蜥蜴記者の回想録:もう一つのレンズの向こう側D
ワタシは当初、ユージがこちらに来ることはもちろんワタシがあちらと行き来できるのは容易と思っていた。 空間移動や違う所からモノや人を連れてくる“召喚”という魔法。これらがあるならなんとかなると…
ワタシ達魔物を忌み嫌う教団。彼らは愛と平和な世界を目指す魔王様に楯突こうと神の力を借りては、どこからともなく異世界から“勇者”を召喚してくると聞く。この世界の人間が勇者になったのとは違い、ワタシ達の知らない知識、術を持ってきては魔物を屠ろうとするという。神が出来るのならばワタシ達だってやって出来ないことはないと思っていた
でも違っていた
頼みの綱であったメル。彼女に、かなり難しいことを聞かされてすっかり意気消沈してしまった。と同時に、なんとかなるといつもユージに言い続けてきたことに少し後悔した
ある時、うっかり言ってしまった“言葉”…これが、彼の心を追い詰めるなんて思いもしなかった
「違う世界に住んでいるものを召還する…それは、まさに神の所業だよ。ボクの師そして、ボクら魔族の王・魔王様でさえ狙って特定の人を召還することは出来ない。やろうと思えばできるだろうけどさ、そんなことをしている暇は無いだろうしね。人や魔物、この世のあらゆる物を作った神だからこそ、異世界とのコンタクトも出来るのだろうさ」
ユージの心底がっかりした顔…
胸が痛んだ
なんとか彼を励まそうとした
「メルだってああ言ってくれたんだもの。希望はあるわ!」
『ああ。まだ希望はあるよな…』
「こっちに来れないのを悔しがるようにしてあげるんだから!!」
って皮肉言っちゃった…ワタシのバカ!!
その日、彼との進展を記事にしようとして机に向かっていた
窓の外は夕暮れ、オレンジ色の光が風に揺れる木々の隙間から見える
水晶玉にまだユージは現れていない。そろそろ、連絡があるはず…
言っている傍から水晶にユージが映った
『ミーリエル?仕事終わったから今から帰る』
「今どこなの?」
『車、運転中なんだよ』
「そうなんだ。気をつけて帰ってね」
やっと帰ってきた。早くユージと話がしたいそう思うと…知らずに鼻歌がでてしまう
でも、心の底では早く会いたいと言う気持ちがひしひしと胸を圧迫する
“ワタシだって…会いたいよ…”
何気なく漏れ出てしまった…。聞こえていないわよね?
水晶の中の彼はいつものように運転をしている
大丈夫。聞こえていなかったようだ
危ない危ない…。これはタブーになってしまっている。もしこれが聞こえてしまっていたら、とても悲しませることになってしまっていただろう
家に帰ってきたユージ
ワタシの顔を見ると一瞬少し寂しそうな…いえ…考え込むようなそんな顔をした
それから、時々深刻な顔をして考え込んでいることが多くなった
どうしたのって訪ねても“心配いらないよ”って言うばかり
ある日、ユージはメルと話したいという。できれば、ミーリエルは席をはずしてくれないかとも…
なんだろうか…不安が心によぎる
メルとふたりっきりで内緒話…仲間はずれにされたみたいで少し悲しい
ふたりきりでの話は、世界を飛び越える為の手段についてだった
あの言葉で追い詰められたユージはすべてを捨ててでもこちらに来る決心を決めていたらしい
再び雷にうたれて命が危うくなるとしても、こちらに来たいと…
どうして?…どうしてそんなふうに思いつめたの?
『最初の雷を受けてもうダメだなと思った。自分が生きていると実感したとき、なんでもしてやろうと…。どうせ、拾った命なんでもしてやろうと…』
拾った命?!…それならば何でも出来るなんて!無茶もいいところだわ!!
死んじゃったらどうする気だったのよ!
『たぶん、大丈夫だと思ったんだ。最初に雷を受けた時に奇跡的に助かった。そして、奇跡のようにカメラにこの世界が映り、奇跡的に君を探し出すことが出来た。そして、言葉を交わすことが出来た。これだけ、奇跡が起こったんだ。だから何とかなるんじゃないかってね』
そう言って、思い出すように目を瞑って少し笑った彼…
くそう…あんなにも心配したのに…
でも、ワタシも心の底ではまた奇跡が起きてくれるかもって思ってた
なんとかなるんじゃないかって…
メルの雷撃…
次の瞬間、雷撃が爆発したかのように弾けるとそこには人が倒れていた
ユージだ!!
