第七話 禍つ霧の路を走れ
この地には、宝玉と呼ばれる球が封印されている。そしてこの宝玉から中心に、黒い霧が一部に充満している。
「…」
森の中を、レオナは駆けていた。
この下には魔力の霧が充満しており、内部に入る事が出来ないのだ。
あの霧に触れようとすると、弾かれ、中に入る事すらできない。
そして、この中に入れば確実に体に支障をもたらす。ブライトが心配だが、これを排除する力がレオナにはなかった。
すぐにかけつけれない自身の無力にレオナは歯噛みした。
「っ!」
しゃがみこんだブライトの耳に風の唸りが入りこむ。頭上をラミアの尻尾が掠めた。
ラミアの魔力がブライトを拘束しようと蠢く。
「ヴァジュラダラ!!」
眼前まで迫ったラミアの魔力を粉砕し、そのままラミアに追撃しようとする。
しかし、するりと滑らかに動いて、ラミアは軽やかに避けた。
繊細に動くラミアの尻尾がひゅん、とブライトの腕に巻きついた。
「…おん まりしえい そわか!」
びくりと尻尾が震えてブライトから離れる。
「おん ばざら だとばん」
ブライトの霊力がぶわりと広がり、ラミアの尻尾をはじく。
「…っ!」
正直言って、やりにくかった。レオナより僅かに、あるいは同等の強い魔力をもっている。それに加え、ラミアとしての身体能力がブライトの動きに制限をかけていた。
相手が命を狙っているのならば話は別だが、そうでなければ出来る限り命を奪いたくはない。その心情もこれに拍手をかけているだろう。
逃げようともしたが、今ここは結界に覆われているのでそれは叶わなかった。おそらくレオナもそれが原因で来れていないのだろう。
目の前のラミアが、くすりと笑う。
「強いなぁ…ねえ、別に死んじゃうことはないんだよ?」
「あいにくもう相手がいる」
それを聞いて、ラミアが驚いたようにブライトを凝視する。
「…うぅー、やっぱり優良な男にはもういるのか…」
落胆したように嘆息したラミアはじぃ…とブライトを見つめた。
「ねえ、今からでも変えない? あたしにしてよかったって思う時が来るから」
「いつ?」
「え…?」
思いもしない返答に、ラミアの少女は戸惑う。
「…ぁ、すぐ! ほらあたしの体を好きにしていいし、お手伝いとかも」
「いやもう間にあってるから」
うぐぐと唸るラミアを、ブライトは面白そうに見ていた。
「でさぁ、俺忙しい身なんだよ、この結界解いてくれない?」
「だめ」
即答にブライトは息をつく。
ついと、ラミアを見据えた。
「だったら、ぶち壊す」
その言葉がラミアの耳朶を叩くと同時に、ラミアがこちらに向かってきた。
地を強く叩き、上空の木々を背景にブライトめがけて魔力の渦を叩きこむ。
「おん あみりてい うん はった!」
ブライトの言葉が霊力を壁に変え、渦を全て防ぎきる。
この状態では、結界を打ち破れない。結界を壊すにも、呪文を唱える必要がある。猛攻が続くと、そちらで手一杯になってしまうのだ。
視界の隅にある緑色の何かを認め、咄嗟に足を崩した。
ラミアの尻尾を倒れるように避けたブライトにラミアの両腕が伸びる。
「カン!」
霊力の衝撃にラミアが両腕を交差させて踏ん張る。
「おん しゃちり きゃらろは うんけん そわか!」
霊撃がその状態のラミアに直撃する。血はないが、苦痛に顔を歪めるラミアが吹き飛ぶ。
澄んだ音が聞こえ、ラミアが視界の隅でブライトを捉える。
「のうまく さまんだ ぼだなん あびら うんけん…」
ラミアが魔力を操り、空中で態勢をなおし、魔力を身につかせブライトに突撃する。
「お…っ禁!!」
眼前まで迫ったラミアに呪文詠唱を中断して、短い呪を唱え障壁を築く。
白い火花を散らし、ラミアが障壁を打ち破ろうと魔力を強める。
「…っ!」
刀印を組んだ右手が震える。空いた左の手で懐をあさり、符を取り出し、ラミアに投げつけた。
