『骸骨と俺』
「ん……? 今歩いてるこの道…どこか見覚えがあるなぁ」
「ゼロの故郷が近いってことぉ〜?」
「自信は無いけど…」
「小さい頃の記憶は、意外と残ってるものっすよ!」
「とは言っても、15年以上も前の記憶だからなぁ…」
たとえ覚えていたとしても、15年も時が経っていれば風景も変わってくるというもの。
でもやはり…見覚えがあることは確か。
「俺の記憶が確かなら、この森を抜けさえすればヘルゼンに着けると思うんだけど…」
視界が開けた。
そして…予想は見事的中。
いや、俺の記憶は正しかった。
「っ! ようやく…ようやく着いた……」
故郷ヘルゼン。
一目見た瞬間に、ここが自分の故郷だと悟った。
………不意に涙が頬を伝う。
「ここがゼロの…」
「マネージャーの故郷…」
めぼしいものは何もない。
それでもこの村は俺の生まれた地。
「………ただいま」
15年ぶりの帰郷に、俺は涙を流す他なかった。
「初めまして、ガゼルさん」
「おお! お前がゼロンか! 手紙だけのやり取りで、実際会うのは初めてだな!」
「そうですね。 あの…すいません…何から何まで、色々と面倒をお掛けして……」
「なぁに気にすんな! あいつの遺言だ、残された家族を…ルークとゼロンを頼むってな」
「兄貴が…そんなことを?」
「死ぬ間際まで勝手な奴だったが…どうにも憎めねえ野郎でな。 俺に任せとけ!!って言ってやったら、幸せそうな顔して眠りやがった…」
「………」
「生憎魔王は倒せなかったが、あいつは満足してた。 『楽しい旅が出来て良かった』ってよ」
「そうですか…」
「顔見せに行ってやんな。 墓は村の裏手にある」
「…わかりました」
やっぱりいい人だ、ガゼルさんは。
「それとゼロン、お前に一つ聞いておきたいことがあるんだが…」
「なんでしょう?」
「村の真ん中で騒ぎを起こしてる魔物2人は、お前の連れか?」
「え? はい、連れなら確かにいますけど………ってうおおおおおおおいい!?」
な、なにやってんだよあいつら!?
「ちょっ…おいリム! 村人(男性)を追いかけ回すのはやめろって!!」
あっちでは……
「セラーーー!! きみが歌うと村人達(男性)が集まってきちゃうだろー!?」
あぁ…俺の故郷が……。
って、落ち込む前に2人を止めないと…!!
「頼むからやめてくれえええええ!!!」
俺の声が虚しく木霊した……………
「うぅ…マネージャーひどいっすよぉ〜……」
たんこぶを頭に乗せたセラが涙目で訴えてくる。
「名を売ろうって気持ちはわかるけど、もう少し場所を考えてくれ…」
「そうだよセラぁ、ちゃんと場所を考えないと……」
「リムはしばらく飯(唾液)抜きだからな」
「ええ〜〜〜!?」
とりあえず2人には制裁。
「村の真ん中で暴れたんだ、当然の報いさ」
「「むぅ〜〜〜!!」」
「あれ、お仕置きが足りなかったかな?」
「「ごめんなさい……」」
「あと墓地に入ったら静かにしててくれよ?」
「「はぁ〜〜い…」」
村の裏手に位置する墓地。
本来は余所者の立ち入りを固く禁じている、かなり神聖な場所らしい。
でもリムとセラは俺の連れということで特別に許可が出た。
「というか許可は下りたけど…ムリして一緒に来る必要無かったんじゃないか?」
「ウチはマネージャーの御家族に挨拶したいっす。 『契りはちゃんと済ませましたよ』って!」
「婚前挨拶みたいだなぁ…」
「どっちも同じようなものっすよ!」
「同じか…?」
俺…セラと結婚しなくちゃいけないのかなぁ……?
「じゃぁ…リムは?」
「アタシ? アタシはゼロと一緒にいたいからだよぉ♪」
「あぁ、そう…」
そんなことだろうと思った…。
そんなこんなで家族の墓を見つけた。
「これが俺の家族の…」
いろいろと報告しないといけないなぁ。
「2人とも、少しの間だけ静かにしててくれ」
「うん!」
「マネージャー、ウチも挨拶していいっすか…?」
「あぁ、みんなも喜ぶよ」
「はいっす!」
俺とセラは墓前で手(羽)を合わせる。
(リムは後ろでウネウネしている)
「………(来るのが遅くなってごめん。 葬式には出たかったんだけど…こっちでは爺ちゃん達も同時期に死んじゃって、いろいろと大変だったんだ。 まさか、みんなが一斉に死ぬなんて夢にも思わなかったよ。 ルークのこともあるけど、ほんと…ガゼルさんには感謝してもしきれないよ)」
「…マネージャーとは……体を許しあった仲で……ブツブツ………」
「zzz…zzz……」
リムのやつ寝てるな…?
そしてセラは何を報告してるんだ…?
「………(そうそう、この2人は俺の連れなんだ…驚いたろ? 魔物だけど、2人とも優しい子だよ。 ちょっと躾する必要があるんだけど…)」
「…デビューしたあかつきには……正式に結婚を……ブツブツ………」
「zzz…zzz……」
…
……
………
故郷というのは実に不思議だ。
村の事なんてまるで覚えていないというのに、村を見た瞬間に自分の故郷だと認識できた。
深層心理の記憶…っていうやつかな?
