連載小説
[TOP][目次]
はじめて

 勢いのまま学園を飛び出してきた鏡花は、気が付いた時には家に着いていた。
 息が上がっている。我を忘れたままに随分と無茶な移動をしたようだ。

 (ああ、なんという失態……どうしましょう)

 今さら学園に戻ろうとした所で午後一の授業は遅刻確定だ。遅刻の理由をうまくでっち上げる自信は今の彼女にはなかった。
 そうでなくとも泣き跡がひどくて表に出られる顔ではない。
 結局、学園に戻ることは諦めて家に入った。
 両親が向こうの世界に旅立つまでにはもう数日あるはずだ。もしかしたら居るかもしれないと警戒していたが、幸いにも両親は不在だった。
 ほっとする。

 今、母に会えば顔を見られるまでもなく一瞬で後悔や羞恥や歓喜でぐちゃぐちゃな鏡花の胸の内は見抜かれるだろうし、そんな鏡花の様子から告白の経緯の大部分を悟られかねない。
 告白せずして夢にまで見た言葉を賜り、しかし同時に自分自身でそれを台無しにしてしまったという結果を。

 あの屋上での顛末は悔やんでも悔やみきれない。

(朝、飲み物を落とさなければ……いえ、それでもどうしようもなかったのかもしれません……)

 昨夜から緊張していて、膀胱の状態まで気にかけていられなかったというのもあるが、あの時、そこまで逼迫した尿意は感じていないはずだったのだ。

(だとしたら理由は……)

 鏡花は何度目かの後悔を思いながら鼻をすすり、シャワーを浴びに行った。

 熱いシャワーで改めて身を清めてメイド服も新しいものに着替える。
 学園から着てきたものは、結界を破る余波で多少できたほつれを直した後に洗濯することにする。
 針仕事をしながら、両親が帰ってくるまでに普段通りを取り繕っておかなければと何度も自分に言い聞かせ、これから英にどう顔を合わせればいいのだろうと途方に暮れた。

 あんな醜態を晒し、その後始末も英にしてもらって、その上彼の言葉に対する返答もしないままに無言で逃走してしまった。
 そのようなことを知ったら昨夜は鏡花のことをキキーモラらしい、魔物らしいと評価してくれたアンナもその評価を撤回せざるを得ないだろう。

 鏡花にはもったいない言葉をかけてくれた英だって屋上での粗相を経て、自分が見込み違いをしていたと気付かされたことだろうと思うと、また目に涙が滲んだ。

(彼だって突然おもらしする従者など必要としないでしょう……)

 干した洗濯物を眺めてぼんやりと思う。
 いつの間にか、西日が差していた。
 隣の家の玄関が開く音が聞こえる。

(英君、帰って来てくれましたね……)

 時間的には授業が終わって少しして帰ってきたというところだろう。部活には出なかったようだ。
 師範の言いつけを守ってくれていてほっとする。
 同時に、今日のことがしこりとなって彼の不調が長引くのではないかと不安になった。鏡花のせいで彼の復帰が遅くなるのは心苦しい。

(気にしてもらわないようにしなくては)

 鏡花は目元を拭うと、顔を洗いに洗面台に向かった。
 いつものように振る舞い、屋上の件を自分は気にしていないのだと示そう。
 自分が彼のしこりにならないようにしようと決めると、鏡花は相島家へ赴いた。
 チャイムを鳴らして扉を開ける。

「あの、英君? 私ですけど……」

 挨拶をしてみるが、返事がない。そのことにショックを受けながら、「失礼します」と鏡花は家に上がった。
 英が整えてくれた舞台も、彼の決意もぶち壊してしまったのだから当然の対応だろう。謝ってそのことを許してもらえるのならそれだけで幸運なのだ。

(もし話すことを許してもらえるのなら、その時にはあのお言葉のお返事を……)

 彼の心がまだ変わっていなければ。
 そう思うが、英の心境を思えばそれは叶わぬ望みだろう。

 いつもの癖で台所まで歩いて行くと、そこには手付かずの弁当が置いてあった。
 鏡花が屋上から逃げ出した時点で昼休みも終わりかけていたはずだ。
 食べる機会を奪ってしまったのだろう。
 鏡花がしてしまった粗相の罪は重い。

(英君は……お部屋ですね)

 二階に気配を感じる。
 そちらに挨拶に向かおうとした鏡花の足は階段前で止まってしまった。

 どうしたものか、足が動かない
 いつの間にか呼吸が浅く早くなっていたので何度も深呼吸を行った。こうなる理由は分かっている。

 今度こそ彼から拒絶されるかもしれないと思うと足が震えてしまうのだ。

(な、何とお声をかければよいのでしょう……)

 いつもは自然にできていることができる気がせず、焦りから鼓動が早くなる。
 立ち尽くしたまま階段を見上げていると、鏡花を呼ぶ英の声が聞こえた。
 聞こえた声は少し掠れているようで、

(風邪を召されていらっしゃるのでしょうか?)

