謎だらけ、穴だらけ。割りと波乱の二人旅…だろ? <だね!
ゆうべはお楽しみ出来なかった、と言うかヤバい。
おにいちゃんて、おにいちゃんて!!
いつの間にかヴェルエは居なかった為思う存分悶絶中…
「ああああッー!!!可愛すぎだろおお!?」
あるよね、悶絶からの絶叫したくなったり。蟠(わだかま)ったものを叫んで吐き出したくなること。
掛け布を丸めたものに顔を押し当てて実行中です、ええ
俺の絶叫で少なくとも周囲の小鳥はビビって飛んでったな、声は自慢です。ふふん。
のっしのっし歩いてきた熊、か?熊の女の子がだいじょーぶぅ?なんて声をかけてくるが
ああ、だいじょぶだいじょぶ。とだけ返してヴェルエを探すことにした。
(そーいやここの魔物は女の子が主なんだったか…)
ドラゴンやらなんやらはその限りじゃないんだとか…
馬車は置いてあるから、そう遠くへは行っていない筈だが。さて何処を探したもんか
辺りは草原と森。転々と木々が立つ浅い森の入口辺り。
「そうそうはぐれようが無いんだよなー…」
馬車の荷台、居ない
辺りの木の上、居ない
草原の方、居ない
そう言えば火が消えてる…
「え、詰んだやん…」
「なーに頭かかえてんの?」
不意に声を掛けられビクンッなんて体が反応する。ビビりです。
声の主がヴェルエでも、だ。
「お、おおおう…ヴェルエか…」
「そーそーヴェルエさんだよー」
こいつぅー人の気も知らんと…
「いやね、起きたらいねぇし近くにも居ないから少し探したんだが…」
「そーかい。そういえばさっきすれ違ったグリズリーが人が叫んでたって言ってたけど、アンタの事ね」
森の熊さんなにいってんすか…
「で、何叫んでたの?」
うげ、聞かれたくねー
「ね、寝ぼけてたんだよ…そんなことより早く港町に行こうぜ!な!」
ははは、誤魔化しきれてねぇや、目が疑ってらっしゃる…
「まーいいや、向こうで聞くから」
うぐぐ、まぁ今はこれで助かったか…
「で、お前は何してたんだよ…」
間が空いたので聞いてみた。
「うん?ああ、アタシは近場の水辺で水浴び。女のたしなみってね」
水浴び?水辺なんてないぞ?不思議そうな顔をしていたのかヴェルエは言葉に補足した
「エルフは森と水には詳しいの、ダークでもね」
そーだったのか
「そうかい、じゃあ飯済ませて行くかね…っと」
「そーね、先ずは食事かね」
しばらく二人はもっしゃもっしゃパンをかじり続け腹が満たされたのかヴェルエが立ち上がる
「ねぇ、これ、食べながら行けば良かったんじゃ…?」
「そこに気づくとは…やはり、天才か…!?」
ま、飯をゆっくり落ち着いて食える内はそうしとくのがいっか
ガタン…ガタン…
馬車は揺れる、やはり悪くない感覚。
「なぁ、ヴェルエ〜あとどのくらいで着くと思う?」
だが暇なのは変わらない、黒い馬に乗っかってるヴェルエに聞いてみた
「んー昼頃には着くっしょ…」
あまり自信は無さげだ、俺もそれを聞いて『そうだな』って感想にはならない。
ガタン…ガタン…
依然として馬車は揺れ、景色はゆっくり動く…
朝に魔力の手解きを受け、手のひらで魔力を弄りながら歩く…ひたすら歩く…
『初めてで魔力を物に籠めたり、手のひらサイズにセーブして発現したり。ガーディアは魔術の才能大有りだね!!』だそうだ。
兄弟揃って感覚で育ってきたからか論より証拠、トライ&エラーで覚えるのが得意だ。
ただ、魔力においてもその範疇内とは自分でも思わなかったな…。
