「―――おや、来ましたか」


椅子に腰かけ、ガルルヴェルはマリー達の方を見向きもせずに、本を読んでいた。


「来ましたか、じゃないぜ……全く」

「マリー、この人とは初対面じゃ……？」

トバリは脳味噌をフル回転させて今の状況を整理しようとしていた。



あらすじ。

ノワールの洋館に、ある用事で招待されたマリーとトバリ。

招待客の中には、何故か扮装しているスヴァルがいた―――。


あらすじ終わり。



「私自身、見つかるとは思っていなかったんです…がっ!?」

「いい加減その面倒な設定止めろっての」


マリーは容赦なく首根っこを掴んだ。


「マリー、止めるのはこっちですよぉ！すみません、ガルルヴェルさん！」


トバリはマリーを止めようと必死だが、ガルルヴェルは「……？」といった様子だ。


「トバリ君、まだ気付いてないのかい？」

「？　何がですか？それよりもその手を早く……」

「こいつ、スヴァルだよ」


トバリは今言われた事が理解できず、固まったのち、


「…………え？」


と、思わず聞き返していた。


「ほれ、声とか髪の毛とか元に戻しな」

「ええ〜……今回これ地毛なんですけど」

「マジかよ、お前」

「…………あっ、ホントだ！」


声を聞き、やっと気付いた様である。


「しっかし、何で分かったんですか？
俺はちゃんと『魔法障害【マジカルウォール】』つけてる筈なんですけどねぇ―――しかもレベル４の強めのヤツ」

「私を甘く見るんじゃ無いよ。私にはもうトバリがいるんだからさぁ」

「そうか、大佐の視認レベルが上回ったのか……それじゃ見破られる訳だ」

「あのー、話が全く見えないんですけど」

「そうそう、目的を忘れるところだった。
何故君はここに変装までして来たんだい？」


スヴァルは読んでいた本を閉じ、ドアに鍵をかけた。


「今回は仕事じゃないんです。プライベートの頼まれ事ですよ」

「確かにヴァンパイアの調査はまだ先の筈だったが……プライベート？」

「依頼として、『ヴァンパイアのワイン』を持ってくるように頼まれたんです」


トバリは疑問を口にした。


「でも、それって変装しなくても……」

「確かにそうかもしれないが、招待状を貰うためには印象付けをしなきゃならない。
分かるだろ？呼ばれなかったら意味が無いんだ。
だからこうして、前もって接触した」

「なるほど……勉強になります」

「んで、印象付けの為に、こんな面倒な性格のキャラクターを演じた訳か。
君もなかなか馬鹿だねぇ。
馬鹿っていうか、完璧主義者っていうか……」

「馬鹿って……。
大佐は余計な事まで言うからなぁ……だから今までモテなか―――」

「何か、言ったかい？」

「……あー、―――いや、何も？」


場の空気がとてつもなく殺気立っている。


「中尉、それを含めて僕は好きなんです。
どうか、大佐の昔を掘り起こさないであげて下さいよ」


トバリは深い意味を持たせて言った訳では無かったのだが、


「トバリ君、今日は寝かせないよ…！(ハァハァ」

「あれ!?　大佐の心情に何が!?」


マリーにとっては愛の言葉以外の何物ではなかった。


「愛を深めるんだったらもう出ていって欲しいんですけどね……」


スヴァルは目の前のバカップルを見て溜め息をつくしかなかった……。



「さて、私自身はもうしばらく赤の他人を貫き通すかね」

「トバリ、そろそろ行くわよ。
ガルルヴェルさん、くれぐれもボロが出ないように頑張ってくれたまえよ？」

「大佐、プレッシャーかけちゃ駄目ですよ……中尉、自然に行けば大丈夫です」


スヴァルは一息ついてから、「後学の為に言っておくが」と前置きして、


「トバリ……『大佐』、『中尉』じゃないだろう？
今は別人だ―――『中尉』でも何でもない。全力で今の役になりきれ。
それが一流への道だ」


「分かったな？」と、トバリに説いた。


「了解しました。以後心掛けます。それじゃ、失礼します」


二人は鍵を開け、ガルルヴェルの部屋を去っていった。

ガルルヴェルは再び読書に戻る。


(やはり、魔女は敵に回さなくて正解だな……全部お見通しなのはキツい)