 心配に思いながら、でも名前を呼んでもらったことで嬉しくなって、ようやく鏡花は階段を昇る踏ん切りがついた。
 いざ昇り始めると、英に早く会いたくて足が自然と早くなっていく。
 尻尾も振れている自分をはしたないと感じ、鏡花は自らを落ち着けるために意識して慎重に、足音を立てることなどないように階段を上がって行った。

 英の部屋の前に立つ。
 もう何年も入っていない部屋だ。名を呼んでもらったからといって、勝手に開けていいものなのか分からない。
 普段ここに立つ時にそうであるようにまず声をかけようかと思っていると、また英の声が聞こえた

「きょう、か……」

 声は掠れて苦しそうなものに聞こえ、その響きに鏡花の背筋に冷たいものが走る。
 最初に鏡花を呼んだ声も、普段と違うものだった。英はどこか体調を崩しているのではないだろうか。鏡花が訪ねて来た際に返事がなかったのは、答えなかったのではなく答えることができなかったからではないか?
 そう思い当たれば、もう他のことなど気にしてはいられなかった。
 明らかな異常があるのだ、状況確認こそが優先。鏡花は叱責覚悟でドアを力任せに開いた。

 英は、部屋の中で昔のままの勉強机に寄りかかるようにして座っていた。

「英君! どうされました……か?」

 言葉が疑問の形を取って止まる。
 床にだらりと座る彼が胸元に抱いているのは鏡花の制服ではないか。それに、彼が反対の手に握っているのは……。

(私の、ショーツ?)

 今日しようと思っていた告白。それに挑むための戦装束と思ってピリやクラスの皆の意見を参考にして、少し派手だろうかと思いながら編み上げたショーツ。
 鏡花の失態のせいで白を黄色く汚されてしまったはずのそれは、今新たに白濁へと塗り替えられていた。
 その塗料は、

(英君の……あれ? ズボンが開いて……え?)

 視覚からの情報を処理できずに鏡花が頭を混乱させていると、代わりに部屋に入った瞬間に処理落ちしていた嗅覚がようやく事実を受け入れた。
 部屋の中に満ちていたのは鏡花の体液と英のそれが混ざり合った匂いだった。

 これまで衣服越しにしか嗅いだことがなかったそれを生で、それも出したてを嗅いでいる。
 嗅覚が伝えてきた事実に、鏡花は本能的にこう思った。

(扉を開けていては英君の匂いが逃げてしまいます)

 後ろ手で扉を閉めた鏡花に英の声が届く。

「鏡花、これは……」

 何と言ったらいいのか分からないという表情でうろたえている可愛らしい彼をよりよく見るために、視覚からの情報を頭が受け入れた。
 言われなくともどういう状況なのかは分かっている。英は鏡花の下着で自慰をしてくれていたのだ。
 心の準備もなくそんな衝撃的な光景に遭遇した鏡花は、理性よりも本能優位のまま部屋を満たす香り、その発生源へとふらりと近付いた
 鏡花のその動作に、英は恐れを感じているかのように身じろぎして、机に肩をぶつけた。

 その振動でスリープしていたパソコン画面が起動する。画面には中等部の修学旅行で撮られたらしい鏡花の写真が写っていた。

 まぁ……。
 吐息が漏れる。
 視線を戻すと、英は鏡花から隠すように制服を胸に押し付けていた。
 制服に幸福そうなシワが寄る。そんな衣服に感じる羨望と共に距離を詰める鏡花へ応えるように、彼の下半身が震えた。
 既に彼の愛を受け止められる限界を超えていたショーツからドロリと白濁が湧き出る。

 シースルーの生地に透けて見える英のペニス。血管が浮き出た威容に鏡花は目が眩むような思いに駆られた。

   ●

 英は突然現れた鏡花に目を疑いたくなりながら、顔を直視することができずに彼女の足元を呆然と眺めていた。
 完全に終わってしまった。
 ここまで決定的だと言い訳をしようとも思えない。ようやく射精が落ち着いた英は、頭を空白のままに呼吸を整えていた。すぐ傍で鏡花が床に膝をついて視線の高さを合わせてきた。
 逃さないと言われているようで、観念した英は全身から力を抜いた。
 ペニスを扱いていた手も離してだらんと下げようとして、その手首が鏡花に掴まれた。

「――?!」
「床に着いてしまいますので」

 そう言って、鏡花は英の手を持ち上げた。
 たしかに、英の手にはパンツに収まりきらなかった精液がべったりと付着している。そんな手で触れれば床が汚れてしまうということだろう。
 綺麗好きな鏡花らしい。
 そう思っていると、鏡花は「失礼します」と英の手に顔を近づけた。
 英が鏡花の行動の意味を察するよりも早く、彼女の口が掌に触れる。