ブライトの障壁をすり抜け、ラミアの身体に張り付いた。
「っ!」
ラミアが追撃を止め、符を剥がそうと魔力を爆発させる。障壁に亀裂が走った。
ブライトの障壁が欠片となり、空間に舞い散る。
「ぐっ…!」
ブライトの爪が割れ、血を撒き散らす。
「カーンマン!!」
痛みを堪えて、ラミアを攻撃した。傷はないが、距離は取れた。
その間にいままでとは違う符を指に巻いた。僅かにはみ出ているが、これで痛みが和らぐ。
「なうまく さまんだ ばざらだん かん!!」
霊力の刃がラミアに襲い掛かる。
左の手の平を刃にむけ、魔力を放つ。霊力と魔力がぶつかり、辺りに散乱した。
「うおっ!」
「きゃあっ!」
それに巻き込まれ、ブライトとラミアは真反対の方に吹き飛んだ。
受け身をとる暇もなく、身を強く打ったブライトは、咳きこみながら、立ち上がる。
「のうまく さまんだ ぼだなん あびら うんけん!」
立ちあがっているラミアがはっと目を瞠る。
「おん あびらうんけん ばざら だどばん!」
ブライトの霊力が研ぎ澄まされる。
「臨める兵、闘う者、皆陣列ねて、前に行く…!!」
ブライトの霊力が、結界を打ち壊した。
「…っ」
レオナはこの下に続く道に向かっていた。霧が充満しているが、ごく一部は霧が晴れており、行き来できる道がある。
前に歩いた事があったが、魔物はいなかったので、ブライトの事は問題ないだろう。
しかし、そう思う反面、心のどこかでは心配している。
先ほどよりも急ぎ気味の速さでレオナは走った。
下から感じるのは、相変わらず霧の濃い魔力だけだった。
「…!?」
結界を壊したブライトを、驚愕の瞳でラミアは見た。
「これをこわした…!? 凄すぎる…」
ラミアに背を向け、ブライトは懐から符を引き抜く。
「おん あらはしゃのう…」
ふわりと、空を飛び、そのまま上に向かった。しかし。
「っ!?」
結界がなくなり、突如現れた霧に触れたブライトは重力に引っ張られた。
目を瞠りながらもなんとか地に着地したブライトは上を見た。黒い霧が、否魔力が充満している。
引きずる音が聞こえた。
「無理だよ、ここから上にはあがれないの」
刀印をラミアに向けたブライトは剣呑に睨む。
「この霧はどこから出ている」
「分からない」
その表情からそれが嘘ではないと分かる。しかし、表情はけろりと変わる。
「まあ…あたしは念願の男が手に入りそうだからいいけど」
「…っ」
小さく舌打ちして、ブライトは空を飛んだ。足を動かすよりもこちらの方が速い為だ。細かい制御は難しいので、上に霧がある今では、迎え撃つには向かないが。
ラミアの言葉通りだとしたら、今上に行く手段はない。レオナと合流するにはこの霧をどうにかしなければ。
「っ!?」
風のうなりと同時に符の感触が無くなり、慌てて地に着地して走ろうとした。しかし、足が地に縫いとめられたように動かず、ブライトは地面に倒れ込んだ。
肩越しに後ろを振り向くと、ラミアの尻尾に掴まれていた。
さらに、ラミアが尻尾から魔力でブライトの足をつつみこみ、それが麻痺と似たものを足に生じさせている。
一瞬、鼓動が早まったが、深く呼吸をして、落ち貸せる。
「…おん あぼきゃ びじゃしゃ うん はった」
静かな言葉を放った瞬間、ラミアが指一本ぴくりとも動かせなくなった。口元と視線は動かせるが、それ以外が何もできない。
しかし、それも時間の問題。
「おん まりしえい そわか」
尻尾が離れる。
「おん ろぼじゅた はらばや そわか」
麻痺に似たものがなくなり、立ち上がろうとした瞬間。
「っ!」
ラミアが魔力を爆発させ拘束を破いた。ブライトが吹き飛ばされ、四肢に僅かだが、できた裂傷から出た赤い液体が植物を赤く塗る。
「ごべばぁっ!!」
そのまま顔面から木に直撃する。眼前に火花が散った。
ずるずるべちゃりと音を立て、木の幹に倒れ込む。
