読切小説
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このまま世界が終わったら
幼いころからイズミは泣き虫で、おどおどしていて危なっかしかった。
それで俺は、見ていられなくて手を引いていたのだと思う。

中学生になって。性を強く意識するようになって、男同士で手をつないでいるのが恥ずかしくなって。

俺は言ったのだ。

「あのさ。もう。手、繋ぐのやめよ」

イズミは泣きそうな顔をした。イズミは昔からすぐに泣く。

「それって、男同士だから……?」

「そう」

告げると、イズミはしくしくと泣いた。胸が痛い。

きっとイズミは生まれてくるときに、ちょっと間違ったんだろうな。

イズミが泣いているのを、俺は遠い世界のことのように感じていた。
遠い世界のことなのに、胸の痛みはいつまでも収まらなかった。

これが全ての始まりだった。



翌朝、俺たちは相変わらず手を繋いでいた。俺は女になったイズミの手を引いている。
朝起きたら女になっていたらしい。そんなのアリかよ。

何かにすり替わってしまった、かつては胸の痛みだったものの正体を探る俺とは対照的に、イズミはこの世はおしなべて平和であると信じている赤ん坊のように笑う。

「きっと、神様がボクにプレゼントをくれたんだよ」

タカくんと手を繋ぐために。イズミはそう言う。
俺は、幼いころのイズミとの思い出だったり、柔らかいイズミの手の感触だったり、既に自覚している性的なことだったりを処理しきれなくなって、ふうとため息を吐いた。

イズミは俺に手を引かれることを楽しむかのように俺の少し後ろを歩く。

元々イズミは主体性がない。俺の行くところについてくるし、やってることを一緒にしたがる。
元々イズミの手は男のくせに柔らかかった。それが今、さらに柔らかく俺の手を握りしめている。

大きく変わっていることよりも、あまり変わらないことが俺の心を蝕む。イズミの笑い方もそうだ。

「ちょ、くすぐったいよ」

手の感触を確かめていた俺の手を、イズミがえいえいと揉み返してくる。元々女っぽかった顔が、完全に女の子のものになっていて俺は目を逸らした。

「ほら、行くぞ」

「あっ、待ってよ」

俺たちは学校へと足を進めた。手汗をかいているのは、きっと夏が近づいているからだった。



イズミの変化は俺の想像よりもあっさり受け入れられた。なんでも、こんなとてつもないことにも前例があるらしい。アルプ、という魔物娘に属するようだ。

そして俺とイズミは相も変わらず、手を繋いで学校へ向かっている。

「もうちょっとしたらセーラー服になるのかぁ」

イズミが言った。イズミは今、ちょっと大きめのシャツを着ている。

「そのシャツよりは似合うんじゃないか」

というか、着られているって感じだ。
イズミはてれてれして言った。

「そ、そうかな」

ぎゅっと手が握られる。俺たちの手汗が混ざった。

「ボクのセーラー服、見たい?」

俺は目を逸らしてイズミの手を引いた。
手汗が滑る。イズミが「わわっ」とつんのめって、困ったような顔をした。

「ボクがセーラー服着たら、タカくんは手繋ぐの恥ずかしい?」

イズミには主体性がない。前はあまり気にならなかったことが、今は妙に気になった。
俺は言った。

「イズミ、お前はどうしたいんだ?」

イズミはきょとんとした。そして考えるように空を仰ぐ。男の時より赤さを増した唇が開く。

「……わからないけど」

縋るような目を向けられて、迷子の子供のような目を向けられて。
俺は何となく離しちゃいけない気がして、ぎゅっとイズミの手を握った。
そして前を見て歩き始めた。
空に黒い雲が見える。梅雨が来たのだ。



雨が降っても、俺たちは手を繋いでいる。
一つの傘に二人。怖いほど近い距離に、相合傘を恥ずかしがる余裕もなかった。
セーラー服のイズミは、見た目が男だった時とあまり変わっていないということを信じられないくらいに似合っていた。