「ちょっと疲れたね、ご飯にしよっか」
ラナリアが唐突に言い出した。こっちは手のひらに夢中だったがそうか、もう昼頃か
「そうだな、そうしようかな」
素直にそれに同意した。ラナリアの顔が余りに必死だったから。
「といっても干し肉とパンか」
贅沢言ったわけではないが、腰を据えて食うほどの物でも無い気がした
「ガディはすぐ先いっちゃうんだもん、疲れたわ」
手のひらしか見てないしーとラナリアはぶーたれた。
ていうかガディて、ずいぶん略したな。親しみ持ってくれてる証拠なのだろうな。
「そりゃすまんな、楽しかったから」
実際心が踊る、冷めてるだなんだってアイツには言われてきた時期があるが。自分は他人が思うよりロマン思考で、他人が思うよりハイテンションなのだ。
「右手が恋人ってやつ?」
「おま、何処で覚えたんだよ…」
「森の男が言ってたの」
意味が違うぞ、意味が。
ふと、バッグからデザートイーグルを取りだし見つめる。明らかに実銃だが。明らかに実銃ではない。
「不思議なもんだ」
呟いた、すごく不思議だ。まさか異世界にも銃の文化が有るのか。まさかな。
ラナリアは蝶と遊んでいる、凄く絵になるな、流石エルフ。
暫く休んだ後、俺たちはまた目的地に向かって歩き出した。
目的地は海の町らしい詳しくは知らないが。近くの町のなかで一番興味を引かれたから。
地元が海と山の町だからだ、たぶんそう。
歩きながらラナリアはこんな話を始めた。
「昨日のミノタウロス、おかしいよね…」
おかしい?分かりやすくミノタウロスだったと思うが…
「おかしいって、何が?」
「女の子じゃなかったし、そもそも正気の目じゃなかった…」
女の子?女の子がミノタウロス?アイエエエ!?ナンデ!?
「女の子じゃないことがそんなに不思議なことか?」
むしろ、雌?
「不思議っていうか不自然、だって今の魔王って魔物を皆女の子に変えちゃったって話よ?」
洒落た魔王様だな、そんなのが襲ってくるのか。
「私たちエルフはまぁ森の加護で説明つくとして、ミノタウロスなんてモロに魔王の手先よ」
エルフは例外なんだ、森の加護すごいな。
うーん、と考え込むラナリア。答えは見つからないらしい。難しい顔でうつ向く
「そもそも今の魔王の影響で魔物が破壊活動や殺戮をするはずが無いのに…」
さらっと重要なこと聞いたなー、覚えておこう。
「ラナリア、考えても仕方ない。気になるならこの旅の目的にその謎の解明を加えようぜ」
結局今のところ旅の理由がアイツらとの合流しかないからな。他に何かあっても良いだろ。
「そだね、うん、そうしよう!」
納得がいったようで顔は自然と明るくなった。
(現在の『魔物』にああいうのは本来居ない、か)
考えることが増えたみたいだ。
空が茜色になってきた、森も抜けきったようであたり開けた丘の上に出た。
眼前に広がる海と町。どうやら話に聞いた海の町に着いたようだ。
昼過ぎにヴェルエに馬の騎手(?)を任され、はや2時間位。もはや感覚でしかないが。
ヴェルエは荷台で眠っていた。お昼寝とは優雅な奴め。
「馬ってのは存外揺れるもんだな、馴れるのにもコツが要りそうだ…」
そう呟きヴェルエの方を見る。やはり寝顔と言うのは無防備で可愛らしいものだ。
『おい、ーーーが逃げたぞ!!追え!!』
いやだ、こないで!!
『ーーーを逃がすな、私のーーーだぞッ!!』
わたしはモノじゃない!!
わたしは、わたしは!!