「うおおおぉお痛えぇなぁちくしょう…!」
涙目のブライトが反動をつけて立ち上がり、小さく言の葉を紡ぐ。痛みが和らいだ。
「あぁーもー!! まだ来るんだったらぶっ潰すぞ!」
憤りの感じる声が鼓膜を震わせ、ラミアがびくりと身体を竦ませる。
しかし、己を叱咤させ、ブライトに立ち向かう。
ブライトが何とも言えない顔で歯噛みする。
ふと、ある事を思った。このラミアはどこから来たのだろうか、もしかすると、ここから上にあがれる道を知っているのではないだろうか。
「…おい蛇聞け!」
「へ、蛇って」
「知るか、大体名前も知らないんだから仕方ないだろ! いいから、ここから出る道を案内しろ! そうすれば町に連れていって好きな男を選び放題だ!!」
「お、男を…選び放題……!!」
ごくりと、ラミアの喉が鳴る。
「そうだ! 念願の男を手に入れるのだろ!? だったら俺をこの霧から導けぇっ!!」
指を上空に漂う霧に向ける。
しかし。
「でも、目の前にかなりいい男が」
「だーかーらー! これ以上来るとほんとに祓うぞ!!」
がるると唸るブライトは本気で消し炭にしそうな気配だ。
「…いい、よ」
ブライトを惜しむ様子で了承した。とりあえずは諦めてくれたか。
一応これで警戒する必要はないか。
ラミアがブライトの傷に気付いた。
「あ…それ」
「ああいいよ別に」
「…ごめん」
ラミアの謝罪を聞いて、ブライトは思った。
レオナも、目の前のラミアも、魔物は人間を傷つけたくないんだな。
「それじゃ…っ!」
ぐらりと、世界が不安定になる。
そして、自分が倒れたのだと気付いたのは、地面と接触してから少し経ってからだった。
「え…?」
ラミアがブライトの様子に瞠目した。
全身に、ラミアが魔力を送ったあの時と似た痺れが回っている。視線と呼吸はなんとか出来るが、それ以外は動かすに相当の労力が必要だった。
同時に、心の奥からむらむらと湧き上がるものがあった。
「…」
森の中を、レオナは駆けていた。
この下には魔力の霧が充満しており、内部に入る事が出来ないのだ。
あの霧に触れようとすると、弾かれ、中に入る事すらできない。
そして、この中に入れば確実に体に支障をもたらす。ブライトが心配だが、これを排除する力がレオナにはなかった。
すぐにかけつけれない自身の無力にレオナは歯噛みした。
「っ!」
しゃがみこんだブライトの耳に風の唸りが入りこむ。頭上をラミアの尻尾が掠めた。
ラミアの魔力がブライトを拘束しようと蠢く。
「ヴァジュラダラ!!」
眼前まで迫ったラミアの魔力を粉砕し、そのままラミアに追撃しようとする。
しかし、するりと滑らかに動いて、ラミアは軽やかに避けた。
繊細に動くラミアの尻尾がひゅん、とブライトの腕に巻きついた。
「…おん まりしえい そわか!」
びくりと尻尾が震えてブライトから離れる。
「おん ばざら だとばん」
ブライトの霊力がぶわりと広がり、ラミアの尻尾をはじく。
「…っ!」
正直言って、やりにくかった。レオナより僅かに、あるいは同等の強い魔力をもっている。それに加え、ラミアとしての身体能力がブライトの動きに制限をかけていた。
相手が命を狙っているのならば話は別だが、そうでなければ出来る限り命を奪いたくはない。その心情もこれに拍手をかけているだろう。
逃げようともしたが、今ここは結界に覆われているのでそれは叶わなかった。おそらくレオナもそれが原因で来れていないのだろう。
目の前のラミアが、くすりと笑う。
「強いなぁ…ねえ、別に死んじゃうことはないんだよ?」
「あいにくもう相手がいる」
それを聞いて、ラミアが驚いたようにブライトを凝視する。
「…うぅー、やっぱり優良な男にはもういるのか…」
落胆したように嘆息したラミアはじぃ…とブライトを見つめた。
「ねえ、今からでも変えない? あたしにしてよかったって思う時が来るから」
