休日のおつかい・序/ユニコーン
「ここに来るのも何度目だろうな…」
今日は仕事もなく、珍しく休日となった。
マリー大佐の一件もあり、見かねた上層部が休みをくれたのだろう。
マリー大佐の釈放を不審には思ってはいるだろうが。
今日は久しぶりにユニ博士の元を訪ねてみる事にした。
別に黒旋谷へ行ってミロクと遊んでもいいのだが、それは仕事終わりでも出来る。
なので、用がある時以外は行かないユニ博士の所へ行くことにした。
見えてきた木造の小屋。
大自然の中の診療所、兼研究所だ。
扉をノックし、返事を待った。
勢い良く扉が空いて出迎えてくれたのは、
「おお、スヴァルじゃないか!さ、あがってあがって」
「久しぶりだな、アサギリ」
白衣に眼鏡、頭にはいつも決まって寝癖がついている俺の友人、『アサギリ=レイヤード』であった。
「珍しいじゃないか?こんな時間に来るなんて。
どういう風の吹き回しなんだい?」
「今日は休みでな。気まぐれに来てみたという訳だ」
「ほうほう、そりゃ好都合―――」
「……何が好都合なんだ?」
「あ、……ああ!まあその、取り敢えずウチの奥さんにも挨拶してきたら?
今は右奥の部屋にいるよ」
「? そうするが……」
「うん、行ってきて、ほらほら」
背中を押されながらその部屋へ入る。
「あら、部屋へ入る時にはノックを―――あらあら!スヴァルさんじゃありませんか!お久し振りね」
「どうも、ご機嫌はいかがです?博士」
「心身共にばっちりですよ?お医者さんですしね」
『ユニ=ナイア=クイーン』というのが彼女の名前だ。
職業は医者、別名【白馬の天使】と呼ばれた(らしいのだがアサギリが話を盛った可能性もあるため本当かどうかは分からない)。
「じゃ、僕はこれで……ごめんよスヴァル!」
アサギリは逃げる様に姿を消した。
「もう……ダーリンったら都合が悪いとすぐ逃げるんだから、困ったものだわ」
「? 都合が悪い?」
「ええ、実は頼み事をしようと思ったのだけれど、スヴァルさんが来たからまあいいわ。
ダーリンの代わりに、私の頼み事を聞いてくれないかしら?」
ああ、なるほどね。
俺は犠牲になった訳か。
「まぁ、いいですけど……」
「とても助かるわ、ありがとう!
スヴァルさんはダーリンより頼りになるわ」
「あはは……アサギリの奴にまんまとはめられましたがね」
「さっそく本題に入らせて貰うわ。
私のお願いは、材料を調達してほしいの。
あ、任務が重なったらその最中でもいいわ、なるべく多く採ってきてほしいの。
期限はないけど、出来れば早めに」
ユニ博士からは次の材料を指定された。
・ワーシープの柔らかい羊毛
・ノームの肥えた土
・ドラゴンの宝石
・ヴァンパイアの赤ワイン
・マンドラゴラの根
・カラステングの羽根
――――以上の6つ。
「ユニ博士、ドラゴンの宝石というのは?」
「ああ、それはね……。
蒼く透き通る色をした宝石らしいんだけど、名前があるのよ。確か――」
なんだっけなぁ……と思い出すのに数十秒、ユニ博士が告げた。
「そうそう、『竜の涙』とかだったかしら?ダーリンが欲しがっていたのよね」
「『竜の涙』……ですか。それと、ヴァンパイアの赤ワインは?」
「これはね、私にも良く分からないの。
だけど、噂によるとまろやかな味わいが楽しめるワインらしくて…、一度飲んでみたいなんて。
ほぼ、私のワガママなんだけどね」
それってただ飲みたいだけなのでは。
「―――まぁ、分かりました。一応引き受けましょう」
「ええ、お願いするわ」
「しかし……6つですか。数が意外に多いですね」
「うふふ、医学者や研究者には沢山の時間と材料と閃きが必要なんですよ〜?
それより、私が考えた『変装キット』いかがだったかしら?」
『変装キット』作ったのはアサギリだが、原案はユニ博士らしい。
「ええ、とても活用出来る発明でした。
素晴らしいアイディアでしたよ」
「あら、それはなにより。
思いつきでダーリンに作らせてみたのだけれど、私も案外才能あるのかしらね」
「そうかもしれません」
ユニ博士らしいアイディアは新作開発に役立っている。
「アップデートで女装が出来るようにお願いしようかしら」
「……え、俺が着るんですか?」
「スヴァルさん以外に着る人はいないでしょう?
