レイラちゃんと、人間失格な僕
「おじさん、お世話になります」
「いいのいいの。レイラちゃん、昔はたまにうちに泊まったりしてたんだよ。覚えてる?」
もう高校生にもなったレイラちゃんは恥ずかし気に俯かせていた瞳をこちらに向けた。
「はい、しっかりと」
「レイラちゃん昔から賢かったもんなあ」
「そんなこと……」
レイラちゃんは恥ずかしそうに頭を下げた。ぴこぴこと尻尾が揺れているのが可愛らしい。
昔に比べてかなり大きくなった。まあ当然なのだが、きっと種族的な理由もある。
レイラちゃんはグリフォンだ。翼と、猛禽類の爪を持ち、下半身は獅子のものになっている。
獅子の下半身は、すらりとしているものの当然人のものより大きいし、腰巻きのように生えたたてがみが更に大きく見せている。つられて身体も大きく、高校生なのに身長は僕と大差ない。胸も大きい。
「そういえば、レイラちゃんって巣持たないの?」
弟夫婦の娘で、弟からグリフォンの巣に対する執着を聞いていたので、通学のためとはいえそう簡単に住処を変えられるとは思えないのだが。
レイラちゃんはにこっと笑ってスマホを振った。
「私の宝物は全部これとパソコンに入ってるので」
「現代人……」
今どきの魔物娘はそこまでデジタル化してるのか。まあ、部屋に執着されて何も取り出せなくなるよりはよっぽどいいか。
子供の時から写真を撮るのが好きだったことを思い出した。微笑ましい記憶だ。
レイラちゃんは尻尾でころころと器用にキャリーケースを引きながら、勝手知ったるとばかりに家の中をとことこ歩いていく。
「二階の右の部屋ね」
「ん、わかりました」
本当によく覚えているもので、レイラちゃんはそのままキャリーケースを持ち上げて階段を上がっていった。
レイラちゃんは賢いね。彼女が子供のころに繰り返していた言葉が、また口をつきそうになった。
レイラは兄貴を気に入ってるから。弟はそう言った。
しかし、うちに来てからというもの、レイラちゃんはニコニコしながらスマホを眺めていることが多いのだ。
「何を見ているんだ?」と尋ねても、「宝物だから秘密です」としか言ってくれない。
とはいえ、別に嫌われているわけではないというのはわかる。
それが一番よくわかるのが食事の時だ。
僕は仕事をしながら、ほぼ毎日自炊をしている。それが弟が僕に娘を預けた理由の一つでもある。
「あーん」
レイラちゃんの口の中で、舌がゆらゆらと揺れる。
レイラちゃんは食器を使えないのだ。なんせ手が鳥の脚のような形をしている。だから執拗に「あーん」を強請ってくる。
「あーん」
だから、僕が隣に座って、代わりに箸やスプーンを使ってレイラちゃんに食事を与える。
その際にいちいちレイラちゃんは嬉しそうな顔をするのだ。これでは嫌われているとはとても思えない。
箸を引き抜くと、レイラちゃんとの間に唾液の橋が架かる。
それがまたいやらしく見えるのは、僕が意識しているからだろうか。
毎日の朝と夜の食事が、変な意味で楽しみになってきていることだけはレイラちゃんに知られたくなかった。
スマホを見るレイラちゃんの笑顔さえどこかいやらしく見えて、僕は慌てて目を逸らした。
僕の生活はレイラちゃんが来て、少し楽になった。
週末になると、洗濯や掃除をしてくれるからだ。
「おじさん」レイラちゃんが言う。「洗濯機回しときました」
とはいえ、何から何までできるわけではない。レイラちゃんの爪は鋭く、一枚一枚服をつまんで干そうとするとどうしても穴が開いてしまうそうだ。
だからこうなってしまうのだ。
洗濯機が止まってから、僕はレイラちゃんが自室にいることを確認すると、黒いパンツをおそるおそるつまみ上げた。
大人びた紐パンの、生地の部分に穴が開いてしまっている。それがやけにエロティックで、僕はそれから目が離せなくなって。
息が荒くなるのを必死に抑えながら、そっと手を添える。心臓がうるさい。
ゆっくりと広げてみると、その真ん中。レイラちゃんの女の子の部分が当たっている場所に縦に穴が開いていて、まるでそういうグッズのようで。
とことこっと足音がして、僕は慌てて洗濯機にパンツを放り投げた。
ちょん、とレイラちゃんが顔を出す。
「あ、終わってますね。ちょっと気になってたんですよ」
そう言って、レイラちゃんは洗濯機から一つの布を取り出した。黒い、紐パンだ。
紐の部分を器用につまんで広げたレイラちゃんは少し顔を赤らめた。布も広がり、真ん中の細い穴がはっきりと見えた。
「やっぱり穴空いてる……。ほら、見てください」レイラちゃんが僕にパンツを見せつける。裂け目を見せつける。「私がやるとこうなっちゃうんで、干すのはお願いしますね」
その裂け目が何かを暗示しているようで、僕は思わず凝視してしまって。その穴を通してレイラちゃんの細めた目と目が合って、僕はきょろきょろと視線をさまよわせた。心臓が破裂しそうだ。
「わ、わかった。干すのはやっとくから」
「はい、お願いします。私、ちょっと買い物に行ってくるので、何かあったら電話してくださいね」
僕はその足音がとことこと階段を上っていき、扉の音がして、ようやく大きくため息をつけた。
心臓に悪すぎる。今どきの子には羞恥心ってものがないのか。
緊張から解放された僕はぶつくさと、その穴の開いた紐パンを手に取った。
まるで、レイラちゃんの秘裂のようなそれが目に入る。愚痴が止まる。リラックスして起き上がり始めた僕の陰茎が、しっかりと硬さを持ち始める。
「それじゃ、行ってきまーす」
少し跳ねたような楽しげな声。
レイラちゃんは、ちょうど出かけた。
姪だとか、人間として失格だとか。そんな思いは確かにあった。
でも、僕はそれを。