 唇で吸い付かれ、手に付着していた精液が吸い取られる。

「ちょ、鏡花?!」

 英の言葉が聞こえているのかいないのか、しばらく手に口づけた鏡花は吸い付く場所を手の甲に移した。

 艷やかな唇がゴツゴツとした手に触れ、こびり付いた精液を舌がこそぎ取る。
 彼女が口を離した跡は赤くなっており、確かに鏡花が吸い付いたのだと自覚させられた。

 唇の跡に魅了されたようにされるがままだった英は、彼女が小さく息継ぎする音ではっとした。

「手、汚いから……」

 そう言って手を引こうとするが、手首が思いのほかガッチリと握られていて動かせない。
 英の手のにおいをすんすん嗅いだ鏡花は、仕上げとばかりに指の一本一本を口に含み始めた。

 小指から薬指、中指へと一本ずつ指を移動しながらじんわりとした暖かさが与えられる。
 一生懸命に鏡花が口で拭い取っているのは英の性器から漏れ出したものだという事実と、どこか陶然とした顔で行われるお掃除。英は今日何度目になるのか分からない混乱に陥りながら、無意識の内に咥えやすい位置に人差し指を持っていった。
 鏡花が咥えるものが別のものだったら、と想像がいきそうになるのをこらえて、何故彼女はこんなことをするのだろうと理由を探す。

(床を汚さないため……?)

 空転している頭が弾き出した間の抜けた結論を真に受けて、助言のつもりで言う。

「ティッシュがあるからそれで拭けばいいから――」

 鏡花は最後の一本、親指を口に含んでそこに歯を立てた。
 軽く歯を当てられているだけで痛いということはないのだが、これまでとは違う行動を取られた意図を察することができずに英は言葉を詰まらせて口ごもる。
 何度か親指に歯を当てると、鏡花はジュポッ、と殊更音を立てて口を離した。

「ティッシュに及ばないご奉仕で申し訳なく思います。でも、英君が悪いんですからね」

 他人に何かの責任を押し付けるような物言いをする鏡花に、英は驚いた。

「え、っと……? ごめん。
 ティッシュがいいってことじゃないよ。鏡花の口、気持ちよかったし……」

 どうやら英が思いもよらないところで拗ねているらしい鏡花に正直な気持ちをつかえながら伝える。英の戸惑いの気配を感じないのか、鏡花は丹念に掃除を終えた手を握りしめて、純真な顔で問うた。

「気持ちよかったですか? 本当に?」
「う、うん」

 気圧され気味に英が頷くと、鏡花は尻尾を振りながら「そうですか、そうなんですか」と何度も呟く。
「ありがとうございます。ですが、英君が悪い子なのは変わりませんよ」

 そう言って手をそっと放すと、鏡花は英のペニスを包むパンツを指差した。
 やはり下着を使って自慰に及んだことを怒っているのだろう。

「うん、分かってる。こんなことをして本当に申し訳ないと思ってるし、それこそ、どんな罰でも受けるつもりだ」

 なんでもかなぐり捨てる覚悟の英の言葉。しかし鏡花からの返事は以外なものだった。

「とんでもございません。英君に使っていただいて私の下着も制服も本望でしょう」

 ですが、と彼女は英に非難の目を向ける。

「もし悪い菌が入ったらいかがされるのですか。だから悪い子なのです。
 そのショーツは、その……私の粗相で汚れてしまっているのです。ですから、あんまり使って欲しくはなかったと申しますか……ですけど、そのショーツはお裁縫を頑張ってみた作品ですので英君の目に止まってそこまで使っていただけたのは本当に嬉しいと申しますか……」

 言いながら鏡花は徐々に顔を俯けていき、最後には件のパンツをペニスごと両手で握りしめた。
 突然触感を疑うほどの快感を受け、英のペニスは手の掃除をされている内に復活しつつあったその身をピクリと震わせた。

 心臓の鼓動に合わせるようにひくつくペニス。その動きに合わせるように、言葉を止めた鏡花の手が力を入れたり抜いたりといった行動を繰り返した。
 そのたび、にちゃにちゃと音がして、英の羞恥を煽り立てていく。
 無言で行われる鏡花の責めに、英は耐えきれずに声をかけた。

「鏡花、一体なんのつもりなんだ? いや、俺が悪いことをしたのは分かってるから、その償いをしろってことならするし、させて欲しい。でも、そうするためには今の鏡花の気持ちがよく分からないんだ」

 鏡花ははっとして顔を上げた。
 その拍子にペニスは強く握られて上半身をのけぞらせた。

「す、すみません! 痛かったですか? 夢中で」
「いや」

 むしろ気持ちよかったから困ったのだ。
 そんなことを思っていると、鏡花は「もっと優しく、丁寧にいたしますね」とペニスの根本をそっと包み込むように握り直し、その形を確かめるようにさわさわと触った。

