダメかい?」
 囁くように…懇願するように…そう言った
 酒のせいか…お甲の顔は赤く、その瞳は潤んでいる
「…気心知れた友人だからな…お甲は。急にそういわれてもな…」
「アタシは妖怪だから気が向かないのはわかるよ。だけど…な?庄次郎。あんたのことを考えると…こう…胸の奥が痛んでくるんだよ。そして…」
「…そして?」
「……体が熱くなってきて…この辺りが苦しくなってくるのさ。閉じているものを開けてくれってさ。そして…アタシの中に大事なものを…大事なものがほしいってさ」
 庄次郎の手をとるとおなかに導いて触らせる。布越しにあたたかみが伝わってくる
「大事なもの…」
 思わずない唾を飲み込んでしまう
「たのむよ…庄次郎」
「……」
 返事が彼の口から出ることはなく…沈黙に包まれる

「まっ、すぐにどうとかは考えていないさ。だが、考えておいとくれ。でも、あんまり遅いとこっちから襲い掛かってその気にさせちまうから覚悟するんだよ?」
 冗談なのか、笑いながらドンブリの酒を一気に空けた
「……」
 妖怪がなにを欲しがるかはなんとなく知っている。だからお甲の言いたいことは分かるし、お甲のことは嫌いじゃない
 だが…庄次郎には後ろ暗いところがあるのだ。それは、盗人の片棒を担いているということ
 もし、お甲の錠前が標的になったら…俺は、どうするのだろうか?
 忍者の真似事のように、作った錠前の型を笑顔を見せながら盗み取って、盗人に渡すようなことをしてしまうのだろうか?
 今まで破られたことのない錠前。破られたと知ったならば…この豪気で、誰でも人を元気付けてくれるこの小さな女はどうなってしまうのだろうか?その明るい性格に心を開いていた庄次郎は、それを考えるとやはり…婿にという申し出は受けれなかった…

 一樽飲み干すと、お甲は上機嫌で寝入ってしまった
 よほど疲れていたのか、ドンブリを手にしたまま大の字になっている
 無防備によだれを垂らしながら、くぅくぅと寝ているのだ

「ほら…お甲。こんなところで寝ちゃダメだ」
「ん?んんん」
 完全に寝入っているのか声をかけても起きようとはしない
 仕方がなく、庄次郎は抱き上げて寝所へと連れて行くことにした
 やわらかい…。普段物を作っている姿からは想像もつかないほどその身体はやわらかくて驚いた

 布団に横たえると、お甲は庄次郎の腕を掴んだまま離さなくなってしまった
「お甲。離してくれ」
 揺するともっと強く…放れたくないと抱きしめた
「しょうじろ…アタシと…いっしょ…に」
「…寝言?…仕方がない」
 仕方がなく、庄次郎は寄り添って横になった
 赤い顔をして安らかな顔をしたお甲
 もう片方の手でその頭を撫でながら、見守る
 そのうち腕を離すだろうと様子を見ながら撫でる
 まるで本当の子供のようだと思いながら、庄次郎は頭を何度も撫でた
 そんなときだった。お甲の懐からなにか光るものが出てきた

「銀?」
 そう。白銀色のそれは銀だった。小指の先ほどの小さな塊
 だが、それはよく知っている銀ではない。仕事でよく使う銀。それとはどこか違うようだと思った
 手にとってよく見てみる…
 すこし、櫻のように桃色掛かっているように見えるような気がした
 桃色かかった銀…なんだろうか?こんな色をした銀は見たことがない
 手のひらで弄んでいると、お甲が腕を離していることに気が付いた

 腕をはずそうとした途端…
「庄次郎…鍵になっとくれぇ…」
 と、またぐぃ!と腰に抱きついたお甲。そんなお甲にびっくりしておもわず、銀を裾に入れてしまった庄次郎。
 眠っているお甲の力は弱くなんとか引き剥がすことができた
「はあぁ……じゃ、よい夢をお甲…」
 庄次郎は、お甲の寝顔に微笑みながらそこを後にした



 お甲の申し出と、あの子供のような寝顔を想い浮かべ微笑みながら歩いていると、もう二度と見たくもない男が、庄次郎の家の近くの道端で中を窺うように立っているのが見えた
 嫌な予感がした。あの強面の男に二度と会いたくもなかったが…あの金を受け取ってしまったのだ。またどこかのお店で仕事をしてくれと頼みに来たのかもしれなかった
 正直、家には近づいてほしくない
 道端の男より少しはなれたところで、すこし大きく咳をしてみた
 はっとこちらを見た男。それを確認すると、顔をあわすこともせず歩いていく
 男が声を掛けて来たのは…人通りの少ない路地に入ったときだった。

「久しぶりだなぁ…庄次郎さんよぉ」
「正直、家には来てほしくなかったんですがねぇ」
「そういうな。だからこそ、家の前辺りであんたを待っていたんじゃないか」
「それで?ご用件は?」
 そういうと、男はにやりとして言った

「いままで一度も破ることのできなかった錠前があるんだが…知っているか?」
 庄次郎はドキリとした。頭にすぐに浮かんだのは…お甲
 知らないと、首を振ってしまう
「そうなのかい?ある錠前鍛冶師が造っているんだが…コイツが厄介でねぇ。いろいろな型師が挑戦しているんだが…一度もこれを破ったことがない代物だ。そいつを今度は…庄次郎さんに頼みてぇんだ。どうだい?引き受けちゃくれねぇか?」
 庄次郎は、すこし待つように頼んだ。だが、男は畳み掛けるように言った
「そうかい。でもあんまり待てねぇぜ?目当ての店にゃ、すでに引き込みもいれちまったし…後は仲間の到着と鍵しだいなんだ。俺達の手腕は知っての通り殺しもしねぇ。そして、店のモンに知られることなくお勤めを果たす。それが俺達のやり方だ。そうなると、井筒屋の主の懐に常にある錠前の鍵をちょいと拝借というわけにもいかねぇ。だから、お頭もまた庄次郎さんが腕を揮ってくれるのを首を長くして待っていなさる。なぁ、飾り職の庄次郎さんよう!誰も開ける事の出来なかった錠前、開けてみないかい?あけることができたならよう、一層その腕に箔が付くっていうものだぜぃ?」

