剣と槍と
里に残った残党は母上の指揮の下、迅速に捕らえられた。
もともと、あの魔導師は相当な自信家らしくこの里も自分1人で落とす気だったようだ。恐ろしいのはそれに見合う実力があったことだが、死んだ今となっては意味は無い。
その魔導師が最低限の保障としてそこそこの実力のある傭兵を雇い襲わせたのだった。
襲撃事件の大勢がほぼ決した時、母は泣き叫ぶ私を見つけた
手首から先がない男を抱きしめながら男の名前を叫ぶ私を
・・・・・・・・
『・・・・・・・・・クー!!』
俺が目を覚ますと、視界いっぱいに金色
『よか゛・・・・・・・・・ヒグッ・・・・・・よがった・・・・・・・・』
フューが涙やら鼻水やらいろんな液体でグチャグチャになった顔で、泣きながら笑ってこちらを覗きこんでいた。
『い、い゛ま゛、お゛いじゃざん゛を、・・・・グズッ・・・・・、よん゛でぐぢゅがりゃな゛!!』
医者を呼んでくると言ってフューは部屋を出て行く。
見送ったまま部屋を見回してみる・・・・・・・・
ここは・・・・・・・・
どうやらフューの自宅の一室らしい。
一年前、泊められた時にあてがわれた部屋のようだ。
起き上がろうと腕に力を入れr・・・・・・・・・・
ズルン
こけた。
右手に何も引っ掛からない
ズルン
もう一度力を入れても同じだった
妙に軽い感じがする
左腕に力を入れて起き上がる
妙に軽い感じがする右腕を見る・・・・・・・・・・・・
ああ・・・・・・・・・
あの感覚は本当だったのか・・・・・・・・・・
爆炎魔法を右手で突き破ったとき、末端から消えていく感覚
呆然と、今は無い右手を見つめていると、乱暴にドアが開けられフューが医者を文字通り引きずって来た。
「火傷や傷の方は魔法薬でだいぶ癒えてきました。・・・・・・・・・・ですが、・・・・・・・・すみません、右手の方は・・・・・・・」
『そんな・・・・・、クーは・・・・・・里を・・・・・・・私を護ってくれたのに・・・・・・・・そんなことって・・・・・・・』
『そう・・・・・・ですか・・・・・・・』
すみません、と言って医者は部屋を出て行く。
里にはまだ怪我人が居るのだろう。ここに引き留めておくわけにはいかない。
入れ違いでフューの母親、ミラルドさんが入ってくる。
俺の右手のことを既に知っているのか沈痛な面持ちだ・・・・・・・・
『・・・・・・・・・・・・・』
『・・・・・・・・・・・・・』
「・・・・・・・・・・・・・」
気まずい無言の時間が流れる・・・・・・・・・・
『なぁ・・・・・』
『あの!!』
耐え切れなくなった二人が同時に声をあげる
『な、なんだ??クー?』
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・すまない・・・・・・・・・・・・・・少し、一人にしてくれないか・・・・・・・・』
静かにそう言うと、フューは心配そうに、まだ何か言いたそうな様子だったがミラルドさんに連れられて部屋を後にした。
右手、いや・・・・・右手があった場所を見る
先端は包帯に包まれ傷口は塞がれている
ふとベットの近くに俺の槍が立て掛けてあるのを見つける。
左手で持ち上げてみる・・・・・・・・・・
重い
振り回せないわけではないが・・・・・・これでは・・・・・・
槍をその場に立て掛け、ベッドに座る
左手を見つめる・・・・・・・
この手で・・・・・・・護れるのか?
あの魔導師のような敵から、フューを・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・
『ぐあああああああ!!!!』
「ハハハ!!!私の勝ちですね!!!」
『ぐ・・・・待て・・・・・・』
「弱いくせにこんな上玉連れてんじゃねえよ!!」
『が・・・・フュー・・・・・』
『すまんな・・・・・・・クーレスト』
『私は、お前をもう愛せない』
・
・・・
・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・・
!!!!?????