レイラちゃんのパンツの裂け目を、肉棒が通る。それだけで背徳感と、冷たいレースの感触が気持ちよくて。
僕は、パンツごと自分のモノを握りしめて、射精してしまった。
とんでもない罪悪感に包まれた僕は、パンツと手を洗いながら、また、大きくため息をついた。
今日は土曜日だ。だから昼ご飯も家で食べることになる。
僕の箸からそうめんをすすったレイラちゃんが目を細めて言う。
「おじさんって、彼女さんとかいないんですか? というか、いないですよね」
「うっ」
魔物娘に溢れるこんな時代だが、確かに生まれてこの方彼女がいたことはない。だが、なぜそれをわざわざ言うのか。
僕が尋ねると、レイラちゃんはすっと通った目をぱちくりさせた。
「いやあ、ラッキーだったなと思いまして。それだけです」
そう言ってレイラちゃんは口をすぼめてそうめんを啜る。
「まあ、居てもおじさん家に住んでたかもしれないですけど」
「えっ」
「そうなると大変ですよ」レイラちゃんが言う。「セックスとか」
僕は存外直接的なワードが飛び出したことに驚いた。
少し顔が赤くなっているのがわかる。僕は言った。
「それ以上に、彼女とレイラちゃんが喧嘩したりしないかが心配だよ」
レイラちゃんは首を傾げた。
「大丈夫ですよ? 魔物娘ってハーレムOKな人多いですし。まあ、私の場合は、私一人がいいですけど」
「いや、そういうことじゃなく」
人間関係というのは複雑で、往々にして面倒だ。そして僕は大抵その面倒を引き起こす。
突き詰めると、僕が結婚もしていないのに大きな家を借りているのも、それが理由だ。
「ま、大丈夫じゃないですかおじさんなら」レイラちゃんは最後の数本を啜って言った。突き出された薄い唇が動く「にぶちんですし」
「えっ」
思ってもいなかったことを言われて僕は固まった。
「だって、おじさん今まで彼女の一人もいなかったんですよね。というか、童貞ですよね?」
「え、いや。そ、そうだけど」
「それだけで好きになるような魔物娘もいますよ。ユニコーンとか。そういう人と結婚してない時点で無理でしょ」
だから、とレイラちゃんは言う。
「安心して私を住まわせてくださいね」
流れるように僕をバカにしたレイラちゃんの笑みは可愛らしく、僕は怒る気にもならず頷いたのだった。
全部食べ終わって食器を洗っていると、レイラちゃんがビニール袋を持ってきた。
「さっき、ミカン買ってきたんです!」僕は思い出した。そういえば、レイラちゃんは昔からミカンが好きだったな。「テレビ見ながら食べましょう!」
その目はきらきら輝いていて、僕はレイラちゃんを膝に座らせてミカンを一つ一つ食べさせていた光景を幻視した。
食器を洗い終えてソファに向かうと、レイラちゃんがぽふぽふと隣を叩いている。
「おじさん、ここ」
まさかな、とは思っていたが膝に座らせることにならなくてちょっと安心した。
隣に座る、とはいえ。
レイラちゃんはグリフォンで、翼が生えている。
それこそ昔は気にならない大きさだったが、高校生ともなるとかなり大きい。
二の腕と一体化しているため、隣に座るのは邪魔じゃないだろうか。
僕が浅く座って落ち付かなさげにしていると、レイラちゃんは腕を少し上げて言った。
「もたれていいですよ。腕の部分ですから頑丈ですし、ふわふわしてて結構気持ちいいですよ」
そう言われ、僕は恐る恐る背を預けた。
もふもふした羽毛がうなじに当たって確かに気持ちいい。翼とレイラちゃんに挟まれて、まるで腕枕されているような感覚で少し恥ずかしいが。僕の腕がちょっとレイラちゃんに当たって、少し意識して肌が当たらないようにした。
僕は誤魔化すようにミカンを一つ取ると、それを剥き始めた。
「あーん」
そしてレイラちゃんの口元に持っていくと、その口が僕の指ごと含んだ。そして何でもないかのように口を離す。
レイラちゃんは僕に見えないように片手で器用にスマホを弄っている。
僕は少し自分の指を見つめて、次のミカンを取って。
「あーん」
また指をちろりと舐められる。レイラちゃんは無反応だ。猛禽類を想像させる鋭い目が、やわらかくスマホに向けられている。
腕枕しているような姿勢を気にしないところといい、かっこよさのある美人に育ったことといい、僕よりよほど男らしいなぁ。僕は姪っ子の成長に少し感動した。
また一つ取ったところで。
「おじさん」レイラちゃんが僕にスマホを向けていた。「はいチーズ」
機械音。カメラの作動音だ。
レイラちゃんがにやりと笑った。
「ほら、お父さんがおじさんの様子送れって言ってくるんで。無事に腕枕されてるおじさん、撮っちゃいました」
「ちょ……」
誤解を生みそうな言い方をされて、僕は思わずスマホに手を伸ばして、焦ったレイラちゃんが慌てて手を引いて。
「あ」
スマホがころりと僕の足元に落ちた。
「ご、ごめん」
僕は反射的に拾おうとしてーー次の瞬間、ソファに押し倒されていた。
ふかり、とソファが柔らかく二人の身体を受け止めた。
僕は唖然として馬乗りになったレイラちゃんがゆっくりと首を振るのを見ていた。
「ダメ、ダメです」
レイラちゃんが荒く息を吐く。顔を赤くして、押し殺したような低い声で言う。どくん、と心臓が高鳴った。
「アレには私の宝物がいっぱい入ってるんですから」
僕はあっけにとられて、レイラちゃんが身をかがめてスマホを取って、とたとたと自分の部屋に駆けていくのを見送ることしかできなかった。
うん。僕はミカンを食べた。怒らせちゃったなこれ。
レイラちゃんが身をかがめた際に、大きな胸が当たった腹部が熱を持つ。僕の気も知らないで、息子が反応する。
ホント何やってんだろ。僕。
僕が人間関係をうまく構築できない理由の一つは多分これだ。
