プロローグとエミリアの話
『おぎゃあ!』と、俺は生まれた。その瞬間、気づいた。あっ、俺前世覚えてるわ……。えっ、これもしかして●ろう系異世界転生ってやつ……? さて、生後1週間。この世界はどうやら前世で言う中世ヨーロッパ風の世界観であることがわかった。
そしてわかったことがもう1つある。それは……お袋、美人すぎません?俺の顔立ちもまあまあ整っているみたいなんだけど、どうも霞むわ……母親似なのだろうか? そんなことを考えていると、母親が声をかけてきた。
「どうしたの?考え事?」
俺があまりにも長く見つめすぎたせいで不審に思われたのだろう。
「うーあー!」
「あらあら、もう!可愛い子ね!」
そう言って優しく頭を撫でてくれた。それにしても綺麗な人だな……まるで聖女みたいだ。俺が前世で読んだ異世界転生物だと聖女とか魔王とかよくいるんだけど……まさか、この人が……?いや、そんなはずないか……。
それからさらに1週間が経ち、俺は今世での俺の父親を知ることになった。なんとその人もまたイケメンなのである。
「ほら、見てご覧?私たちの子だよ。」
父親にそう言われて2人とも優しく抱き上げてくれた。そして俺に話しかけた。
「元気に育ってくれよ?」
「あら、あなた。この子の名前を決めないとですよ?」
「ふむ……そうだな……」
父親は少し悩んだ後、こう言った。
「よし、決めたぞ!今日からお前の名前はルークだ!」
こうして俺ことルーク・ヴァンデミールが誕生したのである。
―――
そして月日は流れ、俺は6歳になった。その頃には俺は●ろうのチート能力と言うべきか、ある異能に目覚めていた。
簡単に言えば他人の考えていることが読み取れると言うものだ。しかし幸か不幸かその能力は読み取れる者に個人差があり、例えば両親の考えていることはよく分かるが、屋敷に居る使用人達(俺の家は伯爵らしい)の事は本当にぼんやりとしか読み取れない。
恐らくだとは思うのだが、これは所謂仲の良さ、ゲームとかで言うと好感度の強さが関係しているのではないかと思う。ちなみに屋敷の人達は皆俺に対して優しくしてくれた。まあ、伯爵様の子供だから当然といえば当然なのかもしれないが……。
そんなある日のこと、俺が暇つぶしに庭で遊んでいると、
『……やっと、やっと出会えた』
「……うん?」
何やら女の子が歩いてきた。赤い髪のかなりの美少女である。しかし、いまのはこの子の心の声か?俺と初対面だと言うのに、やけに鮮明だな。
『ルークはやっぱりここで遊ぶのが好きなんだね。前の時と同じだ……』
ん?前の時だって!?
「はじめまして。私の名前はエミリア。一緒に遊びたいから混ぜてくださいな!」
キラキラとした笑顔で女の子が声を掛けてくるけど、俺は彼女の考えた前の時という単語が気になっていた。しかし、その事を言って心の読める気持ち悪い奴だと思われたくないし、ここは無難に……
「いいよ。でも、君はエミリアっていうの?素敵な名前だね」
とだけ言っておこう。すると女の子はなぜか急に顔を真っ赤にして、
「ありがとう……ルーク」
と言った。えっ……?何で赤くなってるの?俺なんか変な事言ったっけ?まさか、もしかして『名前褒めてくれた嬉しい』とか考えてたのかな?と思っていると
『ヤバい!我慢はするけど今すぐにでもルークを押し倒したい!』
と言う声が聞こえた。えっ?今のエミリアの?いやまさか、俺と同年代くらいのこんな天使みたいな子がそんなませた事考える訳ないだろ。多分俺の異能がバグったとかそういうのさ。
「さっ、ルーク!早く遊びましょ?」
「う、うん。そうだね……」
エミリアの爽やかな笑顔を見て、俺はドキッとした。俺ってまさか……いや、気のせいだ。そうに違いない。そんな訳ないだろう?だって相手はこんな可愛い子だぞ?その逆はあれど……ないない!絶対ない!!でもちょっと怖いからこの事は忘れよう……うん。
それから俺はしばらくエミリアと一緒に遊んだのだった。そして日が落ちて家に帰った俺は、珍しく母さんに怒られた。なんでもエミリアは公爵家の長女で、神の加護を授かっている勇者候補らしい。そして遊びの際に彼女を泥だらけにしたのが悪かったようだ。
「いい?ルーク。あなたは公爵家のご令嬢に怪我をさせたかもしれないのよ?だから、今後はきちんと身だしなみを整えて礼儀正しくしないとダメよ?」
『それなのになんでエミリアちゃんは泥だらけになるのかしら?』
どうやら母さんは俺がわざとやったとは思っていないようだ。しかし……俺と同い年で勇者候補って……大丈夫かなこの子……?
