承
いつ終わるのかも分からない程の長い射精の間精液が出やすいように逸物を吸い続けた穂積は、脈動をやめて力が抜けた逸物を離れがたい身を押して喉奥から抜いた。
幹に残った精液を舌で舐めた後に全体を石鹸で洗うと、最後には湯をかけて清潔な状態に仕上げる。
その間、長い射精で放心状態になっていた盛一郎が妙に愛おしく、ずっと眺めていたくなった。
(ああ、いけません。このままでは体を冷やしてしまいますね)
そっと盛一郎の手を握って強めに妖気を流すと、盛一郎は敏感に反応して目の焦点を穂積に合せた。
未だ夢見心地の様をどこか可愛らしいと思いながら、穂積は彼の身を起こしてやる。
「さあ、綺麗になりましたよ。この湯に浮かべた果実は傷にもよいものですから全身ゆっくりと浸かってきてください」
「ん、む……ああ」
盛一郎がどこかふらふらとした様子で椅子から立ち上って湯に浸かるのを見届けると、穂積は湯殿から出た。
濡れた体をそのままに結界を解いて外に出る。
体が震えるのは外気に晒されて体温が下がったからではない。
無言で足が歩を刻む股から粘着質な水音がして、その音が耳に入るたびに、どうしようもない切なさが募っていく。
気を抜くとそのまま湯へと取って返して盛一郎を襲ってしまいそうになる我が身を意識して抑えつけ、穂積は家の傍を流れる川の縁に立つ。
「皆さんの話にあった通りに満足させることができました」
呟く声は、彼女のことを知る者が聞いたら発情していることがそれだけで分かるほど情欲に塗れていた。
口の中には盛一郎の精の味がまだ残っている。
これまで感じたこともない程の味覚と嗅覚の快楽が脳裏によみがえって思わず体を抱きしめる。
自身を戒め、あるいは労わるように抱きながら、穂積は家を振り返ってぽつりと漏らした。
「私、もうあの方を行かせてしまうことはできませんね」
声は誰に届くでもなく川の音に紛れていく。
彼女は月に視線を転じ、金色の光を見つめながら「ごめんなさい」と呟いた。
決まり悪そうに川に視線を転じ、そこにおぼろげに浮かぶ自らの影に申し開きするように彼女は言う。
「でも、いつまでもあのような方を根付かせないでいるから悪いのですよ」
思ったよりも拗ねた口調になった言葉を打ち消すように、穂積は川に飛び込んだ。
●
湯に浸かっている内に、盛一郎は正気を取り戻した。
先程自分の身に降りかかったことの全てが夢だったのではないかとすら考えてしまう。
しかし、逸物に未だ色濃く残っているあの感触は忘れがたく、一時は出すものを出し切って落ち着いていた逸物も今ではまた硬さを取り戻しつつある。
深呼吸しようと湯に頭を浸そうと、硬さは一切なくならない。
目をつむることで穂積の媚態を思い出してしまい、余計に悪いことになった。
このままでは出づらい。他人の家だがこのまま洗い場でもう一度処理しようかと真剣に考えていると、外から声がかかった。
「盛一郎様。のぼせておられませんか?」
「あ、ああ、大事ない。すぐに上がる」
答えてしまった手前、いつまでも湯に浸かって逸物が鎮まるのを待つわけにもいかない。
ええい、ままよ。と盛一郎が湯から上がると、脱衣所には女性用の大きい湯帷子(ゆかたびら)が置いてあった。
大きさ的に穂積が着るものではない。わざわざ客用のものを出してきたのだろう。
(元の服でもよかったのだが)
そこは彼女の矜持が許さなかったのだろう。
出された服が女性用なのは、彼女の話を聞くに、男性用の服がない為だろうか。
盛一郎はありがたく清潔な湯帷子を着ると、湯殿を出た。
居間には新しそうな布団が敷いてあり、枕を抱えた穂積が傍に居た。
いつの間にか着替えたのか、先程着ていた襦袢とは別の、所々に飾りがついた湯帷子を着ている彼女は盛一郎を見て枕を置き、
「このような場所で申し訳ございません。
お客様用のお部屋もあるのですが、そちらはまれにやってくる妖怪のお客様用のお部屋になっておりまして、様々な妖気の残滓が残っているのです。盛一郎様は妖気に敏感なお方ですのでそちらでお泊りになるよりもこちらの方がよいかと思いまして」
「御心遣い感謝する」
「いえ、これは私一人が気を浴びせたいと思い準備したことでございますので、感謝されることではないと申しますか……」
ぼそぼそと穂積が言っていることの意味を受け取り損ね、盛一郎は少し考えた。
(居間である程度気が捌けるとはいえ、穂積殿自身の気が残っていることを言っているのか?)
