連載小説
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休業日 『奪還』
「ようこそお越しくださいました。どうぞこちらへ、お部屋へご案内いたします」

新規の客を部屋まで案内し、旅館内施設の簡単な説明を済ませる。
出迎えは基本的に女将であるホノカの仕事なのだが……。
まぁ、文句を言える立場でもないので、俺は黙って業務を全うする他ない。

「では、ごゆっくりとお寛ぎください」

完全無給状態だが、タダ飯、タダ宿は行くあてのない俺にとっては非常にありがたい。
それに無給とは言っても、傭兵時代に稼いだ金がまだ手元にけっこう残っているので、『文無しプー太郎』と呼ばれる心配もない。
そもそも旅館の仕事はかなり真面目にやっている。
そんな俺を『プー太郎』とか呼ぶ奴がいたら、俺はそいつを間違いなくぶん殴っているだろう。
ま、あれだ。要するに、

「ふぅ。さて、次は……」

充実した毎日を送ってるってこと。
もちろん…いろんな意味で。












そんなある日の昼下がり。
事件は起こった。

「大変っすー! 一大事っすー!」
「んあ?」

賄いで腹を満たし日向でうつらうつらしていた俺のもとへ、ホノカが珍しく慌てた様子で駆けてきた。

「クロさん大変っすー!」
「ふああ〜〜…なんだ〜? 旅館が潰れでもすんのか〜?」
「それよりもさらに大変なことっすー!」
「なに?」

ホノカが旅館よりも優先すること?
信じられん……そんなものがこの世に存在するのか?

「と、とりあえず話してみろ。何があったんだ?」
「それがー……」

ゴクリ……

「『大統領』が……反政府組織に誘拐されたっすー!」
「………」

………。

「へー」

↑正直な感想。

「へーって…それだけっすかー!?」
「いや、だって俺には関係ないし」

大統領が誘拐されたかー。
そりゃ大事件だなー、うん。

「うちには大アリなんすよー!」
「は?」

ホノカが大統領と関係してる?
はは! まさかな。

「はわ! さては信じてないっすねー!?」
「そりゃぁ、まぁ」

旅館の女将という肩書以前に、こいつは若干15の狸娘だ。
そんなチンチクリンが大統領とコンタクトなんて取れるわけがない。

「そんなことでいちいち騒ぐなって。そのうち政府がなんとかして……」
「っす!」
「ぶふっ」

遠心力を最大限に利用した尻尾ビンタをお見舞いされた。
痛みはまったくない。すんごいモフッとしたが。

「クロさん、もしや現大統領を知らないんじゃないっすかー?」
「馬鹿にすんな! 『魔物初の指導者』で有名な『オルレンシア大統領』だろ?」
「その通りっすーノ」

魔物が初めて大統領になったのは、今から5年程前の出来事だろうか。
当時の俺は傭兵を務めていたため俗世には疎かったが、クライアントや傭兵仲間を通して知識としてだけは頭に入れていた。
政府をはじめ、その周囲を取り巻く機関もかなりゴタついたらしい。
だが、5年経った今でも大統領を務めていることを考えると、その『オルレンシア』という魔物がかなりの実力者であるということが容易に想像がつく。
種族は『ヴァンパイア』ということだが…噂では絶世の美女らしい。
どんな面なのか顔だけでも見てみたいという気持ちはある。

「大統領はーこの『豆狸』の建設にー多大な援助をしてくれたんすよーノ こんな良い立地条件で商売できるのもー、ひとえに大統領の尽力があってこそっすよー」
「マ、マジか!? なんでだ? 何のために!?」

なぜあんな大物が、こんなチンチクリンのためにそこまでするんだ?
ますます信じられん……。

「実はー…うちも良くわかんないんすよー」
「は?」
「叔母さんならー何か知ってると思うっすけどー」

板長、か。
確かにあの人なら何か知ってるかもしれない。

「なら、今から聞きにいくか」
「たぶん無駄っすよー」
「なんで?」
「理由はわからないっすけどー、その事を叔母さんに聞くとー何故だか渋るんすよねー」
「なんだそれ」

その反応は明らかになんか知ってんじゃねえか。
仕方ない、強引にでも聞き出してみるか。

「お前でダメなら、俺が聞いてみる」
「そっすねー、ダメ元でお願いするっすー。うちはその間にー準備をしておくっすーノ」
「おう……ん?」

準備? なんのだ?
んー、まぁいいか。
それよか板長を問いたださねぇと。
真相が気になって仕方がない。












厨房にて。
板長に強気で理由を尋ねると、思いのほかすんなり事情を説明してくれた。
そして同時に、俺は驚愕の真実を知ることとなった。

「あ、愛人!?」
「まぁ、ロザリーが勝手に言ってるだけなんだけどね」
「なんだ自称かよ……つかロザリーって、大統領のことですか?」
「そうよ。『ロザリンティア=ファラン=オルレンシア』。これが彼女の本名よ」
「へ〜。というか、随分と親しげに呼びますね? どういう関係なんすか?」
「ん? ただの幼馴染だけど」
「あ、あ〜……なるほど」

蓋を開けてみたら、意外になんてことない理由だった。

「ロザリーは兄さんのことが大好きでねぇ……兄さんが結婚した後も、やっぱり忘れられなかったみたい」
「はぁ、それで『自称愛人』ですか」
「そ。まぁ当然公にはしてないけどね。こんなこと世間にバレたら大騒ぎよ」
「た、確かに」

『大統領、愛人と熱愛発覚!』なんて報道、個人的にもあまり見たくない。

「あ、そうか……『好きな男の子供のために何かしてやりたい』っていう気持ちがあったってことですか」
「う〜ん…まぁそうね。だからといって旅館建設はやり過ぎだって言ったんだけど」
「権力フル活用してますよね」
「結婚した相手に直接手は出せない、だから金にモノを言わせる……彼女らしいわよ」
「………」

大統領にそこまでさせる男って、一体……。

「で、聞きたいことはそれだけ? 夕食の仕込みをしたいんだけど」
「あ、はい。邪魔してすんません」

板長にシッシッと追い払われ厨房を後にする。
と、

「あ、クロード!」
「? はい?」
「ホノカに兄さんとロザリーの関係、言っちゃダメよ!」
「……了解っす」

板長がホノカに真相を語らなかったのはそういうことか。
いくら自称とはいえ、父親の愛人が大統領というのはぶっ飛びすぎている。
こりゃ確かに姪っ子には言えないわな。












「あ、クロさーんノ」

厨房から追い出されロビーをフラフラ歩いていると、前方から狸が走ってきた。

「話聞けたっすかー?」
「おう……あいや! なんも聞き出せなかった! 悪い!」
「ほむ、やっぱりそっすかー」

早速口を滑らせるところだった。

「ただ、お前の恩人であることは良くわかった」
「だからそう言ってるじゃないっすかー。少しはうちを信用してほしいっすー」
「わかったわかった。次からは信用する」
「今現在まで信用されてなかったんすねーうち……」

ショボンとするホノカ。

「まーその話は置いておくっすー。さ、出かけるっすよーノ」
「おう……ん? どこに?」
「どこってー、大統領を助けに行くに決まってるじゃないっすかー」
「おぉ……はあああ!?」

ちょっとちょっと!
なに言っちゃってんのこいつ!?

「さぁさぁ早く行くっすよーノ 『飛空挺』の準備は万全っすー」
「『飛空挺』!? ナニソレ!?」
「既にマリアが離陸準備を終えてるっすー。後はークロさんとうちが乗るだけっすー」
「ちょ、ちょっと待て! 旅館は!? 仕事はどうすんだ!?」
「クロさんを乗せたらー叔母さんに留守を頼みに行くっすーノ」

なんだこの段取りの良さは!?

