第十一話 穢れた玉の名を毀せ
「……っ!」
宝玉の魔力になす術もなく吹き飛ばされたブライトは、背を思いきり木に打ちつけた。衝撃で息がつまる。
レオナが反射でブライトを見た。本心は駆け寄りたいが、今はそれどころではない。
これで、宝玉は彩宵の元に戻る。今の魔力も時間が経てば元に戻る。だが、今はまだ駄目だ。まだ神器に戻ってない。
さらに、封印が盾になっていたようで、今宝玉の魔力は周りにかなりの影響を出している。
次は宝玉自体の力を弱め、本来の姿に返させる。ティアにはこれ以上疲労させるわけにはいかない。一人で成さねばしかし、考えていた異常に力が強い。
はっとしたブライトがレオナを見やると、宝玉の魔力に必死に抵抗していた。
「…」
足に力を込め、立ち上がる。深く息を吸い込み、ゆっくりと吐く。
ただでさえレオナはそうとうに力を使っている。それで対応は難しいだろう。
「…っ」
小さく呟いてからブライトは両の手を強く打った。澄んだ音が響いた。
「掛けまくも畏き…」
ブライトの唱えているものは、神事で初めに奏する時の言葉。これは穢れた気を祓う言葉、これを唱え、各神に対しての祝詞を唱える。
しかし、これだけでも力はある。
自身の魔力で押し返していたレオナは、抵抗が薄れてきた事に気づいた。そして、ブライトの言葉をジパングで似たものを聞いた事があることを思い出した。
「…そうか」
この国では、四大元素と呼ばれる四つの属性なのだが、ジパングでは木火土金水、この五つで出来ている。
「御禊祓へ給ひし時に生り坐せる禊戸の大神等 諸諸の禍事」
そして、水の属性の力を強めるための属性は、金だ。金は、水を助けると同時に木を抑制する役目もある。
その金を吸い取ったから、木を抑制するものがなくなり、だから、こんなに 木々が生えたのだ。そして、この霧が金を吸い取り、宝玉に送っていた。
そして、ブライトの霊力が火の属性を持っている事に気づいた。
四大の水に対し火は、ぶつかり合い、土と風は助けてくれる属性だ。五行の力だが、四大の原理に当てはめ、宝玉の力を封印するのに、火の封印を施した。そして、五行では金に克つ力は、火。
「穢有らむをば 禊へ給ひ 清め給へと白す事を聞こし食せと 恐み恐みも白す」
ブライトは、解かれた火の封印を利用して、宝玉の力の一旦を担う金を潰している。
「急々…如律令…っ!!」
ブライトの言霊が宝玉の力を粉砕した。
宝玉の魔力が弱まる。だが、これは表面を除いただけだ。宝玉内部までにとどいた呪力をそぎ落とさなければならない。
「二人共大丈夫か!?」
ブライトがレオナとティアの元に駆け寄った。二人がへたりと座り込む。思った以上に疲弊してしまった。だが、これを彩宵の元に送らねばならない。
そのために、本来の神器に戻さねば。
レオナが肩で息をしながらティアを見た。そうとうに疲れさせてしまった。後でどう詫びればいいのだろうか。
強く息を吸って、目の前の呪具を見る。ブライトが立ち上がろうとしたレオナの肩に手を置いた。
「ブライト…?」
「後は任せろ…ティアを連れて後ろに下がってくれ」
口を開きかけたが、黙ってティアと共に後退させた。
時おり、神々しい力を感じる。力を削いで、本来の力が垣間見えたのだ。
姿も知らない彩宵、知っているのは、レオナの親友という事だけ。お前の親友が、こんなにも頑張ってくれた。
だから、絶対に力を貸せ。
ブライト一人では出来やしない。だから、神の力を利用する。
「力を貸せ、彩宵神」
両手を合し、目を瞑る。
「天清浄 地清浄 内外清浄 六根清浄と祓給ふ」
ブライトが一言発すると宝玉が、怯えているに見えた。
「天清浄とは天の七曜九曜二十八宿を清め 地清浄とは地の神三十六神を清め」
確実に、彩宵は力を貸してくれている。神籬となるものはないように思えた。だが、じっかりとそれを承ってくれる存在がある。
「内外清浄とは家内三宝大荒神を清め 六根清浄とは其身其体の穢を禊給清め給ふ事の由を」
目の前にあるものは、呪具と呼べるものと、神器と呼べるものが混ざり合っている。神器として視える部分を神籬にしている。