穂積の気が残留している中で眠らせることになったことをへりくだって言っているのではと判断した盛一郎は「気にしないでくれ」と前置きして、
「穂積殿の妖気なら、まあ、湯殿でのこともある故慣れてきているのであまり気にならずに寝ることができると思う。そもそも、養家には刑部狸の女将が居るので妖気がある中で眠ること自体は慣れているのだ」
「あ、いえ」
「だが、やはり多くの種類の妖気の中では心安らかに、とはいかなかった。世話をかけたがありがとう」
「そうではなくて、ですね」
もどかしそうに穂積は敷いた布団を叩いた。
「盛一郎様、こちらへ」
盛一郎は促されるままに、手触りでこれもまた上等な代物だと分かる布団に座る。
穂積は感心している盛一郎に言った。
「本日は、こちらで寝ていただきたいのです」
「それは理解している。元々俺は山の中だろうと街道脇だろうと寝られる性質だ」
それらに比べれば、屋根の下、この上等な布団で寝られると考えるだけで何の不満もない。そう伝えると、穂積が首を振った。
「いえ! そうではなくてですね」
彼女は盛一郎を見据えて決然と言った。
「今宵、私を抱いて頂きたいのです!」
●
盛一郎は、これ以上ないほどはっきりと言い切られたはずの言葉の意味を何故か理解することができずに穂積の顔を見た。
穂積は上気した真剣な顔で見据えて来ている。
かち合った視線を逸らすことができなくなった。
争いごとをこなしてきた盛一郎の勘が、肉食動物に獲物として捉われたと感覚する。
と、穂積の方から目を逸らした。
「……お嫌でしたら、そう言ってください。でないと分かりません」
決然と告げた時とは打って変わった消沈した声音に、盛一郎は焦った。
あれだけのことを言わせた者に恥をかかせている。それは大変よろしくないことだと盛一郎でも分かる。
(ただでさえ引け目もあるというのに)
風呂でのことだ。あの時は自分がしてもらう流れだったとはいえ、最後まで導いてもらうばかりで自分は穂積に何もしていない。
あの行為を受けてその答酬が欲しいということならば理解もできるし、なにより、彼女程の器量よしを断る理由はない。
だが、盛一郎は本能のままに全力を取り戻す逸物を意識しながらも、諭すように言う。
「穂積殿、なにも行きずりで会っただけの相手にそこまで入れ込むものではない。貴方程の妖怪ならそれこそ相手など選び放題だろう」
ここから離れれば、の話であるが、選び放題なのはたしかだろう。特別容姿が良い方ではない上に、定職も無く、当然立身出世するあてもない盛一郎に体を許すのは勿体ない。
そんな思いに対する返答は、鋭い睨め付けだった。
出会ってから初めて見る、本当の憤りの感情だ。
穂積は逆に盛一郎に諭すように言葉を寄越す。
「ただの行きずりなどではありません。私はあの時助けられたのです。たとえ私の正体が妖怪で、危険がなかったのだとしても、その事実は変わりません。また、盛一郎様は正体を隠そうとした私のせいでしなくてもよかった怪我をしてしまいました。
私はそれを負い目に思っておりますが、この願いはそれとは関係ありません。
あの場で、あなたの振る舞いに魅せられて、一人で暮らしてから初めて人を、男性を思い切って家までお招きしたのです。
共にした食事もお酒も、これまで一度も体験したことがないほど美味しくて楽しかったのです。
盛一郎様。私を神様扱いで敬遠することなく、ただの一匹の雌として見てくれたことがどれだけ私に安らぎをもたらしてくれたのかお分かりですか? それで盛一郎様をお慕いするのは過ちですか?」
思えば、彼女は何度かこんな男にでも入れ込むだけの理由があるのだと訴えていた。それらの訴えを無視した盛一郎の発言は、ともすればこれまでの短い縁全てを否定しかねない愚かな発言だった。
「迂闊なことを言った。すまない」
自らに大した価値を認めていないが故に自身を卑下した結果、自分に関わった者をも貶めることになったと今更になって気付いて頭を下げるが、穂積は、ふい、と顔を背けた。
「許しません」
「……む」
当たり前だが、大層機嫌を損ねてしまったようだ。
こうなってしまった女性に機嫌を直してもらうのは盛一郎にとっては至難の技だ。
どうしたら良いのだろうと考えようとすると、穂積が顔を戻してきた。
彼女は先ほどの感情をすっかり忘れてしまったかのような笑顔で訊ねる。
「盛一郎様。夕餉の際、自らを殺さず、したいことをしてもいいのだと、そうおっしゃいましたね?」
確認するようなそれに、盛一郎は頷いた。穂積は盛一郎の左手を取ると、
「私は、あなたに抱かれたいのです。何故なら、愛してしまったのですから」
そう言って盛一郎の手を胸に押し当てる。
盛一郎の手が硬直するが、穂積は構わないとばかりに押し付け、
「心の臓が高鳴っているのが分かりますでしょう? 初めて男の方の裸に触れて、それからずっと治まらないのです。
心と同じです。体も盛一郎様を慕っているのです」
強く盛一郎の手を握り込んだ穂積は悩ましげに息を吐き、
「もう、だめなんです」
「だめ、とは?」
疑問に答えを返さず、穂積は告げる。
「愛着や友誼ゆえに生活しづらくてもこの地を離れられないと、お話ししましたよね?
