読切小説
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あくまの手の上で
 まったく、自分のことを「できるヤツ」だとか「有能記者」だとか思ったことはないけれど、諸先輩方に顎で使われる日々にはほとほと疲れきった。あまりに過酷な環境に辞職を申し出ると、「楽な部署に異動させたげるから」と残るように指示されて、そのままズルズルと勤め続けている。異動先の部署は以前と比べれば確かに楽だが、顎で使われるのは結局変わらない。
 今日は上司の命令で深夜の森林公園へ取材に来ていた。なんでも、ここでサバトが行われるそうだ。サバトと聞いてすぐに思い浮かんだのは魔女の集会だが、この頃では魔物娘たちの集会をそう呼んでいるらしい。
 魔物娘という種族が現れてから、かれこれ二十年以上は経っている。異形の姿に圧倒されることも多々あるが、魔力についての知識を始め、彼女らの登場によって人間社会はかなりの恩恵を受けている。すでに一般社会で魔物娘の存在はごくありふれた自然なものだが、一方で魔物娘を忌避する人間も一定数いるのだった。そして、そういった人間にとってサバトの存在は脅威であるわけで、サバトをネタに面白おかしく記事にしたら馬鹿みたいに食いつくだろう。それが上司のプランだった。そして、プランを実行するのは僕だった。
 上司から預けられた望遠レンズのついたカメラと、小ぶりな紙袋を草むらの上へ置いた。写真は遠くから撮るのでいい、多少ぼけてもそのほうが雰囲気は出る――そう上司に指示されたままの写真を十数枚撮った。これくらいでいいだろう。割に無理難題を言いつける上司だが、さすがに今回の取材にあたっては写真への注文もおとなしかった。
 かなり遠くではあるが、恐らくは魔物娘たちが十人前後、公園に設置されているテーブルを囲んでいるのがわかった。サバトと言えばもっとおどろおどろしいのを想像していたのだが、各々食事をしながら和気あいあいと談笑しているようだった。だが、それも遠くから見ただけの印象だ。もっと近づいて、確かめなければならない。
 紙袋を逆さに振ると飴玉が二つに、着せ替え人形用の小さなドレスが落ちた。飴玉の一つをポケットにしまい、もう一つを口へと放り込んだ。これは今回の取材用に、上司が調達してきたものだ。飴には魔力が吹きこんであり、ひとつは身体を小さくする効果が、もうひとつには小さくなった身体を元へ戻す効果がある。結構、高かったらしいが、取材が成功すれば経費で落とせるとのことだった。そして残る着せ替え人形用のドレスは、小さくなったあとに着るためのものだった。上司は笑いながら、急ぎだったためにこのフリフリのドレスしか見つけられなかったことを詫びていた。
 頭の中でなにかグラグラと揺れていた。飴玉が口の中で溶けてなくなる頃には、僕の身長はかなり縮んでいた。慣れない視点では正確な身長はわからないが、上司曰く「だいたい手のひらサイズまで縮む」らしい。さっきまで着ていた服を畳んでおこうかと頑張ってみたが、せいぜいシワがつくくらいだった。ここが草陰でよかった、と胸をなでおろしつつ、ピュウと吹いた風に身震いした。残暑が厳しいとはいえ、すでに九月。全裸では寒かった。傍に落としていた着せ替え人形のドレスを頭から被り、袖を通した。着心地も案外悪くないのだが、安物だけに下着や靴はついておらず、スカートの中がスースーした。
 身を隠していた草陰からサバトのテーブルまで、かなりな距離があった。昆虫や小動物は大変だな、などとのんきなことを考えつつ、公園内の灯りを頼りに歩いて行く。遊具や植物に隠れながら、やっとテーブルのある場所へ近づいたのだが、テーブルまでは雑草もよく手入れがされていて隠れる場所がなかった。そして、今居る場所からは会話の内容を聞き取るにも遠すぎた。僕は覚悟を決めて、走りだした。魔物娘たちの脚をかいくぐり、ついにテーブルの下へと辿り着く。こんなに全力で走ったのは学生以来だろうか。息切れがしたが、気づかれないように、ごくゆっくりと息を整える。
 ようやく落ち着いてから、彼女たちの会話に耳を澄ませたが、その内容にはすっかり呆れてしまった。恋人の話、というよりも恋人とのセックスの話ばかりだった。ただし、意外だったのはそれが恋人への悪口や文句でなく、惚気と自慢だったことだ。中には恋人のいない魔物娘もいるようで、数々の惚気に「いいなぁー」とか「私もいつかは……」とか返していた。