その後俺が怒られたことを知ったエミリアは俺が悪くないと庇ってくれた。
『今度こそ、貴方を守護ってみせる』
実にイケメンな心の声と一緒に。ここまで来て考えたのだが、もしかして俺が前世の記憶を覚えているように、エミリアもなにか、そう、今世とそっくりな前世の記憶があるのだろうか?
多分だが、彼女の言う前の時の俺とは恋人関係で、死に別れて、それで時間逆行とかの展開なのかなぁ……と。そんな風に想起していると、エミリアの身体から靄のようなものが出てきて辺りを包み込んだ。すると鮮明なエミリアの声が聞こえて来た。これは…所謂回想シーンか。
―――
前の時の事だ。私がルークに出会ったのは魔王を倒すために旅立つずっと前、ふと父に連れられていった屋敷で一緒に遊んだことだ。あの頃の私はまだ幼くて、ただ好奇心のままに屋敷中を駆け回っては使用人の人達に迷惑をかけていた。そんな私に、ルークは優しく声を掛けてくれた。
『ほら、一緒に遊ぼ?』
私の手を引いて庭に出た彼は無邪気に笑い掛けてくれた。それに見とれていると自然と顔が赤くなってしまった。それでも彼の事が好きだった私はそれから彼と毎日遊ぶようになったのだ。
しかしその時間は直ぐに過ぎてしまった。勇者としての訓練を受ける為に私は訓練施設がある外国へ行くことになったのだ。
『……嫌だよ』
私がそう呟くと、ルークは頭を優しく撫でてくれた。それがとても嬉しかったけど、それと同時にお別れするのが悲しかった。
それでも私は必ず戻ってくる事を約束し、彼に別れを告げて旅立ったのだった。そしてそれから数年後、私は勇者として魔王を倒すために旅を続けていた。
そしてついに魔王の娘が治める魔界の城へとたどり着いた。そこで待っていたのは今まで対峙した魔物達とは桁違いの魔力を持つ白い髪のサキュバスだった。
『ようこそ!女性で、しかも1人で乗り込んで来る勇者は珍しいわね』
白髪のサキュバス、魔王の娘リリムはワザとらしく拍手をしながら私を玉座のある間に出迎えた。
『お前は魔王の娘だな?』
『……えぇ、そうよ。貴女の名前はエミリア、だったかしら』
『そんなことはどうでもいい!私はお前を倒して魔王を倒し人間界に平和を取り戻す!私の使命の為にここで倒す!!』
そう言うと、彼女はニッコリと笑った。
『貴方1人で勝てると思っているのかしら?随分と甘く見られたものね。いいわ、相手してあげる』
その言葉を皮切りに戦闘が始まった。彼女の放つ魔法はとても強力で一撃で私の装備は半壊した。
『くっ!?』
相手との戦力の差は余りにも大きい。此処は撤退するべきだ。そう思って後退しようとした瞬間、
『判断が遅い』
『ッ!!?』
リリムの指先から放たれた一筋の黒い閃光が私の胸を貫いた。その瞬間、
(ごめんルーク……帰れそうもない)
と思ったが。不思議と痛みは無かった。しかし胸を中心に身体が熱くなってきた。こ、これは?と考えているうちに、私の身体の内から禍々しい力と性欲が溢れてくるのがわかった。
『ふふ、どうやら勇者になるだけあって中々の素質をもっていたみたいね。今ので貴女は高位のサキュバスになったわ』
そういってリリムは私に背を向ける。
『ま、待て!なぜ背を向けるのですか!?』
と私は叫ぶ。しかし彼女は私の質問には答えず、ただ一言。
『貴女、故郷に想い人がいるタイプでしょ?早く行ってあげたら?』
その言葉がすとんと胸に落ちた。ああそうだ、私はこんな所でなにをしているのだろう?ルーク。私の愛しい人。私は貴方にまた会うために此処まで来たのではないか!そう思うと、不思議と力が湧いてきた。
『ありがとう』
『早く行っちゃいなさい』
そう言ってリリムは去っていった。私も急いで魔界を出た。一刻も早く彼に会いたい一心で……。そうして着いたのがこの地だった。しかし、
『……え?ルークが死んだ?』