「い、嫌だ! 俺は行かない! 関わりたくねえええ!!」
「もう遅いっすー。男なら腹をくくるっすー」



助けてくれええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…………












あれから数刻後。
現在地、3000m上空。
俺とホノカは飛空挺内のラウンジで待機中。
恐らく反政府組織との戦闘は避けられないため、入念な装備のチェックをしている。

「……こんな代物、どこに隠してたんだ?」
「飛空挺のことっすかー? 旅館の地下っすノ」
「地下っすノ じゃねえだろ! なんでそんなもんが地下に格納されてんだ!?」
「万が一っすよーノ 『備えあれば憂いなし』って言うじゃないっすかー」
「何に対する備えだよ……」

はぁ…もう突っ込むの疲れた……。
色々言いたいことはあるが、ここは大人しくしていよう……。

「そういえば、マリアは?」
「ブリッジでー飛空挺の操縦をしてるっすよー」
「ほんと何でもできんだなぁ、あいつ」

万能お手伝いドールの通り名は伊達じゃないってか。
口の減らないダッチワイフと思っていたが、これは考えを改めるべきだな。

「で、俺らはどこに向かってんだ?」
「『空中要塞カタストロフ』っす」
「か、かたす…なに?」
「要するにー空飛ぶ要塞っすよー。オルレンシア大統領はーそこに囚われているはずっすー」
「なんでわかるんだ?」
「ニュースペーパーに載ってたっすノ」
「あ、そ……」

けっこう大々的な事件なのか。
いや、そりゃそうか。大統領が誘拐されたんだもんな。

「つか、なんで大統領をさらうんだ? 今更感が半端ないんだが」
「今だからこそっすよー。5年前は警戒が厳重過ぎてー誘拐どころじゃなかったはずっすー」
「なるほどな。気が緩んだ隙を狙われたってことか」
「っす。まー相手は十中八九人間を中心に構成された組織っすねー。魔物に政界を乗っ取られてー黙ってるはずがないっすよー」
「ふむ。誘拐する動機は十分、か」

さすがに殺されはしないだろうが、最悪の事態は想定しておいた方が良さそうだ。

「相手は人間集団っすけどー、魔物の手を借りて防衛してくる可能性もあるっすねー」
「酔狂な魔物もいたもんだ」
「魔物にだってー色々あるんすよーノ」
「お前みたいに旅館の女将やってる奴もいるぐらいだしな」
「ほむ〜♪ 褒めたって何も出ないっすよー♪」
「褒めてないっつの!」
「はわ!?」

ホノカにデコピンを炸裂させたあたりで、船体がガクンと大きく揺れた。

「な、なんだ!?」
『ホノカ様、クロード様、マリアの声が聞こえますでしょうか』
「聞こえてるっすよー」

ブリッジで操縦しているはずのマリアの声がどこからともなく聞こえてきた。
この飛空挺そんな機能まで付いてんのか…なんでもアリだなぁ。

『現在、複数の魔物から攻撃を受けています』
「被害はどんな感じっすかー?」
『船体が強固なため損傷はほぼありませんが、このまま放置しては帰還時の性能を保証しかねます』
「やっぱそうっすよねー。クロさん、迎撃するっすよーノ」
「しゃーねぇなぁ……本番前の準備運動だ!」

昔愛用の大剣を携え気合いを入れる。
……それはそうと、

「おい」
「なんすかー?」
「(仲居の)作業服のままなんだが、代わりの防具とかないのか?」
「備え付けのがあるにはあるっすけどー、どうせならーそのままでお願いするっすーノ」
「なんで?」
「旅館の宣伝になるっすノ」
「おい!」

防御力より旅館の売り上げを優先された。












「うお!?」

飛空挺甲板に出ると、体に吹きつける強風に一瞬たじろぐ。
そういえばここは上空3000mの世界だった。
飛空挺の乗り心地があまりにも良かったためすっかり忘れていた。

「クロさん、顔が普段の数倍怖くなってるっすーヾ(*´∀`*)ノキャッキャッ」
「うっせ。目開けてられねんだよ」

確かに風は強いが、動けない程ではない。
俺達のためにマリアが多少減速してくれたようだ。
地味に気が利く。

「さてー、うちの飛空挺を攻撃してる不届き者はーどこっすかねー?」
「んー、アレじゃね?」

船体にめっちゃ火ぃ吹いてるワイバーンを発見。
耳を澄ませると、ワーイバーン同士で何か喋っている。

『全然キズつかないねー』
『ねー。墜落させろとか無理だよねー』
『でもお金もらっちゃってるしー、最低限は働かないとねー』
『そだねー。足止めくらいはしないとねー』

………。
なんか思ってた以上にお気楽な感じだ。
人間側に協力しているとはいっても、やはり金のためか。

「んじゃ、始めるか!」
「っすーノ」



ワイバーンAが現れた!
ワイバーンBが現れた!

(イメージ戦闘曲→ http://www.youtube.com/watch?v=RyIeauXKRfI) 



・・・・・・・・・・・・

ホノカはクナイを投擲!
ワイバーンAは21のダメージ!

ワイバーンAの攻撃!
しかしホノカはひらりとみかわした

ワイバーンBは燃え盛る炎を吐き出した!
ホノカは29のダメージ!(HP171)
クロードは27のダメージ!(HP373)

クロードはヘイストを唱えた!
クロードの素早さが上がった!

・・・・・・・・・・・・

ホノカはクナイを投擲!
さらに投擲したクナイが無数に分裂!
ワイバーンAは22のダメージ!
ワイバーンAは21のダメージ!
ワイバーンBは23のダメージ!
ワイバーンAは23のダメージ!
ワイバーンBは19のダメージ!
ワイバーンBは20のダメージ!

クロードは破光斬をはなった!
剣圧が青白い光を成して敵を切り裂く!
ワイバーンAは48のダメージ!
ワイバーンBは47のダメージ!

ワイバーンAは燃え盛る炎を吐き出した!
ホノカは28のダメージ!(HP143)
クロードは29のダメージ!(HP344)

ワイバーンBは燃え盛る炎を吐き出した!
ホノカは29のダメージ!(HP114)
クロードは30のダメージ!(HP314)

・・・・・・・・・・・・

ホノカはクナイを投擲!
ワイバーンAは20のダメージ!
さらにクナイが爆発!
ワイバーンAは31のダメージ!

クロードの攻撃!
ワイバーンAは53のダメージ!
ワイバーンを倒した!

ワイバーンCが乱入してきた!

ワイバーンCはファイラを唱えた!
ホノカは44のダメージ!(HP70)
クロードは47のダメージ!(HP267)

ワイバーンBは燃え盛る炎を吐き出した!
ホノカは30のダメージ!(HP40)
クロードは27のダメージ!(HP240)

・・・・・・・・・・・・

ホノカはローションを使った
ホノカのキズが回復した!(HP110)

クロードはサンダラを唱えた!
ワイバーンBは43のダメージ!
ワイバーンCは44のダメージ!
クロードの体が帯電した

「ビ、ビリビリくるぜ」
「電気ウナギみたいっすー」
「うっせ!」

ワイバーンCの攻撃!
クロードは22のダメージ!(HP218)
ワイバーンCは麻痺した!

ワイバーンBは燃え盛る炎を吐き出した!
ホノカは変わり身発動!
ホノカは自身とダミーをすり替えた
ホノカはダメージを受けない!
クロードは28のダメージ!(HP190)


・・・・・・・・・・・・

ホノカはクナイを投擲!
さらに投擲したクナイが無数に分裂!
ワイバーンBは20のダメージ!
ワイバーンCは21のダメージ!
ワイバーンCは23のダメージ!
ワイバーンCは22のダメージ!
ワイバーンBは22のダメージ!
ワイバーンBは23のダメージ!

クロードは破光斬をはなった!
ワイバーンBは42のダメージ!
ワイバーンBを倒した!
ワイバーンCは47のダメージ!

ワイバーンDが乱入した!
ワイバーンEが乱入した!

