アイアンメイデンのアイアンメイデンのアイアンメイデン
羽根の折れた扇風機、ガラスの割れた電子レンジ、背もたれのない椅子。山積みの粗大ゴミの隅に棄てられた――と言うよりは置かれたと言った方がしっくりくる――高級感のある革製のケース。一つだけ、ゴミの中に埋もれているには場違いで、少々異様な雰囲気を纏っていた。
一見して楽器か何かかと思ったが、俺にはピンときた。小走りにケースの傍まで寄り、ケースの表面に刻印やシールなどを探した。どこにもそれらしきメーカーのものを見つけられなかった。
路地に人気がないのを確認してから金具に手をかける。まるで、俺がそのケースを開くのを待っていたかのように、軽い音を立てて留め金が外れた。興奮気味にケースの上蓋を持ち上げる。
ドール愛好家、収集家としての第六感が当たったのだろうか。緩衝材代わりのシルクが敷かれた内に、静謐に上品な顔立ちの――人間と見紛うほどに精巧な表情の――女の子が身を横たえていた。
「やったっ」
俺は思わずガッツポーズをした。と、慌てて周りを見渡すが、幸い誰も居なかった。
慎重に、彼女の頬を撫でる。指の腹を伝わる肌の感触に総毛立った。まるで本物。否――本物以上。
腕、脚、艶やかな銀髪、そして手触りの良い服や装飾品、どれもが尋常でないことが分かった。
よほどの高級品だろう。コレクターの憧れ。
生唾を飲み込む。
俺はそっと上蓋を閉じ、金具を留め、ケースを抱えて一目散に走り出した。
棄ててあったんだから――
「良いよなっ……！」
――――
全然、良くない！
自分の住むアパートへ彼女を連れ帰った後、改めてケースや彼女を調べた。
俺は勢いで攫ってしまったことを早くも後悔し始めた。
まず、彼女の収められているケースからして普通じゃないことに気付いた。木と皮で作られた重たいケースと内に敷かれているシルク。これだけでも買おうとなったら、貧乏な社会人二年生のドールコレクションの中で一番高いドールより多くのお金をはたかなきゃならないだろう。
そして、本物以上に作り込まれ、怪しく艶やかな人形。
ケースの外、内側、ドール本体、どこにもメーカーの刻印やらなんらかの表示印もないことから、俺は身震いするような推測を立てた。
――オーダーメイドのドール。
ああ、とため息が漏れた。世界に一つだけ、一人のために造られた特別な人形。
一体、どれほどの値打ちがあるのだろう。ここまでのドール、見ることすら敵わなかった。それが今、俺の手に。
ドールの価値は値段じゃ決まらない、と――高級な人形を買えないことへの劣等感を多少含んではいたが――半ば本気で思っていた。
しかし、このドールに格の違いを見せつけられた感があった。
暫くすると、胸の内の歓喜の渦に、ちらりと罪悪感らしきものが顔を覗かせた。
粗大ゴミの山に紛れていたにしてはケースは清潔だったし、本体も完璧な状態でしまわれていた。あまりに出来過ぎていないか？
やはり、持ってくるべきではなかったかもしれない。
しかし、今更元の場所――あのゴミの山――へ戻す気にはなれなかった。
結局、知らんぷりを決め込み、俺は彼女をケースへしまい、彼女を飾っておくためのショーケースの寸法をどうするかを考え始めた。
「かなり大きいからな。サイズに合うショーケースとなるとかなり……保存の仕方も考えなきゃな。遮光カーテン買って、乾燥剤とあれとこれと……」
大まかな見積もりをして、金額の大きさにビビるのも楽しみの一つだった。
趣味らしい趣味がドールしかないので、生活に支障がなければかかる金額がいくらだろうとその分喜びも大きいので苦にはならない。
部屋の隅にケースを置き、風呂と身繕いを簡単に済ませ、さっさと布団に潜り込んだ。
――――
「お疲れ様でした。お先に失礼します」
誰ともつかないオフィスの誰かに適当に頭を下げ、会社を後にした。
彼女を迎えた日から定時退社が増えた気がする。元々、余裕のある時はさっさと帰る性分だったが、近ごろのように進んで、定時で帰れるよう仕事を終わらせるようなことはあまりしなかった。
そのことは俺の同期も気付いていて、『今日も早く帰って人形遊びか？』なんてからかってくる。それに対して俺は『遊びじゃない』と人形の方は否定せず、酒飲みの誘いを断る。
最低限の照明だけ灯した薄暗い部屋に、ぴちゃぴちゃと水音が反響している。
椅子に座らせた彼女――シャーロットと名付けた――の足の指の間に舌を這わせる。ドールなのだから、舌に伝わるのは無味、の筈だが、いつも気持ちが高ぶってくると不思議とほのかに甘い味を感じることができた。
跪いて、犬のように彼女の足を舐めながら、自身のモノを扱く。服は上はTシャツ一枚、下半身は何も身に着けていない。
この無様な姿をシャーロットの前に晒し、その綺麗な眼で視姦され、優雅に歪めた淑やかな唇が俺を嘲笑しているのを夢想しながら、扱く。
「はっ、はっ……！シャーロット……イク……イクよっ……！」
喉元まであまやかな吐き気が込み上げる。身体を張りつめさせる体液が出口を探し、見つけ、そして勢いよく吐き出される。まるで生殖器の嘔吐。
断続的な射精がようやく収まった後、筋肉が一気に弛緩し、身体がくたりと床に沈んだ。
暫くの間、絶頂の余韻に火照った身体を委ねる。
顔を上げるとシャーロットが俺を見つめていた。得体の知れない罪悪感がちくりと胸を刺す。
「ごめん……すぐ片付ける」
気怠く立ち上がり、布巾を取りに洗面所へ行く。
ドールを性的対象として自慰を行ったことは、今まで数えるくらいしか無かった。ましてや、ドールの足を舐めながらなんて変態的なことはしなかったし、考えにさえ上らなかった。
