11品目 『かぽ〜ん』
「はぁ〜気持ちいい〜♪ 温泉なんていつ以来かしら〜?」
「リン、わたくしに感謝なさい? 本来、あなた方一般ピーポーには無縁の超高級施設……」
「っす〜」
「超高級……」
「っす〜」
「超……」
「っす〜」
「そこ! 話の腰を折るのは止めてくださいます!?」
「静かにするっす〜。せっかくの湯加減が〜台無しになるっす〜」
「んな!?」
ロザリーはザバッと湯船から上半身を露わにし、
「だ、だ、誰のおかげで、こうして高級温泉に入れると……」
「遠慮なく『あやかる』っす〜。タダ風呂満喫するっす〜」
「こ、この狸娘……!」
「ロ〜ザ〜リ〜?」
「ぐっ……わ、わかってますわ! 喧嘩は御法度、ですわね?」
「えぇ♪ せっかくの『温泉旅行』なんだから、仲良くやりましょうよ?」
「っす〜♪」
「イチカさんも! ロザリーのおかげなのは確かなんですから、あんまり失礼なこと言っちゃダメですよ?」
「っすぅ……」
リンの活躍により、事態は見事収拾へと向かう。
「はぁ……ところで、お兄ちゃんはまだかしら?」
「言われてみれば、そうですわね?」
「裸になるだけで〜一体どれだけ時間喰ってるんすかね〜」
「わざわざ旅館を貸し切ってまで『混浴』を実現させましたのに……さすがに遅すぎますわ!」
女性陣のギラついた眼光が脱衣所入り口へと集中する。
「………」
――は、入りずらい。
客室、『栗とリスの間』にて。
「ファルシロン! 何故そこまで温泉を嫌いますの!? わたくし、あなたのことをずっっっと待っていましたのよ!? おかげでのぼせてしまいましたわ!?」
「いや、あの……」
「リンとあの小賢しい狸は早々に温泉をあがりホルタウ産のキンキンに冷えた特濃ミルクを美味しそうに喉を鳴らしながら飲んでいる光景を遠目で眺めていたわたくしの気持ちがあなたには理解できまして!?」
「わ、わかっているつもりです……」
「いいえ、わかっていませんわ! わたくしに地獄のように切ない想いをさせるなんて…先っぽを挿入している状態で『おあずけ』をくらうことと同義ですわ!?」
「は、はぁ」
「コホン。本来ならば絞首刑を免れぬところですが、あなたはわたくしのフィアンセ……寛大な心で許るしてあげないこともありませんわ」
そう言うとロザリーさんは浴衣用の帯をスルリと解き、
「今はあの2人もいませんし……『子作り』するにはちょうど良いと思いますの」
「ぇえ!? そんな、いつ戻ってくるかもわからないんですよ!?」
「フフッ♪ 拒絶しないということは、OKサインと判断してもよろしくって?」
「あ、あぁいや、そういうことでもなくってですね……うわっ!?」
アタフタと戸惑う僕を、ロザリーさんは敷いてあった布団の上へと強引に押し倒す。
彼女の匂いが、吐息が、重みが、直に僕の体へと伝わってくる。
「んくっ」
ゴクリと生唾を飲み込む。
「緊張する必要はありませんわ。わたくしに全てを委ねるのです」
「ロ、ロザリーさん? この前、もう少し様子を見る…ようなこと言ってませんでしたっけ?」
「確かに言いましたわね」
「それじゃ……」
「状況が変わりましたの」
彼女は僕の腹上でマウントポジションをとり、その大きな双瓜を両腕で持ち上げる。
トップは浴衣に隠れておりギリギリで見えない。
「ホテルでの一件は何とか誤魔化しましたわ。でも……」
「でも?」
「お母様にバレてしまいましたの」
「な、なんと……」
ロザリーさんは困ったような表情で、
「お母様に嘘はつけませんわ……」
「それで、大丈夫だったんですか?」
「お父様に知られていないことが不幸中の幸いでしたわね。お母様も、わたくしの意思を尊重してくださると」
「良かったじゃないですか……あれ? じゃぁ、どうして僕を押し倒しているんですか?」
彼女はニヤリと笑い、
「1度でもわたくしに抱かれれば、あなたは嫌でもわたくしを意識せざるを得ませんわ♪」
「結局強行手段じゃないですか!?」
「お黙りなさい! さあ、早くあなたの逞しい『馬並』をわたくしに……!」
「や、止めてください! や、やめ…止めるっすーーー」
「……は?」
「あ」
ドロンッ!