「〜ッ!?」
余りにもバッと起き上がるもんだからビックリした
「よう、お目覚め如何?」
ヴェルエは不機嫌そうに答える
「うー、さいっこうに悪いわ。何でだかわからないけどね…」
整った眉を真ん中に寄せ、空を睨む。
空は紺色、夕方と言うには少し遅いか。
「どうよ、旅路の方は…」
ヴェルエが訪ねる。そんなに期待していない声の雰囲気だがそんな彼女に朗報だ。
「そうさな、目の前に目的地が見えるくらいにはなったか」
小高い丘から見下ろす先には港町『ラドラット』が見えた。
あまりいい夢を見られなかったのかイマイチのテンションのヴェルエだったがそれでも
「そーかそーかやっと着いたかぁ…」と微笑した。
「ねぇねぇ、ガディ。着いたけどまずは何する?」
森の外に出たことがない、と言っていたラナリアはかなりテンション高めだ。
「そうだな、まずは宿。次に本格的に旅できる装備を…」
ジャラ、と音をたてた皮袋を見て
「これだけあれば整えられる、よな」
皮袋のなかには無数の金銀貨。
一体なんだってあんな通過の通じそうにない森を襲うのにこんなものを持ってきたのか、過去の襲撃者の気が知れない。
それはそうともう夜だって言うのに港の町は活気が半端じゃない、主に酒場だが。
道行く人々楽しそうだ、人間も、そうでないものも。
あれそうだろ、露天酒場っぽいとこの海から上半身出してるあれ、スク水着てるしヒレっぽいの付いてるし。
さらに言えば酒場の真ん中、踊り狂うのは鳥人間。俺にもわかる、あれはハーピィって奴だ。如何にもな見た目してるし。
ラナリア曰く「いろっぽーい」とのこと。
とりあえず順番を逆にした、飯が食いたい。
「ラナ、まず飯にしよう」
パァアアアって聞こえるくらい明るい顔になり勢いよく頷いた。
「うん!!あとさ!!」
「なんだ?」
「ラナって呼んでくれたね!」
何気なく言ったつもりだったんだけどな、改めて確認されると小っ恥ずかしいな。
「ダメだったか?」
「ううん、嬉しいよ!なんだか親しくなれたみたい!!」
子供っぽく笑う、一体何歳なんだろう。エルフは長命な生き物だと聞いたし、そんなもんとしてあっちでも扱われてるけど…
取り敢えずハーピィの踊る酒場のカウンター席に行って聞いた
「いらっしゃい!!」
「ここ、料理出せる?」
店員、いやマスターか?はニヤリと笑った
「はっはっは、兄ちゃんうちのシェフをなめちゃいけないよ。料理なら何でも後戯れだ!」
「そいじゃ魚料理のおすすめで頼む、二人ぶん」
「あいよ!!ナーンシー!!魚でオススメ二人分!!!」
マスターが叫ぶと奥から「あぁーいよぉー!!!」なんて声が聞こえる。
元気だなぁ、こう活気があるのはすごくいいと思う。
「兄ちゃんたちはラドラットはじめてかい?」
ラドラットというのかここは
「ああ、初めて来た。いい町だな、活気がある」
「ああ、勿論だとも。それに今日は男共が漁から帰って来た日だ、いつもの何倍も活気があるさ!」
なるほど、どの席もパンパンで樽すら椅子がわりにしているのはそう言うわけか。
カウンターに座れたのは奇跡なのかも。
「そうか、ところでここは親子でやってるのか?」
言ったところ大爆笑された
「ぶはははははっ!!いやすまないすまない、ありゃあな、家のかみさんだ。若ぇだろう?自慢の嫁だよ!!」
よ、嫁…リアル俺の嫁宣言かぁ…
「ほい、お待ちーお魚料理二人前!!カジキのバターソテーとアンチョビサラダにサーモンサンドにしてみたよ!!」
おおーすげー、そして若ぇー
「自慢の嫁、ゴブリンのナンシーだ!」
「やだもう、なにさいきなりぃ」
二人のいちゃつきを見ながら食い始めた、ラナもだ。
「ん、旨い!」
この一言に尽きる。やはり魚はいい、さらに料理の腕もいい。
「なぁーにこれぇーおいしー!!」
ラナは目をキラキラさせながら食っていた、小さな川魚くらいしか食べないもんな、森の生活じゃあ。
「そーだろそーだろ?あっはっは!!」
全て平らげ、満足感に浸る頃。それは起きた。
バァン!!
