誘拐未遂
突然だが、俺は仕事をクビになった
別に俺が何かミスをしたわけではない。むしろ普段から仕事熱心だとみんなから褒められ、頼られる位だった。では何故か?
横暴な上司のやらかした大ポカを押し付けられたのだ
勿論抗議はした、それでもその無能上司の権力に勝つことはできなかった
友人や先輩も頼った、しかしそいつらは上司のやらかしたミス自体を知らなかった所為か、あろうことか権力を振りかざす上司の方を信じやがった
(はぁ……これからどうすりゃいいんだよ………)
毎日の仕事がなくなると、途端に何もすることがなくなる。自分がどれだけ無趣味な仕事人間だったのかを思い知らされる
俺は今、毎日の習慣通りにスーツに着替えて家を出たが、しばらく歩いてからリストラになったことを思い出し、職を失った人間のテンプレートのように朝っぱらから公園のブランコに揺られている
公園の外を眺めると、通勤通学でせわしなく動く人々。昨日まで俺もあの中に居たはずなのに、こちらに少しの視線すら向けない彼らを見ていると凄まじい疎外感を感じて居心地が悪い
(………あー……くそっ……)
こんなところにいてもなにも変わらない。取り敢えず今日は家で寝よう。落ち着いたらこれからのことを考えて……
(……あ?)
ふと、家に帰ろうと顔を上げると、目の前に誰かがいた
金髪の少女だ。見た目からして小学生だろうか?だが、その少女はランドセルやカバンは持っていない。こんな時間に手ぶらで公園にいるのは些か不自然だと感じる
その少女は公園の真ん中に突っ立って俺のことをじーっと見つめている
「……お嬢ちゃん、なんか用か?」
「お兄ちゃんは何してるの?お仕事は?」
「ぐはっ…」
言葉のナイフが心を抉る。子供であるが故の純粋で鋭い一言だった
「…お兄ちゃんはな、お仕事クビにされたんだ」
「あ!私知ってる!それリストラって言うのよね!えっと…セチガライ…?わね!」
楽しそうに励まされた、のか?こいつにはまだ事の重みが理解出来ないのだろう
(……こいつ、よく見るといい身なりしてやがるな)
目の前で楽しそうにしている少女の服を改めて見る
一目見て思い出すのは有名な童話「不思議の国のアリス」、このご時世には時代錯誤とも思える水色と白の衣装、綺麗な金髪も相まって再現度は高い
(こんな服着てるなんて……家も良いところなんだろうな)
この無邪気さからして、相当親から甘やかされて居るのだろう。不幸の真っ只中で捻くれ気味な俺は勝手ながらにそんな邪推をしてしまう
(………今の俺にゃもう失う物も少ない。ならいっそ……)
「…?どうしたの、お兄ちゃん」
「ん……あぁ……なぁ…お嬢ちゃん、お名前はなんて言うんだ?」
「私?リーナって呼んで!」
「そっか。じゃあリーナちゃん、お腹は減ってないかい?」
「お腹…ペッコペコだわ!今さっき起きたばっかりで朝ごはんもまだなのよ!」
「そうか…それはちょうどいい……」
「いまからお兄ちゃん、家でホットケーキを焼こうと思うんだ。食べにおいでよ」
「本当⁉蜂蜜はある⁉」
「ああ、あるよ」
「バターは?マーガリンじゃなくてバターよ?」
「もちろん、なんならアイスクリームも乗っけてあげよう」
「アイス……!行くわ!お兄ちゃん大好き!」
俺が誘拐に手を染めた瞬間である
……………………………………………
「じゃあ、ついておいで」
俺はリーナちゃんを先導するように公園を後にするが
「あっ、待って待って!」
「ん………?何してるんだ」
「手、繋ぎましょ」
小走りで俺の横に来ると、俺に向けて手を差し伸べる
「……え、うーん…ちょっと恥ずかしいな」
本音はちょっとどころではない。スーツの男とアリスな少女、一緒にいるだけでも目立つのに手なんて繋いだら怪しまれるのではないか
「そう…じゃあ肩車で我慢するわ」
「うん、それなら……いやそっちのが恥ずかしいよ!」
「なら手を繋ぎましょ!」
ツッコミを入れている間にカバンを持たない手を握られる。小さく、柔らかく、暖かい、久しく触ることのなかった女の子の手は、なんだかすごく触り心地が良かった
「あー…もう、まあいいや。行こうか」
「ええ!パンケーキ〜♪パンケーキ〜♪」
……………………………………………
家に向かう時間にはちょうど通勤通学ラッシュのピークを過ぎたらしく、思ったよりも人とすれ違わなかった。特に難なくマンションの自室にたどり着く
「散らかってるけど、くつろいでて」
「だ…だめよ!ご飯の前にはお片づけしなきゃ!」
「へ?いや、確かに汚いけど、こんなもんだって」
部屋には飲み終わった缶やペットボトル、菓子の袋や適当に畳んだ服の山、確かに綺麗な部屋とは言えないが
「もー!駄目なの!美味しいものは綺麗な所で食べたらもっと美味しいの!」
「え…でもなぁ……」
「いいから!私はお洋服たたむから、片付けて!」
何か言う前にリーナちゃんは服を畳み始める
言っても聞きそうにないのて、仕方なく俺も片付けを始めた
……………………………………………
リーナちゃんは集中すると黙るらしく、黙々と作業を進めた。俺もそれにつられて部屋を掃除、気がつけば1時間が過ぎていた
ふと、部屋を見渡すと見違えるほどに綺麗になっていてスッキリする
「おお…すごいもんだ」
「ね?気持ちいいでしょ?」
「あぁ……」
ちょうどその時リーナちゃんのお腹から「グゥゥゥ…」と腹の虫がなる。片付けのおかげで朝食の時間はとっくに過ぎていた
「それじゃあ早く焼きましょ!」
ピョンピョンと跳ねるように台所へ向かうリーナちゃん。この子は疲労というものを知らないのか
(………何してんだ俺は……家に連れ込むだけじゃ金になんねーだろうが)
そうだ、俺はこの子を身代金目当てで誘拐したんだ。何も一緒に楽しく遊ぶためじゃあない
「お兄ちゃーん!はーやーくー!」
「あ、あぁ…今いくよ」
……………………………………………
「お兄ちゃん!私が混ぜるー!」
「お、上手にできるかな?」
「できるわ!やったことはないけれど…」
卵、牛乳、ホットケーキミックスの入ったボウルを抱えてカチャカチャと混ぜるリーナちゃん。少し乱暴で机に粉が溢れている
「コンロは高くて届かないだろ?焼くのは俺がやるよ」
「えー!ずるいわずるいわ!そうだ!お兄ちゃん抱っこして!そしたら届くかも!」
「えー?もー、しょうがないなー」
リーナちゃんの両脇に腕を通して持ち上げる。少しやり辛そうだったが、なんとか生地をひっくり返す
「いただきまーす!」
リーナちゃんの目の前には5枚ほど積み上がった形の不揃いなホットケーキ。蜂蜜やバターがたっぷり乗っかっているそれを美味しそうに頬張っている。俺はその様子を微笑ましく思いながら眺めて…
(って、違う!まただ…こんな事しても金にゃならねーんだってば!)
