ヴァンパイアからの招待状/ヴァンパイア
スヴァルがマンドラゴラを採るために悪党を成敗したりアサギリに家族が増えたりしていたその頃―――
「トバリ君、ちょっと話があるんだけど、いいかい?」
「何でしょう、マリー大佐」
ここは魔物調査員・作戦室。
『マリー=オルトリンデ』と『トバリ=スクルド』は上下関係はあるものの、トバリの一目惚れとマリーのトバリに対する恩義で仲良く愛し合っている。
「こんなものが届いたんだ」
「これは……?」
卓上に出された一枚の黒い便箋。
表には紅い字で『招待状』と書かれている。
「招待状?一体誰からなんですか?」
「聞きたいかい?……いや、むしろ聞いてほしい。
私は今回、招待されたのです(キリッ」
「大佐、招待されたのは分かってます。聞いてるのは人物の方です」
「ああ、そうだね。
招待状の相手は、昔の友人で、つい最近も文通をやりとりしていてね。
『ノワール=ヴァイス=フルール』っていう名前なのさぁ。
彼女、つまりは女性で、かつ種族は―――」
一拍置いてから、それを告げた。
「華麗なる貴族、ヴァンパイアなのさぁ」
「……何で意味深に溜めたんですか」
翌日―――。
マリーとトバリはそれぞれドレスとタキシード姿で、使いの馬車に揺られて洋館を目指していた。
「大佐のドレス姿も斬新ですね……!」
「そうだトバリ、今はプライベートなんだから『大佐』は無しにしましょう?
私も『君』付けは無しにしてあげるわ」
「あっ………そ、そうですね!えーっと―――その、うん」
トバリはとてつもなく焦っていて、更にはドキドキしていた。
(この場合は確か―――テレビか何かで見たけど、こういう時何かしら褒めた方が女性は喜ぶ筈だったな)
「マリー、とても美しいよ……まるで一輪のハイビスカスの様だ―――」
(ぐあああこんなキザな台詞本来の僕じゃねー!)
と、そんな言葉がすらすら出てきた事に疑問を感じなかったトバリは、心で羞恥心MAXだった、が―――。
「あ、ありがと……素直に嬉しいぜ。
好きな人から言われるとこんなにも嬉しいものなんだな……」
マリーの方はめちゃくちゃデレた。
「お、おおぅ……いつもより素敵ですよ」
その反応に驚きトバリは戸惑っていたが、これのお陰で愛は深まった様だ。
「お二人様、そろそろ着きますぜよ!」
ノワールの使いが二人に声をかけた。
馬車は、ガタゴトと軽快にリズムを刻み、小気味よく揺れた……。
「うわぁ……凄く……大きいです……//」
「たいs……あー、ゴホン。
マリー、誤解を招くような言い方は自重するべき雰囲気ですよ」
「分かってるわよ、冗談冗談」
二人の前には大きな門―――。
空には灰色の雲がかかり、より一層古ぼけた洋館の黒みを深く、濃いものにしている。
門をゆっくり開け、洋館へと入る。
昔の扉は、ぎぎぃ……とよく響いた。
外観に比べ、内装はとても明るい。
シャンデリアが煌々と部屋を照らしている。
広いホールに、三人の人影があった。
その内の一人がこちらを見て、ぱあっと顔を輝かせて出迎えてくれた。
「あら、誰かと思えばマリーじゃない!久しぶり!元気してたかしら?」
「ええ勿論!貴女も変わらないわね!……お招き頂いてありがと、ノワール」
黒と朱のコントラストが綺麗なドレスを纏った、この女性こそ洋館の主、『ノワール=ヴァイス=フルール』嬢である。
「遠路はるばる来てくれて嬉しいわ。
……その人がトバリさんね。初めまして」
「はい、『トバリ=スクルド』です。以後宜しくどうぞ」
「私はノワール、宜しくね。
貴方の話はマリーの文通で聞かせてもらっていたわ」
ノワールと握手を交わす。
頭の上に輝くティアラ、端正な顔立ち、そして凛々しいドレス姿を目の前にして、トバリは頭の中が真っ白だった。
そもそもこのドレス、露出している部分が多い。
胸の谷間、脇、へそ、太もも―――素肌が各部分からチラチラと見えていて、正直目のやり場に困っているのが更に拍車をかけていた。頭ん中がホワイトホール。
「話に聞いてた通り、目付きがいやらしいわねぇ?