「………」
「………」
ロザリーがマウントしていたのは、ファルシロンに変化したイチカだった。
「ねぇお兄ちゃん」
「ん、なに?」
「ロザリーとイチカさん、どこに行ったか知ってる?」
「あぁ、たぶん部屋じゃないかな? でも店長がしばらく戻ってくるなって」
「ふ〜ん? 2人で何か話してるのかしら」
「喧嘩してないことを祈るよ……」
以上、土産屋での兄妹の会話より一部抜粋。
「タ、タヌタヌ!?」
「っすー」
一目散にイチカから離れるロザリー。
「い、いつですの!? いつファルシロンと入れ替わりましたの!?」
(少なくとも部屋に連れ込んだ後に入れ替わったということはないはず!)
「おかしなことを言うっすねー? 入れ替わる時間なんてーなかったじゃないっすかー」
「と、いうことは……」
ロザリーの顔は真っ青に。
「温泉から上がったわたくしが手を引いたファルシロンは、既に……」
イチカがニヤリ。
「で、ではホテルの…ホテルでの出来事を、なぜ狸が知っていますの!?」
「はてーなんのことっすかー?」
「くっ…!」
――謀られましたわ!
「まさか、『様子を見る』とわたくしに言ったのも……」
「カマかけっすー」
イチカの目的。
それは、
「そうまでしてホテルの一件を知ろうと!?」
「情報の力は絶対っすー。お嬢様もそれはわかってるはずっすー」
依然睨みあう2人。
「お兄ちゃん、お母さんにコレなんてどうかしら?」
「うん、イイんじゃないかな。母さんが好きそうだ」
「というかお母さん、食べられるものなら何でも好きそうよね」
「あ〜確かに。良く食べるしね」
「そのくせ太らないとか……お母さんがほんと羨ましいわ」
「リンもたくさん食べる割には太らないじゃないか?」
「あたしは気をつけてるの! お母さんみたいに都合のイイ体じゃないのよ!」
「あぁそっか。ごめん」
「もう……それじゃぁ、お土産はコレでいいわよね?」
「うん、そうだね」
以上、土産屋での兄妹の会話より一部抜粋。
「狸の血は何色ですの!?」
「生憎ーお嬢様に吸わせる血はー1滴も持ち合わせていないっすー」
「誰も狸の血なんて吸いませんわ! 口に含んだ瞬間吐き捨ててやりますわ!」
「10CCにつき1万エルいただくっすー」
「高っ!?」
「お土産も買ったし、この後どうしようか?」
「そうねぇ…せっかくだから、もう1度お風呂に行かない? お兄ちゃん結局入れずじまいでしょ?」
「あ〜うん、そうだね。どうしよかな……」
「ツベコベ言わずに行くわよ! あたしが色々とキレイにしてあげる!」
「ぇえ!? ちょっと!?」
以上、土産屋での兄妹の会話より一部抜粋。
「はぁ…はぁ……消えたり現れたり…本当に小賢しい狸ですわね!?」
「ふぅ…うちの血は高いっすからー」
「だから興味ありませんわ!」
「まーそんなことより、このまま争ってもー埒があかないっすー」
「フン、そうですわね。誰かが逃げ回ってばかりいるせいですわ」
「ここは公平に、『アレ』で勝負するっすー」
「? アレ、ですの?」
「い、意外と大きいわね、お兄ちゃん……」
「まぁ、男だからね」
「そっか、そうよね」
「ほら、キレイにしてくれるんじゃないの?」
「わ、わかってるわよ!」
「………」
「んっ…んん!」
「っ……」
「ど、どう? 気持ちいい?」
「うん、凄く気持ちいいよ……リン、こういうの上手いんだね」
「っ……!? う、うるさいわよ馬鹿!!」
「い、痛っ!? リン、強すぎ……」
