転
「こんなものか」
収穫した野菜を籠に入れ、盛一郎は残った野菜が熟し切っていないことを確認して頷いた。
こうして見回してみると、穂積の家の庭にある畑で作られている野菜にはジパング産ではないものもある。
穂積曰く、結界で囲み続けた結果ここはほとんど妖怪たちの国のような地相になっているため、異界の野菜を作ることができるらしい。
異界の作物は精が付きやすいものが多いと聞く。これまでは伴侶を得ている知り合いの妖怪にほとんどあげていたが、これからは盛一郎に是非たくさん食べて欲しいと穂積は勧めていた。
今となってはどうでもいいことだが、この家に初めて来た日に出された食事にもここの野菜が使われていたのではないかと思いながら、盛一郎は立ち上がって伸びをした。
「今日も快調……!」
穂積の家に世話になり始めてから、満ちていた月が半分に欠けるまでの時間が過ぎていた。
最初の数日の間、彼女は盛一郎を文字通り、片時も手放さずに交わりを求めてきた。盛一郎もそれを喜んで受け入れたが、その間はあまりにも精を放ち過ぎて最後の方になるとほとんど記憶が残っていない有様だった。
そんな生活も腕の傷がなくなる頃には体の方が慣れてきたのか、意識を失わずに済むようになった。
それを少し残念だと言っていた穂積だが、一昨日からは彼女も寂しさが少しは満たされたと別行動をとるようにもなっていた。彼女にとってはこの数日は番が本当に自分の傍にいてくれるのかを確認するための期間だったのではないかと思う。
そう思えばあの快楽に満たされた日々にも穂積の想いが見えるようで、彼女のこれまでが慮られる。
(……が、流石にあれは、常軌を逸していた……)
盛一郎はその場にしゃがみ込んで頭を抱え、深くため息を吐いた。
初めて枕を交わした、その次の日のことだった。
くっついたまま離れたくないという穂積の言う通りにしていたら、来客があった。
山の中でも会ったカラステングで、盛一郎の養家に事情を伝える文を渡すための飛脚として穂積が呼んだものだった。
文を用意しようとした盛一郎だったが、その間も穂積は離れてはくれず、膝に彼女を座らせたまま文を認め、彼女に抱き着かれたままカラステングに文を渡して言伝を頼んだ。
当然のごとく、始終繋がったままでだ。
体に回した二本の尻尾で外からは二人が繋がっているのは分からないと蕩けた目で穂積が言っていたが、部屋中に充満する匂いも濡れそぼった接合部がたてる音も対策を一切していない。カラステングは色々と察したことだろう。
今思えば、匂いも音もやろうと思えば隠せたのだろうが、そもそも離れなかった時点で穂積にその気はなかったのだろう。
若干挙動不審ながらも真面目に対応してくれたカラステングには大変気まずい思いをさせてしまった。
(いつか言伝の件も含めて礼をしなければ)
そのような懸念はあるが、ここで根付くための準備は着々と進んでいた。
進む準備の中でも特に自覚できているのは、やはり体のことだ。
穂積と交わっての意識を落とさないことからも明らかなように、精力が増大している。
穂積の説明によれば、妖怪と愛し合うことによって人はその体を愛し合うための体に作り替えるのだという。
妖怪とまぐわうことによって体が妖怪側に近付くということは、養家の旦那の話を聞いて知っていた。
話に聞いていただけだといまいちどういったものなのかが分からなかったが、自分がそうなってみると、生き物としてはより丈夫になるので不都合はないと実感できる。問題があるとすれば、穂積が欲しくてたまらなくなるくらいだろう。
とはいえ、まだ体が完全に出来上がってはいないのだから結界からは出ないでくれと穂積に言われ、こうして盛一郎は留守番をしている。
別行動中の穂積は、これから盛一郎が共に生活するうえで入用になるであろう品物を買ったり、また人里ともっと積極的に関わるために入用になるであろう金子を作るために作り溜めしていた織物を町に卸しに行っている。
次回は一緒に町に降りて穂積自身の正体を明かし、また盛一郎が自分の夫であるとも紹介したいと言っていたので、どういった挨拶をしたものか考えておいた方が恥をかかずに済むかもしれない。
人前に出るのは慣れていないが、まあ、その時はがんばろうと思いながら盛一郎は収穫物を川の水に浸して、新品同然の道具を手に畑の雑草を取りに向かう。
穂積は畑仕事に関しては大抵妖力を使って済ませていたが、盛一郎ではそうはいかない。税のことを考えずに一人が生活していく糧を得る為、と考えると少し手広い畑の世話は、盛一郎が日常生活に復帰するための慣らしも兼ねていた。
扱っている農具は戦乱の時代、麓の町がまだ村だった頃に献上された貢物の中にあったものだ。穂積が貢物を収めていた部屋から持ち出してきた時、農具には煌びやかな飾りが付いていてどう見ても祭具だったので使うことに躊躇したが、貢がれた神様本人が良いと言っているならいいではないですかと押し切られて以来酷使している。
ここしばらく穂積と愛し合う以外には体を動かすことのない生活を送っていたが、特に衰えてはいないようで、体はよく動く。
養家の旦那も盛一郎の四倍は生きているはずなのに若々しく精力的だ。このような恩恵はまさに妖力様様である。
(この分ならば見回り衆に加わってもすぐに動けそうだ)
昨日から穂積と盛一郎は、山の見回りを行っている見回り衆の仲間に加えてもらうよう交渉していた
山をより強固に管理して街道としての安全性を向上させるのが目的だが、その他にも自分たちのことを知っているカラステングとその伴侶。そこをきっかけとして、穂積と人里との関係を繋ぎ直すのも、また目的の一つだった。
まとまった話では、山の広い範囲をカバーできるようにいくつか詰所も作られるように計画された。
詰所は夫婦で居られるようにそれなりの大きさが必要であり、そのための土地の整地と建材を穂積が用意している。
このことに対する話し合いが持たれた時点でカラステングの夫には穂積のことが知らされた。
彼等は妖怪の夫であり、山にもよく入る上にカラステングたちのお眼鏡に適うような人間だ。簪を取って正体を現した穂積に対しての反応は落ち着いたものだった。
少しずつ、穂積と人間の付き合いが回復されつつある。
更に通行のために山の中に別の街道を作る計画もある。これが完成すれば人と物の流通は更によくなるだろう。
街道が増えればそれに応じて商売も増える。計画を早めに伝えれば養家の女将はその情報で勝手に稼ぐはずだ。
養父母に返す恩の形はこれこそがらしい=B
穂積と人々との関係が回復して、自分も養家に恩を返せる。
全て良い方向に進んでいた。
体についても、そう遠くない内に完成するだろう。
そうなれば自分は見回り衆、いわば山の用心棒として働ける。商売をするよりも遥かに自分に合った仕事だ。
(いつまでも隠れ家住まいで動かないわけにもいかん)
こちらでの生活習慣が全てまぐわいに塗れるのもそれはそれで悪くはないが、盛一郎としては野山を駆け回るというのも魅力的だ。
近い未来に思いを馳せていると、旅暮らしから離れて閉じこもっていたせいで失念していたことが頭に浮んだ。
武器が壊れたままだ。
カラステングの伴侶たちが持っていたものを見るに、支給品として十手などがあるようだが、町に比べると野性味の強い荒くれ者を相手にすることも多いであろう職場だ。できることならば使い慣れた武器が良い。
一番慣れている、愛用の仕込み傘に仕込んだ脇差は壊れてしまった。
(傘では武器にはならないしなあ)
持ち慣れているといえば、あれは旅暮らしの間中ずっと持っていた物ではある。いっそあれ自体を武器にできるように改造できたら面白いかもしれないと考えるが、仕事上示威も必要だと考えると武器だと一目見て分かるようにしておくべきかと考えを改める。
(そうなると……)
盛一郎は献上品の中にあった幾振りかの刀を思い出す。
献上品はどれでも自由に使ってくれて構わないと言われている。今度改めて武器を選ぶのもいいかもしれない。
それとは別で、代わりの仕込み刃も欲しかった。
「重心がずれて違和感があるし、あのままでは普通の傘として使うにも具合が悪い……早めに変えねば」
両親が遺した唯一のものと思って無理して使い続けた結果、肝心な所で折れてしまった。盛一郎の失敗だ。
おかげで今回は傘自体で不埒者を打ち据えもした。それで絡繰りが壊れなかったのは僥倖だが、それとは別でまた傘の補修もした方がいいだろう。
そんなことを考えながら穂積に用意してもらった昼を食べるために手を洗いに井戸へ行く。
すると、家の方から物音がした。
●
音は少しの間ガタガタと続いた後、不意に静かになった。
盛一郎は首を傾げた。
初めは使いをお願いしたカラステングが戻って来たのではないかと思ったのだが、彼女らが訪ねて来たのなら、庭で畑仕事をしている盛一郎に気付かないはずはない。
穂積が家に居ると思ってそちらを訪ねたのだとしても、居ないと判断したのなら盛一郎に行方を尋ねてきそうなものだ。
それがないとなると、この辺り一帯が結界で隠されている以上あり得ない話と考えていたが、招かれざる侵入者が居るのかもしれない。
盛一郎は、家に静かに近寄って縁側から居間を覗いてみた。
視界には誰も映らない。
家に上がって客間に物置き部屋に仕事部屋、台所に厠に湯殿まで見ていくが、誰の姿も見つからなかった。
何か物が倒れた音を勘違いしてしまったのだろうと思いながら土間に置いてある漬物壺を覗いていると、背後に突然視線を感じた。
「――?!」
急いで振り返ってみるが、そこには誰もいなかった。
「確かに、何かが居たはずなんだが……」
はっきりと、何者かの視線を感じたのだ。この家に何者かが侵入したのは間違いない。
「何者か。姿を見せよ!」
家全体が震える程の大声で呼びかけると、居間の方で音が聞こえた。
「そこか!」
勢い込んで居間に上がるが、そこにも誰の姿もなかった。
ただ、行李と共に土間に置いてあったはずの仕込み傘が開いた状態で縁側にぽつんとあった。
露草色の傘布は、よく見れば所々に傷がある。もう少し丁寧に扱えばよかったと今更ながらに思いながら盛一郎は傘の裏を見透かすように目を細めた。
陽に透かされた傘は、背後に何者かが隠れているのを影で示している。
「頭隠してなんとやらだ」
盛一郎が傘に向かって一歩進むと、傘がズルズルと下がった。
足を止めると傘も止まる。
動物相手に間合いを測っているようだと思いながら、盛一郎は動きを止めた傘と睨み合う。
数秒睨み合いながら、このままでは埒があかないと判断した盛一郎は、全速力で距離を詰めようと、強く床を踏み飛び出した。
その音に、傘も反応した。
傘は縁側から庭に降りると、傘を開いたまま跳ねるように逃走を開始した。
変な移動の仕方をしているにしては早い。盛一郎との距離はなかなか縮まず、このままでは逃げられてしまうかもしれなかった。
「待て、その傘は大事なものなのだ!」
せめて傘だけはどうにかならないかと声をかけると、相手の動きが乱れた。
傘が持ち上げられ、陰に隠れていた者が見える。
陰に隠れていたのは寺子屋を卒業したかどうかといったくらいの少女だった。
傘の柄は無くなっており、少女は傘布を頭に直接被っている。慣れ親しんだ傘が解体されてしまったことに怒りよりも寂しさを感じながら、盛一郎は少女を観察する。
衣服は布に穴を開けてそこに頭を通しただけの、貫頭衣と呼ぶのも憚られる簡素な物で、両足を縛るように細い帯のようなものが巻き付いている。
年齢にしても衣服にしても、山中にある隠れ家に忍び込んでくるための格好ではない。
とにかく、動きが止まった隙に盛一郎が距離を詰めようとすると、少女がしまった、という表情で両足で後方に跳んで逃走を再開した。
細い足にしては結構な距離を跳ぶ少女だが、一度動きを止めさせた分、距離は縮まっている。森の中に逃げ込んでしまえば木々が邪魔になって跳ねるような逃走手段は遅くなるだろう。見失いさえしなければ捕まえることができる。
穴を開けただけの服が捲れ上がって素肌がちらちらと見えてしまっているのを目の毒だと思いながら距離を詰めて行くと、盛一郎が放置していた農具の柄に躓いて少女が転んだ。
「――?!」
「あ」
見ていて惚れ惚れする程に見事にこけた少女の布が盛大に捲れ上がった。下半身全開の少女から少し視線を外して見ないようにしながら、盛一郎は声をかける。
「あー……無事、か?」
少女は身を起こして布を適当に直した後、盛一郎と目を合わせた。
その頬には転んで痛かったのか、捕まった後のことを考えて怖くなったのか、涙が伝っている。
衣服の様子からすると、どこかの浮浪者だろう。
山の中に迷い込んだ末に偶然かなにかで結界をすり抜けてこの家に辿り着いたのではないだろうか。
(……いや、浮浪者にしては少しおかしい、か?)