お恥ずかしい話ですが、私は執着が強いのです。そんな私が今、どうしようもないくらいに焦がれています。
今まで何人もの人と会って来たというのに……盛一郎様。人間に、男性に、こんなにも強く離れたくないと思うことなど初めてなのです」
盛一郎の手を解放すると、穂積は盛一郎の両肩に手を乗せて徐々に体重をかけ始めた。
押し倒そうとする動きだ。抜け出そうと思えばできるが、風呂場での時と同じように頭が落ちる部分に既に尻尾が回っている。事ここに及んで彼女の心遣いを無駄にするのは相当の剛の者だろう。
「――目覚めさせてしまった盛一郎様が悪いのですよ? 自分の好きなようにすればいいという、迂闊な言葉の責任を取って頂かなければ」
布団に背中がついた。
(ああ、彼女にここまでさせたのは俺か……)
悟ると同時に覚悟が決まった。この後どうするのかと構えるが、盛一郎の体を押し倒したまま、穂積は動かなかった。
盛一郎の正面にある、彼女の熱に浮かされたような目が、不意に揺れた。
「あ、あの、抵抗なさってもいいのですよ?」
どうやら、このまま続けていいのか迷っているようだった。
過去にやりすぎて現在敬遠されているようなので、人間に対する態度が少し臆病になっているのかもしれない。
やりすぎた悪戯を怒られるのを待つような不安そうな表情に、盛一郎は口もとが笑みに歪むのを感じた。
「――」
それを見咎めた穂積の口が開きかけ――何か言葉を発する前に盛一郎は穂積を抱き寄せた。
不意の動きだったために一瞬だけ穂積の体が硬くなって抵抗しようとしたが、それも一瞬。穂積も自身が受け入れられたと理解したのか、盛一郎に身を委ねた。
背に腕を回して密着した体は少し冷たく、そしてどこを触っても柔らかかった。
筋肉で全身固めたような体をした盛一郎としては、壊してしまいそうでなかなか思い切ったことができない。どうしたものかと右手で髪を撫で続けていると、しばらくは幸福そうになされるがままだった穂積も焦れたのか、身を擦り付けてきた。
心地よい重さを持った肉体が盛一郎の体を覚え込ませるようにもぞもぞ動く。
盛一郎はそんな穂積に応えるように髪を撫でる手を下におろしていった。
頭から獣の耳、首、背中、腰と、体のラインをなぞるように下りた盛一郎は、ようやく気付いた。
「穂積殿。体がいやに冷たいようだが」
「はい、盛一郎様が旅の疲れから寝てしまう前にこうして床にお誘いしたかったので、急いで身を清めて参りました」
身を清めると言っても、風呂は盛一郎が使っていた。ではどこで身を清めたのだろうか。
(炊事場は、流石に身を清めるには不便か……まさか)
この家の外には川が流れていたことを思い出す。
「外の、川の水に浸かってきたんだな」
「あまりいじわるを言わないでください。はしたないとは思ったのですが、待ちきれなかったのです。それに、待つことで機を失っては嘆いても嘆ききれません」
「ああいや、すまない。別に川で体を洗うことはよくあるのであまり気にしていないが、俺が湯を使わせてもらっておきながら貴方が川の水というのは、その、具合が悪くてな」
「そう思うのでしたら――」
穂積はおもむろに両足を擦り合わせた。
太ももに挟まれた全快状態の逸物が肉付きの良い肌の快感を伝えてくる。
「盛一郎様が温めてくださいな」
盛一郎が欲しくてここまでしてくれたという女性をすげなく扱うことは彼にはできなかった。
「では、僭越ながら――」
盛一郎内心で覚悟を決めて穂積を強く抱き直した。
盛一郎の胸の上で潰れた豊満な胸の奥で、先程は掌に感じた鼓動を今度は胸で感じる。
穂積も胸を強く擦りつけるようにして、
「盛一郎様の鼓動が分かります。誰かが近くに生きている音です……素敵」
熱に浮かされたような声で言うと、穂積は盛一郎の腕の傷を舐め始めた。まるで薬の代わりとでもいうように唾液を染み込ませていく彼女の舌の感触に盛一郎は呻く。
むず痒い感覚に、これだけで射精してしまうのではないかと危惧した盛一郎は、このままでは湯殿の時と変わらぬと気持ちを奮い起こすと反抗を試みた。
穂積の腰の下。確かな存在感がある尻の上に付いている尻尾。
今、彼女の体の横から盛一郎の頭の下に回っているそれの付け根を摘まんだ。
「んひゃ――」
穂積から面白い声がする
(旦那、貴方が言ったことは正しかった)
養家の旦那が惚気た時に尻尾の付け根は感じるツボだと言っていたのを思い出して咄嗟にとった手だったが、なかなか効果はあったようだ。
「せ、盛一郎様……」
穂積が、どこか期待の滲んだ声を出す。
盛一郎が尻尾の付け根を親指と人さし指で挟んで擦ると、穂積は鳴いて身をよじった。
「ここが弱いのか?」
「普段は気にならないのです。こんな、人に触れられるなど、初めてで……盛一郎様だって不浄の穴で感じていたではないですか」
「普段、そこを弄ることはないからなぁ」
排泄の後始末の際も感じることはない。よく考えれば他人に体を洗ってもらった際、自分でするのとは明らかに違う快感があった。誰かに体を許すというのは気持ちいいことなのかもしれない。
(獣が仲間に毛づくろいしてもらうのはそういう理由か……?)