思い出の場所へ向かった私が耳にしたのは最愛の人物の訃報だった。なんでも、私が此処を発って数年後に事故に遭い亡くなったそうだ。
『そんなの……そんなのって』
私は絶望した。ルークがこの世にいないのなら、もう生きていたって仕方がないと……だけど、その時だ
『ああ……自らの命を断つ気なら止めときなさい……アンデッドになるだけよ』
と聞き覚えのある声がしたので振り向くと、私をサキュバスにしたあのリリムが居た。私は
『なんのようですか……?ルークが居ないならもう死ぬしかないじゃないですか』
とその場にうずくまりながら呟く。しかしリリムは私の頭を撫でながらこう語りかけた。
『ちょっと魔王軍が時間を戻すアイテムを試作したんだけど、それを試す気はないかしら?』
『時間を戻すアイテム!?』
『ええ。ただし、使えるのは一度限りだけどね』
そう言ってリリムが取り出したのは真っ黒な結晶だった。
『これを飲めば、時間を巻き戻すことが出来るわ』
そう言って私に手渡してきた。私はそれを手に取ると……
『ルークの生きている時間まで戻せば、もしかしたら彼も生きてるかもしれない』
そんな考えが頭を過った。私は思わずこう聞いた。
『なら、このアイテムを使えば過去に戻ることは出来るのね?』
『ええ、理論上は可能だわ』
そんなリリムの返答を聞いて私は立ち上がり、彼女の手から離れ走っていった。
そして、
『お願い!ルークの居る時まで戻って!』
私は結晶を飲み込むのだった。
―――
回想が終わった。
……いや、なんか重くないか?ていうか回想だと魔物って基本的に美女みたいだしエロゲみたいな世界観だな!?
しかし前の時の俺って死んでたのかよ……!そんな回想シーンを見せられて色々と混乱している俺にエミリアは
「さっきはごめんね。私が公爵家なばかりに迷惑かけて」
と謝ってきた。俺は
「いいんだ、原因は俺にあるし」
と言い、俺達は汚れを落とすために風呂場に向かっていた。
「ふう。気持ちいいな」
俺は1人湯船に浸かりながら先程の回想を思い出していた。前の俺が死んだのはまあ事故なんだろう。しかし……
『彼女の思いに答えてやらないといけない』
そう思えてしまうのだ。うーん、でもお互い別の人生の記憶的なものがあるとは言え、今の肉体は6歳児だしなあ……そう考えながら湯船に浸かっていると、突然
「入るね」
と声を掛けられたのでびっくりして振り向くとそこには一糸纏わぬ姿のエミリアがいた。えっ!?と思い呆然としていると彼女は俺の背中に身体をくっつけてきた。
「私ね?ルークの事が大好きだったの」
そういって俺の身体を抱きしめてくるエミリア。あたってる!あたってるよぉ!!俺は興奮しつつもどうにか彼女を宥める為
「あのさ……俺って今6歳だよな。なんか恋とかそういうのって正直よく分からないっていうか……」
「でも……一緒に居たいって思いはあるんだよね?」
俺はつい押し黙ってしまう。するとエミリアはそんな俺を見兼ねたのか、俺に正面から抱きついてきた。そして俺の耳元で甘く囁いてきた。
「私を抱いてルーク」
思わずゴクリと喉を鳴らすが、彼女の身体の震えに気づき冷静になった俺は彼女の肩に手を置き引き剥がした。
「エミリア……君の気持ちは嬉しいけど、俺にはまだそういうのは早いと思うんだ」
俺の言葉にエミリアは少し寂しそうな顔をした後
「ふふっ、そっか。でも諦めないよ?これからずっとアタックしていくから覚悟しててね?」
と言って、着替え始めた。そしてエミリアが脱衣所から出たあとも俺はしばらくぼーっとしていたのだった。
そしてわかったことがもう1つある。それは……お袋、美人すぎません?俺の顔立ちもまあまあ整っているみたいなんだけど、どうも霞むわ……母親似なのだろうか? そんなことを考えていると、母親が声をかけてきた。
「どうしたの?考え事?」
俺があまりにも長く見つめすぎたせいで不審に思われたのだろう。
「うーあー!」