少女は衣服こそは質素なものだが、細い手足や首の辺りで切りそろえられた髪も垢染みていない。それどころかガラクタに混じる宝石のように、目を惹く美しさがある。
「とにかく、その帯で服をとめるといい」
盛一郎は問答無用で捕まえるつもりはないと示すように両手を挙げると、盛一郎は少女の結びが外れてしまったのだろう帯を腰に巻くように指示した。
少女は何も答えず、ただ盛一郎を見つめてしゃくりあげながら涙を流し続けている。
見た目や布が捲れ上がった時の胸の成長具合から判断するに、やはり寺子屋を卒業したかしないか程度の年齢、まだ子供の時分だ。大声で驚かせてしまったかと思い、盛一郎は相手を宥めすかそうと語調を和らげた。
「安心するといい。君をお上に突き出そうとは思っていない。……その傘はやれないが、食料なら少しは恵むこともできる」
言っていると、少女が口を開いた。
「だ……なら、ど……して……か?」
「ん?」
どうしたのかと少女に近寄ると、少女は叫ぶように言った。
「大事なら、どうしてこの身を捨てようとなさるのですか!?」
は? と言葉を発する前に、彼女から妖気が感じられた。
あの傘が妖怪になっていたのかと思った直後、叫んだ少女の目が盛一郎を睨むようなものに変わった。
「やくに立つと、教えてさしあげます」
少女がいくら睨もうとも恐くは無い。むしろ頬を伝う涙と潤む瞳のせいで愛らしいとさえ思える。
一瞬和んでしまったその時、彼女が後生大事に被っていた傘に割れ目ができた。
気付いて距離を置こうとした瞬間に割れ目がぱっくりと開いて、中から盛一郎の顔程もある巨大な一つ目が現れた。
こちらも睨むような視線を寄越す傘に射竦められると、体に巻き付いてくるものがあった。
「な……?」
咄嗟に振りほどこうと絡みつく物に触ると、それはぬるっとした奇妙な感触を返した。
それはピンク色をしており、生温く、何かの粘液で濡れた、傘の内部から生えた舌だった。
舌はきつく盛一郎を締め付けると、傘の方へと引きずっていく。
「くっ……」
踏ん張ろうとするが、舌が引き寄せようとする力の方が強い。
その光景を眺めている少女は、先程までの盛一郎を睨み付けた表情から一変して、どこか恍惚としたものになっている。
その表情に、穂積がたまにする表情を重ねた盛一郎は理解した。
「妖怪……っ」
傘の中へと引き寄せられた盛一郎の意識は暗転した――と思ったが、暗転したのは視界だけだった。
盛一郎の抵抗をものともせずに引き寄せた舌の先で待ち構えていた少女に、盛一郎は抱擁されていた。
顔を上げると、目の前に泣き跡の残る少女の目が映った。
髪に少女の手が当たる感触がある。
少女は世にも嬉しそうな顔をすると、さあ、と前置きして、
「たのしませます、あるじ様」
瞬間。舌の根が繋がっていた傘布が風を伴って勢いよく閉まった。
●
誠一郎が使っていた仕込み傘は開いた状態で吊るし、その下で座り寝をすれば雨が降ろうと濡れずに済む程度には大きいが、人が二人入れば隙間などない。
傘の少女の膨らみかけの胸に密着した状態で、盛一郎は少女の頭上を見上げる。
少女の頭で閉じられ二人を密着させた傘布は、舌を盛一郎に絡ませたままで少女から離れて緩く回りながら空中で静止した。
離れられる、と思ったが、舌が少女と盛一郎を繋いでいるため身動きが取れない。
諦めず、盛一郎は周りに何か役に立つものはないかと視線を巡らせて絶句した。
二人の周囲は、傘布と同じ露草色の光が照らす何もない空間に様変わりしていたのだ。
少女が、日光とは明らかに違う、青白い光に薄らと照らされる中で笑みを浮かべている。
ぞくりとした。
何なのかは分からないが、複雑な情念が絡んでいる深すぎる笑みを浮かべた少女。盛一郎は気圧されそうな自分を鼓舞する意味も込めて彼女を誰何した。
「妖怪よ、お前は何者だ?」
その言葉に、少女は何故か傷ついたような表情を浮かべた。
「あるじ様……分かりませぬか? あなたのショユウブツでございます!」
言われたことの意味を考えて、盛一郎は唖然とした。
ショユウブツとは、所有物ということだろう。
今この場で盛一郎の所有物となると、思い当たるものは一つしかない。
「……まさか、お前、俺の傘……か?」
まさかと思い言ってみたことは、どうやら当たりだったらしい。少女はそれはもう嬉しそうに何度も頷いた。
「はい! はい……! あるじ様の傘でございます! あるじ様がずっと大切に使いつづけてくれた、それゆえにいのちが宿ったあるじ様の傘でございまする!」
そんな少女を見ながら、当てずっぽうが当たってしまった盛一郎はまだ頭が付いていけていなかった。
持っていた傘が妖怪になったということのようだが、そんな話で思い浮かぶとしたら女将が昔に言っていた器物が妖怪化するという現象くらいだ。
そのような兆候はあったろうかと記憶をたぐってみるが、思い当たるところはない。
ただ、隠れ家の結界を破ったのではなく、そもそも彼女は初めから結界の中に居たのだと思えば、彼女がここに要ること自体に不思議はない。
「傘自体が本体ではないの、か?」
「こちらも、そしてこれも、あるじ様の傘でございます」
傘自体と自分のことを指して、少女は笑みの形に吊り上げた口元に涙を流す。
「そんなに、転んだ所が痛むか?」
感情が溢れすぎて表情からは何を思っているのか類推できなくなりつつある少女に気遣うように言うと、少女は首を勢いよく首を横に振った。
「あるじ様、いけずな方でございます」
少し暗い調子になった少女は、涙を拭いながら言う。
「あるじ様がこの身をいらぬとおっしゃるから、ようやく目ざめたこの身は泣いているのです」
「なんだと……?」
笑みを浮かべ続ける、自身を傘だと言う少女は恨めしそうに話す。
「あるじ様、傘としてもぐあいが悪いとおっしゃっておりました。ようやくこの身もうごいてあるじ様につくすことができるようになりましたのに、あんまりでございます……」
そう言われて、盛一郎は理解した。
この傘の妖怪は、盛一郎が何気なく発した言葉を取り違えていた。
取り替える物が傘だと思ったから、少女は自分が捨てられてしまうのだと勘違いしてしまったのだろう。
盛一郎が取り替えようとしていたのは傘に仕込まれていた脇差だけだ。
それを説明すれば少女も勘違いを理解するだろう。
「なんにちもの間、あるじ様はこの家にとどまっておられます。さっしますにもう、あるじ様は旅には出られないのでございましょう。
旅に出られぬのならば野じゅく用に大きくあつらえたこの身はもう用ずみ……口惜しゅうございますが、あるじ様が決めたのでしたらこの身はあきらめもしましょう。ですが、この身いがいの傘を使われるとおっしゃるのならば、この身はあるじ様にこうぎいたしまする」
「まあ待――」
盛一郎の言葉を聞いても少女の話は止まらなかった。彼女は盛一郎に何も言わせないようにするように薄い胸に盛一郎の頭を押し付け、
「大きくとも、今やこの身はあるじ様のお手をわずらわせることのない傘でございます。
また――ええ、あるじ様」
声に、どろりとした何かが混じった。
「この身はちまたにあふれるぼんような傘ではけっしてなしえないことができまする」
手が緩められ、そっと盛一郎の顔が上向きにされる。
谷間がないため呼吸がほぼできなかった盛一郎は解放された瞬間、勢いよく息を吸い込み――少女は呼吸途中の口を塞いだ。
突然のことにもがくと、少女の甘い呼気が肺に流れ込んでくる。
酸素の濃度が薄く、一瞬意識が乱れる。このままではまずいと振りほどこうとすると、体に巻き付いている舌がよりきつく絡んで動きを止めた。
その舌の先が袖を捲って盛一郎の右腕を舐め上げる。
舌先がなぞるのは、もう跡しか残らない傷があった場所だ。
盛一郎がこの傷を負った時に居たのは盛一郎と穂積を除けばそれこそ彼の持ち物くらいのものだ。
彼女は本当にあの仕込み傘なのだろうという納得を得ながら右腕に唾液を刷り込まれる。
穂積に続いてここを熱心に舐められるのは二回目だ。
舌が熱心な右腕とは違い、口を吸っている方はただ口を合わせて押し付けてくるだけだった。
少女はしばらく口を合わせると、離れて荒い呼吸をする。
「どうでしょう? この身はおやくに立っておりますか?」
心配そうな問いかけに頷く。
「役に立っている。だから、落ち着け。俺はお前を捨てはしない」
盛一郎の言葉に動きを止め、少女は盛一郎の顔を見る。そして俯き、
「うそです。この身は聞いたのです。あるじ様はこの身を捨てるのです。もうなんにちもこの身をつかわないのはこの身がいらないと思われているからなのです」
だから、
「この身はおやくに立てるのだと知ってもらわねばならぬのです。――さあ、あるじ様、あつい体をなぐさめまする」
少女が言う通り、盛一郎の体はいつの間にか全身熱くなっていた。体を寄せ合ってはいるが、少女の体温も、この空間もそこまで暑いというわけでもないのにこれはどういうことだろうと感じながら、とにかく盛一郎は制止の言葉をかける。
「待て」
言葉が通じていない。少女の中ではもう捨てられるということは決まったこととして認識されてしまっているようだった。
せめて傘の補修を早くにやっておくべきだったろうかと悔やむ間に、少女が口元を舌で舐め上げて熱を持った口調で言う。
「あるじ様をとってしまったメギツネ様は今はおりません。そんな時でもこの身があればだいじょうぶでございます。あるじ様はこの身をいつでもつかってよいのです。つかいごこちは教えてさしあげます。あるじ様のショユウブツのみりょくをたんのうしてください」
舌の拘束が緩むと同時に熱を持った体から力が抜けて、少女に体重を預けてしまった。
それを受け止めながら、少女は言う。
「この身の舌はあるじ様をおもうと、あるじ様のあせを、精をあじわうと、あつく、うるんでしまうのです。そして、これは――」
舌が離れても盛一郎の体に宿る熱は収まらない。
「あるじ様もあつくなるこの身のおうぎでございます」
傘から生える舌が襟から入り込んで盛一郎の服を脱がせた。
その先端が熱くなった盛一郎の逸物に触れる。
熱の正体が強烈な肉欲だと自覚したその時、
「あるじ様……っ」
濡れた声で言って、少女が衣服を脱ぎ捨てた。
●
布に穴を開けただけの服は盛一郎の体重を受けていながらでもあっさりと脱ぎ捨てられた。
傘布を薄めたような、露草色の光が発育途上の体を照らしている。
少女は胸に盛一郎の顔を擦り付けるように頭を動かしながら、下半身も擦り付ける。
傘から生えた舌に絡まれた逸物に少女の腿が触れた。
舌から溢れた唾液を潤滑液にして少女は腿で盛一郎の逸物を愛撫した。
「いかがでしょう? メギツネ様とまぐわうすがたを見ていたのです。あるじ様はおむねが好きなのですね?」
残念ながら、未成熟な胸では穂積の胸で感じられるような柔らかさと安心感は得られない。
盛一郎が穂積の胸に抱かれている時のように幸せそうではないのを察したのか、少女は少し焦ったように、
「あるじ様、まだ、まだです。この身はまだもっとあるじ様をたのしませることができまする……っ」
そう言って背伸びをして口を塞いだ。
「……っ……っ」
少女は息を荒げながら体を揺すった。
「あるぃ……しゃま……っ」
唇を押し付け、すがるような言葉を発しながら、少女はすり合わせる足を横に振ったり腹を押し付けたりして盛一郎を高めていく。
「あるじ様……甘ろでごじゃいます」
唇を合わせながらの言葉と共に、盛一郎の逸物の先端を舌が丹念に舐め始めた。
自身の逸物の先端から欲望の先走りが出ていることに盛一郎も気付いていた。
穂積に対する裏切りの先駆けのようで、盛一郎は自身を恥じる。
せめて射精だけはすまいと丹田に力を入れると、少女が口を離した。
「あるじ様、おなかに力が入っております」