湿らせた布巾を手に部屋へ戻ると、シャーロットが椅子から前のめりに倒れていた。血の気が引いた。
慌てて駆け寄り、彼女の身体を起こしてやる。腕に抱き、あちこち確認したが、幸い精液はどこにも付着していなかった。
ほっと溜息をついたのも束の間、床に目を落とすとある疑念が湧いた。
床に吐き出したはずの精液が消えている。
いつの間にか拭かれていたというものではなく、本当に綺麗さっぱり消えてなくなっていた。
首を捻っていると、腕の中でシャーロットがくすりと笑った。
「えっ！？」
思わずうろたえる。危うく彼女を床に取り落とすか、放り投げるかしてしまうところだった。
バクバクとうるさい心臓を必死に落ち着かせる。多分、抱く力が強くて、彼女のお腹の辺りを圧迫して空気が漏れたんだろう。それを笑ったと勘違いするなんて、馬鹿みたいだ。
彼女は俺が溜息を吹きかけても嫌な顔一つしない。静謐に微笑んでいる。
もし、彼女が生きていたら。
心臓が落ち着いてくると、さっきまでの考えを都合の良いように変えられる。
シャーロットが骨の髄まで愛してくれる。俺もそれに応える。
そうだったら、そうだったら、もう俺は何もいらないのに。それだけで生きていける。
腕の中の彼女の頬をそっと撫で、革のケースの中へ戻してやる。
彼女をショーケースに入れるのは止めにした。きっと俺は、暇さえあればケースの前で彼女を見つめているだろうから。
シャーロットを我が家に迎えてから二か月近くが経つ。平たく言えば、俺は彼女にぞっこんだった。
彼女の眼を見ていると、吸い込まれそうになる。心がブクブク沸き立つような気持ちを感じる。彼女の身体に触れようとするとき、手が震える。
恋か？
馬鹿馬鹿しい、と思う。彼女の前にいない間は。
次は止めよう。いつも終わってからそう思う。
俺は先日と同じ格好で同じようにシャーロットの足を舐めながら、自分を慰めていた。
彼女の足指を口に含み、舌で転がして、右手でモノを擦る。
先日と違ったのは、いくら扱いてもまったくイクことができないところ。
興奮はしているのだが、どこか物足りない。足ではもう、物足りなくなっていた。
息苦しく、それでも一心に足を舐め上げる。ふと、上方の暗がりに眼がいく。
スカートの中――彼女の秘所――
自分のモノから手を離し、彼女を椅子から降ろして、床に優しく寝かせる。
これ以上なく激しく鼓動する心臓を抱えながら、ゆっくりとスカートをまくり上げると、彼女の秘所を覆う一枚の白い布が目の前に現れた。
最初は布越しに指で摩り、次第に我慢が効かなくなりその小さな下着を脱がせた。
ごくりと、生唾を飲み込む。スカートの中へ頭を突っ込む。
彼女の秘所はわずかに膨らみを帯びていて、柔かそうな割れ目の中心に可愛らしいつぼみが収められていた。
吸い込まれるように顔を近づけ、彼女の秘所に口づけた。丹念に舐り、舌先を尖らせて割れ目をなぞる。つぼみをくすぐり、舌を膣内へと滑り込ませた。中は大量に分泌した唾液でぬるぬるとしていて、壁の凹凸が舌を撫でた。柔かかった。
冷静に考えれば、彼女の身体が柔かいなんてことはあり得ない。あり得ないのだが、考えはそこまで至らなかった。
俺はただ闇雲にシャーロットの秘所にむしゃぶりつき、自分のモノを擦った。
この日の射精は今までで一番長く、吐き出された精液の量も尋常でなく、自己嫌悪の感情も一番強かった。
射精後、後始末のために洗面所から布巾を取って戻ると、先日と同じように精液の水たまりは姿を消していた。そして、シャーロットの表情は今まで以上に活き活きとしていた。
布巾をわきへ置き、彼女に下着を穿かせる。小さな下着を彼女の脚に通すとき、改めて秘所を見た。精巧で美しく、艶めかしく再現された生殖器。
彼女を造ったのはよほどの職人か、あるいは変態だな。自分を棚に上げて、苦笑した。
――――
あれからしばらく、シャーロットで自慰をしていない。自慰そのものもここ二週間近くしていなかった。何となく、する気分になれなかった。
仕事のペースも彼女を拾った以前のように戻り、ちょくちょく飲みにも行っていた。
今日は意図せず、仕事が早くに切り上げられた。同僚の誘いを何となく断り、真っ直ぐ家に帰った。
近ごろ、妙なことに人形の数が減っているような気がした。所有していた人形たちとの記憶は何故か薄ぼんやりとしていた。覚えている限りでも、少なくとも部屋から半分近くの人形が姿を消していた。
泥棒か。
最初はそう思って警察に連絡しようと思ったが、止めた。
警察に連絡したら、一般にはあまり受容されないドール趣味を晒さなければならないし、何より、シャーロットのことがあった。
ゴミ捨て場から、半ば窃盗のように攫ってきた彼女を取り上げられないか不安だったのだ。
シャーロットが部屋から居なくなっていたら迷うことなく被害届でも何でも出したが、どの人形が居なくなろうと彼女はいつも同じ場所でケースに粛々と収まっていた。
消えてなくなったドールたちを単純に金に直せば、その額は少なくは無い。しかし、近ごろ給料が少し上がったり、偶々譲ってもらった宝くじが当たったり、幸運続きで上手いこと差し引きゼロになっていた。
心のどこかで、きっとシャーロットが原因だと確信していた。根拠は無いが。
壁を背に座り、隣に置いたケースを撫でる。風呂上がりの石鹸の香りが鼻をくすぐった。
「シャーロットはこの香り、好きかな」
金具へ手を滑らせ、パチパチと手際よく留め金を外す。ケースを開き、彼女を抱き上げ、腕の中へおしこめた。
胸を切るような愛おしさ。彼女の髪に鼻を押し当てて深呼吸をする。彼女の小さな体を愛情をこめて丹念に撫でる。
どうして彼女は人形なのか。残酷すぎる。
俺は知らずのうちに、嗚咽を漏らしながら泣いていた。愛おしかった。