「あらあら、もう!可愛い子ね!」
そう言って優しく頭を撫でてくれた。それにしても綺麗な人だな……まるで聖女みたいだ。俺が前世で読んだ異世界転生物だと聖女とか魔王とかよくいるんだけど……まさか、この人が……?いや、そんなはずないか……。
それからさらに1週間が経ち、俺は今世での俺の父親を知ることになった。なんとその人もまたイケメンなのである。
「ほら、見てご覧?私たちの子だよ。」
父親にそう言われて2人とも優しく抱き上げてくれた。そして俺に話しかけた。
「元気に育ってくれよ?」
「あら、あなた。この子の名前を決めないとですよ?」
「ふむ……そうだな……」
父親は少し悩んだ後、こう言った。
「よし、決めたぞ!今日からお前の名前はルークだ!」
こうして俺ことルーク・ヴァンデミールが誕生したのである。
―――
そして月日は流れ、俺は6歳になった。その頃には俺は●ろうのチート能力と言うべきか、ある異能に目覚めていた。
簡単に言えば他人の考えていることが読み取れると言うものだ。しかし幸か不幸かその能力は読み取れる者に個人差があり、例えば両親の考えていることはよく分かるが、屋敷に居る使用人達(俺の家は伯爵らしい)の事は本当にぼんやりとしか読み取れない。
恐らくだとは思うのだが、これは所謂仲の良さ、ゲームとかで言うと好感度の強さが関係しているのではないかと思う。ちなみに屋敷の人達は皆俺に対して優しくしてくれた。まあ、伯爵様の子供だから当然といえば当然なのかもしれないが……。
そんなある日のこと、俺が暇つぶしに庭で遊んでいると、
『……やっと、やっと出会えた』
「……うん?」
何やら女の子が歩いてきた。赤い髪のかなりの美少女である。しかし、いまのはこの子の心の声か?俺と初対面だと言うのに、やけに鮮明だな。
『ルークはやっぱりここで遊ぶのが好きなんだね。前の時と同じだ……』
ん?前の時だって!?
「はじめまして。私の名前はエミリア。一緒に遊びたいから混ぜてくださいな!」
キラキラとした笑顔で女の子が声を掛けてくるけど、俺は彼女の考えた前の時という単語が気になっていた。しかし、その事を言って心の読める気持ち悪い奴だと思われたくないし、ここは無難に……
「いいよ。でも、君はエミリアっていうの?素敵な名前だね」
とだけ言っておこう。すると女の子はなぜか急に顔を真っ赤にして、
「ありがとう……ルーク」
と言った。えっ……?何で赤くなってるの?俺なんか変な事言ったっけ?まさか、もしかして『名前褒めてくれた嬉しい』とか考えてたのかな?と思っていると
『ヤバい!我慢はするけど今すぐにでもルークを押し倒したい!』
と言う声が聞こえた。えっ?今のエミリアの?いやまさか、俺と同年代くらいのこんな天使みたいな子がそんなませた事考える訳ないだろ。多分俺の異能がバグったとかそういうのさ。
「さっ、ルーク!早く遊びましょ?」
「う、うん。そうだね……」
エミリアの爽やかな笑顔を見て、俺はドキッとした。俺ってまさか……いや、気のせいだ。そうに違いない。そんな訳ないだろう?だって相手はこんな可愛い子だぞ?その逆はあれど……ないない!絶対ない!!でもちょっと怖いからこの事は忘れよう……うん。
それから俺はしばらくエミリアと一緒に遊んだのだった。そして日が落ちて家に帰った俺は、珍しく母さんに怒られた。なんでもエミリアは公爵家の長女で、神の加護を授かっている勇者候補らしい。そして遊びの際に彼女を泥だらけにしたのが悪かったようだ。
「いい?ルーク。あなたは公爵家のご令嬢に怪我をさせたかもしれないのよ?だから、今後はきちんと身だしなみを整えて礼儀正しくしないとダメよ?」
『それなのになんでエミリアちゃんは泥だらけになるのかしら?』
どうやら母さんは俺がわざとやったとは思っていないようだ。しかし……俺と同い年で勇者候補って……大丈夫かなこの子……?