少女が言うと、舌が逸物から離れて下腹から逸物の根本までを丁寧に舐め下った。
舌が当たって粘液が触れると、こらえようとしていた射精感が増大して下腹から逸物の根本へと集まっていく。
「待て、穂積殿に――」
「分かっておりまする……しかしあるじ様、いっとき、メギツネ様のことはおわすれください」
熱に浮かされた顔に寂しそうな笑みを浮かべ、少女は限界まで勃起して粘液を照り返す逸物を腿と腹、そして舌で圧迫した。
「――っぐ!」
生ぬるい舌の感触と人肌の触感が勃起を力強く圧迫する。
「あ、はぁぁ――――ん!」
少女の体がふるふる震えて盛一郎の下腹を粘液に浸けていた舌に力が入った。
達したのだろうかと、盛一郎が少女をぼんやりとし始めた意識で眺めていると、彼女と舌の体重が盛一郎にかけられた。
盛一郎は粘液で完全に骨抜きにされていて、少女一人の体重にすら耐えられなかった。
かけられる体重のままに背から地面に落ちていく。
地面だったはずのそこは、何もない床だった。
天井で天蓋のように浮遊して回っている傘といい、自分は結界に閉じ込められてしまったのだろうと思う。
地面に背が付いた瞬間、少女の全体重が逸物を擦り上げた。
暴力的な刺激に、限界を迎えていた逸物は痛みよりも快感を感じて、抑えも利かずに欲望を吐き出した。
「……う、……っ」
「あ、ああ……びくんびくんって、あるじ様、あつくて、あまくて、この身は、ぁ……、し、しあわせです」
震える腰の動きを味わうように下腹を押し付ける少女は欲望の放射が収まると、身を起こした。盛一郎が吐き出したものが、子供から大人になりかけの腹部から胸にかけてべっとりと付いている。
盛一郎は胸に浮かぶ罪悪感が穂積に対してのものか、まだ幼い見た目の少女を汚してしまったことに対してのものなのか分からないまま、少女の言葉を聞く。
「あるじ様、おけがはしておられませぬか?」
「いや、大丈夫だが」
倒れた床は、柔らかく二人の体重を受け止めていた。まるで布団の上に倒れたかのような感触であり、
「あるじ様、まだ足りないのですね」
笑む少女の声が含む熱に、この結界は閨房の類なのだと理解する。
少女の下で、盛一郎は未だに硬さを保っていた。
少女は手で欲望の残滓と粘液とを逸物の上で混ぜ合わせる。
先端を撫でる掌と、根本や袋を舐める舌に翻弄されながら、盛一郎は「待て」と呻いた。
「まちませぬ……あるじ様、おむねは足りずとも、この身はあるじ様をここまでみちびけました。つぎはこちらのつかいごこちを味わっていただきます」
熱に浮かされた口調で、少女は腰を上げて股間に手を添えた。
少女のそこからは液体が滴っている。
片手は逸物を、もう片方の手を股間に添えた少女の次の行動は予測がついた。
「あるじ様、この身のはじめてでございます。この身があるじ様のものであるときざんでください」
盛一郎の予想通り、少女は自らの秘裂に盛一郎の逸物をあてがった。
「はぁぁぁ……っ」
少女が涙目で震える。
盛一郎の逸物が一層硬くなる。体が少女を求めているのを実感した。
舌から染み出す粘液のせいか、少女の熱狂的な目から溢れる危うい魅力のせいか、この結界の閉塞感のせいか。盛一郎の思考が少女の未成熟の体にしか焦点を絞れなくなっていく。
盛一郎の先端が少女の狭い入り口に浅く入る、くちゃ、という音が妙に大きく聞こえた。
それだけで逸物から精がせり上がりそうになる。
盛一郎の先端が、生まれたばかりで男を受け容れるどころか自慰すら一度もしたことがないのだろう狭い、それでいてどろどろに潤っている少女の秘裂へと入っていくのが妙に鮮明に感じられた。
このままではまずい。
絞り出すように息を吐き出しながら腰を少しずつ降ろしてくる少女に全て埋まってしまったら完全に少女に囚われてしまいそうで、盛一郎は咄嗟に少女の腰を掴んだ。
「ぁあ、いけずしないでください……」
少女がもどかしげに言っていやいやをするように腰が振られる。
浅い所で繋がった陰部が快楽を伝えてきて、盛一郎は少女の腰をより強く握りしめた。
「んんん……っ」
少女が身をよじる。
すると、腹にあった舌が離れて少女の腰を掴む盛一郎の手を舐めた。
触れただけで体に熱が宿る粘液が大量にまぶされ、盛一郎の手がずるりと滑ってしまった。
「ふぁ……っ」
「……っ!」
ずるりと膣に逸物がまた少し侵入する。
僅かに抵抗を感じる膜に軽く触れた位置で、盛一郎は右腕だけでなんとか少女の腰を掴む。
少女を支えるために強く掴んでしまったのだが、それすら少女にとっては気持ち良いようで、蕩けそうな声で言う。
「あああ、あるじ様ぁ、こしぃ、つよく、もっとぉ! この身は、この身はつよくされてもこわれませぬゆえぇ! はげしくしていただきとうございまする」
盛一郎はぐいぐいと腰を下ろそうとする少女を必死に掴まえて耐える。
腰が下りないようにこらえていようと、膜の前まで飲み込まれた逸物は、淫蜜をこんこんと溢れさせる蜜壺にしゃぶられて水音を立てている。このままではまた欲望を吐き出してしまいそうだった。
せり上がってくる精液は力が入らない下腹では食い止められない。
完全に少女に呑まれてしまうのは時間の問題だ。
盛一郎が限界を感じていると、少女の尻にまで滑っていた左腕が、何か異物を捉えた。
「んゃぁ!」
少女がこれまでとは異なる音色で鳴いて体を反らせた。
勢いで盛一郎の逸物が抜け、淫蜜を飛沫かせた女陰が盛一郎に見せつけられる。
尻を手から逃がすように腰を突き出したまま少女は盛一郎にぺたんと座った。
(これは……)
異物は、手に収まる太さで、長さについては掌に収まらないほどだった。
というか、
(これは……もしや)
盛一郎は握っている異物の伸びている方――少女の尻の方へと手を移動させた。
そして理解した。
「あるじ様……?」
少女の声に戸惑いが混じった。
盛一郎はそこにある異物の正体に思い当たるものがあったがその予想が信じられず、手に持ったそれを上下に振ったりしてみる。
「んぁぁ……っい、いけませぬあるじ様ぁ!」
少女はまた逃げるように盛一郎に腰を押し付けてきた。
少女の体を抱えた盛一郎は、彼女の尻を確認して思わず唸った。
それを不快の表れと取ったのか、少女は傘から舌を伸ばして盛一郎の腕を伺うように舐めながら、
「あるじ様? この身が何かそそうをはたらきましたか? すぐに、もっとおやくに立つことをお教えいたしますから、ね? ね?」
「だから、俺は君を捨てたりは……」
「だいじょうぶでございます。経験はなくともこの身は名器! あるじ様がおひとりでしょりしているすがたも知っておりますれば、もっとも好きなこすられかたも知っておりまする!」
盛一郎の言葉はやはり少女には聞き入れられなかった。
説得することを諦めた盛一郎は、安心してもらえるようにと思いながら少女の背を優しく撫で、目を小振りな尻、その肉付きの薄い肉の間から生えた異物にやった。
それは、扱い慣れた盛一郎の両親の形見の脇差しだった。
彼女自身も仕込み傘そのものであると名乗った以上、どこかに“仕込み”があるのではないかと思っていたが、
(まさかこんな所に……)
脇差しは刃が折れてしまっている。いくら妖怪の体が丈夫であるといっても刃物が直接体内にあるのはまずいだろう。
痛みなどは特に感じている様子もないが、あの傘は快楽を呼び起こす粘液を滴らせている。粘液によって痛みを麻痺させているのではないかと考えて、早急に脇差しを引き抜かねばと盛一郎は舌を優しく払って右手で柄を持ち、左手で少女の腰を押さえて一息に引き抜いた。
「あ、ひぁ、ああああああ……っ!」
脇差しがズルりと引き抜けた瞬間、少女が叫んで盛一郎にすがりついた。
「だ、大事ないか?」
「ひ、あ、ああ……」
少女は震える腕でようよう体を起こすと、かすれ声で言った。
「だいじょうぶです……そのやいばは、いかがでしょう……この身はおやくに立てておりますか?」
言われて気付いた。
少女の尻から引き抜かれた脇差しの刃は完全に復元していた。
むしろ、刃は刃こぼれも曇りも一切ない新品同様の状態で折れた当日よりも明らかに状態がよくなっている。
「これは……」
「あるじ様の、たいせつなものでございます」
震える腕で体を支えることを諦めたのか、少女は傘から伸ばした舌に体を支えさせるとゆっくりと話す。
「おやくに立つことの一つとして、この身でおれてしまったやいばをようりょくでつぎました。
ただ、やいばはこの身のようきを受けておりますのでそのやいばで人をきることはかないませぬ」
「なまくらには見えないが」
「このやいばはにくではなく、気をきるのです」
「気……か」
そうは言われても、光に映してみても吸い込まれそうな程に綺麗な刃だ。確かに、これ程の物ならば妖気の一つや二つ切ってしまいそうな霊妙さに溢れている。だからこそ、これで肉を切ることはできないという言葉は信じられなかった。
不信の気配を敏感に察したのか、少女がこころなしか沈んだ声音で問う。
「あるじ様、この身のことばは信じられませぬか?」
「いや、そうではないが、あまりに見事に打ち直されているものでつい、な」
その言葉は嬉しかったのか、少女は喜色を浮かべ、
「そうでございます! この身は売りもんくをたがえませぬ! おやくに立ててございましょう?」
「うむ、相違ない」
頷くと、少女は子供そのものの笑顔で盛一郎から下りると、体を反転させて尻を突き出した。
「見てくださいませ。あれほど深くささったやいばでもこの身は傷ついておりませぬ」
言葉の通り、少女の尻にも、その奥の穴にも傷は何一つなかった。
おそらく妖怪化してからずっと入っていたのだろう、ピンク色のすぼまりはなくなった異物を求めるようにひくついていたが、どこにも傷は見当たらない。
「んぃ……っ!」
好奇心の向くままに人差し指を挿入れると、少女は高い声で喘ぐ。
いけない、と思って指を引き抜くと、尻穴の入り口が最後に指を惜しむように一瞬締めた。
引き抜いた指を見てみても、血は付いていない。
「本当に傷がない……」
「そうでありましょう?」
盛一郎は改めて脇差しを見る。
見事な刃だ。既に記憶にはないが、両親から受け継いだ時よりもきっと美しい状態。そんな刃を鍛え直したのが少女の体内であるという事実と相まって、盛一郎はその不思議な刃を試してみたい誘惑に駆られた。
好奇の視線を脇差しにむけていたことに気付いたのか、少女は言う。
「あるじ様もつかってみますか?」
その誘い文句を断る気は盛一郎にはなかった。
盛一郎は刃を左手の指先に当てる。
少女が熱っぽい息を吐きながらこちらを見ている。
その視線に促されるような形で、盛一郎は右手を横に引いた。
刃は左の人差し指の皮膚の中に、なんの抵抗もなく入り込んだ。
皮膚に刃物が入り込む感触に背に冷たいものが押し付けられたかのような感覚を得る。
あまりの切れ味の良さに、骨に達するほどに刃を滑り込ませてしまった盛一郎は慌てて刃を離した。
離した刃にはやはり血は付いていなかった。
不思議な刃だと思った瞬間、指を中心として、全身に毒が回るように体中が熱くなった。 思わずふらついてしまい、倒れないようにその場に脇差しを突き刺して支えにして指先を確認した。
そこからはやはり血は流れて来ない。それどころか、何かを押し付けていたような跡すらも見つからなかった。
だが、盛一郎が襲われた熱の発信源は間違いなく刃が走った指先だった。
「なん、だ……?」
「それは気を切るやいばだと、言ったではないですか……」
少女が言う。
盛一郎はその言葉を思い出し、気を切るとはどういうことかを遅まきながら理解した。
「あるじ様、今、あなた様は気を切られてその分をこの身のようりょくが少しずつうめておりまする」
だからか、盛一郎は目の前で尻を突き出した少女が欲しくてたまらなくなる。
怒張した下半身が意思とは関係なくびくびく揺れる。
