連載小説
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6泊目 『それぞれの関係』
「クロさんクロさーん♡」
「あー?」
「うちとイチャイチャするっすー♡」
「仕事中」
「仕事なんて放っておいてーうちとイイ事するっすー♡」
「おい、女将がそんなこと言っていいのか?」
「女将だからこそ許されるっすよーノ」
「………」

現在、宿泊部屋のセッティング中。
1分1秒が惜しい業務ラッシュのクソ忙しい時間帯に、旅館の責任者である女将が猛烈な勢いで邪魔をしてくる。
非常に鬱陶しい。
しかも『盛っている』ので尚たちが悪い。

「うちー凄く嬉しかったっすー♪ クロさんの精一杯な告白が聞けてーうちは幸せ者っすー♡」
「頼むから掘り返さないでくれ……」

そう、ホノカが突然盛り始めたのは数日前。
俺は板長に焚きつけられ、ホノカに『本当の気持ち』を伝えたことがキッカケだ。
正直板長にまんまと乗せられた感は否めない。
しかし、気持ちを伝えたことに関しては後悔していない。
が、我ながら冷静ではなかったなと反省している。

「恥ずかしがることないじゃないっすかー♪ うちとクロさんはーもう『恋人同士』に……」
「なった覚えはない。確かに『好きだ』とは言ったが、それとこれとは話が別だ」
「照れなくてもイイっすよー?」
「照れてないっつの! いいか? 俺とお前は恋人でも何でもない、ただの上司と部下…女将と仲居の関係だ! わかったか!?」
「つーん。クロさんがなんと言おうとーうちらはもう恋人っすー。当然キャンセルなんてできないっすーヾ(*´∀`*)ノ」
「ぐっ……」

なにを言っても無駄なようだ。
もういい、勝手に言わせておこう。

「それじゃーうちは部屋に戻ってー『繁殖交尾』の準備をしてくるっすー。クロさんも後で来るっすよーノ」
「絶対行かねーからな!!」












正午過ぎ。
厨房裏口付近にて。

「あ〜…だる」

葉巻を吹かしながら思わず呟いてしまう。
午前の業務があまりにもハードだったため、午後に入って少し時間ができると気が抜けてしまった。

「……やけに静かだな」

色々な音で1日中騒がしい厨房も、昼食を出し終わる頃にはまるで嘘のように静まりかえっていた。
どうやら俺だけでなく、他の従業員(魔物)も同様にガス欠気味のようだ。
ま、こんな日もあるか。

「ふー」

さて、この後どうするか。
『繁殖交尾』なんてするつもりはないので、もちろんホノカはスルー。
昼過ぎは客が外出しやすい時間帯のため、いつも通り宿泊部屋の整頓に回るか。
もしくは板長に皿洗い・夕食の仕込みを手伝わされる可能性もある。
どちらにせよ、そこそこしんどいことには変わりない。

「ちょっとフラつくか」

葉巻を潰し、裏口から旅館内に戻る。
なんの気なしに厨房を横切っていると、疲れと食欲が同時にきたのか、箸を口に突っ込んだまま眠る板長の姿が目に入った。
どうやら賄いを食べてる内に力尽きたようだ。
………。





「ん…ん〜……」

ひんやりと冷たい厨房の作業台で目が覚める。
あちゃ〜…寝ちゃったかぁ。
仮眠する前に、ちょっとでも夜の仕込みを終わらせておきたかったんだけど……。
まぁ眠ってしまったものは仕方がない。
少しスッキリしたし、早いとこ終わらせるかな。

「さてっと……ん?」

立ち上がると、自分の背中からパサリと何かが落ちる。

「これ、確かあいつの……」

そうだ、クロードが外で休憩するときに良く着ていく上着だ。
………。
葉巻臭いが、微かにあいつの匂いも感じる。

「はぁ…あたしの点数上げて、一体どうするつもりなのかしら?」

この程度で堕ちるあたしではないが、まぁ…あいつの好意は素直に受け取っておくことにしよう。
これで仕込みもやってあれば文句は……

ガランッ ゴロゴロゴロ……

「?」

厨房の奥からボウルの落ちる音が。
誰かが既に作業しているのだろうか?
それならそれで一向に構わないのだが、一応様子を見に行ってみよう。

………。

「こ、これは……」

切りかけの野菜や肉、だし汁の入った加熱中の鍋、そして…床に落ちた洗いかけのボウル。
そこには、たった数十秒前まで作業していたような痕跡があった。

「………」

実は今まで何度かこういう現場に遭遇したことがあったのだが、誰の仕業なのか皆目見当がつかないでいた。
しかし、ようやく確信した。
この荒い切り方、火加減、そして最後の最後でボウルを落とすというイージーミス。
これはもはや、

「クロードしかいないわよねぇ」

良くよく考えればわかったかもしれない。
ただ、本当にあいつがここまでするのだろうかという疑問が、リンの確信を遠ざけていた。
いや…やはりこれはあいつの仕業だ。
ふふ、ボウルを落とし焦ったあいつが厨房から逃げる様が目に浮かぶ。
そもそも逃げる必要はないと思うが、あいつは不器用なのだ。
直接感謝の気持ちを向けられることが苦手なのだろう。