ワイバーンDはファイラを唱えた!
ホノカは45のダメージ!(HP65)
クロードは46のダメージ!(HP144)

ワイバーンEは燃え盛る炎を吐き出した!
ホノカは29のダメージ!(HP36)
クロードは27のダメージ!(HP117)

ワイバーンCは体が麻痺している!

・・・・・・・・・・・・

ホノカはメガローションを使った
ホノカのキズが回復した!(HP200)
クロードのキズが回復した!(HP317)

クロードはサンダラを唱えた!
ワイバーンCは48のダメージ!
ワイバーンCを倒した!
ワイバーンDは44のダメージ!
ワイバーンEは46のダメージ!
クロードの体がさらに帯電した

「敵の援軍はーもう来ないみたいっすねー」
「よし、一気にケリつけんぞ!」

ワイバーンEの攻撃!
クロードはサイトアウト発動!
敵の攻撃をかわし、瞬時に背後へと回り込む!
クロードの背後からの攻撃!
ワイバーンEは79のダメージ!
ワイバーンEは麻痺した!

ワイバーンDは燃え盛る炎を吐き出した!
ホノカは31のダメージ!(HP169)
クロードは29のダメージ!(HP288)

クロードの素早さが元に戻った

・・・・・・・・・・・・

ホノカはクナイを投擲!
さらに投擲したクナイが無数に分裂!
ワイバーンDは22のダメージ!
ワイバーンEは22のダメージ!
ワイバーンDは20のダメージ!
ワイバーンEは21のダメージ!
ワイバーンDは23のダメージ!
ワイバーンEは22のダメージ!

ワイバーンDはファイラを唱えた!
ホノカは代わり身発動!
ホノカはダメージを受けない!
クロードは46のダメージ!(HP242)

ワイバーンEは体が麻痺している!

クロードは破光斬をはなった!
ワイバーンDは49のダメージ!
ワイバーンEは44のダメージ!
ワイバーンEを倒した!

・・・・・・・・・・・・

ホノカはクナイを投擲!
ワイバーンDは23のダメージ!
さらにクナイが爆発!
ワイバーンDは36のダメージ!
ワイバーンDを倒した!



魔物の群れを倒した!





「どうだ! 元傭兵なめんな!」
「さすがはクロさんっすーノ その体力ならー『夜の営み』もまったく問題ないっすねー♪」
「さーて、ラウンジに戻るか」
「やーんわり無視されたっすー」

金で雇われただけの連中なんて所詮はこの程度だ。
さっきの奴らも、恐らく日雇いの傭兵崩れかなにかだろう。

『迎撃完了を確認しました。お二人とも、お疲れ様です』
「おう」
「要塞まではーあとどれくらいっすかー?」
『30分といったところでしょうか。到着までは船内でお休みに……』

マリアが言い淀む。
そして、

『申し訳ありません、再度戦闘準備をお願いします』
「ほむ?」
「……アレか」

前方から飛行型の魔物が大量に押し寄せてきた。


「おいおい…ありゃさっきの比じゃねぇぞ」
「なんとか突破できないっすかー?」
『不可能ではありませんが、ドラゴンなどの飛行特化型の魔物に追撃される可能性があります』
「最低そいつらの相手はしろってことか」
「仕方ないっすねー……とりあえず全速力でお願いするっすーノ」
『かしこまりました。振り払われないようお掴まりください』

飛空挺が一瞬沈んだかと思うと、とんでもない速度で加速し始めた。

「うおっ!?」

どこかに掴まろうとしたが間に合わず、前方から吹きつける風によって壁に押し付けられるような形になってしまった。

「はわー!?」

ホノカも間に合わなかったらしく、風に飛ばされ……

「ぐふう!?」

俺のところに飛んできた。

「お、お前…わざとか!?」
「とんでもないっすー。不可抗力っすよー……クンカクンカ」
「だったら人のにおい嗅ぐな!」

壁とホノカに挟まれる状態がしばらく続いた。












『要塞から挟撃される可能性があるため、ただ今より減速致します』
「これだけ引き離せれば十分だ。後はこっちで片づける!」
『ご武運を』

甲板から飛空挺後方を覗き込むと、ドラゴン1匹とサンダーバード2匹がピタリと追随していた。

「やっぱりまけなかったっすねー」
「予想より少ない。まだマシな方だ」

魔物達が甲板に乗りこんでくる。
(イメージ戦闘曲→ http://www.youtube.com/watch?v=GXPr_zr-r40)

「キャハハ♪ 追いつかれてやんのー♪」
「おっそー♪ 超ウケるー♪」
「お前達、無駄口を叩くな」
「「はーい」」

ドラゴンがサンダーバード達を一喝。

「悪いが、ここから先へ行かせるわけにはいかない。お前達に恨みはないが……覚悟してもらおう」
「っ……くるぞ!」



サンダーバードAが現れた!
ドラゴンが現れた!
サンダーバードBが現れた!



・・・・・・・・・・・・

ホノカは錬金発動!
テキトーなアイテムとアイテムをテキトーに混ぜテキトーなアイテムを作り出す!
ホノカは徹甲手榴弾を放り投げた!
サンダーバードAは50のダメージ!
ドラゴンは50のダメージ!
サンダーバードBは50のダメージ!

「な、なんだ今の!?」
「テキトーに作ったっすーノ」
「おっかね……」

サンダーバードBはサンダガを唱えた!
ホノカは68のダメージ!(HP132)
クロードは66のダメージ!(HP334)
クロードの体が帯電した

サンダーバードAのフェザーカッター!
無数の羽刃がホノカ達を切り裂く!
ホノカは変わり身発動!
ホノカはダメージを受けない!
クロードは53のダメージ!(HP281)

クロードは破光斬をはなった!
サンダーバードAは49のダメージ!
ドラゴンは31のダメージ!
サンダーバードBは51のダメージ!

ドラゴンの攻撃!
クロードは124のダメージ!(HP157)

・・・・・・・・・・・・

「ドラゴンの攻撃が強力だ! 早く鳥2匹をなんとかすんぞ!」
「っすーノ」
「「鳥って言うなー!!」」

サンダーバード達がクロードに狙いを絞った

ホノカはクナイを投擲!
ドラゴンは17のダメージ!
さらにクナイがドラゴンの影を捕らえる!

サンダーバードAの麻痺攻撃!
クロードは33のダメージ!(HP124)
クロードの体がさらに帯電した

サンダーバードBはサンダガを唱えた!
ホノカは65のダメージ!(HP67)
クロードは66のダメージ!(HP58)
クロードの体が限界まで帯電した

「し、痺れ過ぎて…なんも、感じなくなってきた」

クロードは防御力・属性耐性が大きく上がった!

クロードは破光斬をはなった!
サンダーバードAは48のダメージ!
ドラゴンは34のダメージ!
サンダーバードBは49のダメージ!

ドラゴンは影を捕らえられ動けない!
ドラゴンは影縫いから抜け出した

・・・・・・・・・・・・

ホノカはメガローションを使った
ホノカのキズが回復した!(HP200)
クロードのキズが回復した!(HP258)

サンダーバードAはサンダガを唱えた!
ホノカは変わり身発動!
ホノカはダメージを受けない!
クロードは13のダメージ!(HP245)

サンダーバードBは麻痺攻撃!
クロードはサイトアウト発動!
クロードの背後からの攻撃!
サンダーバードBは77のダメージ!
サンダーバードBを倒した!

クロードの攻撃!
サンダーバードAは52のダメージ!
サンダーバードAを倒した!

「人間のわりに、なかなかやるではないか。ならば、私も全力でぶつかるとしよう」

ドラゴンは大きく息を吸い込んだ

・・・・・・・・・・・・

「やばい攻撃がきそうだ。ホノカ、お前はガードを……」
「してるっすーノ」
「あ、そ……」

ホノカは身を守っている

クロードの攻撃!
ドラゴンは31のダメージ!