銃声とともに入ってきた数人の男。
「開けろ開けろォ!!」
見たところ海賊らしい、いや海賊っぽいだけかも
「どけガキぃ!!」
突き飛ばされるガキんちょ。
正直黙ってられなかった。
「おい、お前ら」
数人、ちゃんと数えたら4人がこっちを見た
「んだこのくそガキぃ!?やんのかゴラァ!?」
頭の悪い文句だ、しかも銃まで…ていうかやっぱ銃っていってもマスケットレベルだよなぁ…
「やるから声かけたんだよ、とっとと出てけ、感じが悪い」
「ガディ…」
心配そうにラナが声を掛けるが、なに。大丈夫だろう。
「野郎!黙って聞いてりゃ生意気いってんじゃ…」
バァン!!!
デザートイーグルで撃ち抜いてやった
「あ…あ…!?」
ドサァ…
「ヒィイイ!?」
マスケットを、だ。
驚愕のあまりケツから地面に落ちた男。
銃を構えてた男に歩みより、見下した
「射っていいのは射たれる覚悟のあるやつだけ、だ」
こう言う集団は一旦リーダー格の牙を折れば自然と崩れる。
「もう一発、今度は脳天に行っとくか?」
デザートを構えた。
「うわぁあああああああ!!!??」
一人逃げた
「あっ、待てよ!!」
釣られて二人
「逃げろ逃げろ!!」
三人
「おいていくなお前ら!!」
これで全て。
それぞれがそれぞれの悲鳴を上げて逃げていった。
腹ごなしにはちょうどいいか。
おわった後には静寂、ののち再び活気。
「うおおおお、すげぇぞ兄ちゃん!!!」とか「かっこいいーとか」
あまり怖がられないようで何よりだが、あまりまわりでワイワイやられるのは得意じゃない
「マスター、宿ってどこにあるかな?」
「お、おお宿なら…」
あらかた聞いて、お代がわからなかったから金貨一枚置いたらナンシーさんに
「ひえ!?金貨って君これじゃあと十食は出せちゃうよ!?」
っていうから
「じゃ、あいつら壊した扉と俺の銃の球が跳ねたとこの修理代ってことで」
っていって出てきた。
「ガディは戦うの慣れてるんだね」
不意にそんなこと言われて少し戸惑った。
「そんなことない」
本当に、だ。だってあっちじゃ平穏かつ平凡な日常だったんだから
そんな会話をしつつ宿に入った…
馬は町の入り口に停めといて…
「で、どーするカヤ、いきなり調査でも無いだろうし…ご飯?」
「宿…寝たい…」
よく考えたらすっごく早起きしたんだもんな、準引きこもり人類だった俺には辛いものがある。
「じゃ、宿いこー。あわよくばアタシまぐわおう!」
まぐわうのはかんべんかなーって、今やったら死んじゃう…
「まぐわうのはかんべんな、じゃ宿決定で…」
特になにもしてなくても眠くなるのがクソネミ族です。ええ。
そういって宿の扉を開けた…
「よーこそー海の宿ネレイスの鱗へ〜」
洒落た名前だねぇ、あー眠い。
「いいねー今日はお客が二件も〜!」
見ると先客が記帳してい、…た…?
「ジ、ロウ…?」
恐る恐る名を呼ぶ
「ん、よぉ」
えええええぇぇぇぇ!?ここで合流かよ!?