夕食時、僕はレイラちゃんの怒ってなさそうな様子を見て、俄然スマホの中身が気になってきたのだ。
人としてどうなの、と言われる部分である。僕はそういうことをやらかすたびに自省するのだが、解決したと見るや否や忘れてしまうのだ。
夕食を終えて一息つくと、レイラちゃんは「ちょっとアイス買ってきます」という言葉を置いて外出した。
僕は迷っていた。
人としての尊厳を守るか。欲望に負けてレイラちゃんのパソコンを見るか。
当然人間として正しいのはどちらかわかっている。しかし気になる。
姪の秘密を覗こうだなんて叔父としても最低だ。しかし気になる。
そもそも部屋の主の許可を取らずに、男が女の子の部屋に入る時点でかなり危うい。しかし気になる。
僕は迷い、そして重い腰を上げた。
レイラちゃんはしっかりしている。部屋も散らかっているとかそういうことはなく、しかし生活感はあって女の子特有の匂いを僕の鼻はしっかりと嗅ぎ取っていた。
そして勃起していた。我ながら変態だが、現在進行形で人として最低なことをしているのだ。何をされても、何と言われても文句は言えない状態だった。
そんなことを思いながら、机に置かれたノートパソコンを開く。
特に怪しいところはない。しかし、僕の目はしっかりと手がかりを見つけていた。
クイックアクセスだ。最近のパソコンは便利で、よく使うフォルダや最近使用したファイルに簡単にアクセスできるようになっている。
そこには動画ファイルの名前がずらっと並んでいた。少し興奮が高まる。
僕は少しためらってから、その一番上のを再生した。
その内容はーー。
その時。
背後で、どさりと何かが落ちた音がした。
咄嗟に振り向く。レイラちゃんが真っ赤に蕩けた顔で僕を見ていた。
画面の中では。
洗濯機の前で、僕がレイラちゃんのパンツを手に、まさしくオナニーを始めるところだった。
「レイラちゃーー」
一言も言い切らないうちに、レイラちゃんが僕を掴んで投げた。
気が付けば僕はベッドに押し倒され、レイラちゃんが乱雑に服を脱ぎ捨てて腰の上に跨っていた。
「おじさん」
レイラちゃんが勢いよく僕のズボンをずり下げる。レイラちゃんはもう何も履いていない。
既に勃起していた肉棒が晒される。レイラちゃんが目を細めた。そ、と先端が人と獅子のパーツの境目にあるたてがみに隠されていた割れ目に添えられた。
「まっ」
「何やってるんですか」
ダメですよ。レイラちゃんの声は、冷たいのに明らかに熱に浮ついていた。
僕の制止の声も聞かずに。ずぷっ、と腰が降ろされて、僕とレイラちゃんの腰が密着する。確かな熱のある締め付けに身体が震えた。ふかふかしたたてがみが無邪気に腰をくすぐってくる。
画面の中では僕が、レイラちゃんのパンツに肉棒を通して擦っている。
レイラちゃんが何かを堪えるようにゆっくりと腰を動かした。
「あっ、ダメ……こんなの……」ぐ、と強く剛直が締められる。「もっと、ちゃんと……でも」
どすん、と腰が降ろされる。ふかふかした獅子の毛皮が、心地よさを感じる間もなく離れる。
一瞬冷静さを取り戻したようなレイラちゃんが再び紅潮した。
激しく腰を叩きつけながら、レイラちゃんは叫ぶように言う。
「なんで今、こんなことしたんですか! もっと、もっとちゃんとしたかったのに!」
僕はもう何が何かわからなくなって、擦りたてられる肉棒の快感だけが頭に残って。
レイラちゃんがぐっと腰を押し付ける。先端が強く圧迫された瞬間、僕は射精してしまった。
それが終わると、たちまちレイラちゃんが腰を振り始める。
「もういいですっ! 孕んでから考えますからっ」
レイラちゃんの腰が振り下ろされるたびに、亀頭が子宮と潰し合って強すぎる快感に身体が震える。
もういつ射精したのかもわからない。
レイラちゃんの動きを止めようとするも、腕が押さえられていて上がらない。
「レイラちゃん、あの動んっ?!」
僕の言葉を唇を重ねることで塞いだレイラちゃんが言う。
「もう、アレについては何も言わないでください。わかってても、全然我慢できないんですから」
言葉は冷静だ。だが腰の動きは全く緩んでいない。
下半身が快感に溶ける。
呆けて開いた口にレイラちゃんが吸い付いて、舌を絡めて捕食するように甘噛みしてくる。
気が付けば気を失っていた。
下半身に淀む快感と、カシャ、カシャという機械音。
そして視界いっぱいに広がる、獣の脚とたてがみに隠しきれない秘部。とろとろと粘度の低いそれが、僕の顔に垂れてくる。僅かな獣臭さに混ざった淫臭が鼻をついた。
目を覚ましたとき、真っ先に感じたものがそれだ。
「ぇ、レイラちゃん?」
「あぁ、起きましたかおじさん。もうちょっとで終わるんで、待っててください」
屹立した肉棒に何か暖かく濡れたものが当たる感触と、わざとらしく作られたデジタルなカメラの音。
止めようとした僕を黙らせるかのように、レイラちゃんが腰を落としてくる。甘ったるい、優しい声で言う。
「ふふ、あとでおじさんのも撮ろうね」
ぞっとした。
手はしっかりと脚で押さえられていて上がらないし、脚もちょっと動かすとそれ以上動かせなくなる。金属音がする。
僕は縛られているようだった。
僕の口にしっかりと股間を押し付けたレイラちゃんが言う。
「舐めてよおじさん。会社に、今の写真送っちゃうよ?」
恐怖より、奇妙な興奮が先立った。
舐めなければ身が危ないのだ。そういう言い訳が僕の動きを許してくれた。
恐る恐る口を開けると、どろどろとした粘液がこぽこぽと湧いては流れ込んでくる。
いやらしさを結晶にしたような、熟れたミカンのような濃い柑橘の味がした。