いつの間にか股間をむんずと掴まれている状態で、盛一郎は思考を飛躍させる。
「遠い目をしておられますが、お疲れですか?」
「いや、がらにもなく頭を使っていただけだ。体の方は、湯に浸かってから不思議と抜けた気がするな」
「それはよかったです。そういう果実を浮かべておりましたので、湯に入ってから元気になったのは気のせいではないと思いますよ」
穂積は盛一郎の逸物を上から下へ指で辿ってみせ、
「こちらも、先程より元気になっています」
「あれではまだ足りなかったようだ」
「では満足してもらいませんと」
体を起こした穂積は、盛一郎に擦りつけている間にほとんどはだけてしまった襦袢を脱いだ。
いつの間にか結界が解けて外に満月が見えた。
月の光に照らされて輝かんばかりの穂積の体の神々しさに、熱に支配されかかっていた盛一郎の頭が未経験ゆえの気後れで一時的に冷静さを取り戻した。
(やはり結界は穂積殿の意思一つで解けたのか)
わざわざ結界を張ってまで盛一郎を引き留めたのは、つまりはそれだけ盛一郎を求めていたということだろう。この神々しい女が盛一郎に抱いてくれと本気で迫っている。その事実だけで戻ってきた冷静さなど簡単に吹き飛んで、ただの雄の獣になってしまいそうだった。
それでもお互いに悪いことはないのだろうが、どうしても言っておくべきことが盛一郎にはあった。
「穂積殿」
「何でしょうか? あの、今は、できるのならば焦らさないでいただけると……」
逸物に加えられる刺激が少し強いものになった。一度欲を発散させた盛一郎と違って穂積は熱を身の内に抱えたままだ。相当焦れているのだろう。
ここで更に我慢してもらうのは気の毒だが、こればかりは繋がる前に言っておきたい。
だから盛一郎は穂積の目を見て、
「神様扱いされる御仁相手に釣り合う身の上ではないが、こうして床を共にする縁となった。これから、番として恥にならないよう懸命に努めさせてもらおうと思っている。よろしく頼む」
自分の分身に絶えず加えられる快感で声を掠れさせることなく言い切れた自分を褒めてやりたい気分で盛一郎がいると、穂積の手が止まっていた。
「あ、あの、もう一度……言ってもらってもよろしいですか?」
これまでとは別種の興奮を帯びた声に盛一郎は応じる。
「あ、ああ。神様扱いされる御仁を相手にする身の上ではないが、床を共にするようになったのだし、これからは番として――」
「番ですか?!」
差し挟まれた言葉に盛一郎は頷く。
「ああ、離したくないとか、責任を取るように言っていたので、そういうつもりだと思っていたのだが……」
穂積もそのつもりで言葉をかけてきていたように思ったのだが、女性の考えることはよくわからない。もしかしたら勘違いだっただろうかと内心で慄いていると、突然尻尾が頭の下からすり抜けた。
布団に頭をつく盛一郎。穂積は慌てて、
「す、すみません!」
「いや、布団も良い物だからか、痛くはないが」
どうしたのかと問う前に、逸物から手が離され、盛一郎の腹に穂積の尻が下りて来た。
その背後では尻尾が揺れている。
「……番になっていただけるのですね。
ああ、なんということでしょう。今宵は嬉しいことがありすぎました。心も尾も落ち着きません」
逸る心を落ち着かせるように盛一郎の胸に指を這わせて、穂積は気遣うように訊ねた。
「ですが、誠一郎様は養家の方はよろしいのですか?」
「身を固めて根付く場所ができるというのならば女将も旦那もようやくかと胸を撫で下ろすだろう。それに、養家への義理立てという意味では少し考えがないわけではない」
「そうなのですか。では、本当に、これからはここに住んでいただけるということでよろしいのですね?」
「急な話になるので、一度使いの件も含めて養家に報告をしてからになるか」
「ほ、報告のみなのでしたら、使者を送るというのはいかがでしょうか?」
「別に荷物があるわけでもなし、結果自体は相手の船が先に港へ証文と一緒に持って行っているな」
「では」
「家に大した物を残しているわけでもない。このまま世話になろうか」
「はい、はい! よろしくお願いします!」
涙まで浮かべて大きく首が振られるごとに不安定な場所に腰を下ろした穂積の体も揺れる。彼女が少し動くごとに盛一郎の腹の上で水音がした。
穂積の淫水の音だと理解が及ぶのをきっかけに、穂積に対する気後れを吐き出したためか、盛一郎の逸物がこれまでよりも膨張した。
先端が穂積の尻に当たる。
それに気づいた穂積が「こちらもお世話しますね」と囁いた。
「――ですが、盛一郎様。
私は神様などではなく、ただの稲荷です。そして、これからはただただ、あなた様の番なのです」
尻尾で逸物をあやすようにそっと撫でながら「つがい、つがい」と繰り返す穂積に回復していた理性を削られる。
盛一郎は自身の決意の他に、もう一つ大事なことを言った。
「穂積殿にはこれから山と町との行き来に関わってもらえると、養家への義理立てになって助かる。お願いできるだろうか」
穂積は苦笑した。
「……お優しい人。ええ、あなた様のお好きなようになさってください」
●
苦笑の余韻が消え、穂積が話は終わりだとばかりに体を倒して盛一郎の口を吸った。
柔らかい唇が盛一郎のかさつく唇に触れると、それだけで頭の芯が痺れるような感覚に襲われ、一瞬前後不覚に陥った。
その隙に、口の中にぬるりとした感触のものが侵入した。
舌だ。
湯殿で盛一郎を散々責めた舌が口蓋を撫で、盛一郎の舌に絡んでくる。
舌の側面を丁寧に舐められてくすぐったさを感じ逃げようとすると、それを追って舌がまた同じ部分をなぞる。
穂積の舌に追われていると、彼女の口に盛一郎の舌が文字通り吸われてしまった。
(んむ……?!)