ドラゴンは灼熱の炎を吐き出した!
ホノカは101のダメージ!(HP99)
クロードは58のダメージ!(HP187)

・・・・・・・・・・・・

ホノカはクナイを投擲!
さらに投擲したクナイが無数に分裂!
ドラゴンは17のダメージ!
ドラゴンは15のダメージ!
ドラゴンは15のダメージ!

クロードは力を溜めている!

ドラゴンは尾を鞭のようにしならせ攻撃!
ホノカは72のダメージ!(HP27)
クロードは19のダメージ!(HP168)

クロードの体から電気が抜けた
クロードのステータスが元に戻った

・・・・・・・・・・・・

ホノカはハイローションを使った
ホノカのキズが回復した!(HP200)

クロードの強攻撃!
ドラゴンは72のダメージ!

ドラゴンは激しい炎を吐き出した!
ホノカは98のダメージ!(HP102)
クロードは89のダメージ!(HP79)

・・・・・・・・・・・・

ホノカは錬金発動!
ホノカはカオスグレネードを放り投げた!
ドラゴンは70のダメージ!
ドラゴンの攻撃力が下がった!
ドラゴンの防御力が下がった!
ドラゴンの素早さが下がった!
ドラゴンの視界が暗闇に覆われた!

クロードの攻撃!
ドラゴンは55のダメージ!

ドラゴンは尾を鞭のようにしならせ攻撃!
しかしホノカはひらりとみかわした
しかしクロードはひらりとみかわした

・・・・・・・・・・・・

ホノカはハイローションを使った
クロードのキズが回復した!(HP279)

クロードの攻撃!
ドラゴンは53のダメージ!

ドラゴンは激しい炎を吐き出した!
ホノカは変わり身発動!
ホノカはダメージを受けない!
クロードは86のダメージ!(HP197)

・・・・・・・・・・・・

「これで決めるっすーノ」
「おうよ!」

クロードとホノカの連携発動!

「風をー」
「切り裂く!」
「「空破裂衝斬!!」」

ドラゴンは150のダメージ!
ドラゴンを倒した!



魔物の群れを倒した!





「はぁ…はぁ……やっと、終わったか」
「こんなところでヘバっちゃダメっすよー? もうすぐ要塞に到着するっすー」
「わーってる。ったく、一息つかせろって……」

多少ブランクはあるが、思っていた以上に体が動いてくれる。
だが、体力的にはキツイと言わざるをえない。

『到着まで5分をきりました。各自回復をお忘れなく』
「アイテムは有限っすのでー、クロさんは自然回復の方向でーノ」
「………」

……さすがに酷いと思った。












「……見えたぞ!」

前方に『要塞カタストロフ』を確認。
これまた予想以上にデカイ。
さらに外壁には対空用の大型砲台が無数に配備されている。

「今更っすけどー、反政府組織もかなり本気っすねー」
「あぁ。あんなデカイもん使ってまで大統領さらったんだ、半端な覚悟じゃないだろうな」

ドンッ! ドドンッ!!

「チッ…撃ってきやがった!」
『要塞から激しい攻撃を受けています。ホノカ様、ご指示を』
「帰還する前に飛空挺がオシャカになるのはーさすがにシャレにならないっすねー」

ホノカは瞬時に思考を巡らせると、

「マリアはーうちらと一緒に要塞へ突入するっすー。その間ー飛空挺を遠隔操作してー要塞の射程圏外を旋回させるっすー」
『かしこまりました』
「お、おい、そんな器用な真似できんのか?」
「大丈夫っすよーノ なんたってーマリアっすからねー♪」
「………」

俺、マリアに優しくするべきなんかなぁ……。

「遠隔操作は順調です。さぁ、乗り込みましょう」
「うお!?」

先程までブリッジにいたはずのマリアに背後をとられていた。

「ちなみに、飛空挺を着地させる隙がありませんので……」
「おい、まさか」
「はい。ある程度接近した瞬間に飛び移っていただきます」
「………」

うん、やっぱり優しくする必要ないな。

「心配し過ぎっすよー。いつもの調子で行けば大丈夫っすよーノ」
「いや、だけど……」
「接岸します」
「ほらー、行くっすよー」
「ちょ、おい!? 離せ!」

ホノカとマリアに腕を引かれ、

「それじゃー……飛ぶっすー!」
「ま、待て! 心の準備が……うをおおあああああああ!?!?」

半年ぶりに宙を舞った。












「………」

死ぬかと思った……。

「さてー、大統領はどこにいるんすかねー?」
「闇雲に捜索することは得策ではありません。しかし、おおよその見当はついています」
「ほむ、とういうとー?」
「この要塞は大きく右翼・左翼区画に分かれており、そのいずれの区画にも最重要人物を収容するための堅固な牢獄が1つずつ存在しています。大統領閣下は恐らくそこに」
「ほむん、さすがはマリアっすーノ 要塞のリサーチも完璧っすねー♪」
「お褒めいただき光栄です」
「というか、なんでそんな詳しいんだ?」
「ニュースペーパーに記載がありました」
「お前もかよ!?」

こいつらの言う『ニュースペーパー』とは一体何なんだ?
要塞の内部情報が載ってるとか普通じゃないだろ……。

「さてー、早いとこ大統領を探し出してー脱出するっすよーノ」
「編成はどのように?」
「マリアはクロさんと左翼をお願いするっすー」
「かしこまりました」
「お前は1人で大丈夫なのか?」
「心配ご無用っすーノ むしろうちはー1人の方が動きやすいっすー」
「あ、そうか。お前一応『忍者』だもんな」
「そゆことっすー」

ホノカは身を翻す。

「見つけ次第なんらかの方法で連絡を入れるってことでー、みんな気をつけるっすよーノ」
「おう!」「はい」

そう言うや否や、ホノカはさっさと右翼区画へと走り去ってしまった。

「さぁ、マリア達も捜索を」
「あぁ。お前の戦いっぷり、楽しみだな」
「ご期待に添えるよう、努力致します」

俺とマリアも左翼区画へと侵入する。

「マリア、具体的な場所はわかってんのか?」
「常識的に考えますと、最奥ではないでしょうか」
「いや、まぁそうなんだが……」
「こちらの区画に大統領閣下が囚われている場合、反政府組織からの妨害が十分に考えられます。無益な戦闘は避けるべきかと」
「わかってる。面倒だったら逃げればいいんだろ?」
「はい」

大統領を見つけてここから脱出。
実に単純明快だ。

「罠への警戒も時間の浪費です。一気に駆け抜けてしまいましょう」
「おう!」












(イメージ戦闘曲→ http://www.youtube.com/watch?v=cb9SqrSNTmg&list=UUnEn_esqsaoQXuVY_6JHLdw)

左翼側の区画をマリアと共に走り抜ける(マリアはホバリング)。
途中何度か魔物と遭遇したが、マリアの絶妙な威嚇射撃によりなんとか戦闘は避けられている。
ちなみに要塞内部は、まるで豪華客船を思わせる内装となっており、砲台付きのごっつい外装からは想像もつかないほど高級感で溢れている。
金の無駄使いもイイとこだ。

「反政府組織っつっても、人間が1人もいねぇな」
「恐らくこの誘拐騒動自体、全て雇われた魔物のみで構成されているのではないでしょうか」
「人間諸君は手を汚さず、高みの見物ってか」

汚れ役は全部魔物の役目、か。
だから政界の連中は好きになれない。
あいつらは魔物を道具としてしか見ていない。
………。
これが同族嫌悪ってやつか。

「人間は汚ねえなぁ」
「クロード様」
「うん?」
「マリア達魔物を気遣っていただき、ありがとうございます」
「なっ…ち、違う! 別に俺は……」
「人と魔物は持ちつ持たれつ、です。クロード様が気に病むことではありません」
「………」

口の達者なダッチワイフに諭される。
やれやれ…魔物と働く時間が長過ぎて情でも移ったんかねぇ……。
そんなことを考えていると、

「! クロード様」
「あぁ、見えてる」

レッドカーペッドが鮮やかな長い廊下の先、曲がり角の死角から複数の魔物が姿を現す。

「進路を塞がれてしまいました」
「関係ねえ! 邪魔な奴だけ蹴散らすぞ!」
「了解しました」



ウシオニが現れた!
デュラハンが現れた!
オーガが現れた!