何故だろう、この子といると不思議と和んでしまう
「なぁリーナちゃん。君のお父さんとお母さんはどんな人なんだい?」
俺はやっとこさ情報を引き出し始めた
「んーと…パパとママはここに居ないわ」
「…ここって…この街?」
「そう!」
なんという事だ、これじゃあ身代金は誰に請求すればいいんだ
それにしても、こんな幼い少女を1人置いて行くとは…なんて親だ
「…パパとママに会いたいかい?」
「んー、会いたいけど、2人の邪魔はしたくないの!」
邪魔……仕事が何かで出かけているのか?
「じゃあ、両親の電話番号はわかる?」
「電話…なぁに、それ?」
「………」
まいった、これじゃあ身代金なんて貰えそうにないぞ
少し目を伏せて考える
(…どうしたものか、身代金がダメなら人身売買……いや、でも流石にそれは…)
顔を上げてリーナちゃんを見る
「?どうしたのお兄ちゃん…あー!わかった!んしょ…はい、あーん!」
こっちの思惑を何も知らない少女は、無邪気な笑顔で俺にホットケーキを一切れ差し出してくる
「……………」
「…お兄ちゃん?食べないの?」
「ん、あぁいや、…じゃあ貰おうかな」
「うん!あーん!」
「あー……むぐ…ん、美味しいよ」
駄目だ、やっぱり俺に誘拐なんて無理だったんだ。こんな幼気な少女をダシに金を稼ごうだなんて考えたのが間違いなんだ
俺はリーナちゃんの底抜けな明るさに完全に毒気を抜かれてしまったようだ
(これを食べ終わったらお家まで送ってあげよう。そんで俺も明日から仕事をさがそう。うん、それがいい…)
……………………………………………
「はー、美味しかった!」
やがて、リーナちゃんはホットケーキを食べ終える
「はは、口汚れてるよ」
「ん…お兄ちゃん、拭いて!」
「はいはい…」
「んむ…えへへ…♪お兄ちゃん優しいね」
「…そうかな」
「ええ!」
この子をみていると、本当に元気が湧いてくる気がする
「さて、じゃあそろそろお家に帰ろうか」
「えー…もうお別れなの?」
「うん……ごめんね、せめてお家まで送っていくよ」
「そう……わかったわ。また遊びに来てもいい?」
「………ああ…もちろん」
家に誘った動機が誘拐だったこともあって、すこし戸惑ったが、こんな目をされては断ることもできない
「じゃあ…行こうか。案内してくれるかな?」
「うん!はい、お兄ちゃん!」
「ん?」
「もー、手!つなご!」
「…ああ」
……………………………………………
時間は一時過ぎ、街中は遅めの昼食をとる人々がちらほらと見える
リーナちゃんのような目立つ服装の子を連れて入ればすこしは人目につくかと心配したが、存外人間というのは他人に興味が無いものなのかもしれない
これなら職質されることもないか…よかった
『ちょっと…ちょっと!そこのお兄さん!』
「はい?」
誰かに呼び止められた気がして振り返る
そこには紺色の制服を着た中年のおじさんが、疑わしげな表情で俺を見て……
「ぅわわっ⁉」
安心した矢先に職質された
『あのー、失礼ですけどあなた、お仕事は』
「あ、は…しご…仕事は…あの、その、昨日、クビに……」
当然の事に驚いてしまって呂律が回らない。仕事のことは特にやましいことも無いはずなのにはっきりと口に出せない
『ふむ…そちらのお嬢さんは?お子さんですか?』
「は…えっと…この子は…その…親戚というか…」
まずい、このままだと誘拐未遂がバレてしまう
リーナちゃんもうまく話を合わせてくれればなんとか…
(頼むっ!どうにかごまかして!)
「あ!そういえばお兄ちゃん、わたしお兄ちゃんのお名前知らないわ!なんてお名前なの?」
今その質問はダメだよ…リーナちゃん
『……すいません、お兄さん、ちょっとお話を』
「〜っ!逃げるぞっ!」
「ふぇっ⁉」
『あっ⁉こら!待ちなさい!』
ここにいたら捕まってしまう。とにかく逃げよう
俺はリーナちゃんの手をしっかり握ってお巡りさんから逃げ出す
『待ちなさーい!』
「はっ…!はっ……!くそっ!」
未遂とはいえ、神様は俺の悪事を見過ごしてはくれないようだ。全く、悪い事はできないな
「お兄ちゃん、どうしたの?お家はこっちじゃないわ。あのおじちゃんはだあれ?」
「っ……お兄ちゃんなっ…あのおじちゃんには捕まったらだめなんだっ…はっ……ごめんな…」
「んー…わかった!鬼ごっこね!」
「へ?いやっ…ちが…」
「じゃあ次はこっちに逃げましょ!」
「おわっ⁉」
思いの外強い力でリーナちゃんに引っ張られる。その先は暗い路地裏、人1人がちょうど通れるぐらいの狭さだ
「うふふっ!鬼ごっこなんて久しぶりだわ!楽しいねお兄ちゃん!」
『待ちなさい!このっ…(ガッ)あだっ⁉』
「へっ?」
首をひねって後ろを伺うと、どうやらお巡りさんは何かにつまづいたらしい
なんだか知らないがラッキーか?