あまりの出来事に内心嬉しいやらビックリやら。
つづくっぽい!
おにいちゃんて、おにいちゃんて!!
いつの間にかヴェルエは居なかった為思う存分悶絶中…
「ああああッー!!!可愛すぎだろおお!?」
あるよね、悶絶からの絶叫したくなったり。蟠(わだかま)ったものを叫んで吐き出したくなること。
掛け布を丸めたものに顔を押し当てて実行中です、ええ
俺の絶叫で少なくとも周囲の小鳥はビビって飛んでったな、声は自慢です。ふふん。
のっしのっし歩いてきた熊、か?熊の女の子がだいじょーぶぅ?なんて声をかけてくるが
ああ、だいじょぶだいじょぶ。とだけ返してヴェルエを探すことにした。
(そーいやここの魔物は女の子が主なんだったか…)
ドラゴンやらなんやらはその限りじゃないんだとか…
馬車は置いてあるから、そう遠くへは行っていない筈だが。さて何処を探したもんか
辺りは草原と森。転々と木々が立つ浅い森の入口辺り。
「そうそうはぐれようが無いんだよなー…」
馬車の荷台、居ない
辺りの木の上、居ない
草原の方、居ない
そう言えば火が消えてる…
「え、詰んだやん…」
「なーに頭かかえてんの?」
不意に声を掛けられビクンッなんて体が反応する。ビビりです。
声の主がヴェルエでも、だ。
「お、おおおう…ヴェルエか…」
「そーそーヴェルエさんだよー」
こいつぅー人の気も知らんと…
「いやね、起きたらいねぇし近くにも居ないから少し探したんだが…」
「そーかい。そういえばさっきすれ違ったグリズリーが人が叫んでたって言ってたけど、アンタの事ね」
森の熊さんなにいってんすか…
「で、何叫んでたの?」
うげ、聞かれたくねー
「ね、寝ぼけてたんだよ…そんなことより早く港町に行こうぜ!な!」
ははは、誤魔化しきれてねぇや、目が疑ってらっしゃる…
「まーいいや、向こうで聞くから」
うぐぐ、まぁ今はこれで助かったか…
「で、お前は何してたんだよ…」
間が空いたので聞いてみた。
「うん?ああ、アタシは近場の水辺で水浴び。女のたしなみってね」
水浴び?水辺なんてないぞ?不思議そうな顔をしていたのかヴェルエは言葉に補足した
「エルフは森と水には詳しいの、ダークでもね」
そーだったのか
「そうかい、じゃあ飯済ませて行くかね…っと」
「そーね、先ずは食事かね」
しばらく二人はもっしゃもっしゃパンをかじり続け腹が満たされたのかヴェルエが立ち上がる
「ねぇ、これ、食べながら行けば良かったんじゃ…?」
「そこに気づくとは…やはり、天才か…!?」
ま、飯をゆっくり落ち着いて食える内はそうしとくのがいっか
ガタン…ガタン…
馬車は揺れる、やはり悪くない感覚。
「なぁ、ヴェルエ〜あとどのくらいで着くと思う?」
だが暇なのは変わらない、黒い馬に乗っかってるヴェルエに聞いてみた
「んー昼頃には着くっしょ…」
あまり自信は無さげだ、俺もそれを聞いて『そうだな』って感想にはならない。
ガタン…ガタン…
依然として馬車は揺れ、景色はゆっくり動く…
朝に魔力の手解きを受け、手のひらで魔力を弄りながら歩く…ひたすら歩く…
『初めてで魔力を物に籠めたり、手のひらサイズにセーブして発現したり。ガーディアは魔術の才能大有りだね!!』だそうだ。
兄弟揃って感覚で育ってきたからか論より証拠、トライ&エラーで覚えるのが得意だ。
ただ、魔力においてもその範疇内とは自分でも思わなかったな…。