その後俺が怒られたことを知ったエミリアは俺が悪くないと庇ってくれた。
『今度こそ、貴方を守護ってみせる』
実にイケメンな心の声と一緒に。ここまで来て考えたのだが、もしかして俺が前世の記憶を覚えているように、エミリアもなにか、そう、今世とそっくりな前世の記憶があるのだろうか?
多分だが、彼女の言う前の時の俺とは恋人関係で、死に別れて、それで時間逆行とかの展開なのかなぁ……と。そんな風に想起していると、エミリアの身体から靄のようなものが出てきて辺りを包み込んだ。すると鮮明なエミリアの声が聞こえて来た。これは…所謂回想シーンか。
―――
前の時の事だ。私がルークに出会ったのは魔王を倒すために旅立つずっと前、ふと父に連れられていった屋敷で一緒に遊んだことだ。あの頃の私はまだ幼くて、ただ好奇心のままに屋敷中を駆け回っては使用人の人達に迷惑をかけていた。そんな私に、ルークは優しく声を掛けてくれた。
『ほら、一緒に遊ぼ?』
私の手を引いて庭に出た彼は無邪気に笑い掛けてくれた。それに見とれていると自然と顔が赤くなってしまった。それでも彼の事が好きだった私はそれから彼と毎日遊ぶようになったのだ。
しかしその時間は直ぐに過ぎてしまった。勇者としての訓練を受ける為に私は訓練施設がある外国へ行くことになったのだ。
『……嫌だよ』
私がそう呟くと、ルークは頭を優しく撫でてくれた。それがとても嬉しかったけど、それと同時にお別れするのが悲しかった。
それでも私は必ず戻ってくる事を約束し、彼に別れを告げて旅立ったのだった。そしてそれから数年後、私は勇者として魔王を倒すために旅を続けていた。
そしてついに魔王の娘が治める魔界の城へとたどり着いた。そこで待っていたのは今まで対峙した魔物達とは桁違いの魔力を持つ白い髪のサキュバスだった。
『ようこそ!女性で、しかも1人で乗り込んで来る勇者は珍しいわね』
白髪のサキュバス、魔王の娘リリムはワザとらしく拍手をしながら私を玉座のある間に出迎えた。
『お前は魔王の娘だな?』
『……えぇ、そうよ。貴女の名前はエミリア、だったかしら』
『そんなことはどうでもいい!私はお前を倒して魔王を倒し人間界に平和を取り戻す!私の使命の為にここで倒す!!』
そう言うと、彼女はニッコリと笑った。
『貴方1人で勝てると思っているのかしら?随分と甘く見られたものね。いいわ、相手してあげる』
その言葉を皮切りに戦闘が始まった。彼女の放つ魔法はとても強力で一撃で私の装備は半壊した。
『くっ!?』
相手との戦力の差は余りにも大きい。此処は撤退するべきだ。そう思って後退しようとした瞬間、
『判断が遅い』
『ッ!!?』
リリムの指先から放たれた一筋の黒い閃光が私の胸を貫いた。その瞬間、
(ごめんルーク……帰れそうもない)
と思ったが。不思議と痛みは無かった。しかし胸を中心に身体が熱くなってきた。こ、これは?と考えているうちに、私の身体の内から禍々しい力と性欲が溢れてくるのがわかった。
『ふふ、どうやら勇者になるだけあって中々の素質をもっていたみたいね。今ので貴女は高位のサキュバスになったわ』
そういってリリムは私に背を向ける。
『ま、待て!なぜ背を向けるのですか!?』
と私は叫ぶ。しかし彼女は私の質問には答えず、ただ一言。
『貴女、故郷に想い人がいるタイプでしょ?早く行ってあげたら?』
その言葉がすとんと胸に落ちた。ああそうだ、私はこんな所でなにをしているのだろう?ルーク。私の愛しい人。私は貴方にまた会うために此処まで来たのではないか!そう思うと、不思議と力が湧いてきた。
『ありがとう』
『早く行っちゃいなさい』
そう言ってリリムは去っていった。私も急いで魔界を出た。一刻も早く彼に会いたい一心で……。そうして着いたのがこの地だった。しかし、
