襲撃と右手と
『ど、どういうことだ!!』
「とにかく!!里が今大変なことになってるんです!!」
『落ち着け2人とも!!見張りは何してたんだ!?』
いきなりの報告に慌てるフューと慌てて報告に来たリザードマンの二匹のトカゲを落ち着かせ詳しい状況を聞き出す。
その間にフューは鎧を着て弾き飛ばされた剣を探してくる。
「少数で来たらしく、見張りの目を潜り抜けたと思われます。」
『里の被害はどれくらいだ?』
「・・・・・・・・・4分の1が壊滅状態です。」
『4分の1!!!??』
「敵部隊に高位の魔術師がいるらしく、見張りが気づいた時には既に強力な火炎魔術で・・・・・・・」
『そんな!?まずいぞ、2発目が来たら・・・・・・』
『・・・・・・・母上と父上は!!??』
「それが・・・・・・・襲撃の2時間ほど前にあるリザードマンが人間の大部隊が攻めてくると言って里に駆け込んできまして、それを信じた族長は里の主力を連れて討伐に・・・・・・・・・・後になってそのリザードマンが精神支配の魔術を受けていることが分かって・・・・・」
『はめられた、ということか・・・・・・』
『くっ!!・・・・・・急ごう!!里が・・・・・・・・里が危ない!!!』
走りながら報告された状況から推測する。
少数ということは誰か強力なリーダーがいる
高等な精神支配魔術、里の4分の1を焼き払う強力な火炎魔術。
おそらく、その魔術師がキーマンだろう。
とにかく、今は里に急ごう。話はそれからだ。
里は酷い有り様だった。
家は燃え、何処からともなく悲鳴が聞こえる。
私の里が・・・・・・・・・
誰だ?
リザードマンの誇りを傷付け
愛する平和な里を壊した者は誰だ!!!!
『くっそおおおおおおおおおおおおお!!!!』
私は怒りに燃え、敵を求め走り出した。
『おい!!フュー!!』
クーの呼び止める声も聞こえず
ギインッ!!
「惜しかったなぁ!!!」
「くっ・・・・・」
目の前で傭兵らしき男がリザードマンの剣を弾き、下品に笑う。
私にの怒りに油を注ぐだけの光景に、私は剣を抜く
「ああ?・・・・・・ぐぷぉ!」
閃光の様な私の速さに追いつけず、傭兵の男は心臓を突かれ、咽喉笛を切り裂かれて絶命した。
「フューちゃん・・・・・なの?」
助けたのは幼馴染みの1人、アニスだった。
だが今の私にはそれを認識する余裕もない。アニスも怒りに燃える私を見て戸惑っている。
そこへ・・・・・・
「うーん?・・・・・簡単に殺られるような輩は集めてないはずなんだけどなぁ・・・・・」
戦地にそぐわない余裕の溢れきった声。
脂ぎった蛇のような、自分が死ぬとは考えていないような声。
とても不快だ。
「おや?こんなところに怒りに燃えるトカゲが一匹。」
現れたのは真っ白な生地に豪奢な装飾が付いたローブ着た男だった。
『キサマガ・・・・・・』
「んん??ああ、これですか?ええ、僕のせいですよ。」
『キサマカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!』
「フューちゃん!!!」
絶対に!!絶対に許さん!!!!!