そう思っていると、ドアをノックする音が室内に響く。

返事をするまえに、「御免」と一声、勢いよくドアが開いた。


現れたのは、リザードの女性―――カゲロウと、名乗ったサムライであった。


「これはこれは…先程の侍のお嬢様。読書中の私自身に何か用か？」

「読書中に押し入って申し訳無い。だが、どうしても言いたかったのだ」


カゲロウは鞘に入ったままの刀を立て、ガルルウェルの目を見据えて、告げた。


「私を、雇ってほしい。教団魔物調査員、スヴァル＝ソルトヴェルデ中尉殿」

「…………。」

「貴方の噂は耳にしている。私は、……我は、貴方の剣に為りたいで候」

「私自身がその男だと？勘違いも甚だしい。出ていって貰おうか」


椅子から立ち上がった瞬間、目の前に煌めく刃が向けられた。


「覚悟は、ある。
どうしても力になりたいのだ、我は」


覇気が部屋を包む―――。
戦士としてのオーラが、身体から、雰囲気から、滲み出ている。
ガルルウェルは、それを感じていた。


「――――では、問おう。
何故、その男にこだわる？
何故、その男の為に剣を振るう？」


すると、カゲロウは急に顔を赤らめ、口ごもり始めた。


「っ………それは……」

「何故だ？まさか、答えられないのか？」

「それは……、それはっ」


そこまで言いかけて、カゲロウは唇を噛んだ。

すっ、と深呼吸し、真っ直ぐに。


「貴方が―――好きだからだ」


告白された。


…………………ん？


「何だと？」


カゲロウは刀を鞘に納め直し、背を向ける。
天井を仰ぎ見て、溜め息をついた。


「貴方の事が好きなのだ。
………笑いたければ笑うがいい。ただの、一目惚れだ」


ストレートに来たな。
しかし、俺にはミロクがいるんだ。


「……そうか。
気持ちは嬉しいのだが、私自身には決めた相手がもういるのでな。
すまないが、答えられん―――」


丁重に振り切った。

しかし、返ってきた答えは意外なものだった。


「それでもいい。我は貴方の力に、なりたい」


瞳は、まっすぐだった。

何故俺にこだわるのかが未だに謎だが、このリザード……もしかしたら近衛兵としての素質はあるかもしれない。

魔物調査員には戦闘を得意とするものがほとんどいない。（俺はたまに本気出すから除く）

それ故に、右腕となるサポートがいるのはありがたい。


「……分かった、良いだろう。
ただし、まだ信用した訳では無いぞ。不穏な動きを見せれば、容赦はしない」

「しかと心得た。我の事は好きに呼んでくれ。
どこにいても絶対に駆けつけるで候」

「これから宜しく願おう、カゲロウ」

「よ………よ、宜しく……お願いするで候！」


カゲロウと握手を交わした。

また一人、仲間が出来た。


そんなとき、外からノワールの声が届いた。


「皆様ー！食事の用意が出来ましたよー！」


どうやら晩餐の時間らしい。


「さて、向かうとしようか」

「ええ、スヴァル殿」

「今は、ガルルウェルだ――――」（３へ続く）

■作者メッセージ
「ソロモンよ、私は帰ってきた！」

はい、２月あけてあけおめ。盛大に遅れました。


色々あったんすよ、パソコンの調子が悪くなったり、携帯が通話機能を失ってただのポケベル化したり、雪降った日の朝にチャリ漕いだらいきなり転倒したり、ヴァ○スシュヴァルツを始めてみたり、筆が進まなくて悩んだり……。

色々あったんです。サボった訳じゃないよ！（悪あがきか……失礼）

ちなみに、私は携帯で日々文章を打ってる勢です。

だから変換とか間違ってるかもｗｗそれは追々リメイクで直していきます。

それでは、また暇な時覗いてくだされば幸いです。

なるべく自己満足的に早めにあげていきたい……！頑張れ俺。