「ちょっと疲れたね、ご飯にしよっか」
ラナリアが唐突に言い出した。こっちは手のひらに夢中だったがそうか、もう昼頃か
「そうだな、そうしようかな」
素直にそれに同意した。ラナリアの顔が余りに必死だったから。
「といっても干し肉とパンか」
贅沢言ったわけではないが、腰を据えて食うほどの物でも無い気がした
「ガディはすぐ先いっちゃうんだもん、疲れたわ」
手のひらしか見てないしーとラナリアはぶーたれた。
ていうかガディて、ずいぶん略したな。親しみ持ってくれてる証拠なのだろうな。
「そりゃすまんな、楽しかったから」
実際心が踊る、冷めてるだなんだってアイツには言われてきた時期があるが。自分は他人が思うよりロマン思考で、他人が思うよりハイテンションなのだ。
「右手が恋人ってやつ?」
「おま、何処で覚えたんだよ…」
「森の男が言ってたの」
意味が違うぞ、意味が。
ふと、バッグからデザートイーグルを取りだし見つめる。明らかに実銃だが。明らかに実銃ではない。
「不思議なもんだ」
呟いた、すごく不思議だ。まさか異世界にも銃の文化が有るのか。まさかな。
ラナリアは蝶と遊んでいる、凄く絵になるな、流石エルフ。
暫く休んだ後、俺たちはまた目的地に向かって歩き出した。
目的地は海の町らしい詳しくは知らないが。近くの町のなかで一番興味を引かれたから。
地元が海と山の町だからだ、たぶんそう。
歩きながらラナリアはこんな話を始めた。
「昨日のミノタウロス、おかしいよね…」
おかしい?分かりやすくミノタウロスだったと思うが…
「おかしいって、何が?」
「女の子じゃなかったし、そもそも正気の目じゃなかった…」
女の子?女の子がミノタウロス?アイエエエ!?ナンデ!?
「女の子じゃないことがそんなに不思議なことか?」
むしろ、雌?
「不思議っていうか不自然、だって今の魔王って魔物を皆女の子に変えちゃったって話よ?」
洒落た魔王様だな、そんなのが襲ってくるのか。
「私たちエルフはまぁ森の加護で説明つくとして、ミノタウロスなんてモロに魔王の手先よ」
エルフは例外なんだ、森の加護すごいな。
うーん、と考え込むラナリア。答えは見つからないらしい。難しい顔でうつ向く
「そもそも今の魔王の影響で魔物が破壊活動や殺戮をするはずが無いのに…」
さらっと重要なこと聞いたなー、覚えておこう。
「ラナリア、考えても仕方ない。気になるならこの旅の目的にその謎の解明を加えようぜ」
結局今のところ旅の理由がアイツらとの合流しかないからな。他に何かあっても良いだろ。
「そだね、うん、そうしよう!」
納得がいったようで顔は自然と明るくなった。
(現在の『魔物』にああいうのは本来居ない、か)
考えることが増えたみたいだ。
空が茜色になってきた、森も抜けきったようであたり開けた丘の上に出た。
眼前に広がる海と町。どうやら話に聞いた海の町に着いたようだ。
昼過ぎにヴェルエに馬の騎手(?)を任され、はや2時間位。もはや感覚でしかないが。
ヴェルエは荷台で眠っていた。お昼寝とは優雅な奴め。
「馬ってのは存外揺れるもんだな、馴れるのにもコツが要りそうだ…」
そう呟きヴェルエの方を見る。やはり寝顔と言うのは無防備で可愛らしいものだ。
『おい、ーーーが逃げたぞ!!追え!!』
いやだ、こないで!!
『ーーーを逃がすな、私のーーーだぞッ!!』
わたしはモノじゃない!!
わたしは、わたしは!!