刃で切っただけではなく、傘の舌から分泌される粘液も切られた気から体内に侵入したのだろう。体が感じるこの熱さは、舌でなめられた際に感じたそれと同じだった。
少女に触れてもいないのに思考が肉欲に覆われていく。
「けっかいの中、あるじ様はこの身のようりょくをいっぱいすうております」
「嵌めてくれたわけか」
「とんでもございませぬ! この身はあるじ様のショユウブツ。ただ、はじめてですから、この身のつかい方をしめしているだけでございます」
少女はそんな言葉を寄越して、その証明とばかりに自ら淫蜜を垂らす秘裂を指で割り開いた。
「ここからがこの身のしんこっちょうでございます。この身は、全てをわすれさせ、けらくをさしあげることができます。さあ、つかってください」
少女本人から出された許しの言葉に、盛一郎の理性が飲み込まれた。
盛一郎は自身の怒張した逸物を持って、少女の秘裂に突っ込んだ。
膜は突き破られ、秘裂は力づくで押し広げられながら逸物を受け容れていく。
欲望に任せた挿入は、少女の尻に盛一郎の腹が当たるまで一息に行われた。
肉と肉がぶつかる音がして、同時に盛一郎の先端が膣内にある膜とは違う何かも押し広げる音が少女の体内で鈍く響いた。
少女の一番奥まで貫いたのだ。
「あああ、、あ、あ、っひ――――!」
叫んだ少女が膣を締め付けて震える。
「達したか?」
逸物に不定期な媚肉の振動が伝えられた盛一郎の問いに少女は口を開閉させるだけで言葉を発さず、まだ震えも止まらないうちに上半身を結界の床に付けたまま尻を振り始めた。
「ん! ……ああ! ひ、っ……! あ!」
緩慢な動きだが、その動き一つ一つで少女が絶頂に導き続けられているのがわかる。
その度に加えられる快楽は相当なもので、先端からは先走りが吸い上げられている。
数日前の盛一郎ならばもう精を放っていただろう。
幸か不幸か濃いまぐわいを経験してきて、既に今日一回射精している盛一郎は、熱にうかされた頭で少女にいたずらをしてみたくなった。
「どうした? こんなものではまだ足りないぞ? 役に立つのではないのか?」
「…………っ、……っ、……っ!」
言葉に対する反応は劇的で、緩慢だった腰の動きが早くなる。
深い動きではなく、上げた腰を上下に振るような小刻みな動きだ。
「ま……ま、だっ! この身、ショユウブ、ツ! あるじ様、まんぞ、くぅ――っ!」
声の調子が高くなる。
既に必死の動きをしていた少女だが、まだ足りないと思ったのか、傘布から伸びた舌が少女の倒れた上半身に潜り込んで支え上げた。
少女は秘裂を割り開いた形のまま固まっていた手を舌に巻き付け、彼女をひっつけた舌が彼女ごと前後に動いた。
「えぅあっ、……い、い、あ、あ、ああ!」
舌の動きに従って少女の体が盛一郎の逸物を扱く。
少女自身では行えない深い動きは、盛一郎のモノを膣全体に馴染ませていく。
「……ぐっ」
少女を励ますように誠一郎が腰をさすると、少女の膣が歓喜するように収縮し、ブジュッと音を立てて淫蜜を滴らせる。
「ぇあ……ッ! ひ……!」
痙攣しながら、舌もだらんと垂らしてしまった少女は、腰だけなんとか上げて、かくかくと振った。そんな彼女に応じて、盛一郎はさすっていた腰を両手で強めに掴んだ。
合図も無しに腰を叩きつける。
尻と腹がぱん、と音を立てた。結合部から盛一郎の物になった証と淫蜜が溢れ、へたった舌の上に落ちていく。
「――っ――ッ!!」
少女が声もなく悶え、体全体で絶頂を伝えてくる。
盛一郎も、せり上がる欲望がまた限界を迎えようとしていることを予感し、子宮にそれを叩きつけようと少女の腰を自身に思いっきり引き寄せて奥に逸物を擦り付けた。
「ひあぁぁぁぁぁああ――――」
一際大きな音で肉と肉がぶつかり、高く上り過ぎて裏返った悲鳴を上げ、膣がきつくきつく絞り上がる。
膣に固定された逸物は、精液をぶちまけた。
精を送り出す脈動が続き、少女はその脈動に合わせるように痙攣する。
精を吐き出すと共に思考を染め上げていた少女の妖気も薄まったのか、盛一郎は正気を取り戻した。
それと同時にこれはまずいと思い、奥に押し付けていた逸物を引き抜く。
「――――――ッ!!」
少女の秘裂は、先端が抜ける瞬間にすがるようにきゅっと絞まり、その快感で逸物が脈打って、残った精液が彼女の背中に吐き出された。
精液がかかると、ため息を吐くように少女から息が漏れ、その体から力が抜け、舌が秘裂から溢れる淫液を全て受け止めた。
●
「おい、大丈夫か?! ああ、しまった。役に立つのかなどと扇ぎ立てるのではなかった。許してくれ」
酔いから覚めたようにいたずら心など霧散した盛一郎は少女に声を掛ける。少女はそんな盛一郎にぼんやりとした笑みを浮かべて見せた。
そのいじらしい様に、思わず盛一郎はまた少女に襲い掛かりそうになって彼女から手を離し、突き刺してあった脇差を支えにする。
彼の逸物は刀と粘液の影響か、未だに収まらず、浅ましくも次の射精の時を待っていた。
盛一郎の視界にひくつく少女の秘裂が見える。
彼が破り傷つけた膣内から血が一筋流れ続けている。
もう一度、あそこに入れたいと強烈に思い、直後に首を振って深呼吸をした。
少女と交わった匂いを吸い込んでしまい頭をくらくらさせながら、盛一郎はなんとか思考を回す。
このまま快楽に身を任せてしまえば、どうなってしまうのか分からない。盛一郎のせいもあって彼女の目はもう常軌を逸している。次はどういう彼女の使い方を教えてこようとするのか分かったものではなく、下手をしたらあの粘液と刀で快楽に洗脳されてしまいかねない。
最悪の場合は捨てられたくない彼女によって結界内に閉じ込められてしまう可能性もあった。
穂積の顔が浮かんで、盛一郎の意識がなんとか正気の側に踏みとどまろうとする。
ここに囚われてしまうわけにはいかない。
(穂積殿を一人にさせるわけには……)
なんとか脱出しなければならない。
どうしたものかと考えていると、盛一郎はふと気付いた。
自分が手にしている脇差し。これは気を切るものだという。
(ならば、この結界も切り裂くことができるのではないか?)
天啓を受けた気分で、盛一郎は脇差を床から抜いた。
肉欲とそれをもたらした粘液と精の欠損でふらつく体を制御して、どこを切ったらいいのかと考えていると、少女が半分眠っているような声で言った。
「またつかわれるのですかぁ? よいですよ、この身は、あるじ様の……もの」
盛一郎は少女を見た。この結界を張っているのは彼女だ。で、あるならば最も可能性がありそうな結界の解除方法は、
(彼女を切ればいいのか)
顔が渋くなる。いくら肉を断つことがないと身をもって分かってはいても、少女に刃を立てることに抵抗を感じる。
少女は盛一郎の表情から何をしようとしているのか悟ったのか、少し正気を取り戻したような目で口を開く。
「この身にはえんりょなど、いりませぬ……。ごじゆうに……おつかいください」
またも、少女に促される形で脇差の先端を――体のどこかを狙うのは気が引け、もともと脇差が収まっていた尻穴に挿しこんだ。
刀身の先端がつぷ、と小さな、しかし確かに侵入する音が聞こえる。
「んんん〜〜……っ」
少女が何かを堪えるように唸り、盛一郎はそれを見ながら少しずつ刃を挿入れる。
どう考えても少女の臓器を傷つける位置にまで刃を通しても、やはり少女はよがるだけで痛みを訴えることはない。
とはいえ、これまでの会話から少女は痛みも悦んでしまいそうな雰囲気を感じていたので、本当に痛みを感じていないか、注意しながら刃を挿れていく。
慎重に、慎重に。決して傷つけないように少しずつ、と思っていた盛一郎だが、まだどこか肉欲に思考を塗り込められていたのか、気が付けば柄の縁まで刃は挿入されており、少女はひゅー、ひゅー、と息を吐いていた。
はっとして、串刺しにしていやしないかと少女を見ると、どういう理屈か、刃は突き出ていなかった。
しかし、結界も破れていない。
失敗かと柄を強く握り込むと、そのせいで刀身が動いたのか、少女が濁った悲鳴を上げたと同時に、結界を照らす露草色の光が一瞬明滅した。
周りを確認してみるが、特に何かが変わったようには見えない。それよりも、少女に痛みを与えてしまったかと慌てるが、彼女の顔は快楽のそれだ。
思わず脇差しを引くと、盛一郎に首を向けた少女がまた悲鳴を上げる。
「あっい……っ、ふぁ……! あるじ様の精が、しみて、はぁぁあっ……!」
涙とよだれを垂らしながら尻を振る少女。彼女の動きに合わせるように、結界内の光が明滅する。
まさか、と思い、盛一郎は柄を捻った。
「ぅうあ――――! えぐれぇッ、ふじょうが、ひらいてっ! しまいぁぎ――――ッ!」
秘裂から淫蜜を吹き出しながら、少女が意味をなさない言葉で叫ぶ。
盛一郎は少女が言った脇差の文句を信じてぐりぐりと捻りを続けた。
ものの数秒で少女の声が音を失い、目が回って白目を剥いた。
音にならない鳴き声を上げて、尻と言わず秘裂と言わず、全身を痙攣させる少女のあまりの様子に罪悪感を感じるが、感情を抑えて盛一郎は周りを確認した。すると、結界内を照らしていた露草色の光が、まるで蝋燭に強い風が吹き付けているかのように断続的に明滅するようになっていた。
何が起きているのかと頭上を見上げると、天井で浮かんでいた傘がふらふらと不安定に揺れているのが目に映った。
やがて、傘は舌に沿うようにふらふらと盛一郎の手元に落ちて来る。
手で受け止め、落ちてきた傘を見ると、大きな一つ目も白目を剥いていた。
光は更に明滅し、別種の光が結界内に差してきた。
周囲を見ると、森の光景が薄らと見える。
外だ。
やはりこの脇差しが効いたのか、それとも昇り詰めさせすぎたせいで結界の維持ができなくなったのか、結界が綻びかけていた。
盛一郎が手にした傘の目を閉じさせてやると、連動しているのか、少女の目も閉じられた。
内心で少女に謝りながら、盛一郎は挿入れた時とは上下逆になった脇差をできるだけゆっくりと引き抜いた。
少女の体がびくんっ、と跳ねるのに同情と欲情を感じながら、盛一郎は言う。
「一度落ち着いたら話をしよう。お前は捨てられることを恐れる必要などないのだと伝えねばならん」
そして、結界の中で外の景色が映りこんでいる部分を狙い、勘頼りに脇差を振り抜いた。
空気を裂く鋭い音から一拍遅れて、紗を切ったように薄い何かが眼前で二つに割れた。
割れた何かの狭間から森の景色が見える。
気が付けば、盛一郎は庭に全裸で立っていた。
足元には少女が、手元には傘があることを確認して一息つく。
と、背後で物音がした。
振り返ると、すぐ近くで穂積が膝を着いていた。
泣いていたらしい穂積は、二人を見て口元を覆って嗚咽を押し殺した。
嗚咽が収まると、穂積は両手を膝において、ほっとした声で言う。
「お帰りなさいませ」
収穫した野菜を籠に入れ、盛一郎は残った野菜が熟し切っていないことを確認して頷いた。
こうして見回してみると、穂積の家の庭にある畑で作られている野菜にはジパング産ではないものもある。
穂積曰く、結界で囲み続けた結果ここはほとんど妖怪たちの国のような地相になっているため、異界の野菜を作ることができるらしい。
異界の作物は精が付きやすいものが多いと聞く。これまでは伴侶を得ている知り合いの妖怪にほとんどあげていたが、これからは盛一郎に是非たくさん食べて欲しいと穂積は勧めていた。
今となってはどうでもいいことだが、この家に初めて来た日に出された食事にもここの野菜が使われていたのではないかと思いながら、盛一郎は立ち上がって伸びをした。
「今日も快調……!」
穂積の家に世話になり始めてから、満ちていた月が半分に欠けるまでの時間が過ぎていた。