 一度も開ける事の出来なかった錠前。そして、井筒屋の名…
 お甲の笑う顔が頭をよぎる
 気心知れた友。畑は違えど尊敬する職人

“アタシの鍵になっとくれ…”

 盗人として、鍵を作れば裏切ることになる

“錠を掛けた方の中身。それをきっちりと守り通せないようじゃ錠前鍛冶師失格だよ!”

 前に言っていた言葉が思い浮かんでくる…
 断ろう…そう思った。だが…もしお甲とのつながりをこの男達に知られたら…どうなるだろうか?
 お甲から錠前の秘密を聞き出せと言われて一生、盗人と縁が切れないかもしれない
 それよりも、お甲に自身が盗人であると知れるのが何よりも怖い
 あの屈託なく笑い、しゃべり、酒を飲んでいるお甲の笑顔が曇ってしまうだろう
 それを思うと、自身が盗人であると言うことは隠さなくてはならない
 と同時に、この男達にお甲との関係を隠さなくてはならない

庄次郎は言った
「これを最後…以後、二度と盗人の仕事をしない。それでいいなら引き受ける。お頭にはそう伝えてくれ。そして、その承諾がきちんと誰が見てもそのことを承諾したとわかるようにしてくれなければ…引き受けない」
「つまり…これ以後、二度とやらねぇから足抜けの証拠となる証文をよこせと?」
強面の男の顔がみるみる強い顔つきに変わる
「さぁ?証文なりなんなり二度と俺の前に、姿を現せないように、二度と仕事を頼まないとしてくれるという確実なものがほしい」
「一度、汚ねぇ世界に足を突っ込んだ奴は二度ときれいになんてならねぇんだぜ?庄次郎さんよぅ」
 それは、わかっている。これは綱渡りなのだ。一生続く綱渡り…。一度踏み違えたら最後…二度と…二度と元の道に戻ることは出来ないだろう…
「……」
「わかったさ。こっちもそれほど時があるわけじゃねぇ。お頭もよくできたお方だ。堅気の庄次郎さんの事情も汲んできっちりと事を運んで下さるだろうさ。すぐに証文なりなんなり持ってくるからにゃ、仕事の準備を頼むぜ?」
 そういうと、男は去っていった


 その日の内に、証文となる結び文が届いた
 届けた男はあの強面ではなく、どこでもいるような男。あとでお頭から直々に足抜け出きるように取り計らってくれると聞いた
 それを受けて、その夜の内に型を取ってしまうという運びとなった

 夜…庄次郎は、昼間の男の案内である店の前にいた
“材木商 井筒屋”
 お甲の最高傑作がここにはある…
 心が苦しくなってくる…やはり、どんな理由でも引き受けるべきではなかったか…
 そう思っていると、裏口から中へと通された。手代風の男が、誰もいないからさっさと入れと言い、そのまま敷地の片隅にある蔵へと案内した。店の中に音はない。みな寝静まり、しんっとしていた
 そんな中を物音一つ立てずに手代風の男と庄次郎は進む

 辺りを見回し、問題がないのが分かると、男は不測の事態に備えてもっとも誰かが来そうなところに潜んだ
 庄次郎は…持ってきた道具箱の中から、あるものを取り出した
 それは、炭入れ。丸い手桶のような入れ物に赤々と燃えた炭が入っている
 そして、懐から手のひら大の塊を取り出す
 それは、蝋だった。錠前の穴の形を模ってしまうためのもの
 炭入れに顔を寄せ、わずかに息を吹き込む。そして、その上で蝋を揉む
 赤々と燃える熱に炙られて、だんだんとやわらかくなる蝋。耳たぶくらいの硬さになるや…急いで、錠前の中に練りこんでいった

 何度も何度も練りこむ。もう大丈夫だというカンをつけてそのまま待つ。…しばらくして蝋が冷えたと分かるや、これを慎重に引き抜いた
 見事…鍵の型は盗み取られ庄次郎の手元に渡った
 庄次郎は、この型を慎重に布に巻いて懐に入れる。そして、用は済んだことを男に合図しそのまま帰った

 家に戻った庄次郎。盗み取った型を前に、身震いをしていた
 複雑な形の鍵。曲線、鋭角な突起など考えられる限りの形がそこにはあった
 確かにこれでは並みの型師では模るのも難しいだろう
 早速、それを元に本当に使う型を模る
 しっかりと固まった蝋に粘土をつけて鋳型になるように…
 それを作りおわった時…庄次郎は気が抜けた。と、同時に罪悪感。二度とこんなことはしないと心に誓う

 あとは…溶かした金属をこれに流し込むだけだ
 普通ならば…銅をいれるのだろうが…あの時、お甲が言っていたことがどうしても気になった
“頭の中にあたためていたカラクリ…”と言っていた
 あの見たこともない銀の塊…あれも関係あるのだろうか?ついつい持ってきてしまった銀の粒を眺める
 庄次郎は…問屋へと行ってみることにした