怒りのままに双刃を男に振るう。
『!!??』
「ふふん。」
男はニタニタと笑いながら剣をかわす
バカな!!こんな男に遅れをとる筈は・・・・・・
「よっとぉ」
『ぐあ!!』
スイスイとかわしながら2つの剣の隙をついて男の手のひらがが鳩尾に触れ小規模な爆発魔法が私を吹き飛ばした
ありえない・・・・・・私の剣が・・・・・・
「ダメダメェ、トカゲさんの剣せっかく美しいのに怒りに曇らせたら僕でも避けられるよ。」
『だ、ダマレえええええええええ!!!!!!』
瓦礫を吹き飛ばしながら奴に迫る
だが曇った剣は奴を捕らえず空を斬る
紙一重で避け続ける男、私の連撃の限界はすぐに訪れる
「ふふふん。僕、多少は武術の心得もあるんですよ。」
『ぐう・・・・クソクソクソクソ!!!』
渾身の力で双刃振るう、空を斬る
そして
「つーかまえた。」
『は、離せ!!』
男に手首を捕まれた
振りほどく力が残らないまで剣を振るわせる・・・・・・・・こいつ、私の想像以上に・・・・・・・
「おやぁ?」
男の気持ち悪い視線が舐めまわすように私の顔を見つめ、身体を這いまわり、顔に戻ってくる
「トカゲさん、美しいですねぇ。タイプですよぉ。」
『な、・・・・・・・貴様!!愚弄するな!!』
「嘘なんかじゃありませんよぉ。どうです?私のペットになりませんか?」
『・・・・・・・ふざけるな!!』
「この状況でこの態度、ますます気に入りましたねぇ・・・・・・・・・ぐふふ・・・・・・・・」
『!!??』
男の腕が私を抱きしめる
蛇が獲物を捕らえるように巻きつき、腕が動かせない・・・・・
男に顎を捕まれ強制的に男の方を向かされる・・・・・
男の顔が迫ってくる・・・・・・まさか・・・・・・・・
血の気が引く
やめろ
それだけは
怖い・・・・・
たすけて・・・・・・
たすけて、クー・・・・・・・・・・・
『フュウウウウウウニイイイイイリイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!』
愛しい声がする。
一陣の風が吹き荒れる。
彼が・・・・・・来てくれた
アニスと名乗るリザードマンから状況を聞いた瞬間、俺はすでに駆け出していた。
フューが闘っているのはこの襲撃のリーダーだ。
普段なら心配はないが、今のフューは怒りに我を忘れている。
急がなければ・・・・・・・・
「おやおやぁ?男付きだった、と、は。」
男の脂ぎった蛇のような纏わり付くような気持ちの悪い声。不快だ。
「王子様の登場ってことですねぇ。感動的だなぁ〜。」
『クー!!』
『フュー無事か!!』
「無、視、ですか・・・・・・・・・<finger bomb>」
男が指先をフューに向け、爆発魔法を唱える
『きゃあ!!!』
『フュー!!!!!!』
「嫌だなぁ、冗談ですよぉ。」
『・・・・・・・貴様ぁ』
「彼女の美しい顔を傷つけたくなぁいですからねぇ。・・・・・・・・で・も、あなたが動いたら、手がぁ滑っちゃうかもなぁ・・・・・・」
『クー!!私に構うな!!!!コイツを・・・・・・ぐぅ!!』
「貴女は黙っててねぇ・・・・・・」
『大丈夫だ・・・・・・・』
「脅しは効きませんか。これは意外。」
槍を構え、全身のバネに力を込める・・・・・・・・・
「あなた、人間ですよねぇ。どして蜥蜴なんかの味方で戦うんですかぁ?ひょっとして、ば・か・?」
男の言葉には答えない。俺の怒りを誘うための見え透いた挑発だったから、
そして、それが愚問だったから。
戦う理由?
彼女の・・・・・・フューの目元に光る雫が見えた。
それだけで充分だろうが!!!!!!!!!!
大地を蹴り、奴に突貫する
男は俺の予想外のスピードにうろたえ、反応が鈍る
男の反応が遅れているうちに奴の懐にショルダータックルを打ちかまし、フューから男の腕を引き剥がす
フューを抱え体勢を立て直すためにその場を離れようとする・・・・・
<FLAME FIST>!!!