『誘拐犯は君かっ!待ちなさい!』
「なっ!応援かっ…!」
路地を抜けると、先に他のお巡りさんが待ち構えていた。中年のお巡りさんが追いかけながら呼んでいたのか
「今度はこっち!」
「わっと…!」
『あっ!待ちなさ…うわっ⁉』
『わっ⁉すみませーん!』
今度もリーナちゃんに引っ張られるがままについて行く。するとお巡りさんは急に横から出てきた、大荷物を抱えるお姉さんとぶつかって荷物をボトボトと落としてしい、お巡りさんの動きが止まる
おかげで、どうにか俺は人目につかないところに隠れる事が出来た
「はぁ……はぁ…」
「あら?もう鬼さんはいないの?」
「うん……逃げ切れた…みたい……ありがとう、リーナちゃん…」
「?どうしてお礼を言うの?あ、そうだ。2人目のおじちゃんが言ってた『ゆーかいはん』ってなーに?」
「え゛っ…そ…それは……」
「…まあいっか!それより、お兄ちゃんはあのおじちゃん達に捕まりたくないのよね?」
「うん…でも待っててね、まずは君を送ってから……」
「ならいい方法があるわ!お兄ちゃんは逃げられて、私はお家帰れて、私とお兄ちゃんがずーっと一緒にいられる!素敵な道があるの!」
「…へ?」
「んーと、確かここに……あった!」
肩に下げてるポシェットを探って、中から取り出すは一本のゴシックな鍵
「ママがね、『素敵な男の人に出会えたら使え』って!今がその時よ!」
そう言って、リーナちゃんは虚空に鍵を差し込み、回す。するとそこに、突然扉が現れる
「……はい?」
「さ、行きましょ!」
言われるがままに手を引かれ、扉の中に入って行く。扉の中に広がるのはモヤモヤとした異空間
これに…入るの?いやまずこのドアどこから…
「ちょ⁉いやっ!待っ………」
ギィ……バタン
……………………………………………
モヤモヤを抜けるとそこには、まるでどこぞの遊園地のような街並みが広がっていた
「………な…何これ…」
「ここは不思議の国!私の故郷で、とっても楽しい所よ!」
「不思議…の……?それ国の名前なの?」
「そうよ?」
それはまた、なんとも不思議な名前だ。いやそもそもリーナちゃんがサラッと行った異空間移動についても説明が欲しい
それに、今改めてリーナちゃんを見ると、いつの間にやら頭には可愛らしい一対のツノ、背中には悪魔チックな羽、腰からはしなやかな細い尻尾が生えている
どういうことか、色々と聞くために口を開こうとしたが
「ふふっ、心配しなくていいわ、お兄ちゃん!ここではそんなむつかしい事は考えなくてもいいの!」
「へ?」
「ここはなんでも起きる不思議な国、ここではセチガライお仕事も追いかけてくるおじちゃんも居ないの!お兄ちゃんの嫌いなお片付けもしなくていいし、ホットケーキだっていくらでも作れるわ!これでずーっと遊べるね!」
「そ…そうなのか?」
ふと、後ろを振り向くと、入ってきた扉がどんどん透明になっていく
「あっ⁉ちょっ、嘘⁉」
慌てて取っ手を掴もうとしたが、間に合わない。俺の手は虚しく空を切った
「どうしたの?お兄ちゃん」
「いやだって…もう帰れないのはちょっと…」
「えー?いいじゃないの!お兄ちゃん、またお仕事したいの?セチガライのよ?」
「や…それは…」
「それに!あっちに居たらまたおじちゃんに追いかけられちゃうわ!嫌でしょ?」
「う…うーん………それは嫌だけど…」
「じゃあ決まり!まずはパパとママに挨拶しに行かなくちゃ!行こっ!」
なんだろう、ここにいると頭がふわふわする。勢いだけのリーナちゃんの言葉に簡単に説き伏せられてしまった
……………………………………………
街中を歩いているとちらほらと人影も見えてくる
いや、これは人なのか?
庭でお茶会をする人々?はウサギにネズミに猫、悪魔。街を歩くはカップルばかり、しかも、どのカップルも人目を気にするどころか見せつけるように行為にふけっている。これでは目のやり場に困ってしまう
どこを見ても目の毒なので、俺の左側にいるリーナちゃんを見ている事にした。するとリーナちゃんは俺の視線に気がついたらしく、俺を見上げて
「あははっ♪お兄ちゃんもしたい?」
「なっ⁉」
子供らしい無邪気な、それでいてどこか色っぽい笑みを浮かべてそんなことを口走る
「パパママに挨拶を済ませてから、って思ってたけど、お兄ちゃんがしたいならいつでもオッケーよ♪」
「す…するって…何を…」
「あー、お兄ちゃんとぼけてるねー♡」
ととっ、とリーナちゃんが近づいてきて前から軽く抱きついてくる。繋いだ手はいつの間にか深く絡み合い、空いた手で身体中を撫で回される。指が服の上から体を這う度むず痒いような、くすぐったいような感覚に襲われる
「ぅ…リーナちゃん…だめだ…そんなことしちゃ…」
「〜♪」
リーナちゃんは鼻歌を歌いながら体を撫で続ける。そのうち、手は俺の股間に…
(まずいっ…もう我慢の限界……)
「っ…そうだ!リーナちゃん!肩車!肩車してあげよう!」
「えっ⁉肩車⁉ホント⁉」
「うん、ホントホント。だから手を離そう、な?」
「わーい!やったやったー!」
その一言でリーナちゃんは両手を離して飛び跳ねる
(た…助かった……流石に手を出したらもう人として生きていけなくなる所だった……)
リーナちゃんの話ではここに警察は居ないらしいが、だからと言って悪いことはできない
「さ、おいで」
「うん!…んしょ…よいしょ……ん!オッケー!」
後頭部にリーナちゃんが跨り、首の両側にすべすべの太ももが密着する。さらにリーナちゃんは落ちないように重心を前にかけるので、首の後ろに触り心地のいい布地とともに、プニプニとした何かがギュッと押し付けられる
(あ…あれ…?これ結構まずいのでは……?)
理性を崩さないための肩車の筈が、さっきまでよりもドキドキしてしまう
「よーっし!しゅっぱーつ!」
「お…おー」
リーナちゃんの指し示す方に足を進める
しかし、俺の歩き方はかなりぎこちなくなってしまった
それもその筈、この体勢はさっきまでとは違って向こうから誘ってくることはないが、リーナちゃんのテンションが高くなっているせいで、太ももがパタパタと動いてほっぺや首に押し付けられたり、顔が近いから声が今までよりも近くで聞こえてくすぐったかったり、何よりも、歩くことでリーナちゃんが上下に揺れて首とお股が擦れるのか、時折「あっ…♡」とか「んっ……♡」なんて小さく喘ぐのがあまりにも耳に毒で、正直俺はもう限界だった
リーナちゃんを落とさないようにふくらはぎに手を添えて背を真っ直ぐにしているので、股間に立ち上がるテントを隠せないのも恥ずかしい、顔が火を噴きそうなほど熱い
(お…落ち着け…俺…!こんな無邪気な子に手を出すな…!耐えろ…!)
そのまましばらく歩いて
「お兄ちゃんお兄ちゃん!あのお家!ピンクの!あれ!」
「へっ…?あー、あの家か」
意識を他に向けるようにして歩いてたら、気がつけば目的地だったようだ
「あっ!パパ!ママ!」
家の中からはちょうど2人の男女が出てくるところだった。男性は和やかな雰囲気のメガネが似合う人、女性はなんと、リーナちゃんそっくりの少女だった
「…ママ?」
「そう、ママよ!」
リーナちゃんのお母さんらしい女性にも、リーナちゃんと同じように悪魔ちっくな角羽尻尾が生えている。おそらく2人とも人間じゃないんだろうな、と普段は驚くような事にも不思議と違和感を持てなかった。これもこの不思議の国とやらのせいなのか?