最初の数日の間、彼女は盛一郎を文字通り、片時も手放さずに交わりを求めてきた。盛一郎もそれを喜んで受け入れたが、その間はあまりにも精を放ち過ぎて最後の方になるとほとんど記憶が残っていない有様だった。
そんな生活も腕の傷がなくなる頃には体の方が慣れてきたのか、意識を失わずに済むようになった。
それを少し残念だと言っていた穂積だが、一昨日からは彼女も寂しさが少しは満たされたと別行動をとるようにもなっていた。彼女にとってはこの数日は番が本当に自分の傍にいてくれるのかを確認するための期間だったのではないかと思う。
そう思えばあの快楽に満たされた日々にも穂積の想いが見えるようで、彼女のこれまでが慮られる。
(……が、流石にあれは、常軌を逸していた……)
盛一郎はその場にしゃがみ込んで頭を抱え、深くため息を吐いた。
初めて枕を交わした、その次の日のことだった。
くっついたまま離れたくないという穂積の言う通りにしていたら、来客があった。
山の中でも会ったカラステングで、盛一郎の養家に事情を伝える文を渡すための飛脚として穂積が呼んだものだった。
文を用意しようとした盛一郎だったが、その間も穂積は離れてはくれず、膝に彼女を座らせたまま文を認め、彼女に抱き着かれたままカラステングに文を渡して言伝を頼んだ。
当然のごとく、始終繋がったままでだ。
体に回した二本の尻尾で外からは二人が繋がっているのは分からないと蕩けた目で穂積が言っていたが、部屋中に充満する匂いも濡れそぼった接合部がたてる音も対策を一切していない。カラステングは色々と察したことだろう。
今思えば、匂いも音もやろうと思えば隠せたのだろうが、そもそも離れなかった時点で穂積にその気はなかったのだろう。
若干挙動不審ながらも真面目に対応してくれたカラステングには大変気まずい思いをさせてしまった。
(いつか言伝の件も含めて礼をしなければ)
そのような懸念はあるが、ここで根付くための準備は着々と進んでいた。
進む準備の中でも特に自覚できているのは、やはり体のことだ。
穂積と交わっての意識を落とさないことからも明らかなように、精力が増大している。
穂積の説明によれば、妖怪と愛し合うことによって人はその体を愛し合うための体に作り替えるのだという。
妖怪とまぐわうことによって体が妖怪側に近付くということは、養家の旦那の話を聞いて知っていた。
話に聞いていただけだといまいちどういったものなのかが分からなかったが、自分がそうなってみると、生き物としてはより丈夫になるので不都合はないと実感できる。問題があるとすれば、穂積が欲しくてたまらなくなるくらいだろう。
とはいえ、まだ体が完全に出来上がってはいないのだから結界からは出ないでくれと穂積に言われ、こうして盛一郎は留守番をしている。
別行動中の穂積は、これから盛一郎が共に生活するうえで入用になるであろう品物を買ったり、また人里ともっと積極的に関わるために入用になるであろう金子を作るために作り溜めしていた織物を町に卸しに行っている。
次回は一緒に町に降りて穂積自身の正体を明かし、また盛一郎が自分の夫であるとも紹介したいと言っていたので、どういった挨拶をしたものか考えておいた方が恥をかかずに済むかもしれない。
人前に出るのは慣れていないが、まあ、その時はがんばろうと思いながら盛一郎は収穫物を川の水に浸して、新品同然の道具を手に畑の雑草を取りに向かう。
穂積は畑仕事に関しては大抵妖力を使って済ませていたが、盛一郎ではそうはいかない。税のことを考えずに一人が生活していく糧を得る為、と考えると少し手広い畑の世話は、盛一郎が日常生活に復帰するための慣らしも兼ねていた。
扱っている農具は戦乱の時代、麓の町がまだ村だった頃に献上された貢物の中にあったものだ。穂積が貢物を収めていた部屋から持ち出してきた時、農具には煌びやかな飾りが付いていてどう見ても祭具だったので使うことに躊躇したが、貢がれた神様本人が良いと言っているならいいではないですかと押し切られて以来酷使している。
ここしばらく穂積と愛し合う以外には体を動かすことのない生活を送っていたが、特に衰えてはいないようで、体はよく動く。
養家の旦那も盛一郎の四倍は生きているはずなのに若々しく精力的だ。このような恩恵はまさに妖力様様である。
(この分ならば見回り衆に加わってもすぐに動けそうだ)
昨日から穂積と盛一郎は、山の見回りを行っている見回り衆の仲間に加えてもらうよう交渉していた
山をより強固に管理して街道としての安全性を向上させるのが目的だが、その他にも自分たちのことを知っているカラステングとその伴侶。そこをきっかけとして、穂積と人里との関係を繋ぎ直すのも、また目的の一つだった。
まとまった話では、山の広い範囲をカバーできるようにいくつか詰所も作られるように計画された。
詰所は夫婦で居られるようにそれなりの大きさが必要であり、そのための土地の整地と建材を穂積が用意している。
このことに対する話し合いが持たれた時点でカラステングの夫には穂積のことが知らされた。
彼等は妖怪の夫であり、山にもよく入る上にカラステングたちのお眼鏡に適うような人間だ。簪を取って正体を現した穂積に対しての反応は落ち着いたものだった。
少しずつ、穂積と人間の付き合いが回復されつつある。
更に通行のために山の中に別の街道を作る計画もある。これが完成すれば人と物の流通は更によくなるだろう。
街道が増えればそれに応じて商売も増える。計画を早めに伝えれば養家の女将はその情報で勝手に稼ぐはずだ。
養父母に返す恩の形はこれこそがらしい=B
穂積と人々との関係が回復して、自分も養家に恩を返せる。
全て良い方向に進んでいた。
体についても、そう遠くない内に完成するだろう。
そうなれば自分は見回り衆、いわば山の用心棒として働ける。商売をするよりも遥かに自分に合った仕事だ。
(いつまでも隠れ家住まいで動かないわけにもいかん)
こちらでの生活習慣が全てまぐわいに塗れるのもそれはそれで悪くはないが、盛一郎としては野山を駆け回るというのも魅力的だ。
近い未来に思いを馳せていると、旅暮らしから離れて閉じこもっていたせいで失念していたことが頭に浮んだ。
武器が壊れたままだ。
カラステングの伴侶たちが持っていたものを見るに、支給品として十手などがあるようだが、町に比べると野性味の強い荒くれ者を相手にすることも多いであろう職場だ。できることならば使い慣れた武器が良い。
一番慣れている、愛用の仕込み傘に仕込んだ脇差は壊れてしまった。
(傘では武器にはならないしなあ)
持ち慣れているといえば、あれは旅暮らしの間中ずっと持っていた物ではある。いっそあれ自体を武器にできるように改造できたら面白いかもしれないと考えるが、仕事上示威も必要だと考えると武器だと一目見て分かるようにしておくべきかと考えを改める。
(そうなると……)
盛一郎は献上品の中にあった幾振りかの刀を思い出す。
献上品はどれでも自由に使ってくれて構わないと言われている。今度改めて武器を選ぶのもいいかもしれない。
それとは別で、代わりの仕込み刃も欲しかった。
「重心がずれて違和感があるし、あのままでは普通の傘として使うにも具合が悪い……早めに変えねば」
両親が遺した唯一のものと思って無理して使い続けた結果、肝心な所で折れてしまった。盛一郎の失敗だ。
おかげで今回は傘自体で不埒者を打ち据えもした。それで絡繰りが壊れなかったのは僥倖だが、それとは別でまた傘の補修もした方がいいだろう。
そんなことを考えながら穂積に用意してもらった昼を食べるために手を洗いに井戸へ行く。
すると、家の方から物音がした。
●
音は少しの間ガタガタと続いた後、不意に静かになった。
盛一郎は首を傾げた。
初めは使いをお願いしたカラステングが戻って来たのではないかと思ったのだが、彼女らが訪ねて来たのなら、庭で畑仕事をしている盛一郎に気付かないはずはない。
穂積が家に居ると思ってそちらを訪ねたのだとしても、居ないと判断したのなら盛一郎に行方を尋ねてきそうなものだ。
それがないとなると、この辺り一帯が結界で隠されている以上あり得ない話と考えていたが、招かれざる侵入者が居るのかもしれない。
盛一郎は、家に静かに近寄って縁側から居間を覗いてみた。
視界には誰も映らない。
家に上がって客間に物置き部屋に仕事部屋、台所に厠に湯殿まで見ていくが、誰の姿も見つからなかった。
何か物が倒れた音を勘違いしてしまったのだろうと思いながら土間に置いてある漬物壺を覗いていると、背後に突然視線を感じた。
「――?!」
急いで振り返ってみるが、そこには誰もいなかった。
「確かに、何かが居たはずなんだが……」
はっきりと、何者かの視線を感じたのだ。この家に何者かが侵入したのは間違いない。
「何者か。姿を見せよ!」
家全体が震える程の大声で呼びかけると、居間の方で音が聞こえた。
「そこか!」
勢い込んで居間に上がるが、そこにも誰の姿もなかった。
ただ、行李と共に土間に置いてあったはずの仕込み傘が開いた状態で縁側にぽつんとあった。
露草色の傘布は、よく見れば所々に傷がある。もう少し丁寧に扱えばよかったと今更ながらに思いながら盛一郎は傘の裏を見透かすように目を細めた。
陽に透かされた傘は、背後に何者かが隠れているのを影で示している。
「頭隠してなんとやらだ」
盛一郎が傘に向かって一歩進むと、傘がズルズルと下がった。
足を止めると傘も止まる。
動物相手に間合いを測っているようだと思いながら、盛一郎は動きを止めた傘と睨み合う。
数秒睨み合いながら、このままでは埒があかないと判断した盛一郎は、全速力で距離を詰めようと、強く床を踏み飛び出した。
その音に、傘も反応した。
傘は縁側から庭に降りると、傘を開いたまま跳ねるように逃走を開始した。
変な移動の仕方をしているにしては早い。盛一郎との距離はなかなか縮まず、このままでは逃げられてしまうかもしれなかった。
「待て、その傘は大事なものなのだ!」
せめて傘だけはどうにかならないかと声をかけると、相手の動きが乱れた。
傘が持ち上げられ、陰に隠れていた者が見える。
陰に隠れていたのは寺子屋を卒業したかどうかといったくらいの少女だった。
傘の柄は無くなっており、少女は傘布を頭に直接被っている。慣れ親しんだ傘が解体されてしまったことに怒りよりも寂しさを感じながら、盛一郎は少女を観察する。
衣服は布に穴を開けてそこに頭を通しただけの、貫頭衣と呼ぶのも憚られる簡素な物で、両足を縛るように細い帯のようなものが巻き付いている。
年齢にしても衣服にしても、山中にある隠れ家に忍び込んでくるための格好ではない。
とにかく、動きが止まった隙に盛一郎が距離を詰めようとすると、少女がしまった、という表情で両足で後方に跳んで逃走を再開した。
細い足にしては結構な距離を跳ぶ少女だが、一度動きを止めさせた分、距離は縮まっている。森の中に逃げ込んでしまえば木々が邪魔になって跳ねるような逃走手段は遅くなるだろう。見失いさえしなければ捕まえることができる。
穴を開けただけの服が捲れ上がって素肌がちらちらと見えてしまっているのを目の毒だと思いながら距離を詰めて行くと、盛一郎が放置していた農具の柄に躓いて少女が転んだ。
「――?!」
「あ」
見ていて惚れ惚れする程に見事にこけた少女の布が盛大に捲れ上がった。下半身全開の少女から少し視線を外して見ないようにしながら、盛一郎は声をかける。
「あー……無事、か?」
少女は身を起こして布を適当に直した後、盛一郎と目を合わせた。
その頬には転んで痛かったのか、捕まった後のことを考えて怖くなったのか、涙が伝っている。
衣服の様子からすると、どこかの浮浪者だろう。
山の中に迷い込んだ末に偶然かなにかで結界をすり抜けてこの家に辿り着いたのではないだろうか。
(……いや、浮浪者にしては少しおかしい、か?)