舐め回すように見つめられて私どきどきしているのだけど」
ジト目でこっちを見ているノワール。
「いや、そのつもりは……失礼しました」
「謙遜しなくていいわ。男はそうでなくちゃ」
「はぁ……すみません」
「いいのいいの。何なら―――触ってみる?」
「コラそこー!人の彼氏を誘惑しない!」
後ろでマリーが「うぐぐ……あのおっきな胸が私にもあれば……!」と妬みながら唸っていた。
男が好む体つきをした抜群のスタイルをしているのだから、無理もない。
出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。
一般的に言えばボン、キュッ、ボンである。
トバリは身体の違いをあまり気にしない男だが、色香に惑わされたと、この後自分に言い訳をした。
「ノワール嬢、この御方達も客人か?」
話に混ざってきたのは、あまりここいらでは見ない服装の女性だった。
異国の戦闘服―――の様だ。
腰には3本の刀が吊られている。
「ええ、そうよ。私の友人、マリーとその彼氏さんのトバリさん」
「『マリー=オルトリンデ』よ。貴方の名前は?」
マリーを見据え、彼女は名乗りだした。
「我の名は『カゲロウ』。種族はリザードに属している。宜しく頼む」
「その服……、異国の物ですね。確か、サムライ――とかなんとか」
「トバリ、分析はいいから。彼、こう見えて勉強熱心なの。許してね?」
マリーがフォローを入れたが、カゲロウは目を丸くして、
「いやはや、サムライを知っているとは!説明が省けてとても助かる。
―――そうだ、我はその異国の『サムライ』の剣術を会得している。
自分で言うのも何なのだが、な」
うむうむ、と二回頷きトバリとも握手をした。
付け足すように、「いつか手合わせを願いたいものだ」とも言った。
「あ、そうそう!あちらにもう一人いるのよ、お客様が」
ノワールはそのもう一人をこちらに手招きし、紹介した。
「こちらが、『バリュー=カートン』さん。宝石には詳しいわよ」
紺色のスーツを着た大柄な体に、にこやかな表情―――雰囲気からして人柄の良さを感じさせる彼は、軽く会釈をし、
「どうも、『バリュー』です。
商人仲間からは『バリトン』と呼ばれています。気軽に呼んでくださいね」
宜しく、と二人に挨拶をして握手を交わした。
指には高そうな翡翠色の指輪が付けられていた。
「ノワール、これが参加者全員なの?」
「いや、まだ来る筈よ。
もうそろそろ来てもおかしくはないのだけれど―――」
と、言いかけたその時、扉が開いた。
「―――ふむ、間に合ったかな?」
「ギリギリって奴じゃないですか?」
「ま、私自身は遅れていると判断して既に反省の念を抱いてはいますがね」
二人の男性と、一人の女性が、ぞろぞろとホールに入ってきた。
「皆様、遠路はるばるお疲れ様です」
「私自身としては、馬車に揺られただけだから、さほど疲れてはいないのだがな」
「乗り物酔いがキツかったですよ……ホント」
「ふむ、まあ三人無事に到着したという事で、宜しいか?ノワール嬢」
別々の反応をする三人。個性豊かである。
「ノワール嬢、この方達の紹介をお願いしたいのだが……」
「同感ね。私も薄々思っていたわ」
バリューとマリーの意見を聞き、そうね、と呟いた。
「私自身、『ガルルヴェル=ペッパー』という名前だ。
ノワール嬢に紹介されるのは少々気が引けてな―――手間はかけたくない」
「ガルルさんは私の自家製ワインが飲みたくて来たのよね」
「私自身はそんな卑しい目的で来た訳ではない。ワインの件はついでだ」
「相変わらず素直じゃないのですね……そういう所は嫌いじゃないですけど」
「くっ―――私自身、この件に関してはノーコメントにして貰う」
紫色の派手なスーツを着ているが、口調からして面倒な性格そうだと、マリーは思った。
それと同時に、この人物が誰なのかが分かってしまった―――
(全く……何故そんな面倒な設定なんだ、スヴァル君さぁ)
そう、この『ガルルヴェル=ペッパー』という人物は紛れもなく『スヴァル』なのである。
根拠はある――――。
魔法で【観察】したからである。