「あらリーナ、おかえりー」
「ただいまー!」
「おっ、その彼がリーナの選んだ人なんだね」
「そうよ!お兄ちゃんはとっても優しいの!」
「あ…っと、どうも」
俺も軽くアリスちゃんの両親に挨拶をする
アリスちゃんもパパママに挨拶をしに肩から降りてくれたので、なんとか理性を守りきることもできた。実は名残惜しい、というのは秘密だ
「とりあえず上がってって。お茶にしましょう」
「え、いいんですか?」
「もちろん!リーナの大事な人だ。たっぷりおもてなしするよ」
ご両親に促されて家に上がる。座ったテーブルには4人分のティーセットが並べられ、小さなお茶会が始まった
「リーナはどこでこのお兄さんと出会ったんだい?」
「あ…あの…それは…」
「お兄ちゃんはね、なんだっけ…『ゆーかいはん』?なんだよね!」
「ぐはぁっ…」
「ほーう…ほうほう………」
なんて紹介をするんだリーナちゃん
だが
「ふふっ、素敵ねぇ♪」
「は?」
「うん、それは計画してたのかい?それとも衝動的?」
「あ…え……その、衝動的に…です」
「なるほど…一瞬でうちのリーナの魅力を見抜いて連れ去るなんて…ワイルドねぇ…♪」
「…………」(ポカーン)
いや…おかしいだろこの人達
娘誘拐されてなに喜んでるんだよ
「む?はっはっは、君、まだこの世界に馴染めてないね。大丈夫、君もすぐ慣れるさ」
「は…はぁ…」
「あっ、そうだわ!お兄ちゃんったらね、こっちに来てすぐにお仕事の心配をするのよ?」
「あら、真面目な人なのね。でもここにお仕事なんて探さない限り無いわよ?」
「そうそう……あぁ!いい事を思いついたよ!君にぴったりの仕事がある!」
「そ…そうなんですか?」
「うん。それは…リーナの旦那さんだ!素敵だろう?」
「わぁっ、素敵!お兄ちゃんやったね!お仕事の心配が無くなったよ!」
「……………」(ポカーーン)
頭痛がしてきそうだ
(それにしてもこの紅茶……美味いな…クッキーも……土産に持って帰れるかな……ん?あれ……もって帰る…何処に?)
話についていけない俺は、ひたすら紅茶を飲んでお菓子を摘んでいた
何か変な考えが頭をよぎった気がするが、まぁどうでもいいか
「さて、それじゃあ僕らはそろそろ散歩にいこうか?」
「ええ、お邪魔しちゃ悪いものね。リーナも好きに遊んでねー。お兄さんもー!」
「いってらっしゃーい!」
俺がお茶を楽しんでいるうちに、リーナちゃんの両親は出かけていった
「ね、いっちゃったね!」
「ん、あ…ああ」
「ねぇねぇ!なにして遊ぶ⁉」
「うーん…」
遊んでていい、と漠然と言われても、なにをしていいのかよくわからないものだ
「あ、そうだ。ねえリーナちゃん、俺はもう元の世界に帰れないの?」
「んー、そうね!帰さないわ!」
「そっかー…じゃあ、この街を案内してくれないかな?」
この世界の、どこか変な空気に当てられたのか、俺は信じ難かった異世界の存在をすんなりと信じて、受け入れ始めている
変だと自覚はできているのに、なぜ変なのか、そもそも何故変に感じるのか
俺の頭の中はそんな感じに書き換えられたらしい
(書き換えられた?あれ?何が、何に書き換えられた?……まあ、いいや)
そんな感じで俺はこの世界で生きていくことに決めた。差し当たってどこに何があるかは知っておきたい
「いいわね!じゃあまた肩車ね!」
「お、いいぞ」
ついさっき、肩車のお陰で理性を崩しかけた。そんな経験をしたにも関わらず、俺はリーナちゃんを喜んで肩に乗せる
それどころか
「おーい、もっとぎゅーってしないと落ちちゃうぞー!」
「あん♡ホント!危なかったわ!」
俺は自分からリーナちゃんの太ももを掴んで頬に押し付け、リーナちゃんもそれに答えるように俺の頭を抱きしめる。子供にしてはふっくらとした柔らかい何かが頭を撫でて気持ちいい
「よーし、じゃあいくかー!」
「ええ!まずは帽子屋さん?それともお菓子がいい?」
「うーん、じゃあパン屋さんで!」
「わかったわ!」
そんな、訳のわからない会話をしながら街を歩く
それにしてもここは良いところだ
庭でお茶会をほっぽり出して旦那と行為にふける発情ウサギに、手に持ったカップを傾けて紅茶を浴びながら眠るネズミの少女、慌てふためく少年をニマニマからかう猫に、口移しで紅茶を飲みあう悪魔と人間。街を歩くはカップルばかり、どのカップルも楽しそうに、踊りでも踊るかのように行為にふけっている。これではまるでお祭りじゃないか、あぁ楽しいなぁ…
「おやぁ?ちょいとそこ行くお二人さん」
「あ、お兄ちゃん!私たちの事よ!」
「ん、そうだね。どうかしましたか?」
途中、紫と黒の猫娘に話しかけられる
「変わった肩車だねぇ、前後が逆じゃないか」
指摘されて確かにこれは変だと気づく
「ん…本当だ。リーナちゃん、動けるかい?」
「ええ!大丈夫…んしょ……おっけー!」
そうそう、ちゃんとこうして上の人が前から顔に抱きつかなきゃ、そんでもってスカートを頭に被せて…
「んむっ…もごもごもごもご(注意してくれてありがとう)」
「ひぁぁっ♡んっ…♡あいがとぉ…♡」
「きひひっ、どーいたしましてー♪」
足音が遠ざかる。どうやら猫さんは何処かに行ったらしいが、目の前には一面の水色と白の縞々パンツ。そんなことはどうでもよかった
「もごっ……レロ…じゅるる……(さて、次は何処にいく?)」
「ひゃんっ…♡じゃ…あっ♡次は私がっ…♡下にいくわ…ぁん♡」
「もごっ…(わかった)れるれる…ピチャピチャ…」
「やあぁぁっ…んんっ…♡」プシャッ
俺の顔に粘っこい愛液が直撃する。うーん、甘しょっぱくて美味しい
「あはっ……♡イったった…♡こーたいだよー♡んしょ…」
「ん、よーし、じゃあ次はお願いな…(カチャカチャ…ジー…ブルン)…どっこら」
「んっ…♡あーむっ♡」
「おぅっ…リーナちゃん…いいよっ…気持ちいいっ…!」
「もごもご…♡れろれろれろ……じゅぼ…あむ…♡…」
…
……
…………
……………………
……………………………………………
翌日、新聞やニュースで『○県○市で少女が誘拐された』という記事が一面を飾る事となる
街の中をくまなく捜査したが、手がかり一つ見つからない、難解な事件だ
そのニュースに隠れるように、同じく『○県○市の成人男性が1人、不可解な失踪を遂げた』という報道が、ひっそりとされたそうな
皆さんも、悪い事はしちゃ駄目ですよ?