 問屋の主にお甲のところで見たこともない銀を見たことを伝えると…主は快く教えてくれた
『あれは、特別なものでございますよ。魔界というところで精製された“魔界銀”という特殊なものです。普通の銀はご存知のものですが…。この“魔界銀”は妖怪達の力…つまりは妖気を込めることができるといいます。庄次郎さんの見た銀は普通の色でしたか?どこか違うと思ったのならば…魔界銀でしょうな。見る人が見ると妖気を込めたものは薄く桃色に見えるといいます。やはり…人の造る錠前と違うのはそのあたりに秘密があるのではないでしょうか?』
 それを聞いて、庄次郎は礼を言って帰った
 もし…今までの鍵になにか細工がされていて、誰も破れなかったのは…もしかしたら、魔界銀とかいうものを使って妖気を込めたような鍵を使っていたからではないか?時々、見守る楽しみがあるともいっていた。錠前の手入れをしながら、鍵に妖気を込めに行っているとしたら…そう考えると、錠と鍵に魔界銀を使用して妖気を錠前に通すことによって中のカラクリが動く仕組みになっているならば…と推論を立ててみた
 万が一だが…試してみる価値はありそうだった
 庄次郎は、その問屋ではない唐物屋へと足を向けることにした
 そこは、かんざしに使う紅サンゴを仕入れに行くところでもあった。妖怪のお客に何か珍しいもので作りたいからと言って、魔界銀を調達しこれで作り出した

 作っている間、庄次郎は何もかもを忘れてこれに打ち込んでいた
 お甲のことも、盗人であることも…
 お甲への良心があるならば、失敗作にしてやればいい
 盗人への義理があるならば型を直接渡せばよかったのだ
 そのどちらもせずに庄次郎はこれを作っている。自らの行いに疑問を持つ。けれども、手を抜くことは許されない…最後までやりとげなければならないそんな想いに突き動かされていった
 そうして…お甲のところから持ってきてしまった銀も混ぜ込んで鍵は完成した


 月のない新月の夜…それは行われた
 二十に満たない数だが…屈強な男たちが錠前が開く時を今か今かと待ちわびている

「じゃぁ庄次郎さんよう!頼んだぜぃ!」

 とある夜、庄次郎は黒ずくめの男達の一員として、そこにいた。
 自分の仕事を最後まで見守るため。そして、これを最後にするという覚悟を持っていることを盗人のお頭や他の者たちに知らしめるためだ
 男の声に、庄次郎は軽く頷くと懐から一本の鍵を取り出した
 錠前の穴に鍵を差し入れようとしたそのときだった…

「そこまでだ!」

「だっ誰でぇぃ!!」
 振り向くと、蔵の後ろから役人達がずらっとぞろぞろと出てきた
 御用提灯が、辺りをほの暗く照らす。盗人の数にくらべて倍近くいるだろうか?
「や、役人?!」
 役人たちは、一味を取り囲むように出てきて身構えた

 当然、逃げようとする盗賊との間に一悶着…あると思われたが…
 盗人のお頭は、抵抗ことなどせずにすぐ観念したようですっと前に歩み寄るや両手を差し出した。ほかの者たちもその様子を見て座り込む

「何故、われ等が来るとわかったのですか?」
 お頭は、そういって役人の顔を見上げた
「知りたいか?」
「はい」
「そいつはな…錠前だ」
「錠前?」
「そうさ。その錠前はな、鍵以外のものを入れるとわかるように仕掛けが施されていたのさ」
 おもわずお頭は庄次郎を振り返った
「そいつが型師かい?なら、そいつを責めないほうがいい。誰がやっても結果は同じだったろうよ。なんせ作ったのは腕に評判の妖怪が作ったモンだ。人が思いもつかない仕掛けを組み込んでいてもおかしくねぇや。わかったかい?」
 それを聞いて、お頭は役人に頭を下げた
「恐れ入りましてございまする」
「それ、引っ立てぃ!」

 仲間達が次々と捕縛される中…小さな影が庄次郎の前にやってきた。それを見て、庄次郎の顔が凍る
「お、お甲…」
 庄次郎はお甲と顔を合わすことが出来ずに下を向いてしまった。どの面下げて顔をあわせればいい?
「庄次郎…」
 さも残念そうなお甲の声…
「……」
「……」
 なんと声を掛けていいものかと互いに黙ってしまった。だが…
「さぁ、もういいか?ほら、立て!」
 役人がやってくると庄次郎は捕縛され、そのまま奉行所へと連れて行かれていく
「庄次郎!」
 連れて行かれる庄次郎にお甲は声をかけるが…
「……」
 答える声はなく、庄次郎の姿は役人たちに混ざって闇の街へと溶け込んでいった



後日…
 お甲は、役人に頼み込んで庄次郎が作った鍵を借り受けた
 目の前に自らが作った、井筒屋の錠前
 庄次郎は何を思ってこれを破ろうとしたのだろうか?
 気心知れた友人だと、言っていた。だが、盗人となってこれを破ろうとしたのだ
 一体何故?
 庄次郎のことが信じられなくなっていたお甲。震える手で、鍵穴に庄次郎の鍵を差し込む
 ゆっくりと回してみる…

カチッ…

 それは、本当にちいさな音だった。…信じられない音でもあった
 絶対に破れないとしていた錠前が…
 錠の仕組みなんて知らない庄次郎の鍵で開いてしまったのだから…

あっ……

 その瞬間、お甲の心の中でなにかが開いたような気がした…
 自身が傑作だと思っていた錠前。すっと音もなく錠が外れた
 それを見るや心の中を満たす何かが浮かんだお甲は、確信を持ったようにゆっくりと頷くのであった