まぁ、それはまた今度考えよう。
今はガゼルさん宅にお邪魔している。
「紹介しよう。 こいつは俺の嫁、フランだ」
「あなたがゼロンね? 夫から話しは聞いているわ」
「あ…は、初めまして……」
「見ての通り、フランは『エキドナ』だ。 今は妊娠中だから安心しろ、襲われたりはしねえからよ!」
「ちょっとガゼル、人を淫婦みたいな言い方しないでちょうだい…」
「夜のお前はいつも淫乱だと思うんだが?」
「っ!? もう……///」
「………」
仲がよろしいようで。
人間と魔物の壁を越えた禁断の愛…本当にあるんだなぁ。
人間が一方的に受けるだけかと思ってた。
「そうそうゼロン、ルークなら2階に寝かしつけてあるわ。 後で見てらっしゃいな」
「あ、はい。 そうします」
「起こしちゃだめよ?」
魔物も人間の赤ん坊を世話できるんだ…。
「それと…後ろの娘達とは、どういった関係なのかしら?」
「えっ?」
う〜ん…どういった関係かと言われてもなぁ……。
「もう将来を誓い合ったりしたの?」
「ええっ!? あ…いや〜それは……」
即答でNOとは言えない。
セラとは途中からノリノリでヤりまくってたからなぁ…。
ちなみにリムは例外。
「もしかして…本当に?」
「ノーコメントでお願いします…」
「まぁ…ふふっ…あなたもやっぱり男の子ね♪」
「おいおいゼロン! お前もなかなか隅に置けねえなあ!」
「は、はぁ…」
フランさんに嘘は通じない…そんな気がしたから正直に答えた。
そしてフランさんは後ろの2人に顔を向ける。
「リムちゃんに、セラちゃん…だったかしら?」
「は、はいっす… / うん……」
心なしか、2人からは緊張の面持ちが窺える。
ムリもない…目の前にはエキドナがいるわけだし。
「そんなに怖がらなくてもいいわよ?」
「「………」」
「う〜ん、困ったわねぇ…」
そして少し考えてから……
「今となっては、わたしはゼロンの母親みたいな存在なの」
「「………」」
「これでも息子の行く末を心配してるのよ…」
「「………」」
「だ・か・ら…」
「「………」」
「ゼロンのこと…好きにしていいわよ♪」
「「はい! 『お義母さま』!!!」」
「うおおおおおおいいい!?」
なんてこと言い出すんだこの人は!?
「ちょ、ちょっとフランさん!?」
「あら、いいじゃない♪ 減るもんじゃないでしょ?」
「減ります! 減りますって!!」
「あら…母であるわたしの言うことが聞けないのかしら?」
「ええええええええええ!?」
散々いじめられた……………
「リム…起こすなよ?」
「わかってるって♪」
「うわ〜…小さいっすねぇ……」
ルークと初対面。
まだ1歳にもなっていないらしい。
兄貴の息子だからか、どことなく俺にも似ている気がする。
「ねぇ、セラぁ…」
「ウチも同じこと考えてたっす…」
眠っているルークの顔を凝視する2人。
何か気が付いたのかな?
「マネージャー…」
「ん?」
「ゼロはルークの叔父さんなんだよね〜?」
「そうだけど?」
「「………」」
な、なんだ?
「ルークからは…マネージャーと同じ匂いがするっす」
「えっ?」
「アタシ達魔物を惹き付ける匂いがするんだよぉ…」
「ま、まさか…まだ赤ん坊だぞ?」
「ま、間違いないっすよ」
「うん…やっぱりゼロと同じ匂いがする……」
「………」
おいおい…。
「血は争えないっすねぇ〜」
「ほんとだね〜」
「受け継いでほしくないスキルだよ、それ……」
ルーク、大きくなったら………魔物に気をつけろ!!!
「ごちそうさまでした、とても美味しかったっす!」
「良かった♪ 頑張った甲斐があったわ」
「料理ができるなんて、ほんと羨ましいっす…」
「少し練習すれば、セラちゃんもきっと上手になるわよ」
「でも……」
「好きな人のためなら、なんだってできちゃうものよ?」
「っ!? そ、そ…そういうつもりで言ったわけじゃ……///」
「ふふっ…素直じゃないんだから♪」
食器をガゼルさんと洗っている途中、気になる会話がチラチラと聞こえてくる。
「モテモテだなあゼロン! ありゃ相当惚れ込んでるんじゃねえか?」
「一応アイドルとそのマネージャーという関係なんですけど…」
「んなもん肩書きだけだ! それでどうだ? この際今夜、お前達の愛を再確認しあうってのは…」
「自分の家でそんなことさせるんですか!?」
「別に俺は一向に構わねえぞ? それにフランなんて大喜びするぜ? なんだったら、あのリムって子も一緒に…」
「自分にはまだ早いと思います…」
「お、そうか? まぁそうだな、『3P』はお前にはまだ早いな!」
「いや、そっちの早いじゃなくて…」
意外と下ネタ好きなガゼルさん。
「そういえばリムのやつ、どこ行ったんだろ?」
「ルークの所で一緒に寝てると思うぜ?」
「あいつは暇があれば寝てるなぁ…」
「寝る子は育つって言うだろ?」
「あれ以上育ったら困ります! いろんな意味で!」
変態に磨きがかかるのは勘弁願いたい。
「おお、そうだゼロン! お前に一つ頼みたいことがある」
「はい、なんでしょう? なんだって頼まれますよ!」
「そうか? そいつは心強いな!」
お世話になっている借りを少しでも返しておきたい。
「実はな…お前が昼間に行った裏手の墓地に、最近村で妙な噂が広まってるんだ」
「妙な噂…ですか?」
「ああ。 なんでも、夜中に墓場から物音がするって話だ」
「墓場に幽霊が出るのは当たり前なんじゃないですか?」
「なんだ、お前は怖がらないのか?」
「いや、怖がるもなにも…幽霊がいてこその墓場ですし……」
「図太い神経持ってるな、ゼロン…」
「そうですか?」
幽霊が怖いなんて思わない。
むしろ会ってみたいと思う程。
「まあ怖くねえなら話は早い。 要は墓場に行って、その物音の正体を突き止めてやってほしいんだ」
「村人が怖がっているんですか?」
「そうだ。 みんなお前みたいだったら良かったんだが…そうもいかねえしな」
いわゆる『ゴーストバスター』ってやつかな?