スポッという音が聞こえそうなほど勢いよく穂積の口内に吸い込まれた盛一郎の舌は、今まで得たことの無い味覚を感じた。
無味に近く、微かな塩味に彼女の体臭が味に変換されたような味。
美味というわけではないが、ずっと味わっていたいような味に誘われるままに舌を奥に奥にと侵入させると、穂積の口内は吸い込む動きで盛一郎の舌を捕まえてしまった。
身動きを封じられた舌から唾液を直接吸われる感触に、力が抜けるような快感を得る。
体が火照って収まらないと言っていたのは誘いのためのそらごとではないようで、体表に感じる冷たさと違って穂積の口はとても熱かった。
「……ん、んん……!」
あまりにも一心不乱に吸い立てる穂積に、酸欠から音を上げた盛一郎は、舌を穂積の口から引き抜こうとする。しかしそれはかなわず、更に強く舌が吸引された。
放さないとばかりに舌口がすぼめられて盛一郎の舌が乾燥してしまう。
「……っ」
その時にもがいた声があまりに苦しそうに聞こえたのか、穂積がそっと舌を解放して労わるように舌を舐めてくれた。乾燥させてしまった詫びとばかりに舌を通して穂積の唾液が流れ込んでくる。
舌先にだけ感じた不思議な味が盛一郎の口一杯に広がる。
一滴の唾液を飲み込むと、大陸産の強い酒でも飲んだかのような強い酩酊感と共に体が熱くなった。
受け渡される唾液を飲むたびに体の熱が高まり、尻尾で柔く撫でられている逸物が高まり続けていく。
ずっと飲んでそのまま酔いつぶれてしまうのも一興だが、次々と受け渡される唾液に、このせいで穂積の口が乾いては可哀想だと思考が及ぶ。舌はもう大丈夫と答える代わりに盛一郎の方から穂積の舌先に触れると、また彼女が吸い立てにきた。
積極的な動きに、酸欠気味の頭に靄がかかり始める。
溺れながら何か縋り付くものを求める気分で、盛一郎は腕を伸ばして逸物を撫でる尻尾の根本を掴んだ。
「――――っ」
反応は分かり易く、穂積の舌の動きが明らかに鈍った。
口と口の間から零れる息継ぎに混じる艶が濃くなり、盛一郎が根本を握る力を強めたり弱めたりするたびに、彼女の腰が擦り付けられる。
どうやら尻尾への刺激に弱いらしいと悟った盛一郎は、握りしめた穂積の尻尾を両手で強く扱きあげた。
毛先に手が動く際は毛並に沿ってさらっと動き、根本に引き返す際には揃った毛に逆らって逆毛を立てる。
尾を辿った手が腰に当たると穂積の腰が軽く浮いて舌の動きが一瞬止まる。どうやらこれが気持ちいいようだ。
また先端へと尾を辿って膨張した毛を鎮めてはまた根本を刺激して毛を逆立たせる。自らのものを処理するように行う動きはそれなりに手慣れたものになり、繋がった舌の動きが完全に止まる。
「――ッ、はぁ!」
空気を求めて口を話した穂積は尚も続く尻尾への愛撫に腰を震わせつつ、仕返しとばかりに盛一郎の背に回していた手を逸物に戻した。
尻尾で高められていた逸物は、穂積の手に先走りの汁を塗り付けた。
穂積はそれを幹全体にまぶすようにしながら、上体を起こした。
番になる宣言をする前と同じ体勢になった穂積は、盛一郎の幹を扱きながら確認するように言う。
「よろしいですか?」
「ああ」
短く応じると同時に、穂積の腰が盛一郎の下腹部から浮いて、握られた逸物の真上に来る。
穂積の肉洞から垂れた淫水が糸を引いて盛一郎の先端と繋がる。
どちらともなくため息が漏れた。
盛一郎の逸物が穂積の手の中で跳ねて繋がった糸が切れる。一連の光景を魅入られるように眺めていた二人は視線を合わせ、
「ま、参ります……!」
再度、決意表明のような一言を置いて、穂積の腰が下りた。
湿った音がして、二つの性器が触れ合う。その瞬間、二人の力が抜けた。
「ぁ――」
支えを失って落ちた穂積の肉洞の内へと、膜を引きちぎる感触と共に盛一郎の逸物が呑まれた。
いきなりのことに驚いた逸物が胎内で跳ねる。
「――ッ、ィ、ぁ……っうう」
「だ、大事ないか……穂積殿?」
目を閉じ、立てた膝をくっつけて耐えている穂積の中の締め付けは異常に強い。異物を入れまいとするような動きに、経験がないという彼女の発言が本当なのだと分かる。
深呼吸をしながら穂積は目を開いた。
光の反射で瞳に浮んだ涙が輝いている。
「無理はするものではない。一度離れよう」
過去最大級に勃起しているものを一気に呑み込んだのだ。体が丈夫な妖怪でも流石に辛かろうと心配すると、穂積は首を横に振った。
