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第十話 彩りの花に珠を戻せ
 木々を縫って進んでいるレオナは、小さい人影を視界にとらえた。
「ブライト…!」
 動けているのならば、自身の心配も杞憂だったか。心底安堵したレオナが息を吐いた。
 そして、ブライトのすぐ後ろに何かいる事も分かった。あの魔力はあの者から感じたのだろう。
「…」
 あまり嬉しげではない表情を、彼女はつくった。



「レオナっ!」
 合流できた事を喜び、ブライトは笑みを浮かべた。
 レオナもほっとしている。だが、少し俯いてどこか嬉しそうでない様子にブライトは訝しんだ。
「どうした?」
 レオナが顔を上げ、後ろにいるティアに目を向けた。ブライトがはっと目を見張る。
「…レオナ、実は」
 しゅんとしながらも言おうとしたブライトは、レオナの顔にある違和感を覚えた。
 何だろうか。ある現実を頭では受け入れることができても、心では受け入れる事ができない。上手く表現できるないもどかしい感情が、レオナの心にあるように感じた。それがなぜ違和感になるのかは、ブライト本人にも分からないのだが。
「このラミアと」
「…分かってる…うぅー」
 レオナは、なんとも言えない顔をしている。ティアは、そんなレオナに睨まれ狼狽していた。
 瞬間、地鳴りが轟いた。
「っ!?」
 三人が警戒する。振動で転ばないように膝をついた。
 次第に収まっていくと、レオナの顔は強張って目を見開き、恐怖している。
 この地鳴りは自然の類ではない。ブライトも何ともないとは言えないのだが、レオナの反応には少し訝しんだ。
「レオナ…?」
 傍により腕を肩にまわした。
 はっとしたレオナは冷や汗をかいている。怯えた目がブライトの瞳と合った。
「…急がないと」
 その一言で、地鳴りと宝玉が関連していると理解する。
 レオナの様子からゆっくりと説明してもらう余裕はないと判断して、ブライトはまわした腕を離した。
「…っ」
 レオナに向かってブライトが心を安定させるおまじないをかけると、レオナの表情は和らいでいる。ティアにもおまじないをかえようとしたが、けろりと何ともない様子なので、大丈夫と判断して立ち上がった。
「…よし、とりあえず急ごう」
 レオナとティアが頷いた。



 宝玉の場所は分からなかったので、ブライト自身がまだ特定できていない今現在は走っていた。
「うわっ?!」
 再びぐらぐらとした揺れがはじまり、ブライトがひっくり返りそうになる。幸い、今回は弱かったので、踏ん張れたが。
 レオナは顔を少し強張らせているが、倒れそうになったのはブライトだけだった。
「俺は飛んだほうがいいかなぁ…?」
 思案して呟いているブライトの耳朶に、ティアの声が届いた。
「んー、むしろ皆飛んでる方がいいかも」
 それを聞いて、ブライトもそうかと会得した。
「そうだな、強い揺れだと地面に接触しないほうがいいか」
 足と接触している地が揺れてしまうと、動きが制限してしまう。飛んでいる方が何かあっても対処できると考え、符を取り出す。
 レオナが浮かび、ティアが符に乗ったブライトの後ろ側の肩に手を置いた。
 レオナの視線が気になるが、余裕の時間もないので、気にしないようにした。
 そうしながらも、別段ティアは関係ないなと思った。
 危険がなければいいのだが、レオナの様子から安全とは言えないので、同行させないほうがいいだろうか。
 自身の考えを口に出すと、むしろ一緒にいないのは返って危険なのと安全圏まで連れていく時間も惜しい。そして手を貸してほしいと、レオナが意見した。
 その考えにブライトは同意したが、そこまで時間がなかった事に驚いた。数時間前のレオナを思い出し、今の彼女の様子を見る。
 予想と食い違ったのだろうか。
「…」
 地鳴りに対しては何とも思わないが、レオナの不安そうな顔を見ていると、心臓が早鐘をうつ。そしてそれは、愛情の類では、けっしてない。それの正体が不明で、苛立ちがつのる。
 さらに木々が前をふさぐので、細かな制御をしなければならない事が余計にいらいらとさせてくる。
「くそっ…どうして木がこんな多いんだ」
 吐き捨てるようにブライトは呟き、レオナから状況を聞いた。
「…レオナ、これ、今どんな状況なんだ?」
 びくりと、レオナの身が震えた。レオナの様子から聞く事は酷いとは思ったが、そうは言っていられないと、本能が警告する。
「…宝玉が、帰ろうとしている」
「かえる…?」
 レオナが頷き、沈鬱な表情で先を睨んだ。
「彩宵本人はなんともないんじゃが、宝玉はそうではないんじゃ…」
 宝玉は本来、竜神の手の中に存在しなければならない。それが離れれば本人自体も力が劇減するが、それ以上に宝玉は戻ろうと自分の力を行使する。
 それを聞いたティアが不思議そうにする。
「物に意思があるって事?」
「いや…あるべき所にない、が正しい」
 レオナの言葉にブライトが苦い顔をした。
 龍は、実質神ではない。しかし、ジパングの人々に崇められ、持つ力は最上位に位置する魔物、そして神々と同格、それ以上と言える。
「神に値する魔物の物が暴走って、やばいなそれ」
 ならば、今この現状の説明は、宝玉と呼んでいる物が起こしていると考えていいだろう。