「〜ッ!?」
余りにもバッと起き上がるもんだからビックリした
「よう、お目覚め如何?」
ヴェルエは不機嫌そうに答える
「うー、さいっこうに悪いわ。何でだかわからないけどね…」
整った眉を真ん中に寄せ、空を睨む。
空は紺色、夕方と言うには少し遅いか。
「どうよ、旅路の方は…」
ヴェルエが訪ねる。そんなに期待していない声の雰囲気だがそんな彼女に朗報だ。
「そうさな、目の前に目的地が見えるくらいにはなったか」
小高い丘から見下ろす先には港町『ラドラット』が見えた。
あまりいい夢を見られなかったのかイマイチのテンションのヴェルエだったがそれでも
「そーかそーかやっと着いたかぁ…」と微笑した。
「ねぇねぇ、ガディ。着いたけどまずは何する?」
森の外に出たことがない、と言っていたラナリアはかなりテンション高めだ。
「そうだな、まずは宿。次に本格的に旅できる装備を…」
ジャラ、と音をたてた皮袋を見て
「これだけあれば整えられる、よな」
皮袋のなかには無数の金銀貨。
一体なんだってあんな通過の通じそうにない森を襲うのにこんなものを持ってきたのか、過去の襲撃者の気が知れない。
それはそうともう夜だって言うのに港の町は活気が半端じゃない、主に酒場だが。
道行く人々楽しそうだ、人間も、そうでないものも。
あれそうだろ、露天酒場っぽいとこの海から上半身出してるあれ、スク水着てるしヒレっぽいの付いてるし。
さらに言えば酒場の真ん中、踊り狂うのは鳥人間。俺にもわかる、あれはハーピィって奴だ。如何にもな見た目してるし。
ラナリア曰く「いろっぽーい」とのこと。
とりあえず順番を逆にした、飯が食いたい。
「ラナ、まず飯にしよう」
パァアアアって聞こえるくらい明るい顔になり勢いよく頷いた。
「うん!!あとさ!!」
「なんだ?」
「ラナって呼んでくれたね!」
何気なく言ったつもりだったんだけどな、改めて確認されると小っ恥ずかしいな。
「ダメだったか?」
「ううん、嬉しいよ!なんだか親しくなれたみたい!!」
子供っぽく笑う、一体何歳なんだろう。エルフは長命な生き物だと聞いたし、そんなもんとしてあっちでも扱われてるけど…
取り敢えずハーピィの踊る酒場のカウンター席に行って聞いた
「いらっしゃい!!」
「ここ、料理出せる?」
店員、いやマスターか?はニヤリと笑った
「はっはっは、兄ちゃんうちのシェフをなめちゃいけないよ。料理なら何でも後戯れだ!」
「そいじゃ魚料理のおすすめで頼む、二人ぶん」
「あいよ!!ナーンシー!!魚でオススメ二人分!!!」
マスターが叫ぶと奥から「あぁーいよぉー!!!」なんて声が聞こえる。
元気だなぁ、こう活気があるのはすごくいいと思う。
「兄ちゃんたちはラドラットはじめてかい?」
ラドラットというのかここは
「ああ、初めて来た。いい町だな、活気がある」
「ああ、勿論だとも。それに今日は男共が漁から帰って来た日だ、いつもの何倍も活気があるさ!」
なるほど、どの席もパンパンで樽すら椅子がわりにしているのはそう言うわけか。
カウンターに座れたのは奇跡なのかも。
「そうか、ところでここは親子でやってるのか?」
言ったところ大爆笑された
「ぶはははははっ!!いやすまないすまない、ありゃあな、家のかみさんだ。若ぇだろう?自慢の嫁だよ!!」
よ、嫁…リアル俺の嫁宣言かぁ…
「ほい、お待ちーお魚料理二人前!!カジキのバターソテーとアンチョビサラダにサーモンサンドにしてみたよ!!」
おおーすげー、そして若ぇー
「自慢の嫁、ゴブリンのナンシーだ!」
「やだもう、なにさいきなりぃ」
二人のいちゃつきを見ながら食い始めた、ラナもだ。
「ん、旨い!」
この一言に尽きる。やはり魚はいい、さらに料理の腕もいい。
「なぁーにこれぇーおいしー!!」
ラナは目をキラキラさせながら食っていた、小さな川魚くらいしか食べないもんな、森の生活じゃあ。
「そーだろそーだろ?あっはっは!!」
全て平らげ、満足感に浸る頃。それは起きた。
バァン!!