少女は衣服こそは質素なものだが、細い手足や首の辺りで切りそろえられた髪も垢染みていない。それどころかガラクタに混じる宝石のように、目を惹く美しさがある。
「とにかく、その帯で服をとめるといい」
盛一郎は問答無用で捕まえるつもりはないと示すように両手を挙げると、盛一郎は少女の結びが外れてしまったのだろう帯を腰に巻くように指示した。
少女は何も答えず、ただ盛一郎を見つめてしゃくりあげながら涙を流し続けている。
見た目や布が捲れ上がった時の胸の成長具合から判断するに、やはり寺子屋を卒業したかしないか程度の年齢、まだ子供の時分だ。大声で驚かせてしまったかと思い、盛一郎は相手を宥めすかそうと語調を和らげた。
「安心するといい。君をお上に突き出そうとは思っていない。……その傘はやれないが、食料なら少しは恵むこともできる」
言っていると、少女が口を開いた。
「だ……なら、ど……して……か?」
「ん?」
どうしたのかと少女に近寄ると、少女は叫ぶように言った。
「大事なら、どうしてこの身を捨てようとなさるのですか!?」
は? と言葉を発する前に、彼女から妖気が感じられた。
あの傘が妖怪になっていたのかと思った直後、叫んだ少女の目が盛一郎を睨むようなものに変わった。
「やくに立つと、教えてさしあげます」
少女がいくら睨もうとも恐くは無い。むしろ頬を伝う涙と潤む瞳のせいで愛らしいとさえ思える。
一瞬和んでしまったその時、彼女が後生大事に被っていた傘に割れ目ができた。
気付いて距離を置こうとした瞬間に割れ目がぱっくりと開いて、中から盛一郎の顔程もある巨大な一つ目が現れた。
こちらも睨むような視線を寄越す傘に射竦められると、体に巻き付いてくるものがあった。
「な……?」
咄嗟に振りほどこうと絡みつく物に触ると、それはぬるっとした奇妙な感触を返した。
それはピンク色をしており、生温く、何かの粘液で濡れた、傘の内部から生えた舌だった。
舌はきつく盛一郎を締め付けると、傘の方へと引きずっていく。
「くっ……」
踏ん張ろうとするが、舌が引き寄せようとする力の方が強い。
その光景を眺めている少女は、先程までの盛一郎を睨み付けた表情から一変して、どこか恍惚としたものになっている。
その表情に、穂積がたまにする表情を重ねた盛一郎は理解した。
「妖怪……っ」
傘の中へと引き寄せられた盛一郎の意識は暗転した――と思ったが、暗転したのは視界だけだった。
盛一郎の抵抗をものともせずに引き寄せた舌の先で待ち構えていた少女に、盛一郎は抱擁されていた。
顔を上げると、目の前に泣き跡の残る少女の目が映った。
髪に少女の手が当たる感触がある。
少女は世にも嬉しそうな顔をすると、さあ、と前置きして、
「たのしませます、あるじ様」
瞬間。舌の根が繋がっていた傘布が風を伴って勢いよく閉まった。
●
誠一郎が使っていた仕込み傘は開いた状態で吊るし、その下で座り寝をすれば雨が降ろうと濡れずに済む程度には大きいが、人が二人入れば隙間などない。
傘の少女の膨らみかけの胸に密着した状態で、盛一郎は少女の頭上を見上げる。
少女の頭で閉じられ二人を密着させた傘布は、舌を盛一郎に絡ませたままで少女から離れて緩く回りながら空中で静止した。
離れられる、と思ったが、舌が少女と盛一郎を繋いでいるため身動きが取れない。
諦めず、盛一郎は周りに何か役に立つものはないかと視線を巡らせて絶句した。
二人の周囲は、傘布と同じ露草色の光が照らす何もない空間に様変わりしていたのだ。
少女が、日光とは明らかに違う、青白い光に薄らと照らされる中で笑みを浮かべている。
ぞくりとした。
何なのかは分からないが、複雑な情念が絡んでいる深すぎる笑みを浮かべた少女。盛一郎は気圧されそうな自分を鼓舞する意味も込めて彼女を誰何した。
「妖怪よ、お前は何者だ?」
その言葉に、少女は何故か傷ついたような表情を浮かべた。
「あるじ様……分かりませぬか? あなたのショユウブツでございます!」
言われたことの意味を考えて、盛一郎は唖然とした。
ショユウブツとは、所有物ということだろう。
今この場で盛一郎の所有物となると、思い当たるものは一つしかない。
「……まさか、お前、俺の傘……か?」
まさかと思い言ってみたことは、どうやら当たりだったらしい。少女はそれはもう嬉しそうに何度も頷いた。
「はい! はい……! あるじ様の傘でございます! あるじ様がずっと大切に使いつづけてくれた、それゆえにいのちが宿ったあるじ様の傘でございまする!」
そんな少女を見ながら、当てずっぽうが当たってしまった盛一郎はまだ頭が付いていけていなかった。
持っていた傘が妖怪になったということのようだが、そんな話で思い浮かぶとしたら女将が昔に言っていた器物が妖怪化するという現象くらいだ。
そのような兆候はあったろうかと記憶をたぐってみるが、思い当たるところはない。
ただ、隠れ家の結界を破ったのではなく、そもそも彼女は初めから結界の中に居たのだと思えば、彼女がここに要ること自体に不思議はない。
「傘自体が本体ではないの、か?」
「こちらも、そしてこれも、あるじ様の傘でございます」
傘自体と自分のことを指して、少女は笑みの形に吊り上げた口元に涙を流す。
「そんなに、転んだ所が痛むか?」
感情が溢れすぎて表情からは何を思っているのか類推できなくなりつつある少女に気遣うように言うと、少女は首を勢いよく首を横に振った。
「あるじ様、いけずな方でございます」
少し暗い調子になった少女は、涙を拭いながら言う。
「あるじ様がこの身をいらぬとおっしゃるから、ようやく目ざめたこの身は泣いているのです」
「なんだと……?」
笑みを浮かべ続ける、自身を傘だと言う少女は恨めしそうに話す。
「あるじ様、傘としてもぐあいが悪いとおっしゃっておりました。ようやくこの身もうごいてあるじ様につくすことができるようになりましたのに、あんまりでございます……」
そう言われて、盛一郎は理解した。
この傘の妖怪は、盛一郎が何気なく発した言葉を取り違えていた。
取り替える物が傘だと思ったから、少女は自分が捨てられてしまうのだと勘違いしてしまったのだろう。
盛一郎が取り替えようとしていたのは傘に仕込まれていた脇差だけだ。
それを説明すれば少女も勘違いを理解するだろう。
「なんにちもの間、あるじ様はこの家にとどまっておられます。さっしますにもう、あるじ様は旅には出られないのでございましょう。
旅に出られぬのならば野じゅく用に大きくあつらえたこの身はもう用ずみ……口惜しゅうございますが、あるじ様が決めたのでしたらこの身はあきらめもしましょう。ですが、この身いがいの傘を使われるとおっしゃるのならば、この身はあるじ様にこうぎいたしまする」
「まあ待――」
盛一郎の言葉を聞いても少女の話は止まらなかった。彼女は盛一郎に何も言わせないようにするように薄い胸に盛一郎の頭を押し付け、
「大きくとも、今やこの身はあるじ様のお手をわずらわせることのない傘でございます。
また――ええ、あるじ様」
声に、どろりとした何かが混じった。
「この身はちまたにあふれるぼんような傘ではけっしてなしえないことができまする」
手が緩められ、そっと盛一郎の顔が上向きにされる。
谷間がないため呼吸がほぼできなかった盛一郎は解放された瞬間、勢いよく息を吸い込み――少女は呼吸途中の口を塞いだ。
突然のことにもがくと、少女の甘い呼気が肺に流れ込んでくる。
酸素の濃度が薄く、一瞬意識が乱れる。このままではまずいと振りほどこうとすると、体に巻き付いている舌がよりきつく絡んで動きを止めた。
その舌の先が袖を捲って盛一郎の右腕を舐め上げる。
舌先がなぞるのは、もう跡しか残らない傷があった場所だ。
盛一郎がこの傷を負った時に居たのは盛一郎と穂積を除けばそれこそ彼の持ち物くらいのものだ。
彼女は本当にあの仕込み傘なのだろうという納得を得ながら右腕に唾液を刷り込まれる。
穂積に続いてここを熱心に舐められるのは二回目だ。
舌が熱心な右腕とは違い、口を吸っている方はただ口を合わせて押し付けてくるだけだった。
少女はしばらく口を合わせると、離れて荒い呼吸をする。
「どうでしょう? この身はおやくに立っておりますか?」
心配そうな問いかけに頷く。
「役に立っている。だから、落ち着け。俺はお前を捨てはしない」
盛一郎の言葉に動きを止め、少女は盛一郎の顔を見る。そして俯き、
「うそです。この身は聞いたのです。あるじ様はこの身を捨てるのです。もうなんにちもこの身をつかわないのはこの身がいらないと思われているからなのです」
だから、
「この身はおやくに立てるのだと知ってもらわねばならぬのです。――さあ、あるじ様、あつい体をなぐさめまする」
少女が言う通り、盛一郎の体はいつの間にか全身熱くなっていた。体を寄せ合ってはいるが、少女の体温も、この空間もそこまで暑いというわけでもないのにこれはどういうことだろうと感じながら、とにかく盛一郎は制止の言葉をかける。
「待て」
言葉が通じていない。少女の中ではもう捨てられるということは決まったこととして認識されてしまっているようだった。
せめて傘の補修を早くにやっておくべきだったろうかと悔やむ間に、少女が口元を舌で舐め上げて熱を持った口調で言う。
「あるじ様をとってしまったメギツネ様は今はおりません。そんな時でもこの身があればだいじょうぶでございます。あるじ様はこの身をいつでもつかってよいのです。つかいごこちは教えてさしあげます。あるじ様のショユウブツのみりょくをたんのうしてください」
舌の拘束が緩むと同時に熱を持った体から力が抜けて、少女に体重を預けてしまった。
それを受け止めながら、少女は言う。
「この身の舌はあるじ様をおもうと、あるじ様のあせを、精をあじわうと、あつく、うるんでしまうのです。そして、これは――」
舌が離れても盛一郎の体に宿る熱は収まらない。
「あるじ様もあつくなるこの身のおうぎでございます」
傘から生える舌が襟から入り込んで盛一郎の服を脱がせた。
その先端が熱くなった盛一郎の逸物に触れる。
熱の正体が強烈な肉欲だと自覚したその時、
「あるじ様……っ」
濡れた声で言って、少女が衣服を脱ぎ捨てた。
●
布に穴を開けただけの服は盛一郎の体重を受けていながらでもあっさりと脱ぎ捨てられた。
傘布を薄めたような、露草色の光が発育途上の体を照らしている。
少女は胸に盛一郎の顔を擦り付けるように頭を動かしながら、下半身も擦り付ける。
傘から生えた舌に絡まれた逸物に少女の腿が触れた。
舌から溢れた唾液を潤滑液にして少女は腿で盛一郎の逸物を愛撫した。
「いかがでしょう? メギツネ様とまぐわうすがたを見ていたのです。あるじ様はおむねが好きなのですね?」
残念ながら、未成熟な胸では穂積の胸で感じられるような柔らかさと安心感は得られない。
盛一郎が穂積の胸に抱かれている時のように幸せそうではないのを察したのか、少女は少し焦ったように、
「あるじ様、まだ、まだです。この身はまだもっとあるじ様をたのしませることができまする……っ」
そう言って背伸びをして口を塞いだ。
「……っ……っ」
少女は息を荒げながら体を揺すった。
「あるぃ……しゃま……っ」
唇を押し付け、すがるような言葉を発しながら、少女はすり合わせる足を横に振ったり腹を押し付けたりして盛一郎を高めていく。
「あるじ様……甘ろでごじゃいます」
唇を合わせながらの言葉と共に、盛一郎の逸物の先端を舌が丹念に舐め始めた。
自身の逸物の先端から欲望の先走りが出ていることに盛一郎も気付いていた。