ま、それは置いといて…」
「いや、置いちゃ駄目でしょ」
「ちゃんと消費したものは補給しておきなさいな。
いざというとき困りますからね」
ユニ博士は優しく微笑んだ。
【白馬の天使】というのも案外間違いでは無いのかもしれない。
そんな事を思いながらユニ博士の部屋を後にし、研究室へと向かった。
「おっ、おかえり」
アサギリはけろっとした顔で机に向かって筆を走らせていた。
「あのなぁ……俺に丸投げせずに無理ならちゃんと断れば良いじゃないか」
「それはそうなんだが、あいにく研究者は暇が無くてね……任せてすまないと思ってはいる」
アサギリは熱心に筆を走らせている。
「支給品を補充しに来たんだ、いいよな?」
「ああ、構わないよ」
アサギリはこっちを見向きもせずに、筆を走らせ(以下略)
熱心に何を描いているのかとこっそり覗くと、
数式と図形が折り重なり、異様な雰囲気を感じ取れる。
「一体何を描いているんだ?」
「これか?これはまだ設計段階だから何とも言えない」
「そうなのか」
「最初は『これは完璧だ!すぐ作るべき』と張り切るんだが…。
やはりいざ作ろうとすると色々問題がある事が必ず確実絶対100%ある。
発明は根気と閃きと試行錯誤の繰り返しだ」
「作っては直し、作っては直し……か」
「完成して、やっとホッとする訳だけど、閃きが劣化しないうちに次に行く必要がある」
「科学者は面倒だな」
俺の呟きを聞いてアサギリは、ははは…、と力無く笑った。
「そうかもしれないな。
あ、それより新しく開発してる物があるんだけど…見るかい?」
急にどや顔でこちらに返してきたのでイラっとしたが、一応見てみる事にした。
「さて、まず予定しているのは…」
アサギリは企画書を複数枚手渡してきた。
「『性欲抑制ゼリー』と名付けたよ。
ゼリーに性欲抑制コラーゲンを練り込んで固めて、パックに詰めた事で携帯が可能になったんだ」
ホワイトボードを引っ張り出して、図で説明し始めた。
「『性欲抑制チョコレート』と『それ』ではどう違うんだ?」
「『性欲抑制チョコレート』は一応嗜好品でもあるんだ。
今回の『性欲抑制ゼリー』は性欲抑制コラーゲン以外にもミネラルやビタミンを練り込んであるから、エネルギーを補給するのに適しているよ。
売り出すとしてキャッチコピーは……【エネルギー5リットルチャージ!】って感じかな」
「いや、売り出さないだろ。つーか単位リットルなのかよ」
「次にこれだ」
パラッとまた企画書を差し出してきたので目を通した。
「『鎖ノ手錠【チェーンワッパー】バージョン1.02』だ」
「バージョン1.02……?」
「そう……今までは敵に巻き付け自由を奪い捕縛するだけの物だった。
そして、今回は別の何かに使えないかと思ってね。
改良をした結果、新たに『双鎌』と『爪』が付け替える事が可能になったんだ。
『鎖ノ鎌【チェーン・サイスズ】』と『鎖ノ爪【チェーンクロウ】』って訳だね」
「主な使い道は?俺があまり戦闘を好まないのは知っているだろ?」
「別に戦闘だけに使えと言っている訳じゃない。
これは岩壁を登ったり、上手く使えば遠くに引っ掛けられる」
そして、机の引き出しから取り出したのはその『鎖ノ手錠【チェーンワッパー】』だった。
それとは別に、銀の箱からパーツらしき物を取り出した。
「これがアタッチメントだ。
試しに付け替えたり、機能を確かめてみてくれ」
その時、不意に閃いた。
機能を確かめるなら、実際に使って製作者に見せた方が良い筈だ。
「―――なら、早速外に行こうじゃないか。試すには丁度タイミングがいい」
「え?」
「行くぞアサギリ助手。
ユニ博士の頼まれ物―――まずはマンドラゴラだ」
アサギリの手を掴み、無理矢理引きずる。
「わ、わわっ……!スヴァル、僕は行かないって!おい!