「八百万の神等諸共に 小男鹿の八の御耳を振立てて聞し食せ申す…!」
本来、神器に相応しい輝きをまとう。
初めはそういう名だと思っていた。しかし、それはあえて間違えていた。レオナがなぜ『宝玉』と呼んだのか、納得した。名は、一つの呪いだ。そして、強大な存在になるほど、名を呼ぶだけで凄まじいこととなる。
呪具と呼べる代物になった『宝玉』は、本来の名前で呼んではいけない恐ろしいものだ。
だから、あえて間違えた。
「吐普加身依身多女 寒言神尊利根陀見 波羅伊玉意喜餘目出玉」
もう、『ほうぎょく』、と偽りの名を呼ばなくてすむように。『ほうじゅ』、と呼べるように。
「…如意宝珠、彩宵の元に…戻れ!!」
瞬間、輝かしい閃光が宝珠から放たれた。
ふと気付くと見知らぬ場所にいた。太陽のではない光が、あるか上空からこの場所を照らしている。何もない場所だった。
「あれ…?」
記憶を掘り出して、何をしていたか思いだす。あの後、宝珠が返って、それからどうした。
「…寝てしまった…か?」
それ以外考えられない。
あそこの霧はもう晴れ、安全な場所になっている。寝るには問題ないが。それ以降の記憶は今ここからなので、眠ってここにきたのだろう。では、ここはどこなのだろうか。眠ると辿り着く場所。
永眠ならば、天国だろうか。
「…」
不吉な考えを消して、辺りを見る。本当に何もない。光と、それを受け青磁に輝く大地以外。はるか向こうを見ようが、果てがないように思えた。
「…?」
ここを前に見た記憶があり、ブライトは腕を組んで胡乱に首を傾けた。いつだ。いつ見た。
眠って、夢…。
「…あっ!」
そうだ、ここにくる発端の夢と似ている。
それに思い至ると同時に、背後に誰かの気配がした。魔力があるのに、神気とも呼べる気を感じる。
振り向くと、一人の見知らぬ女性がいた。美しい端麗な顔立ちをしている。
目につくのは、上体の下にある長い白銀の胴体。ラミアと似ているが、違う。
「龍…?」
細かな細工のある丹の衣は、この国では見ない服だ。
小袖と呼ばれる服を数枚来ているようだが、豊満な胸元は開いて、肩部分は狩衣のようになっており、華奢な肩が見えている。
しまったくびれ辺りに巻いた代赭色の帯は、衣をしめるためだろう。小袖の下から長い胴体が続いていた。
胴体の背には綺麗な毛並みがあり、白銀の胴体によく映えている。
さらりとした紅梅の髪は長く、下の胴体に届くまで伸びていた。首元には、勾玉のようなものがあった。
人の手ではないその手には、丸い珠があった。
「…彩宵、か?」
直感でそう思った。はずれてはいないようで、彩宵はお辞儀をした。
「…宝珠を取り戻してくれて、ありがとう」
「…なんかえらく殊勝だな」
ブライトとしては、踏ん反り返ってよくぞやったとでも言うと思っていたが。
そう口にすると、彩宵は何とも言えない顔をした。
「…龍にどんな経験があるの、それ」
適当に笑ってはぐらかす。
「…ここは幽世か?」
彩宵が軽く目を見張る。
「よく知っていたわね…」
「俺も、何回もあるってわけじゃないけどな」
ここは、現世とあの世の境界の一つ。あらゆる場所と繋がっているとされている。夢をみる者が来る事のある場所。
そしてここはある者に呼ばれる事で来る事もあるのだ。
「なんで呼んだ?」
「…礼を言いに」
心の底から不思議に思ったブライトに、彩宵はそう答えた。
「…」
ブライトがのろのろと目蓋を上げた。上は木々の緑だと思っていたが、天井だった。
辺りを見回して、ここがレオナの小屋だと分かった。
「あ、起きた?」
声の方を向くと、ティアが座っていた。レオナもいた事を確認してほっとした。しかし、
明らかにレオナは気分を害していた。そして、目はブライトを睨んでいる。ティアも心なしか気まずい様子だった。
「え?」
何かしただろうか。そう考えてある事を思い出した。
「…」
ティアとヤってしまった事を思い出す。
「あぁ、レオナ」
「分かっている…分かっているんじゃが…」
仕方ないとは分かっているが、それでもやりきれない気持ちが、レオナにあるように思えた。てっきり、憤慨しているものとばかり思っていたが。