別に俺が何かミスをしたわけではない。むしろ普段から仕事熱心だとみんなから褒められ、頼られる位だった。では何故か?
横暴な上司のやらかした大ポカを押し付けられたのだ
勿論抗議はした、それでもその無能上司の権力に勝つことはできなかった
友人や先輩も頼った、しかしそいつらは上司のやらかしたミス自体を知らなかった所為か、あろうことか権力を振りかざす上司の方を信じやがった
(はぁ……これからどうすりゃいいんだよ………)
毎日の仕事がなくなると、途端に何もすることがなくなる。自分がどれだけ無趣味な仕事人間だったのかを思い知らされる
俺は今、毎日の習慣通りにスーツに着替えて家を出たが、しばらく歩いてからリストラになったことを思い出し、職を失った人間のテンプレートのように朝っぱらから公園のブランコに揺られている
公園の外を眺めると、通勤通学でせわしなく動く人々。昨日まで俺もあの中に居たはずなのに、こちらに少しの視線すら向けない彼らを見ていると凄まじい疎外感を感じて居心地が悪い
(………あー……くそっ……)
こんなところにいてもなにも変わらない。取り敢えず今日は家で寝よう。落ち着いたらこれからのことを考えて……
(……あ?)
ふと、家に帰ろうと顔を上げると、目の前に誰かがいた
金髪の少女だ。見た目からして小学生だろうか?だが、その少女はランドセルやカバンは持っていない。こんな時間に手ぶらで公園にいるのは些か不自然だと感じる
その少女は公園の真ん中に突っ立って俺のことをじーっと見つめている
「……お嬢ちゃん、なんか用か?」
「お兄ちゃんは何してるの?お仕事は?」
「ぐはっ…」
言葉のナイフが心を抉る。子供であるが故の純粋で鋭い一言だった
「…お兄ちゃんはな、お仕事クビにされたんだ」
「あ!私知ってる!それリストラって言うのよね!えっと…セチガライ…?わね!」
楽しそうに励まされた、のか?こいつにはまだ事の重みが理解出来ないのだろう
(……こいつ、よく見るといい身なりしてやがるな)
目の前で楽しそうにしている少女の服を改めて見る
一目見て思い出すのは有名な童話「不思議の国のアリス」、このご時世には時代錯誤とも思える水色と白の衣装、綺麗な金髪も相まって再現度は高い
(こんな服着てるなんて……家も良いところなんだろうな)
この無邪気さからして、相当親から甘やかされて居るのだろう。不幸の真っ只中で捻くれ気味な俺は勝手ながらにそんな邪推をしてしまう
(………今の俺にゃもう失う物も少ない。ならいっそ……)
「…?どうしたの、お兄ちゃん」
「ん……あぁ……なぁ…お嬢ちゃん、お名前はなんて言うんだ?」
「私?リーナって呼んで!」
「そっか。じゃあリーナちゃん、お腹は減ってないかい?」
「お腹…ペッコペコだわ!今さっき起きたばっかりで朝ごはんもまだなのよ!」
「そうか…それはちょうどいい……」
「いまからお兄ちゃん、家でホットケーキを焼こうと思うんだ。食べにおいでよ」
「本当⁉蜂蜜はある⁉」
「ああ、あるよ」
「バターは?マーガリンじゃなくてバターよ?」
「もちろん、なんならアイスクリームも乗っけてあげよう」
「アイス……!行くわ!お兄ちゃん大好き!」
俺が誘拐に手を染めた瞬間である
……………………………………………
「じゃあ、ついておいで」
俺はリーナちゃんを先導するように公園を後にするが
「あっ、待って待って!」
「ん………?何してるんだ」
「手、繋ぎましょ」
小走りで俺の横に来ると、俺に向けて手を差し伸べる
「……え、うーん…ちょっと恥ずかしいな」
本音はちょっとどころではない。スーツの男とアリスな少女、一緒にいるだけでも目立つのに手なんて繋いだら怪しまれるのではないか
「そう…じゃあ肩車で我慢するわ」
「うん、それなら……いやそっちのが恥ずかしいよ!」
「なら手を繋ぎましょ!」
ツッコミを入れている間にカバンを持たない手を握られる。小さく、柔らかく、暖かい、久しく触ることのなかった女の子の手は、なんだかすごく触り心地が良かった
「あー…もう、まあいいや。行こうか」
「ええ!パンケーキ〜♪パンケーキ〜♪」
……………………………………………
家に向かう時間にはちょうど通勤通学ラッシュのピークを過ぎたらしく、思ったよりも人とすれ違わなかった。特に難なくマンションの自室にたどり着く
「散らかってるけど、くつろいでて」
「だ…だめよ!ご飯の前にはお片づけしなきゃ!」
「へ?いや、確かに汚いけど、こんなもんだって」
部屋には飲み終わった缶やペットボトル、菓子の袋や適当に畳んだ服の山、確かに綺麗な部屋とは言えないが
「もー!駄目なの!美味しいものは綺麗な所で食べたらもっと美味しいの!」
「え…でもなぁ……」
「いいから!私はお洋服たたむから、片付けて!」
何か言う前にリーナちゃんは服を畳み始める
言っても聞きそうにないのて、仕方なく俺も片付けを始めた
……………………………………………
リーナちゃんは集中すると黙るらしく、黙々と作業を進めた。俺もそれにつられて部屋を掃除、気がつけば1時間が過ぎていた
ふと、部屋を見渡すと見違えるほどに綺麗になっていてスッキリする
「おお…すごいもんだ」
「ね?気持ちいいでしょ?」
「あぁ……」
ちょうどその時リーナちゃんのお腹から「グゥゥゥ…」と腹の虫がなる。片付けのおかげで朝食の時間はとっくに過ぎていた
「それじゃあ早く焼きましょ!」
ピョンピョンと跳ねるように台所へ向かうリーナちゃん。この子は疲労というものを知らないのか
(………何してんだ俺は……家に連れ込むだけじゃ金になんねーだろうが)
そうだ、俺はこの子を身代金目当てで誘拐したんだ。何も一緒に楽しく遊ぶためじゃあない
「お兄ちゃーん!はーやーくー!」
「あ、あぁ…今いくよ」
……………………………………………
「お兄ちゃん!私が混ぜるー!」
「お、上手にできるかな?」
「できるわ!やったことはないけれど…」
卵、牛乳、ホットケーキミックスの入ったボウルを抱えてカチャカチャと混ぜるリーナちゃん。少し乱暴で机に粉が溢れている
「コンロは高くて届かないだろ?焼くのは俺がやるよ」
「えー!ずるいわずるいわ!そうだ!お兄ちゃん抱っこして!そしたら届くかも!」
「えー?もー、しょうがないなー」
リーナちゃんの両脇に腕を通して持ち上げる。少しやり辛そうだったが、なんとか生地をひっくり返す
「いただきまーす!」
リーナちゃんの目の前には5枚ほど積み上がった形の不揃いなホットケーキ。蜂蜜やバターがたっぷり乗っかっているそれを美味しそうに頬張っている。俺はその様子を微笑ましく思いながら眺めて…
(って、違う!まただ…こんな事しても金にゃならねーんだってば!)