「わかりました。 やらせていただきます」
「そうか、助かる! 実は言うとな、俺もこの手の話は苦手でな…」
「フランさんはご存じで?」
「いや、知らないだろうぜ」
「秘密にしておきます」
「是非そうしてくれ…」
仕事内容『墓場の物音を探れ!』
セラも幽霊の類は苦手ということで待機。
リムと2人で夜中の墓場へ向かうことにした。
「夜中にゼロと2人っきりなんてぇ…すっごく燃えてくるよぉ〜……///」
「その情熱を幽霊探しに費やしてくれよ…?」
墓場の入り口付近にて。
時刻は日付の変わった午前2時頃。
辺りは真っ暗闇、ランプの光のみが頼り。
セラとガゼルさん曰く、『いかにも出そう』な時間らしい。
「リムは幽霊怖くないのか?」
「幽霊よりフランさんの方がよっぽど怖いよぉ〜!」
魔物の感性は良くわからない…。
「お墓を壊すなよ? ご先祖様達の大事な住居なんだから」
「わかってるって♪」
「………」
語尾に♪を付けるせいでどうにも不安になってくる。
「じゃぁ行こう。 とりあえず墓地をぐるっと一周するから、何か感づいたら教えてくれ」
「うん!」
というわけで探索開始。
とりわけ霊感があるわけでもないし、始めからリムの魔力的探知に頼らざるを得ない。
「ゼ〜ロ〜とエッチ♪ ゼ〜ロ〜とエッチ♪♪」
「………」
聞き流しておこう。
それが一番安全だと思った。
そして探索開始から20分後。
「ゼ〜ロ〜とエッ………んん〜?」
リムの魔力センサーが何かを捉えた。
ちなみにこの怪しい歌を20分間も聞かされ続けた俺。
「リム、どうした?」
「あっちの方から魔力の反響があるよぉ!」
「魔力の反響?」
「アタシの魔力に反応するのは魔物だけなんだけどぉ…」
ということは…
「幽霊じゃなくて……魔物?」
「そうかもしれないねぇ」
リムを連れてきて正解だった。
「どうするのぉ?」
「行ってみよう…慎重にな」
リムの指し示した方向に足を運ぶ。
そして今更だけど、ダークスライムの万能さにも驚く。
「どんな種類の魔物かは…さすがにわからない?」
「う〜ん…何かがいるってことだけは確かなんだけどぉ……」
「そっか。 正直ゴーストだったらお手上げだよ」
「どうしてぇ?」
「彼女達には実体が無いから、空気と戦うようなもんだよ。 それともリムなら戦えるのか?」
「リムはムリ!」(逆から読んでも……)
「……狙って喋ったな?」
「さぁね〜♪」
ガサッ……
「むっ!?」
「え? なになに〜?」
「しっ! 静かに…」
前方から気配を感じる。
というかリムのやつ…物音には鈍感ってどういうことだよ?
「そこに誰かいる…」
「むぅ…? 暗くて良く見えないよぉ〜」
魔力探知以外の能力はまるでダメだなコイツ…。
「そこにいるのは誰だ!!」
思い切って挑発してみた。
「………」
「………」
返事はない。
「ゼロの勘違いだったり?」
「いや、そんなはずは…」
「…人…間……?」
「うああああああ!? / いやああああああ!!!」
思わず悲鳴をあげてしまった。
「………?」
「び、びっくりしたぁ…」
「ほんと…心臓が飛び出るかと思ったよぉ〜…」
「そんなもん無いだろ?」
「そうだった♪ てへ♪♪」
「てへって、お前なぁ…」
「………???」
俺達のやりとりをただ呆然と眺めている魔物1名。
「いやいや、そんなことはどうでもいい! えっと…きみは確か『スケルトン』…だったかな?」
「……そう」
『スケルトン』
魔力により、人間の骨に意志が宿った魔物。
本能的に活動することが多い。
方法によっては手懐けることも可能。
アンデット、又ゴーレムなのかは定かではない。
「きみは、どうしてこの村の墓場に?」
「……わからない」
「え? わからない?」
「………」
記憶喪失…なわけないか。
「……気付いたら…ここ…来てた」
「夢遊病とかぁ〜?」
「リムは黙ってろ…」
気付いたら来てた…か。
目的も無しにこんな場所に来るはずはない。
きっと何か理由があるはずだ。
「えっと…ここに来た理由で、何か思い当たる節はないかな?」
「………」
「やっぱり夢遊病?」
「うるさい…」
覚えてないか、無理もない。
この子はスケルトン。
ただでさえ存在が曖昧なのに、記憶なんて残ってるはずが……
「……匂い」
「えっ?」
「……匂い…した」
「匂い?」
はて…なんのことだ?
ヘルゼンに独特な匂いなんてないしなぁ…。
う〜ん……。
「……あなた…同じ匂い…する」
「え、俺?」
香水の類は付けてないぞ?
「ねぇねぇゼロぉ」
「ん、なんだよ?」
「その子の言ってる匂いって、ゼロンのエッチな匂いのことじゃないかなぁ?」
「俺の…エッチな匂い?」
どんな匂いだよ……いや待てよ!?
同じことをセラにも言われたことがある。
『エッチな匂い=魔物を惹き付ける』
ということは…この子は俺の匂いを感じ取って来たってことか?
いや、それだと辻褄が合わない。
なぜなら、俺がヘルゼンに帰郷する前から、この子はここの墓場を徘徊していたはず。
ん〜〜〜?
わからない……。
それとも俺と同じ匂いってことは、ルークに引き寄せられたとか?
いや、これも違う。
仮にそうだとしても、この子が墓場にいる理由が説明できない。
う〜〜〜ん……。
「ん? フンフン…」
「リム、なにしてんだよ?」
鼻をひくつかせるリム。
まぁスライムに鼻なんてあるのかは謎だけど…。
「あのね…そこのお墓から、ゼロと同じ匂いがするの。 それもかなり強烈だよぉ」
「な、なに? お墓から?」
そう言われてお墓に刻まれた名前を見てみる。
「お、おいおい…よりによって俺の家族の墓かよ……」
それは紛れもなく、俺の家族達が眠る墓だった。
「なぁリム…本当に間違いないのか?」
「うん。 この匂いゼロのかと思ってたから、今まで気が付かなかったの…」
「ふむ、ということは…」
スケルトンである彼女を引き寄せた…真犯人がわかった。
家族の内の誰かがそうだ。
いや、もう既に答えは出ている。
「リム…先に帰ってガゼルさんに報告してくれ。 『問題は解決した』って」
「ふえ? ゼロはどうするのぉ?」
「俺は…この子と話がしたい」
「…うん、わかったぁ」
「頼んだぞ?」
「はぁ〜い」
先にリムを家に帰した。
横槍を入れられると面倒なので。
「さて……」
「………」
墓場でスケルトンと2人きり。
そうそう体験できないシチュエーションだな、これは。
「きみがなぜこの墓場に来たのか、つい今し方わかった」
「………」
「原因は……」
死してなお、魔物を惹き付ける匂いを発する者。
それは…
「俺の…兄貴だ」
良く良く考えてみればわかったはず。
だって俺と兄貴は兄弟だぞ?