シャーロットが俺を見つめていてくれるなら。もう何度目か分からない願いが、頭の中で血にまみれながらぐちゃぐちゃにもつれ、荒れ狂っていた。
まるで感情の濁流に飲み込まれたみたいだった。
抑え切れず、俺はシャーロットの唇に自分の唇を重ねた。
彼女の唇は柔かく、温かく濡れていた。触れている部分から、何かが交換されていく。身体中の体液が逆流するような気持ち悪い感覚がした。同時に背徳的な快楽が血管の壁を撫でさすった。
突然の異常な感覚に、慌てて彼女を引き剥がそうとする。引き剥がせなかった。
彼女の腕が俺の首に回されている。ぞわりと悪寒が背中を舐めた。
依然、互いの唇は重ねられたまま。止まっていた息を再開させたのは、俺の口を割って入ってくるシャーロットの舌だった。
俺のより二回りほど小さい彼女の舌は唾液に濡れ、すべすべとしていた。ちろちろと俺の舌先を舐めたり、歯茎を擦ったり、俺を十二分に愉しませた。
彼女は唇を離し、俺の口の端に垂れた唾液をぺろりと舐めとって淫靡に笑った。
そして彼女は再び口づけをしようと顔を近づけてきた。
「ちょ、ちょっとストップ」
俺が制すると、シャーロットは不思議そうに首を傾げた。
「き、君……」
「シャーロット、です。兄様♥」
「…………あ、ああ、シャーロット」
「はい♥」
名前を呼ぶと、シャーロットは心底嬉しそうに返事をした。彼女の可愛らしい笑顔に、徐々に緊張が緩んでいく。
何から話そうか思案していると、彼女が先に口を開いた。
「あまり、驚かれませんね？」
「そ……うかな。かなりビビってるけど」
「私がちょっと何かするだけで、みなさん怖がって捨てちゃうんです」
「いや、まぁ……そりゃあ」
「貴方も私を棄ててしまうのですか！」
彼女の眼に涙が浮かんでいた。柔かい銀髪を撫でると、彼女は肩の力を幾分か抜いた。
「棄てないよ」
「よ、良かった……この人なら大丈夫かな、とは思っていたのですが、やっぱりカミングアウトは緊張します」
「この人なら、って何を基準に？」
「私のことを愛してくれて、独り身で……」
「なるほど。ずっと、見てたのか」
「はい♥」
「…………ちょっと待って、ずっと見てたの？」
「はい、ずっと……♥」
「アレとかも君、見てたわけ？」
「アレとは？」
シャーロットは可愛らしく小首を傾げた。
「ほ、ほら……その、君の足舐めたり……とか……」
「はい♥」
「スカートの中に顔突っ込んでシたのも……？」
「お上手でしたわ♥」
シャーロットはポッと顔を赤らめ、その可愛らしい両手を頬に当てた。
俺は顔に血が上ってくるのを感じた。
「うわー！恥ずかしい！死のう！」
「だっ、駄目です！死んじゃ駄目です！」
頭を抱えてうずくまる俺に彼女は、気にしてない、と慰めの言葉を何度もかけてくれた。そのおかげで暫くすると多少気分が落ち着いてきた。恥ずかしいのは変わりなかったが。
「……それで、君……シャーロットは」
「はい」
「……何者なの？」
「私は兄様のためのドールです」
「…………元はゴミ捨て場から攫ってきたわけだけど」
「ええ、とっても嬉しかったです」
シャーロットはふっと笑い、小さな手を俺の頬に這わせた。くすぐったくて、思わず目を細めた。
「好きです。愛してます」
「俺は……」
「ね……続き、しませんか？ここのところ、全然してないんでしょう？」
「…………」
「ほら、兄様のココ、さっきから……ふふ、私のお尻ツンツンしてましたよ……やらしいですね」
シャーロットは手を俺の頬から、ズボンの膨らみへ移した。淡い刺激が、身体に快楽を電流のように走らせる。
「んぐっ……」
ぐにぐにと服の上から揉まれ、俺のモノが一段と大きさと硬度を増す。俺は身をよじりながらも、抵抗せず彼女の愛撫を甘受した。それが嬉しかったのか、彼女は顔をほころばせ、一所懸命に手を動かした。
俺の口をシャーロットの唇が塞ぐ。ぬるぬると隙間から入りこむ舌を受け入れ、自分の舌と絡ませ合う。
シャーロットにばかりしてもらうのは少し申し訳ないので、俺も手を彼女の身体に滑らせた。腰からわき腹をゆっくりと撫で、そして小ぶりな胸を服の上から触ると、びくっと彼女の身体が跳ねた。
優しく揉み、さする。暫くすると、彼女の顔に赤みが差し、途切れ途切れに喘ぎ声を漏らし始めた。
ついばむようなキスを続けながら、俺は左手をスカートの下へと持っていく。薄い下着の上から、彼女の秘所に指で触れる。
「ひゃっ！」
「あ、ごめん……」
「い、いえ……急だったものですから……んぅ……！」
下着の上から分かるくらいに濡れそぼった――ドールなのに？という疑問はもう抱かない――割れ目を、指でくにくにと柔く刺激するだけで、シャーロットは甘い吐息を漏らし、身を艶めかしくよじらせた
「あっ、あっ……いけません……こんなっ……♥」
「何がいけないんだ？」
「いじわるですっ……♥ いやっ♥ はぁっ、あっ、やめっ……♥」
「やめてもいいの？」
耳に口づけ、舌を這わせ、甘噛みするとシャーロットはビクビクと身体を震わせて、くたりと俺の腕の中に身体を倒した。
「ひどいれすぅ……♥ こんなことするなんてぇ……♥」
「……イったのか？」
「い、言わないでください……」
はぁはぁ、と苦しげに息をするシャーロットを抱き締め、背中を摩る。
「はぅ……すみません。私ばっかり気持ちよくなって……」
「いや……」
シャーロットは身体を離し、身を屈めて、俺のズボンのベルトに手をかけた。
「お、おい」
「お口でしますか？それともすぐに……きゃっ！何言わせるんですか♥」
人間離れしたシャーロットの顔のパーツ。それらと不似合いなちょっとばかっぽい言葉づかいも、可愛らしかった。