男の体勢が一瞬速く持ち直し、爆炎に包まれた拳が俺の腹部に打ち込まれる
『がああああああああああああああああああ!!!!!』
爆風でフューと共に吹き飛ばされる
だが、爆炎が炸裂する寸前に踏み切ったため被害は最小限に食い止めた
「貴様あああああああ!!!!!このボクに楯突くたあいい度胸じゃねえかああああああああああああああ!!!!!」
へへへ、さっきまでの冷静で余裕な様子はどこに行ったんだか
ざまみろ
拳を打ち込まれた腹が鈍痛を訴えてくる
だがそれに聞く耳を立てず、再度槍を構える
『クー!!!!』
俺を心配してか後ろからフューの叫び声が聞こえてくる。
そんな顔しなさんな・・・・・・・・・
お前は、俺が護る。
『ちょっと待ってて。』
フューを安心させるようにそっとつぶやき、再び大地を蹴った
今度は槍を奴に突き立てる為の突貫
奴はこの疾さに反応出来ない。
そう思っていた
<BURNING SPHERE>!!!!!
奴の右手から生まれた火球が目前に迫る
防御に使えるものが魔法処理のされた槍しかない・・・・・!!!
とっさに火球を穂先で受け止める・・・・・・・
高濃度の魔力の塊をギリギリで捌く、
と、そこのは奴が迫っていた。
しまった、奴の体術を忘れていた・・・・・・
爆風が再び俺を吹き飛ばす
今度は反対側だ
「ぎゃーはははははははははははははははははははは!!!!!そんな猪突猛進な突進が2回も俺に通じるかよ!!!!!!」
火球の方に強い魔力を込めたせいか、俺を吹き飛ばした爆発魔法にはそれほどの威力はなかった・・・・・・・・・・・が、
衝撃で槍を吹きとばされた
ちょうど、俺と奴の真ん中ほどに突き刺さっている・・・・・・・・
・・・・・・・どうする?
「万事休すだなぁ!!!!!!カッコつけてっからこうなんだよ!!!!この馬鹿が!!!!」
カッコなんかつけてねえよ・・・・・・
俺にはこれしかなかったんでな
槍で、目の前を突き破るしか
・・・・・・・・・ふ、そうだな。
槍を持たないまま構え、身体中のバネに渾身の力を込める
これしかない
「本物のおばかですねえ・・・・・・・・・」
突貫で奴の魔術より速く槍を取り、魔術を突き破って行くしかない・・・・・・・・・
奴の腕が赤く輝く寸前
俺は三度、大地にバネを叩きつけ加速した
右腕を槍に・・・・・・・・・・
いや・・・・・・・・奴の魔術の方が速い・・・・・・・
間に・・・・・・合わない・・・・・・・・
死ぬ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
『・・・・・・・・・・・・』
『・・・・・・・・・ウ・・・・・・・・・・・ウ・・・・・・・・』
『クウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
炎の魔術の向こう
奴の姿のさらに向こう
視界にフューの姿が写る
俺の名前を叫ぶ声が聞こえる
そうだ・・・・・・・・・・・・
俺は・・・・・・・・・・俺は・・・・・・・・・・・
負けるわけにはいかない!!!!!!!!!!!!!!
右腕を思い切り振るう
奴の爆炎はそれに従い、それる
そのまま槍を左手で掴み、奴に突貫する
バカな!!!、と信じられないものを見たような開きっぱなしの口の下
魔術師の詠唱の源であり、生き物の急所の一つ、咽喉元に槍を突き立てる!!!!!
いつでも、どんな胸糞悪い奴でも、
人間の肉を突き破った感触は気持ち悪いな・・・・・・・・・
確かな手ごたえと、奴の身体から力が抜け倒れる感触を感じながら
俺の意識は暗闇に支配されていった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
クーが奴の火球を素手で突き破り、咽喉元に槍を突き立てた時、勝負はついた。
正確に急所を射抜かれた男はゆっくりと地面に倒れた
次いで、クーも力尽き倒れこむ
同時に里には歓喜の声があがる。
母上率いる里の主力部隊が戻ってきたのだ
『クーーーーーーー!!!!!』
そんなことも気づかず、私はクーに駆け寄った。
怪我をしているに違いない。きちんと看病してやろう。
それが終わったら里を救った英雄として皆に称えられるだろう。
そして・・・・・・・・
そんなことを考えていた
私が彼の元にたどり着く・・・・・・・・・・・・
しかし・・・・・・・・・・・・・・・・
里の英雄の右腕には
手首から先が無かった
10/10/28 13:09更新 / 腐乱死巣
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