その手を離してくれ…!頼むから!離して……離し…アッー!」
新機能に胸を踊らせ、俺達は素材集めに向かった―――(続く)
今日は仕事もなく、珍しく休日となった。
マリー大佐の一件もあり、見かねた上層部が休みをくれたのだろう。
マリー大佐の釈放を不審には思ってはいるだろうが。
今日は久しぶりにユニ博士の元を訪ねてみる事にした。
別に黒旋谷へ行ってミロクと遊んでもいいのだが、それは仕事終わりでも出来る。
なので、用がある時以外は行かないユニ博士の所へ行くことにした。
見えてきた木造の小屋。
大自然の中の診療所、兼研究所だ。
扉をノックし、返事を待った。
勢い良く扉が空いて出迎えてくれたのは、
「おお、スヴァルじゃないか!さ、あがってあがって」
「久しぶりだな、アサギリ」
白衣に眼鏡、頭にはいつも決まって寝癖がついている俺の友人、『アサギリ=レイヤード』であった。
「珍しいじゃないか?こんな時間に来るなんて。
どういう風の吹き回しなんだい?」
「今日は休みでな。気まぐれに来てみたという訳だ」
「ほうほう、そりゃ好都合―――」
「……何が好都合なんだ?」
「あ、……ああ!まあその、取り敢えずウチの奥さんにも挨拶してきたら?
今は右奥の部屋にいるよ」
「? そうするが……」
「うん、行ってきて、ほらほら」
背中を押されながらその部屋へ入る。
「あら、部屋へ入る時にはノックを―――あらあら!スヴァルさんじゃありませんか!お久し振りね」
「どうも、ご機嫌はいかがです?博士」
「心身共にばっちりですよ?お医者さんですしね」
『ユニ=ナイア=クイーン』というのが彼女の名前だ。
職業は医者、別名【白馬の天使】と呼ばれた(らしいのだがアサギリが話を盛った可能性もあるため本当かどうかは分からない)。
「じゃ、僕はこれで……ごめんよスヴァル!」
アサギリは逃げる様に姿を消した。
「もう……ダーリンったら都合が悪いとすぐ逃げるんだから、困ったものだわ」
「? 都合が悪い?」
「ええ、実は頼み事をしようと思ったのだけれど、スヴァルさんが来たからまあいいわ。
ダーリンの代わりに、私の頼み事を聞いてくれないかしら?」
ああ、なるほどね。
俺は犠牲になった訳か。
「まぁ、いいですけど……」
「とても助かるわ、ありがとう!
スヴァルさんはダーリンより頼りになるわ」
「あはは……アサギリの奴にまんまとはめられましたがね」
「さっそく本題に入らせて貰うわ。
私のお願いは、材料を調達してほしいの。
あ、任務が重なったらその最中でもいいわ、なるべく多く採ってきてほしいの。
期限はないけど、出来れば早めに」
ユニ博士からは次の材料を指定された。
・ワーシープの柔らかい羊毛
・ノームの肥えた土
・ドラゴンの宝石
・ヴァンパイアの赤ワイン
・マンドラゴラの根
・カラステングの羽根
――――以上の6つ。
「ユニ博士、ドラゴンの宝石というのは?」
「ああ、それはね……。
蒼く透き通る色をした宝石らしいんだけど、名前があるのよ。確か――」
なんだっけなぁ……と思い出すのに数十秒、ユニ博士が告げた。
「そうそう、『竜の涙』とかだったかしら?ダーリンが欲しがっていたのよね」
「『竜の涙』……ですか。それと、ヴァンパイアの赤ワインは?」
「これはね、私にも良く分からないの。
だけど、噂によるとまろやかな味わいが楽しめるワインらしくて…、一度飲んでみたいなんて。
ほぼ、私のワガママなんだけどね」
それってただ飲みたいだけなのでは。
「―――まぁ、分かりました。一応引き受けましょう」
「ええ、お願いするわ」
「しかし……6つですか。数が意外に多いですね」
「うふふ、医学者や研究者には沢山の時間と材料と閃きが必要なんですよ〜?
それより、私が考えた『変装キット』いかがだったかしら?」
『変装キット』作ったのはアサギリだが、原案はユニ博士らしい。
「ええ、とても活用出来る発明でした。
素晴らしいアイディアでしたよ」
「あら、それはなにより。
思いつきでダーリンに作らせてみたのだけれど、私も案外才能あるのかしらね」
「そうかもしれません」
ユニ博士らしいアイディアは新作開発に役立っている。
「アップデートで女装が出来るようにお願いしようかしら」
「……え、俺が着るんですか?」
「スヴァルさん以外に着る人はいないでしょう?