媚液だ。わかっていても飲まなければ溺れてしまう。僕は必死になって飲み込み、気が付けば自ら愛液を求めて割れ目に舌を突っ込んでいた。入り口がきゅうきゅうと吸い付いてきて、代わりに愛液を垂らしてくれる。
「あっ、ふふ。おじさん必死だね」
からかうような声もどこか遠く感じる。ぼんやりとした頭の中に、ここに突っ込んで腰を振りたいという思いが強くなっていく。
腰が勝手に動こうとして、レイラちゃんに押さえつけられる。
「もう、バカなおじさん。忘れちゃったの? 私のパソコンの中の動画」
ふっと脳裏に浮かびあがる明らかにマズい動画群。瞬く間に欲望が冷えてゆき、頭が覚めてゆく。
レイラちゃんが腰を退けたのをこれ幸いと僕は上半身を起こした。全裸のレイラちゃんと、広げられ拘束された俺の脚が見える。
僕はくらくらする頭で尋ねた。
「あ、あの動画は一体」
「おじさんのオナニーだよ?」
「そう、じゃなくて」
僕は何と言えばいいかわからなくなった。
オナニー動画もそうだし、唐突な逆レイプもそうだし、今こうして拘束され写真を取られていることもそうだ。
レイラちゃんが僕を安心させるように優しく笑う。
「大丈夫だよ? 盗撮してるだけだから、見てたわけじゃないし」
「盗さっ」
僕は絶句した。
そんなもの、仕掛けられていると思ってはいなかった。当然だ。誰が普通に暮らしている同居人が盗撮用にカメラをセットすると思うのか。
ベッドを降りたレイラちゃんが、パソコンをスムーズに立ち上げて操作していく。
「これが今日のやつでしょ」
更衣室。
「これが昨日のやつで」
僕の部屋。
「これが先週末のやつ。で、これが私が来る前のやつね。三年前のこれはお気に入り」
レイラちゃんが次々と動画を再生していく。
風呂場。リビング。この部屋。トイレ。台所。ベランダ。
カメラは僕の住んでいる家のほぼ全てを網羅していた。
「い、いつから」
「五年前かな? あ、もう六年前か。ちゃんと家主には許可貰ってるから安心して」
頭に浮かんだのは十歳くらいの、幼いころのレイラちゃんだった。理知的な目で僕を見上げていたレイラちゃん。
「でも、悪いのはおじさんなんだよ。あんなに私を惚れさせておいて、放っておくなんてひどい」
だから、とレイラちゃんは熱に浮かされた声で続ける。
「変なのがつかないように見てたの。ずっとずっと。いつでも。それで、どんどん宝物が増えちゃった。あ、これ。最初の宝物だね」
パソコンに表示されたのは寝ている僕に幼げなレイラちゃんがキスをしている可愛らしい画像。
僕は何も言えなかった。
レイラちゃんは興奮を隠しきれない声であは、と笑った。
「でももういいんだぁ。これからは直接見るから。おじさんから手を出してくるのは、もうちょっとかかると思ってたんだけど」
「手を出したって、僕はただ……」
秘密を覗こうとしただけで。僕は言葉に詰まった。
レイラちゃんの笑みが深まる。
「おじさんもこうなることがわかってて、手を出してきたんだもんね? 同意の上、だから子供ができてもいいよね?」
もっといっぱい誘惑しないとダメだと思ってたんだけどなぁ、とレイラちゃんは小首を傾げた。
僕はぽかんとした。
「えっと、どういうこと?」
レイラちゃんはきょとんとした。
「おじさん、知ってるよね? グリフォンのこと。お父さんも伝えたって言ってたし」
「うん? うん。縄張り意識が強いとかなんとか……」
僕はレイラちゃんが何を言いたいのかわからなくて首を傾げた。
慌てたレイラちゃんが僕の首元を掴んで揺さぶってくる。爪が当たるが、思ったほど痛くはない。
「ホントに知らないの?! 嘘ついてたらただじゃおかないんだから!」
「し、知らないって、何を? 縄張り意識が強いって話は聞いたよ? え? 違うの?」
「違わない、けど!」
でも違うの、と言わんばかりにレイラちゃんが首を振る。
「だから!」
続いた言葉は僕を固まらせて余りあるものだった。
「グリフォンは、宝物を取られそうになるとレイプしたくなるの!!」
その声は部屋中に響きわたった。
レイラちゃんが顔を赤くして息を荒げた。
僕はしばしの硬直ののち、ようやく口を開けた。
「えっと。じゃあ、僕が手を出したっていうのは」
レイラちゃんが僕に馬乗りになって怒ったように言ってくる。
「じゃ! じゃあ! 私が勝手に盛り上がっただけってこと!?」
「だけっていうか……」
僕はどこから言えばいいのかわからなくなった。
なんとか舌を回す。
「いや、僕が悪かったよ。ごめんね」
「……そうですよぉ。おじさん、ホント何してるんですか。私じゃなきゃ、もう人生終わってますよ」
もうほんとヤダ、と言いながらレイラちゃんはべたりと僕の身体に体重を預けた。レイラちゃんを真正面から見るのが恥ずかしくて、僕は顔を横に向けた。
パソコンの画面では、スライドショーとして僕とレイラちゃんの変則的なツーショットが次々と映されている。
「私も、もうちょっと我慢できると思ってたんですけどね。無理でした」
「その、欲望って」僕は尋ねた。「言わなくてもわかるの?」
ちょん、と首を傾げたレイラちゃんの顔が、みるみるうちに愉悦に染まっていく。
「ね、ね、おじさん。今度は誘ってるんだよね? 同意だよね? 我慢できないって、私言ったもんね?」
器用に腰が動かされ、ずぶずぶと侵入していく。快感に腰が震える。
僕はこれだからダメなのだ。
動画のこととか、弟になんて説明するのか、とか。
目の前の快楽に弱すぎる。
レイラちゃんが腰を振るたびに、そういう大事なことがどうでも良くなって、レイラちゃんと、レイラちゃんの与える快感だけが大事になっていく。
僕とキスを交わすレイラちゃんは笑っていた。それだけで、ダメな僕も少しは報われた気がした。