 だいぶ森の中を進んでいると、感じるものがあった。
「水の気…!」
 感じる気は水の属性だ。
 徐々に地震の回数と震度は酷くなっている。飛んでいるので影響は障害物が面倒になる程度であまりないが、走っていればここまで来る時間は遅くなっていただろう。
「ここまでくれば…レオナ、急ぐぞ!」
 案内による時間も必要なくなり、お互い速度を上げた。
 強い魔力が肌に刺さり、知らない間に肌が粟立っている。
「さすがは水神の物って所か…」
 本来は神器とされるが、これはもう呪具と呼べる代物だ。近づけば近づくほどそれが分かる。
「そうか…だから、宝玉か…」
 口の中で剣呑に呟いた言葉は、外に響く事はなかった。



 宝玉が眠る場所につくと、本能が凄まじいほどに警告をならす。心臓がばくばくと打ち、血の気が引いていく。
 宝玉を抑える力と、それを破ろうとする力が鬩ぎ合っている。
「で、これをどうするんだ」
「簡単じゃ、宝玉を抑える封印を解けばいい」
 宝玉が力を集めて無理に封印を打ち破ろうとしているから、今のような状況が起きているのだ。
 封印をなくせば、宝玉の暴走も止まる。
 そう言ったレオナ達はまず、魔方陣を描こうと動いた。
 しかし、凄まじい奔流が荒れ狂う場所で魔方陣を描くというのは相当な労働だ。
「…っ!」
 特にブライトは術が使えるだけの人だ。掛かる重負担は二人よりも大きい。その為、一番遠くに位置する円を担当していた。
 これならばなにかしらの法具を用意すればよかった。
 ここに滞在するだけでも体力や精神を消費する感覚がある。そしてそれは気のせいではない。
 後悔しながらも何とか描き上げ、ブライトは手順を記憶から掘り返した。
「たしか…レオナに精を…」
 しかし、レオナに精を与えると言っても、これではとても出来る精神にはならない。
「ブライトは隅で見ててくれ」
 思案していたブライトの耳朶を、レオナの声が叩いた。
「は?」
「ティア、ついてきてくれ」
 代わりの声がかかったのは、ティアだった。
 協力する事を約束したが、ブライトではなく自身に声がかかる事を、予想だにしていなかったティアは虚をつかれた。
「あ、あたし?!」
 有無を言わせずティアの手首を掴み、レオナは進んでいく。
 強い、気丈に保たなければ倒れてしまいそうだ。一歩歩くだけで疲労が酷い。それは、ブライトからもよく分かる。
 そして、ブライトは違和感を覚えた。
 レオナは必死なのに、ティアは、さしてそうではない。一応、恐怖と言える感情をもっているように見えるが、それがレオナ程ではない。
 ある程度距離をとっているブライトでさえ身がすくんでいる。それが人間だからと説明できようが、レオナとは明らかに違う事の説明は難しい。
 もしかすると、ティアはかなりの実力者なのだろうか。ブライトがそう思案していると、レオナの足が止まった。
「…」
 ぞわぞわとさせる空間の中に、魔方陣に沿ってレオナの魔力が広がっていく。魔力を濃く感じるのは、レオナだけでなくティアも手を貸しているからだろう。
「…ん?」
 それを見ていたブライトは、ある違和感を覚えた。
 宝玉は、龍の持ち物だ。龍は水の力をもつ。だから、今水の属性を孕んでいるのは納得できる。
 封印が薄れて、破られようとしているのが、分かる。そして、封印の力が薄れ、宝玉の持つ力に水以外が混ざっている事も。
 しかし、それは四大元素には当てはまらない属性だ。だが、ブライトはその属性を知っている。
「まさか…!?」
 剣呑にブライトが辺りを見回した。
「…っ!」
 瞬間、宝玉の魔力がぶわりと広がった。
12/03/27 20:36更新 / ばめごも
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■作者メッセージ
第十話しゅーりょー!!
ブ「中途半端だな」
ここで区切らないとさらに微妙な所になる可能性があるからね
ブ「マジか」
さて、ここでなに話したらいいんだろうね次回予告くらいしか思い浮かばん
ブ「それを考えるのがお前の役目だろ」
ひどいよブーちゃん
ブ「ヒネリつぶすよ」
おお、こわいこわい。

さて、そろそろ彩宵編は終わります。これからどうなるでしょうか、それでは!!

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