同じ匂いを持っていたとしても不思議じゃない。
さすが英雄…死んでも女を引き寄せるか……。
「きみがいくら探しても見つからないはずだ」
「………」
「匂いの主は、もう死んでるんだから」
「………」
彼女には酷かもしれないけど、これは言っておかなければならない。
もうこの世には存在しない匂いの主を、彼女は毎晩彷徨い探し続けてきた。
もう…自由にしてあげたい。
「どうか、兄貴を責めないでやってほしい…」
「……責める…?」
彼女は首を傾げる。
「……責める…しない」
「え?」
「……だって…代わり…見つけたから」
「そっか、ありがぁ……えっ?? 代わり?」
「……あなた…好き…美味しそう♪」
「ええ!?」
どうやら標的が俺に切り替わったらしい。
というか『好き…美味しそう』って、告白されてるのか捕食対象とされてるのかイマイチ判断し難い。
「……お腹…空いた…あなた…ほしい♪」
くそ…俺も男だ!
兄貴の尻ぬぐい…俺が代わりに請け負った!!
「……ん…暖かい…///」
ぎゅっと細い腕で俺を抱きしめる。
そもそもこの子は、兄貴のせいでお腹を空かせてるんだ。
満足するまで…付き合ってあげなくちゃ……………
「…んっ…んん……」
「あ…ぐっ…!」
あ…あれれぇ?
スケルトンって…元々は『骨』だよね?
なのに…どうしてこの子の中は………ううっ!?
ぶぴゅ…ぴゅぐ! びゅぐん! びゅううう〜〜〜………
「…あっ……///」
「うっ…うぅ……」
膣にはちゃんと肉壁や子宮が存在した。
いや、実際にあるのかどうかはわからない。
これは俺の肉棒のみの推測結果だから。
要するに外からは確認できないってこと。
「はぁ…はぁ…」
「…まだ…出る……?」
「きみが望むなら…はぁ…いくらでも…はぁ…はぁ……出してみせるさ……」
「…そう……♪」
再び始動。
「…あっ…んっ……」
「う、くぅ…! あぐ…はぁ…はぁ…」
彼女の体には、恐らく魔力的な何かが働いているのだと予測できる。
そうでなければこの名器の……あぁいや、この女性器の説明がつかない。
きっと彼女の体は複雑に入り組んだ構造を………うぐっ!!??
びゅ……ごびゅ!! ごぷっ…ごぷっ………
な…なんという搾取能力……!!
射精の回数を重ねる度に、その都度ザーメンの量が増加していく。
nの2乗ってところかな?
いやいや…何おかしな事を考えてるだ俺は……。
出し過ぎで思考回路が麻痺でも………あぐっ!!!???
ごびゅうう〜〜〜〜…びゅぐううう〜〜〜〜〜〜…………
あ…あぁぁぁ……もう…限界……。
次の波が最後の砦になりそうだ…。
ていうか俺…何発出したんだろう…。
10発以上びゅるびゅるした記憶はある。
「…くる……♪」
「……っ!?」
彼女の言葉と同時に、俺に残った最後の子種達が放出された。
びゅるびゅるっと?
いや…。
ごびゅ〜〜〜っと?
いやいや…。
どばあああああああああああっと。
「ああああぁぁぁぁぁぁ………」
意識も一緒に射精してしまった俺……………
村の鶏が朝を告げる。
目を覚ますと、目の前には繋がったままの彼女とザーメンの池。
何とも言えない気分の中、彼女を起こしてガゼルさん宅に向かう。
(一応原因となった張本人も連れていく)
「きみ…日にあたっても平気なんだ?」
「……うん」
「てっきり朝は苦手なんだと思ってた」
「……前までは…ね」
「え?」
「……あなた…不思議…力…強まった」
「俺と…ヤったからってこと?」
「……そう」
「………」
スケルトンが進化した瞬間を目の当たりにした俺。
「それより…きみはこの後どうするんだい?」
「………?」
「ガゼルさんの事だから、きみのこと…そのまま逃がしてくれると思うけど……」
「……行く」
「え?」
「……一緒に」
一緒に……?
「一緒にって…俺と旅したいってことかな?」
「……そう」
「………」
まぁ…行く宛なんて無いだろうからなぁ……。
よし!!
「わかった。 その代わりに条件1つ!」
「………?」
「人前ではちゃんと変装すること……いい?」
「………(コクリ)」
「じゃぁ決まり! それと……名前は?」
「………?」
「そっか、名前なんて無いのか…」
あとでリムとセラに考えさせるかな。
おっと…とりあえずガゼルさんに報告しないと!
「名前っすか?」
「アタシ達が決めちゃっていいのぉ?」
「俺にはネーミングセンスがないから…」
「そうっすねぇ…」
「う〜ん…」
報告は無事終了。
予想通りスケルトンの少女は無罪放免。
2人の承認も取り、旅への同行が正式に決まった。
ヘルゼンからは既に旅立った。
変に長く居座ると、なんだか離れづらくなってしまう気がして…。
「骨…骨……ボーンなんてどうっすか?」
「まんまだなぁ…」
「じゃぁスケルトンだからぁ……スケちゃん!!」
「古い書物にそんな名前の役者を見たことがある」
「………?」
名前が決まらない。
「ネーミングセンス無いな、2人共……」
「そ、そんなことないっすよ!」
「そうだよぉ〜! 今日はちょっと調子が悪いだけだよぉ!」
「………(じ〜〜〜)」
「ほ、ほら! 早く決めてあげないと…し、視線が痛いから!」
う〜ん…名前…名前……。
…
……
………
「ルゥ……そうだ、ルゥなんてどうかな?」
「「………」」
「な、なんだよ?」
罵倒されるかと思ったが……
「落ち着いた感じの良い名前じゃないっすかぁ!」
「そ、そうか?」
「ゼロにしては上出来だよぉ〜!」
「俺にしてはってなんだよ……」
意外に好評。
「……ルゥ?」
「どうかな?」
「………」
ゆっくりと顔をあげる。
「……私…名前…ルゥ」
「はぁ…良かった……気に入ってくれたみたいだ!」
「やったっすね!」
「さっすがゼロぉ♪」
名前決定。
「じゃぁ改めて……よろしく、ルゥ!」
「……うん」
仲間が増えた。
スケルトンのルゥ。
成り行きにしては、いささか運命を感じるような出会いだった。
まぁ旅仲間は多いにこしたことはない。
きっと仲良くやっていけるだろう。
さて……次はどこを目指そうかなぁ?
………。
まぁいいか!
出たとこ勝負だ!
