晩酌
とある町の商店街の片隅に
『狸屋』と達筆で書かれた看板を掲げる、古めかしい木造の建物
そこには、いつも子供達の人だかりができていた
「ねーちゃんあそぼ〜!」
「んー、儂は今忙しいからのぅ…」
「じゃ、俺と遊ぼうか」
「うん!」
「おぉ智秋、すまんな」
いつもは店主のムジナが1人で切り盛りしていたが、今はその隣にもう1人、俺がいる。ねーちゃんから商売のイロハを教えて貰いながら、一緒に狸屋を切り盛りしているのだ
「じゃあ…何して遊ぼうか」
「はい!にーちゃんもこれ!」
「お、メンコか。いいよ」
「こっちこっちー!」
「はやくー!」
まだ手伝い程度の事しか出来ないが、とても充実している
「じゃ、ちょっと行ってくるよ」
「おう。転ぶなよー」
「やめてよ、子供じゃないんだから…」
「くくっ、そうじゃのう」
「もう…」
……………………………………………
「おうお前ら!そろそろ晩飯時じゃ。はよ帰りな」
「えー!今いいとこなのにー!」
「ダメダメ、親御さんが心配すっぞ」
「ぶー…」
空が茜色に染まる頃、ねーちゃんの一声で子供達は片付けをはじめる。中には渋々といった感じの子もいるが、しっかり帰る準備をしている所をみると、ねーちゃんの統率力というか纏め上げる力は流石だと思う
「ふぃ〜」
「智秋、お疲れさん」
「子供ってすげーや…息切れ知らずっていうか」
ねーちゃんの座る横に腰を下ろして一息つく。おれもまだ20歳の筈だが、つくづく小さな子供というのは計り知れない
「………よしよし」
「ん……」
不意に、ねーちゃんが頭を乱暴にわしわしと撫でてくれる
昔からねーちゃんが、何故か俺にだけしてくれたスキンシップ。これをされると無条件で心が落ち着く
だが
「ねーちゃん……この歳でこれは流石に…」
「ん?おぉスマン、つい癖で」
「……ねーちゃん、なんか俺の事子供扱いしてない?」
「む、そんな事はないぞ」
そうは言うが、どうも俺はねーちゃんからは子供に見られている気がする
……………………………………………
夜の狸屋にて
今日は仕事も特にないので、2人で表に出てお客さんの相手をしている
そんな時
「すいませーん、いつものお薬、下さる?」
「あ、はいはーい」
「智秋、それならそこの棚の…」
「ねーちゃん、覚えてるよ」
「およ、そうか…」
とか
「えー、合計で……」パチパチ…
「2300じゃな」
「…ねーちゃん、そろばん練習させてよ…」
「ゔっ…ス、スマン……」
とか
「ねーちゃん、アレとコレ、補充しといたよ」
「おお!助かるぞ〜!よーしよし…」
「わっ⁉…だ…だから…この歳でこれは恥ずかしいってば…!」
「ん〜?いいじゃろ別に〜」
とか
…もう我慢の限界だ
「ねーちゃん!」
「ん…?なんじゃ急に」
「なんだじゃない!いつもいつも子供扱いしやがって!俺だってもう20歳だぞ!」
「そうじゃな。いや〜、ほんと大きくなったもんじゃ。前までこんなに小さかったのに……」
「だから!それを!やめてくれって!言ってるんだ‼」
「まぁまぁ…そう怒るな。子供っぽいぞ」
「ぐっ……」
ねーちゃんの一言に言葉が詰まる。そうだ、これじゃあ本当に子供じゃないか
「………ふぅ…そうだな。ありがと、ねーちゃん」
「くははっ…お前は本当に分かりやすいなぁ!」
「なんだっ………ぐぅ…」
我慢……我慢だ……!