今、想像したことを振り払うように首を振る
だが、頭からこびり付いて離れない
妄想の中で、フューが男と一緒に歩いていく・・・・・・・
・・・・・・・・その男は、俺ではない
耐えられない
耐えられない・・・・・・・だが・・・・・・
今の俺では・・・・・・・フューを護ることはできない・・・・・・
フューを幸せに出来ない・・・・・・・
・・・・・・・・・・・去ろう
ここに、俺の居場所はない・・・・・・・
俺より、フューに相応しい男が現れることを願って・・・・・・
・・・・・・・俺でないことが残念だが
これが
これが、フューの幸せの為だ
一年前と同じく、窓を開け、ベランダから降りようとする・・・・・・・
『・・・・・・何処に行く?』
そこには、今まで思っていた愛しい人が居た。
『お前には前科があるからな、すまないが張らせてもらった。』
『なんで、俺がベランダから出ると?』
『一年前と同じ様に出て行くと思ったからさ。愛する者の考えることくらい簡単に分かるんだぞ。』
愛する者
一番嬉しい言葉の筈なのに、今は深く心に刺さる。
『なあ・・・・・・』
『なんだ?』
『その話だが・・・・・・・・『聞きたくない!!!!』
声を荒げるフュー。
だが、聞いてもらわなければ
『聞いてくれ!!!俺はもう、こんな状態になっちまった!!』
『だからなんだと言うんだ・・・・』
『だから・・・・・・・・だから、俺よりも、強い男を、捜して・・・・・・幸せになってくれ・・・・・・』
風が二人の間を駆ける。
『・・・・・・・・ゃ・・・・・・』
『・・・・・フュー』
『嫌だ!!!!!!』
『フュー、分かってくれ!お前の為なんだ!!』
『嫌だ!!そんな事は・・・・・絶対に認めない!!!』
『俺は、俺では、お前を、幸せに出来ない・・・・・』
『!!?』
その言葉を聴いた時、フューの瞳に涙が溢れ出す
『ふざけるな・・・・・・・』
『フュー・・・・?』
『4年間・・・・・・・・旅をして、やっとお前を見つけて、見つけたのに、一年間待って、一年我慢したと思ったら諦めろだと??ふざけるのも大概にしろ!!!!!!』
『ふざけてなんかいない!!!』
『ふざけている!!!!私には・・・・・・私には・・・・・・』
『私には!お前しか居ないんだ!!!!!』
今度は、こちらの時間が止まる
『お前には、3回も命を助けられた。遺跡から引きずり出して、盗賊団から護ってくれて、里の危機からも救ってくれた・・・・・・その度に、お前に心奪われていったというのに・・・・・・』
『・・・・・・・・』
『私には、お前しか見えない・・・・・・・・私は、お前を愛している。大好きだ!!これ以上、何が足りないと言うのだ!?』
『・・・・・・・でも』
『でもなんだ!?お前は弱くなど無い!!!私を護ってくれた、誇り高き心があるじゃないか!!!それでも足りないというなら、私も腕を切り落とそう!!!』
『フュー!!!』
『だから・・・・・・・だから・・・・・・・・・・私の前から消えるなんて・・・・・・言わないで・・・・・・・お願い・・・・・・』
そう言って、俺の胸にすがってくる
涙をボロボロと溢しながら、小さな肩を震わせながら・・・・・・
『お前は・・・・・・私の事が嫌いか?嫌いになったのか?』
『・・・・・・』
『嫌いになってないなら・・・・・・頼む・・・・・・・・・・お前の本心を・・・・・・・本当の気持ちを聞かせてくれ・・・・・・・』
俺は・・・・・・・・
『好きだ・・・・・・・
フューのことが、大好きだ・・・・・・』
『ああ・・・・・ああ・・・・・・』
『俺で・・・・・・・俺なんかで・・・・・いいのか?』
『愚問だ。お前しかいない。私の夫に相応しいのはお前しかいない。』
フューの身体に腕を回し、抱きしめる。
腕の中に納まるほど細い体
『・・・・・・・右手など無くとも、私を抱けるではないか』
『・・・・・・・・・そうだな』
そう言って涙を俺の服で拭うと今度は俺を胸の中に納めた
彼女の特徴の一つでもある重量感満点の胸に包まれる
柔らけ・・・・・・・・
『不安になっていたんだろ?』
『・・・・・ああ』
『不安がなくなるまでこうしてやるからな。』
『子供だな、まるで。』
『ふふふ。・・・・・・・どうだ?安心するか?』
『ああ、柔らかくて・・・・・・すごく安心できる。』