「黙っててよ! けっこう力使うんだから! ただでさえ大きいのに……お兄ちゃんの背中」
「あ、疲れたら無理しなくてイイよ? あとは自分でできるから」
「馬鹿! 最後までやるわよ!? ほら、ジッとする!!」
「はいはい」
以上、温泉での兄妹の会話より一部抜粋。
「喰らいなさい!」
「ほっ」
「今度は2連射ですわ!」
「よっ、せいっ」
「5連射!!」
「させないっすー」
「フン! 見え見えですわ!」
「甘いっすー」
「なっ…変化球!?」
「避けきれるっすかー?」
「なんのこれしき……!」
狸と吸血鬼の『ガチ枕投げ』、絶賛修羅場中。
「……プハーッ! やっぱりお風呂上がりは、ホルタウ産の特濃ミルクよね!」
「うん、ほんとに美味しいね。というかリン、今日2杯目じゃないのか? お腹大丈夫?」
「全然平気よ! 問題ないわ!」
「その辺は母さんにソックリだよ」
お風呂は格別に気持ち良かった。
だがしかし……妹と混浴したなんて絶対に公言できない。
もちろん、リンはちゃんとタオルを体に巻いていた。
……当然だ。
「そういえばあの2人、大丈夫かしら」
「うん、僕も気になってた」
若干早足で部屋(栗とリスの間)に戻る。
「………」
部屋の前に到着すると、リンは扉に耳を当てる。
「リン、何か聞こえる?」
「ううん、なにも」
「寝てるのかな?」
「う〜ん、どうかしら。とりあえず入ってみましょ」
スライド式の扉をゆっくりと開ける。
すると……
「「うわ……」」
部屋中が枕だらけに。
そしてその枕の山に埋もれている物体が2つ。
「喧嘩、してたの…かしら?」
「枕投げで? う〜ん…どうだろう」
「と、とりあえず助けないと! お兄ちゃん手伝って!」
「あ、あぁ」
「「………」」
「ぐっすり眠ってるね」
「えぇ。相当激しい戦いだったみたいね」
枕に埋もれた2人を救出した後、僕とリンは部屋に散らばった枕を片づる作業に追われた。
一体どれだけ投げ合ったのか想像もつかない。
「勘だけど、店長が吹っ掛けたような気がする」
「あ、かもしれないわね」
片づけに疲れた僕達は、そのまま布団を敷いて眠ることに。
「1泊だけじゃなくて、しばらくここで過ごしたかったわ」
「無理言って貸し切りにしてもらってるんだし、仕方ないよ」
「はぁ……」
すると、隣の布団で横になるリンがこちらに手を伸ばしてきた。
「また、みんなで来られるわよね?」
「うん……きっと」
「……そっか」
リンは僕の手を握りながら、静かに寝息を立て始めた。
「………」
幸せの形は、人それぞれだと思う。
店長の幸せ、ロザリーさんの幸せ、リンの幸せ……みんな違った幸せを望んでいる。
僕の幸せは、そうだな……。
今こうして皆と一緒に眠れること、かな―――――
〜店長のオススメ!〜
『ホルタウ産特濃ミルク』
ホルスタウロス搾りたての超特濃ミルク
そのまま飲んでもよし、料理に使用してもよし
ローション代わりにぶっかけてもよし
なんにでも使えます
価格→1ℓ500エル
「リン、わたくしに感謝なさい? 本来、あなた方一般ピーポーには無縁の超高級施設……」
「っす〜」
「超高級……」
「っす〜」
「超……」
「っす〜」
「そこ! 話の腰を折るのは止めてくださいます!?」
「静かにするっす〜。せっかくの湯加減が〜台無しになるっす〜」
「んな!?」
ロザリーはザバッと湯船から上半身を露わにし、
「だ、だ、誰のおかげで、こうして高級温泉に入れると……」
「遠慮なく『あやかる』っす〜。タダ風呂満喫するっす〜」
「こ、この狸娘……!」