「……あなた…好き」
「えっ? なんだい?」
「………」
俺の旅は終わらない
「ゼロの故郷が近いってことぉ〜?」
「自信は無いけど…」
「小さい頃の記憶は、意外と残ってるものっすよ!」
「とは言っても、15年以上も前の記憶だからなぁ…」
たとえ覚えていたとしても、15年も時が経っていれば風景も変わってくるというもの。
でもやはり…見覚えがあることは確か。
「俺の記憶が確かなら、この森を抜けさえすればヘルゼンに着けると思うんだけど…」
視界が開けた。
そして…予想は見事的中。
いや、俺の記憶は正しかった。
「っ! ようやく…ようやく着いた……」
故郷ヘルゼン。
一目見た瞬間に、ここが自分の故郷だと悟った。
………不意に涙が頬を伝う。
「ここがゼロの…」
「マネージャーの故郷…」
めぼしいものは何もない。
それでもこの村は俺の生まれた地。
「………ただいま」
15年ぶりの帰郷に、俺は涙を流す他なかった。
「初めまして、ガゼルさん」
「おお! お前がゼロンか! 手紙だけのやり取りで、実際会うのは初めてだな!」
「そうですね。 あの…すいません…何から何まで、色々と面倒をお掛けして……」
「なぁに気にすんな! あいつの遺言だ、残された家族を…ルークとゼロンを頼むってな」
「兄貴が…そんなことを?」
「死ぬ間際まで勝手な奴だったが…どうにも憎めねえ野郎でな。 俺に任せとけ!!って言ってやったら、幸せそうな顔して眠りやがった…」
「………」
「生憎魔王は倒せなかったが、あいつは満足してた。 『楽しい旅が出来て良かった』ってよ」
「そうですか…」
「顔見せに行ってやんな。 墓は村の裏手にある」
「…わかりました」
やっぱりいい人だ、ガゼルさんは。
「それとゼロン、お前に一つ聞いておきたいことがあるんだが…」
「なんでしょう?」
「村の真ん中で騒ぎを起こしてる魔物2人は、お前の連れか?」
「え? はい、連れなら確かにいますけど………ってうおおおおおおおいい!?」
な、なにやってんだよあいつら!?
「ちょっ…おいリム! 村人(男性)を追いかけ回すのはやめろって!!」
あっちでは……
「セラーーー!! きみが歌うと村人達(男性)が集まってきちゃうだろー!?」
あぁ…俺の故郷が……。
って、落ち込む前に2人を止めないと…!!
「頼むからやめてくれえええええ!!!」
俺の声が虚しく木霊した……………
「うぅ…マネージャーひどいっすよぉ〜……」
たんこぶを頭に乗せたセラが涙目で訴えてくる。
「名を売ろうって気持ちはわかるけど、もう少し場所を考えてくれ…」
「そうだよセラぁ、ちゃんと場所を考えないと……」
「リムはしばらく飯(唾液)抜きだからな」
「ええ〜〜〜!?」
とりあえず2人には制裁。
「村の真ん中で暴れたんだ、当然の報いさ」
「「むぅ〜〜〜!!」」
「あれ、お仕置きが足りなかったかな?」
「「ごめんなさい……」」
「あと墓地に入ったら静かにしててくれよ?」
「「はぁ〜〜い…」」
村の裏手に位置する墓地。
本来は余所者の立ち入りを固く禁じている、かなり神聖な場所らしい。
でもリムとセラは俺の連れということで特別に許可が出た。
「というか許可は下りたけど…ムリして一緒に来る必要無かったんじゃないか?」
「ウチはマネージャーの御家族に挨拶したいっす。 『契りはちゃんと済ませましたよ』って!」
「婚前挨拶みたいだなぁ…」
「どっちも同じようなものっすよ!」
「同じか…?」
俺…セラと結婚しなくちゃいけないのかなぁ……?
「じゃぁ…リムは?」
「アタシ? アタシはゼロと一緒にいたいからだよぉ♪」
「あぁ、そう…」
そんなことだろうと思った…。
そんなこんなで家族の墓を見つけた。
「これが俺の家族の…」
いろいろと報告しないといけないなぁ。
「2人とも、少しの間だけ静かにしててくれ」
「うん!」
「マネージャー、ウチも挨拶していいっすか…?」
「あぁ、みんなも喜ぶよ」
「はいっす!」
俺とセラは墓前で手(羽)を合わせる。
(リムは後ろでウネウネしている)
「………(来るのが遅くなってごめん。 葬式には出たかったんだけど…こっちでは爺ちゃん達も同時期に死んじゃって、いろいろと大変だったんだ。 まさか、みんなが一斉に死ぬなんて夢にも思わなかったよ。 ルークのこともあるけど、ほんと…ガゼルさんには感謝してもしきれないよ)」
「…マネージャーとは……体を許しあった仲で……ブツブツ………」
「zzz…zzz……」
リムのやつ寝てるな…?
そしてセラは何を報告してるんだ…?
「………(そうそう、この2人は俺の連れなんだ…驚いたろ? 魔物だけど、2人とも優しい子だよ。 ちょっと躾する必要があるんだけど…)」
「…デビューしたあかつきには……正式に結婚を……ブツブツ………」
「zzz…zzz……」
…
……
………
故郷というのは実に不思議だ。
村の事なんてまるで覚えていないというのに、村を見た瞬間に自分の故郷だと認識できた。
深層心理の記憶…っていうやつかな?