「いつ?」
「え…?」
思いもしない返答に、ラミアの少女は戸惑う。
「…ぁ、すぐ! ほらあたしの体を好きにしていいし、お手伝いとかも」
「いやもう間にあってるから」
うぐぐと唸るラミアを、ブライトは面白そうに見ていた。
「でさぁ、俺忙しい身なんだよ、この結界解いてくれない?」
「だめ」
即答にブライトは息をつく。
ついと、ラミアを見据えた。
「だったら、ぶち壊す」
その言葉がラミアの耳朶を叩くと同時に、ラミアがこちらに向かってきた。
地を強く叩き、上空の木々を背景にブライトめがけて魔力の渦を叩きこむ。
「おん あみりてい うん はった!」
ブライトの言葉が霊力を壁に変え、渦を全て防ぎきる。
この状態では、結界を打ち破れない。結界を壊すにも、呪文を唱える必要がある。猛攻が続くと、そちらで手一杯になってしまうのだ。
視界の隅にある緑色の何かを認め、咄嗟に足を崩した。
ラミアの尻尾を倒れるように避けたブライトにラミアの両腕が伸びる。
「カン!」
霊力の衝撃にラミアが両腕を交差させて踏ん張る。
「おん しゃちり きゃらろは うんけん そわか!」
霊撃がその状態のラミアに直撃する。血はないが、苦痛に顔を歪めるラミアが吹き飛ぶ。
澄んだ音が聞こえ、ラミアが視界の隅でブライトを捉える。
「のうまく さまんだ ぼだなん あびら うんけん…」
ラミアが魔力を操り、空中で態勢をなおし、魔力を身につかせブライトに突撃する。
「お…っ禁!!」
眼前まで迫ったラミアに呪文詠唱を中断して、短い呪を唱え障壁を築く。
白い火花を散らし、ラミアが障壁を打ち破ろうと魔力を強める。
「…っ!」
刀印を組んだ右手が震える。空いた左の手で懐をあさり、符を取り出し、ラミアに投げつけた。
ブライトの障壁をすり抜け、ラミアの身体に張り付いた。
「っ!」
ラミアが追撃を止め、符を剥がそうと魔力を爆発させる。障壁に亀裂が走った。
ブライトの障壁が欠片となり、空間に舞い散る。
「ぐっ…!」
ブライトの爪が割れ、血を撒き散らす。
「カーンマン!!」
痛みを堪えて、ラミアを攻撃した。傷はないが、距離は取れた。
その間にいままでとは違う符を指に巻いた。僅かにはみ出ているが、これで痛みが和らぐ。
「なうまく さまんだ ばざらだん かん!!」
霊力の刃がラミアに襲い掛かる。
左の手の平を刃にむけ、魔力を放つ。霊力と魔力がぶつかり、辺りに散乱した。
「うおっ!」
「きゃあっ!」
それに巻き込まれ、ブライトとラミアは真反対の方に吹き飛んだ。
受け身をとる暇もなく、身を強く打ったブライトは、咳きこみながら、立ち上がる。
「のうまく さまんだ ぼだなん あびら うんけん!」
立ちあがっているラミアがはっと目を瞠る。
「おん あびらうんけん ばざら だどばん!」
ブライトの霊力が研ぎ澄まされる。
「臨める兵、闘う者、皆陣列ねて、前に行く…!!」
ブライトの霊力が、結界を打ち壊した。
「…っ」
レオナはこの下に続く道に向かっていた。霧が充満しているが、ごく一部は霧が晴れており、行き来できる道がある。
前に歩いた事があったが、魔物はいなかったので、ブライトの事は問題ないだろう。
しかし、そう思う反面、心のどこかでは心配している。
先ほどよりも急ぎ気味の速さでレオナは走った。
下から感じるのは、相変わらず霧の濃い魔力だけだった。
「…!?」
結界を壊したブライトを、驚愕の瞳でラミアは見た。
「これをこわした…!? 凄すぎる…」
ラミアに背を向け、ブライトは懐から符を引き抜く。
「おん あらはしゃのう…」
ふわりと、空を飛び、そのまま上に向かった。しかし。
「っ!?」
結界がなくなり、突如現れた霧に触れたブライトは重力に引っ張られた。
目を瞠りながらもなんとか地に着地したブライトは上を見た。黒い霧が、否魔力が充満している。