イズミは嬉しそうに繋いだ手を振った。重なった手に、少し雨がかかる。

「しばらく雨が続くのかなぁ」

イズミは雨が好きだ。「この服が濡れるのはちょっと嫌だけど〜」とか言いながら、明らかにテンションが高い。
歩くたびに、肩がこすれて距離を意識する。

「イズミ。近い」

「だって濡れるじゃん」

そのたびに当たる腕の柔らかい冷たさが、濡れた手の奇妙ないやらしさが性を意識させる。
俺は傘を少しイズミに傾けて、灰色に埋め尽くされた空を見上げた。

「しばらく雨が続くのか」

雨は別に嫌いじゃない。
ただ、もやもやとした心の何かは、雨で流されてはくれないのだ。



雨の日は、イズミはそのまま俺に手を引かれて家に来る。
そして俺の服を着て、傘もささずに雨を浴びながら散歩するのだ。いつからか始まったこの遊びは、冬以外は雨が降るたびに繰り返される。
奇妙な遊びだったが、嫌いではなかった。最初から濡れるつもりであれば、雨に濡れるのは割と気持ちいい。

「タカくんの服がぶかぶかだぁ」

イズミの身体は前より少し細くなった。白シャツを濡らして肌に張り付けたイズミが楽しそうに言う。
その肌色がやたら目を引き付けるので、俺は意識して目を逸らした。

「公園行こうよ」

イズミの声が雨に濡れる。
雨の日のある公園のベンチ。イズミは昔から、やけにそれにこだわる。気持ちはわからなくもない。

さああと雨の音だけが広がっている。もともと人気のない公園には誰もおらず、ここには車通りもほとんどないので、まるでこの公園以外、世界が終わってしまったかのような感覚に陥るのだ。
俺も、イズミも、きっとこの感覚が好きなのだ。
繋いでいた手が、ベンチの上でそっと重なる。

「ここはいつも変わらないね」

子供のころからある公園は、十年やそこらでそうそう変わるものでもない。ボール遊びは禁止になったが、それだけだ。
イズミが言いたいのはきっとそういうことじゃない。

「このまま世界が終わったらどうしよっか」

独特の雰囲気が、俺たちに毎回そういう話をさせる。

「俺たちも死ぬんだろうな」

俺は悲観的に言う。これも毎回のこと。

「でも楽しいかもしれないよ」

イズミは楽観的だ。これも毎回。

世界中に雨がずっと降ってて、店とかで食べ物勝手にとって食べて、人のいない建物を探検して、大きくなっていって。
そんな子供じみた物語だ。

「それで、大人になって」

イズミは言葉を切った。

ざああ、と雨が激しくなる。こうなると声が聞きづらくなるので、イズミが少し寄ってくる。腕が触れて、雨に濡れて冷えた身体に熱を感じた。

イズミが前を見たままポツリと言った。雨に濡れた髪が張り付いた顔を見ながら聞く。

「怖いよ」

「怖い?」

イズミが続けた。

「ボクは女になって、大人になるのが怖くなったんだ」

それは、子供が将来お嫁さんになる、とか夢を持つぐらいの稚拙な思いで。
その小さな思いが、元々子供っぽかったイズミの心の中の、小さな男とぶつかっている。

「大人になって、好きな人と結婚して、幸せに暮らして、そしたらきっと、子供ができて」

「イズミ」

俺はイズミの言葉を遮った。それはきっと俺たち子供が考えるには難しすぎるテーマだと思ったからだ。俺はうつむいた。
なんせ俺も、イズミもまだまだ子供で、何も知らないから。

俺の名前が呼ぶ声がした。手がぎゅっと握られる。俺の手の甲に縋りつく、一方的な恋人繋ぎ。

「この先ずっと、ボクの手を引いてくれる?」

ざああ、と雨が降りしきっている。冷たくなった身体で、イズミと触れている部分だけが暖かい。熱い。
俺はその問いに答えられなかった。それは、俺も怖くなったことが理由かもしれない。