 話の内容にはなかなか興味深いものもあったが、これがサバトなのかと首をひねってしまう。取材した記者がことごとく行方不明になった、という噂もあるくらいだったが、あまりのギャップを埋め合わせるための嘘なんじゃないかと思う。延々と続く惚気やセックスの話に飽きると、僕は椅子に座っている彼女らの脚や内腿、股間をジロジロと観察してみた。魔物娘だけあって露出の多い衣装でなかなかいい眺めだったが、自分のフリフリのドレスはどうにも居心地が悪かった。それから、サバトの解散までテーブルの下へ居座ったが、結局、記事になりそうな話は得られなかった。魔物娘たちは丁寧に後片付けを済ませたあと、一人、また一人とテーブルを離れて行った。
 さて、このことを上司にどう報告しようか、と思いあぐねながら、僕はテーブルの下から出た。すると頭上から、あっ、という声がした。顔を上げると、一人の魔物娘が僕を驚いたように見ていた。暗闇の中へボウっと浮かぶような青い肌と髪に、瞳だけが赤く光っている――この種族は確か、デビルと言ったか。人間は国によって性格の傾向が変わると広く信じられているように、魔物娘も種族によって性格が違うことはもはや常識。デビルの多くは意地の悪い性格だと聞いたことがある。それを意識すると一層、手のひらサイズ対等身大の身長差に圧倒されてしまう。
 サバトを盗み聞きしたのだ、彼女がそれを許すだろうか。逃げようか。いや、この身長で走ったって逃げられない。しかし、あの内容で許すもなにも――。
 バタバタと足踏みするような思考は、頭上高くのデビルが左を向いた瞬間、口を開いた。
「ぼっ、僕は小人の国から来たんだが、どうやら道に迷ってしまったみたいだ」
 デビルの彼女はきょとんとした。僕もできることなら、きょとんとしたかった。
「それでその……道を教えてくれないか?」
「道? どこの?」
 彼女の声には聞き覚えがあった。確か、恋人のいない魔物娘の一人だった。
「公園から出る道?」
「あー、えーと……」
 僕は言い淀んだ。この大きさのままで公園を出されるのは非常にまずい。まずは元の大きさに戻らなければいけないが、それには脱ぎ捨てた服をしまった草陰まで行かなければならない。この咄嗟の判断はどうやら、ベストでもなくベターにも届かないバッドだった。大体、魔物娘が存在しているとは言え、小人の国とは余りにもファンタジーじゃないか。
 次の言い訳を考えていると、デビルの彼女はしゃがみこんだ。僕のいる場所は公園の灯りが遮られた。
「ねぇ、アナタ。名前はなんていうの?」
「名前? ……か、カエデ」
 偽名を考えようかと思ったが、咄嗟に思いつかず、本名を言ってしまう。
「そ。私、アカネ。ねぇ、どうして女の子の服を着ているの?」
 アカネは手を伸ばして、僕のドレスのスカートを摘んで、めくり上げた。余りに突然で、中を見られてしまった。
「な、な、なにすんだ!」
 慌ててスカートをぎゅっと押さえるが、アカネの指は裾を離してくれない。
「あはっ、かわいいねー。パンツ穿いてないんだ?」
「それはついてこなくって……」と、もごもご言い淀む。
「んー? なに、聞こえなーい」
 アカネはなおもグイグイとスカートを引っ張り回した。
「だから、やめろって! 破けるだろ!」
「あはは、ごめんごめん」ようやく、アカネはスカートを離した。
「でも、どうして男の子なのに、女の子の服を着ているの?」
「それは……」
 小人の国ではこの服装が一般的、なんて言う気にもなれなかった。僕が黙っていると、アカネは勝手に「女装趣味のある小人さんなんだね」と納得してしまった。
「よく見ると、カエデくん、結構かわいい顔してるよね。ドレス似合ってるよ♥」
「……そりゃどうも」
 なんとなく照れくさくて頭をかくと、アカネの指につんと脇腹を突っつかれた。
「うひゃっ」
「うーん、かわゆい」
 アカネはそう言って、つん、つん、としつこく脇腹を突っついてきた。
「あっ、んっ……や、やめろ」
「本当にやめてほしいならさー、逃げればいいのに♥」
 アカネはニヤニヤと笑いながら両脇から突っついてくる。つん、つん、つん。そのたび、僕は身体を右へ左へ泳がせてしまう。アカネのニヤニヤ笑いにカチンときて、僕はいきなり向きを変えて走りだした――が、すぐに、彼女のさっと伸ばした手に捕まえられる。
「おいこら! 離せよ!」
「んっ、んんっ、んーん♪ カエデくんって誘い受け? なんかさー、こう、ツボを抑えた感じするー」
 今の僕の身長からすると、彼女の指は人間の腕ほどの太さに感じられる。柔らかくてスベスベとした指が拘束を緩め、脇や腹の辺りに刺激を走らせた。始めはむず痒いだけだったのが、徐々に力加減のコツを覚えたのか、的確にくすぐってくる。
「んっ、く、っぷ! あははははっ、やめてくれ! やめろ!」
「ねぇー、どうして逃げるの? 道を教えてあげるって言ったのにぃ」
「違うぅ……あははっ、違うんだ!」
「なにが違うのー」
「離せっ、離せぇ!」