「鏡花?」

 声をかけるが、鏡花はその行為をやめず、やがて顔を近付けると、スンスンとにおいを嗅いで、
 根本からパンツ越しにペニスを舐め上げた。

「――ちょッ?!」

 出したばかりで敏感な先端を鏡花の舌先が布越しとはいえ通り過ぎる。
 電気が走り抜けるような快感に、英は上ずった声で呻いた。
 鏡花はそんな英の様子を上目遣いに見ると、嬉しそうな声で言う。

「よふぁっふぁ。気持ちいいんでふね?」

 事態についていけていない英は、とにかく行為をやめさせようと鏡花に手を伸ばす。
 鏡花はその手から逃れるように顔を離すと、英がほっとしたのも束の間、急襲をかけた。

 彼女はペニスの先端に吸い付いて、手指にやっていたように吸い上げたのだ。

 突然の強すぎる刺激に、英は今度は前のめりになる。
 噴出液を啜り上げる鏡花を止めようと伸ばしたはずの手は力も入らず、中空で跳ねるだけだ。

「――っ、き、きょう……!」

 しばらく音を立てて先端を吸い立てていた鏡花は口を離すと、今度は竿の部分をまるでハーモニカでも吹くかのように挟み込んだ。
 その動きにいちいち背を伸び縮みさせて白目を剥きそうになりながら英は考える。
 彼女は英を指して悪い子だと言い、その後、彼女は汚れた下着を使ったから悪いのだというふうなことを言っていた。

 なるほど、あのパンツの状態を思えば鏡花が羞恥を抱くのも当然と言える。
 ならば、彼女を辱めてしまっていたという点についてよく謝っておくべきだろう。
 英は酒よりも刺激によって掠れる声で鏡花に謝罪の言葉を吐いた。

「鏡花のパンツっ、が、汚いとはっ、思えなかったから……っ、使っちゃったんだ……ごめん」

 鏡花はその言葉に肩を震わせると、一度ペニスから口を離した。

「おそまつ様でした」

 そう言うとまた先端に口を付ける。
 これまで以上に強烈な吸い込みに、何か間違えてしまっただろうかと英が唸っていると、鏡花は唇で先端を強く挟んだ。

「――――ッ!」

 英はペニスの先端からまたガマン汁が湧き出しているのが分かる。
 そんなに強く挟まれると先端が潰れてしまう。
 それこそが鏡花からの罰なのではないかとさえ思っていると、鏡花は顔を上げた。
 その動きに従って、パンツが脱げていく。
 クロッチの部分を咥えて英からパンツを脱がしたのだ。

 鏡花はもはやドロドロになってしまったパンツを、床に置かれていた制服の上に首の動きで放る。
 空気に触れてペニスがヒクついた。
 鏡花が風邪でもひいていそうな熱のある表情で告げる。

「これからはせめて私が粗相をしていないショーツをご所望ください。いつでも提供いたしますので」
「あ、ああ……?」

 鏡花の言動はやはりおかしい。体調が本当に悪いのではないかと心配になる。

「あんなものを吸って、鏡花、大丈夫か?」

 鏡花がかぶりを振る。

「私は魔物ですので、じ、自分のお……お小水くらいでしたら大丈夫で――」「いや、俺の、あー、精液のことなんだけど」
「あ……」

 鏡花はそっちだったのか。という顔をして、「とんでもございません」と否定した。

「あのような素晴らしいものを味わうことができるなんて、私は幸せ者です」

 彼女は英の股間に目をやると、ほうっ、と熱い息がこぼれる。

「なんて、なんて立派なおちんちんでしょう」

 鏡花の口からおちんちんなどという単語が出たことが信じられない思いの英は目、触感と続いて耳も疑いだした。

(そういえば、さっきからなんかすごいこと言ってたな)

 英は結論した。

(ああ、俺夢見てるんだ)

 あんな物を使って致すからだろう。起きたら要反省だ。そう思っていると、鏡花は英の思考を読んだかのように言う。

「はい、夢見心地でいていただければ幸いです」

 社会の窓の中にまで顔を突っ込む勢いで鏡花は英の股に潜り込んで、ペニスに舌を這わせた。
 睾丸からペニスを伝わる裏筋を舐め上げられる。
 先程の手しゃぶりや布越しの舐め上げはどちらかと言えば視覚への刺激が強かったが、今度は艶やかな舌がグロテスクなペニスを辿る感触が直截な快感をくれる。

 鏡花はもどかしそうに英のベルトを外した。
 手際良くテーブルクロスを引くようにズボンがするりと足から抜けて英の下半身を晒す。
 なされるがままの英の内ももを揉み、そこから玉に手を伸ばした。