イズミが空を見上げる。言った。

「あーあ。このままホントに世界が終わったらいいのに。そしたらボクはきっと」

強い風が吹いて、雨が横殴りに叩きつけてくる。声は届かなかった。



強い風から逃げるように家に帰って、交代でシャワーを浴びる。
流れるお湯が身体にじんわり熱を広げる感覚が気持ちいい。

部屋に戻ると、俺のベッドでイズミがうつ伏せになって漫画を読んでいた。白いシャツを着て、腰から下は布団に隠れている。

「何読んでんの」

「ん」

背表紙を見せてくる。それは、サキュバスの少女がなんとか男の子の気を引こうと四苦八苦する、ギリギリR18になるかならないかを突っ走ることで有名なラブコメだった。

「俺それまだ読んでないんだけど」

「知ってる。ビニールついてたし。一緒に読も」

俺もイズミの横でうつ伏せになり布団に足を突っ込む。
漫画に目を向けると、稀に見る純情シーンだったようで、何とか手を繋ぐために少女が苦労していた。

「あは、こんなのそのまま手を繋ごうって言えばいいのに」

イズミはそれが簡単にできるし、それをイズミが簡単にしてくるせいで俺はイズミの手から結局逃れられていないのだ。

「んー、まあでも気持ちはわかるな。恥ずかしくなるもんなんだよ普通は」

「そうなの? 子供のころから繋いでるからわかんないや」

きっとそのあたり、イズミの感覚はまだ子供なのだと思う。俺は公園でのやり取りを必死に忘れようとしていた。
漫画を読み進めていくと、手を繋ぐことに成功した少女が胸を押し付けて男の子を照れさせていた。
イズミのページをめくる手が止まる。

「あ、あの。その、ね? えと、手。繋ぎたい、かも」

あんなことを言っていたイズミがひたすら恥ずかしそうに提案した。ページをつまんでいた右手が、俺とイズミの間に下げられる。
俺は反射的に断ろうとして。雨に濡れた横顔。縋りつかれた手の甲の感覚。
それらを思い出して、気が付けば、俺は左手をイズミの右手に重ねていた。

イズミの手がずらされて恋人繋ぎになる。
顔を赤くしたイズミがちらちらと漫画を見ながら唇を震わせる。漫画の中では、少女が躓いたふりをして、してやったりといたずらな笑みで照れる男の腕に胸を押し当てていた。
イズミも、俺も照れている。なんせここには男か、元男しかいない。

「ちょ、ちょっとごめんね」

照れるイズミが俺の腕を引き、そこに胸をおそるおそる押し当てた。顔も近づく。
薄くも、柔らかい胸の感触が、シャツ一枚を隔てて伝わる。一部に固くなっている部分があるのは、きっと気のせい。

近すぎる距離。二人の息遣いが漫画の上で混ざる。
イズミの身体が揺れてより強く胸が押し当てられる。固いものが押しつぶされる。手の甲に、濡れたものが押し付けられた。熱い。