「………そうじゃのぅ、そこまでいうなら『大人』のお前にちょいと付き合って貰おうかの」
「………?」
ねーちゃんは、ニヤリと笑い、席を立った
……………………………………………
戻ってきたねーちゃんは大きな瓶と二つのコップを持ってきた
「ねーちゃん…それ」
「ん、日本酒じゃ」
「……仕事中だぞ?」
「よくやる事じゃ。少しほろ酔い位が楽しくてええんじゃ」
そんなんでいいのか
「お前、20歳にはなってるじゃろ。ちょっと付き合え」
「え、でも……」
「なんじゃ、大人の男は女子からの晩酌の誘いを無下にするのか?」
「いや…そういうわけじゃ……」
「うだうだ言わずに取り敢えず飲んでみ」
そうこうしている間にねーちゃんは俺の前にコップを置いてお酒を注いでくる
※お酒の無理強いははやめましょう※
酒は飲むのは初めてなので、すこし抵抗がある。みた感じ、透き通っていて水のように見えるが…
俺は、意を決してコップに口を付けた
「ん……んくっ………」
「どうじゃ」
「うぇ…苦い。でも美味しい…かも」
「くくっ、そうかそうか」
初めての酒は苦いとも聞くが、それでもここまで美味しく感じるのはいいお酒の証拠なのだろうか
「ほれ、儂の分も淹れておくれ」
「ん、」
ねーちゃんが、コップを俺の方に寄せて催促してくるので注いでやる。それを飲んで一息つくと、ねーちゃんはとても満足そうな顔をしていた
「っはぁ〜、ウマい」
「なんかおっさん臭いよ」
「いやなぁ、一度お前にお酌して貰いたかったんでな。念願が一つ叶った。それに…」
「それに?」
「またお前の初めてが貰えた。くくくっ」
「へ?」
「初酒に初晩酌、これで二つのゲットじゃ。他にも、お前の初仕事、初のお前1人での買い物だってこの店じゃから儂のもんじゃ。それに、お前の『初めて』、もな♡」
「…それ、楽しいの?ただのこじ付けな気が……」
「楽しいぞ。増えるたびにお前が儂のものになっていく気がしてな」
「ふ、ふーん…」
変な趣味があるんだな
でも、それはつまり俺がねーちゃんに愛されている証拠なのだろう
「……なんかズルいよ」
「ん?」
「ねーちゃんは俺相手だから初めてがいっぱいあるけどさぁ…俺がねーちゃんから貰える初めてなんてもう残ってないじゃん」
俺は、何故か対抗心を燃やして拗ねてしまう
すると、ねーちゃんは笑いながら
「いーや、まだ残っとるよ。それも、とびっきりのがな」
「何さ…んむっ…⁉」
俺の顎に手を添えて、思いっきり口づけをしてきた
「ん…じゅる…」
「んー!」
更に、ねーちゃんの舌が唇を割って侵入し、口の中を舐めまわしていく
最初は少し抵抗したが、やがて体から力が抜け、されるがままにねーちゃんの舌使いを味わわされた
「ん〜…ぷはっ…はぁ……どうじゃ?儂のファーストキスじゃ♡」
「あ……急に…何を」
「これでお前も儂の初めてをゲットじゃな」
「…ファースト…キスって……この前の口移しは…」
「あんなもんノーカンじゃノーカン。それともあんなのが初めてがいいか?」
「いや…俺もこっちがいい」
「じゃろう?」
ともあれ、俺もねーちゃんの初めてをもらえた。この事実は誰にも塗り替えられることはない。不思議と独占欲が満たされ、気分が高揚してくる。成る程、ねーちゃんの趣味もわからないでもない
「さて、そんじゃあ晩酌の続きじゃな。ツマミでも……」
「ダメだよ…一応仕事中なんだから…」
「真面目じゃなぁ…わかった。続きはまた後にしようか」
こうして、夜は更けていく…
『狸屋』と達筆で書かれた看板を掲げる、古めかしい木造の建物
そこには、いつも子供達の人だかりができていた
「ねーちゃんあそぼ〜!」
「んー、儂は今忙しいからのぅ…」
「じゃ、俺と遊ぼうか」
「うん!」
「おぉ智秋、すまんな」
いつもは店主のムジナが1人で切り盛りしていたが、今はその隣にもう1人、俺がいる。ねーちゃんから商売のイロハを教えて貰いながら、一緒に狸屋を切り盛りしているのだ
「じゃあ…何して遊ぼうか」
「はい!にーちゃんもこれ!」
「お、メンコか。いいよ」
「こっちこっちー!」
「はやくー!」
まだ手伝い程度の事しか出来ないが、とても充実している
「じゃ、ちょっと行ってくるよ」
「おう。転ぶなよー」
「やめてよ、子供じゃないんだから…」
「くくっ、そうじゃのう」
「もう…」
……………………………………………
「おうお前ら!そろそろ晩飯時じゃ。はよ帰りな」
「えー!今いいとこなのにー!」
「ダメダメ、親御さんが心配すっぞ」
「ぶー…」
空が茜色に染まる頃、ねーちゃんの一声で子供達は片付けをはじめる。中には渋々といった感じの子もいるが、しっかり帰る準備をしている所をみると、ねーちゃんの統率力というか纏め上げる力は流石だと思う
「ふぃ〜」
「智秋、お疲れさん」
「子供ってすげーや…息切れ知らずっていうか」
ねーちゃんの座る横に腰を下ろして一息つく。おれもまだ20歳の筈だが、つくづく小さな子供というのは計り知れない
「………よしよし」
「ん……」
不意に、ねーちゃんが頭を乱暴にわしわしと撫でてくれる
昔からねーちゃんが、何故か俺にだけしてくれたスキンシップ。これをされると無条件で心が落ち着く
だが
「ねーちゃん……この歳でこれは流石に…」
「ん?おぉスマン、つい癖で」
「……ねーちゃん、なんか俺の事子供扱いしてない?」
「む、そんな事はないぞ」
そうは言うが、どうも俺はねーちゃんからは子供に見られている気がする
……………………………………………
夜の狸屋にて
今日は仕事も特にないので、2人で表に出てお客さんの相手をしている
そんな時
「すいませーん、いつものお薬、下さる?」
「あ、はいはーい」
「智秋、それならそこの棚の…」
「ねーちゃん、覚えてるよ」
「およ、そうか…」
とか
「えー、合計で……」パチパチ…
「2300じゃな」
「…ねーちゃん、そろばん練習させてよ…」
「ゔっ…ス、スマン……」
とか
「ねーちゃん、アレとコレ、補充しといたよ」
「おお!助かるぞ〜!よーしよし…」
「わっ⁉…だ…だから…この歳でこれは恥ずかしいってば…!」
「ん〜?いいじゃろ別に〜」
とか
…もう我慢の限界だ
「ねーちゃん!」
「ん…?なんじゃ急に」
「なんだじゃない!いつもいつも子供扱いしやがって!俺だってもう20歳だぞ!」
「そうじゃな。いや〜、ほんと大きくなったもんじゃ。前までこんなに小さかったのに……」
「だから!それを!やめてくれって!言ってるんだ‼」
「まぁまぁ…そう怒るな。子供っぽいぞ」
「ぐっ……」
ねーちゃんの一言に言葉が詰まる。そうだ、これじゃあ本当に子供じゃないか
「………ふぅ…そうだな。ありがと、ねーちゃん」
「くははっ…お前は本当に分かりやすいなぁ!」
「なんだっ………ぐぅ…」
我慢……我慢だ……!