「いっぱい、ここで精液が作られているのが分かります」

(これ……夢じゃ、ないっ)

 刺激の生々しさが、幾度か見た淫夢の比ではない。
 そして、だからこそ現状への理解が及ばない。

(ああ、もう何だろう。いまいち何がどうなっているか分からないけど)

 この現実に全て委ねてしまってもいいのではないかと考えていると、鏡花がとろんとした目で顔を上げて、英の上着のボタンを外していった。

「荷物を放り出したまま、私の服も散らかしてしまって」

 彼女は脱がせた英の服に顔を埋める。

「――それに、お酒の香り……そちらの水筒ですね」

 顔を上げた鏡花は魔法のような素早さで上着を畳むと、机に置かれた水筒を手に取って中身を一目見た。

「鳴滝君、あれほどだめですと言葉と態度で示したのに……」
「いや、それは俺が頼んでもらったものだからあいつを責めないでやってくれ」
「では、悪い子は英君なのですね。
 本当に、お体を壊されたらどうするのですか?」
「鏡花にあんなに恥をかかせた男の体の一つくらい壊れた方がいいんだよ」
「ああ、私のせいで英君が思いつめないでください。あれは、私の未熟さゆえに起きてしまった私の粗相なのですから」

 悲しそうな声に英は慌てて首を振る。

「ごめん、本当のことを言うと、今日のことでいろいろと情けない気分になった自分のヤケ酒用にもらってきたんだ」
「え、では、鳴滝君も、あの……屋上での件を?」
「いや、そのことについては何も言ってないから安心して欲しい。墓の底まで持ってくつもりだ」
「ご配慮、痛み入ります」

 声が安らぐ。
 配慮ということならば、本当ならばああいったことになる前に気を割いて配慮すべきだったのだけれどと思うが、言っても鏡花がまた悲しそうにするだけだろう。

「結局そんなに美味しいもんでもなかったから、これからは無理に飲むこともないかな」
「そうですか……英君はいけない人です」

 ですが、と彼女は続けた。

「一度の好奇心ならば、私の記憶からは失われることでしょう」

 以前冗談で言っていたことを大真面目な表情で言うと、彼女は水筒を呷った。
 ゴクリと喉が鳴って、景気良く酒が干されてういく。

「だ、大丈夫か?」

 驚いて英が声をかけると、鏡花は「問題ありません」と応じて水筒を置いた。

「これで何が入っていたのか分からなくなりましたね」

 中身は空になっていた。
 喉を焼いてしまっている様子もない。
 アンナは向こうの世界では北の果ての生まれで幼い頃から酒を飲んでいたという。その血のおかげか、彼女も酒には強いようだ。
 仮に酔いが回っていたとしても、英には分からないだろう。それほどに鏡花の顔は既に赤くなっていた。

「悪いことをしているから私のショーツにおもらしをしてしまうんですよ」

 そう言うと、鏡花は英のペニスに触れた。
 それとこれとは話が違うと言おうとした英は、刺激に呻いて言葉を潰される。

「私も英君におもらしの処理をしていただきましたし、お返しです」
「もう処理は終わったから……」

 すぐそこで放られているパンツを見ながら言うと、鏡花は首を振った。

「まだあふれています」

 そう言うと、鏡花はペニスの先端に浮かんだ先走りの玉をチュ、と吸った。

「鏡花……?」
「お気になさらず、悪い子のお世話も私の大切なお仕事ですから」

 鏡花は自分に言い聞かせるように言って、念を押した。
「ね?」

 有無を言わさぬ雰囲気に、英は息を飲んだ。

「それでは、悪い子を食べてしまいますね」

 お世話ではなかったのか。鏡花は気にした様子もなく、英の息子に鼻を近付けた。

「ああ……この香り……良いです……英君、英君……」

 鏡花は根本から先端までを鼻が触れてしまわんばかりに近付け、その後を追うように舌で裏筋を刺激した。
 生の刺激は未知の感覚で、英の口からは変な声が漏れ出た。
 追い打ちをかけるように手が股に潜り込んでいて玉が優しく揉まれる。
 手は玉から竿に移り、舌はペニスの先端に再び浮かんだ先走りを舌先でつついた。
 舌とペニスの間に繋がる糸が興奮を煽る。
 切れた糸の跡を辿るように鏡花はペニスに手を添え、その後からもはやとめどなく漏れ出てくる先走りが竿を伝って鏡花の手を汚していった。

「それでは、いただきます」

 そう宣言して、鏡花はペニスの先端を口に含んだ。

「――!」

 英は息を詰める。
 布越しの感覚とは全く違った。
 ペニスの先端を包んだのはねっとりとした感触だった。
 口腔に包まれた亀頭が徐々に唾液に浸されていく。
 あふれた先走りと唾液のミックスされているであろう液体が鏡花の口中を満たし、ジュズっと音を立てて飲み込まれた。
 その吸引に釣られるように英の腰が浮く。