閉じていた足を開いて、結合部から零れる血を見ながら、彼女は誇らしげに言う。
「ああ……っ、これで、盛一郎様の初めてを本当の意味で頂いて、私の初めてを捧げました……」
それが会図だったかのように、穂積の胎内の感触が変わった。
きつく逸物を締めていた感触が緩んで、その形を確かめようとするように絡み始めていた。
盛一郎は盛一郎で呑まれている肉洞の熱さに、自身が溶かされてしまうのではないかと考えてしまい背筋が粟立つ。
そんな、お互いがお互いの体に慣れていない状態で、穂積は腰を上げた。
動作を一つするごとに二人の間から漏れる水音がたまらなく官能的だった。
「見てください、盛一郎様」
亀頭の先までゆっくりと抜かれた剛直と、それを咥える肉洞がある。
あと少しで完全に逸物が抜けるという所で、逸物の先端は肉洞に強く吸いつかれていた。
「私のここが、離れたくないと言っています」
肉洞から伝う淫水が、二人の性器を月光に光らせた。
穂積は限界だというように、腰を落とした。
ぐちゅっ、という音と一緒に強烈な快感がやってきて、二人して悲鳴を上げる。
もっと、と盛一郎が思うのと同時に、穂積もまた腰を上げ、今度は間髪入れずに下ろした。
「あ、ん、……っ、ひ……っ」
腰を上げ、下ろす動きは連続し、一回ごとに快感の度合いが強くなっていく。
既にして先走りを垂れ流して限界寸前だった盛一郎は、何度目か、腰を上げた穂積の腰を無意識のうちに掴んでいた。
「盛一郎さ――」
言葉を待たず、盛一郎は穂積の腰を引き寄せ、同時に自らの腰を穂積に打ち合わせた。
「んぃ……っ!」
穂積の肉洞が最初の時のように強く盛一郎を握りしめ、その後小刻みに痙攣した。
痙攣の振動が逸物全体に加えられ、それがとどめとなって盛一郎の快感が爆発する。
穂積の腰を押さえ付けたまま逸物の脈動を解き放ち、応じるように穂積の足が閉じられ、太もものひくつきが感じられる。
やがて「ぁ」という息を吐く音がして、穂積の体が盛一郎に倒れ込んでくる。
体を重ねたまま震える穂積の背中を撫で、互いの荒い呼吸を聞きながら盛一郎は自身の快楽の波が治まるのを待った。
穂積から発される発情した匂いに欲情がまた溜まり始めるのを感じながら、盛一郎は問う。
「いきなり体に負担をかけることをしてしまったが、大丈夫か?」
「……はい、あまりに気持ちよく、思わず力が抜けてしまいました。ですが、とても素敵でした。特に最後の、あの動きには気をやってしまいました」
体を擦りつける穂積に、盛一郎はひとまず大事なさそうだと安心して、ついぽろりと零した。
「本当に初めてだったとは」
「……ひどいです。私、恥を忍んでお伝えしたではありませんか。信じておられなかったのですか?」
「いや、どうも長く生きているようなので多少は経験があるのかと」
「盛一郎様はそういうところが原因で女性と縁がなかったのかもしれませんね」
いじけたように穂積は言い、強い力で体を締めつける。
「初めて、なのです。こんなになってしまったのはあなた様のせいなのですよ」
「それはこちらもだ。こんなにまぐわいが気持よいとは……」
言うと、穂積が「では」と応じる。
「私があなた様のせいでどうなってしまったのか、刻みつけてあげましょう。その代わり、盛一郎様は私にいっぱい、刻みつけるのです」
お互いを抱きしめ合ったまま、穂積が腰を擦り付けるように振り出した。
ぬちゃぬちゃという音と、盛一郎を認識した肉洞が逸物を抱き込む感触が射精したばかりのものをすぐさま最大にまで高めていく。
「穂積、どの」
「もっと……もっと……、盛一郎様の温もりを、私にください……!」
これまでの逸物を呑み込んだ肉洞が搾り取るような動きをする。
「――――?!」
出したばかりで敏感な逸物が、堪えることもできずに射精を始めた。
脈動に合わせるように肉洞が吸い込んでくる。
口でされた時のように全てを吸い出されて目の奥で光が明滅する。
精以外にも様々なものが吸い取られたような感触に喘いでいると、呼吸を整える間もなく、口を塞がれた。
開いていた口を覆った穂積の口から舌が侵入してきて絡んでくる。
穂積の呼気を呼吸し、舌を絡めている内に、ようやく射精が治まって精根尽き果てていたはずの逸物がまた力を取り戻して来る。
逸物が力を取り戻すのを助けるかのように肉洞が蠕動していた。