そんな様子のブライトを見て、レオナとティアは胡乱に眉を軽く寄せる。
そうしたいのは俺なんだが。
「ああ、そっか」
思いついたようにティアが呟いて、ブライトに説明した。
「ブライト、麻痺で動けなかったでしょ? あれ、霧を通ったからみたいなんだよ」
「…そうなのか?」
自分の知りたい事とは少し外れているが、ブライトはそれに驚いた。
霧の魔力が体内に入り込んだ事が麻痺の原因だった。そして、魔力は精として放射される。
霧を通ったブライトが動けていたのは、性交したからのだと、宝珠を調べ続けたレオナならば分かっていたのだろう。
「さらに、あのまま放置しておくと命に関わっていたのじゃ」
「…な」
レオナの口から交合していなければ命が危うかったと聞いて、ブライトは瞠目した。
「人間の中に魔力が入りこむと、命を蝕む」
「けど、それだとインキュバスになるはずだろ?」
それは、魔物へと変える為の魔力注入のやり方がある。
だがそれは、魔物ならば無意識だろうとできる事だ。しかし、今回魔力を入れたのは、宝珠。ジパングに存在する付喪神でもないただの物だ。
無機物に入れられては魔物にもなれないだろう。
そうレオナが説明して、ブライトはティアを見た。
つまり、ティアに命を助けられたのだ。そして、結果的にブライトの救出をした交合に蟠りがあるのだろうか。
「…まあ、そうみたい」
苦い顔をして、ティアがぼそりと呟いた。ティアが気まずそうなのもヤった本人だからか。
「…ブライトは」
唸ったレオナの声が耳朶を叩いた。
「ブライトは我のものじゃ!! 我だけが接していいんじゃ!」
「え、といあその」
「だったら交わるだけ目的ならば、もう帰ってもいいじゃろ」
「…それは、できない」
理由は、ティアもブライトの事が好きだから。
「…」
命を助けた手前、強く言えないレオナと、後ろめたさはあるが、ブライトといたいティア。
それを、ブライトは唖然と見ていた。
宝玉の魔力になす術もなく吹き飛ばされたブライトは、背を思いきり木に打ちつけた。衝撃で息がつまる。
レオナが反射でブライトを見た。本心は駆け寄りたいが、今はそれどころではない。
これで、宝玉は彩宵の元に戻る。今の魔力も時間が経てば元に戻る。だが、今はまだ駄目だ。まだ神器に戻ってない。
さらに、封印が盾になっていたようで、今宝玉の魔力は周りにかなりの影響を出している。
次は宝玉自体の力を弱め、本来の姿に返させる。ティアにはこれ以上疲労させるわけにはいかない。一人で成さねばしかし、考えていた異常に力が強い。
はっとしたブライトがレオナを見やると、宝玉の魔力に必死に抵抗していた。
「…」
足に力を込め、立ち上がる。深く息を吸い込み、ゆっくりと吐く。
ただでさえレオナはそうとうに力を使っている。それで対応は難しいだろう。
「…っ」
小さく呟いてからブライトは両の手を強く打った。澄んだ音が響いた。
「掛けまくも畏き…」
ブライトの唱えているものは、神事で初めに奏する時の言葉。これは穢れた気を祓う言葉、これを唱え、各神に対しての祝詞を唱える。
しかし、これだけでも力はある。
自身の魔力で押し返していたレオナは、抵抗が薄れてきた事に気づいた。そして、ブライトの言葉をジパングで似たものを聞いた事があることを思い出した。
「…そうか」
この国では、四大元素と呼ばれる四つの属性なのだが、ジパングでは木火土金水、この五つで出来ている。
「御禊祓へ給ひし時に生り坐せる禊戸の大神等 諸諸の禍事」
そして、水の属性の力を強めるための属性は、金だ。金は、水を助けると同時に木を抑制する役目もある。
その金を吸い取ったから、木を抑制するものがなくなり、だから、こんなに 木々が生えたのだ。そして、この霧が金を吸い取り、宝玉に送っていた。
そして、ブライトの霊力が火の属性を持っている事に気づいた。
四大の水に対し火は、ぶつかり合い、土と風は助けてくれる属性だ。五行の力だが、四大の原理に当てはめ、宝玉の力を封印するのに、火の封印を施した。そして、五行では金に克つ力は、火。