ま、それは置いといて…」
「いや、置いちゃ駄目でしょ」
「ちゃんと消費したものは補給しておきなさいな。
いざというとき困りますからね」
ユニ博士は優しく微笑んだ。
【白馬の天使】というのも案外間違いでは無いのかもしれない。
そんな事を思いながらユニ博士の部屋を後にし、研究室へと向かった。
「おっ、おかえり」
アサギリはけろっとした顔で机に向かって筆を走らせていた。
「あのなぁ……俺に丸投げせずに無理ならちゃんと断れば良いじゃないか」
「それはそうなんだが、あいにく研究者は暇が無くてね……任せてすまないと思ってはいる」
アサギリは熱心に筆を走らせている。
「支給品を補充しに来たんだ、いいよな?」
「ああ、構わないよ」
アサギリはこっちを見向きもせずに、筆を走らせ(以下略)
熱心に何を描いているのかとこっそり覗くと、
数式と図形が折り重なり、異様な雰囲気を感じ取れる。
「一体何を描いているんだ?」
「これか?これはまだ設計段階だから何とも言えない」
「そうなのか」
「最初は『これは完璧だ!すぐ作るべき』と張り切るんだが…。
やはりいざ作ろうとすると色々問題がある事が必ず確実絶対100%ある。
発明は根気と閃きと試行錯誤の繰り返しだ」
「作っては直し、作っては直し……か」
「完成して、やっとホッとする訳だけど、閃きが劣化しないうちに次に行く必要がある」
「科学者は面倒だな」
俺の呟きを聞いてアサギリは、ははは…、と力無く笑った。
「そうかもしれないな。
あ、それより新しく開発してる物があるんだけど…見るかい?」
急にどや顔でこちらに返してきたのでイラっとしたが、一応見てみる事にした。
「さて、まず予定しているのは…」
アサギリは企画書を複数枚手渡してきた。
「『性欲抑制ゼリー』と名付けたよ。
ゼリーに性欲抑制コラーゲンを練り込んで固めて、パックに詰めた事で携帯が可能になったんだ」
ホワイトボードを引っ張り出して、図で説明し始めた。
「『性欲抑制チョコレート』と『それ』ではどう違うんだ?」
「『性欲抑制チョコレート』は一応嗜好品でもあるんだ。
今回の『性欲抑制ゼリー』は性欲抑制コラーゲン以外にもミネラルやビタミンを練り込んであるから、エネルギーを補給するのに適しているよ。
売り出すとしてキャッチコピーは……【エネルギー5リットルチャージ!】って感じかな」
「いや、売り出さないだろ。つーか単位リットルなのかよ」
「次にこれだ」
パラッとまた企画書を差し出してきたので目を通した。
「『鎖ノ手錠【チェーンワッパー】バージョン1.02』だ」
「バージョン1.02……?」
「そう……今までは敵に巻き付け自由を奪い捕縛するだけの物だった。
そして、今回は別の何かに使えないかと思ってね。
改良をした結果、新たに『双鎌』と『爪』が付け替える事が可能になったんだ。
『鎖ノ鎌【チェーン・サイスズ】』と『鎖ノ爪【チェーンクロウ】』って訳だね」
「主な使い道は?俺があまり戦闘を好まないのは知っているだろ?」
「別に戦闘だけに使えと言っている訳じゃない。
これは岩壁を登ったり、上手く使えば遠くに引っ掛けられる」
そして、机の引き出しから取り出したのはその『鎖ノ手錠【チェーンワッパー】』だった。
それとは別に、銀の箱からパーツらしき物を取り出した。
「これがアタッチメントだ。
試しに付け替えたり、機能を確かめてみてくれ」
その時、不意に閃いた。
機能を確かめるなら、実際に使って製作者に見せた方が良い筈だ。
「―――なら、早速外に行こうじゃないか。試すには丁度タイミングがいい」
「え?」
「行くぞアサギリ助手。
ユニ博士の頼まれ物―――まずはマンドラゴラだ」
アサギリの手を掴み、無理矢理引きずる。
「わ、わわっ……!スヴァル、僕は行かないって!おい!
その手を離してくれ…!頼むから!離して……離し…アッー!」
新機能に胸を踊らせ、俺達は素材集めに向かった―――(続く)
12/04/15 02:23更新 / ちーきく
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