イズミが余裕がなさそうに言う。

「タカくん。ペ、ページ。めくって?」

震える手でページをめくると、少女が男の耳元に囁きかけて、また照れさせていた。

ごくり、と唾を飲む音はどちらからしたものか。
細かく息をしながら見つめあう俺とイズミ。気が付けばそっと唇が近づいていて。

「二人ともー! ご飯できたよー!」

ばっと距離が離れる。心臓のドキドキは、まるで違う意味になってしまっていた。
荒い息遣いが部屋に響く。

「ご、ごめん! トイレ行くねっ」

そう言って、イズミは新しいパンツをひっつかんで部屋を出て行った。

俺は濡れた左手の甲をじっと見て、心臓が張り裂けそうになりながらそれをぺろりと舐めた。

甘酸っぱい。



母さんに明らかにニヤニヤされながら食事を終えると、イズミが慌てて部屋に戻っていく。
それを見送った母さんが言った。激しい雨の音はずっと続いている。

「どうするの?いや、やっぱいいわ。あんたが決めたようにしなさい。でも、後悔しそうな選択はやめなさい」

「母さん」

「これは母親というより、一人の女としての、サキュバスとしての忠告」

せいぜい頑張りなさい、と母さんは台所に後片付けに向かった。



部屋に戻ると、イズミは頭だけを布団から出して、扉と反対側に向けていた。

後悔しそうな選択はやめろと母さんは言った。俺も後悔したくはない。
ただ、既に後悔してしまっているのだ。俺はそれをなんとかしなきゃならない。

布団を小さくめくり、イズミと背中合わせになる。

「タカくん」

「んだよ」

「ボク、さ。またちょっと雨、浴びたいかも」

「別にいいけど」

またなんで? と尋ねると。

「タカくんの部屋にいたら、ダメになりそう」

ダメになられるのは困る。それに、俺もちょうど外に出たかった。

そういうわけで、とりあえず外に出ることになった。



家の前。雨が降りしきっている。

恋人繋ぎが固く結ばれて、イズミが胸を押し付けてきた。からかうように笑う。
俺は笑わなかった。照れることもなかった。
イズミが悲しそうな顔をする。

「……ごめん。いやだったよね」

「いや」俺は即座に答えた。「ちょっと緊張してる」

俺は公園に行ったときのことを思い出していた。
後悔はそこにある。

「公園いくか」

俺はまだ子供で、この先どうなるかはわからないけど。きっと何かを変えることはできるのだ。



「このまま世界が終わったらどうする?」

公園のベンチ。大雨が降りしきるなか、いるのは俺とイズミだけ。
俺とイズミは手も繋がずに座っていて、でもその距離はとても近くて、そのことに違和感を感じる。どこに手を置けばいいかがわからなくなった。どこに置いてもイズミに当たりそうで、落ち着くのに時間がかかった。

俺の問いに、イズミは首を傾げた。

「タカくんと、ボクだけ?」

「そう。二人だけ」

いつもの問い。だけど、ついさっきにいつもと違ってしまった俺たちは、わざわざそのことを確認した。

「えっと」イズミが言う。「いろんなとこ行って、美味しいもの食べるでしょ。で、いろんなとこ探検して、いろんなもの見て」

「それで?」俺は尋ねた。「そのあとどうなるんだ?」

「大人になって」イズミが俺をじっと見る。すっと息を吸い込む。「タカくんと結婚する。二人で幸せに暮らして、子供ができて」

「その後は?」俺もイズミをじっと見ている。

イズミはちょっと考えてから、「えっとね」と話を紡ぐ。

「子供がいっぱいできて、子供たちが大きくなってボクとタカくんがおばあちゃんとおじいちゃんになるまで、幸せに暮らすんだと思う」

イズミの話はあまりにも抽象的だった。当然だ。未来のことはわからない。

「それはいいな」

「でしょ」

だが、俺にはできない想像だ。俺は悲観的にものを見てしまうから。わからない未来を、辛いものだと構えてしまうから。
だから。

あーくそ、恥ずかしいな。こんなこと、毎日やってるのかこいつは。

だから。俺は存分に恥ずかしがってから、イズミをまっすぐ見た。そして言う。

「俺を、その幸せな未来に連れて行ってくれないか?」

そして手を差し出す。
イズミはまっすぐに俺を見ている。
雨の中、唇が動く。

「ボク、男だよ?」

「知ってる」

「気持ち悪くないの?」

「大して変わってない」

「じゃあ、タカくんは」イズミは尋ねてきた。「ボクが男のままでも、好きになってた?」

「わからない、けど」俺は言った。「今、もしイズミが男に戻っても、俺はイズミのことが好きだ」

言い切った途端に腕が引かれ、唇が合わさる。雨に濡れた唇の淡い熱を、俺とイズミで共有する。イズミの身体が半分俺に重なり、その柔らかさに熱が起こる。
心臓の音が収まってきたところで、どちらともなく唇が離れた。身体は離れていない。

「タカくん」イズミは言った。「昔からずっと好きでした」

俺はイズミの頭を抱き寄せて、その唇に唇を少しだけ合わせた。
ぽうっとしたイズミに言う。

「気づくの遅くてゴメンな」

「ほっ、ホントだよぉ」

イズミはしばらくてれてれしながら怒って泣いて、雨がそれらを洗い流して、「じゃあ」と話を切り出した。

「エッチしよっか。今から、ここで」

アルプ、という名の魔物娘だと思い出したのはその時だった。



どうも俺は魔物娘というものを勘違いしていたようだ。
俺は魔物娘とは、想像もつかないような手練手管で男をぐっちょんぐっちょんにする生き物だと思っていたのだが、今俺とイズミはただただイチャイチャしていた。

ベンチに座る俺の膝に座ったイズミが俺に全身で抱き着いてずっとキスをしている。

俺が実感した魔物娘は、ただ触っているだけでも気持ちいい存在だということだ。

触れた部分全部が熱い。交わう舌。触れると沈む胸。特に、強く押し付けられている股間が大きく膨張しているのがわかる。

口を離し、イズミが耳元で囁くように言った。

「服、脱ごっか?」ぎゅ、と胸を押し付けてくる。「おっぱい見たいんでしょ? あと」

こっちも。ベンチに立ちあがったイズミが、俺の目の前で半ズボンの前をズラした。

夜であり、大雨が降っていることもあり酷く暗いはずなのに、俺の目にはイズミの肌が暗闇の中で光っているように、はっきりと見えた。その、ぴったりとくっついた筋もくっきりと。垂れているのは雨だけではないだろう。