何故だろう、この子といると不思議と和んでしまう
「なぁリーナちゃん。君のお父さんとお母さんはどんな人なんだい?」
俺はやっとこさ情報を引き出し始めた
「んーと…パパとママはここに居ないわ」
「…ここって…この街?」
「そう!」
なんという事だ、これじゃあ身代金は誰に請求すればいいんだ
それにしても、こんな幼い少女を1人置いて行くとは…なんて親だ
「…パパとママに会いたいかい?」
「んー、会いたいけど、2人の邪魔はしたくないの!」
邪魔……仕事が何かで出かけているのか?
「じゃあ、両親の電話番号はわかる?」
「電話…なぁに、それ?」
「………」
まいった、これじゃあ身代金なんて貰えそうにないぞ
少し目を伏せて考える
(…どうしたものか、身代金がダメなら人身売買……いや、でも流石にそれは…)
顔を上げてリーナちゃんを見る
「?どうしたのお兄ちゃん…あー!わかった!んしょ…はい、あーん!」
こっちの思惑を何も知らない少女は、無邪気な笑顔で俺にホットケーキを一切れ差し出してくる
「……………」
「…お兄ちゃん?食べないの?」
「ん、あぁいや、…じゃあ貰おうかな」
「うん!あーん!」
「あー……むぐ…ん、美味しいよ」
駄目だ、やっぱり俺に誘拐なんて無理だったんだ。こんな幼気な少女をダシに金を稼ごうだなんて考えたのが間違いなんだ
俺はリーナちゃんの底抜けな明るさに完全に毒気を抜かれてしまったようだ
(これを食べ終わったらお家まで送ってあげよう。そんで俺も明日から仕事をさがそう。うん、それがいい…)
……………………………………………
「はー、美味しかった!」
やがて、リーナちゃんはホットケーキを食べ終える
「はは、口汚れてるよ」
「ん…お兄ちゃん、拭いて!」
「はいはい…」
「んむ…えへへ…♪お兄ちゃん優しいね」
「…そうかな」
「ええ!」
この子をみていると、本当に元気が湧いてくる気がする
「さて、じゃあそろそろお家に帰ろうか」
「えー…もうお別れなの?」
「うん……ごめんね、せめてお家まで送っていくよ」
「そう……わかったわ。また遊びに来てもいい?」
「………ああ…もちろん」
家に誘った動機が誘拐だったこともあって、すこし戸惑ったが、こんな目をされては断ることもできない
「じゃあ…行こうか。案内してくれるかな?」
「うん!はい、お兄ちゃん!」
「ん?」
「もー、手!つなご!」
「…ああ」
……………………………………………
時間は一時過ぎ、街中は遅めの昼食をとる人々がちらほらと見える
リーナちゃんのような目立つ服装の子を連れて入ればすこしは人目につくかと心配したが、存外人間というのは他人に興味が無いものなのかもしれない
これなら職質されることもないか…よかった
『ちょっと…ちょっと!そこのお兄さん!』
「はい?」
誰かに呼び止められた気がして振り返る
そこには紺色の制服を着た中年のおじさんが、疑わしげな表情で俺を見て……
「ぅわわっ⁉」
安心した矢先に職質された
『あのー、失礼ですけどあなた、お仕事は』
「あ、は…しご…仕事は…あの、その、昨日、クビに……」
当然の事に驚いてしまって呂律が回らない。仕事のことは特にやましいことも無いはずなのにはっきりと口に出せない
『ふむ…そちらのお嬢さんは?お子さんですか?』
「は…えっと…この子は…その…親戚というか…」
まずい、このままだと誘拐未遂がバレてしまう
リーナちゃんもうまく話を合わせてくれればなんとか…
(頼むっ!どうにかごまかして!)
「あ!そういえばお兄ちゃん、わたしお兄ちゃんのお名前知らないわ!なんてお名前なの?」
今その質問はダメだよ…リーナちゃん
『……すいません、お兄さん、ちょっとお話を』
「〜っ!逃げるぞっ!」
「ふぇっ⁉」
『あっ⁉こら!待ちなさい!』
ここにいたら捕まってしまう。とにかく逃げよう
俺はリーナちゃんの手をしっかり握ってお巡りさんから逃げ出す
『待ちなさーい!』
「はっ…!はっ……!くそっ!」
未遂とはいえ、神様は俺の悪事を見過ごしてはくれないようだ。全く、悪い事はできないな
「お兄ちゃん、どうしたの?お家はこっちじゃないわ。あのおじちゃんはだあれ?」
「っ……お兄ちゃんなっ…あのおじちゃんには捕まったらだめなんだっ…はっ……ごめんな…」
「んー…わかった!鬼ごっこね!」
「へ?いやっ…ちが…」
「じゃあ次はこっちに逃げましょ!」
「おわっ⁉」
思いの外強い力でリーナちゃんに引っ張られる。その先は暗い路地裏、人1人がちょうど通れるぐらいの狭さだ
「うふふっ!鬼ごっこなんて久しぶりだわ!楽しいねお兄ちゃん!」
『待ちなさい!このっ…(ガッ)あだっ⁉』
「へっ?」
首をひねって後ろを伺うと、どうやらお巡りさんは何かにつまづいたらしい
なんだか知らないがラッキーか?