「……口で」
「畏まりました♥」
彼女はズボンのファスナーを開け、俺のモノを不器用に取りだす。もぞもぞとくすぐったく、それだけで射精感が顔を覗かせる。
シャーロットは眼の前で屹立するモノの先端にチュッとキスをしてから、口いっぱいに含んだ。半分ほど咥えられたところで、先端がこつりと口内の壁をつついた。彼女の小さな口ではここまで咥えるのが精いっぱいらしい。
シャーロットはゆっくりと頭を上下させ、ぬるぬるとした柔かい刺激を俺のモノに与えていく。部屋にぐちゅぐちゅと淫猥な水音が反響する。
愛撫と彼女の濡れた瞳とエロチックな表情に、射精感の高まりを感じる。
「シャーロットっ……ごめん、もうイきそう」
「んー、あむあむあむ……」
「咥えたまましゃべるなっ……！」
へその下の熱いどろどろの塊が尿道をせり上がり、シャーロットの口に吐き出される。受け止めきれなかった精液が彼女の口の端からこぼれた。
シャーロットは口内で精液を舌で弄び、敏感な鈴口をれろれろとしつこく舐めた。
「シャーロットっ……それ、やめっ……！」
「むー……んぐんぐ……」
「だから咥えたまましゃべるなって……！」
射精が収まったのを確認すると、シャーロットは俺のモノをちゅうちゅうと尿道に残った精液を吸いだした。そして、俺のモノから口を離して、喉を鳴らしながら飲み込んだ。美味しそうに。
先ほどこぼした精液も指ですくって舐めとり、火照った顔でにんまりと笑った彼女に、さらなる背徳的な劣情を感じずにいられなかった。
「えへ……兄様のとっても濃いです♥」
「はぁ、はぁ……」
お互いの体液でぬるぬると光る俺のモノが間を置かず再びそそり立ち、快楽を求めてびくびくと震えるのを見て、シャーロットは嬉しそうに笑った。
「では、次はこちらに……♥」
シャーロットはころんと床に仰向けに転がった。下着を脱ぎ棄てて、スカートをまくり、自分の指で秘所を広げて見せた。透き通るように白く、不気味なほどに均衡のとれた太腿と股関節の間に、ピンク色の女性器が愛液に濡れ、ひくひくと蠢いていた。
俺は床に手をついて、モノをシャーロットの秘所にあてがった。鈴口と擦れあい、ちゅっちゅっと音をたてる。入口のあまりの小ささに、懸念を抱く。
「あのさ、いまさら聞くのも何だけど……壊れたり、しない？」
「あはっ、大丈夫です♥ 壊れても、すぐに直りますから」
俺はいまいち信じられなかった。訝しげにシャーロットを見ると、彼女は挑発するように言った。
「人形が言葉を話して、えっちなことだってするんです。ちょっと壊れたくらい、自然に治癒したっておかしくはないでしょう？」
「随分都合がいいね」
「ええ、人形と人間との良いとこどりです。さ、どうぞ♥ したいようにシてください♥」
シャーロットはおねだりするように身体を揺すった。彼女の陰唇が俺のモノの先端をぬるりと咥えこむ。生暖かい快感がじくじくと刺さる。先ほどようやく整った呼吸が、再び不安定にさせられた。
「はぁっ……シャーロット、い、入れるぞ」
身体全体を落とし、モノをシャーロットの中へ突きこむ。
「あぁっ♥ 素敵です、兄様っ♥」
シャーロットは蕩けた表情で身体をよじらせる。それも俺のモノへの刺激へ変わる。
彼女の小さな体躯では恐らく、俺のモノがへその下までくぐっているのだろう。彼女の腰やお腹が動くたび、それは直接俺のモノへの愛撫になる。何というキケンな身体なのだろうか。
「はっ、あっ……大丈夫……？痛くない？」
「んぅ、大丈夫……ですから……♥ 早くぅ、早く動いてくださいっ♥」
顔を真っ赤にして、俺の服の裾を掴んで懇願するシャーロットに煽られて、情欲の炎が勢いよく燃え上がった。
彼女の白くくびれた腰を両手で掴み、ゆっくりと動かす。彼女の膣はきつく俺のモノを締め付け、蠢く壁のひだが鈴口からカリ首、裏筋、竿全体まで縛り取るように、刺激を連続して与えた。
「くっ……はっ、はっ……」
「あっ、あっ♥ 兄様、とっても気持ちよさそうな顔してますよ♥ もういきそうですか？ふふっ、『初めて』ですものね……無理しないで、すぐ出しちゃっても構いませんよ♥」
「……ぐっ！」
二度目の吐精はシャーロットの中だった。これは、童貞を失ったと言っていいのだろうか。
大きく息をついて、彼女の上に覆いかぶさる。暫く、彼女を抱きしめて呼吸を整える。
「いっぱい出ましたね……♥」
シャーロットは甘やかすような口調で言い、俺の腕を撫でた。
腰をずらし、モノを引き抜く。彼女の入口は狭く、尿道に残った精液も逃さず搾り取った。
「んあっ♥」
「はぁ……はぁ……」
「兄様、愛してます……んっ♥」
シャーロットは身体を少し起こし、唇を重ねてきた。彼女の身体を手で支え、それに応える。
シャーロットの柔らかな舌と暖かい口内を舌で撫ぜる。わずかな快感にも息を荒げる彼女に、また昂りが戻ってくる。
大きくなった俺のモノが、シャーロットのお腹をぬるぬると撫でる。
「兄様、まだ足りないですか？」
「……うん」
「良いですよ、満足のいくまでシましょう♥」
俺は再びシャーロットと身体を重ねた。何度も。お互い、汗まみれ愛液まみれになりながら、交わった。
ようやく満足し終えた頃には、時刻は零時をまわっていた。
――――
それから二人で風呂に入り、一緒のベッドで寝た。皺になるといけないから、とシャーロットは服を脱いで、パジャマ代わりに俺のトレーナーを着た。
先ほどの情事でドレスに点々と精液やら愛液が付着したから、明日クリーニングに出さないと。
彼女を抱きながら、考えを巡らす。
もし、さっきまでのことが短い夢だったなら、クリーニングに出さなくてもいいんだろうな。
「おやすみなさい。兄様」