「ん……ふ……ぅ」

 嬉しそうに含み笑った鏡花は先走りをもっとと促すように竿の部分を両手で扱き、唇がカリをやわやわと愛撫する。
 口が開きっぱなしになる刺激の中、英はペニスがこれまでになかった程大きくなっていくのを感じていた。
 鏡花の吸い込みの音に合わせるように、ペニスが口中では跳ねる。

「ん……ここちよいでひゅか? さいわいです」

 応答し、鏡花は玉を揉みほぐしながら口の奥までペニスを呑み込んだ。
 淫猥な音を立てながらペニスがしゃぶられる。
 ペニス全体が鏡花の熱に包まれる感覚に呻く英は、無意識の内に彼女の頭に手を触れていた。

 彼女の口が亀頭まで退くと、たっぷりまぶされた唾液が竿を卑猥に光らせる。鈴口の辺りを舌先が舐め、続く動作で頭がペニスを深くまで飲み込む。
 口の暖かさにペニスが浴し、竿をくすぐる舌にむずむずとした快感を得る。
 陰部を包み込む快感に、英はもっと、と本能で望んでいた。
 手を彼女の頭ごと自分の股間に押し付ける。

 鏡花は英が求めているものを察したように、押さえ付ける手によって制限をかけられながらも口と手を使った奉仕を続けた。
 口愛撫の液音に混ざって駆けていくような早い呼吸が二人分響く。募っていく快感に、気が付けば英は射精寸前にまで高められていた。

「き、鏡花……!」

 切羽詰まって名を呼ぶと、鏡花は頭の動きを更に早めた。

「ん、ぶ、……む……んっ!」

 限界点まで一気に導かれた英の腰が一瞬引ける。
 鏡花はそれに合わせてペニスから口を離した。
 唾液と先走りでペニスと繋がる橋が切れるより早く鋭く息を吸うと、彼女はペニスを根本まで口に含んで思いっきり吸い込んだ。

「――ッ!!」

 半開きの口から掠れた悲鳴をあげながら、英は鏡花の口の中に射精した。

「……ん……ん……っ」

 喉がコクッと動き、吐き出される精液が飲み込まれる。
 指を吸われていた時に連想してしまった光景が完全に目の前で再現されていた。
 感じる刺激はあの時の比ではなかった。より熱く、満足感に満ちている。
 二回、三回と脈動が続いて勢いが衰えてくると、鏡花は音を立てて尿道の中に居残った精液をも飲み干していった。
 ジュジュジュ……ッという音を立てながらの強烈な吸い上げを行っては顔を上げ、仕上げとばかりに亀頭を舌でこそいで口を離した鏡花は、少し上向いてこくん、と最後の一口を嚥下した。

 同時に彼女は身体を丸めてビクビクッと痙攣する。

 そのまま顔も上げずに息を荒げ続ける鏡花に、英が不安になって大丈夫かと訊ねると、彼女は顔を上げた。

「は、はい……大丈夫……です」

 彼女の顔は先ほどよりも更に妖しくとろけていた。
 精液が余程ひどい味だったのか、それともペニスを深く飲み込み過ぎたせいか、その目からは涙がこぼれている。
 涙と口端のよだれを拭う鏡花に、英はとにかく頭を下げた。

「ごめん鏡花。俺が悪かったからこれ以上無茶しないでくれ、な?」
「……そうです、英君が悪いんですからね」

 鏡花は自分の体を抱きしめて、もぞもぞと身を揺すりながら言い募る。

「あんなことを言ってくれて、私の粗相の後片付けまでさせてしまって、服も使ってくれて、部屋を片付けもしないで、写真までとっておいてくれて、お酒を飲んで、立派なおちんちんを見せてくれて……
 ――鏡花はもう、限界です」

 そう言って鏡花はメイド服の裾をたくし上げた。
 その下にはソックス以外に何も穿かれていなかった。
 股の間から、汗よりも粘性の強い液体が太ももを伝ってソックスに染み込んでいく。
 目線を挙げると、晒された秘部が視界に飛び込んできた。ソコが開帳されたためだろうか、鏡花の濃密な香りが感じられる。
 そんな情報に意識を奪われながら、英はどうにか口を動かした。

「パンツは……?」

 ようやく言えたのはなんとも間の抜けた台詞で、しかし鏡花は笑うことも呆れることもなく答えた。

「お恥ずかしながら、家で着替えさせていただいた際にうっかりと穿き忘れてしまっていたようです。ですけど、穿き忘れて正解でした」

 だって、と微笑む幼馴染の表情はこれまでどのような媒体でも見たことがないほどに卑猥に映った。

「英君のおちんちんがまた元気になってくださったんですもの」

 言われて気付く。
 徹底的に吸い取られていながら、英のペニスは既に活力を取り戻しつつあった。

「ショーツを穿いていたら私自身の体で興奮させられたのかわからないですものね。英君は下着がお好きなようですし」

 態度に出ているというわけでもないが、いじけたようにも聞こえた鏡花の言葉に、英は慌てて弁明する。

「あのパンツとか制服とかで興奮したのは鏡花が着ていた物だからであって、そりゃ、本人がこうして目の前に居てくれるならその方がいいに決まってる」
「ほ、本当ですか?」