まぁ、それはまた今度考えよう。
今はガゼルさん宅にお邪魔している。
「紹介しよう。 こいつは俺の嫁、フランだ」
「あなたがゼロンね? 夫から話しは聞いているわ」
「あ…は、初めまして……」
「見ての通り、フランは『エキドナ』だ。 今は妊娠中だから安心しろ、襲われたりはしねえからよ!」
「ちょっとガゼル、人を淫婦みたいな言い方しないでちょうだい…」
「夜のお前はいつも淫乱だと思うんだが?」
「っ!? もう……///」
「………」
仲がよろしいようで。
人間と魔物の壁を越えた禁断の愛…本当にあるんだなぁ。
人間が一方的に受けるだけかと思ってた。
「そうそうゼロン、ルークなら2階に寝かしつけてあるわ。 後で見てらっしゃいな」
「あ、はい。 そうします」
「起こしちゃだめよ?」
魔物も人間の赤ん坊を世話できるんだ…。
「それと…後ろの娘達とは、どういった関係なのかしら?」
「えっ?」
う〜ん…どういった関係かと言われてもなぁ……。
「もう将来を誓い合ったりしたの?」
「ええっ!? あ…いや〜それは……」
即答でNOとは言えない。
セラとは途中からノリノリでヤりまくってたからなぁ…。
ちなみにリムは例外。
「もしかして…本当に?」
「ノーコメントでお願いします…」
「まぁ…ふふっ…あなたもやっぱり男の子ね♪」
「おいおいゼロン! お前もなかなか隅に置けねえなあ!」
「は、はぁ…」
フランさんに嘘は通じない…そんな気がしたから正直に答えた。
そしてフランさんは後ろの2人に顔を向ける。
「リムちゃんに、セラちゃん…だったかしら?」
「は、はいっす… / うん……」
心なしか、2人からは緊張の面持ちが窺える。
ムリもない…目の前にはエキドナがいるわけだし。
「そんなに怖がらなくてもいいわよ?」
「「………」」
「う〜ん、困ったわねぇ…」
そして少し考えてから……
「今となっては、わたしはゼロンの母親みたいな存在なの」
「「………」」
「これでも息子の行く末を心配してるのよ…」
「「………」」
「だ・か・ら…」
「「………」」
「ゼロンのこと…好きにしていいわよ♪」
「「はい! 『お義母さま』!!!」」
「うおおおおおおいいい!?」
なんてこと言い出すんだこの人は!?
「ちょ、ちょっとフランさん!?」
「あら、いいじゃない♪ 減るもんじゃないでしょ?」
「減ります! 減りますって!!」
「あら…母であるわたしの言うことが聞けないのかしら?」
「ええええええええええ!?」
散々いじめられた……………
「リム…起こすなよ?」
「わかってるって♪」
「うわ〜…小さいっすねぇ……」
ルークと初対面。
まだ1歳にもなっていないらしい。
兄貴の息子だからか、どことなく俺にも似ている気がする。
「ねぇ、セラぁ…」
「ウチも同じこと考えてたっす…」
眠っているルークの顔を凝視する2人。
何か気が付いたのかな?
「マネージャー…」
「ん?」
「ゼロはルークの叔父さんなんだよね〜?」
「そうだけど?」
「「………」」
な、なんだ?
「ルークからは…マネージャーと同じ匂いがするっす」
「えっ?」
「アタシ達魔物を惹き付ける匂いがするんだよぉ…」
「ま、まさか…まだ赤ん坊だぞ?」
「ま、間違いないっすよ」
「うん…やっぱりゼロと同じ匂いがする……」
「………」
おいおい…。
「血は争えないっすねぇ〜」
「ほんとだね〜」
「受け継いでほしくないスキルだよ、それ……」
ルーク、大きくなったら………魔物に気をつけろ!!!
「ごちそうさまでした、とても美味しかったっす!」
「良かった♪ 頑張った甲斐があったわ」
「料理ができるなんて、ほんと羨ましいっす…」
「少し練習すれば、セラちゃんもきっと上手になるわよ」
「でも……」
「好きな人のためなら、なんだってできちゃうものよ?」
「っ!? そ、そ…そういうつもりで言ったわけじゃ……///」
「ふふっ…素直じゃないんだから♪」
食器をガゼルさんと洗っている途中、気になる会話がチラチラと聞こえてくる。
「モテモテだなあゼロン! ありゃ相当惚れ込んでるんじゃねえか?」
「一応アイドルとそのマネージャーという関係なんですけど…」
「んなもん肩書きだけだ! それでどうだ? この際今夜、お前達の愛を再確認しあうってのは…」
「自分の家でそんなことさせるんですか!?」
「別に俺は一向に構わねえぞ? それにフランなんて大喜びするぜ? なんだったら、あのリムって子も一緒に…」
「自分にはまだ早いと思います…」
「お、そうか? まぁそうだな、『3P』はお前にはまだ早いな!」
「いや、そっちの早いじゃなくて…」
意外と下ネタ好きなガゼルさん。
「そういえばリムのやつ、どこ行ったんだろ?」
「ルークの所で一緒に寝てると思うぜ?」
「あいつは暇があれば寝てるなぁ…」
「寝る子は育つって言うだろ?」
「あれ以上育ったら困ります! いろんな意味で!」
変態に磨きがかかるのは勘弁願いたい。
「おお、そうだゼロン! お前に一つ頼みたいことがある」
「はい、なんでしょう? なんだって頼まれますよ!」
「そうか? そいつは心強いな!」
お世話になっている借りを少しでも返しておきたい。
「実はな…お前が昼間に行った裏手の墓地に、最近村で妙な噂が広まってるんだ」
「妙な噂…ですか?」
「ああ。 なんでも、夜中に墓場から物音がするって話だ」
「墓場に幽霊が出るのは当たり前なんじゃないですか?」
「なんだ、お前は怖がらないのか?」
「いや、怖がるもなにも…幽霊がいてこその墓場ですし……」
「図太い神経持ってるな、ゼロン…」
「そうですか?」
幽霊が怖いなんて思わない。
むしろ会ってみたいと思う程。
「まあ怖くねえなら話は早い。 要は墓場に行って、その物音の正体を突き止めてやってほしいんだ」
「村人が怖がっているんですか?」
「そうだ。 みんなお前みたいだったら良かったんだが…そうもいかねえしな」
いわゆる『ゴーストバスター』ってやつかな?