 庄次郎は普通の牢から、お取調べ用の離れの牢へと移されていた
 一人だけ取り調べるという。余罪を追及するために拷問でも行うのかと、びくびくしながら行ってみると…
 そこで待っていたのは、お甲。庄次郎は驚きながらも顔を伏せがちに、向かい合った
 何故か、役人達はその場から去っていく

「飾り職の庄次郎。あんたに聞きたいことがある。あそこで、あたしの錠前を破ろうとしてたのはどうしてだい?アタシの錠前の秘密を探る気だったのかい?!。いや、そもそもアタシに近づいたのも…そのためだったのかい?」
「……」
「あんたのことを、信用してた。心を許してた。モノを作るっていうことに対して直向なのを見て、この男はアタシと同じなんだって思ってた。けど…あんたはやってはいけないことに手を染めていた…。どうしてだい!
 お甲は、庄次郎に飛び掛ると襟を掴んで揺さぶった
「……」
「あんた!アタシはね、あんただったら一緒にうまくやっていけるって…イイ男見つけたからもっといい日々が送れるって思っていたのに、これからあんたは罪人としてどこかの島に流されるって言うじゃないか!どうしてくれるのさ!!」
胸倉を掴んで揺さぶるお甲。その顔は涙に濡れていた
「俺は…」
 何を言っても俯いているだけ…顔をあわせようともしない
「あんたの鍵…。あれで錠前が開いたかどうか、知りたくはないかい?」

 思わず庄次郎はお甲の顔を見た

「…ん…ちゅ…」
「ちゅ……え?」
 突然、口づけをしたお甲に庄次郎は驚いた
「やっとこっち見たね」
「…なんで?」
「あんたの鍵…あの錠前を開けちまったんだよ」
「…………開いた…の?」
「開いたさ」
「そうかぁ…」
 庄次郎の顔は、うれしそうな残念そうな複雑な顔をしている
「うれしくないのかい?あんたの鍵であれは開いちまったんだよ?盗人としてはお宝を目の前にさぞ悔しいことなんじゃないのかい?」
 自嘲気味に、お甲は庄次郎を問いただす
「莫迦いうな!例え…、きたねぇ泥の中に足ィ突っ込んでいようと、友として酒を酌み交わした奴の仕事にケチつけるようなことはしたくなかった…」

 庄次郎は、なんで盗人に混じって錠前を破ろうとしたかを、とつ…とつ…と話していった

「…それはあんたの不注意さ。確かに一度その世界の足を突っ込んじまったら抜け出せないかもしれない。でもね、それがわかったんだったらなんですぐにお上に名乗り出て罪を償おうとしなったんだい!そんなだからずるずると泥濘に嵌る事になったのさ」
「…面目ない」
「罪悪感と爽快感?なにが正しくて悪いのか、本当はわかっていたんだろう?それが分からなかったっていうなら…いや、引きづられるのをよしとしちまうほどあんたの心が弱いんだったら、アタシがあんたの面倒を見ようじゃないか」
「は?」
「これからは、アタシが庄次郎の善悪を決めてやる!アタシがあんたの心を鍛えてやる!アタシはね、お奉行様にあんたを婿にするって言ってあんだ!もし、島流しならばそれについて行くともね!でも、お奉行様はね?あんたが改心するなら島流しは見逃してやろうって言ってくださっているんだ。情けをかけてくれると言ってくださったんだ!」
「なんだって?!」
「改心してくれ!改心してくれよ!お願いだから!!アタシは、庄次郎しか見えないんだ。他の男なんて考えられないんだ!だから、改心するって…アタシの男になるって言っとくれよっ!!」
「…お甲。俺は…」
 それでも顔を背ける庄次郎
「…そうかい。そうかい…なら、無理やりでもなってもらおうじゃないか!」

 何を思ったかお甲は庄次郎を突き飛ばすと、部屋の片隅に歩いていった
 庄次郎が部屋の中をよくよく見渡すと、そこには拷問用の品々の数々…
 床には石抱きの石や、吊るす為と思われる綱が天井からぶら下がっていた
「お、お甲?!」
 驚き、慌てふためいた庄次郎は、お甲が何をするのか分からずにおびえた声を出した

「心配するんじゃないよ?なに、簡単なことさ。拷問するなら…痛いほうじゃない。…むしろ気持ちいい方さ。でも…覚悟だけはしときな!あんたはこれからその曲がった根性叩き直されるんだから!!」

 お甲は刺股を手に取ると、これがよさそうだと確認するように少し振ってみた
 それが良いと思ったのか…刺股を庄次郎の首に引っ掛けると、そのまま床に押し付ける

「あっ…かっ……」
 庄次郎は恐怖におびえた顔をしてなんとか刺股を外そうと両手でこれを持つが…
 お甲のその力に適うはずもなく、もがき続ける
「怖いかい?苦しいかい?けどねぇ…アタシの心はそれ以上に苦しかったんだ!あんたのせいでアタシの心は針を突き刺したように痛かったんだよ!」
「……」
「まぁいいさ。とりあえず…アタシはあんたを改心させる為だったら、鬼だろうが阿修羅だろうがなんにでもなってやる!!」
そう言うと、片手で刺股を持ったまま庄次郎の着物を脱がしにかかった