 モジモジと身をくねらせて確認する鏡花に頷きながら、なんてめちゃくちゃなやり取りだろうと英が思っていると、どこからか、くちゅ、という湿った音が聞こえた。
 思わず鏡花を見ると、目の前の股から液体がまた一筋流れていた。
 こころなしか、液量が増えているように見える。
 英の視線に耐えかねたように彼女が脚を擦りわせると、それに応じて水音がして太ももを伝う液体がまた一筋増えた。

「あんなに美味しい精液を頂いて、私も欲情してしまいました」

 鏡花はメイド服の裾を口でくわえて英の投げ出された足の上まで来ると、膝をついた。自由になった手は、片方をペニスの上に、もう片方は自らの股にやって性器をくつろげる。
 彼女の股からは、いよいよ糸を引いて大量の粘液が滴ってきた。

 ももが温い液体に濡らされる感触。英は今更ながら、この液体が鏡花の愛液なのだと理解した。
 膝でにじり寄った鏡花はペニスを自身の内ももになすりつけ始めた。
 すべらかな肌にペニスが触れ、鏡花が腰を下ろしていくのに従って体液の軌跡が描かれる。
 ほどなくペニスは愛液が伝った跡に触れ、より滑りがよくなる。そうやって鏡花の脚を根本まで遡ったペニスは、やがてその根本――性器周辺にまでたどり着いた。

 既にびしょ濡れの股間がペニスを歓迎するように水音で迎える。
 その淫靡な音を耳にするたびに、英は自分の分身が固さを増していくのが分かった。
 鏡花の体温を感じながら、英は彼女がこれから何をしようとしているのかを察し、咄嗟に声をかけた。

「鏡花、それは……だめだ」
「……どうしてですか? やはり粗相をする娘はお嫌ですか?」

 裾をくわえながら器用にしゃべる鏡花に、英は「違う違う」と答えた。

「ただ……そこは本当に好きな人のためにあると、まあ、そう思うんだ」

 ここまでならば魔物の吸精や、彼女らなりのお仕置きとして言い訳もたつが、そこに挿入れてしまうとなると、魔物が跋扈する今の世の中であっても話は重くなってくる……ような気がする。
 少なくとも英はそこで繋がることに特別な意味を感じていた。
 だから、そこは本当に好きな人に――たとえば、彼女に告白したというボランティア部の男子のためにとっておいたらどうだろうと思って言ったのだが、鏡花は英の言葉を聞いて、悲しそうな顔から一転、ほっと笑んだ。

「でしたら、問題ありません」

 ペニスを掴む力が強くなる。
 先端は先ほどから鏡花の肌を滑り、ももの間に挟まれていた。

「なんで……?」

 気持ちよさをこらえながらの問いに、鏡花は頷く。

「それはですね」

 英は、これまで肌をなぞっていた先端が別の感触を得る。

「私、大取鏡花は相島英君のことを主人とすると、ずっと昔に心に決めているからです」

 熱を持った沼にでも飲みこまれるように、鏡花の身体に先端が沈み込んだ。
 英が沼に呑み込まれつつある自分を自覚するかしないかのその瞬間「あ」という言葉と共に、鏡花の立てていた膝がガクンと折れた。
 そして、ペニスが一息に沼へと飲み込まれた。

「――ッ」「――!」

 二人は声にならない悲鳴を上げて身体を硬直させた。
 英の視界に、ヴァギナに飲み込まれたペニスが見える。
 挿入の衝撃で消え失せていた感覚が遅れて脳に届いた。
 英が熱い締め付けの中にあると自覚した時には、鏡花は自身の中の異物の感触を確かめるように少しずつ腰を動かしていた。
 わずかに持ち上がった腰。二人が結合した部分には血が滲んでいた。

「きょう、か……大丈、夫か?」

 尚も動こうとする鏡花に訊ねると鏡花は短く悲鳴を上げ、ぺたんと足を崩して座り込んだ。そうして深呼吸を繰り返し、

「申し訳ございません……っ。英君のものが触れる心地よさに、つい、力が抜けてしまいました……ぁ。
 ……少し、驚いてしまいましたが……っ、もう大丈夫です。血も……っ、問題ありま、せんっ。中に何かを迎えるのは初めてのことですので、血が出るのは自然なこと……っ、ですから」