銃声とともに入ってきた数人の男。
「開けろ開けろォ!!」
見たところ海賊らしい、いや海賊っぽいだけかも
「どけガキぃ!!」
突き飛ばされるガキんちょ。
正直黙ってられなかった。
「おい、お前ら」
数人、ちゃんと数えたら4人がこっちを見た
「んだこのくそガキぃ!?やんのかゴラァ!?」
頭の悪い文句だ、しかも銃まで…ていうかやっぱ銃っていってもマスケットレベルだよなぁ…
「やるから声かけたんだよ、とっとと出てけ、感じが悪い」
「ガディ…」
心配そうにラナが声を掛けるが、なに。大丈夫だろう。
「野郎!黙って聞いてりゃ生意気いってんじゃ…」
バァン!!!
デザートイーグルで撃ち抜いてやった
「あ…あ…!?」
ドサァ…
「ヒィイイ!?」
マスケットを、だ。
驚愕のあまりケツから地面に落ちた男。
銃を構えてた男に歩みより、見下した
「射っていいのは射たれる覚悟のあるやつだけ、だ」
こう言う集団は一旦リーダー格の牙を折れば自然と崩れる。
「もう一発、今度は脳天に行っとくか?」
デザートを構えた。
「うわぁあああああああ!!!??」
一人逃げた
「あっ、待てよ!!」
釣られて二人
「逃げろ逃げろ!!」
三人
「おいていくなお前ら!!」
これで全て。
それぞれがそれぞれの悲鳴を上げて逃げていった。
腹ごなしにはちょうどいいか。
おわった後には静寂、ののち再び活気。
「うおおおお、すげぇぞ兄ちゃん!!!」とか「かっこいいーとか」
あまり怖がられないようで何よりだが、あまりまわりでワイワイやられるのは得意じゃない
「マスター、宿ってどこにあるかな?」
「お、おお宿なら…」
あらかた聞いて、お代がわからなかったから金貨一枚置いたらナンシーさんに
「ひえ!?金貨って君これじゃあと十食は出せちゃうよ!?」
っていうから
「じゃ、あいつら壊した扉と俺の銃の球が跳ねたとこの修理代ってことで」
っていって出てきた。
「ガディは戦うの慣れてるんだね」
不意にそんなこと言われて少し戸惑った。
「そんなことない」
本当に、だ。だってあっちじゃ平穏かつ平凡な日常だったんだから
そんな会話をしつつ宿に入った…
馬は町の入り口に停めといて…
「で、どーするカヤ、いきなり調査でも無いだろうし…ご飯?」
「宿…寝たい…」
よく考えたらすっごく早起きしたんだもんな、準引きこもり人類だった俺には辛いものがある。
「じゃ、宿いこー。あわよくばアタシまぐわおう!」
まぐわうのはかんべんかなーって、今やったら死んじゃう…
「まぐわうのはかんべんな、じゃ宿決定で…」
特になにもしてなくても眠くなるのがクソネミ族です。ええ。
そういって宿の扉を開けた…
「よーこそー海の宿ネレイスの鱗へ〜」
洒落た名前だねぇ、あー眠い。
「いいねー今日はお客が二件も〜!」
見ると先客が記帳してい、…た…?
「ジ、ロウ…?」
恐る恐る名を呼ぶ
「ん、よぉ」
えええええぇぇぇぇ!?ここで合流かよ!?
あまりの出来事に内心嬉しいやらビックリやら。
つづくっぽい!
14/01/08 02:42更新 / キムカヤ
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