「くふふふふ。これがあんたの鍵かぁ…縮こまってるねぇ…でも大丈夫。アタシに任せれば、こんなもの」
「うわっ!?」

 お甲の小さな手がその逸物を握る
「はうぁっ?!」
「ふふふふふ…いいねぇ…これが…あんたの匂い…汗と小便の匂いかい?ふふふ…むわっとするねぇ…。……おや?なんだか…むくむくしてきたよ?あんた…見られてるだけでこうなっちまうのかい?…いいじゃないか。アタシのこと期待してるんだねぇ♪ じゃ…いつまでも待たせておくわけにはいかないね」
 刺股を担ぐように持つとそのまま庄次郎に馬乗りになって股間を覗き込む
 すんすんと、鼻を鳴らし…
 ちゅっ
 と、先に口づけした
「うわぁっ?!」
「ふふふ。なんだ、いい味だしてるじゃないか。これは…期待できるねぇ。イきたくなったらイッちゃいな。一緒に逝こうとか射精は止めろなんていわないからさ、いつでもアタシにおくれよ?…じゃ…あむ…」

ちゅ…れろ…ちゅるっ……ちゅる……ん…ふ…ふるっ……ちゅ…ちゅるる…ちゅぽんっ!

「ふぁぁぁ…いいじゃぁないか。はぁぁぁ…くっさいのが口の中に…」

ちゅ…じゅる…ちゅ…

「ちゅ…ん…ふふ。感じてんだろ?んふ…ぴくぴく震えて…むくむく…もっとかたく……もう…ぺろぺろ……うまそうな汁が……ぢゅ…ちゅる…でてきたぞ?」

 じゅるじゅると音を上げて逸物を吸い上げるお甲。そんな音が否応もなく聞こえてますます股間が熱くなる
 気持ちが高ぶって逸物の感触にうめき声を上げるしかない庄次郎
 お甲は両の手を使いながら、やわやわと逸物を扱き上げる
 そのたびに、先走り汁が出てお甲の手の動きが早くなる

「ふふふ。いいねぇ…ちゅ…さわれば…ちゅっちゅ…さわるほど……ぢゅるる…とろとろっ……って…んちゅ…湧き出してくるよ♪ 」

 お甲の顔は朱に染まり可愛らしい。一心に逸物を見ながらも、ときどき庄次郎の反応を確かめるために目線だけをこちらに移す。そのたびに視線が絡まる。すると、反応を面白がるように指の動かし方を変えてはうめき声とは違った喘ぎ声を引き出そうとするのだ

「手と口だけでこんなにしちまって…膣に放りこんだらどうなんだろうね?」

 お甲の頬が飴を頬張っているように、逸物で膨らむ
 巧みな舌使いとあたたかくやわらかな口の中
 その中でしゃぶりまわされるうちに、だんだんと我慢できなくなった庄次郎

「くっああああ!」

 それは、お甲のちいさな口の中で暴発したように飛び出した
 庄次郎の身体がくたりと力が抜けたのを見届けると、刺股を放り投げて言った

「はははは。イっちゃったねぇ…これが…ん…ふぅぅ…あんたの精。ん…ん…はぁぁぁ…いいねぇ。想像以上にうまいねぇ。ふふふふ♪ これなら、アタシの錠をこじ開けることが出来るかもしれないさね。さぁ、庄次郎?今度が本番だよ?あんたの鍵がどこまでアタシに通じるか…試してみようじゃないのさ!」

 しゃべるたびに口から漏れる白い精。それがなんとも恥ずかしい
 口を放して、しなりかかった逸物を扱き続ける
 俊敏になっている逸物が再び硬くなるのに刻はいらなかった。庄次郎のくぐもった吐息が吐かれると、お甲は笑顔を見せた
 それの硬さが元に戻ると、お甲は期待に胸を膨らませたような顔をして上に跨った

「見えるかい?ここにあんたの逸物を挿すのさ」

 そこには、ちいさな穴が…少女のように毛も生えていないつるりとした股に桃色の小さな穴が…。ほんとうにそんなところに入れて大丈夫なのかと思ってしまうほどの所に、逸物の先をあてがうと…一気に貫くお甲
 一瞬だけ痛みを伴ったような声を出したのも束の間。すぐに腰を振り出した

「っくぅぅぅ…。あんたの硬いのが…!腹の中にっ!!…でも、こんなのすぐによくなるはずさ!アタシは誇り高いドワーフの女!好いた男のためだったらなんでもできるのさ!こんな暴れん棒…軽くいなしてやろうじゃぁないか!」

 大声を上げながら、叩きつけるように腰を振い出だすお甲
 その中は狭くよく締まる。なのにきつくて苦しいわけではない。ねぶるように吸い付いて、張り付いていくように膣の中は波打つように逸物を弄ぶ。いつしかお甲の口から甘ったるい声が聞こえてきた

「んっ…はっ…ああっ…あんたの…あんたのっ…がっ…なかをっ……あっん……なかを……こすれてる♪ 」

 だんだんと中は汁が溢れてきて、あったかいぬるぬる

「あんたの…その…くぐもったような…っぁ……あん…うめきごえ……ィっ…うん…はっ…ぞくぞく……してっ……くる♪ 」

 中は、ひだひだがうごめいて逸物の形を確かめようと包み込んでは締め付けて…
 腰をふりながらうれしそうに笑うお甲
 庄次郎は、そんなお甲に合わせるようにぎこちないながら自らも腰を振るう、
 いつまでも続くお甲の責め。あまりの気持ちよさに、戸惑い気を失いかけながらいつまでも感じていたいと歯を食いしばる

「も、もうだめ…だめだ!お、お甲!たすけてくれっ!」
「まだまだ!まだまだだよぅ!あんたっ…はっ……はっ……これでへたばったらもたないっ…よっ…」

そんな声を聞いても快感は高まっていく。本能的に突き上げを早くすると…

「はっ…はっ…はっ…あっ…ちょっ……ああっ…いっ……そんなに…あん…はやく…したらっ……アタシもっ……うんっ…あっ…あっ…あっ…ああぁぁぁぁっ……ィッ…いいぃいぃーーー!」