「いいのいいの。レイラちゃん、昔はたまにうちに泊まったりしてたんだよ。覚えてる?」
もう高校生にもなったレイラちゃんは恥ずかし気に俯かせていた瞳をこちらに向けた。
「はい、しっかりと」
「レイラちゃん昔から賢かったもんなあ」
「そんなこと……」
レイラちゃんは恥ずかしそうに頭を下げた。ぴこぴこと尻尾が揺れているのが可愛らしい。
昔に比べてかなり大きくなった。まあ当然なのだが、きっと種族的な理由もある。
レイラちゃんはグリフォンだ。翼と、猛禽類の爪を持ち、下半身は獅子のものになっている。
獅子の下半身は、すらりとしているものの当然人のものより大きいし、腰巻きのように生えたたてがみが更に大きく見せている。つられて身体も大きく、高校生なのに身長は僕と大差ない。胸も大きい。
「そういえば、レイラちゃんって巣持たないの?」
弟夫婦の娘で、弟からグリフォンの巣に対する執着を聞いていたので、通学のためとはいえそう簡単に住処を変えられるとは思えないのだが。
レイラちゃんはにこっと笑ってスマホを振った。
「私の宝物は全部これとパソコンに入ってるので」
「現代人……」
今どきの魔物娘はそこまでデジタル化してるのか。まあ、部屋に執着されて何も取り出せなくなるよりはよっぽどいいか。
子供の時から写真を撮るのが好きだったことを思い出した。微笑ましい記憶だ。
レイラちゃんは尻尾でころころと器用にキャリーケースを引きながら、勝手知ったるとばかりに家の中をとことこ歩いていく。
「二階の右の部屋ね」
「ん、わかりました」
本当によく覚えているもので、レイラちゃんはそのままキャリーケースを持ち上げて階段を上がっていった。
レイラちゃんは賢いね。彼女が子供のころに繰り返していた言葉が、また口をつきそうになった。
レイラは兄貴を気に入ってるから。弟はそう言った。
しかし、うちに来てからというもの、レイラちゃんはニコニコしながらスマホを眺めていることが多いのだ。
「何を見ているんだ?」と尋ねても、「宝物だから秘密です」としか言ってくれない。
とはいえ、別に嫌われているわけではないというのはわかる。
それが一番よくわかるのが食事の時だ。
僕は仕事をしながら、ほぼ毎日自炊をしている。それが弟が僕に娘を預けた理由の一つでもある。
「あーん」
レイラちゃんの口の中で、舌がゆらゆらと揺れる。
レイラちゃんは食器を使えないのだ。なんせ手が鳥の脚のような形をしている。だから執拗に「あーん」を強請ってくる。
「あーん」
だから、僕が隣に座って、代わりに箸やスプーンを使ってレイラちゃんに食事を与える。
その際にいちいちレイラちゃんは嬉しそうな顔をするのだ。これでは嫌われているとはとても思えない。
箸を引き抜くと、レイラちゃんとの間に唾液の橋が架かる。
それがまたいやらしく見えるのは、僕が意識しているからだろうか。
毎日の朝と夜の食事が、変な意味で楽しみになってきていることだけはレイラちゃんに知られたくなかった。
スマホを見るレイラちゃんの笑顔さえどこかいやらしく見えて、僕は慌てて目を逸らした。
僕の生活はレイラちゃんが来て、少し楽になった。
週末になると、洗濯や掃除をしてくれるからだ。
「おじさん」レイラちゃんが言う。「洗濯機回しときました」
とはいえ、何から何までできるわけではない。レイラちゃんの爪は鋭く、一枚一枚服をつまんで干そうとするとどうしても穴が開いてしまうそうだ。
だからこうなってしまうのだ。
洗濯機が止まってから、僕はレイラちゃんが自室にいることを確認すると、黒いパンツをおそるおそるつまみ上げた。
大人びた紐パンの、生地の部分に穴が開いてしまっている。それがやけにエロティックで、僕はそれから目が離せなくなって。
息が荒くなるのを必死に抑えながら、そっと手を添える。心臓がうるさい。
ゆっくりと広げてみると、その真ん中。レイラちゃんの女の子の部分が当たっている場所に縦に穴が開いていて、まるでそういうグッズのようで。
とことこっと足音がして、僕は慌てて洗濯機にパンツを放り投げた。
ちょん、とレイラちゃんが顔を出す。
「あ、終わってますね。ちょっと気になってたんですよ」
そう言って、レイラちゃんは洗濯機から一つの布を取り出した。黒い、紐パンだ。
紐の部分を器用につまんで広げたレイラちゃんは少し顔を赤らめた。布も広がり、真ん中の細い穴がはっきりと見えた。
「やっぱり穴空いてる……。ほら、見てください」レイラちゃんが僕にパンツを見せつける。裂け目を見せつける。「私がやるとこうなっちゃうんで、干すのはお願いしますね」
その裂け目が何かを暗示しているようで、僕は思わず凝視してしまって。その穴を通してレイラちゃんの細めた目と目が合って、僕はきょろきょろと視線をさまよわせた。心臓が破裂しそうだ。
「わ、わかった。干すのはやっとくから」
「はい、お願いします。私、ちょっと買い物に行ってくるので、何かあったら電話してくださいね」
僕はその足音がとことこと階段を上っていき、扉の音がして、ようやく大きくため息をつけた。
心臓に悪すぎる。今どきの子には羞恥心ってものがないのか。
緊張から解放された僕はぶつくさと、その穴の開いた紐パンを手に取った。
まるで、レイラちゃんの秘裂のようなそれが目に入る。愚痴が止まる。リラックスして起き上がり始めた僕の陰茎が、しっかりと硬さを持ち始める。
「それじゃ、行ってきまーす」
少し跳ねたような楽しげな声。
レイラちゃんは、ちょうど出かけた。
姪だとか、人間として失格だとか。そんな思いは確かにあった。
でも、僕はそれを。
レイラちゃんのパンツの裂け目を、肉棒が通る。それだけで背徳感と、冷たいレースの感触が気持ちよくて。