穂積に対する裏切りの先駆けのようで、盛一郎は自身を恥じる。
せめて射精だけはすまいと丹田に力を入れると、少女が口を離した。
「あるじ様、おなかに力が入っております」
少女が言うと、舌が逸物から離れて下腹から逸物の根本までを丁寧に舐め下った。
舌が当たって粘液が触れると、こらえようとしていた射精感が増大して下腹から逸物の根本へと集まっていく。
「待て、穂積殿に――」
「分かっておりまする……しかしあるじ様、いっとき、メギツネ様のことはおわすれください」
熱に浮かされた顔に寂しそうな笑みを浮かべ、少女は限界まで勃起して粘液を照り返す逸物を腿と腹、そして舌で圧迫した。
「――っぐ!」
生ぬるい舌の感触と人肌の触感が勃起を力強く圧迫する。
「あ、はぁぁ――――ん!」
少女の体がふるふる震えて盛一郎の下腹を粘液に浸けていた舌に力が入った。
達したのだろうかと、盛一郎が少女をぼんやりとし始めた意識で眺めていると、彼女と舌の体重が盛一郎にかけられた。
盛一郎は粘液で完全に骨抜きにされていて、少女一人の体重にすら耐えられなかった。
かけられる体重のままに背から地面に落ちていく。
地面だったはずのそこは、何もない床だった。
天井で天蓋のように浮遊して回っている傘といい、自分は結界に閉じ込められてしまったのだろうと思う。
地面に背が付いた瞬間、少女の全体重が逸物を擦り上げた。
暴力的な刺激に、限界を迎えていた逸物は痛みよりも快感を感じて、抑えも利かずに欲望を吐き出した。
「……う、……っ」
「あ、ああ……びくんびくんって、あるじ様、あつくて、あまくて、この身は、ぁ……、し、しあわせです」
震える腰の動きを味わうように下腹を押し付ける少女は欲望の放射が収まると、身を起こした。盛一郎が吐き出したものが、子供から大人になりかけの腹部から胸にかけてべっとりと付いている。
盛一郎は胸に浮かぶ罪悪感が穂積に対してのものか、まだ幼い見た目の少女を汚してしまったことに対してのものなのか分からないまま、少女の言葉を聞く。
「あるじ様、おけがはしておられませぬか?」
「いや、大丈夫だが」
倒れた床は、柔らかく二人の体重を受け止めていた。まるで布団の上に倒れたかのような感触であり、
「あるじ様、まだ足りないのですね」
笑む少女の声が含む熱に、この結界は閨房の類なのだと理解する。
少女の下で、盛一郎は未だに硬さを保っていた。
少女は手で欲望の残滓と粘液とを逸物の上で混ぜ合わせる。
先端を撫でる掌と、根本や袋を舐める舌に翻弄されながら、盛一郎は「待て」と呻いた。
「まちませぬ……あるじ様、おむねは足りずとも、この身はあるじ様をここまでみちびけました。つぎはこちらのつかいごこちを味わっていただきます」
熱に浮かされた口調で、少女は腰を上げて股間に手を添えた。
少女のそこからは液体が滴っている。
片手は逸物を、もう片方の手を股間に添えた少女の次の行動は予測がついた。
「あるじ様、この身のはじめてでございます。この身があるじ様のものであるときざんでください」
盛一郎の予想通り、少女は自らの秘裂に盛一郎の逸物をあてがった。
「はぁぁぁ……っ」
少女が涙目で震える。
盛一郎の逸物が一層硬くなる。体が少女を求めているのを実感した。
舌から染み出す粘液のせいか、少女の熱狂的な目から溢れる危うい魅力のせいか、この結界の閉塞感のせいか。盛一郎の思考が少女の未成熟の体にしか焦点を絞れなくなっていく。
盛一郎の先端が少女の狭い入り口に浅く入る、くちゃ、という音が妙に大きく聞こえた。
それだけで逸物から精がせり上がりそうになる。
盛一郎の先端が、生まれたばかりで男を受け容れるどころか自慰すら一度もしたことがないのだろう狭い、それでいてどろどろに潤っている少女の秘裂へと入っていくのが妙に鮮明に感じられた。
このままではまずい。
絞り出すように息を吐き出しながら腰を少しずつ降ろしてくる少女に全て埋まってしまったら完全に少女に囚われてしまいそうで、盛一郎は咄嗟に少女の腰を掴んだ。
「ぁあ、いけずしないでください……」
少女がもどかしげに言っていやいやをするように腰が振られる。
浅い所で繋がった陰部が快楽を伝えてきて、盛一郎は少女の腰をより強く握りしめた。
「んんん……っ」
少女が身をよじる。
すると、腹にあった舌が離れて少女の腰を掴む盛一郎の手を舐めた。
触れただけで体に熱が宿る粘液が大量にまぶされ、盛一郎の手がずるりと滑ってしまった。
「ふぁ……っ」
「……っ!」
ずるりと膣に逸物がまた少し侵入する。
僅かに抵抗を感じる膜に軽く触れた位置で、盛一郎は右腕だけでなんとか少女の腰を掴む。
少女を支えるために強く掴んでしまったのだが、それすら少女にとっては気持ち良いようで、蕩けそうな声で言う。
「あああ、あるじ様ぁ、こしぃ、つよく、もっとぉ! この身は、この身はつよくされてもこわれませぬゆえぇ! はげしくしていただきとうございまする」
盛一郎はぐいぐいと腰を下ろそうとする少女を必死に掴まえて耐える。
腰が下りないようにこらえていようと、膜の前まで飲み込まれた逸物は、淫蜜をこんこんと溢れさせる蜜壺にしゃぶられて水音を立てている。このままではまた欲望を吐き出してしまいそうだった。
せり上がってくる精液は力が入らない下腹では食い止められない。
完全に少女に呑まれてしまうのは時間の問題だ。
盛一郎が限界を感じていると、少女の尻にまで滑っていた左腕が、何か異物を捉えた。
「んゃぁ!」
少女がこれまでとは異なる音色で鳴いて体を反らせた。
勢いで盛一郎の逸物が抜け、淫蜜を飛沫かせた女陰が盛一郎に見せつけられる。
尻を手から逃がすように腰を突き出したまま少女は盛一郎にぺたんと座った。
(これは……)
異物は、手に収まる太さで、長さについては掌に収まらないほどだった。
というか、
(これは……もしや)
盛一郎は握っている異物の伸びている方――少女の尻の方へと手を移動させた。
そして理解した。
「あるじ様……?」
少女の声に戸惑いが混じった。
盛一郎はそこにある異物の正体に思い当たるものがあったがその予想が信じられず、手に持ったそれを上下に振ったりしてみる。
「んぁぁ……っい、いけませぬあるじ様ぁ!」
少女はまた逃げるように盛一郎に腰を押し付けてきた。
少女の体を抱えた盛一郎は、彼女の尻を確認して思わず唸った。
それを不快の表れと取ったのか、少女は傘から舌を伸ばして盛一郎の腕を伺うように舐めながら、
「あるじ様? この身が何かそそうをはたらきましたか? すぐに、もっとおやくに立つことをお教えいたしますから、ね? ね?」
「だから、俺は君を捨てたりは……」
「だいじょうぶでございます。経験はなくともこの身は名器! あるじ様がおひとりでしょりしているすがたも知っておりますれば、もっとも好きなこすられかたも知っておりまする!」
盛一郎の言葉はやはり少女には聞き入れられなかった。
説得することを諦めた盛一郎は、安心してもらえるようにと思いながら少女の背を優しく撫で、目を小振りな尻、その肉付きの薄い肉の間から生えた異物にやった。
それは、扱い慣れた盛一郎の両親の形見の脇差しだった。
彼女自身も仕込み傘そのものであると名乗った以上、どこかに“仕込み”があるのではないかと思っていたが、
(まさかこんな所に……)
脇差しは刃が折れてしまっている。いくら妖怪の体が丈夫であるといっても刃物が直接体内にあるのはまずいだろう。
痛みなどは特に感じている様子もないが、あの傘は快楽を呼び起こす粘液を滴らせている。粘液によって痛みを麻痺させているのではないかと考えて、早急に脇差しを引き抜かねばと盛一郎は舌を優しく払って右手で柄を持ち、左手で少女の腰を押さえて一息に引き抜いた。
「あ、ひぁ、ああああああ……っ!」
脇差しがズルりと引き抜けた瞬間、少女が叫んで盛一郎にすがりついた。
「だ、大事ないか?」
「ひ、あ、ああ……」
少女は震える腕でようよう体を起こすと、かすれ声で言った。
「だいじょうぶです……そのやいばは、いかがでしょう……この身はおやくに立てておりますか?」
言われて気付いた。
少女の尻から引き抜かれた脇差しの刃は完全に復元していた。
むしろ、刃は刃こぼれも曇りも一切ない新品同様の状態で折れた当日よりも明らかに状態がよくなっている。
「これは……」
「あるじ様の、たいせつなものでございます」
震える腕で体を支えることを諦めたのか、少女は傘から伸ばした舌に体を支えさせるとゆっくりと話す。
「おやくに立つことの一つとして、この身でおれてしまったやいばをようりょくでつぎました。
ただ、やいばはこの身のようきを受けておりますのでそのやいばで人をきることはかないませぬ」
「なまくらには見えないが」
「このやいばはにくではなく、気をきるのです」
「気……か」
そうは言われても、光に映してみても吸い込まれそうな程に綺麗な刃だ。確かに、これ程の物ならば妖気の一つや二つ切ってしまいそうな霊妙さに溢れている。だからこそ、これで肉を切ることはできないという言葉は信じられなかった。
不信の気配を敏感に察したのか、少女がこころなしか沈んだ声音で問う。
「あるじ様、この身のことばは信じられませぬか?」
「いや、そうではないが、あまりに見事に打ち直されているものでつい、な」
その言葉は嬉しかったのか、少女は喜色を浮かべ、
「そうでございます! この身は売りもんくをたがえませぬ! おやくに立ててございましょう?」
「うむ、相違ない」
頷くと、少女は子供そのものの笑顔で盛一郎から下りると、体を反転させて尻を突き出した。
「見てくださいませ。あれほど深くささったやいばでもこの身は傷ついておりませぬ」
言葉の通り、少女の尻にも、その奥の穴にも傷は何一つなかった。
おそらく妖怪化してからずっと入っていたのだろう、ピンク色のすぼまりはなくなった異物を求めるようにひくついていたが、どこにも傷は見当たらない。
「んぃ……っ!」
好奇心の向くままに人差し指を挿入れると、少女は高い声で喘ぐ。
いけない、と思って指を引き抜くと、尻穴の入り口が最後に指を惜しむように一瞬締めた。
引き抜いた指を見てみても、血は付いていない。
「本当に傷がない……」
「そうでありましょう?」
盛一郎は改めて脇差しを見る。
見事な刃だ。既に記憶にはないが、両親から受け継いだ時よりもきっと美しい状態。そんな刃を鍛え直したのが少女の体内であるという事実と相まって、盛一郎はその不思議な刃を試してみたい誘惑に駆られた。
好奇の視線を脇差しにむけていたことに気付いたのか、少女は言う。
「あるじ様もつかってみますか?」
その誘い文句を断る気は盛一郎にはなかった。
盛一郎は刃を左手の指先に当てる。
少女が熱っぽい息を吐きながらこちらを見ている。
その視線に促されるような形で、盛一郎は右手を横に引いた。
刃は左の人差し指の皮膚の中に、なんの抵抗もなく入り込んだ。
皮膚に刃物が入り込む感触に背に冷たいものが押し付けられたかのような感覚を得る。
あまりの切れ味の良さに、骨に達するほどに刃を滑り込ませてしまった盛一郎は慌てて刃を離した。
離した刃にはやはり血は付いていなかった。
不思議な刃だと思った瞬間、指を中心として、全身に毒が回るように体中が熱くなった。 思わずふらついてしまい、倒れないようにその場に脇差しを突き刺して支えにして指先を確認した。
そこからはやはり血は流れて来ない。それどころか、何かを押し付けていたような跡すらも見つからなかった。