 イってしまった
 どろどろに混ざり合って熱い中が一層熱くなってきつくなったのに耐え切れなくて、一気に精を放つ
 そんな痙攣を感じ取ったように何度も何度も蠢いて一滴のこらずに搾り取ろうとする膣の中に、うめき声を上げながら精を放つ

「あつ…おなか…あつ…。しょうじろうのっ……あっん…せぃ…」

 しばらくするとすぐに、笑いながらお甲は言った

「はぁっ…はっ…ぅんん…よかったねぇ……しょうじろ?…はっ…ははっ…もうっ…へばったのかい!?はっ…んんっ…まだまだだよう?あっ…うんん……まだまだアタシは満足してない!ィッ…あっ…はっ……アンタがへばろうが、ぁぁっ…疲れて気を失おうがっ…いつまでも跨っててやる!はぁっ…鉄は熱いうちに打つのが肝心っ…さ。疲れようがなんだろうが、鍛冶師はいつまでもずっと打ち続けて…やっとの思いでいいモンを作り上げるのさ!だから!もっとだ!もっと!おくれよ!!」
「くぅぅぅぅぅっっっ!! も、もっと?!…はっ…お、甲!はぁっ…はぁぁ…そんなこと言ったってっ!…っぅ!……気持ちよすぎて狂いそうだ!」
「んっ…あ…。はははっ…そのまま…狂っちまいな!あっ……ん…はっ……アタシだけしかっ…ふぅぅ……見れないようにっ!…んっ…ん…はっ……」

 秘所の花びらをこねくり回し弄りながら見せ付けてくる
 すると、白い精と愛液の混ざり合った汁がねちゃねちゃとした音を響かせて、また逸物を元気づけてくる

「ほら、むくむく♪ 元気になったじゃないのさ!しょうじろう?もう寝かさないから覚悟しなぁ!!」

 お甲が庄次郎を責め立てるのは、その後部屋を変えて幾日も続いた
 終わるころには、すっかりと骨抜きにされた庄次郎がいた

「庄次郎。あんたのその身柄…アタシが貰い受ける。あんたをアタシの婿にする。嫌とは言わせない。もう、アタシのこの錠はアンタの鍵しか受け付けないんだからな?アタシのちいさなおなかの中にあんたの鍵をいっぱい差し込んでもらって、この熱くたぎる心を開いてもらうのさ。今から楽しみで仕方がないのさ♪ 」

 奉行所を出る頃には、お甲を抱っこして幸せそうに微笑でいる庄次郎がいた


 その後…庄次郎はお甲のおかげで御赦免となった
 ただし、もし再び罪を犯すようなことがあったならば…今度こそタダでは済まされないだろう
 だが、傍で見守っているお甲のおかげでそれはきっとない
 型師と錠前鍛冶師のこれからは供に支えあって生きてゆくのだろう…

 錠前と鍵のようにぴったりとひとつになりながらいつまでも…
12/05/19 23:42更新 / 茶の頃
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■作者メッセージ
 その日、アタシは悩んでいた
 どんなに悩んでも良い考えが浮かばない
 お気に入りの道具を持ってみても、今まで作った物を見てもそれ以上の考えが浮かばない
 普段見もしない書物の類を見ても気に食わない
 むしゃくしゃとしていた…
 こんな時は、鉱物でも見に行こう。材料を見ているうちに、ああしてやろうとかこうしてやろうとか思い浮かぶことがあるからだ

 ぶらぶらと気分転換がてら、金物問屋へと来ていた
 金や銀、銅に鉛…。魔界銀などの類…ここにはいろいろなものがある。アタシの一族が採る鉱物だってあるだろう…
 世間では、盗人に一度も破られたことのない錠前をつくる錠前鍛冶として名が通っているけど…そんなのは関係ない。結果的にそういうモノだっただけ。アタシはただ、作りたいものを作るだけだ
 けれども、違う。何かが違うのだ。だから、ここ最近もっと違う何かを…ワクワクするようなことを欲していた。そしたらきっとまた違う考えが湧き上がって、もっといいものを作れるかもしれない…そんなことを思っていた

 問屋の主と世間話していると、ある男が店に入ってきた
 体つきに無駄なところはなく、手は血管が浮き出ている。それを見て、間違いない…これは職人の手だと思った
「紹介するよ。飾り職の庄次郎さんだ」
 庄次郎。飾り職をしているという。
 精悍な顔つき。かんざしなどをつくるその手は、よくよく見てみるとタコや豆ができていた
 皮の厚いその掌。節だってがっしりとしてる

 錠前鍛冶としてのモノ作りを口にすると、彼の職人としての心意気を朗々と口にしたこの男にアタシは感心した
 それと共に、この男と酒を交えて語ってみたくなった
 意気投合したアタシ達はすぐに打ち解けた
 時々、会っては仕事を見たり酒を飲むようになっていった

 作っているものは違えど、その心は同じ。懐から、自らが造った簪や小物を取り出すと、自慢げに語りだす彼。
 そんな中で、輝かんばかりに光る金のかんざしがあったので尋ねてみた
「これは?金ってこんなに輝くものだっけ?」
 なにかが違う…それは直感。黄金色…山吹色…でも、それなのに白い輝きがあるように思う
「…ああ。これは…な?」
「?」
 もったいぶる様に言葉を区切る庄次郎。あたりに誰もいないのを確認して…
「お甲。おまえさんだからこそ話すんだぞ?」
「わかっている」
 アタシだからこそ…その言葉に心が湧いた。そこまで信頼してくれているのだ
 アタシの横に寄り添うと声を潜めて言った