 ――――


「はあ……はあ……」
「カ、エ、デ、くぅーん♥ 大丈夫かなぁ?」
「う、るさいぞ……」
 彼女がやっと離してくれた頃には、僕はもう笑い疲れてクタクタだった。芝生の上へぽとりと落ちて、仰向けに横たわると荒い息をついた。
「うふふ、うふ♥」
 アカネが例のニヤニヤ笑いを浮かべたままスカートを捲ってきても、なすがままにしておくしかできなかった。
「あはっ♥ カエデくんのちっちゃなおちんちん、勃起してるよー♥」
 アカネの巨大な指に脇腹をくりくりとなぞられ、嫌でも身体がビクビクと反応してしまう。
「よーく見ないとわかんないけど、スカートの中、がまん汁でベトベトだねー。くすぐられて感じた?」
「う……うるさい……」
「カエデくんはー、女装趣味がある上に、くすぐられて感じる変態だもんねー♥」
「あぁっ、く……!」
 アカネの人差し指が僕のペニスにつんと触れた。指が離れるとカウパーが糸を引いた。
「ちっちゃくてもおちんちんって固いんだねー♥」
 つん、つん、と断続的に淡い刺激がペニスを突いてくる。熱い塊が下腹へゴボゴボと集まってくるのがわかった。
「あっ、あ、あっあっ、あっ……!」
 アカネの指につつかれて五回目に、僕は射精してしまった。精液が彼女の指先にかかったけれど、彼女からすればほんのわずかな量なのだろう。
「あはははは♥ 出しちゃったねー、小人さぁん? せっかく女の子の格好してるのに、おちんちん気持良くって、ぴゅっぴゅって白いの出しちゃったねー♥ あっははははは♥ かっこわるーい♥」
 恥辱という言葉を、こういうときにこそ使うのだろう。顔中が熱く、悔しさのせいで目には涙が滲む。ペニスに残っていた快感の波が引き始めると、僕はアカネの身体に目を走らせた。
 ムチムチとしているが全体的に凹凸のないプロポーション、小さい胸と小さい股間(今の僕からすると巨大だが)とだけを黒くぴっちりとしたビキニらしい布が覆っている。寒くはないのかと思うより前に、もしも自分が元の大きさだったらこんな小娘ヒィヒィ言わせてやるのにと唇を噛んだ。アカネはそれを目ざとく見つけ、またニヤニヤと笑った。
「あははっ♥ 出したばっかりなのに、旺盛なんだから♥ カエデくん、そういうイヤらしい視線ってすぐにわかるんだからね♥」
 アカネは精液のついた指を一度舌で拭ってから、上下のビキニを少しずらして、隠されていた部位を見せつけてきた。乳首と性器の色は周りの肌より少し濃い青色をしていた。薄い胸は下から見上げるとお腹から滑るようなラインが背徳的で、M字に開脚した間で性器はヌルヌルと愛液を漏らしているのが月影でわかった。
「どーお? あはっ♥ ほら、また勃ってきてる♥」
 こんな小娘――元に戻れば、元に戻りさえすれば――この青い性器にペニスを挿入して、犬みたいに腰をヘコヘコ動かしたい。思わず歯噛みするほど、アカネはエロチックだった。彼女は意地悪く笑って、ビキニから手を離した。
「はいっ、おしまーい♥」
 元のように、大事なところは隠れてしまった。アカネの身体を、この腕の中に抱けたら――しかし、僕は今手のひらサイズなのだった。
「見せたげるのはおしまいだけどぉ……でも、おちんちんは勃っちゃったままだねぇ?」 アカネは僕を手にとって(文字通りだ)、ゆらゆらと持ち上げた。彼女の顔の傍へ近づくに連れ、甘やかな吐息がドレスを揺らす。
「フェラチオしてあげる♥」
「ん、フェラチオ……?」
 アカネは青い舌で唇をぺろりと濡らしてから、口をあーんと開けた。これからなにをされるか感づいた瞬間――もう遅い、僕の下半身は彼女の口内へ呑まれてしまった。
「あああっ!」
「んふっ♥」
 ドレスのスカートがアカネの唇を隠してしまって、僕にわかるのは下半身全部をヌルヌル撫でる感触と、ちゅっちゅっと絶妙な加減で吸いつく水音だけだった。肉が腰から下を覆っている、物凄い熱だ――頬の内側なのか、それとも舌なのか。彼女の口内へ呑まれて数十秒もしない間に、僕は射精した。腰がガクガクと震える。射精した直後であっても、アカネはモグモグと口を動かした。彼女の目はスカートの外から僕の表情を捉え続けていた。
「ああっ、うっ、あっ! アカネ、だめらって……こんなっ……♥」
「んぅふふふ〜♥」
「ああああっ!」
 さきほどの射精から間もなく、僕は二度目の射精をした。わけがわからない快楽の波が思考をすべてさらっていったようだった。アカネの口の中は僕が今までに体験したことのない快感を、怒涛の勢いで与えた。
 三度、四度、五度――射精の回数を経るたびに、僕は理性を量り売りしている気分になった。
「はへぇ♥ もっとぉ、もっとぉ♥」
 何度目の射精からか定かでないが、僕は自ら腰を震わせながら彼女に射精を懇願していた――ただ、小さくなって彼女の口内へ呑まれただけなのに。
 また、イク――。