「ロ〜ザ〜リ〜?」
「ぐっ……わ、わかってますわ! 喧嘩は御法度、ですわね?」
「えぇ♪ せっかくの『温泉旅行』なんだから、仲良くやりましょうよ?」
「っす〜♪」
「イチカさんも! ロザリーのおかげなのは確かなんですから、あんまり失礼なこと言っちゃダメですよ?」
「っすぅ……」
リンの活躍により、事態は見事収拾へと向かう。
「はぁ……ところで、お兄ちゃんはまだかしら?」
「言われてみれば、そうですわね?」
「裸になるだけで〜一体どれだけ時間喰ってるんすかね〜」
「わざわざ旅館を貸し切ってまで『混浴』を実現させましたのに……さすがに遅すぎますわ!」
女性陣のギラついた眼光が脱衣所入り口へと集中する。
「………」
――は、入りずらい。
客室、『栗とリスの間』にて。
「ファルシロン! 何故そこまで温泉を嫌いますの!? わたくし、あなたのことをずっっっと待っていましたのよ!? おかげでのぼせてしまいましたわ!?」
「いや、あの……」
「リンとあの小賢しい狸は早々に温泉をあがりホルタウ産のキンキンに冷えた特濃ミルクを美味しそうに喉を鳴らしながら飲んでいる光景を遠目で眺めていたわたくしの気持ちがあなたには理解できまして!?」
「わ、わかっているつもりです……」
「いいえ、わかっていませんわ! わたくしに地獄のように切ない想いをさせるなんて…先っぽを挿入している状態で『おあずけ』をくらうことと同義ですわ!?」
「は、はぁ」
「コホン。本来ならば絞首刑を免れぬところですが、あなたはわたくしのフィアンセ……寛大な心で許るしてあげないこともありませんわ」
そう言うとロザリーさんは浴衣用の帯をスルリと解き、
「今はあの2人もいませんし……『子作り』するにはちょうど良いと思いますの」
「ぇえ!? そんな、いつ戻ってくるかもわからないんですよ!?」
「フフッ♪ 拒絶しないということは、OKサインと判断してもよろしくって?」
「あ、あぁいや、そういうことでもなくってですね……うわっ!?」
アタフタと戸惑う僕を、ロザリーさんは敷いてあった布団の上へと強引に押し倒す。
彼女の匂いが、吐息が、重みが、直に僕の体へと伝わってくる。
「んくっ」
ゴクリと生唾を飲み込む。
「緊張する必要はありませんわ。わたくしに全てを委ねるのです」
「ロ、ロザリーさん? この前、もう少し様子を見る…ようなこと言ってませんでしたっけ?」
「確かに言いましたわね」
「それじゃ……」
「状況が変わりましたの」
彼女は僕の腹上でマウントポジションをとり、その大きな双瓜を両腕で持ち上げる。
トップは浴衣に隠れておりギリギリで見えない。
「ホテルでの一件は何とか誤魔化しましたわ。でも……」
「でも?」
「お母様にバレてしまいましたの」
「な、なんと……」
ロザリーさんは困ったような表情で、
「お母様に嘘はつけませんわ……」
「それで、大丈夫だったんですか?」
「お父様に知られていないことが不幸中の幸いでしたわね。お母様も、わたくしの意思を尊重してくださると」
「良かったじゃないですか……あれ? じゃぁ、どうして僕を押し倒しているんですか?」
彼女はニヤリと笑い、
「1度でもわたくしに抱かれれば、あなたは嫌でもわたくしを意識せざるを得ませんわ♪」
「結局強行手段じゃないですか!?」
「お黙りなさい! さあ、早くあなたの逞しい『馬並』をわたくしに……!」
「や、止めてください! や、やめ…止めるっすーーー」
「……は?」
「あ」
ドロンッ!
