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蜥蜴記者の回想録:もう一つのレンズの向こう側C
季節が過ぎ、あちらはとても暑いのかよく薄着をしているのを見かけるようになった
仕事から帰ってくると一番に服を脱ぐ。そして、パンツとシャツ一枚のまま歩っているのを見かける。ワタシが覗いているのがわかると慌てて服を着てしまう。恥かしがることないのに…覗いているのはいつものことなんだから、気にしないで普段のままの生活を見せてよ

その日も、そうしてあちらの様子を見ているときだった
あちらの窓の外は大荒れだった
突然のまばゆい光。大粒の雨が降っているのだろう木々は揺れ動き、すごい風になびいている
何度も稲光がしていた
どこからか、ゴロゴロと雷の音が聞こえたように思った
ワタシは、彼がどうしているのかを見たくて部屋の中を移動する
そんなときだった。部屋の片隅…窓辺で、腰が抜けたようにうずくまっている彼を見つけたのは…
どうしてしまったのか…ワタシは慌てた。なんとかしてあげたくても、どうすることもできない
そんなとき、ワタシは気が付いたのだった
あの雷撃を受けたとき、持っていた水晶玉から音が出ているのに気が付いたのは…
壊れたと思っていた水晶玉から、音が出ている!しかも、大雨と雷の音が!


 あの時の興奮は忘れない!
 それからだ。彼と言葉を交わせるようになったのは…
 その声を聞いたとき…ワタシはどんな顔をしていただろうか?
 彼に聞いてもわからないと言われた
 夢にまで見た言葉の交換…。使っている文字は違っていたのに、こうして…話すことのできる幸せ…
 「ワタシの名は、ミーリエル。よろしくね」
 「私は、勇治です。こちらこそよろしく」
 ユージ…。聞いたこともない言葉の響き。その名を深く心に刻み込んだ

それから、ワタシはとにかくユージを質問攻めした。聞きたいことなど山のようにある
彼のこと、年齢とか、恋人はいるのかとか、どんな子が好きなのかとか…。性経験はあるのか?とか、どうやって性欲を処理しているのかとか、オナニーはどのくらいのペースでしているのかとか…
年齢とか他愛もない質問はきちんと答えてくれたのに、性経験のこととかになると苦笑いをして“ノーコメント”と言うようになった。どういう意味?答えたくないと言うこと?それでは、記事にならない…まぁ、おいおい聞き出そう
ユージからは、こちらの世界のことをくわしく知りたがっていた。剣と魔法のファンタジー世界がどうとか言っていた
神と魔物と人の世界で、魔王がいて争っているというと、“RPGの世界か!”といってなんだかすごく興奮していた
けど、魔王がサキュバスで魔物すべてが女の子になっちゃったと言ったときの顔といったら…
急に真顔になって、“私だったら剣を振り上げることはできないな。たとえ、食い殺されることになっても…女性に剣を振り上げることは出来ない…”そう、言っていた。食い殺されるなんて事はないのにねぇ…彼は、やさしい人なのだろう。いつも柔和な笑顔を浮かべているユージ。性格を現しているのだろうそのどこかのほほんとした雰囲気。ちょっと頼りなさげだけれど…その頃のワタシはときどき彼にもたれてみたくなっていた
雷を受けても、生死をさ迷いながらも死ぬことなくそこにいる人。強靭な生命力。この人はそんなモノを持っている
魔法の電撃ではなく、自然界の雷。それは、どれほどのものだったのだろうか?
前に、パンツとシャツ姿を見た。首元や腕、足にかけて凄まじい痕が浮き出ていた。あれが雷の痕だったのだろう
あんなすごい雷をその身に受けても元気になった彼にワタシは、今や夢中になっていた。記事の読者にも好評だったけど、他の誰よりもワタシはこの人のことを知りたかった



いつだったか…ワタシは、彼の世界の結婚式について聞いていた
きれいな衣装を着て、神様に永遠の愛を誓って、永遠を示すリングを交わしキスをする…
やることはこちらとはあまり変わらない…。それを言うと…
『人の考えることなんて、どこも似たようなモノなんだね。愛が一生続く…か。素敵なことだよねぇ…』
腕を組んでうんうんと頷いて、そう言っていた。なんだか感慨深そうだった
式の後は、みんなの前でお披露目のセックスをするカップルも多いと、言うと…
『そんなことやるわけないでしょ!』と怒られてしまった
でも、愛を確かめ合うのを見せ付けて愛し合っているのを見てもらうのは、ワタシ達魔物では当たり前のこと…それが彼にはよく分からなかったらしい
ワタシも機会があったならば、魔物娘の式の様子を見せてあげたい…というと、こちらのを見せてあげられるから見てみる?と魅力的な提案をしてくれた
テレビとか言う機械で、その結婚の様子を見る

一通りの儀式を終えてテレビの中のカップルは式場を出ると、新郎が新婦を抱き上げていた…
なんだかその様子は、戦利品を獲得した戦士のようだと思った
もし…ワタシが誰かと一緒になることがあったなら…。ワタシもいい男を捕まえたえたぞーと抱き上げるかもしれない
そう思うと、途端にユージを持ち上げている光景が頭の中に浮かんだ
もしやる機会があったなら…やってみようと思う

そんなことを見聞きしたからか…
その夜、夢を見た
ワタシの家で二人並んで料理を作る夢。これが、故郷の料理だよ?なんて話を聞きながら一緒に作る夢だ
食材は同じようなものが多いから特には困らないみたいなことを言っていたような気がする
ただ、わしゃく?わしょく?とかいうものができないだとか…覚えている範囲ではそんなことを聞いた

実際、ユージの食べているものを教えてもらうと、わしょくとかいうらしいものを食べているという
どんなもの?と聞くと“うーむ。米を炊いて、肉より魚をたべることが多い?”とか、曖昧なことを聞いた。なんでも、魚を生で食べるとか…
生で食べて、大丈夫なのか?いまいち、彼の食生活を疑ってしまう
けれど、あーだこーだと言いながらワタシもそれを食べる夢…夢の中のワタシのお腹は…大丈夫だったのだろうか?
目が覚めると、いつもそんなことを考えて苦笑してしまう

 そんな夢を、ワタシはときどき見るようになった
 あちらの世界に、行ってみたい…行ってみたい!という好奇心や羨望のような想いがあるから、そんな夢を見るのだと思った
 だからこそ、早くあちらに行ったり、ユージをこちらに招待してみたい。そう思っていた。でも…そんなことはきっと、メルに相談すればなんとかなる…そう思っていた

12/03/13 20:48更新 / 茶の頃
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