・・・・・・・・・・・・

クロードはサンダラを唱えた!
ウシオニは58のダメージ!
デュラハンは41のダメージ!
オーガは42のダメージ!
クロードの体が帯電した

オーガの魔王斬り!
オーガはイチかバチかの全力攻撃!
しかしクロードはひらりとみかわした

マリアはサブマシンガンを掃射!
ウシオニは55のダメージ!
ウシオニの素早さが下がった!
デュラハンは物理攻撃を受けない!
オーガは43のダメージ!
オーガはの素早さが下がった!

デュラハンはブレードで薙ぎ払った!
クロードは46のダメージ!(HP354)
マリアは4のダメージ!(HP46) ←特性『人形』の効果によりダメージが10分の1に軽減

「お前、大丈夫か?」
「マリアは丈夫ですので。どうかご心配なさらず」
「メ○ルスライムみたいなやつだな」

ウシオニは混乱している
ウシオニは高らかに笑っている

・・・・・・・・・・・・

クロードは破光斬をはなった!
ウシオニは53のダメージ!
デュラハンは物理攻撃を受けない!
オーガは46のダメージ!

マリアは至近距離からショットガンを放った!
オーガは78のダメージ!
オーガの防御力が下がった!

オーガの攻撃!
クロードはサイトアウト発動!
クロードの背後からの攻撃!
オーガは99のダメージ!

デュラハンはドレインを唱えた!
クロードは61のダメージ!(HP293)
デュラハンはクロードのHP吸収した!

ウシオニは混乱している
ウシオニのみなごろし!
いきりたってクロードに襲いかかった!
クロードは144のダメージ!(HP149)

・・・・・・・・・・・・

クロードはサンダラを唱えた!
ウシオニは56のダメージ!
デュラハンは44のダメージ!
オーガは40のダメージ!
クロードの体がさらに帯電した

マリアはスナイパーライフルで狙撃した!
ウシオニは132のダメージ!

オーガのダブルラリアット!
クロードは51のダメージ!(HP98)
マリアは4のダメージ!(HP42)

デュラハンは詠唱している

ウシオニは混乱している
ウシオニはわけもわからず自分を攻撃した!
ウシオニは67のダメージ!

・・・・・・・・・・・・

クロードは身を守っている

マリアは回復弾をはなった!

「ぐはっ!?」
「命中を確認しました」
「そこそこ痛いんだが……」

クロードのキズが回復した!(HP298)

オーガの攻撃!
マリアは3のダメージ!(HP39)

デュラハンは地獄から雷を呼び寄せた!
クロードは95のダメージ!(HP203)
マリアは17のダメージ!(HP22)
クロードの体が限界まで帯電した
クロードの防御力・属性耐性が大きく上がった!

ウシオニは混乱している
ウシオニの攻撃!
デュラハンは物理攻撃を受けない!

・・・・・・・・・・・・

クロードの攻撃!
オーガは77のダメージ!
オーガを倒した!

マリアはスナイパーライフルのリロード中

デュラハンはブレードで薙ぎ払った!
クロードは9のダメージ!(HP194)
マリアは4のダメージ!(HP18)

ウシオニは混乱している
ウシオニは力を溜めている

ウシオニの素早さが元に戻った

・・・・・・・・・・・・

クロードはサンダラを唱えた!
ウシオニは57のダメージ!
デュラハンは44のダメージ!

マリアはスナイパーライフルで狙撃した!
ウシオニは133のダメージ!
ウシオニを倒した!

デュラハンは頭を落としてオロオロしている

・・・・・・・・・・・・

「そろそろ逃げるか。アンデッド相手は分が悪い」
「そうですね。では……」

マリアは煙幕弾をはなった!
白い煙幕が辺り一面を覆う!

クロード達は逃げ出した!





「ふぅ…まさかアンデッドまで動員されてるとはな。一体いくら金を積んだんだか」
「それはそうとクロード様。これだけの兵力がこちら左翼側へ集中しているということは、大統領閣下の居所はほぼ確定的かと」
「だな。よし、走るぞ!」
「はい」












左翼区画、最深部大広間にて。

「広いな…まるでパーティ会場だ」
「空中要塞という名目ですが、実際の用途はそちらかもしれませんね」
「あぁ。で、緊急時には要塞として機能させるってわけか」

良く考えられている…が、やはり金の使い道を間違えている気がする。

「クロード様、あちらの部屋から魔力反応が」
「どうやら当たりみたいだな。早く連れ出して脱出するぞ」

大広間奥にある豪華な装飾が施された小部屋に小走りで向かう。
そういえば、ホノカにどうやって連絡を入れようか。
そもそも無事かどうかも定かではないが、まぁそれはたぶん大丈夫だろう。

「さて、魔物初の大統領とやらは一体どんな顔をしてんのかねぇーと」

取っ手を捻り扉を開けようとするが……ビクともしない。

「チッ、鍵かよ。まそりゃそうか」
「マリアにお任せください」
「どうするんだ?」
「破壊します」

そう言うと、マリアはショットガンをガチャリと構える。
スカートの中から取り出したように見えたが……どうなってるんだ?

「クロード様、離れてください」
「お、おう」

いそいそとマリアの後ろに退避。
まったく、ほんと頼りになるよこいつは。

「では、いきます」

さぁ撃つぞといったところで、異変は起きた。
大広間の灯りが消え暗闇に包まれたかと思うと、

「……ぐ!?」

突然背後から、何者かに首を絞められる。

「ぐっ…くぅ……!」
「クロード様?」
「かはっ…ぅぅ……」

締め付ける力が強く、急激に意識が薄れていく。
マリアが俺を案じている。
しかし、なぜ俺が苦しんでいるのか理解できないといった様子だ。
まさか……犯人が見えていない?

「っ……」

このままだと…やばい……!
マリアに危機を訴えたいが、声が出せない。
………。
これしか、ない……!

「(……………)」
「? クロード様?」

マリアに口の動きだけを見せる。
もうこれしか道はない。

「(……せ……………だ……)」
「………」
「(……せ…んこ……だ……)」
「……!」

マリアはスカートの中から円柱状の短い筒のようなものを取り出すと、

「目を閉じてください!」

辺りを眩い光が包み込む!
そう、俺がマリアに伝えたのは……『閃光弾』。












「げほっ…けほ……」
「クロード様、ご無事ですか?」
「……あ、あぁ…助かった」
「いえ、対処が遅れてしまい申し訳ありません」

マリアの手を借り立ち上がる。

「危ねぇ…地味な方法で殺されるとこだった……おい! 隠れてねえで出ててこいや!!」

俺の声に反応して、薄暗い広間の影から2人のアンデッドが姿を現す。

「急に光った…びっくりした……」
「仕留め損なったあなたがいけません」

リッチとワイトに挟まれた。

「お兄さん…タイプ……死んで僕と…一緒になろ……?」
「やなこった! 男探しならあの世でやるんだな!」
「冷たい……」

じりじりと距離を詰められる。

「クロード様」
「不利だな……だが、やるしかない!」
「なにか策が?」
「んなもんねぇよ!」
「作戦会議は終わり? なら早速…死んでもらいましょう」



リッチ・ルカが現れた!
ワイト・エリザベスが現れた!

(イメージ戦闘曲→ http://www.youtube.com/watch?v=Z8k_fgCbG1Q)



・・・・・・・・・・・・

ルカはボ〜っとしている

エリザベスは不敵な笑みを浮かべている

クロードは破光斬をはなった!
ルカは物理攻撃を受けない!
エリザベスは物理攻撃を受けない!