「………」
「………」
ロザリーがマウントしていたのは、ファルシロンに変化したイチカだった。
「ねぇお兄ちゃん」
「ん、なに?」
「ロザリーとイチカさん、どこに行ったか知ってる?」
「あぁ、たぶん部屋じゃないかな? でも店長がしばらく戻ってくるなって」
「ふ〜ん? 2人で何か話してるのかしら」
「喧嘩してないことを祈るよ……」
以上、土産屋での兄妹の会話より一部抜粋。
「タ、タヌタヌ!?」
「っすー」
一目散にイチカから離れるロザリー。
「い、いつですの!? いつファルシロンと入れ替わりましたの!?」
(少なくとも部屋に連れ込んだ後に入れ替わったということはないはず!)
「おかしなことを言うっすねー? 入れ替わる時間なんてーなかったじゃないっすかー」
「と、いうことは……」
ロザリーの顔は真っ青に。
「温泉から上がったわたくしが手を引いたファルシロンは、既に……」
イチカがニヤリ。
「で、ではホテルの…ホテルでの出来事を、なぜ狸が知っていますの!?」
「はてーなんのことっすかー?」
「くっ…!」
――謀られましたわ!
「まさか、『様子を見る』とわたくしに言ったのも……」
「カマかけっすー」
イチカの目的。
それは、
「そうまでしてホテルの一件を知ろうと!?」
「情報の力は絶対っすー。お嬢様もそれはわかってるはずっすー」
依然睨みあう2人。
「お兄ちゃん、お母さんにコレなんてどうかしら?」
「うん、イイんじゃないかな。母さんが好きそうだ」
「というかお母さん、食べられるものなら何でも好きそうよね」
「あ〜確かに。良く食べるしね」
「そのくせ太らないとか……お母さんがほんと羨ましいわ」
「リンもたくさん食べる割には太らないじゃないか?」
「あたしは気をつけてるの! お母さんみたいに都合のイイ体じゃないのよ!」
「あぁそっか。ごめん」
「もう……それじゃぁ、お土産はコレでいいわよね?」
「うん、そうだね」
以上、土産屋での兄妹の会話より一部抜粋。
「狸の血は何色ですの!?」
「生憎ーお嬢様に吸わせる血はー1滴も持ち合わせていないっすー」
「誰も狸の血なんて吸いませんわ! 口に含んだ瞬間吐き捨ててやりますわ!」
「10CCにつき1万エルいただくっすー」
「高っ!?」
「お土産も買ったし、この後どうしようか?」
「そうねぇ…せっかくだから、もう1度お風呂に行かない? お兄ちゃん結局入れずじまいでしょ?」
「あ〜うん、そうだね。どうしよかな……」
「ツベコベ言わずに行くわよ! あたしが色々とキレイにしてあげる!」
「ぇえ!? ちょっと!?」
以上、土産屋での兄妹の会話より一部抜粋。
「はぁ…はぁ……消えたり現れたり…本当に小賢しい狸ですわね!?」
「ふぅ…うちの血は高いっすからー」
「だから興味ありませんわ!」
「まーそんなことより、このまま争ってもー埒があかないっすー」
「フン、そうですわね。誰かが逃げ回ってばかりいるせいですわ」
「ここは公平に、『アレ』で勝負するっすー」
「? アレ、ですの?」
「い、意外と大きいわね、お兄ちゃん……」
「まぁ、男だからね」
「そっか、そうよね」
「ほら、キレイにしてくれるんじゃないの?」
「わ、わかってるわよ!」
「………」
「んっ…んん!」
「っ……」