相手が穂積という美女だからなのか、精力が普段とは段違いなのを自覚しながら、盛一郎は腰を押し付けて穂積の唾液を嚥下しつつ彼女の舌に自分の舌を積極的に絡めた。
とうに熱くなった二人の体が擦り合され、全身に浮いた汗が音を立て、打ち合わされる性器同士がぐちゃぐちゃと淫音を奏でる。
体全体で掴んで離さないという執着を露わにしたかのような穂積に抱えられ、今日四度目の射精の予感を感じながら盛一郎は気持よさに緩みそうになる丹田に力を込めた。
考えてみれば、先程から上になって腰を動かしているのは穂積だ。
それはそれで与えられる側の優越があるが、こうも搾り取られていては早漏の誹りを免れない。
それは穂積相手に少しばかり恥ずかしくもあるし、上で動いている彼女をもっとこちらからも愛したいという衝動もあった。
だから、
「――ぬ!」
「むぐ――――?」
盛一郎は、自身を抱きしめていた穂積の体を抱き返しながら、上体を起こした。
穂積を膝の上に抱きかかえる形になり、一逸物が擦れる位置が変わって、これまで突いたことがない部分を突き上げる感触がある。
そこが弱かったのか、穂積の体が小刻みに震えた。
「っい、あっ――!」
口を離した穂積が背を逸らして震え、代わりに突き出される格好になった胸が盛一郎の顔に押し付けられる。
盛一郎は、息を整えるのもそこそこに、首の辺りにきた穂積の乳房に口をつけた。
「あ……あ……! んっ」
丸みに舌を這わせ、勃った先端を含む動きを震えたまま受け容れ、先端を舌で先を転がす盛一郎の頭を胸に抱え込むようにしながら、穂積は盛一郎の上で腰を揺すった。
叩き付ける動きではなく、体と同じように性器同士を擦りつけるような動きは、これまでとは違う快感を与えてくれる。
まだ震えが治まらない穂積の荒い呼吸を感じながら、昇り詰める寸前の盛一郎は穂積の尾の付け根の辺りを掴んで彼女の腰を持ち上げては下ろすという行為を続けた。
穂積の尻と盛一郎の下腹部が打ち合うごとに穂積の体がびくりと震えて盛一郎の下腹に零れる淫水の量が増える。
体全体で交わる水音を奏でる二人の内、盛一郎をかき抱いていた穂積が切羽詰まった悲鳴を上げ始めた。
「せ、いちろ、さ、ま! 達っし、てしま、あ、あ、あッ!」
断続的に達し続けて呂律がまわらなくなった口がこれまで以上の絶頂の予感を訴える。
盛一郎はうまく頭が回らず何も考えられない中で、落とした穂積の体がその度ごとに軽く痙攣し、それがやがて遥かな絶頂に辿り着くことだけを感じていた。
穂積の痙攣が重なるごとに盛一郎の下半身に溜まった欲望が出口を求めて背筋を痺れさせる。動きを早め過ぎたせいで息が苦しくなり、空気を求めて口を開くと、歯がすっかり肥大化した穂積の胸の突起を掠めた。
「ひぁ――――、っあ――――ああ!」
それが決壊の合図になった。
穂積の全身が跳ね上がるように震え、何か縋り付くものを求めるように盛一郎に足も尻尾も絡める。
腰が引き寄せられて、密着した二人の内側、膣の最奥に盛一郎の先端が届き、達した肉洞が口でしゃぶるような、奥に吸い込むような動きを見せた。
穂積の全身からの求めを抑える理由は無かった。
三回目だというのに一回目を超えた精液が脈動と共に穂積の子宮に吐き出されていく。
胸の間に顔を押し付けられて息を吸うことができなかった盛一郎は、汗と雌の匂いを胸いっぱいに吸い込む。穂積の匂いと、解消されない息苦しさすらもが新たな快感となって脈動が激しくなる。
あまりにも止まらない射精に恐怖を覚えた盛一郎がしがみつける確かなものを求めて強く穂積を抱く。
応じるように抱き返される中で、盛一郎は穂積の心臓の鼓動を聞いた。
恐くなるほど早く脈打つ鼓動が長い長い時間をかけて徐々に収まっていく。
穂積の震えが治まってからも肉洞は逸物全体を揉むように刺激しており、激しい脈動は終わったが、完全に自制を失ったようになってしまった盛一郎の逸物は止まることなく精を少しずつ注ぎ込んでいる。
求めただけの力で抱き返され、精を吐き出したら吐き出しただけ受け容れられていくという状況に、盛一郎は最早恐怖よりも安心感を得ていた。
「あ、は……お腹、いっぱいにされてしまいます」
夢見心地な声で言う穂積の口に吸い付き、また大きくなっていく自分を感じながら、盛一郎は精と共に穂積へと放出するように意識を手放した。
●