「チッ、やっぱダメか」
「実体のないアンデッドには魔法が有効ですが、マリアには攻撃手段がありません」
「お前はサポートを頼む。俺がなんとか削る」
「了解しました」

マリアは身を守っている

・・・・・・・・・・・・

ルカはクロードに呪い?の言葉を囁いた!

「お兄さん…死ななくてもいいから…僕と一緒になろ……?」
「断る」

しかしクロードには効かなかった

エリザベスはブラッディハウリングを唱えた!

「集え暗き炎よ 宴の客を戦慄の歌で迎えもて成せ」

異界から呪いの咆哮を響かせる!
クロードは88のダメージ!(HP312)
マリアは3のダメージ!(HP47)

クロードはサンダラを唱えた!
ルカは21のダメージ!
エリザベスは44のダメージ!
クロードの体が帯電した

マリアは身を守っている

・・・・・・・・・・・・

ルカはクロードに呪い?の言葉を囁いた!

「お兄さん…使い捨てでいいから…僕と一緒になろ……?」
「くどい!」

しかしクロードには効かなかった

エリザベスはデモンズランスを唱えた!

「黒耀の輝き 快速の槍となり生者を貫け」

召喚された魔神の槍がクロード達を貫く!
クロードは76のダメージ!(HP236)
マリアは7のダメージ!(HP40)

クロードはサンダラを唱えた!
ルカは22のダメージ!
エリザベスは45のダメージ!
クロードの体がさらに帯電した

マリアは閃光弾を放り投げた!
辺り一面を眩い光が包み込む!

「わー…眩しいー……」
「くっ…小癪な!」

ルカは怯んだ!
エリザベスは怯んだ!
敵全体の防御力が下がった!

「お、やっぱりそれ使えるじゃねえか!」
「申し訳ありません。今使用したもので最後となります」
「マジかよ……」

・・・・・・・・・・・・

ルカは怯んでいる

エリザベスは怯んでいる

クロードはサンダラを唱えた!
ルカは33のダメージ!
エリザベスは55のダメージ!
クロードの体が限界まで帯電した
クロードの防御力・属性耐性が大きく上がった!

マリアは周囲を窺っている

・・・・・・・・・・・・

ルカはドレイガを唱えた!
クロードは25のダメージ!(HP211)
ルカはクロードのHPを吸い取った!

エリザベスはヴァイオレットペインを唱えた!

「解き放たれし不穏なる異界の力 目の前に裁きを」

闇の力を呼び集めクロード達を押し潰す!
クロードは17のダメージ!(HP194)
マリアは8のダメージ!(HP32)

クロードはサンダラを唱えた!
ルカは32のダメージ!
エリザベスは58のダメージ!

マリアは周囲を窺っている

「くっそ、キリがねえぞ!?」
「………」
「マリア、どうした?」
「クロード様、あちらをご覧ください」
「うん?」

マリアの指差す方向には、か細く点滅を繰り返す電灯が。

「あれが、どうかしたのか?」
「先程ご覧になったように、アンデッドは光を極端に嫌います」
「あぁ。でもあの光量じゃ痛くも痒くもないだろうな」
「はい。ですので、クロード様がこの大広間に光を灯すのです」
「? 俺が?」

マリアの提案に首を傾げる。

「現在、この大広間には電力が通っていません。ですから……」
「……なるほど、わかったぞ。俺は『スイッチ』になればイイんだな?」
「はい」
「よし、やってみるか!」

・・・・・・・・・・・・

ルカは詠唱している

エリザベスはデモンズランスを唱えた!
クロードは14のダメージ!(HP180)
マリアは6のダメージ!(HP26)

クロードは天井に向けてサンダラを唱えた!
広間の一部の電灯に明かりが灯った!(15%点灯)

マリアは回復弾をはなった!
クロードのキズが回復した!(HP380)

・・・・・・・・・・・・

ルカはオーバーデスを唱えた!

「生を狩りし者よ 哀れなる魂を冥界へといざなえ」

死神が魂を求めクロードに襲いかかる!
マリアはクロードをかばった!
しかしマリアには効かなかった

「た、助かった」
「マリアは人形ですので、即死魔法は通用しません」

エリザベスはネガティブゲイトを唱えた!

「貪欲な暗界ここに下り 聖を打ち砕かん」

クロード達の周囲に闇の空間が広がる!
クロードは11のダメージ!(HP369)
マリアは5のダメージ!(HP21)

クロードは天井に向けてサンダラを唱えた!
広間の一部の電灯に明かりが灯った!(40%点灯)
敵の動きが鈍り始めた!

マリアは自己修復中
マリアのキズが回復した!(HP31)

クロードの体から電気が抜けた
クロードのステータスが元に戻った

・・・・・・・・・・・・

ルカは眩しそうにしている

エリザベスはブラッディハウリングを唱えた!
クロードは87のダメージ!(HP282)
マリアは9のダメージ!(HP23)

クロードは天井に向けてサンダラを唱えた!
広間の電灯に明かりが灯り始めた!(70%点灯)
敵全体のステータスが下がった!
クロードの体が帯電した

「クロード様、あと一息です」
「おう!」

マリアは自己修復中
マリアのキズが回復した!(HP33)

・・・・・・・・・・・・

ルカは眩しそうにしている

エリザベスは苦しそうにしている

クロードは天井に向けてサンダラを唱えた!
広間に存在する全ての電灯に明かりが灯った!(100%点灯)
敵全体のHPとステータスが大きく下がった!
クロードの体がさらに帯電した

マリアはサブマシンガンを掃射!
ルカは71のダメージ!
エリザベスは73のダメージ!

「敵の弱体化を確認。物理攻撃が有効です」

・・・・・・・・・・・・

クロードの攻撃!
ルカは98のダメージ!
リッチ・ルカを倒した!

マリアはスナイパーライフルで狙撃した!
エリザベスは160のダメージ!
ワイト・エリザベスを倒した!



魔物の群れを倒した!





「はぁ…はぁ…どうだ! こんちくしょー!」
「クロード様、お疲れ様です」
「おう! もうMPスッカラカンだけどな」

膝に手をつき呼吸を整える。

「新手が来ないとも限りません。早急に大統領閣下を保護しましょう」
「あぁ」

マリアは小部屋の前に立つと、躊躇いなくショットガンをぶっ放した。












「………」

恐る恐る扉を開ける。

「……うわ」

すげぇ……まさに最上級ホテルの超豪華スイートルームだ。
至るところに金、金、金。
これは『空中要塞』改め『空中豪華客船』に改名した方がイイ。

「大統領ー? いませんかー?」
「クロード様、シャワールームから音が」
「え」

ここそんな設備まであんのか。
というか大統領、この状況下でシャワーですか。
さすがっす。

「マリアがお呼びして参ります」
「あ、あぁ、頼む」

そう言うと、マリアはいそいそとシャワールームへと向かう。
どんな奴なんかなぁ。
大統領になるぐらいだ、俺の中ではドギツイ感じのイメージが強い。

「………」

俺が想像を膨らませていたそのとき。
シャワールームへの扉はマリアの到着を待たずして開き、











中から、それはそれは美しい、金髪の美女が現れた。
ほぼ、『全裸』の姿で……。












美女は俺とマリアの存在に一瞬驚くも、すぐさま平静を取り戻し、

「思っていたよりも早かったですわね」
「え?」

そんなことを言ってきた。
どうでもいいが、前を隠してほしい。
おかげで俺は顔を逸らす羽目になった。

「わたくしを救出しに来たのでしょう?」
「は、はぁ、まぁ」
「どこの派閥ですの? 良いように取り計らいますわ」
「………」

この人はたぶん、俺達を政治団体の構成員かなにかだと勘違いしているのだろう。
まぁそうか。
まさか政治とまったく関係のない第3者だとは思うまい。
対応に困る俺を見かねたのか、マリアは美女の横でスカートの裾を持ち上げ一礼する。