『誘拐犯は君かっ!待ちなさい!』
「なっ!応援かっ…!」
路地を抜けると、先に他のお巡りさんが待ち構えていた。中年のお巡りさんが追いかけながら呼んでいたのか
「今度はこっち!」
「わっと…!」
『あっ!待ちなさ…うわっ⁉』
『わっ⁉すみませーん!』
今度もリーナちゃんに引っ張られるがままについて行く。するとお巡りさんは急に横から出てきた、大荷物を抱えるお姉さんとぶつかって荷物をボトボトと落としてしい、お巡りさんの動きが止まる
おかげで、どうにか俺は人目につかないところに隠れる事が出来た
「はぁ……はぁ…」
「あら?もう鬼さんはいないの?」
「うん……逃げ切れた…みたい……ありがとう、リーナちゃん…」
「?どうしてお礼を言うの?あ、そうだ。2人目のおじちゃんが言ってた『ゆーかいはん』ってなーに?」
「え゛っ…そ…それは……」
「…まあいっか!それより、お兄ちゃんはあのおじちゃん達に捕まりたくないのよね?」
「うん…でも待っててね、まずは君を送ってから……」
「ならいい方法があるわ!お兄ちゃんは逃げられて、私はお家帰れて、私とお兄ちゃんがずーっと一緒にいられる!素敵な道があるの!」
「…へ?」
「んーと、確かここに……あった!」
肩に下げてるポシェットを探って、中から取り出すは一本のゴシックな鍵
「ママがね、『素敵な男の人に出会えたら使え』って!今がその時よ!」
そう言って、リーナちゃんは虚空に鍵を差し込み、回す。するとそこに、突然扉が現れる
「……はい?」
「さ、行きましょ!」
言われるがままに手を引かれ、扉の中に入って行く。扉の中に広がるのはモヤモヤとした異空間
これに…入るの?いやまずこのドアどこから…
「ちょ⁉いやっ!待っ………」
ギィ……バタン
……………………………………………
モヤモヤを抜けるとそこには、まるでどこぞの遊園地のような街並みが広がっていた
「………な…何これ…」
「ここは不思議の国!私の故郷で、とっても楽しい所よ!」
「不思議…の……?それ国の名前なの?」
「そうよ?」
それはまた、なんとも不思議な名前だ。いやそもそもリーナちゃんがサラッと行った異空間移動についても説明が欲しい
それに、今改めてリーナちゃんを見ると、いつの間にやら頭には可愛らしい一対のツノ、背中には悪魔チックな羽、腰からはしなやかな細い尻尾が生えている
どういうことか、色々と聞くために口を開こうとしたが
「ふふっ、心配しなくていいわ、お兄ちゃん!ここではそんなむつかしい事は考えなくてもいいの!」
「へ?」
「ここはなんでも起きる不思議な国、ここではセチガライお仕事も追いかけてくるおじちゃんも居ないの!お兄ちゃんの嫌いなお片付けもしなくていいし、ホットケーキだっていくらでも作れるわ!これでずーっと遊べるね!」
「そ…そうなのか?」
ふと、後ろを振り向くと、入ってきた扉がどんどん透明になっていく
「あっ⁉ちょっ、嘘⁉」
慌てて取っ手を掴もうとしたが、間に合わない。俺の手は虚しく空を切った
「どうしたの?お兄ちゃん」
「いやだって…もう帰れないのはちょっと…」
「えー?いいじゃないの!お兄ちゃん、またお仕事したいの?セチガライのよ?」
「や…それは…」
「それに!あっちに居たらまたおじちゃんに追いかけられちゃうわ!嫌でしょ?」
「う…うーん………それは嫌だけど…」
「じゃあ決まり!まずはパパとママに挨拶しに行かなくちゃ!行こっ!」
なんだろう、ここにいると頭がふわふわする。勢いだけのリーナちゃんの言葉に簡単に説き伏せられてしまった
……………………………………………
街中を歩いているとちらほらと人影も見えてくる
いや、これは人なのか?
庭でお茶会をする人々?はウサギにネズミに猫、悪魔。街を歩くはカップルばかり、しかも、どのカップルも人目を気にするどころか見せつけるように行為にふけっている。これでは目のやり場に困ってしまう
どこを見ても目の毒なので、俺の左側にいるリーナちゃんを見ている事にした。するとリーナちゃんは俺の視線に気がついたらしく、俺を見上げて
「あははっ♪お兄ちゃんもしたい?」
「なっ⁉」
子供らしい無邪気な、それでいてどこか色っぽい笑みを浮かべてそんなことを口走る
「パパママに挨拶を済ませてから、って思ってたけど、お兄ちゃんがしたいならいつでもオッケーよ♪」
「す…するって…何を…」
「あー、お兄ちゃんとぼけてるねー♡」
ととっ、とリーナちゃんが近づいてきて前から軽く抱きついてくる。繋いだ手はいつの間にか深く絡み合い、空いた手で身体中を撫で回される。指が服の上から体を這う度むず痒いような、くすぐったいような感覚に襲われる
「ぅ…リーナちゃん…だめだ…そんなことしちゃ…」
「〜♪」
リーナちゃんは鼻歌を歌いながら体を撫で続ける。そのうち、手は俺の股間に…
(まずいっ…もう我慢の限界……)
「っ…そうだ!リーナちゃん!肩車!肩車してあげよう!」
「えっ⁉肩車⁉ホント⁉」
「うん、ホントホント。だから手を離そう、な?」
「わーい!やったやったー!」
その一言でリーナちゃんは両手を離して飛び跳ねる
(た…助かった……流石に手を出したらもう人として生きていけなくなる所だった……)
リーナちゃんの話ではここに警察は居ないらしいが、だからと言って悪いことはできない
「さ、おいで」
「うん!…んしょ…よいしょ……ん!オッケー!」
後頭部にリーナちゃんが跨り、首の両側にすべすべの太ももが密着する。さらにリーナちゃんは落ちないように重心を前にかけるので、首の後ろに触り心地のいい布地とともに、プニプニとした何かがギュッと押し付けられる
(あ…あれ…?これ結構まずいのでは……?)
理性を崩さないための肩車の筈が、さっきまでよりもドキドキしてしまう
「よーっし!しゅっぱーつ!」
「お…おー」
リーナちゃんの指し示す方に足を進める
しかし、俺の歩き方はかなりぎこちなくなってしまった
それもその筈、この体勢はさっきまでとは違って向こうから誘ってくることはないが、リーナちゃんのテンションが高くなっているせいで、太ももがパタパタと動いてほっぺや首に押し付けられたり、顔が近いから声が今までよりも近くで聞こえてくすぐったかったり、何よりも、歩くことでリーナちゃんが上下に揺れて首とお股が擦れるのか、時折「あっ…♡」とか「んっ……♡」なんて小さく喘ぐのがあまりにも耳に毒で、正直俺はもう限界だった
リーナちゃんを落とさないようにふくらはぎに手を添えて背を真っ直ぐにしているので、股間に立ち上がるテントを隠せないのも恥ずかしい、顔が火を噴きそうなほど熱い
(お…落ち着け…俺…!こんな無邪気な子に手を出すな…!耐えろ…!)
そのまましばらく歩いて
「お兄ちゃんお兄ちゃん!あのお家!ピンクの!あれ!」
「へっ…?あー、あの家か」
意識を他に向けるようにして歩いてたら、気がつけば目的地だったようだ
「あっ!パパ!ママ!」
家の中からはちょうど2人の男女が出てくるところだった。男性は和やかな雰囲気のメガネが似合う人、女性はなんと、リーナちゃんそっくりの少女だった
「…ママ?」
「そう、ママよ!」
リーナちゃんのお母さんらしい女性にも、リーナちゃんと同じように悪魔ちっくな角羽尻尾が生えている。おそらく2人とも人間じゃないんだろうな、と普段は驚くような事にも不思議と違和感を持てなかった。これもこの不思議の国とやらのせいなのか?