「ねえ」イズミが言う。「キスしてよ」

気がつけば、俺は前のめりになって、息を荒くしていた。
目の前で、柔らかそうに震える割れ目が、たらたらと肉汁を流して俺を誘っていた。

息を吐くたびに震えるイズミから放たれる女の匂いは強い雨の匂いの中でもはっきり感じられ、俺は動けなくなっていて。

「えい」

ぱふ、とイズミの割れ目が口に押し当てられた。
イズミが俺の頭をゆっくりと撫でる。ほっとして少し落ち着いた。

「舐めて?」

ぺろ、と舌を出すと甘酸っぱい香りが口の中に広がった。

「んっ、ふふ。いい子、いい子」

イズミが濡れた髪を整えるように撫でる。それが心地よくて、俺は何度も舌で愛液を掬っては飲み込み、その甘酸っぱさを楽しんだ。
そのたびに頭を撫でられる。吸い付き、頭を撫でられ、舌を少し差し入れては頭を撫でられ。犬にでもなった気分だ。それがまた気持ちいい。

しばらくそうしてじゃれていると、イズミの細い指が俺の髪の間をたどるたびに心地よさと共にじんじんと身体が痺れてくる。
唇がイズミの下の口とキスをするたびに、唇が、舌が痺れてふわふわと身体が浮ついてくる。

射精したい。なんなら、もう射精と同じぐらいに我慢汁が溢れている。

イズミが俺の気持ちを見透かしたように、ベンチから降りて言った。

「寝ころんで。舐め合いっこしよ」

大雨の中、不思議なほどに耳に響いた言葉に、俺はすぐさまイズミにお腹を見せた。
ズボンを少しずらすと、跳ね上がった肉棒が腹に当たった。いつになく大きい。

ゆっくりとイズミがのしかかってくる。その重さすら愛しくなっている。俺は荒く息をついて、降りてくるイズミの秘部をじっと見つめた。

イズミの尻がゆっくりと降りてきて。俺の首が、ちょっと上がって。
それは同時だった。

開いた口に、イズミの秘裂が収まる。
俺の肉棒が、熱い何かに包まれる。

体中の痺れが爆発して、股間から吸い上げられて。目の前が白くなるほどの衝撃に、俺は咄嗟にイズミの蠱惑的な太ももにしがみついて口を強く押し付けた。
イズミがお返しとばかりにぷしゃぷしゃと蜜を放って、イズミに触れた全身がまたじんじんと痺れ始めて。

少し柔らかくなった肉棒にねっとりとぬめる舌が甘えてきて、俺は興奮した犬のようにべろべろと裂け目をなぞったり、その中に舌を突っ込んで直接淫液を吸い上げたりして甘え返す。

何度か射精して、イズミの甘い舌遣いがまた肉棒に固さを取り戻させたときに、イズミはふわりと身体を浮かせた。雨が唇を洗い流し、急に消えた甘い温かさが恋しくなる。
イズミは俺の様子を見てくすりと笑った。

「服、全部脱いで?」イズミの顔は紅潮していた。「エッチ、しよ?」

俺はごくりと唾を飲んで、頷くことしかできなかった。

服を全部脱いでベンチに置き、俺たちは砂場へと移動した。傍の街灯が壊れたまま放置されているのが、今はありがたい。

「ここなら寝ころんでも痛くないよね」

イズミが俺を見る。俺は頷いて、その場に寝ころんだ。
こうすると、イズミの全身が良く見えた。イズミの身体も、俺の身体も冷たい雨に打たれているのに、明らかに熱を持っていた。

イズミがお腹の上に座り込んで、「えらいね」と頭を撫でてきて、俺は恥ずかしいとかも何よりも嬉しくて射精しそうだった。
そして腹に感じていたぬめる熱が、屹立した肉棒の上に移動する。