「……おやすみ、シャーロット」
優しくキスをして、目を閉じる。
明日になれば分かる。例え夢でも、俺はずっとシャーロットが好きだ。それでいい。
一見して楽器か何かかと思ったが、俺にはピンときた。小走りにケースの傍まで寄り、ケースの表面に刻印やシールなどを探した。どこにもそれらしきメーカーのものを見つけられなかった。
路地に人気がないのを確認してから金具に手をかける。まるで、俺がそのケースを開くのを待っていたかのように、軽い音を立てて留め金が外れた。興奮気味にケースの上蓋を持ち上げる。
ドール愛好家、収集家としての第六感が当たったのだろうか。緩衝材代わりのシルクが敷かれた内に、静謐に上品な顔立ちの――人間と見紛うほどに精巧な表情の――女の子が身を横たえていた。
「やったっ」
俺は思わずガッツポーズをした。と、慌てて周りを見渡すが、幸い誰も居なかった。
慎重に、彼女の頬を撫でる。指の腹を伝わる肌の感触に総毛立った。まるで本物。否――本物以上。
腕、脚、艶やかな銀髪、そして手触りの良い服や装飾品、どれもが尋常でないことが分かった。
よほどの高級品だろう。コレクターの憧れ。
生唾を飲み込む。
俺はそっと上蓋を閉じ、金具を留め、ケースを抱えて一目散に走り出した。
棄ててあったんだから――
「良いよなっ……！」
――――
全然、良くない！
自分の住むアパートへ彼女を連れ帰った後、改めてケースや彼女を調べた。
俺は勢いで攫ってしまったことを早くも後悔し始めた。
まず、彼女の収められているケースからして普通じゃないことに気付いた。木と皮で作られた重たいケースと内に敷かれているシルク。これだけでも買おうとなったら、貧乏な社会人二年生のドールコレクションの中で一番高いドールより多くのお金をはたかなきゃならないだろう。
そして、本物以上に作り込まれ、怪しく艶やかな人形。
ケースの外、内側、ドール本体、どこにもメーカーの刻印やらなんらかの表示印もないことから、俺は身震いするような推測を立てた。
――オーダーメイドのドール。
ああ、とため息が漏れた。世界に一つだけ、一人のために造られた特別な人形。
一体、どれほどの値打ちがあるのだろう。ここまでのドール、見ることすら敵わなかった。それが今、俺の手に。
ドールの価値は値段じゃ決まらない、と――高級な人形を買えないことへの劣等感を多少含んではいたが――半ば本気で思っていた。
しかし、このドールに格の違いを見せつけられた感があった。
暫くすると、胸の内の歓喜の渦に、ちらりと罪悪感らしきものが顔を覗かせた。
粗大ゴミの山に紛れていたにしてはケースは清潔だったし、本体も完璧な状態でしまわれていた。あまりに出来過ぎていないか？
やはり、持ってくるべきではなかったかもしれない。
しかし、今更元の場所――あのゴミの山――へ戻す気にはなれなかった。
結局、知らんぷりを決め込み、俺は彼女をケースへしまい、彼女を飾っておくためのショーケースの寸法をどうするかを考え始めた。
「かなり大きいからな。サイズに合うショーケースとなるとかなり……保存の仕方も考えなきゃな。遮光カーテン買って、乾燥剤とあれとこれと……」
大まかな見積もりをして、金額の大きさにビビるのも楽しみの一つだった。
趣味らしい趣味がドールしかないので、生活に支障がなければかかる金額がいくらだろうとその分喜びも大きいので苦にはならない。
部屋の隅にケースを置き、風呂と身繕いを簡単に済ませ、さっさと布団に潜り込んだ。
――――
「お疲れ様でした。お先に失礼します」
誰ともつかないオフィスの誰かに適当に頭を下げ、会社を後にした。
彼女を迎えた日から定時退社が増えた気がする。元々、余裕のある時はさっさと帰る性分だったが、近ごろのように進んで、定時で帰れるよう仕事を終わらせるようなことはあまりしなかった。
そのことは俺の同期も気付いていて、『今日も早く帰って人形遊びか？』なんてからかってくる。それに対して俺は『遊びじゃない』と人形の方は否定せず、酒飲みの誘いを断る。
最低限の照明だけ灯した薄暗い部屋に、ぴちゃぴちゃと水音が反響している。
椅子に座らせた彼女――シャーロットと名付けた――の足の指の間に舌を這わせる。ドールなのだから、舌に伝わるのは無味、の筈だが、いつも気持ちが高ぶってくると不思議とほのかに甘い味を感じることができた。
跪いて、犬のように彼女の足を舐めながら、自身のモノを扱く。服は上はTシャツ一枚、下半身は何も身に着けていない。
この無様な姿をシャーロットの前に晒し、その綺麗な眼で視姦され、優雅に歪めた淑やかな唇が俺を嘲笑しているのを夢想しながら、扱く。
「はっ、はっ……！シャーロット……イク……イクよっ……！」
喉元まであまやかな吐き気が込み上げる。身体を張りつめさせる体液が出口を探し、見つけ、そして勢いよく吐き出される。まるで生殖器の嘔吐。
断続的な射精がようやく収まった後、筋肉が一気に弛緩し、身体がくたりと床に沈んだ。
暫くの間、絶頂の余韻に火照った身体を委ねる。
顔を上げるとシャーロットが俺を見つめていた。得体の知れない罪悪感がちくりと胸を刺す。
「ごめん……すぐ片付ける」
気怠く立ち上がり、布巾を取りに洗面所へ行く。
ドールを性的対象として自慰を行ったことは、今まで数えるくらいしか無かった。ましてや、ドールの足を舐めながらなんて変態的なことはしなかったし、考えにさえ上らなかった。
湿らせた布巾を手に部屋へ戻ると、シャーロットが椅子から前のめりに倒れていた。血の気が引いた。
慌てて駆け寄り、彼女の身体を起こしてやる。腕に抱き、あちこち確認したが、幸い精液はどこにも付着していなかった。