僕は、パンツごと自分のモノを握りしめて、射精してしまった。
とんでもない罪悪感に包まれた僕は、パンツと手を洗いながら、また、大きくため息をついた。
今日は土曜日だ。だから昼ご飯も家で食べることになる。
僕の箸からそうめんをすすったレイラちゃんが目を細めて言う。
「おじさんって、彼女さんとかいないんですか? というか、いないですよね」
「うっ」
魔物娘に溢れるこんな時代だが、確かに生まれてこの方彼女がいたことはない。だが、なぜそれをわざわざ言うのか。
僕が尋ねると、レイラちゃんはすっと通った目をぱちくりさせた。
「いやあ、ラッキーだったなと思いまして。それだけです」
そう言ってレイラちゃんは口をすぼめてそうめんを啜る。
「まあ、居てもおじさん家に住んでたかもしれないですけど」
「えっ」
「そうなると大変ですよ」レイラちゃんが言う。「セックスとか」
僕は存外直接的なワードが飛び出したことに驚いた。
少し顔が赤くなっているのがわかる。僕は言った。
「それ以上に、彼女とレイラちゃんが喧嘩したりしないかが心配だよ」
レイラちゃんは首を傾げた。
「大丈夫ですよ? 魔物娘ってハーレムOKな人多いですし。まあ、私の場合は、私一人がいいですけど」
「いや、そういうことじゃなく」
人間関係というのは複雑で、往々にして面倒だ。そして僕は大抵その面倒を引き起こす。
突き詰めると、僕が結婚もしていないのに大きな家を借りているのも、それが理由だ。
「ま、大丈夫じゃないですかおじさんなら」レイラちゃんは最後の数本を啜って言った。突き出された薄い唇が動く「にぶちんですし」
「えっ」
思ってもいなかったことを言われて僕は固まった。
「だって、おじさん今まで彼女の一人もいなかったんですよね。というか、童貞ですよね?」
「え、いや。そ、そうだけど」
「それだけで好きになるような魔物娘もいますよ。ユニコーンとか。そういう人と結婚してない時点で無理でしょ」
だから、とレイラちゃんは言う。
「安心して私を住まわせてくださいね」
流れるように僕をバカにしたレイラちゃんの笑みは可愛らしく、僕は怒る気にもならず頷いたのだった。
全部食べ終わって食器を洗っていると、レイラちゃんがビニール袋を持ってきた。
「さっき、ミカン買ってきたんです!」僕は思い出した。そういえば、レイラちゃんは昔からミカンが好きだったな。「テレビ見ながら食べましょう!」
その目はきらきら輝いていて、僕はレイラちゃんを膝に座らせてミカンを一つ一つ食べさせていた光景を幻視した。
食器を洗い終えてソファに向かうと、レイラちゃんがぽふぽふと隣を叩いている。
「おじさん、ここ」
まさかな、とは思っていたが膝に座らせることにならなくてちょっと安心した。
隣に座る、とはいえ。
レイラちゃんはグリフォンで、翼が生えている。
それこそ昔は気にならない大きさだったが、高校生ともなるとかなり大きい。
二の腕と一体化しているため、隣に座るのは邪魔じゃないだろうか。
僕が浅く座って落ち付かなさげにしていると、レイラちゃんは腕を少し上げて言った。
「もたれていいですよ。腕の部分ですから頑丈ですし、ふわふわしてて結構気持ちいいですよ」
そう言われ、僕は恐る恐る背を預けた。
もふもふした羽毛がうなじに当たって確かに気持ちいい。翼とレイラちゃんに挟まれて、まるで腕枕されているような感覚で少し恥ずかしいが。僕の腕がちょっとレイラちゃんに当たって、少し意識して肌が当たらないようにした。
僕は誤魔化すようにミカンを一つ取ると、それを剥き始めた。
「あーん」
そしてレイラちゃんの口元に持っていくと、その口が僕の指ごと含んだ。そして何でもないかのように口を離す。
レイラちゃんは僕に見えないように片手で器用にスマホを弄っている。
僕は少し自分の指を見つめて、次のミカンを取って。
「あーん」
また指をちろりと舐められる。レイラちゃんは無反応だ。猛禽類を想像させる鋭い目が、やわらかくスマホに向けられている。
腕枕しているような姿勢を気にしないところといい、かっこよさのある美人に育ったことといい、僕よりよほど男らしいなぁ。僕は姪っ子の成長に少し感動した。
また一つ取ったところで。
「おじさん」レイラちゃんが僕にスマホを向けていた。「はいチーズ」
機械音。カメラの作動音だ。
レイラちゃんがにやりと笑った。
「ほら、お父さんがおじさんの様子送れって言ってくるんで。無事に腕枕されてるおじさん、撮っちゃいました」
「ちょ……」
誤解を生みそうな言い方をされて、僕は思わずスマホに手を伸ばして、焦ったレイラちゃんが慌てて手を引いて。
「あ」
スマホがころりと僕の足元に落ちた。
「ご、ごめん」
僕は反射的に拾おうとしてーー次の瞬間、ソファに押し倒されていた。
ふかり、とソファが柔らかく二人の身体を受け止めた。
僕は唖然として馬乗りになったレイラちゃんがゆっくりと首を振るのを見ていた。
「ダメ、ダメです」
レイラちゃんが荒く息を吐く。顔を赤くして、押し殺したような低い声で言う。どくん、と心臓が高鳴った。
「アレには私の宝物がいっぱい入ってるんですから」
僕はあっけにとられて、レイラちゃんが身をかがめてスマホを取って、とたとたと自分の部屋に駆けていくのを見送ることしかできなかった。
うん。僕はミカンを食べた。怒らせちゃったなこれ。
レイラちゃんが身をかがめた際に、大きな胸が当たった腹部が熱を持つ。僕の気も知らないで、息子が反応する。
ホント何やってんだろ。僕。
僕が人間関係をうまく構築できない理由の一つは多分これだ。