「穢有らむをば 禊へ給ひ 清め給へと白す事を聞こし食せと 恐み恐みも白す」
ブライトは、解かれた火の封印を利用して、宝玉の力の一旦を担う金を潰している。
「急々…如律令…っ!!」
ブライトの言霊が宝玉の力を粉砕した。
宝玉の魔力が弱まる。だが、これは表面を除いただけだ。宝玉内部までにとどいた呪力をそぎ落とさなければならない。
「二人共大丈夫か!?」
ブライトがレオナとティアの元に駆け寄った。二人がへたりと座り込む。思った以上に疲弊してしまった。だが、これを彩宵の元に送らねばならない。
そのために、本来の神器に戻さねば。
レオナが肩で息をしながらティアを見た。そうとうに疲れさせてしまった。後でどう詫びればいいのだろうか。
強く息を吸って、目の前の呪具を見る。ブライトが立ち上がろうとしたレオナの肩に手を置いた。
「ブライト…?」
「後は任せろ…ティアを連れて後ろに下がってくれ」
口を開きかけたが、黙ってティアと共に後退させた。
時おり、神々しい力を感じる。力を削いで、本来の力が垣間見えたのだ。
姿も知らない彩宵、知っているのは、レオナの親友という事だけ。お前の親友が、こんなにも頑張ってくれた。
だから、絶対に力を貸せ。
ブライト一人では出来やしない。だから、神の力を利用する。
「力を貸せ、彩宵神」
両手を合し、目を瞑る。
「天清浄 地清浄 内外清浄 六根清浄と祓給ふ」
ブライトが一言発すると宝玉が、怯えているに見えた。
「天清浄とは天の七曜九曜二十八宿を清め 地清浄とは地の神三十六神を清め」
確実に、彩宵は力を貸してくれている。神籬となるものはないように思えた。だが、じっかりとそれを承ってくれる存在がある。
「内外清浄とは家内三宝大荒神を清め 六根清浄とは其身其体の穢を禊給清め給ふ事の由を」
目の前にあるものは、呪具と呼べるものと、神器と呼べるものが混ざり合っている。神器として視える部分を神籬にしている。
「八百万の神等諸共に 小男鹿の八の御耳を振立てて聞し食せ申す…!」
本来、神器に相応しい輝きをまとう。
初めはそういう名だと思っていた。しかし、それはあえて間違えていた。レオナがなぜ『宝玉』と呼んだのか、納得した。名は、一つの呪いだ。そして、強大な存在になるほど、名を呼ぶだけで凄まじいこととなる。
呪具と呼べる代物になった『宝玉』は、本来の名前で呼んではいけない恐ろしいものだ。
だから、あえて間違えた。
「吐普加身依身多女 寒言神尊利根陀見 波羅伊玉意喜餘目出玉」
もう、『ほうぎょく』、と偽りの名を呼ばなくてすむように。『ほうじゅ』、と呼べるように。
「…如意宝珠、彩宵の元に…戻れ!!」
瞬間、輝かしい閃光が宝珠から放たれた。
ふと気付くと見知らぬ場所にいた。太陽のではない光が、あるか上空からこの場所を照らしている。何もない場所だった。
「あれ…?」
記憶を掘り出して、何をしていたか思いだす。あの後、宝珠が返って、それからどうした。
「…寝てしまった…か?」
それ以外考えられない。
あそこの霧はもう晴れ、安全な場所になっている。寝るには問題ないが。それ以降の記憶は今ここからなので、眠ってここにきたのだろう。では、ここはどこなのだろうか。眠ると辿り着く場所。
永眠ならば、天国だろうか。
「…」
不吉な考えを消して、辺りを見る。本当に何もない。光と、それを受け青磁に輝く大地以外。はるか向こうを見ようが、果てがないように思えた。
「…?」
ここを前に見た記憶があり、ブライトは腕を組んで胡乱に首を傾けた。いつだ。いつ見た。
眠って、夢…。
「…あっ!」
そうだ、ここにくる発端の夢と似ている。
それに思い至ると同時に、背後に誰かの気配がした。魔力があるのに、神気とも呼べる気を感じる。
振り向くと、一人の見知らぬ女性がいた。美しい端麗な顔立ちをしている。
目につくのは、上体の下にある長い白銀の胴体。ラミアと似ているが、違う。
「龍…?」
細かな細工のある丹の衣は、この国では見ない服だ。
小袖と呼ばれる服を数枚来ているようだが、豊満な胸元は開いて、肩部分は狩衣のようになっており、華奢な肩が見えている。