『よかった・・・・・・・戦うときは邪魔で仕方ないが・・・・・・・・・キミにこんなことができるなら、悪くないな。』
『もっと強くなるよ・・・・・・』
『ん?』
『左腕だけで、お前を護ってみせる。』
『・・・・・・・・ありがとう。それでこそ、私の夫だ。』
俺たちはしばらく、そうやってお互いの体温を感じあっていた
ベランダで、影は一つになる
剣と槍はもう離れることはない
もともと、あの魔導師は相当な自信家らしくこの里も自分1人で落とす気だったようだ。恐ろしいのはそれに見合う実力があったことだが、死んだ今となっては意味は無い。
その魔導師が最低限の保障としてそこそこの実力のある傭兵を雇い襲わせたのだった。
襲撃事件の大勢がほぼ決した時、母は泣き叫ぶ私を見つけた
手首から先がない男を抱きしめながら男の名前を叫ぶ私を
・・・・・・・・
『・・・・・・・・・クー!!』
俺が目を覚ますと、視界いっぱいに金色
『よか゛・・・・・・・・・ヒグッ・・・・・・よがった・・・・・・・・』
フューが涙やら鼻水やらいろんな液体でグチャグチャになった顔で、泣きながら笑ってこちらを覗きこんでいた。
『い、い゛ま゛、お゛いじゃざん゛を、・・・・グズッ・・・・・、よん゛でぐぢゅがりゃな゛!!』
医者を呼んでくると言ってフューは部屋を出て行く。
見送ったまま部屋を見回してみる・・・・・・・・
ここは・・・・・・・・
どうやらフューの自宅の一室らしい。
一年前、泊められた時にあてがわれた部屋のようだ。
起き上がろうと腕に力を入れr・・・・・・・・・・
ズルン
こけた。
右手に何も引っ掛からない
ズルン
もう一度力を入れても同じだった
妙に軽い感じがする
左腕に力を入れて起き上がる
妙に軽い感じがする右腕を見る・・・・・・・・・・・・
ああ・・・・・・・・・
あの感覚は本当だったのか・・・・・・・・・・
爆炎魔法を右手で突き破ったとき、末端から消えていく感覚
呆然と、今は無い右手を見つめていると、乱暴にドアが開けられフューが医者を文字通り引きずって来た。
「火傷や傷の方は魔法薬でだいぶ癒えてきました。・・・・・・・・・・ですが、・・・・・・・・すみません、右手の方は・・・・・・・」
『そんな・・・・・、クーは・・・・・・里を・・・・・・・私を護ってくれたのに・・・・・・・・そんなことって・・・・・・・』
『そう・・・・・・ですか・・・・・・・』
すみません、と言って医者は部屋を出て行く。
里にはまだ怪我人が居るのだろう。ここに引き留めておくわけにはいかない。
入れ違いでフューの母親、ミラルドさんが入ってくる。
俺の右手のことを既に知っているのか沈痛な面持ちだ・・・・・・・・
『・・・・・・・・・・・・・』
『・・・・・・・・・・・・・』
「・・・・・・・・・・・・・」
気まずい無言の時間が流れる・・・・・・・・・・
『なぁ・・・・・』
『あの!!』
耐え切れなくなった二人が同時に声をあげる
『な、なんだ??クー?』
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・すまない・・・・・・・・・・・・・・少し、一人にしてくれないか・・・・・・・・』
静かにそう言うと、フューは心配そうに、まだ何か言いたそうな様子だったがミラルドさんに連れられて部屋を後にした。
右手、いや・・・・・右手があった場所を見る
先端は包帯に包まれ傷口は塞がれている
ふとベットの近くに俺の槍が立て掛けてあるのを見つける。
左手で持ち上げてみる・・・・・・・・・・
重い
振り回せないわけではないが・・・・・・これでは・・・・・・
槍をその場に立て掛け、ベッドに座る
左手を見つめる・・・・・・・
この手で・・・・・・・護れるのか?
あの魔導師のような敵から、フューを・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・
『ぐあああああああ!!!!』
「ハハハ!!!私の勝ちですね!!!」
『ぐ・・・・待て・・・・・・』
「弱いくせにこんな上玉連れてんじゃねえよ!!」
『が・・・・フュー・・・・・』
『すまんな・・・・・・・クーレスト』
『私は、お前をもう愛せない』
・
・・・
・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・・
!!!!?????
