出た。
　これから寝ようって時に出てきてしまった。
　黒光りする素早いあいつが。
　ただでさえ最近寝起きが最悪の日々を送っているというのに、寝始めすら不快にさせてどうしようというのだ。
　視界の端を、黒い影が駆け抜ける。
　慌てて目で追おうとするが、見失ってしまう。
　意識を集中、いや、部屋中に拡散させる。すぐに仕留められるように丸めた雑誌を構えたまま。
　ぞわり、と背筋に寒気が走る。もし足に上ってきたりだとかされたら気を失いかねない。
　カサリ
　と、背後でわずかに音が聞こえた。
　慌てて振り返る、が、しかし影も形も見当たらない。
　くそっ！こっちは早く寝たいんだよ！さっさと出てきてくれよ！ほんとに！

「はぁ〜い♥導くん」

　耳元でそう囁かれた。
　振り向きざまに一撃ぶち込んでやろうと、思いっきり雑誌を叩きつける。
　しかし。
「荒っぽい歓迎ね。感心しないわ」
　普通に受け止められた。
「それが私に対する態度なのかしら？私はあなた達の秘密を握っているというのに………ねぇ？」
　制服姿のデビルバグ、木鐘天雨(きがね　あまめ)は、ニタリと笑った。


　木鐘天雨はクラス委員長である。
　冷静沈着で常に周りのことを考えて動く、そんないわゆるクールビューティーキャラとしてクラスでは認識されている。
　それと高校生らしからぬプロポーションが相まって男子(またはそういう系の女子)からの人気は絶大だ。
　ちなみに僕も同じくクラス委員(二人一組の役員なのだ)で彼女と話す機会は多い。
　極端に杓子定規な奴でもなく、かといって馴れ馴れしすぎるわけでもない、とても話しやすい女子だという印象を持っている。


　しかし、どうも目の前にいるこの女はどうもそんなイメージと噛み合わないように思えるが……
「ほんと、ヒドいわよね。屋上で話し合うことがあるから来て、って言ってたのに」
　忘れてた………
　と、なると………
「待ってたら、ベルちゃんと導くんが入ってきて──その──色々とエッチなことしちゃうし」
　やはりその時見られていたのか……誰も入ってこなかったし大丈夫だろうと思っていたのだが。
　天雨は大きくため息をついた。
「はぁ………せっかく導くんに告白しちゃおうと思ってたのにな………」
　え？
　何言っているんだこいつは。
　まさか、話し合いは口実で本当は告るために僕を呼び出していたとかいうベタなあれなのか？
「なのに、目の前であんなの見せられちゃ………ねぇ？」
　お、おう。
　確かに残酷なことをしてしまったかもな。
「まぁ、嘘なんだけれどもね」
　そうだろうな。大体察しはついていた。
　しかし、彼女は今度は残念そうにため息をつく。
「反応が薄い。少し傷ついちゃうわ」
　それはすまなかった。だが、どうしろというのだ。
「それよりも、学校であんなことするのは感心しないわね……いくら契約とはいえ、ね」
　申し訳ない………いや、待て待て。
　なんで契約のこと知ってんだ？
「さっき、ベルちゃんの部屋でこれ見つけたから」
　と、ポケットから取り出したのはくしゃくしゃの契約書。あのプリントに偽装してた代物だ。
「ベルちゃん、私が盛った薬ですやすやと眠ってたわ………キスしちゃいたいくらいかわいい寝顔するのよあの子♥」
　…………
　それよりも、その契約書。
「？　あぁ、別に私がこんな風にしたわけじゃないよ、最初からこうだったわ。管理が雑ね」
　まじか。僕の命運を握ってる契約書がそんなぞんざいに扱われているのか……
「しかも、内容も雑……誓約がたった三つしかないとは………もしかして、導くんが誰にも盗られないとでも思っていたのかな？」
　それはそうだろう。僕みたいな冴えない男が何故取り合いの対象になるのか。
「ふむ…………ちょっといいかしら？」
　じろじろと僕を見る天雨。身体中を舐め回すようにじっくりじっくり観察してくる。
　ふいに彼女は僕のシャツを捲り始めた。
「……………ねぇねぇ、最近、いきなり気を失ったって事なかった？」
　あるにはあるけども。
「へぇ………ふぅん…………じゃあいけるかもね♥」
　思慮する天雨。
　そして、何かを思いついたように笑みを浮かべる。
　普段の、クラス委員をやっているときの彼女とは違い、なんだか妖しい笑顔だ。