盛一郎は強い光を受けて目を覚ました。
なんだと思って視線を光の方に向けてみると、そこは縁側で、当たっているのは日光だった。
高く上った陽に照らされた庭をぼんやりと眺める。いつの間にか眠ってしまったのだろう。
昨夜は結局どれだけ穂積の中に出してしまったのか覚えていなかった。おそらく、意識を失ってからもまだ精を流し続けていたのではないかと思う。
思い返してみるだに、昨夜の射精量は異常だった。体中が気だるさに包まれていて、今日はもう動きたくないとすら感じる。
動きたくない理由はそれだけではない。
盛一郎は顔横に当たっている胸を見る。
ゆっくりとした調子で僅かに動くそれに合わせて、頭に穏やかな寝息がかかる。
盛一郎の頭を胸に抱いた穂積の寝息だった。
「ん」
顔を動かした盛一郎の吐息が胸に当たってむずがる穂積が、おそらく昨夜からずっと絡んでいたままの足や尻尾を使って盛一郎を引き寄せた。
これまでの人生で縁がまったくなかった双丘に密着する幸福を感じながら、手探りで彼女の顔に手を這わせてみると「んふふ〜」と緩んだ笑みが漏れた。
その反応を楽しみながら、盛一郎は、そういえば彼女は尻尾を抱かなければ眠れないと言っていたことを思い出す。
穂積の尻尾は手触り良好でそっと擦られれば逸物が震え、手で扱けばするりとした感触が返る絶品だ。
そんな尻尾は今、盛一郎の腰に巻き付いて健気にも彼と穂積の距離を少しでも縮めようとしている。
状況的には全身で抱かれている盛一郎こそが、尻尾の代わりなのだろう。
「あの尻尾の代わりになるとは到底思えんがなあ」
呟くと、返事があった。
「……ええ、私の尾など、盛一郎様の玉体に比ぶべくもありません」
「起きていたのか」
「盛一郎様が顔を撫でるものですから、起きてしまいました」
「それは、済まないことをしたな」
「いえ、私こそ、あまりの抱き心地のよさについそのまま寝入ってしまいました」
そう言うと、穂積の手と足が解かれた。少しばかり未練を感じながら胸から顔を出すと、すぐそこに彼女の顔があった。
「おはようございます」
「おはよう」
そんな時間ではなさそうだが、気にせず挨拶を交わす。
さて起きようと思ったら、未だ尻尾が盛一郎の腰に絡みついていた。盛一郎自身は痛みを感じないのに相当な力が込められているらしく、どうしても動くことができない。
どかしてくれと言う前に、穂積が蕩け過ぎて幼児のように見える笑みで言った。
「昨夜は一杯愛してくださいましたね。あの純潔が散らされる痛みから続く夢のような一夜……私は一生忘れません」
「無遠慮に出すものを出していた記憶があるが、体は無事か?」
「ご心配には及びません。私は今、これまでにないくらいに元気ですよ。その証拠に――ほら」
盛一郎の背後を包むように毛の感触がきた。
首で振り返ると、尻尾がある。
いつの間に離れたのか、と思い腰に手を触れれば、腰に巻き付いた尻尾もそのままだ。
眼前の事実を一瞬認識できず、盛一郎は何度か二つの同じ毛並をした尻尾を確かめた。
「……尻尾が、増えた?」
「ええ、稲荷は愛してもらって妖気が高まると尾が増えるのです」
「尾が増えるというのは聞いたことがあるが……時が経つごとに増えるものだと思っていた」
「時間など、愛に比べれば些細なものでしかないのです」
盛一郎の背に新たに巻き付いた尾が彼を穂積へと引き寄せる。
二つの体がまた触れあった。
穂積の柔らかさを感じていると、穂積が顔を赤らめてぼそりと言う。
「硬くなっております」
「いや、これは」
朝の生理現象、と言い訳はできないだろう。何せ、胸の柔らかさを感じていた時から彼の逸物は臨戦態勢をとりっぱなしで先端では求めている証が玉になっている。
「せっかく抱き合っていたのにここだけ外れていたのは寂しかったのです」
穂積は尻尾の動きで盛一郎の腰を彼女の肉洞に導いた。
「さ、昨夜の続きをいたしましょう?」
情欲で濡れた金瞳が、誘っているようでいて、決定事項を告げているだけだと盛一郎に悟らせる。
「構わないが、これからここに留まって生活するにあたって多少話したいことも――」
「待てません」
言葉が終わる前に、盛一郎は穂積に迎えられた。
家主がそう言うならば終わってからでいいかと半ば諦めながら思い、盛一郎は小さく口を開いて歓喜に震える穂積の唇を塞いだ。
16/07/16 22:52更新 / コン
戻る
次へ