夕食時、僕はレイラちゃんの怒ってなさそうな様子を見て、俄然スマホの中身が気になってきたのだ。
人としてどうなの、と言われる部分である。僕はそういうことをやらかすたびに自省するのだが、解決したと見るや否や忘れてしまうのだ。
夕食を終えて一息つくと、レイラちゃんは「ちょっとアイス買ってきます」という言葉を置いて外出した。
僕は迷っていた。
人としての尊厳を守るか。欲望に負けてレイラちゃんのパソコンを見るか。
当然人間として正しいのはどちらかわかっている。しかし気になる。
姪の秘密を覗こうだなんて叔父としても最低だ。しかし気になる。
そもそも部屋の主の許可を取らずに、男が女の子の部屋に入る時点でかなり危うい。しかし気になる。
僕は迷い、そして重い腰を上げた。
レイラちゃんはしっかりしている。部屋も散らかっているとかそういうことはなく、しかし生活感はあって女の子特有の匂いを僕の鼻はしっかりと嗅ぎ取っていた。
そして勃起していた。我ながら変態だが、現在進行形で人として最低なことをしているのだ。何をされても、何と言われても文句は言えない状態だった。
そんなことを思いながら、机に置かれたノートパソコンを開く。
特に怪しいところはない。しかし、僕の目はしっかりと手がかりを見つけていた。
クイックアクセスだ。最近のパソコンは便利で、よく使うフォルダや最近使用したファイルに簡単にアクセスできるようになっている。
そこには動画ファイルの名前がずらっと並んでいた。少し興奮が高まる。
僕は少しためらってから、その一番上のを再生した。
その内容はーー。
その時。
背後で、どさりと何かが落ちた音がした。
咄嗟に振り向く。レイラちゃんが真っ赤に蕩けた顔で僕を見ていた。
画面の中では。
洗濯機の前で、僕がレイラちゃんのパンツを手に、まさしくオナニーを始めるところだった。
「レイラちゃーー」
一言も言い切らないうちに、レイラちゃんが僕を掴んで投げた。
気が付けば僕はベッドに押し倒され、レイラちゃんが乱雑に服を脱ぎ捨てて腰の上に跨っていた。
「おじさん」
レイラちゃんが勢いよく僕のズボンをずり下げる。レイラちゃんはもう何も履いていない。
既に勃起していた肉棒が晒される。レイラちゃんが目を細めた。そ、と先端が人と獅子のパーツの境目にあるたてがみに隠されていた割れ目に添えられた。
「まっ」
「何やってるんですか」
ダメですよ。レイラちゃんの声は、冷たいのに明らかに熱に浮ついていた。
僕の制止の声も聞かずに。ずぷっ、と腰が降ろされて、僕とレイラちゃんの腰が密着する。確かな熱のある締め付けに身体が震えた。ふかふかしたたてがみが無邪気に腰をくすぐってくる。
画面の中では僕が、レイラちゃんのパンツに肉棒を通して擦っている。
レイラちゃんが何かを堪えるようにゆっくりと腰を動かした。
「あっ、ダメ……こんなの……」ぐ、と強く剛直が締められる。「もっと、ちゃんと……でも」
どすん、と腰が降ろされる。ふかふかした獅子の毛皮が、心地よさを感じる間もなく離れる。
一瞬冷静さを取り戻したようなレイラちゃんが再び紅潮した。
激しく腰を叩きつけながら、レイラちゃんは叫ぶように言う。
「なんで今、こんなことしたんですか! もっと、もっとちゃんとしたかったのに!」
僕はもう何が何かわからなくなって、擦りたてられる肉棒の快感だけが頭に残って。
レイラちゃんがぐっと腰を押し付ける。先端が強く圧迫された瞬間、僕は射精してしまった。
それが終わると、たちまちレイラちゃんが腰を振り始める。
「もういいですっ! 孕んでから考えますからっ」
レイラちゃんの腰が振り下ろされるたびに、亀頭が子宮と潰し合って強すぎる快感に身体が震える。
もういつ射精したのかもわからない。
レイラちゃんの動きを止めようとするも、腕が押さえられていて上がらない。
「レイラちゃん、あの動んっ?!」
僕の言葉を唇を重ねることで塞いだレイラちゃんが言う。
「もう、アレについては何も言わないでください。わかってても、全然我慢できないんですから」
言葉は冷静だ。だが腰の動きは全く緩んでいない。
下半身が快感に溶ける。
呆けて開いた口にレイラちゃんが吸い付いて、舌を絡めて捕食するように甘噛みしてくる。
気が付けば気を失っていた。
下半身に淀む快感と、カシャ、カシャという機械音。
そして視界いっぱいに広がる、獣の脚とたてがみに隠しきれない秘部。とろとろと粘度の低いそれが、僕の顔に垂れてくる。僅かな獣臭さに混ざった淫臭が鼻をついた。
目を覚ましたとき、真っ先に感じたものがそれだ。
「ぇ、レイラちゃん?」
「あぁ、起きましたかおじさん。もうちょっとで終わるんで、待っててください」
屹立した肉棒に何か暖かく濡れたものが当たる感触と、わざとらしく作られたデジタルなカメラの音。
止めようとした僕を黙らせるかのように、レイラちゃんが腰を落としてくる。甘ったるい、優しい声で言う。
「ふふ、あとでおじさんのも撮ろうね」
ぞっとした。
手はしっかりと脚で押さえられていて上がらないし、脚もちょっと動かすとそれ以上動かせなくなる。金属音がする。
僕は縛られているようだった。
僕の口にしっかりと股間を押し付けたレイラちゃんが言う。
「舐めてよおじさん。会社に、今の写真送っちゃうよ?」
恐怖より、奇妙な興奮が先立った。
舐めなければ身が危ないのだ。そういう言い訳が僕の動きを許してくれた。
恐る恐る口を開けると、どろどろとした粘液がこぽこぽと湧いては流れ込んでくる。
いやらしさを結晶にしたような、熟れたミカンのような濃い柑橘の味がした。
媚液だ。わかっていても飲まなければ溺れてしまう。僕は必死になって飲み込み、気が付けば自ら愛液を求めて割れ目に舌を突っ込んでいた。入り口がきゅうきゅうと吸い付いてきて、代わりに愛液を垂らしてくれる。