「ふふふ───えい♥」

　いきなり、見た目にそぐわない大きな力で振り回され、気が付けばベッドに転がっていた。
　天雨が、僕に覆い被さっている。
「ねぇ、油断してた？虫の魔物娘だからって油断してたかしら？」
　ようするに、押し倒されたのである。かなり乱暴ではあるが。
「結構強いわよ〜虫の力って」
　天雨の言うとおりだ。今、手を押さえらつけられているのだが、びくともしない。
「さすがに童貞奪っちゃうのはベルちゃんに申し訳ないから本番はしないであげる──それ以外のことは全部シちゃうけど♥」
　目の前にある彼女の目が、ギラギラと輝く。
　だが、僕にはベルという主人が──
「百も承知よ。私ね───あれ？何て言ったらいいのかな───そうね、『群体嗜好』とでも言うのかな？」
　軍隊思考？
「群れる、体、嗜む、好き、よ。とにかく、私ね、輪姦とか乱交みたいなシチュエーションに憧れるのよね♥セックスしながら女の子同士でキスしたり、たくさんのチンポに囲まれてドロドロになりながらシちゃうの♥」
　………つまりなにが言いたいんだ？
「つまりね。私の最終目標は『導くん、ベルちゃん、私で３Pセックスをする』ってことなの♥ベルちゃんと導くんを見ててビビッと来ちゃったわけ♥」
　……………
「ベルちゃん、きっと導くんのこと独占したいだろうし、いい案が思いつくまでの小休止よ。ベルちゃんが大好きなあなたの味も体験しておきたいしね♥───────ちゅ」
　そう言って彼女は僕にキスをする。
「ちゅっ、ちゅっ、ちゅるる、んっ」
　やはり、ベルと同じく激しく僕の口内を吸い上げてくる。
「ちゅぽ………じゅるる」
　口を離し、糸を引く唾液を吸い上げる。
「ふふふ………確かに、ベルちゃんが選んだだけあるわね………♥」
　彼女はドサリと僕の上に倒れ込む。
　胸板の辺りにベルでは感じることのできない柔らかい感触が……
「あ、勃起しちゃった？………ふふふ、ベルちゃんにはおっぱいないもんね〜」
　悪戯な笑みを浮かべ、耳元で囁く。
「まだせーし溜めといてね♥あとでシコシコシてあげるから♥」
　耳の穴を、かっぽじれとはよく聞くフレーズだが。
「れろっ」
　舌でほじられるとは思わなかった。
「すっごい反応してるね。耳弱いの？」
　クスクスと笑う天雨。弱みを握った小悪魔のようだ。
「ちゅる、んっ、ちゅる、ちゅく……めちゃくちゃビクビクしてる……かわいい♥」
　耳の穴の中、その周りを丹念に舌先で舐め回す。舌が少し動くだけで身体が震えてしまう。
「はむっ」
　しまいには、耳たぶを唇で食まれる。
「むっ、ちゅー、ちゅっ、はむん、はぐっ、はぐっ」
　彼女が口離す頃には耳たぶはよだれでベトベトだった。
　だが、僕はそれどころではなかった。力を抜いたら気絶してしまいそうなほどの快楽の余韻が身体を流れていた。
「クセになりそ♥……じゃあ、今度は」
　天雨は、ずるずると下に下がっていき、テントを張った僕のペニスを見つめる。

「こっちをいただこうかな？」

　ジッパーを下ろし、ズボンを脱がせ、パンツもおろしていく。勢いよく押さえられていたペニスが跳ね上がった。
「うそ………おっきい♥」
　そう……なのか？
　あまり自覚はないのだが。
「はぁ─はぁ─すごい──こんなの口に入るのかな？」
　息が荒くなるほど興奮し、それでも焦らずゆっくりとペニスに唇を近づけていく。
「ちゅ」
　亀頭に、やはりベルとは比べものにならないほどの柔らかくぷにっとした唇が当たる。
　まるで、電撃が走ったかのようだった。
「んんっ……んっぐっ、んむっ…………はひっらよぉ♥」
　大きい(彼女曰く)ペニスを丸々と飲み込んでしまった。喉まで達しているのだろう、声を出す度に小さな震えが伝わってくる。
　キツく、締め上げるようなベルの口内とは違って、彼女の口内には包み込むようにしている。
「ふごふね…………じゅぷ、じゅっ、じゅっ、じゅるる、じゅぽっ」
　そんな彼女のもはや柔らかいと言ってもいいかもしれない口が、僕のペニスをしごいている。
「じゅるるるっ、ちゅっ、ふごい、ふほいよぉ♥」
　息苦しいのか、目には涙を浮かべている。それでも彼女は口を止めない。
「んごっ、んっ、じゅぞぞぞ」
　そろそろ来そうだ。
「でほう？いいお、らかでほいのらひてぇ！」