「わかりました。 やらせていただきます」
「そうか、助かる! 実は言うとな、俺もこの手の話は苦手でな…」
「フランさんはご存じで?」
「いや、知らないだろうぜ」
「秘密にしておきます」
「是非そうしてくれ…」
仕事内容『墓場の物音を探れ!』
セラも幽霊の類は苦手ということで待機。
リムと2人で夜中の墓場へ向かうことにした。
「夜中にゼロと2人っきりなんてぇ…すっごく燃えてくるよぉ〜……///」
「その情熱を幽霊探しに費やしてくれよ…?」
墓場の入り口付近にて。
時刻は日付の変わった午前2時頃。
辺りは真っ暗闇、ランプの光のみが頼り。
セラとガゼルさん曰く、『いかにも出そう』な時間らしい。
「リムは幽霊怖くないのか?」
「幽霊よりフランさんの方がよっぽど怖いよぉ〜!」
魔物の感性は良くわからない…。
「お墓を壊すなよ? ご先祖様達の大事な住居なんだから」
「わかってるって♪」
「………」
語尾に♪を付けるせいでどうにも不安になってくる。
「じゃぁ行こう。 とりあえず墓地をぐるっと一周するから、何か感づいたら教えてくれ」
「うん!」
というわけで探索開始。
とりわけ霊感があるわけでもないし、始めからリムの魔力的探知に頼らざるを得ない。
「ゼ〜ロ〜とエッチ♪ ゼ〜ロ〜とエッチ♪♪」
「………」
聞き流しておこう。
それが一番安全だと思った。
そして探索開始から20分後。
「ゼ〜ロ〜とエッ………んん〜?」
リムの魔力センサーが何かを捉えた。
ちなみにこの怪しい歌を20分間も聞かされ続けた俺。
「リム、どうした?」
「あっちの方から魔力の反響があるよぉ!」
「魔力の反響?」
「アタシの魔力に反応するのは魔物だけなんだけどぉ…」
ということは…
「幽霊じゃなくて……魔物?」
「そうかもしれないねぇ」
リムを連れてきて正解だった。
「どうするのぉ?」
「行ってみよう…慎重にな」
リムの指し示した方向に足を運ぶ。
そして今更だけど、ダークスライムの万能さにも驚く。
「どんな種類の魔物かは…さすがにわからない?」
「う〜ん…何かがいるってことだけは確かなんだけどぉ……」
「そっか。 正直ゴーストだったらお手上げだよ」
「どうしてぇ?」
「彼女達には実体が無いから、空気と戦うようなもんだよ。 それともリムなら戦えるのか?」
「リムはムリ!」(逆から読んでも……)
「……狙って喋ったな?」
「さぁね〜♪」
ガサッ……
「むっ!?」
「え? なになに〜?」
「しっ! 静かに…」
前方から気配を感じる。
というかリムのやつ…物音には鈍感ってどういうことだよ?
「そこに誰かいる…」
「むぅ…? 暗くて良く見えないよぉ〜」
魔力探知以外の能力はまるでダメだなコイツ…。
「そこにいるのは誰だ!!」
思い切って挑発してみた。
「………」
「………」
返事はない。
「ゼロの勘違いだったり?」
「いや、そんなはずは…」
「…人…間……?」
「うああああああ!? / いやああああああ!!!」
思わず悲鳴をあげてしまった。
「………?」
「び、びっくりしたぁ…」
「ほんと…心臓が飛び出るかと思ったよぉ〜…」
「そんなもん無いだろ?」
「そうだった♪ てへ♪♪」
「てへって、お前なぁ…」
「………???」
俺達のやりとりをただ呆然と眺めている魔物1名。
「いやいや、そんなことはどうでもいい! えっと…きみは確か『スケルトン』…だったかな?」
「……そう」
『スケルトン』
魔力により、人間の骨に意志が宿った魔物。
本能的に活動することが多い。
方法によっては手懐けることも可能。
アンデット、又ゴーレムなのかは定かではない。
「きみは、どうしてこの村の墓場に?」
「……わからない」
「え? わからない?」
「………」
記憶喪失…なわけないか。
「……気付いたら…ここ…来てた」
「夢遊病とかぁ〜?」
「リムは黙ってろ…」
気付いたら来てた…か。
目的も無しにこんな場所に来るはずはない。
きっと何か理由があるはずだ。
「えっと…ここに来た理由で、何か思い当たる節はないかな?」
「………」
「やっぱり夢遊病?」
「うるさい…」
覚えてないか、無理もない。
この子はスケルトン。
ただでさえ存在が曖昧なのに、記憶なんて残ってるはずが……
「……匂い」
「えっ?」
「……匂い…した」
「匂い?」
はて…なんのことだ?
ヘルゼンに独特な匂いなんてないしなぁ…。
う〜ん……。
「……あなた…同じ匂い…する」
「え、俺?」
香水の類は付けてないぞ?
「ねぇねぇゼロぉ」
「ん、なんだよ?」
「その子の言ってる匂いって、ゼロンのエッチな匂いのことじゃないかなぁ?」
「俺の…エッチな匂い?」
どんな匂いだよ……いや待てよ!?
同じことをセラにも言われたことがある。
『エッチな匂い=魔物を惹き付ける』
ということは…この子は俺の匂いを感じ取って来たってことか?
いや、それだと辻褄が合わない。
なぜなら、俺がヘルゼンに帰郷する前から、この子はここの墓場を徘徊していたはず。
ん〜〜〜?
わからない……。
それとも俺と同じ匂いってことは、ルークに引き寄せられたとか?
いや、これも違う。
仮にそうだとしても、この子が墓場にいる理由が説明できない。
う〜〜〜ん……。
「ん? フンフン…」
「リム、なにしてんだよ?」
鼻をひくつかせるリム。
まぁスライムに鼻なんてあるのかは謎だけど…。
「あのね…そこのお墓から、ゼロと同じ匂いがするの。 それもかなり強烈だよぉ」
「な、なに? お墓から?」
そう言われてお墓に刻まれた名前を見てみる。
「お、おいおい…よりによって俺の家族の墓かよ……」
それは紛れもなく、俺の家族達が眠る墓だった。
「なぁリム…本当に間違いないのか?」
「うん。 この匂いゼロのかと思ってたから、今まで気が付かなかったの…」
「ふむ、ということは…」
スケルトンである彼女を引き寄せた…真犯人がわかった。
家族の内の誰かがそうだ。
いや、もう既に答えは出ている。
「リム…先に帰ってガゼルさんに報告してくれ。 『問題は解決した』って」
「ふえ? ゼロはどうするのぉ?」
「俺は…この子と話がしたい」
「…うん、わかったぁ」
「頼んだぞ?」
「はぁ〜い」
先にリムを家に帰した。
横槍を入れられると面倒なので。
「さて……」
「………」
墓場でスケルトンと2人きり。
そうそう体験できないシチュエーションだな、これは。
「きみがなぜこの墓場に来たのか、つい今し方わかった」
「………」
「原因は……」
死してなお、魔物を惹き付ける匂いを発する者。
それは…
「俺の…兄貴だ」
良く良く考えてみればわかったはず。
だって俺と兄貴は兄弟だぞ?