「綺麗だ」

暗闇の中でイズミの身体だけが白く浮かび上がる。雨で全身が濡れて、イズミの全てがいやらしく見えた。
この瞬間だけは、二人を残して世界が終わったのだと思えた。

「好きだよ」

イズミがそう言って、凝固した肉棒と柔らかい肉穴が、ファーストキスをした。
俺はもう溜まった痺れを解き放ちそうになって。

「まて」

イズミの静かな言葉が頭に響く。たったそれだけで、俺の肉棒は痺れをそのままに射精を耐える。

「ふふ、いい子だね。まて、だよ」イズミがゆっくりと腰を下ろした。「まて、まて、ふぁっ」

ゆっくりと、ゆっくりと肉棒が飲まれていく。クレバスが広がり、奥へ奥へと吸い込まれていく。
途中にあった壁は、イズミの体重に、剛直の硬さの前に崩れ去った。
中で待ち受けていた大量の舌が、ぺろぺろと肉棒に甘える。
つぶつぶの天井が先端をざらざらと擦り、一番奥にある口が、きゅっと吸いついた。

「あっ」

とん、と俺とイズミの腰が触れた。中の舌は、触手は関係なく俺を虐める。
俺はご馳走を前にした犬のように、イズミの許可を待つ。

「ふふ、可愛い。まて、まだ、ダメだよ」

しかしイズミは俺を制止して、ゆっくりと、ぺったり身体を押し付けてくる。

イズミの白い腹が触れる。柔らかくて気持ちいい。
イズミの薄い胸が、乳首が俺の胸に密着する。
イズミが顔を寄せてきて、しっとりと頬が密着する。
水滴が身体を打つ感覚が消えていく。
囁く。

「まて、まだ、まて」

イズミの足が俺の足に絡まる。柔らかい。
イズミが俺の背に手を回す。密着感が増す。それでも柔らかいイズミの身体に、じんじんした痺れがさらに増える。
イズミの柔らかい唇が動く。

「好きって言って」

俺は即答した。

「好き」

「大好き?」

「大好き」

「抱きしめて」

俺はイズミの背に手を回して、ぎゅうっと抱きしめた。雨の感触なんか、もう感じない。
肉棒への刺激が強まる。「まて、だよ」しかし一向に出せない。出そうと思えない。

「じゃあ」イズミが囁くように俺に尋ねる。「このまま世界が終わってもいい?」

俺はイズミの耳元で答えた。

「このまま世界が終わってほしい」

その時の俺にはもう既に、イズミしか必要なかった。
イズミがくすりと笑って、俺に優しくキスを落とした。

「じゃあ」

イズミが言った。

「ボクの一番奥にいっぱい出して」

俺は、今まで耐えていたのがなんだったのかというくらい、あっさりと射精した。
ちかちかと光る視界。音が飛ぶ世界の中で、ぴったりと頬をくっつけたイズミが「好きっ! 大好きっ!」と叫ぶ声だけがはっきりと聞こえる。

長い長い射精を終えて、ふうと息をつこうとしたところで。

「イけ」

イズミの声が聞こえて、俺は一切の抵抗をせずに、再度イズミの中に精を放った。

「まだ、イって? ふふ、可愛い」

イズミが頭を撫でてくる。その快楽を、嬉しさを痺れに変えて精に変えて肉棒を通しイズミに返す。

「まて」

ぴたりと肉棒が精を止める。俺のものだったはずの肉棒はもう主人を鞍替えしていた。

イズミが頭を撫でる。幸せを感じた。

「まて」

乳首を擦り合わせる。

「まて」

腰をくいくいと振る。
媚肉の舌が肉棒を虐める。
太ももが絡みつく。

「まて」

イズミが俺を見る。
ちゅ、と唇が触れる。

「イけ」

射精する。
ちゅ、と唇が触れる。

「イけ」

射精が続く。
する、と足が擦りあわされる。

「まて」

ぴたりと射精が止まる。
イズミが優しい顔で俺を撫でる。イズミの指が、俺の髪をかき分けて頭皮を愛撫する。幸せに胸がぽかぽかする。

「キスして?」

ちゅ、と吸い付く。

「もっと激しく」

イズミの頭に手を添え、口と口を合わせて舌を探り合う。俺の必死な舌を、イズミが舌で撫でまわす。
ふと口が離れた瞬間に声がする。

「イけ」

射精。舌が吸い上げられる。頭が撫でられる。幸せが伝わる。イズミが触れている部分、すべてが気持ちいい。

「まて」

イズミが笑う。その声と笑みで幸せになる。

「腰を振って」

俺の腰が勝手に動く。イズミの腰と当たるたびに、たぷたぷと音がする。その音すら気持ちいい。

「頑張れっ、頑張れっ。んぁっ、ボクのおまんこ、気持ちいい? 気持ちいいよね? もっと、あっ、気持ちよくなってっ」

イズミが言うと、肉棒の感覚が鋭くなったように、快感が増す。ただ、それを勝手に放つことはない。
イズミが目を細める。腰の動きに合わせて小さく喘ぎ声を上げるのが嬉しくて幸せを感じる。