トバリと付き合い始め、定期的に精を得られるようになったマリーは、魔力が増幅され、今までは数時間しか使えなかった魔法が常にオートフィルタとして展開出来る様になっていた。
そんな確証を書き消すかの様に喋りだした面倒な客が、もう一人いた。
「あたしの名前は『ウノ=ランツ』って言うの、皆さん宜しくね、あ、それとあたしの職業は写真家だから、後で一枚撮りましょう?それと―――」
矢継ぎ早に出てくる言葉の弾丸に一同は呆気にとられた。
ノワールからは「毎度呼ぶ度にこうなのよ、ごめんなさいね」と謝っていた。
「―――てな訳であたしは招待されたのです!」
得意気に仁王立ちでどや顔である。
「……ウノ、そろそろいいかしら?」
「……私自身、このタイプの女性は苦手だ。そして一番タチが悪い」
ガルルヴェル(スヴァル)はうんざりだ……といった具合に首を横に振った。
ウノの話が一通り済み、残りの一人に視線が集まる。
「俺は『エルーリカ=ブランカ』だ。
食品評論家でこの世を渡り食ってる者―――と言ったら分かるかね?」
「どっかで見たことあると思ったら、有名評論家のブランカさんじゃない!よし一枚、っと」
カシャ、とカメラのシャッター音がきられているが、エルーリカは「ブランカの方ではなくエルーリカと呼べとあれほど……」と口ごもっていた。
「今回、来てくださると聞いてとても嬉しいです、エルーリカ様」
「いやいや、貴女の自家製ワインが気になって仕方がないのです、ええ。
何なら今、さっそくテイスティングさせて頂きたいのだが、如何かね?」
「まぁまぁ、いち早く味わいたいのは分かりますが、皆様移動で疲れているでしょうし、取り敢えずはゲストルームで休憩なさってくださいな」
「―――そうだな、そうさせて貰おう。晩餐が楽しみだ」
ブランカはとてもそわそわしている。
本人の中でも期待の一品なのだろう。
「それぞれお部屋を用意していますので、そちらでしばらくお休みになってくださいね。食事の用意が出来ましたら使いの者が声をかけますので」
ノワールは一人ひとりを部屋を案内し、自室へと戻っていった。
部屋に入ってすぐに、マリーは行動を開始する。
「トバリ、急だけど話をしに行くわよ」
「へ?一体誰と?」
「あの面倒な名乗り方をした男の所よ」
(取り敢えず、話をしなきゃ―――)
マリーは意気込み、ゲストルームのドアを強く開け放った……。(2へ続く)
「トバリ君、ちょっと話があるんだけど、いいかい?」
「何でしょう、マリー大佐」
ここは魔物調査員・作戦室。
『マリー=オルトリンデ』と『トバリ=スクルド』は上下関係はあるものの、トバリの一目惚れとマリーのトバリに対する恩義で仲良く愛し合っている。
「こんなものが届いたんだ」
「これは……?」
卓上に出された一枚の黒い便箋。
表には紅い字で『招待状』と書かれている。
「招待状?一体誰からなんですか?」
「聞きたいかい?……いや、むしろ聞いてほしい。
私は今回、招待されたのです(キリッ」
「大佐、招待されたのは分かってます。聞いてるのは人物の方です」
「ああ、そうだね。
招待状の相手は、昔の友人で、つい最近も文通をやりとりしていてね。
『ノワール=ヴァイス=フルール』っていう名前なのさぁ。
彼女、つまりは女性で、かつ種族は―――」
一拍置いてから、それを告げた。
「華麗なる貴族、ヴァンパイアなのさぁ」
「……何で意味深に溜めたんですか」
翌日―――。
マリーとトバリはそれぞれドレスとタキシード姿で、使いの馬車に揺られて洋館を目指していた。
「大佐のドレス姿も斬新ですね……!」
「そうだトバリ、今はプライベートなんだから『大佐』は無しにしましょう?
私も『君』付けは無しにしてあげるわ」
「あっ………そ、そうですね!えーっと―――その、うん」
トバリはとてつもなく焦っていて、更にはドキドキしていた。
(この場合は確か―――テレビか何かで見たけど、こういう時何かしら褒めた方が女性は喜ぶ筈だったな)
「マリー、とても美しいよ……まるで一輪のハイビスカスの様だ―――」
(ぐあああこんなキザな台詞本来の僕じゃねー!)