これはな…

 タネは、金に少しばかりの銀を混ぜてつくった金と銀の合金。配合は決して教えてはくれなかったが…これが一番、光を反射させてきらきらと輝くのだそうだ
 庄次郎は話している間も辺りを見回しながら教えてくれた。目の前の庄次郎の顔…自慢したくて堪らないと、とても輝いてた
「…というわけさ。誰にも教えちゃなんねぇよ?」
 頷くと、庄次郎も頷いてみせた
 まるで、二人だけの秘密を持ったみたいでうれしかった

 一緒に酒を飲んで語り合って!楽しかった
 庄次郎と一緒にいるといい考えが浮かんでくる。それがまたいい刺激になってアタシは最高傑作ともいえるモノを作り上げることができた。庄次郎には感謝だよ。あいつに会えばどんどんやってみたいことが思い浮かぶのだから…

 そんな毎日を送ってると、材木商の井筒屋から錠前におかしなことが起こったから何とかしてくれとの知らせが入った
 急いで、井筒屋を訪ねると…錠前装飾が黒ずんでいた
 アタシはそれを見て息が詰まる思いだった
 主人にこれになにかしたのかと聞いたが、何もしていないという。奉公人達にもその確認をしたが、誰もがなにもしていないという
 井筒屋主は、店の者にこれに悪戯は絶対にしてはならないと念を押していた
だから、店の者が何かをしたはずはないのだ

 お甲が見つめる先…錠前のとある所…そこが真っ黒に黒ずんでいた
 お甲が錠前にした仕掛けとは…錠前に組み込んだバネとその留め金
 その材料は、珍しい魔界銀を使用していた
 鍵にも魔界銀を使いお甲自らの魔力を入れていた
 鍵穴に鍵が入るとその魔力がバネを動かし錠が開く仕組み。バネにも魔力が宿るように作られている
 もし、鍵に魔力を通さない何かを入れたならば…バネは異物であるとして反応を起こし錆びたように黒くなる。それは留め金へと伝わる。留め金は錠前表面の飾りも兼ねたようになっているから、ひと目でなにかが起こったと見ることができるのだ
 もし、細い棒でも突っ込んだのならば、汚れたような黒ずみになるはずだが…これはもう温泉の中にでも放っておいた銀のように黒く錆びていた。
 何者かが、何かをしたということだ
 お甲は修理ということで錠前を受け取り、その足で奉行所へと向かい…ことの次第を相談することとした


 奉行所では、この話に騒然としたようだった。ここ何年も、不明の盗人に手を焼いていたからだ
 ある日、蔵を見てみると…中の金が忽然と消えているという。身内の犯行かと思われたが、不審な点は一切なくやはり外部の者…盗人の仕業と判断された
 だが、盗人が入ったということさえ誰もわからず、金だけが消えている
 そんなことが…もう何件も起こっているというのだ

 捕り物の日は、案外早かった
 月の光のない日…新月辺りに盗人が動くと思われた。奉行所の手の者が近くで張り込んでいると、店やその周りを窺っている者がいると通報を受けた
 本当に盗人なるものが、あの錠前を破ろうとしているのか興味を持ったお甲。お役人へ捕り物へ同行を頼み込んだ
 けれど…捕らえられた盗人の一人を見て…心の臓が止まるかと思った
「お、お甲…」
 聞こえた声…信じたくなかった。
 黒装束に身を包んだ男。その男は、庄次郎の声でアタシの名を呼んだのだから…
 震える口でその名を呼ぶ
「庄次郎」
 けれども、盗人姿の男はもう何もいわない
 頭を伏し肩を落して、貝のように口をつぐんだまま。そのうちお役人がやってきて、縄を打たれて奉行所へと送られていった

 アタシはそれが信じられなかった
 いつものように庄次郎の家を訪ねれば、ひょっこり顔を出すのではないか?と、家を訪ねたが…誰もいなかった
 なんで?なんでなんだ?どうして?あいつはやっぱり盗人であそこにいたのだ。
 あそこにいたということは…錠前を破るために?!なんで…なんで庄次郎はアタシの錠前を破ろうなんてしたのだろうか?
 アタシは騙されていたのか?錠前を破る為に…秘密を聞き出す為に近づいたのか?あの時の心意気を語っていた庄次郎は本当は嘘っぱちで、欺くためのセリフだったのか?
 と、悪い考えが頭を巡る。けど、あの錠前…あれは絶対にあけられないと自負がある
 あの錠前のことを何も知らない庄次郎が開けられるはずがないのだ
 ならば、あれでは開けられなかったとお役人へと伝えればなんとか…なんとか?なんだ?庄次郎は鍵とは無関係といいたいのか?庄次郎はその鍵を作ってはいないといえるのか?