ほっと溜息をついたのも束の間、床に目を落とすとある疑念が湧いた。
床に吐き出したはずの精液が消えている。
いつの間にか拭かれていたというものではなく、本当に綺麗さっぱり消えてなくなっていた。
首を捻っていると、腕の中でシャーロットがくすりと笑った。
「えっ！？」
思わずうろたえる。危うく彼女を床に取り落とすか、放り投げるかしてしまうところだった。
バクバクとうるさい心臓を必死に落ち着かせる。多分、抱く力が強くて、彼女のお腹の辺りを圧迫して空気が漏れたんだろう。それを笑ったと勘違いするなんて、馬鹿みたいだ。
彼女は俺が溜息を吹きかけても嫌な顔一つしない。静謐に微笑んでいる。
もし、彼女が生きていたら。
心臓が落ち着いてくると、さっきまでの考えを都合の良いように変えられる。
シャーロットが骨の髄まで愛してくれる。俺もそれに応える。
そうだったら、そうだったら、もう俺は何もいらないのに。それだけで生きていける。
腕の中の彼女の頬をそっと撫で、革のケースの中へ戻してやる。
彼女をショーケースに入れるのは止めにした。きっと俺は、暇さえあればケースの前で彼女を見つめているだろうから。
シャーロットを我が家に迎えてから二か月近くが経つ。平たく言えば、俺は彼女にぞっこんだった。
彼女の眼を見ていると、吸い込まれそうになる。心がブクブク沸き立つような気持ちを感じる。彼女の身体に触れようとするとき、手が震える。
恋か？
馬鹿馬鹿しい、と思う。彼女の前にいない間は。
次は止めよう。いつも終わってからそう思う。
俺は先日と同じ格好で同じようにシャーロットの足を舐めながら、自分を慰めていた。
彼女の足指を口に含み、舌で転がして、右手でモノを擦る。
先日と違ったのは、いくら扱いてもまったくイクことができないところ。
興奮はしているのだが、どこか物足りない。足ではもう、物足りなくなっていた。
息苦しく、それでも一心に足を舐め上げる。ふと、上方の暗がりに眼がいく。
スカートの中――彼女の秘所――
自分のモノから手を離し、彼女を椅子から降ろして、床に優しく寝かせる。
これ以上なく激しく鼓動する心臓を抱えながら、ゆっくりとスカートをまくり上げると、彼女の秘所を覆う一枚の白い布が目の前に現れた。
最初は布越しに指で摩り、次第に我慢が効かなくなりその小さな下着を脱がせた。
ごくりと、生唾を飲み込む。スカートの中へ頭を突っ込む。
彼女の秘所はわずかに膨らみを帯びていて、柔かそうな割れ目の中心に可愛らしいつぼみが収められていた。
吸い込まれるように顔を近づけ、彼女の秘所に口づけた。丹念に舐り、舌先を尖らせて割れ目をなぞる。つぼみをくすぐり、舌を膣内へと滑り込ませた。中は大量に分泌した唾液でぬるぬるとしていて、壁の凹凸が舌を撫でた。柔かかった。
冷静に考えれば、彼女の身体が柔かいなんてことはあり得ない。あり得ないのだが、考えはそこまで至らなかった。
俺はただ闇雲にシャーロットの秘所にむしゃぶりつき、自分のモノを擦った。
この日の射精は今までで一番長く、吐き出された精液の量も尋常でなく、自己嫌悪の感情も一番強かった。
射精後、後始末のために洗面所から布巾を取って戻ると、先日と同じように精液の水たまりは姿を消していた。そして、シャーロットの表情は今まで以上に活き活きとしていた。
布巾をわきへ置き、彼女に下着を穿かせる。小さな下着を彼女の脚に通すとき、改めて秘所を見た。精巧で美しく、艶めかしく再現された生殖器。
彼女を造ったのはよほどの職人か、あるいは変態だな。自分を棚に上げて、苦笑した。
――――
あれからしばらく、シャーロットで自慰をしていない。自慰そのものもここ二週間近くしていなかった。何となく、する気分になれなかった。
仕事のペースも彼女を拾った以前のように戻り、ちょくちょく飲みにも行っていた。
今日は意図せず、仕事が早くに切り上げられた。同僚の誘いを何となく断り、真っ直ぐ家に帰った。
近ごろ、妙なことに人形の数が減っているような気がした。所有していた人形たちとの記憶は何故か薄ぼんやりとしていた。覚えている限りでも、少なくとも部屋から半分近くの人形が姿を消していた。
泥棒か。
最初はそう思って警察に連絡しようと思ったが、止めた。
警察に連絡したら、一般にはあまり受容されないドール趣味を晒さなければならないし、何より、シャーロットのことがあった。
ゴミ捨て場から、半ば窃盗のように攫ってきた彼女を取り上げられないか不安だったのだ。
シャーロットが部屋から居なくなっていたら迷うことなく被害届でも何でも出したが、どの人形が居なくなろうと彼女はいつも同じ場所でケースに粛々と収まっていた。
消えてなくなったドールたちを単純に金に直せば、その額は少なくは無い。しかし、近ごろ給料が少し上がったり、偶々譲ってもらった宝くじが当たったり、幸運続きで上手いこと差し引きゼロになっていた。
心のどこかで、きっとシャーロットが原因だと確信していた。根拠は無いが。
壁を背に座り、隣に置いたケースを撫でる。風呂上がりの石鹸の香りが鼻をくすぐった。
「シャーロットはこの香り、好きかな」
金具へ手を滑らせ、パチパチと手際よく留め金を外す。ケースを開き、彼女を抱き上げ、腕の中へおしこめた。
胸を切るような愛おしさ。彼女の髪に鼻を押し当てて深呼吸をする。彼女の小さな体を愛情をこめて丹念に撫でる。
どうして彼女は人形なのか。残酷すぎる。
俺は知らずのうちに、嗚咽を漏らしながら泣いていた。愛おしかった。
シャーロットが俺を見つめていてくれるなら。もう何度目か分からない願いが、頭の中で血にまみれながらぐちゃぐちゃにもつれ、荒れ狂っていた。
まるで感情の濁流に飲み込まれたみたいだった。