と、そんな言葉がすらすら出てきた事に疑問を感じなかったトバリは、心で羞恥心MAXだった、が―――。
「あ、ありがと……素直に嬉しいぜ。
好きな人から言われるとこんなにも嬉しいものなんだな……」
マリーの方はめちゃくちゃデレた。
「お、おおぅ……いつもより素敵ですよ」
その反応に驚きトバリは戸惑っていたが、これのお陰で愛は深まった様だ。
「お二人様、そろそろ着きますぜよ!」
ノワールの使いが二人に声をかけた。
馬車は、ガタゴトと軽快にリズムを刻み、小気味よく揺れた……。
「うわぁ……凄く……大きいです……//」
「たいs……あー、ゴホン。
マリー、誤解を招くような言い方は自重するべき雰囲気ですよ」
「分かってるわよ、冗談冗談」
二人の前には大きな門―――。
空には灰色の雲がかかり、より一層古ぼけた洋館の黒みを深く、濃いものにしている。
門をゆっくり開け、洋館へと入る。
昔の扉は、ぎぎぃ……とよく響いた。
外観に比べ、内装はとても明るい。
シャンデリアが煌々と部屋を照らしている。
広いホールに、三人の人影があった。
その内の一人がこちらを見て、ぱあっと顔を輝かせて出迎えてくれた。
「あら、誰かと思えばマリーじゃない!久しぶり!元気してたかしら?」
「ええ勿論!貴女も変わらないわね!……お招き頂いてありがと、ノワール」
黒と朱のコントラストが綺麗なドレスを纏った、この女性こそ洋館の主、『ノワール=ヴァイス=フルール』嬢である。
「遠路はるばる来てくれて嬉しいわ。
……その人がトバリさんね。初めまして」
「はい、『トバリ=スクルド』です。以後宜しくどうぞ」
「私はノワール、宜しくね。
貴方の話はマリーの文通で聞かせてもらっていたわ」
ノワールと握手を交わす。
頭の上に輝くティアラ、端正な顔立ち、そして凛々しいドレス姿を目の前にして、トバリは頭の中が真っ白だった。
そもそもこのドレス、露出している部分が多い。
胸の谷間、脇、へそ、太もも―――素肌が各部分からチラチラと見えていて、正直目のやり場に困っているのが更に拍車をかけていた。頭ん中がホワイトホール。
「話に聞いてた通り、目付きがいやらしいわねぇ?
舐め回すように見つめられて私どきどきしているのだけど」
ジト目でこっちを見ているノワール。
「いや、そのつもりは……失礼しました」
「謙遜しなくていいわ。男はそうでなくちゃ」
「はぁ……すみません」
「いいのいいの。何なら―――触ってみる?」
「コラそこー!人の彼氏を誘惑しない!」
後ろでマリーが「うぐぐ……あのおっきな胸が私にもあれば……!」と妬みながら唸っていた。
男が好む体つきをした抜群のスタイルをしているのだから、無理もない。
出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。
一般的に言えばボン、キュッ、ボンである。
トバリは身体の違いをあまり気にしない男だが、色香に惑わされたと、この後自分に言い訳をした。
「ノワール嬢、この御方達も客人か?」
話に混ざってきたのは、あまりここいらでは見ない服装の女性だった。
異国の戦闘服―――の様だ。
腰には3本の刀が吊られている。
「ええ、そうよ。私の友人、マリーとその彼氏さんのトバリさん」
「『マリー=オルトリンデ』よ。貴方の名前は?」
マリーを見据え、彼女は名乗りだした。
「我の名は『カゲロウ』。種族はリザードに属している。宜しく頼む」
「その服……、異国の物ですね。確か、サムライ――とかなんとか」
「トバリ、分析はいいから。彼、こう見えて勉強熱心なの。許してね?」
マリーがフォローを入れたが、カゲロウは目を丸くして、
「いやはや、サムライを知っているとは!説明が省けてとても助かる。
―――そうだ、我はその異国の『サムライ』の剣術を会得している。
自分で言うのも何なのだが、な」
うむうむ、と二回頷きトバリとも握手をした。
付け足すように、「いつか手合わせを願いたいものだ」とも言った。
「あ、そうそう!あちらにもう一人いるのよ、お客様が」
ノワールはそのもう一人をこちらに手招きし、紹介した。
「こちらが、『バリュー=カートン』さん。宝石には詳しいわよ」
紺色のスーツを着た大柄な体に、にこやかな表情―――雰囲気からして人柄の良さを感じさせる彼は、軽く会釈をし、
「どうも、『バリュー』です。
商人仲間からは『バリトン』と呼ばれています。気軽に呼んでくださいね」