 盗人と鍵と庄次郎のことで頭がいっぱいで考えがまとまらない

 だめだだめだ!庄次郎はあの中にいたのだ!その事実は動かせない…錠前に関してなんらかに関わっていたのだ
 アタシは…あいつを自分のものにしたくて…婿にしたくて…。あいつだったら一緒にいつまでもいられるって…本当に好きだって言えるのに…
 胸の奥が痛い…心が痛い。

 とにかく、あいつの鍵を見てみたくてお役人からあの鍵を預かった

 あいつの作った鍵。アタシのと寸部の狂いもないほどよく似てた。でも、アタシの仕掛け…こればっかりは普通の人である庄次郎に分かるはずもない
錠前に差し込んで…その音を聞いたとき…
 静かに外れて錠が解けたとき…
 アタシの心は、もう決まっていた

 次の日、アタシはお奉行様に談判しに奉行所へと行った
 鍵を模ってしまう堅師。余罪はたくさんあると思われていた。減刑は絶望的だった…
「庄次郎をアタシの婿にする。もし、それが出来なければ…アタシは庄次郎と共に、流されるという島に行く!」
 お奉行様にそう言うと、慌てたように言った
「正気か?庄次郎とやらは、盗人の一味だったのだ。これまでも、商家の錠前の型を盗み取っていたというぞ?減刑?そんな小悪党になぜその方が肩入れするようなことをするのだ?お甲、おまえのような女に相応しい男のようには、見えぬ。男など他にいくらでもおろう?」
 確かに小悪党だ。けれど、アタシの心は決まっている誰がなんと言おうと動かない
「確かにその通りかもな。だがね、アタシは庄次郎の腕に惚れちまっているのさ。アタシは絶対に破れないと思っていた錠前の鍵。庄次郎はコイツを模して開けちまったのさ。悔しかったねぇ。絶対に開けられないと自負してたのにねぇ…。そんなことができちまうあの男の腕をさ、島流しにしちまうのはアタシには惜しい。なぁ、お奉行様?あいつを必ず改心させてみせるから見逃しちゃくれないかい?アタシにはあいつしか見えないんだよ。他にどんなに男がいようともね」

 お奉行様はアタシの訴えに呆れながらも聞いてくれた。けれど、庄次郎の解き放ちには、やはり条件がついた。
 二度と悪事に加担しないことを条件に!
…真っ当な心を持っていれば二度と踏み外すことなどないはずだ。あいつは話せば分かってくれるはず。アタシと一緒に語り合って酒を呑んだあの庄次郎が本当のあいつならば…分かってくれるはず!!
 もし、また悪事に手を出そうとしても首に枷をくくり付けてでもそんなことはさせない。アタシがあいつの良心になってやる!

 そんな意気込みでアタシは庄次郎に会いにいった
 牢ではなくお取調べを行う部屋へと通されたアタシは、中を見てあっとなった
 そこは、どうやら拷問もするようなところだったらしく、石枕などの類が無造作に置かれていた
 改心しないようだったらこれを使えとでもいうのだろうか?
 そんなことをしなくても、男の心はわかっているつもりだ。アタシは女で妖怪なのだ
 この身体さえ一つあればなんとかなる。淫魔であるこの身体があれば、好いた男の心を縛り付けるなんて事ができないわけがない

 気まずさ故か渋い顔した庄次郎。なぜそんなことをしたのか問いたてても何も言ってはくれない
 剛を煮やしたアタシは、無理やりその唇を奪ってやった

 面白かったね。きょとんとしちまって…。てっきり縁を切られるとでも思っていたみたいだ
 それでだ、あいつはなんで悪党の下っ端なんてなっちまったか話してくれた
 まったく、一度泥の中に足を入れたら二度ときれいにはなれないだ?馬鹿馬鹿しいにも程がある
 やり直そうとは思わないのかねぇ!そんなアマちゃんやってっからどんどん深みに嵌るんだ
 アタシにはそんなところが許せなかった

 嫌がるあいつを組み伏せて…いや、どこか怯えてたか?…いや、戸惑っていたか
 とにかく、あいつの心も身体も鍛えてやることにした。身体と身体、心と心…ぶつけ合ってやればまっとうな奴に生まれ変わる…そう思って…

 硬くしなやかな金属を鍛造するように強弱をもってあいつの逸物を鍛えてやると、庄次郎はさもうれしそうな顔をしていた
 狂ったようにアタシの名を呼び、うわごとのように背筋がぞくぞくするような吐息を洩らすのだ
 そんな庄次郎にアタシも同じように嬌声を上げながら、うわごとのようにその名を呼んでしまう

 庄次郎の最初の精…それはとても濃い精だった。あまりの濃さにしばらく身動きがとれなかった
 聞けば、そっちのことはとても疎いらしい。モノを作るという行為に夢中になりすぎて自分で処理するといったことはあまりしなかったから…そういっていた。でも、そんなことはオマケだ。アタシにとっては何にも変えがたい大事な男。それと一緒にいられるということの方が何よりも大事…。
さぁ、庄次郎?いつまでも一緒にいよう。アタシがあんたの錠となっていつまでも守ってあげるから!


「はぁ、はぁ、はぁ!いい…いいよぅ…しょうじろう…なかの…なかのっ……天辺にっ……あん…あっ……あたって…るっ!」
 今日も庄次郎の上で腰を振るう
 ああ、最高だ。庄次郎の鍵は、手を入れれば入れるほど、磨けば磨くほどアタシの中を…隙間を埋めようと大きくなってくれる
 そして大好きな精をくれればくれるほどにアタシの心も頭の中も真っ白になって、途端にいい考えが浮かび上がるのだ
 この刺激的な日々はもう手放せない
「うぅっあああああーーーー!」
 アタシ達は何度イっただろうか?心を満たして突き抜けていくこの感じ…もうやめられない
 白濁がお腹を満たすと同時に頭の中も心もいっぱいに満たしてくれるのだ

「庄次郎…アタシ達は、ひとつの錠前なのさ…だから、いつまでも一つよぉ…」
その愛しい体を抱きしめながらそういうと、力強く抱きしめて返事を返してくれた
 アタシの錠で守るのは庄次郎ただ一人。いつまでも一緒にいよう。もう、悪事になんて加担させない。いつまでも一緒だ

 そうして、アタシ達は二人で一つとなったのだった

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