抑え切れず、俺はシャーロットの唇に自分の唇を重ねた。
彼女の唇は柔かく、温かく濡れていた。触れている部分から、何かが交換されていく。身体中の体液が逆流するような気持ち悪い感覚がした。同時に背徳的な快楽が血管の壁を撫でさすった。
突然の異常な感覚に、慌てて彼女を引き剥がそうとする。引き剥がせなかった。
彼女の腕が俺の首に回されている。ぞわりと悪寒が背中を舐めた。
依然、互いの唇は重ねられたまま。止まっていた息を再開させたのは、俺の口を割って入ってくるシャーロットの舌だった。
俺のより二回りほど小さい彼女の舌は唾液に濡れ、すべすべとしていた。ちろちろと俺の舌先を舐めたり、歯茎を擦ったり、俺を十二分に愉しませた。
彼女は唇を離し、俺の口の端に垂れた唾液をぺろりと舐めとって淫靡に笑った。
そして彼女は再び口づけをしようと顔を近づけてきた。
「ちょ、ちょっとストップ」
俺が制すると、シャーロットは不思議そうに首を傾げた。
「き、君……」
「シャーロット、です。兄様♥」
「…………あ、ああ、シャーロット」
「はい♥」
名前を呼ぶと、シャーロットは心底嬉しそうに返事をした。彼女の可愛らしい笑顔に、徐々に緊張が緩んでいく。
何から話そうか思案していると、彼女が先に口を開いた。
「あまり、驚かれませんね？」
「そ……うかな。かなりビビってるけど」
「私がちょっと何かするだけで、みなさん怖がって捨てちゃうんです」
「いや、まぁ……そりゃあ」
「貴方も私を棄ててしまうのですか！」
彼女の眼に涙が浮かんでいた。柔かい銀髪を撫でると、彼女は肩の力を幾分か抜いた。
「棄てないよ」
「よ、良かった……この人なら大丈夫かな、とは思っていたのですが、やっぱりカミングアウトは緊張します」
「この人なら、って何を基準に？」
「私のことを愛してくれて、独り身で……」
「なるほど。ずっと、見てたのか」
「はい♥」
「…………ちょっと待って、ずっと見てたの？」
「はい、ずっと……♥」
「アレとかも君、見てたわけ？」
「アレとは？」
シャーロットは可愛らしく小首を傾げた。
「ほ、ほら……その、君の足舐めたり……とか……」
「はい♥」
「スカートの中に顔突っ込んでシたのも……？」
「お上手でしたわ♥」
シャーロットはポッと顔を赤らめ、その可愛らしい両手を頬に当てた。
俺は顔に血が上ってくるのを感じた。
「うわー！恥ずかしい！死のう！」
「だっ、駄目です！死んじゃ駄目です！」
頭を抱えてうずくまる俺に彼女は、気にしてない、と慰めの言葉を何度もかけてくれた。そのおかげで暫くすると多少気分が落ち着いてきた。恥ずかしいのは変わりなかったが。
「……それで、君……シャーロットは」
「はい」
「……何者なの？」
「私は兄様のためのドールです」
「…………元はゴミ捨て場から攫ってきたわけだけど」
「ええ、とっても嬉しかったです」
シャーロットはふっと笑い、小さな手を俺の頬に這わせた。くすぐったくて、思わず目を細めた。
「好きです。愛してます」
「俺は……」
「ね……続き、しませんか？ここのところ、全然してないんでしょう？」
「…………」
「ほら、兄様のココ、さっきから……ふふ、私のお尻ツンツンしてましたよ……やらしいですね」
シャーロットは手を俺の頬から、ズボンの膨らみへ移した。淡い刺激が、身体に快楽を電流のように走らせる。
「んぐっ……」
ぐにぐにと服の上から揉まれ、俺のモノが一段と大きさと硬度を増す。俺は身をよじりながらも、抵抗せず彼女の愛撫を甘受した。それが嬉しかったのか、彼女は顔をほころばせ、一所懸命に手を動かした。
俺の口をシャーロットの唇が塞ぐ。ぬるぬると隙間から入りこむ舌を受け入れ、自分の舌と絡ませ合う。
シャーロットにばかりしてもらうのは少し申し訳ないので、俺も手を彼女の身体に滑らせた。腰からわき腹をゆっくりと撫で、そして小ぶりな胸を服の上から触ると、びくっと彼女の身体が跳ねた。
優しく揉み、さする。暫くすると、彼女の顔に赤みが差し、途切れ途切れに喘ぎ声を漏らし始めた。
ついばむようなキスを続けながら、俺は左手をスカートの下へと持っていく。薄い下着の上から、彼女の秘所に指で触れる。
「ひゃっ！」
「あ、ごめん……」
「い、いえ……急だったものですから……んぅ……！」
下着の上から分かるくらいに濡れそぼった――ドールなのに？という疑問はもう抱かない――割れ目を、指でくにくにと柔く刺激するだけで、シャーロットは甘い吐息を漏らし、身を艶めかしくよじらせた
「あっ、あっ……いけません……こんなっ……♥」
「何がいけないんだ？」
「いじわるですっ……♥ いやっ♥ はぁっ、あっ、やめっ……♥」
「やめてもいいの？」
耳に口づけ、舌を這わせ、甘噛みするとシャーロットはビクビクと身体を震わせて、くたりと俺の腕の中に身体を倒した。
「ひどいれすぅ……♥ こんなことするなんてぇ……♥」
「……イったのか？」
「い、言わないでください……」
はぁはぁ、と苦しげに息をするシャーロットを抱き締め、背中を摩る。
「はぅ……すみません。私ばっかり気持ちよくなって……」
「いや……」
シャーロットは身体を離し、身を屈めて、俺のズボンのベルトに手をかけた。
「お、おい」
「お口でしますか？それともすぐに……きゃっ！何言わせるんですか♥」
人間離れしたシャーロットの顔のパーツ。それらと不似合いなちょっとばかっぽい言葉づかいも、可愛らしかった。
「……口で」
「畏まりました♥」
彼女はズボンのファスナーを開け、俺のモノを不器用に取りだす。もぞもぞとくすぐったく、それだけで射精感が顔を覗かせる。