「失礼ですが、オルレンシア大統領閣下でお間違いないでしょうか?」
「えぇ。ロザリンティア=ファラン=オルレンシアとは、わたくしのことですわ」
「閣下、お会いできて光栄です。マリアはホノカ様の命により、あなた様を保護しに参りました」
「ホノカ…ですって?」

大統領は目を見開くと、

「あなた方は、ホノカの部下か何かですの?」
「はい」
「部下というか、ただの従業員っすけど。あ、俺クロードって言います。ども」

ホノカの名前が出ると、大統領は神妙な、どこか切なげな表情を浮かべる。

「あの子が、わたくしを助けに……」
「ホノカ様は右翼側の区画を捜索しています。閣下のご無事を確認でき次第合流する算段となっております」
「そう…なら、早くここから連れ出してくださいまし。監禁生活は新鮮でしたが、いい加減飽きてきたところですの」
「では、お召し物の準備を。マリアがお手伝いいたします」
「ありがとう。助かりますわ」

マリアと大統領は寝室へと向かう。
んー、確か大統領は、ホノカの父親に特別な感情を抱いていたはず。
愛人(自称)の娘だ、俺はてっきりもっと喜ぶものだと思っていたが……。
あの表情を見る限り、他になにか思う所があるのだろう。
この件についてはあまり触れない方がイイのかもしれない。

「………」

にしても、だ。
板長もそうだが、女は全裸になることに羞恥心を覚えないのだろうか?
もしかして、スタイルのイイ女はみんなああなのか?
………。
いや、それはないな。
偶然だ、偶然……。












左翼区画・中部。
大統領は待ち受ける魔物を強力な呪文で次々となぎ倒していく。
俺とマリアは完全に存在意義を失っている。

「だ、大統領」
「なんですの?」
「そんな強いのに、なんで誘拐なんかされたんですか?」

大統領はヤレヤレと肩をすくめる。

「わかっていませんわね。わたくしは国を治める指導者ですのよ? ここを守っているのは魔物ですが、わたくしを誘拐したのは『人間』。手出しができませんでしたの」
「?」
「クロード様。指導者という立場の者が、仮に国民を傷つけたとしましょう。すると、一体どのような事態が起こりますか?」
「どうって、そりゃ国民から反発されるだろ。国のトップがなにしてんだー!とか」
「はい。反政府組織の狙いは、まさしくそこかと」
「マリアの言う通りですわ。あの時わたくしが人間に掠り傷1つでもつけていたら、それを理由に間違いなく大統領という立場を退くことになっていたでしょうね」
「はー…なるほど」

要するに面倒な立場にいるってことか。
小難しいことは良くわからんが。

「ん? じゃぁ、なんで魔物は遠慮なく叩きのめしてるんですか?」
「わたくしの辞任を求めているのは人間だけですもの。だからわたくしがいくら魔物を痛めつけようが、人間達からは何も文句は言われませんわ。大人しく掴まっていたのも、人間に危害を加えてしまう可能性があったからですの」
「えー…どうせなら両方に優しくしましょうよ」
「失礼ですわね! わたくしだって、好きでこんなことしているわけではありませんわ!?」
「そ、そうでしたね。すんません」

やや緊張感に欠ける会話。
まぁビクビクしているよりは幾分マシか。

「クロード様、ホノカ様へのご連絡は」
「あ、そうか…忘れてた」
「どうかなさいました?」
「大統領を保護したら、何らかの方法で連絡を入れろと言われてるです。その何らかの方法っていうのが良くわからないんすけど」
「そういうことなら、わたくしにお任せくださいまし」

そう言うと、大統領は何やら詠唱を始める。
すると……

ズンッ!

「!?」
「要塞全体の大きな揺れを確認しました」
「い、今のは……?」
「小型隕石をぶつけましたの。これで合図になりまして? ダメならもっと大きな隕石を……」
「じゅ、十分です! 大統領、とにかく外へ急ぎましょう!」
「えぇ。しっかり守ってくださいな♪」
「………」

むしろ、俺が守られてる……?












「クロさん遅いっすよーノノ」

左翼区画を抜けると、ホノカが両手をブンブン振り回して俺達を誘導。
いや、連絡遅れたのにどうしてあいつの方が早いんだ?

「オルレンシア大統領、ご無事でなによりっすー。あとお久しぶりっすーノ」
「え、えぇ。助かりましたわ、ホノカ」

………。
ホノカに対する大統領の態度は、やはりどこかぎこちない。

「さー、今のうちに飛空挺で脱出するっすよー。マリアお願いっすー」
「かしこまりました」

マリアは両腕を広げる。
恐らく飛空挺を遠隔操作で呼び寄せているのだろう。
……端から見たら完全に電波少女だ。












飛空挺内ラウンジにて。
備え付けのソファーには俺と大統領の2人だけ。
マリアはブリッジで飛空挺の操縦。
ホノカはマリアから救出過程の報告を受けている。
………。
微妙に気まずい。

「クロード、と言いましたわね」
「あ、はい……って!?」

対面に座っていた大統領が立ち上がったかと思うと、突然俺の隣に腰を下ろした。

「っ……」
「? どうかなさいました?」
「い、いえ……」

情けないが、どこか萎縮している俺がいる。
忘れていた…そもそも彼女はこの国のトップだ。
普通に生活していれば、俺のような傭兵崩れが関わり合いになるなんてこと自体あり得ない。
さらに極めつけは、その見事なまでのプロポーション。
キラキラと輝きを放つ長い金髪は、見る者全てを魅了し惑わす。
あとは…色々デカい。胸やら尻やら。(←実はけっこう尻好き)
板長が『和の美人』なら、大統領は『洋の美人』。
………。
板長のおかげで美人への耐性は付いたと思ったんだけどなぁ……。

「クロード。あなたはわたくしのこと、どこまで知っていますの?」
「え?」
「リンから何か聞いているのでしょう? 隠しても無駄ですわ」
「………」

燃えるように紅い瞳が、俺の心を捉えて離さない。
……嘘は通用しないってわけですか。

「あー…大統領が…ホノカの父親の、愛人ってことくらいは」
「『自称』が抜けていましてよ?」
「え」

大統領は自嘲気味に笑う。

「滑稽ですわね。想い人を奪われた負け犬が、いつまで経っても『あの人』のことを忘れられないなんて」
「………」
「本当はもう、ホノカと関わるのは止めようと思っていましたの」
「忘れられないから、ですか」
「えぇ」

先程までの凛々しい表情から一変、彼女の瞳が悲しみの色に染まる。
………。
1つ、気になったことを聞いてみる。

「あの、質問してイイですか?」
「えぇ、どうぞ」
「あなたは何故…そんな悲しみを背負いながら、大統領なんて面倒な立場にいるんですか?」
「……!」

この男からそんな事を聞かれるとは夢にも思わなかった……大統領はそんな顔をしている。

「ふふ…鋭いですわね」
「あ、いや、無理に聞き出そうとは……」
「いいえ、別に隠しているつもりはありませんわ。ただ……」
「?」

彼女は目を閉じ考え込むと、首を横に振った。

「ごめんなさい。やっぱりこれは、わたくしの口からは言えませんわ。これは…ただの自己満足……そう、わたくしの勝手な自己満足ですの。だから、偉そうに口外することはできませんの」
「え、えっと……」

大統領は立ち上がると、

「『ロザリンティアが許した』とリンに伝えなさい。続きはあの娘が教えてくれますわ」
「………」

ツカツカとラウンジから立ち去っていく。
俺は……堪らず叫んでしまった。

「大統領!」
「?」

彼女が振り向く。

「事情は知りません。しかも俺は若い…あんたみたいに色恋沙汰もろくに経験してない、青臭いただのガキです。だから、耳障りなら聞き流してください」
「………」

お世辞にも饒舌とは言えない、俺のたどたどしい言葉。
そんな俺の言葉を、大統領は静かに聞いている。

「忘れる必要なんてない! 大切な人なんだろ!? 無理に忘れようとしたら、きっと…今よりもっと悲しくなる……だから!」

上手く伝わらないかもしれない。
だけど……どうしても伝えたかった。

「だから……忘れちゃいけない! 忘れるべきじゃないんだ! あんたは自分の過去を否定しちゃいけないんだ!!」
「!」

はぁ…はぁ……。
………。
言い終え冷静になると、とてつもない後悔に襲われた。
俺は一体なにを言ってるんだ……相手は大統領だぞ?
もしかしたら傷口に塩を塗るようなことを言ったかもしれない……。
………。
俺、やばくね……?