宜しく、と二人に挨拶をして握手を交わした。
指には高そうな翡翠色の指輪が付けられていた。
「ノワール、これが参加者全員なの?」
「いや、まだ来る筈よ。
もうそろそろ来てもおかしくはないのだけれど―――」
と、言いかけたその時、扉が開いた。
「―――ふむ、間に合ったかな?」
「ギリギリって奴じゃないですか?」
「ま、私自身は遅れていると判断して既に反省の念を抱いてはいますがね」
二人の男性と、一人の女性が、ぞろぞろとホールに入ってきた。
「皆様、遠路はるばるお疲れ様です」
「私自身としては、馬車に揺られただけだから、さほど疲れてはいないのだがな」
「乗り物酔いがキツかったですよ……ホント」
「ふむ、まあ三人無事に到着したという事で、宜しいか?ノワール嬢」
別々の反応をする三人。個性豊かである。
「ノワール嬢、この方達の紹介をお願いしたいのだが……」
「同感ね。私も薄々思っていたわ」
バリューとマリーの意見を聞き、そうね、と呟いた。
「私自身、『ガルルヴェル=ペッパー』という名前だ。
ノワール嬢に紹介されるのは少々気が引けてな―――手間はかけたくない」
「ガルルさんは私の自家製ワインが飲みたくて来たのよね」
「私自身はそんな卑しい目的で来た訳ではない。ワインの件はついでだ」
「相変わらず素直じゃないのですね……そういう所は嫌いじゃないですけど」
「くっ―――私自身、この件に関してはノーコメントにして貰う」
紫色の派手なスーツを着ているが、口調からして面倒な性格そうだと、マリーは思った。
それと同時に、この人物が誰なのかが分かってしまった―――
(全く……何故そんな面倒な設定なんだ、スヴァル君さぁ)
そう、この『ガルルヴェル=ペッパー』という人物は紛れもなく『スヴァル』なのである。
根拠はある――――。
魔法で【観察】したからである。
トバリと付き合い始め、定期的に精を得られるようになったマリーは、魔力が増幅され、今までは数時間しか使えなかった魔法が常にオートフィルタとして展開出来る様になっていた。
そんな確証を書き消すかの様に喋りだした面倒な客が、もう一人いた。
「あたしの名前は『ウノ=ランツ』って言うの、皆さん宜しくね、あ、それとあたしの職業は写真家だから、後で一枚撮りましょう?それと―――」
矢継ぎ早に出てくる言葉の弾丸に一同は呆気にとられた。
ノワールからは「毎度呼ぶ度にこうなのよ、ごめんなさいね」と謝っていた。
「―――てな訳であたしは招待されたのです!」
得意気に仁王立ちでどや顔である。
「……ウノ、そろそろいいかしら?」
「……私自身、このタイプの女性は苦手だ。そして一番タチが悪い」
ガルルヴェル(スヴァル)はうんざりだ……といった具合に首を横に振った。
ウノの話が一通り済み、残りの一人に視線が集まる。
「俺は『エルーリカ=ブランカ』だ。
食品評論家でこの世を渡り食ってる者―――と言ったら分かるかね?」
「どっかで見たことあると思ったら、有名評論家のブランカさんじゃない!よし一枚、っと」
カシャ、とカメラのシャッター音がきられているが、エルーリカは「ブランカの方ではなくエルーリカと呼べとあれほど……」と口ごもっていた。
「今回、来てくださると聞いてとても嬉しいです、エルーリカ様」
「いやいや、貴女の自家製ワインが気になって仕方がないのです、ええ。
何なら今、さっそくテイスティングさせて頂きたいのだが、如何かね?」
「まぁまぁ、いち早く味わいたいのは分かりますが、皆様移動で疲れているでしょうし、取り敢えずはゲストルームで休憩なさってくださいな」
「―――そうだな、そうさせて貰おう。晩餐が楽しみだ」
ブランカはとてもそわそわしている。
本人の中でも期待の一品なのだろう。
「それぞれお部屋を用意していますので、そちらでしばらくお休みになってくださいね。食事の用意が出来ましたら使いの者が声をかけますので」
ノワールは一人ひとりを部屋を案内し、自室へと戻っていった。
部屋に入ってすぐに、マリーは行動を開始する。
「トバリ、急だけど話をしに行くわよ」
「へ?一体誰と?」
「あの面倒な名乗り方をした男の所よ」
(取り敢えず、話をしなきゃ―――)
マリーは意気込み、ゲストルームのドアを強く開け放った……。(2へ続く)
12/04/15 02:36更新 / ちーきく
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