同じ匂いを持っていたとしても不思議じゃない。
さすが英雄…死んでも女を引き寄せるか……。
「きみがいくら探しても見つからないはずだ」
「………」
「匂いの主は、もう死んでるんだから」
「………」
彼女には酷かもしれないけど、これは言っておかなければならない。
もうこの世には存在しない匂いの主を、彼女は毎晩彷徨い探し続けてきた。
もう…自由にしてあげたい。
「どうか、兄貴を責めないでやってほしい…」
「……責める…?」
彼女は首を傾げる。
「……責める…しない」
「え?」
「……だって…代わり…見つけたから」
「そっか、ありがぁ……えっ?? 代わり?」
「……あなた…好き…美味しそう♪」
「ええ!?」
どうやら標的が俺に切り替わったらしい。
というか『好き…美味しそう』って、告白されてるのか捕食対象とされてるのかイマイチ判断し難い。
「……お腹…空いた…あなた…ほしい♪」
くそ…俺も男だ!
兄貴の尻ぬぐい…俺が代わりに請け負った!!
「……ん…暖かい…///」
ぎゅっと細い腕で俺を抱きしめる。
そもそもこの子は、兄貴のせいでお腹を空かせてるんだ。
満足するまで…付き合ってあげなくちゃ……………
「…んっ…んん……」
「あ…ぐっ…!」
あ…あれれぇ?
スケルトンって…元々は『骨』だよね?
なのに…どうしてこの子の中は………ううっ!?
ぶぴゅ…ぴゅぐ! びゅぐん! びゅううう〜〜〜………
「…あっ……///」
「うっ…うぅ……」
膣にはちゃんと肉壁や子宮が存在した。
いや、実際にあるのかどうかはわからない。
これは俺の肉棒のみの推測結果だから。
要するに外からは確認できないってこと。
「はぁ…はぁ…」
「…まだ…出る……?」
「きみが望むなら…はぁ…いくらでも…はぁ…はぁ……出してみせるさ……」
「…そう……♪」
再び始動。
「…あっ…んっ……」
「う、くぅ…! あぐ…はぁ…はぁ…」
彼女の体には、恐らく魔力的な何かが働いているのだと予測できる。
そうでなければこの名器の……あぁいや、この女性器の説明がつかない。
きっと彼女の体は複雑に入り組んだ構造を………うぐっ!!??
びゅ……ごびゅ!! ごぷっ…ごぷっ………
な…なんという搾取能力……!!
射精の回数を重ねる度に、その都度ザーメンの量が増加していく。
nの2乗ってところかな?
いやいや…何おかしな事を考えてるだ俺は……。
出し過ぎで思考回路が麻痺でも………あぐっ!!!???
ごびゅうう〜〜〜〜…びゅぐううう〜〜〜〜〜〜…………
あ…あぁぁぁ……もう…限界……。
次の波が最後の砦になりそうだ…。
ていうか俺…何発出したんだろう…。
10発以上びゅるびゅるした記憶はある。
「…くる……♪」
「……っ!?」
彼女の言葉と同時に、俺に残った最後の子種達が放出された。
びゅるびゅるっと?
いや…。
ごびゅ〜〜〜っと?
いやいや…。
どばあああああああああああっと。
「ああああぁぁぁぁぁぁ………」
意識も一緒に射精してしまった俺……………
村の鶏が朝を告げる。
目を覚ますと、目の前には繋がったままの彼女とザーメンの池。
何とも言えない気分の中、彼女を起こしてガゼルさん宅に向かう。
(一応原因となった張本人も連れていく)
「きみ…日にあたっても平気なんだ?」
「……うん」
「てっきり朝は苦手なんだと思ってた」
「……前までは…ね」
「え?」
「……あなた…不思議…力…強まった」
「俺と…ヤったからってこと?」
「……そう」
「………」
スケルトンが進化した瞬間を目の当たりにした俺。
「それより…きみはこの後どうするんだい?」
「………?」
「ガゼルさんの事だから、きみのこと…そのまま逃がしてくれると思うけど……」
「……行く」
「え?」
「……一緒に」
一緒に……?
「一緒にって…俺と旅したいってことかな?」
「……そう」
「………」
まぁ…行く宛なんて無いだろうからなぁ……。
よし!!
「わかった。 その代わりに条件1つ!」
「………?」
「人前ではちゃんと変装すること……いい?」
「………(コクリ)」
「じゃぁ決まり! それと……名前は?」
「………?」
「そっか、名前なんて無いのか…」
あとでリムとセラに考えさせるかな。
おっと…とりあえずガゼルさんに報告しないと!
「名前っすか?」
「アタシ達が決めちゃっていいのぉ?」
「俺にはネーミングセンスがないから…」
「そうっすねぇ…」
「う〜ん…」
報告は無事終了。
予想通りスケルトンの少女は無罪放免。
2人の承認も取り、旅への同行が正式に決まった。
ヘルゼンからは既に旅立った。
変に長く居座ると、なんだか離れづらくなってしまう気がして…。
「骨…骨……ボーンなんてどうっすか?」
「まんまだなぁ…」
「じゃぁスケルトンだからぁ……スケちゃん!!」
「古い書物にそんな名前の役者を見たことがある」
「………?」
名前が決まらない。
「ネーミングセンス無いな、2人共……」
「そ、そんなことないっすよ!」
「そうだよぉ〜! 今日はちょっと調子が悪いだけだよぉ!」
「………(じ〜〜〜)」
「ほ、ほら! 早く決めてあげないと…し、視線が痛いから!」
う〜ん…名前…名前……。
…
……
………
「ルゥ……そうだ、ルゥなんてどうかな?」
「「………」」
「な、なんだよ?」
罵倒されるかと思ったが……
「落ち着いた感じの良い名前じゃないっすかぁ!」
「そ、そうか?」
「ゼロにしては上出来だよぉ〜!」
「俺にしてはってなんだよ……」
意外に好評。
「……ルゥ?」
「どうかな?」
「………」
ゆっくりと顔をあげる。
「……私…名前…ルゥ」
「はぁ…良かった……気に入ってくれたみたいだ!」
「やったっすね!」
「さっすがゼロぉ♪」
名前決定。
「じゃぁ改めて……よろしく、ルゥ!」
「……うん」
仲間が増えた。
スケルトンのルゥ。
成り行きにしては、いささか運命を感じるような出会いだった。
まぁ旅仲間は多いにこしたことはない。
きっと仲良くやっていけるだろう。
さて……次はどこを目指そうかなぁ?
………。
まぁいいか!
出たとこ勝負だ!
「……あなた…好き」
「えっ? なんだい?」
「………」
俺の旅は終わらない
10/02/07 00:54更新 / HERO
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