　ビュルルル！ビュルルルルルル！

　口の中に精液が溜まっていくのがわかる。先端が、唾液とは違った生暖かい液に浸っていくのがわかる。
「へ、へへへ………♥」
　ごくり、とゆっくり精液を喉に下していく。びくり、と彼女の身体が跳ねる。
「んっ、んくっ………はぁ──はぁ──はぁ──全部ごっくんしたよ♥どうくん♥」
　目を輝かせ、こちらを何かねだるような顔をして見つめてくる。
　まるでペットのようだ、と思いながら、彼女の頭を撫でてやる。
　赤茶色のシルクのような髪の毛。撫でる度に、頭の触角がぴくぴくと嬉しそうに動く。
「♥　いいかもね、ペット♥私、導くんのペットになる♥」
　飼うなら犬とかなのだけれども……まぁいいや。
「じゃあ………もっとペットにちゃんと愛情注いでくださいね♥」
　天雨はブレザーを脱ぎ捨て、ブラウスのボタンを外していく。
「もっと………せーしくださいな♥」


　やはりこれもベルでは作り上げることのできない光景であろう。
　見ているだけでもベルに申し訳なくなってくる。
「んしょ、えいっ」
　世間一般で言うパイズリである。しかも、着衣しながら。ボタンを開けたブラウス隙間からペニスを挿しこむ。すると彼女の豊満な胸の谷間からペニスが顔をのぞく。
「ふふふ……気持ちいい？」
　極上である。
「よかった♥」
　そのまま彼女はペニスを上下に擦るように動き始める。
　さっきの唾液やら精液やらが潤滑油になってスムーズに動く。
「ふふふ…………」
　柔らかくて、すべすべしていて……どうしようもなく興奮してしまう。しきりにペニスがびくびくと動いてしまう。
「ねぇ？出そう？まだなら……」
　とどめに、彼女は両腕で胸を挟み、圧迫してきた。僕はたまらず射精してしまった。
　谷間から、噴水のように精液が飛び出る。
「はむっ………んんんっ♥」
　慌てて彼女は口で受け止めて、ごくごくと飲み干していく。しかし、舌が亀頭に当たり、その感触に僕はさらに射精を強めてしまう。
「────っ♥────っ♥」
　長い射精が終わると。
「はぁ───はぁ───いっはい、れたよぉ♥」
　彼女は真っ白に染まった口内を見せつけてきた。
　ドロドロとした精液が彼女の舌にのっかっている。いつもはクラス委員として話し合うだけの彼女の舌に。
　心臓が早鐘を打つ。いつもの彼女の姿がすべて淫らに思えてきてしまう。
　あぁ、そうか。僕は彼女を犯してしまったのか……
　そのとき僕はやっとそのことを自覚したのだった。
「んくっ、んくっ…………」


「ごちそうさま♥」



　翌日。
　僕は廊下を歩く。隣にはベルがいる。
　すると、向こう側から天雨がやってきた。
「…………」
　僕は、できるだけ平常心を保って彼女の横を通り抜けようとする。
「……──」
　彼女が何か呟く。それと同時に、素早く僕の手に何かを握らせた。

　教室に入って、誰にも見られないように僕は握らされたメモを読む。
『放課後、話し合いね』
　………
　どうにもお前等はTPOという言葉を知らないらしいな。
　それだけはわかったよ。


『お願いね、飼い主さん♥』

■作者メッセージ
子供の頃どうぶつの森で、動きが面白いから部屋にゴキブリを置くという今思えば気持ち悪いことこの上ないことをしていた鯖味噌です。
あと２〜３話で終わると思います。