 ――――


 僕の意識は朦朧としていた。アカネが僕を手の上へ吐き出したとき、口外の寒さに少しだけ覚醒しかける。僕の腰から下はアカネの涎と自分の精液でぐちゃぐちゃだった。ペニスがヒクヒクと痙攣しているような感覚があった。
「あらぁ、ちょっとやりすぎたかも♥」
 ごめんね、とアカネの大きな指が僕の頭を撫でてくれた。僕はだらしなく笑うしかできなかったが、アカネはそれを見て笑い返してくれたようだった。
「ねぇ、カエデくん。せっかく小人の国から来たんでしょう。私とお付き合いしない?」
 アカネが言うのへ、力なく頷いた。
「やたっ! じゃあ、私の家で一緒に暮らそうね♥ 大丈夫、安心しなさいっ。ちゃーんとカエデくんが過ごしやすいお家作ったげる!」
 それから、アカネはちょっと照れたように頬をかいて言った。
「あのね、最初は小人さんをからかうだけのつもりだったんだけど……予想以上に、その……君ってば本当にかわいいんだもん♥」
 アカネの手の上でゆらゆらと揺れる帰り道の途中で、僕は上司に借りたカメラとか元の大きさに戻れる飴のこととかを忘れてしまいそうに――眠ってしまった。
15/08/22 21:30更新 / ニノウデ

■作者メッセージ
お久しぶりでもないですか、こんにちは。
小人化ということで、某書き手様ををリスペクトさせていただきました、ニッチでエッチなSSをいつもありがとうございます。
そのうち、生活編とか書いてみたいですね。

(投稿後、追記)サバトが公式でどういうものか言及されているのをすっかり忘れておりました。サバトという言葉から連想するイメージが全然違ってしまっていたら、本当に申し訳ありません。直すかどうか迷ったのですが、反省も込めてそのままにしておくことにします。すみませんでした。

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