今、想像したことを振り払うように首を振る
だが、頭からこびり付いて離れない
妄想の中で、フューが男と一緒に歩いていく・・・・・・・
・・・・・・・・その男は、俺ではない
耐えられない
耐えられない・・・・・・・だが・・・・・・
今の俺では・・・・・・・フューを護ることはできない・・・・・・
フューを幸せに出来ない・・・・・・・
・・・・・・・・・・・去ろう
ここに、俺の居場所はない・・・・・・・
俺より、フューに相応しい男が現れることを願って・・・・・・
・・・・・・・俺でないことが残念だが
これが
これが、フューの幸せの為だ
一年前と同じく、窓を開け、ベランダから降りようとする・・・・・・・
『・・・・・・何処に行く?』
そこには、今まで思っていた愛しい人が居た。
『お前には前科があるからな、すまないが張らせてもらった。』
『なんで、俺がベランダから出ると?』
『一年前と同じ様に出て行くと思ったからさ。愛する者の考えることくらい簡単に分かるんだぞ。』
愛する者
一番嬉しい言葉の筈なのに、今は深く心に刺さる。
『なあ・・・・・・』
『なんだ?』
『その話だが・・・・・・・・『聞きたくない!!!!』
声を荒げるフュー。
だが、聞いてもらわなければ
『聞いてくれ!!!俺はもう、こんな状態になっちまった!!』
『だからなんだと言うんだ・・・・』
『だから・・・・・・・・だから、俺よりも、強い男を、捜して・・・・・・幸せになってくれ・・・・・・』
風が二人の間を駆ける。
『・・・・・・・・ゃ・・・・・・』
『・・・・・フュー』
『嫌だ!!!!!!』
『フュー、分かってくれ!お前の為なんだ!!』
『嫌だ!!そんな事は・・・・・絶対に認めない!!!』
『俺は、俺では、お前を、幸せに出来ない・・・・・』
『!!?』
その言葉を聴いた時、フューの瞳に涙が溢れ出す
『ふざけるな・・・・・・・』
『フュー・・・・?』
『4年間・・・・・・・・旅をして、やっとお前を見つけて、見つけたのに、一年間待って、一年我慢したと思ったら諦めろだと??ふざけるのも大概にしろ!!!!!!』
『ふざけてなんかいない!!!』
『ふざけている!!!!私には・・・・・・私には・・・・・・』
『私には!お前しか居ないんだ!!!!!』
今度は、こちらの時間が止まる
『お前には、3回も命を助けられた。遺跡から引きずり出して、盗賊団から護ってくれて、里の危機からも救ってくれた・・・・・・その度に、お前に心奪われていったというのに・・・・・・』
『・・・・・・・・』
『私には、お前しか見えない・・・・・・・・私は、お前を愛している。大好きだ!!これ以上、何が足りないと言うのだ!?』
『・・・・・・・でも』
『でもなんだ!?お前は弱くなど無い!!!私を護ってくれた、誇り高き心があるじゃないか!!!それでも足りないというなら、私も腕を切り落とそう!!!』
『フュー!!!』
『だから・・・・・・・だから・・・・・・・・・・私の前から消えるなんて・・・・・・言わないで・・・・・・・お願い・・・・・・』
そう言って、俺の胸にすがってくる
涙をボロボロと溢しながら、小さな肩を震わせながら・・・・・・
『お前は・・・・・・私の事が嫌いか?嫌いになったのか?』
『・・・・・・』
『嫌いになってないなら・・・・・・頼む・・・・・・・・・・お前の本心を・・・・・・・本当の気持ちを聞かせてくれ・・・・・・・』
俺は・・・・・・・・
『好きだ・・・・・・・
フューのことが、大好きだ・・・・・・』
『ああ・・・・・ああ・・・・・・』
『俺で・・・・・・・俺なんかで・・・・・いいのか?』
『愚問だ。お前しかいない。私の夫に相応しいのはお前しかいない。』
フューの身体に腕を回し、抱きしめる。
腕の中に納まるほど細い体
『・・・・・・・右手など無くとも、私を抱けるではないか』
『・・・・・・・・・そうだな』
そう言って涙を俺の服で拭うと今度は俺を胸の中に納めた
彼女の特徴の一つでもある重量感満点の胸に包まれる
柔らけ・・・・・・・・
『不安になっていたんだろ?』
『・・・・・ああ』
『不安がなくなるまでこうしてやるからな。』
『子供だな、まるで。』
『ふふふ。・・・・・・・どうだ?安心するか?』
『ああ、柔らかくて・・・・・・すごく安心できる。』
『よかった・・・・・・・戦うときは邪魔で仕方ないが・・・・・・・・・キミにこんなことができるなら、悪くないな。』
『もっと強くなるよ・・・・・・』
『ん?』
『左腕だけで、お前を護ってみせる。』
『・・・・・・・・ありがとう。それでこそ、私の夫だ。』
俺たちはしばらく、そうやってお互いの体温を感じあっていた
ベランダで、影は一つになる
剣と槍はもう離れることはない
10/10/29 18:53更新 / 腐乱死巣
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