あわてて駆け寄る
酷くぐったりとしてる…
糸繰り人形のように力なげに手足がだらんとしている
「ミーリエル!ボクが回復魔法をかける!」
メルの言葉によく見てみると、肩から腕にかけて酷いケガをしているようで大量の出血をしていた
肉の焼けたような嫌な臭いがする
服は一部焦げ、融けたようになってしまったような所もある
服の隙間からは赤くただれた肌が見えた
「ワタシは?」
「ずっと抱いているんだ!離すんじゃないよ?そして、気が付くまで呼びかけ続けるんだ!!」
「わかったわ!」
ワタシはずっと抱きながら呼び続けた
後から聞いたところ、ワタシ達魔物から放出される魔力は人を保護する力を持っているからワタシ達の魔力で包み込めば彼は死なずに済むということだったらしい
苦しそうな顔をして、少しずつ目を開けたユージ
「ユージ!」
やっと気が付いてくれた
ワタシは泣いてしまった
彼の額に顔をつけて無事を心の底から喜んだ
「っ…ミーリっ…エルっ…」
弱弱しかったけれどしっかりとワタシの名を呼んでくれた
そして、ワタシの存在を確かめるように頬をなでた
力が出ないのかすぐに手を離してしまった
生きている!わたしは、その時ほど、すべてのものに感謝した
よかった…ほんとうによかった…
なんだかいろいろといいたいことがあったみたいだけど…言い終わる前にがっくりと気を失ってしまって本当に心配したんだから!
あれから、不眠不休で世話をして、気が付いてくれた
その後、結ばれることも出来た…
一緒に暮らし始めると、 何かにつけて田舎暮らしにあこがれていたから…と言っては、何かをやりたがる
何とか動けるようになって、いきなり斧と薪を持ってきて割ろうとしたのにはさすがに驚いた
肩から上に腕を上げるたびに痛むのか、顔を歪めるのを見ると、まずは体の治療に専念してほしいと思う
「せっかくの田舎暮らしだよ?私も何かしたいんだよ」
とは言うけれど、ユージは何かにつけて不器用だ
科学とかいう便利な生活に慣れきった生活をしていたからか、魔法というものをあまり理解できていないのか、火をつけるのも井戸から水を汲み上げるのもいろいろと見ていて危なっかしい
そして、腕もあの通りだから本当に心配になる
やはり、ここはワタシがユージを幸せにしないとね♪
ワタシと会うために故郷まで捨てさせてしまった
二度と帰れない故郷。その精神的な負担はワタシにも想像できない…けれど、それを感じさせないほどの幸せを注げばきっと…!
ワタシ達魔物を忌み嫌う教団。彼らは愛と平和な世界を目指す魔王様に楯突こうと神の力を借りては、どこからともなく異世界から“勇者”を召喚してくると聞く。この世界の人間が勇者になったのとは違い、ワタシ達の知らない知識、術を持ってきては魔物を屠ろうとするという。神が出来るのならばワタシ達だってやって出来ないことはないと思っていた
でも違っていた
頼みの綱であったメル。彼女に、かなり難しいことを聞かされてすっかり意気消沈してしまった。と同時に、なんとかなるといつもユージに言い続けてきたことに少し後悔した
ある時、うっかり言ってしまった“言葉”…これが、彼の心を追い詰めるなんて思いもしなかった
「違う世界に住んでいるものを召還する…それは、まさに神の所業だよ。ボクの師そして、ボクら魔族の王・魔王様でさえ狙って特定の人を召還することは出来ない。やろうと思えばできるだろうけどさ、そんなことをしている暇は無いだろうしね。人や魔物、この世のあらゆる物を作った神だからこそ、異世界とのコンタクトも出来るのだろうさ」
ユージの心底がっかりした顔…
胸が痛んだ
なんとか彼を励まそうとした
「メルだってああ言ってくれたんだもの。希望はあるわ!」
『ああ。まだ希望はあるよな…』
「こっちに来れないのを悔しがるようにしてあげるんだから!!」
って皮肉言っちゃった…ワタシのバカ!!
その日、彼との進展を記事にしようとして机に向かっていた
窓の外は夕暮れ、オレンジ色の光が風に揺れる木々の隙間から見える
水晶玉にまだユージは現れていない。そろそろ、連絡があるはず…
言っている傍から水晶にユージが映った
『ミーリエル?仕事終わったから今から帰る』
「今どこなの?」
『車、運転中なんだよ』
「そうなんだ。気をつけて帰ってね」
やっと帰ってきた。早くユージと話がしたいそう思うと…知らずに鼻歌がでてしまう
でも、心の底では早く会いたいと言う気持ちがひしひしと胸を圧迫する
“ワタシだって…会いたいよ…”
何気なく漏れ出てしまった…。聞こえていないわよね?