「ま、及第点といったところかしら」

珍しく甘めの評価をしてやった。
………。
ちなみに仕込みに関しては30点。
早いのは良いが、まだまだ雑。
これから『みっちり』叩きこんでやらないと、ね。



一応言っておくと、及第点というのは……『男として』の評価。












「マリアちゃーん。部屋の準備終わったけど、次は何をすればいい?」
「私もーノ 他にお仕事あるー?」
「それでしたら、東側の渡り廊下の清掃をお願いします。本日は風が強いので、木の葉や塵などが溜まっているかもしれません。マリアは西側を担当させていただきます」
「「オッケーノノ」」

仲居達に指示を出し、自分も清掃場所にむかう。

「あ、マリアちゃん! お疲れ様〜♪」
「お疲れ様です。もう少しでピークを過ぎると思いますので、それまで頑張りましょう」
「うん! マリアちゃんも頑張ってね〜ノ」

胸の前で控えめに手を振り、再び歩き出す。

「マリアちゃん! お風呂でお客様がのぼせちゃったんだけど、どうすればいいかな!?」
「落ち着いてください。まずはお客様を医務室へ運び、ベッドに寝かせください」
「う、うん」
「その後、氷嚢を体全体にあて、可能ならばお水を飲ませてあげてください。脱水症状を起こしている可能性もありますので」
「わ、わかった! ありがとうマリアちゃん!」

今言った方法で対応すれば症状は悪化しないはず。
念のため、後で様子を見に行こう。

「………」

このように、マリアは仲居の現場監督的存在だ。
本人も周囲から頼られることを苦としていない。
むしろ喜びすら感じている。

「お、マリア」
「クロード様、良いところに」
「うん?」

そんなマリアだが、唯一頼ってしまう相手がいる。

「西側の渡り廊下の清掃を、お手伝いいただけないでしょうか?」
「めんどい。つか板長に呼ばれてんだ。そっちの用が終わったら行ってやる」
「………」

クロード様はとてもお優しい。
なぜなら、

「では参りましょう」
「お、おい? なんで俺の腕掴むんだ?」

こうして、

「ぐっ…離せマリア!」

『優しく』手を引くと、

「ぐ、ぐああああ! 離せえーー! 遅れたら…板長にぶっ殺されんだぞ!?」

クロード様は、『自分の意思』でついてきてくれる。

「は…離してくれええええええええーーーーーーーーーーーーー!!!」



決して表には出さない。
だがマリアはクロードのことを……心から慕っている。












「クロさーん、どうして来てくれないんすかー? 早く『繁殖』するっすよーノ」
「クロード! 仕込みの基本を教えるって言ったわよね? どうして来ないわけ!?」
「クロード様、清掃はまだ完了しておりません。急ぎマリアと続きを」
「もう……勘弁してくれーーー!」



ホノカ、板長、マリア。
個性的過ぎる面々に囲まれ、今日も旅館『豆狸』で奮闘する。

俺に平穏という安らぎが訪れる日はくるのだろうか−−−−−





〜従業員ステータス〜

『マリア』(オートマタ)
HP 50
MP 0

特技・魔法
「サブマシンガン」〜敵全体に中ダメージ。牽制効果もあり素早さも下げる。MP0
「ショットガン」〜敵1体に大ダメージ。防御力の高い敵に効果大。防御力も下げる。MP0
「スナイパー(対物)ライフル」〜敵1体に特大ダメージ。低確率で即死効果。MP0
「ロケットランチャー」〜敵全体に特大ダメージ。強力だが2発までという弾数制限あり。MP0
「一斉掃射」〜全ての武器で同時に攻撃。敵全体に超特大ダメージ。全ての武器に弾薬が装填されていることが条件(ロケットランチャーの弾がない場合は発動不可)。発動後はオーバーヒート状態となり、3ターンの間行動不能となる。MP0

特性
「人形」〜自分への全てのダメージを10分の1に軽減。また状態異常を一切受けない。
「永久機関」〜戦闘不能になっても数ターン後に全回復して復活。
「リロード」〜銃器に弾薬を装填するため1ターン行動不能。強力な武器ほど弾切れを起こしやすい。


『リン』(極めし者)
HP 999
MP 999

特技・魔法
「アーマーブレイク」〜敵1体に特大ダメージ。防御力を0にする。MP30
「ビッグインパクト」〜無慈悲なる右ストレート。敵1体に超特大ダメージ。MP50
「タイムスイープ」〜時間を止め超絶ラッシュを叩きこむ。敵全体に超特大ダメージ。MP150
「魔王殺し」〜???。MP999

特性
「波紋の呼吸」〜毎ターン最大HP・MPの10%を回復する。
「魔王の素質」〜毎ターン一定確率で敵を威圧し行動を止める。魔物化したら間違いなく魔王の座に君臨することができる。





おまけ↓




13/12/27 07:32更新 / HERO
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■作者メッセージ
とりあえず物語も一区切りといったところでしょうか^^;
これからもボチボチ続けていきたいと思いますノ
新キャラとかも加入させる予定ですっ

全然関係ありませんが、リンのCVは植田佳奈さんだと思います
いや、そうであってほしいorz

皆さんはどんな声優さんを想像して読んでいますか?
リンに限らず@@

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