しまったくびれ辺りに巻いた代赭色の帯は、衣をしめるためだろう。小袖の下から長い胴体が続いていた。
胴体の背には綺麗な毛並みがあり、白銀の胴体によく映えている。
さらりとした紅梅の髪は長く、下の胴体に届くまで伸びていた。首元には、勾玉のようなものがあった。
人の手ではないその手には、丸い珠があった。
「…彩宵、か?」
直感でそう思った。はずれてはいないようで、彩宵はお辞儀をした。
「…宝珠を取り戻してくれて、ありがとう」
「…なんかえらく殊勝だな」
ブライトとしては、踏ん反り返ってよくぞやったとでも言うと思っていたが。
そう口にすると、彩宵は何とも言えない顔をした。
「…龍にどんな経験があるの、それ」
適当に笑ってはぐらかす。
「…ここは幽世か?」
彩宵が軽く目を見張る。
「よく知っていたわね…」
「俺も、何回もあるってわけじゃないけどな」
ここは、現世とあの世の境界の一つ。あらゆる場所と繋がっているとされている。夢をみる者が来る事のある場所。
そしてここはある者に呼ばれる事で来る事もあるのだ。
「なんで呼んだ?」
「…礼を言いに」
心の底から不思議に思ったブライトに、彩宵はそう答えた。
「…」
ブライトがのろのろと目蓋を上げた。上は木々の緑だと思っていたが、天井だった。
辺りを見回して、ここがレオナの小屋だと分かった。
「あ、起きた?」
声の方を向くと、ティアが座っていた。レオナもいた事を確認してほっとした。しかし、
明らかにレオナは気分を害していた。そして、目はブライトを睨んでいる。ティアも心なしか気まずい様子だった。
「え?」
何かしただろうか。そう考えてある事を思い出した。
「…」
ティアとヤってしまった事を思い出す。
「あぁ、レオナ」
「分かっている…分かっているんじゃが…」
仕方ないとは分かっているが、それでもやりきれない気持ちが、レオナにあるように思えた。てっきり、憤慨しているものとばかり思っていたが。
そんな様子のブライトを見て、レオナとティアは胡乱に眉を軽く寄せる。
そうしたいのは俺なんだが。
「ああ、そっか」
思いついたようにティアが呟いて、ブライトに説明した。
「ブライト、麻痺で動けなかったでしょ? あれ、霧を通ったからみたいなんだよ」
「…そうなのか?」
自分の知りたい事とは少し外れているが、ブライトはそれに驚いた。
霧の魔力が体内に入り込んだ事が麻痺の原因だった。そして、魔力は精として放射される。
霧を通ったブライトが動けていたのは、性交したからのだと、宝珠を調べ続けたレオナならば分かっていたのだろう。
「さらに、あのまま放置しておくと命に関わっていたのじゃ」
「…な」
レオナの口から交合していなければ命が危うかったと聞いて、ブライトは瞠目した。
「人間の中に魔力が入りこむと、命を蝕む」
「けど、それだとインキュバスになるはずだろ?」
それは、魔物へと変える為の魔力注入のやり方がある。
だがそれは、魔物ならば無意識だろうとできる事だ。しかし、今回魔力を入れたのは、宝珠。ジパングに存在する付喪神でもないただの物だ。
無機物に入れられては魔物にもなれないだろう。
そうレオナが説明して、ブライトはティアを見た。
つまり、ティアに命を助けられたのだ。そして、結果的にブライトの救出をした交合に蟠りがあるのだろうか。
「…まあ、そうみたい」
苦い顔をして、ティアがぼそりと呟いた。ティアが気まずそうなのもヤった本人だからか。
「…ブライトは」
唸ったレオナの声が耳朶を叩いた。
「ブライトは我のものじゃ!! 我だけが接していいんじゃ!」
「え、といあその」
「だったら交わるだけ目的ならば、もう帰ってもいいじゃろ」
「…それは、できない」
理由は、ティアもブライトの事が好きだから。
「…」
命を助けた手前、強く言えないレオナと、後ろめたさはあるが、ブライトといたいティア。
それを、ブライトは唖然と見ていた。
12/03/31 21:53更新 / ばめごも
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