だが、盛一郎が襲われた熱の発信源は間違いなく刃が走った指先だった。
「なん、だ……?」
「それは気を切るやいばだと、言ったではないですか……」
少女が言う。
盛一郎はその言葉を思い出し、気を切るとはどういうことかを遅まきながら理解した。
「あるじ様、今、あなた様は気を切られてその分をこの身のようりょくが少しずつうめておりまする」
だからか、盛一郎は目の前で尻を突き出した少女が欲しくてたまらなくなる。
怒張した下半身が意思とは関係なくびくびく揺れる。
刃で切っただけではなく、傘の舌から分泌される粘液も切られた気から体内に侵入したのだろう。体が感じるこの熱さは、舌でなめられた際に感じたそれと同じだった。
少女に触れてもいないのに思考が肉欲に覆われていく。
「けっかいの中、あるじ様はこの身のようりょくをいっぱいすうております」
「嵌めてくれたわけか」
「とんでもございませぬ! この身はあるじ様のショユウブツ。ただ、はじめてですから、この身のつかい方をしめしているだけでございます」
少女はそんな言葉を寄越して、その証明とばかりに自ら淫蜜を垂らす秘裂を指で割り開いた。
「ここからがこの身のしんこっちょうでございます。この身は、全てをわすれさせ、けらくをさしあげることができます。さあ、つかってください」
少女本人から出された許しの言葉に、盛一郎の理性が飲み込まれた。
盛一郎は自身の怒張した逸物を持って、少女の秘裂に突っ込んだ。
膜は突き破られ、秘裂は力づくで押し広げられながら逸物を受け容れていく。
欲望に任せた挿入は、少女の尻に盛一郎の腹が当たるまで一息に行われた。
肉と肉がぶつかる音がして、同時に盛一郎の先端が膣内にある膜とは違う何かも押し広げる音が少女の体内で鈍く響いた。
少女の一番奥まで貫いたのだ。
「あああ、、あ、あ、っひ――――!」
叫んだ少女が膣を締め付けて震える。
「達したか?」
逸物に不定期な媚肉の振動が伝えられた盛一郎の問いに少女は口を開閉させるだけで言葉を発さず、まだ震えも止まらないうちに上半身を結界の床に付けたまま尻を振り始めた。
「ん! ……ああ! ひ、っ……! あ!」
緩慢な動きだが、その動き一つ一つで少女が絶頂に導き続けられているのがわかる。
その度に加えられる快楽は相当なもので、先端からは先走りが吸い上げられている。
数日前の盛一郎ならばもう精を放っていただろう。
幸か不幸か濃いまぐわいを経験してきて、既に今日一回射精している盛一郎は、熱にうかされた頭で少女にいたずらをしてみたくなった。
「どうした? こんなものではまだ足りないぞ? 役に立つのではないのか?」
「…………っ、……っ、……っ!」
言葉に対する反応は劇的で、緩慢だった腰の動きが早くなる。
深い動きではなく、上げた腰を上下に振るような小刻みな動きだ。
「ま……ま、だっ! この身、ショユウブ、ツ! あるじ様、まんぞ、くぅ――っ!」
声の調子が高くなる。
既に必死の動きをしていた少女だが、まだ足りないと思ったのか、傘布から伸びた舌が少女の倒れた上半身に潜り込んで支え上げた。
少女は秘裂を割り開いた形のまま固まっていた手を舌に巻き付け、彼女をひっつけた舌が彼女ごと前後に動いた。
「えぅあっ、……い、い、あ、あ、ああ!」
舌の動きに従って少女の体が盛一郎の逸物を扱く。
少女自身では行えない深い動きは、盛一郎のモノを膣全体に馴染ませていく。
「……ぐっ」
少女を励ますように誠一郎が腰をさすると、少女の膣が歓喜するように収縮し、ブジュッと音を立てて淫蜜を滴らせる。
「ぇあ……ッ! ひ……!」
痙攣しながら、舌もだらんと垂らしてしまった少女は、腰だけなんとか上げて、かくかくと振った。そんな彼女に応じて、盛一郎はさすっていた腰を両手で強めに掴んだ。
合図も無しに腰を叩きつける。
尻と腹がぱん、と音を立てた。結合部から盛一郎の物になった証と淫蜜が溢れ、へたった舌の上に落ちていく。
「――っ――ッ!!」
少女が声もなく悶え、体全体で絶頂を伝えてくる。
盛一郎も、せり上がる欲望がまた限界を迎えようとしていることを予感し、子宮にそれを叩きつけようと少女の腰を自身に思いっきり引き寄せて奥に逸物を擦り付けた。
「ひあぁぁぁぁぁああ――――」
一際大きな音で肉と肉がぶつかり、高く上り過ぎて裏返った悲鳴を上げ、膣がきつくきつく絞り上がる。
膣に固定された逸物は、精液をぶちまけた。
精を送り出す脈動が続き、少女はその脈動に合わせるように痙攣する。
精を吐き出すと共に思考を染め上げていた少女の妖気も薄まったのか、盛一郎は正気を取り戻した。
それと同時にこれはまずいと思い、奥に押し付けていた逸物を引き抜く。
「――――――ッ!!」
少女の秘裂は、先端が抜ける瞬間にすがるようにきゅっと絞まり、その快感で逸物が脈打って、残った精液が彼女の背中に吐き出された。
精液がかかると、ため息を吐くように少女から息が漏れ、その体から力が抜け、舌が秘裂から溢れる淫液を全て受け止めた。
●
「おい、大丈夫か?! ああ、しまった。役に立つのかなどと扇ぎ立てるのではなかった。許してくれ」
酔いから覚めたようにいたずら心など霧散した盛一郎は少女に声を掛ける。少女はそんな盛一郎にぼんやりとした笑みを浮かべて見せた。
そのいじらしい様に、思わず盛一郎はまた少女に襲い掛かりそうになって彼女から手を離し、突き刺してあった脇差を支えにする。
彼の逸物は刀と粘液の影響か、未だに収まらず、浅ましくも次の射精の時を待っていた。
盛一郎の視界にひくつく少女の秘裂が見える。
彼が破り傷つけた膣内から血が一筋流れ続けている。
もう一度、あそこに入れたいと強烈に思い、直後に首を振って深呼吸をした。
少女と交わった匂いを吸い込んでしまい頭をくらくらさせながら、盛一郎はなんとか思考を回す。
このまま快楽に身を任せてしまえば、どうなってしまうのか分からない。盛一郎のせいもあって彼女の目はもう常軌を逸している。次はどういう彼女の使い方を教えてこようとするのか分かったものではなく、下手をしたらあの粘液と刀で快楽に洗脳されてしまいかねない。
最悪の場合は捨てられたくない彼女によって結界内に閉じ込められてしまう可能性もあった。
穂積の顔が浮かんで、盛一郎の意識がなんとか正気の側に踏みとどまろうとする。
ここに囚われてしまうわけにはいかない。
(穂積殿を一人にさせるわけには……)
なんとか脱出しなければならない。
どうしたものかと考えていると、盛一郎はふと気付いた。
自分が手にしている脇差し。これは気を切るものだという。
(ならば、この結界も切り裂くことができるのではないか?)
天啓を受けた気分で、盛一郎は脇差を床から抜いた。
肉欲とそれをもたらした粘液と精の欠損でふらつく体を制御して、どこを切ったらいいのかと考えていると、少女が半分眠っているような声で言った。
「またつかわれるのですかぁ? よいですよ、この身は、あるじ様の……もの」
盛一郎は少女を見た。この結界を張っているのは彼女だ。で、あるならば最も可能性がありそうな結界の解除方法は、
(彼女を切ればいいのか)
顔が渋くなる。いくら肉を断つことがないと身をもって分かってはいても、少女に刃を立てることに抵抗を感じる。
少女は盛一郎の表情から何をしようとしているのか悟ったのか、少し正気を取り戻したような目で口を開く。
「この身にはえんりょなど、いりませぬ……。ごじゆうに……おつかいください」
またも、少女に促される形で脇差の先端を――体のどこかを狙うのは気が引け、もともと脇差が収まっていた尻穴に挿しこんだ。
刀身の先端がつぷ、と小さな、しかし確かに侵入する音が聞こえる。
「んんん〜〜……っ」
少女が何かを堪えるように唸り、盛一郎はそれを見ながら少しずつ刃を挿入れる。
どう考えても少女の臓器を傷つける位置にまで刃を通しても、やはり少女はよがるだけで痛みを訴えることはない。
とはいえ、これまでの会話から少女は痛みも悦んでしまいそうな雰囲気を感じていたので、本当に痛みを感じていないか、注意しながら刃を挿れていく。
慎重に、慎重に。決して傷つけないように少しずつ、と思っていた盛一郎だが、まだどこか肉欲に思考を塗り込められていたのか、気が付けば柄の縁まで刃は挿入されており、少女はひゅー、ひゅー、と息を吐いていた。
はっとして、串刺しにしていやしないかと少女を見ると、どういう理屈か、刃は突き出ていなかった。
しかし、結界も破れていない。
失敗かと柄を強く握り込むと、そのせいで刀身が動いたのか、少女が濁った悲鳴を上げたと同時に、結界を照らす露草色の光が一瞬明滅した。
周りを確認してみるが、特に何かが変わったようには見えない。それよりも、少女に痛みを与えてしまったかと慌てるが、彼女の顔は快楽のそれだ。
思わず脇差しを引くと、盛一郎に首を向けた少女がまた悲鳴を上げる。
「あっい……っ、ふぁ……! あるじ様の精が、しみて、はぁぁあっ……!」
涙とよだれを垂らしながら尻を振る少女。彼女の動きに合わせるように、結界内の光が明滅する。
まさか、と思い、盛一郎は柄を捻った。
「ぅうあ――――! えぐれぇッ、ふじょうが、ひらいてっ! しまいぁぎ――――ッ!」
秘裂から淫蜜を吹き出しながら、少女が意味をなさない言葉で叫ぶ。
盛一郎は少女が言った脇差の文句を信じてぐりぐりと捻りを続けた。
ものの数秒で少女の声が音を失い、目が回って白目を剥いた。
音にならない鳴き声を上げて、尻と言わず秘裂と言わず、全身を痙攣させる少女のあまりの様子に罪悪感を感じるが、感情を抑えて盛一郎は周りを確認した。すると、結界内を照らしていた露草色の光が、まるで蝋燭に強い風が吹き付けているかのように断続的に明滅するようになっていた。
何が起きているのかと頭上を見上げると、天井で浮かんでいた傘がふらふらと不安定に揺れているのが目に映った。
やがて、傘は舌に沿うようにふらふらと盛一郎の手元に落ちて来る。
手で受け止め、落ちてきた傘を見ると、大きな一つ目も白目を剥いていた。
光は更に明滅し、別種の光が結界内に差してきた。
周囲を見ると、森の光景が薄らと見える。
外だ。
やはりこの脇差しが効いたのか、それとも昇り詰めさせすぎたせいで結界の維持ができなくなったのか、結界が綻びかけていた。
盛一郎が手にした傘の目を閉じさせてやると、連動しているのか、少女の目も閉じられた。
内心で少女に謝りながら、盛一郎は挿入れた時とは上下逆になった脇差をできるだけゆっくりと引き抜いた。
少女の体がびくんっ、と跳ねるのに同情と欲情を感じながら、盛一郎は言う。
「一度落ち着いたら話をしよう。お前は捨てられることを恐れる必要などないのだと伝えねばならん」
そして、結界の中で外の景色が映りこんでいる部分を狙い、勘頼りに脇差を振り抜いた。
空気を裂く鋭い音から一拍遅れて、紗を切ったように薄い何かが眼前で二つに割れた。
割れた何かの狭間から森の景色が見える。
気が付けば、盛一郎は庭に全裸で立っていた。
足元には少女が、手元には傘があることを確認して一息つく。
と、背後で物音がした。
振り返ると、すぐ近くで穂積が膝を着いていた。
泣いていたらしい穂積は、二人を見て口元を覆って嗚咽を押し殺した。
嗚咽が収まると、穂積は両手を膝において、ほっとした声で言う。
「お帰りなさいませ」
16/08/21 02:26更新 / コン
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