「あっ、ふふ。おじさん必死だね」
からかうような声もどこか遠く感じる。ぼんやりとした頭の中に、ここに突っ込んで腰を振りたいという思いが強くなっていく。
腰が勝手に動こうとして、レイラちゃんに押さえつけられる。
「もう、バカなおじさん。忘れちゃったの? 私のパソコンの中の動画」
ふっと脳裏に浮かびあがる明らかにマズい動画群。瞬く間に欲望が冷えてゆき、頭が覚めてゆく。
レイラちゃんが腰を退けたのをこれ幸いと僕は上半身を起こした。全裸のレイラちゃんと、広げられ拘束された俺の脚が見える。
僕はくらくらする頭で尋ねた。
「あ、あの動画は一体」
「おじさんのオナニーだよ?」
「そう、じゃなくて」
僕は何と言えばいいかわからなくなった。
オナニー動画もそうだし、唐突な逆レイプもそうだし、今こうして拘束され写真を取られていることもそうだ。
レイラちゃんが僕を安心させるように優しく笑う。
「大丈夫だよ? 盗撮してるだけだから、見てたわけじゃないし」
「盗さっ」
僕は絶句した。
そんなもの、仕掛けられていると思ってはいなかった。当然だ。誰が普通に暮らしている同居人が盗撮用にカメラをセットすると思うのか。
ベッドを降りたレイラちゃんが、パソコンをスムーズに立ち上げて操作していく。
「これが今日のやつでしょ」
更衣室。
「これが昨日のやつで」
僕の部屋。
「これが先週末のやつ。で、これが私が来る前のやつね。三年前のこれはお気に入り」
レイラちゃんが次々と動画を再生していく。
風呂場。リビング。この部屋。トイレ。台所。ベランダ。
カメラは僕の住んでいる家のほぼ全てを網羅していた。
「い、いつから」
「五年前かな? あ、もう六年前か。ちゃんと家主には許可貰ってるから安心して」
頭に浮かんだのは十歳くらいの、幼いころのレイラちゃんだった。理知的な目で僕を見上げていたレイラちゃん。
「でも、悪いのはおじさんなんだよ。あんなに私を惚れさせておいて、放っておくなんてひどい」
だから、とレイラちゃんは熱に浮かされた声で続ける。
「変なのがつかないように見てたの。ずっとずっと。いつでも。それで、どんどん宝物が増えちゃった。あ、これ。最初の宝物だね」
パソコンに表示されたのは寝ている僕に幼げなレイラちゃんがキスをしている可愛らしい画像。
僕は何も言えなかった。
レイラちゃんは興奮を隠しきれない声であは、と笑った。
「でももういいんだぁ。これからは直接見るから。おじさんから手を出してくるのは、もうちょっとかかると思ってたんだけど」
「手を出したって、僕はただ……」
秘密を覗こうとしただけで。僕は言葉に詰まった。
レイラちゃんの笑みが深まる。
「おじさんもこうなることがわかってて、手を出してきたんだもんね? 同意の上、だから子供ができてもいいよね?」
もっといっぱい誘惑しないとダメだと思ってたんだけどなぁ、とレイラちゃんは小首を傾げた。
僕はぽかんとした。
「えっと、どういうこと?」
レイラちゃんはきょとんとした。
「おじさん、知ってるよね? グリフォンのこと。お父さんも伝えたって言ってたし」
「うん? うん。縄張り意識が強いとかなんとか……」
僕はレイラちゃんが何を言いたいのかわからなくて首を傾げた。
慌てたレイラちゃんが僕の首元を掴んで揺さぶってくる。爪が当たるが、思ったほど痛くはない。
「ホントに知らないの?! 嘘ついてたらただじゃおかないんだから!」
「し、知らないって、何を? 縄張り意識が強いって話は聞いたよ? え? 違うの?」
「違わない、けど!」
でも違うの、と言わんばかりにレイラちゃんが首を振る。
「だから!」
続いた言葉は僕を固まらせて余りあるものだった。
「グリフォンは、宝物を取られそうになるとレイプしたくなるの!!」
その声は部屋中に響きわたった。
レイラちゃんが顔を赤くして息を荒げた。
僕はしばしの硬直ののち、ようやく口を開けた。
「えっと。じゃあ、僕が手を出したっていうのは」
レイラちゃんが僕に馬乗りになって怒ったように言ってくる。
「じゃ! じゃあ! 私が勝手に盛り上がっただけってこと!?」
「だけっていうか……」
僕はどこから言えばいいのかわからなくなった。
なんとか舌を回す。
「いや、僕が悪かったよ。ごめんね」
「……そうですよぉ。おじさん、ホント何してるんですか。私じゃなきゃ、もう人生終わってますよ」
もうほんとヤダ、と言いながらレイラちゃんはべたりと僕の身体に体重を預けた。レイラちゃんを真正面から見るのが恥ずかしくて、僕は顔を横に向けた。
パソコンの画面では、スライドショーとして僕とレイラちゃんの変則的なツーショットが次々と映されている。
「私も、もうちょっと我慢できると思ってたんですけどね。無理でした」
「その、欲望って」僕は尋ねた。「言わなくてもわかるの?」
ちょん、と首を傾げたレイラちゃんの顔が、みるみるうちに愉悦に染まっていく。
「ね、ね、おじさん。今度は誘ってるんだよね? 同意だよね? 我慢できないって、私言ったもんね?」
器用に腰が動かされ、ずぶずぶと侵入していく。快感に腰が震える。
僕はこれだからダメなのだ。
動画のこととか、弟になんて説明するのか、とか。
目の前の快楽に弱すぎる。
レイラちゃんが腰を振るたびに、そういう大事なことがどうでも良くなって、レイラちゃんと、レイラちゃんの与える快感だけが大事になっていく。
僕とキスを交わすレイラちゃんは笑っていた。それだけで、ダメな僕も少しは報われた気がした。
19/08/29 14:23更新 / けむり