「………そうじゃのぅ、そこまでいうなら『大人』のお前にちょいと付き合って貰おうかの」
「………?」
ねーちゃんは、ニヤリと笑い、席を立った
……………………………………………
戻ってきたねーちゃんは大きな瓶と二つのコップを持ってきた
「ねーちゃん…それ」
「ん、日本酒じゃ」
「……仕事中だぞ?」
「よくやる事じゃ。少しほろ酔い位が楽しくてええんじゃ」
そんなんでいいのか
「お前、20歳にはなってるじゃろ。ちょっと付き合え」
「え、でも……」
「なんじゃ、大人の男は女子からの晩酌の誘いを無下にするのか?」
「いや…そういうわけじゃ……」
「うだうだ言わずに取り敢えず飲んでみ」
そうこうしている間にねーちゃんは俺の前にコップを置いてお酒を注いでくる
※お酒の無理強いははやめましょう※
酒は飲むのは初めてなので、すこし抵抗がある。みた感じ、透き通っていて水のように見えるが…
俺は、意を決してコップに口を付けた
「ん……んくっ………」
「どうじゃ」
「うぇ…苦い。でも美味しい…かも」
「くくっ、そうかそうか」
初めての酒は苦いとも聞くが、それでもここまで美味しく感じるのはいいお酒の証拠なのだろうか
「ほれ、儂の分も淹れておくれ」
「ん、」
ねーちゃんが、コップを俺の方に寄せて催促してくるので注いでやる。それを飲んで一息つくと、ねーちゃんはとても満足そうな顔をしていた
「っはぁ〜、ウマい」
「なんかおっさん臭いよ」
「いやなぁ、一度お前にお酌して貰いたかったんでな。念願が一つ叶った。それに…」
「それに?」
「またお前の初めてが貰えた。くくくっ」
「へ?」
「初酒に初晩酌、これで二つのゲットじゃ。他にも、お前の初仕事、初のお前1人での買い物だってこの店じゃから儂のもんじゃ。それに、お前の『初めて』、もな♡」
「…それ、楽しいの?ただのこじ付けな気が……」
「楽しいぞ。増えるたびにお前が儂のものになっていく気がしてな」
「ふ、ふーん…」
変な趣味があるんだな
でも、それはつまり俺がねーちゃんに愛されている証拠なのだろう
「……なんかズルいよ」
「ん?」
「ねーちゃんは俺相手だから初めてがいっぱいあるけどさぁ…俺がねーちゃんから貰える初めてなんてもう残ってないじゃん」
俺は、何故か対抗心を燃やして拗ねてしまう
すると、ねーちゃんは笑いながら
「いーや、まだ残っとるよ。それも、とびっきりのがな」
「何さ…んむっ…⁉」
俺の顎に手を添えて、思いっきり口づけをしてきた
「ん…じゅる…」
「んー!」
更に、ねーちゃんの舌が唇を割って侵入し、口の中を舐めまわしていく
最初は少し抵抗したが、やがて体から力が抜け、されるがままにねーちゃんの舌使いを味わわされた
「ん〜…ぷはっ…はぁ……どうじゃ?儂のファーストキスじゃ♡」
「あ……急に…何を」
「これでお前も儂の初めてをゲットじゃな」
「…ファースト…キスって……この前の口移しは…」
「あんなもんノーカンじゃノーカン。それともあんなのが初めてがいいか?」
「いや…俺もこっちがいい」
「じゃろう?」
ともあれ、俺もねーちゃんの初めてをもらえた。この事実は誰にも塗り替えられることはない。不思議と独占欲が満たされ、気分が高揚してくる。成る程、ねーちゃんの趣味もわからないでもない
「さて、そんじゃあ晩酌の続きじゃな。ツマミでも……」
「ダメだよ…一応仕事中なんだから…」
「真面目じゃなぁ…わかった。続きはまた後にしようか」
こうして、夜は更けていく…
16/03/30 21:46更新 / ウェラロア