「ど、どう? 気持ちいい?」
「うん、凄く気持ちいいよ……リン、こういうの上手いんだね」
「っ……!? う、うるさいわよ馬鹿!!」
「い、痛っ!? リン、強すぎ……」
「黙っててよ! けっこう力使うんだから! ただでさえ大きいのに……お兄ちゃんの背中」
「あ、疲れたら無理しなくてイイよ? あとは自分でできるから」
「馬鹿! 最後までやるわよ!? ほら、ジッとする!!」
「はいはい」
以上、温泉での兄妹の会話より一部抜粋。
「喰らいなさい!」
「ほっ」
「今度は2連射ですわ!」
「よっ、せいっ」
「5連射!!」
「させないっすー」
「フン! 見え見えですわ!」
「甘いっすー」
「なっ…変化球!?」
「避けきれるっすかー?」
「なんのこれしき……!」
狸と吸血鬼の『ガチ枕投げ』、絶賛修羅場中。
「……プハーッ! やっぱりお風呂上がりは、ホルタウ産の特濃ミルクよね!」
「うん、ほんとに美味しいね。というかリン、今日2杯目じゃないのか? お腹大丈夫?」
「全然平気よ! 問題ないわ!」
「その辺は母さんにソックリだよ」
お風呂は格別に気持ち良かった。
だがしかし……妹と混浴したなんて絶対に公言できない。
もちろん、リンはちゃんとタオルを体に巻いていた。
……当然だ。
「そういえばあの2人、大丈夫かしら」
「うん、僕も気になってた」
若干早足で部屋(栗とリスの間)に戻る。
「………」
部屋の前に到着すると、リンは扉に耳を当てる。
「リン、何か聞こえる?」
「ううん、なにも」
「寝てるのかな?」
「う〜ん、どうかしら。とりあえず入ってみましょ」
スライド式の扉をゆっくりと開ける。
すると……
「「うわ……」」
部屋中が枕だらけに。
そしてその枕の山に埋もれている物体が2つ。
「喧嘩、してたの…かしら?」
「枕投げで? う〜ん…どうだろう」
「と、とりあえず助けないと! お兄ちゃん手伝って!」
「あ、あぁ」
「「………」」
「ぐっすり眠ってるね」
「えぇ。相当激しい戦いだったみたいね」
枕に埋もれた2人を救出した後、僕とリンは部屋に散らばった枕を片づる作業に追われた。
一体どれだけ投げ合ったのか想像もつかない。
「勘だけど、店長が吹っ掛けたような気がする」
「あ、かもしれないわね」
片づけに疲れた僕達は、そのまま布団を敷いて眠ることに。
「1泊だけじゃなくて、しばらくここで過ごしたかったわ」
「無理言って貸し切りにしてもらってるんだし、仕方ないよ」
「はぁ……」
すると、隣の布団で横になるリンがこちらに手を伸ばしてきた。
「また、みんなで来られるわよね?」
「うん……きっと」
「……そっか」
リンは僕の手を握りながら、静かに寝息を立て始めた。
「………」
幸せの形は、人それぞれだと思う。
店長の幸せ、ロザリーさんの幸せ、リンの幸せ……みんな違った幸せを望んでいる。
僕の幸せは、そうだな……。
今こうして皆と一緒に眠れること、かな―――――
〜店長のオススメ!〜
『ホルタウ産特濃ミルク』
ホルスタウロス搾りたての超特濃ミルク
そのまま飲んでもよし、料理に使用してもよし
ローション代わりにぶっかけてもよし
なんにでも使えます
価格→1ℓ500エル
12/08/26 21:29更新 / HERO
戻る
次へ