『……え?ルークが死んだ?』
思い出の場所へ向かった私が耳にしたのは最愛の人物の訃報だった。なんでも、私が此処を発って数年後に事故に遭い亡くなったそうだ。
『そんなの……そんなのって』
私は絶望した。ルークがこの世にいないのなら、もう生きていたって仕方がないと……だけど、その時だ
『ああ……自らの命を断つ気なら止めときなさい……アンデッドになるだけよ』
と聞き覚えのある声がしたので振り向くと、私をサキュバスにしたあのリリムが居た。私は
『なんのようですか……?ルークが居ないならもう死ぬしかないじゃないですか』
とその場にうずくまりながら呟く。しかしリリムは私の頭を撫でながらこう語りかけた。
『ちょっと魔王軍が時間を戻すアイテムを試作したんだけど、それを試す気はないかしら?』
『時間を戻すアイテム!?』
『ええ。ただし、使えるのは一度限りだけどね』
そう言ってリリムが取り出したのは真っ黒な結晶だった。
『これを飲めば、時間を巻き戻すことが出来るわ』
そう言って私に手渡してきた。私はそれを手に取ると……
『ルークの生きている時間まで戻せば、もしかしたら彼も生きてるかもしれない』
そんな考えが頭を過った。私は思わずこう聞いた。
『なら、このアイテムを使えば過去に戻ることは出来るのね?』
『ええ、理論上は可能だわ』
そんなリリムの返答を聞いて私は立ち上がり、彼女の手から離れ走っていった。
そして、
『お願い!ルークの居る時まで戻って!』
私は結晶を飲み込むのだった。
―――
回想が終わった。
……いや、なんか重くないか?ていうか回想だと魔物って基本的に美女みたいだしエロゲみたいな世界観だな!?
しかし前の時の俺って死んでたのかよ……!そんな回想シーンを見せられて色々と混乱している俺にエミリアは
「さっきはごめんね。私が公爵家なばかりに迷惑かけて」
と謝ってきた。俺は
「いいんだ、原因は俺にあるし」
と言い、俺達は汚れを落とすために風呂場に向かっていた。
「ふう。気持ちいいな」
俺は1人湯船に浸かりながら先程の回想を思い出していた。前の俺が死んだのはまあ事故なんだろう。しかし……
『彼女の思いに答えてやらないといけない』
そう思えてしまうのだ。うーん、でもお互い別の人生の記憶的なものがあるとは言え、今の肉体は6歳児だしなあ……そう考えながら湯船に浸かっていると、突然
「入るね」
と声を掛けられたのでびっくりして振り向くとそこには一糸纏わぬ姿のエミリアがいた。えっ!?と思い呆然としていると彼女は俺の背中に身体をくっつけてきた。
「私ね?ルークの事が大好きだったの」
そういって俺の身体を抱きしめてくるエミリア。あたってる!あたってるよぉ!!俺は興奮しつつもどうにか彼女を宥める為
「あのさ……俺って今6歳だよな。なんか恋とかそういうのって正直よく分からないっていうか……」
「でも……一緒に居たいって思いはあるんだよね?」
俺はつい押し黙ってしまう。するとエミリアはそんな俺を見兼ねたのか、俺に正面から抱きついてきた。そして俺の耳元で甘く囁いてきた。
「私を抱いてルーク」
思わずゴクリと喉を鳴らすが、彼女の身体の震えに気づき冷静になった俺は彼女の肩に手を置き引き剥がした。
「エミリア……君の気持ちは嬉しいけど、俺にはまだそういうのは早いと思うんだ」
俺の言葉にエミリアは少し寂しそうな顔をした後
「ふふっ、そっか。でも諦めないよ?これからずっとアタックしていくから覚悟しててね?」
と言って、着替え始めた。そしてエミリアが脱衣所から出たあとも俺はしばらくぼーっとしていたのだった。
23/11/13 05:29更新 / MADNAG
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