水晶の中の彼はいつものように運転をしている
大丈夫。聞こえていなかったようだ
危ない危ない…。これはタブーになってしまっている。もしこれが聞こえてしまっていたら、とても悲しませることになってしまっていただろう
家に帰ってきたユージ
ワタシの顔を見ると一瞬少し寂しそうな…いえ…考え込むようなそんな顔をした
それから、時々深刻な顔をして考え込んでいることが多くなった
どうしたのって訪ねても“心配いらないよ”って言うばかり
ある日、ユージはメルと話したいという。できれば、ミーリエルは席をはずしてくれないかとも…
なんだろうか…不安が心によぎる
メルとふたりっきりで内緒話…仲間はずれにされたみたいで少し悲しい
ふたりきりでの話は、世界を飛び越える為の手段についてだった
あの言葉で追い詰められたユージはすべてを捨ててでもこちらに来る決心を決めていたらしい
再び雷にうたれて命が危うくなるとしても、こちらに来たいと…
どうして?…どうしてそんなふうに思いつめたの?
『最初の雷を受けてもうダメだなと思った。自分が生きていると実感したとき、なんでもしてやろうと…。どうせ、拾った命なんでもしてやろうと…』
拾った命?!…それならば何でも出来るなんて!無茶もいいところだわ!!
死んじゃったらどうする気だったのよ!
『たぶん、大丈夫だと思ったんだ。最初に雷を受けた時に奇跡的に助かった。そして、奇跡のようにカメラにこの世界が映り、奇跡的に君を探し出すことが出来た。そして、言葉を交わすことが出来た。これだけ、奇跡が起こったんだ。だから何とかなるんじゃないかってね』
そう言って、思い出すように目を瞑って少し笑った彼…
くそう…あんなにも心配したのに…
でも、ワタシも心の底ではまた奇跡が起きてくれるかもって思ってた
なんとかなるんじゃないかって…
メルの雷撃…
次の瞬間、雷撃が爆発したかのように弾けるとそこには人が倒れていた
ユージだ!!
あわてて駆け寄る
酷くぐったりとしてる…
糸繰り人形のように力なげに手足がだらんとしている
「ミーリエル!ボクが回復魔法をかける!」
メルの言葉によく見てみると、肩から腕にかけて酷いケガをしているようで大量の出血をしていた
肉の焼けたような嫌な臭いがする
服は一部焦げ、融けたようになってしまったような所もある
服の隙間からは赤くただれた肌が見えた
「ワタシは?」
「ずっと抱いているんだ!離すんじゃないよ?そして、気が付くまで呼びかけ続けるんだ!!」
「わかったわ!」
ワタシはずっと抱きながら呼び続けた
後から聞いたところ、ワタシ達魔物から放出される魔力は人を保護する力を持っているからワタシ達の魔力で包み込めば彼は死なずに済むということだったらしい
苦しそうな顔をして、少しずつ目を開けたユージ
「ユージ!」
やっと気が付いてくれた
ワタシは泣いてしまった
彼の額に顔をつけて無事を心の底から喜んだ
「っ…ミーリっ…エルっ…」
弱弱しかったけれどしっかりとワタシの名を呼んでくれた
そして、ワタシの存在を確かめるように頬をなでた
力が出ないのかすぐに手を離してしまった
生きている!わたしは、その時ほど、すべてのものに感謝した
よかった…ほんとうによかった…
なんだかいろいろといいたいことがあったみたいだけど…言い終わる前にがっくりと気を失ってしまって本当に心配したんだから!
あれから、不眠不休で世話をして、気が付いてくれた
その後、結ばれることも出来た…
一緒に暮らし始めると、 何かにつけて田舎暮らしにあこがれていたから…と言っては、何かをやりたがる
何とか動けるようになって、いきなり斧と薪を持ってきて割ろうとしたのにはさすがに驚いた
肩から上に腕を上げるたびに痛むのか、顔を歪めるのを見ると、まずは体の治療に専念してほしいと思う
「せっかくの田舎暮らしだよ?私も何かしたいんだよ」
とは言うけれど、ユージは何かにつけて不器用だ
科学とかいう便利な生活に慣れきった生活をしていたからか、魔法というものをあまり理解できていないのか、火をつけるのも井戸から水を汲み上げるのもいろいろと見ていて危なっかしい
そして、腕もあの通りだから本当に心配になる
やはり、ここはワタシがユージを幸せにしないとね♪
ワタシと会うために故郷まで捨てさせてしまった
二度と帰れない故郷。その精神的な負担はワタシにも想像できない…けれど、それを感じさせないほどの幸せを注げばきっと…!
12/03/09 22:36更新 / 茶の頃
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