シャーロットは眼の前で屹立するモノの先端にチュッとキスをしてから、口いっぱいに含んだ。半分ほど咥えられたところで、先端がこつりと口内の壁をつついた。彼女の小さな口ではここまで咥えるのが精いっぱいらしい。
シャーロットはゆっくりと頭を上下させ、ぬるぬるとした柔かい刺激を俺のモノに与えていく。部屋にぐちゅぐちゅと淫猥な水音が反響する。
愛撫と彼女の濡れた瞳とエロチックな表情に、射精感の高まりを感じる。
「シャーロットっ……ごめん、もうイきそう」
「んー、あむあむあむ……」
「咥えたまましゃべるなっ……！」
へその下の熱いどろどろの塊が尿道をせり上がり、シャーロットの口に吐き出される。受け止めきれなかった精液が彼女の口の端からこぼれた。
シャーロットは口内で精液を舌で弄び、敏感な鈴口をれろれろとしつこく舐めた。
「シャーロットっ……それ、やめっ……！」
「むー……んぐんぐ……」
「だから咥えたまましゃべるなって……！」
射精が収まったのを確認すると、シャーロットは俺のモノをちゅうちゅうと尿道に残った精液を吸いだした。そして、俺のモノから口を離して、喉を鳴らしながら飲み込んだ。美味しそうに。
先ほどこぼした精液も指ですくって舐めとり、火照った顔でにんまりと笑った彼女に、さらなる背徳的な劣情を感じずにいられなかった。
「えへ……兄様のとっても濃いです♥」
「はぁ、はぁ……」
お互いの体液でぬるぬると光る俺のモノが間を置かず再びそそり立ち、快楽を求めてびくびくと震えるのを見て、シャーロットは嬉しそうに笑った。
「では、次はこちらに……♥」
シャーロットはころんと床に仰向けに転がった。下着を脱ぎ棄てて、スカートをまくり、自分の指で秘所を広げて見せた。透き通るように白く、不気味なほどに均衡のとれた太腿と股関節の間に、ピンク色の女性器が愛液に濡れ、ひくひくと蠢いていた。
俺は床に手をついて、モノをシャーロットの秘所にあてがった。鈴口と擦れあい、ちゅっちゅっと音をたてる。入口のあまりの小ささに、懸念を抱く。
「あのさ、いまさら聞くのも何だけど……壊れたり、しない？」
「あはっ、大丈夫です♥ 壊れても、すぐに直りますから」
俺はいまいち信じられなかった。訝しげにシャーロットを見ると、彼女は挑発するように言った。
「人形が言葉を話して、えっちなことだってするんです。ちょっと壊れたくらい、自然に治癒したっておかしくはないでしょう？」
「随分都合がいいね」
「ええ、人形と人間との良いとこどりです。さ、どうぞ♥ したいようにシてください♥」
シャーロットはおねだりするように身体を揺すった。彼女の陰唇が俺のモノの先端をぬるりと咥えこむ。生暖かい快感がじくじくと刺さる。先ほどようやく整った呼吸が、再び不安定にさせられた。
「はぁっ……シャーロット、い、入れるぞ」
身体全体を落とし、モノをシャーロットの中へ突きこむ。
「あぁっ♥ 素敵です、兄様っ♥」
シャーロットは蕩けた表情で身体をよじらせる。それも俺のモノへの刺激へ変わる。
彼女の小さな体躯では恐らく、俺のモノがへその下までくぐっているのだろう。彼女の腰やお腹が動くたび、それは直接俺のモノへの愛撫になる。何というキケンな身体なのだろうか。
「はっ、あっ……大丈夫……？痛くない？」
「んぅ、大丈夫……ですから……♥ 早くぅ、早く動いてくださいっ♥」
顔を真っ赤にして、俺の服の裾を掴んで懇願するシャーロットに煽られて、情欲の炎が勢いよく燃え上がった。
彼女の白くくびれた腰を両手で掴み、ゆっくりと動かす。彼女の膣はきつく俺のモノを締め付け、蠢く壁のひだが鈴口からカリ首、裏筋、竿全体まで縛り取るように、刺激を連続して与えた。
「くっ……はっ、はっ……」
「あっ、あっ♥ 兄様、とっても気持ちよさそうな顔してますよ♥ もういきそうですか？ふふっ、『初めて』ですものね……無理しないで、すぐ出しちゃっても構いませんよ♥」
「……ぐっ！」
二度目の吐精はシャーロットの中だった。これは、童貞を失ったと言っていいのだろうか。
大きく息をついて、彼女の上に覆いかぶさる。暫く、彼女を抱きしめて呼吸を整える。
「いっぱい出ましたね……♥」
シャーロットは甘やかすような口調で言い、俺の腕を撫でた。
腰をずらし、モノを引き抜く。彼女の入口は狭く、尿道に残った精液も逃さず搾り取った。
「んあっ♥」
「はぁ……はぁ……」
「兄様、愛してます……んっ♥」
シャーロットは身体を少し起こし、唇を重ねてきた。彼女の身体を手で支え、それに応える。
シャーロットの柔らかな舌と暖かい口内を舌で撫ぜる。わずかな快感にも息を荒げる彼女に、また昂りが戻ってくる。
大きくなった俺のモノが、シャーロットのお腹をぬるぬると撫でる。
「兄様、まだ足りないですか？」
「……うん」
「良いですよ、満足のいくまでシましょう♥」
俺は再びシャーロットと身体を重ねた。何度も。お互い、汗まみれ愛液まみれになりながら、交わった。
ようやく満足し終えた頃には、時刻は零時をまわっていた。
――――
それから二人で風呂に入り、一緒のベッドで寝た。皺になるといけないから、とシャーロットは服を脱いで、パジャマ代わりに俺のトレーナーを着た。
先ほどの情事でドレスに点々と精液やら愛液が付着したから、明日クリーニングに出さないと。
彼女を抱きながら、考えを巡らす。
もし、さっきまでのことが短い夢だったなら、クリーニングに出さなくてもいいんだろうな。
「おやすみなさい。兄様」
「……おやすみ、シャーロット」
優しくキスをして、目を閉じる。
明日になれば分かる。例え夢でも、俺はずっとシャーロットが好きだ。それでいい。
13/12/07 10:20更新 / ニノウデ