「あらリーナ、おかえりー」
「ただいまー!」
「おっ、その彼がリーナの選んだ人なんだね」
「そうよ!お兄ちゃんはとっても優しいの!」
「あ…っと、どうも」
俺も軽くアリスちゃんの両親に挨拶をする
アリスちゃんもパパママに挨拶をしに肩から降りてくれたので、なんとか理性を守りきることもできた。実は名残惜しい、というのは秘密だ
「とりあえず上がってって。お茶にしましょう」
「え、いいんですか?」
「もちろん!リーナの大事な人だ。たっぷりおもてなしするよ」
ご両親に促されて家に上がる。座ったテーブルには4人分のティーセットが並べられ、小さなお茶会が始まった
「リーナはどこでこのお兄さんと出会ったんだい?」
「あ…あの…それは…」
「お兄ちゃんはね、なんだっけ…『ゆーかいはん』?なんだよね!」
「ぐはぁっ…」
「ほーう…ほうほう………」
なんて紹介をするんだリーナちゃん
だが
「ふふっ、素敵ねぇ♪」
「は?」
「うん、それは計画してたのかい?それとも衝動的?」
「あ…え……その、衝動的に…です」
「なるほど…一瞬でうちのリーナの魅力を見抜いて連れ去るなんて…ワイルドねぇ…♪」
「…………」(ポカーン)
いや…おかしいだろこの人達
娘誘拐されてなに喜んでるんだよ
「む?はっはっは、君、まだこの世界に馴染めてないね。大丈夫、君もすぐ慣れるさ」
「は…はぁ…」
「あっ、そうだわ!お兄ちゃんったらね、こっちに来てすぐにお仕事の心配をするのよ?」
「あら、真面目な人なのね。でもここにお仕事なんて探さない限り無いわよ?」
「そうそう……あぁ!いい事を思いついたよ!君にぴったりの仕事がある!」
「そ…そうなんですか?」
「うん。それは…リーナの旦那さんだ!素敵だろう?」
「わぁっ、素敵!お兄ちゃんやったね!お仕事の心配が無くなったよ!」
「……………」(ポカーーン)
頭痛がしてきそうだ
(それにしてもこの紅茶……美味いな…クッキーも……土産に持って帰れるかな……ん?あれ……もって帰る…何処に?)
話についていけない俺は、ひたすら紅茶を飲んでお菓子を摘んでいた
何か変な考えが頭をよぎった気がするが、まぁどうでもいいか
「さて、それじゃあ僕らはそろそろ散歩にいこうか?」
「ええ、お邪魔しちゃ悪いものね。リーナも好きに遊んでねー。お兄さんもー!」
「いってらっしゃーい!」
俺がお茶を楽しんでいるうちに、リーナちゃんの両親は出かけていった
「ね、いっちゃったね!」
「ん、あ…ああ」
「ねぇねぇ!なにして遊ぶ⁉」
「うーん…」
遊んでていい、と漠然と言われても、なにをしていいのかよくわからないものだ
「あ、そうだ。ねえリーナちゃん、俺はもう元の世界に帰れないの?」
「んー、そうね!帰さないわ!」
「そっかー…じゃあ、この街を案内してくれないかな?」
この世界の、どこか変な空気に当てられたのか、俺は信じ難かった異世界の存在をすんなりと信じて、受け入れ始めている
変だと自覚はできているのに、なぜ変なのか、そもそも何故変に感じるのか
俺の頭の中はそんな感じに書き換えられたらしい
(書き換えられた?あれ?何が、何に書き換えられた?……まあ、いいや)
そんな感じで俺はこの世界で生きていくことに決めた。差し当たってどこに何があるかは知っておきたい
「いいわね!じゃあまた肩車ね!」
「お、いいぞ」
ついさっき、肩車のお陰で理性を崩しかけた。そんな経験をしたにも関わらず、俺はリーナちゃんを喜んで肩に乗せる
それどころか
「おーい、もっとぎゅーってしないと落ちちゃうぞー!」
「あん♡ホント!危なかったわ!」
俺は自分からリーナちゃんの太ももを掴んで頬に押し付け、リーナちゃんもそれに答えるように俺の頭を抱きしめる。子供にしてはふっくらとした柔らかい何かが頭を撫でて気持ちいい
「よーし、じゃあいくかー!」
「ええ!まずは帽子屋さん?それともお菓子がいい?」
「うーん、じゃあパン屋さんで!」
「わかったわ!」
そんな、訳のわからない会話をしながら街を歩く
それにしてもここは良いところだ
庭でお茶会をほっぽり出して旦那と行為にふける発情ウサギに、手に持ったカップを傾けて紅茶を浴びながら眠るネズミの少女、慌てふためく少年をニマニマからかう猫に、口移しで紅茶を飲みあう悪魔と人間。街を歩くはカップルばかり、どのカップルも楽しそうに、踊りでも踊るかのように行為にふけっている。これではまるでお祭りじゃないか、あぁ楽しいなぁ…
「おやぁ?ちょいとそこ行くお二人さん」
「あ、お兄ちゃん!私たちの事よ!」
「ん、そうだね。どうかしましたか?」
途中、紫と黒の猫娘に話しかけられる
「変わった肩車だねぇ、前後が逆じゃないか」
指摘されて確かにこれは変だと気づく
「ん…本当だ。リーナちゃん、動けるかい?」
「ええ!大丈夫…んしょ……おっけー!」
そうそう、ちゃんとこうして上の人が前から顔に抱きつかなきゃ、そんでもってスカートを頭に被せて…
「んむっ…もごもごもごもご(注意してくれてありがとう)」
「ひぁぁっ♡んっ…♡あいがとぉ…♡」
「きひひっ、どーいたしましてー♪」
足音が遠ざかる。どうやら猫さんは何処かに行ったらしいが、目の前には一面の水色と白の縞々パンツ。そんなことはどうでもよかった
「もごっ……レロ…じゅるる……(さて、次は何処にいく?)」
「ひゃんっ…♡じゃ…あっ♡次は私がっ…♡下にいくわ…ぁん♡」
「もごっ…(わかった)れるれる…ピチャピチャ…」
「やあぁぁっ…んんっ…♡」プシャッ
俺の顔に粘っこい愛液が直撃する。うーん、甘しょっぱくて美味しい
「あはっ……♡イったった…♡こーたいだよー♡んしょ…」
「ん、よーし、じゃあ次はお願いな…(カチャカチャ…ジー…ブルン)…どっこら」
「んっ…♡あーむっ♡」
「おぅっ…リーナちゃん…いいよっ…気持ちいいっ…!」
「もごもご…♡れろれろれろ……じゅぼ…あむ…♡…」
…
……
…………
……………………
……………………………………………
翌日、新聞やニュースで『○県○市で少女が誘拐された』という記事が一面を飾る事となる
街の中をくまなく捜査したが、手がかり一つ見つからない、難解な事件だ
そのニュースに隠れるように、同じく『○県○市の成人男性が1人、不可解な失踪を遂げた』という報道が、ひっそりとされたそうな
皆さんも、悪い事はしちゃ駄目ですよ?
19/08/03 23:34更新 / ウェラロア