「んふふ、えらいね」

イズミの声が、手が、おっぱいが、お腹が、腰が、触れ合う太ももが幸せを産む。
イズミがきゅうっと抱き着いて幸せが強まった。
ちゅ、と唇が触れ合う。幸せ。

「好きに出していいよ。全部中に出して」

肉棒はイズミの声の通りに、身体のふわふわした熱と痺れを、全てイズミの子宮に押し込んだ。

それでも硬さを失わない肉棒でつながったまま、イズミは身体を起こした。
唐突に大雨の音と感触が戻ってくる。それでも、身体に残った幸せは消えなかった。

ぐい、と身体を伸ばしたイズミが「帰ろっか」というと、役目を終えた肉棒が芯を失いクレバスからずり落ちる。割れ目は精液の一滴も垂らさないうちに、元通りに戻った。

身体に自由が戻ってくる。
イズミに手を伸ばすと、嬉しそうに指を絡めてくる。それがどうしようもなく幸せだった。



雨で砂は洗い流したものの、やはり一緒にシャワーなんて浴びていたから興奮してきて、俺たちは一つのベッドの上で裸でぴったりとくっついていた。当然肉棒はいきり立ってイズミの膣肉に奥まで突き刺さっている。
イズミが言う。

「明日も、手繋いで一緒に学校行こうね」

「ああ」

ふふ、と笑ったイズミが、さらさらと頭を撫でる。
それが心地よくて、俺は気が付けば眠っていた。



繋がったまま目が覚めて、イズミに言われるがままに膣奥に射精して、服を着替えて朝ご飯を食べる。

「昨晩はお楽しみでしたね」

と母さんが唐突に言った。
俺が真っ赤に照れて恨みがましい目を向ける横で、イズミは涼しい顔をしていた。

あら、と母さんが交互に見てくる。そして俺を見てふっと笑った。

「後悔はないみたいね?」

「そんなもん、ねえよ」

「タカくん」イズミが冷たい声で言う。「言い方」頭から血が引いて、俺の心がきゅっと絞められた気がした。喉が詰まる。

「後悔は、ない、です」

「えらいね」

優しい笑顔と共に、そっと頭を撫でられる。
きっと俺に尻尾があれば、ちぎれん限りに振られていただろう。顔のにやけが抑えられない。

やり取りを見ていた母さんがあらあらまあまあとニヤニヤ笑った。

俺はもう完全にイズミの犬だった。



いつも通り、とは少し違う玄関。靴を履くと、イズミが扉も開けずにじっと俺を見ている。
俺は首を傾げた。

「イズミ?」

するとイズミは、俺の目の前でスカートに右手を突っ込んで、そして濡れた手のひらを差し出してきた。
そして嬉しそうに囁く。

「はい。ホントの恋人だけの、恋人繋ぎ、しよ?」

俺は楽しそうなイズミの声に逆らう気も起きず、そっとその濡れた右手に、左手を重ねた。
ぐちょり、と塗り込むように手が擦られ、指と指が絡まり合う。
イズミは何度か指同士でセックスさせるのを楽しむと、少し顔を赤くして言った。

「じゃあ、このまま、指セックスしたまま学校行こうね」

イズミが淫靡に笑う。

俺は逆らえない。逆らわない。
だけど、俺たちは恋人で。繋いだ手にはイズミだけじゃなく、俺の思いもある。
俺は愛しい唇にキスをして、嬉しそうなイズミの顔を見つめてから学校への扉を開いた。

きっと、もう俺の一生は、あの公園で世界が終わったときに、一緒に終わってしまったのだ。

これからはイズミのためだけに生きるのだ。そう思えたことがぽかぽかと身体を温める。

ただただイズミの存在を感じる。左手から伝わる淫らな熱を感じる。

ああ、幸せだ。
19/09/07 18:07更新 / けむり

■作者メッセージ
TSした幼馴染と大雨の中おそとでえちえちしたいだけの人生だった

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