「クロード」
「す、すんません! ガキが生意気言ってすんませ……」
「あなたの言葉、ちゃんと伝わりましたわ」
「……へ?」
「それに……」

大統領は柔らかい笑顔を向けながら、

「そんな台詞、『恋』をしていないと言えませんわよ?」
「!?」
「怖い顔をしているだけの唐変木かと思っていましたのに…ふふ♪ やることはきっちりやっていますのね♪」
「っ……///」

顔から火が出た。
俺は……心の奥を見透かされた。

「そう思うと、なんだかあなたが可愛く見えてきましたわね♪」
「か、からかわないでください!」

優しく微笑む大統領。
俺は彼女から、何かとてつもない信念のようなものを感じた。
しかし、上手く説明できない。
………。
ただ、1つだけ確かに言えることがある。
それは、

「ふふっ♪」

彼女は、強い。
力じゃない……心が。












深夜。
大統領をブラックハウス(官僚)まで送り届けた頃には、既に日は落ちていた。
さらにヘトヘトになって帰ってきた俺は、厨房で明日の仕込みを手伝わされたあげく、先程まで露天の風呂掃除をさせられていた。
……マジで勘弁してほしい。

「あ〜……」

しかし、

「どう? 気持ちいい?」
「はい…メチャクチャ…気持ちイイっす……」

名目はわからないが、今俺は板長の私室で、

「これなら…んっ…どうかしら」
「うっ!?」
「あ、痛かった?」
「いえ…最高っす……」

板長直々にマッサージを受けている。
はぁ…極楽とはまさにこのことか。

「板長が奉仕活動なんて…どういう風の吹きまわしですか?」
「あら、あたしじゃ不満なわけ?」
「い、いや、大満足っす」
「ま、たまには労わってあげないとな〜って思っただけよ。それに、ロザリーも無事だったみたいだし……」

板長はうつ伏せ状態の俺の背中にピタリと密着すると、

「ありがとう。良く頑張ってくれたわね」
「……うっす」

耳元でらしくもない感謝の言葉を囁かれた。
………。
くっそ…なんで照れてんだ俺……。

「それで、ロザリーとは何か話した?」
「あぁ、それなんですけど……」

大統領から許可をもらったと伝えると、板長は俺の体をほぐしながらポツポツと語り始めた。





ある弁護士の男がいた。
男には妻と、3歳になる可愛い愛娘がいた。
彼らは騒がしくも、幸せな毎日を送っていた。

そんなある日、男に重大な仕事が任された。
男が弁護する顧客は、とある大企業の社長。
汚職を疑われ、もう後がないと泣きついてきたのだ。
なぜ職歴の浅い男にこんな案件がまわってきたのだろうか。
それは、状況が圧倒的に不利だったからだ。
どの弁護士も結果を覆すことは無理だと考えたのだろう。
社長は藁にもすがる想いだった。

男は状況整理をする最中、心の底であることを感じていた。
恐らく社長は、何者かによって……『ハメられた』。
社長の経歴・人柄・社内状況のどれを取っても、彼が汚職に手を染める理由が見つからない。
目先の欲に目が眩むような浅はかな人間ではない。
男は社長を全身全霊をもって守ろうと誓った。

無実の証拠を集める…これがなかなか難航した。
そして見つからない証拠に、男は不審感を抱いた。
『意図的に証拠が消されている?』
相手の背後に、強大な後ろ盾がついている可能性が浮上してきた。





「兄さんは何ヶ月も寝ずに戦った。色んな妨害に遭いながらね」
「妨害? ってことは……」
「そ。案の定相手の後ろには、たちの悪い『マフィア』の連中がいたの」
「マ、マジっすか」

修羅場なんてもんじゃない。
そんな状況、いつ殺されておかしくない。

「兄さんもヤられてばかりじゃなかった。相当危ない橋を渡ったみたいだけど」
「そ、それで…どうなったんすか?」
「あたしの兄よ? 負けるわけないじゃない!」
「か、勝ったんすか!?」

マジかっ!
勝ったことはもちろん凄いが、裁判当日まで生き残れたこと自体神業。
頭が切れるだけじゃない…かなりの手練れだ。

「ふぅ…あとは想像通りよ」
「マフィアの報復、ですか」
「えぇ。ただその裁判がキッカケで、マフィアは内側外側から崩壊していったわ」
「………」

なんつー人生送ってんだ板長の兄貴は……。

「あれ? じゃぁ、なんでホノカの両親は戻ってこないんですか?」
「今も逃げてんのよ。崩壊したと言っても、まだ残党がわんさかいる。組織を壊された腹いせに、道連れにしてやろうって輩が多いみたいね」
「お、おっかないっすね……」
「まぁ幸いなことに、連中はホノカの存在に気づいてなかった。だから兄さんはあの子をあたしに預けて、夫婦2人で世界中を逃げ回ってるってわけ。娘の存在を勘付かせないための、いわば『囮』ね」
「………」

………。
なんも言えねぇ。

「じゃ、じゃぁ、大統領がこの話を渋ったのは?」
「ロザリーが大統領になったのは、あの2人のためなの」
「? どういうことですか?」
「早い話が、『マフィアの残党を殲滅するため』。元々ロザリーは大貴族の娘だけど、それだけじゃどうにもならなかった。だから、絶大な権力を持つ大統領になるしかない…そう考えたみたいね」
「………」
「5年でかなりの人数を葬ったらしいけど、まだ殲滅には至ってないみたい。完全に汚れ役だし、恩を売っているとも思われたくない…だから、ホノカにだけは知られたくないんだって」

なるほど。
だからあの時、大統領の様子がおかしかったのか。

「ロザリーが旅館を建設したのは、ホノカが可愛いから…っていう理由も確かにあるんだけど、それよりも『迷彩』の意味合いの方が強いわね」
「迷彩?」
「仮に連中がホノカの存在に気づいたとしても、まさか逃亡中のターゲットの娘が、こんな立派な旅館の女将を堂々と務めてるなんて思わないでしょ?」
「た、確かに」

この旅館にそんな意味が……。

「ちなみにあたしはあの子のボディガード。最後の砦ってやつよ」
「そう、だったんすか」

板長は俺の背中をマッサージしながら続ける。

「あの子は色々な人に守られてる。もちろん、あんたにもね」
「別に、あいつを守ってるつもりはないですけど……」
「あんたはあの子の傍にいるだけでいいの。ゴチャゴチャ言わない」
「お、おっす」

俺の返事を聞いて満足したのか、この後板長は何も言わずにマッサージを続けてくれた。
………。
仕方ねえなぁ。
もしものときは、俺も一緒に守ってやるか。



眠りに落ちる寸前。
俺は、そう心に誓った。





〜旅館・施設紹介〜

『休業日』

不定期
客からしたらけっこう迷惑

14/01/05 16:04更新 / HERO
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■作者メッセージ
え……気づいたら2万字を超えていました@@;
1話にこんな時間をかけたのは初めてです
バトルやら両親の話やらを詰め込みすぎましたね…反省反省orz

次回から新キャラ入ります!
ではではノ

感想いただけると嬉しいですノノ

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