引きずる音が聞こえた。
「無理だよ、ここから上にはあがれないの」
刀印をラミアに向けたブライトは剣呑に睨む。
「この霧はどこから出ている」
「分からない」
その表情からそれが嘘ではないと分かる。しかし、表情はけろりと変わる。
「まあ…あたしは念願の男が手に入りそうだからいいけど」
「…っ」
小さく舌打ちして、ブライトは空を飛んだ。足を動かすよりもこちらの方が速い為だ。細かい制御は難しいので、上に霧がある今では、迎え撃つには向かないが。
ラミアの言葉通りだとしたら、今上に行く手段はない。レオナと合流するにはこの霧をどうにかしなければ。
「っ!?」
風のうなりと同時に符の感触が無くなり、慌てて地に着地して走ろうとした。しかし、足が地に縫いとめられたように動かず、ブライトは地面に倒れ込んだ。
肩越しに後ろを振り向くと、ラミアの尻尾に掴まれていた。
さらに、ラミアが尻尾から魔力でブライトの足をつつみこみ、それが麻痺と似たものを足に生じさせている。
一瞬、鼓動が早まったが、深く呼吸をして、落ち貸せる。
「…おん あぼきゃ びじゃしゃ うん はった」
静かな言葉を放った瞬間、ラミアが指一本ぴくりとも動かせなくなった。口元と視線は動かせるが、それ以外が何もできない。
しかし、それも時間の問題。
「おん まりしえい そわか」
尻尾が離れる。
「おん ろぼじゅた はらばや そわか」
麻痺に似たものがなくなり、立ち上がろうとした瞬間。
「っ!」
ラミアが魔力を爆発させ拘束を破いた。ブライトが吹き飛ばされ、四肢に僅かだが、できた裂傷から出た赤い液体が植物を赤く塗る。
「ごべばぁっ!!」
そのまま顔面から木に直撃する。眼前に火花が散った。
ずるずるべちゃりと音を立て、木の幹に倒れ込む。
「うおおおぉお痛えぇなぁちくしょう…!」
涙目のブライトが反動をつけて立ち上がり、小さく言の葉を紡ぐ。痛みが和らいだ。
「あぁーもー!! まだ来るんだったらぶっ潰すぞ!」
憤りの感じる声が鼓膜を震わせ、ラミアがびくりと身体を竦ませる。
しかし、己を叱咤させ、ブライトに立ち向かう。
ブライトが何とも言えない顔で歯噛みする。
ふと、ある事を思った。このラミアはどこから来たのだろうか、もしかすると、ここから上にあがれる道を知っているのではないだろうか。
「…おい蛇聞け!」
「へ、蛇って」
「知るか、大体名前も知らないんだから仕方ないだろ! いいから、ここから出る道を案内しろ! そうすれば町に連れていって好きな男を選び放題だ!!」
「お、男を…選び放題……!!」
ごくりと、ラミアの喉が鳴る。
「そうだ! 念願の男を手に入れるのだろ!? だったら俺をこの霧から導けぇっ!!」
指を上空に漂う霧に向ける。
しかし。
「でも、目の前にかなりいい男が」
「だーかーらー! これ以上来るとほんとに祓うぞ!!」
がるると唸るブライトは本気で消し炭にしそうな気配だ。
「…いい、よ」
ブライトを惜しむ様子で了承した。とりあえずは諦めてくれたか。
一応これで警戒する必要はないか。
ラミアがブライトの傷に気付いた。
「あ…それ」
「ああいいよ別に」
「…ごめん」
ラミアの謝罪を聞いて、ブライトは思った。
レオナも、目の前のラミアも、魔物は人間を傷つけたくないんだな。
「それじゃ…っ!」
ぐらりと、世界が不安定になる。
そして、自分が倒れたのだと気付いたのは、地面と接触してから少し経ってからだった。
「え…?」
ラミアがブライトの様子に瞠目した。
全身に、ラミアが魔力を送ったあの時と似た痺れが回っている。視線と呼吸はなんとか出来るが、それ以外は動かすに相当の労力が必要だった。
同時に、心の奥からむらむらと湧き上がるものがあった。
12/03/10 20:22更新 / ばめごも
戻る
次へ