 嬉しそうに言うと、彼女は自分の腹を撫で、

「あ、は……ふふ、ここに入る初めては英君だって決めていたんです。夢がかなってしまいました……っ」

 そしてまたわずかずつ腰が動き始めた。
 彼女のヴァギナはガチガチの締めつけで英を捕らえている。敏感なペニスが傷みを感じないのが不思議なくらいだ。
 手とも口とも違う、熱くて搾り取るような感触。
 夢の中で想像されていた感覚が、今現実のものとして感じられている。
 現実は夢など及びもつかなかった。
 鏡花が少し動くごとにペニスが締められたまま擦られて、頭を漂白するような暴力的な快感を叩き込んでくる。
 力が入らず机に半ば倒れるように背を預ける英の目の前で、血と愛液が玉を濡らした。
 急激に動く事態にあって、とにかく落ち着こうと英も深呼吸をしようとする。
 鏡花はそんな英の腹に手を置いて腰をぐい、とこれまでよりも大胆に上げた。
 血の滲んだ幹がズルリと現れ、カリの辺りで動きが止まる。
 呼吸を乱された英を見下ろしながら、鏡花は息を弾ませる。

「き、きょう……!」
「すぐにまた、包み込んでさしあげます」

 そう言う彼女の目は猛禽のもので、口もとの笑みは猛獣のそれだった。
 鏡花が何をしようとしているのかを本能が悟る。それを停める間もなく、彼女は腰を叩き付けるように落とした。
 もも肉同士がぶつかって、彼女の肉がふるんと波打つ。と同時にジュプ、という音を伴ってヴァギナから液が溢れてくる。
 ぎゅうぎゅうに締め付けてくる肉の感触が悲鳴を上げてしまいそうな程に気持ちよかった。

「――――っ」
「ん……っ!」

 英が押し殺した悲鳴を上げると同時に鏡花も詰まった声を上げ、その口からメイド服の裾が離れて繋がった部分を隠す。
 鏡花は英の腹に手を置いたまま、腰の上下を繰り返した。

「あ、ん、あ! ……あっ」

 腰の動きに合わせてスカートのベールの奥で水音がして、英の中で快感の波が弾ける。

「英君の、んっ、私の中で、っは、いっぱいです……!」

 伝えてくる言葉には喜びがうかがえた。
 そんな声を聞いているうちに、英もまた精液が下腹に溜まってくるのを感じた。

「鏡花……やばいかもっ」

 快感を堪えようと身を捩りながら言うと、彼女は性感に浮かされた声で返してきた。

「な、中に、お願いですからっ、私の中にぃ! 英君の精液をくださ、いっ!」

 腰の振りが一層激しくなる。
 鏡花の言葉から自分と鏡花が求めるものが重なっていると分かり、強くなっていく快感に従って自らの欲求を果たすと英は決めた。

「英君! 英くん! すぐるくん……!」

 彼を求める鏡花の声が徐々に不鮮明になっていく。
 腰の動きも、リズミカルなものから不規則なものへと変化していた。
 下半身の上下に合わせて上半身もぐらぐらと揺れている。
 その目は虚ろで、口もとには緩んだ笑みが浮かんでいた。
 ヴァギナにも、きつい締め付けの中でたまに締め付けが緩んでは膣全体が小刻みに震動するような動きが混じるようになった。
 痙攣している太ももを見るに、鏡花にも絶頂が迫っているのだと経験のない英にも知れた。

 鏡花の嬌声と痴態を見ているうち、英は彼女をこうさせている源。先程は驚きに圧倒されてよく見ることができなかった陰部をもう一度見てみたいと思い、気持ちよさで震える手でぺたんと広げられた彼女の脚に触れた。
 ソックスに覆われた鱗を撫で上がり、黒地に白いエプロンのメイド服の裾をめくり上げる。

 普段ならば働くはずのためらいは一切なく、欲望に忠実な思い切りのよい動きは鏡花の臍までを露わにした。
 早く早くとねだるように腹筋を押し込む鏡花の手越しに二人が繋がった部分が見える。
 すっかり活力を取り戻した英の雄が、鏡花のシミ一つないつるんとした割れ目に出入りしている。

 割れ目からはとめどなく愛液が流れているのか、二人の股間はすっかり濡れていた。そんな光景に見とれていると、鏡花が体勢を変えた。

 丸められていた背を反らし、腹筋から手を離して床に着く。
 自分たちが繋がっている部分を英によく見えるようにした彼女は、気持ちよさそうな声を上げながら腰を上げる。
 体液の糸が幾重にも繋がり、腰が落ちれば水音と共に肉同士がぶつかる。
 血と愛液、そして英の先走りの混合液が英の陰毛で泡立って、妖花のごとき淫臭を放つそこが英を惹きつけてやまない。
 体勢の変化に伴って、彼女が感じるのに合わせて尻尾が足をさすり、打ち合わされていた太ももに代わって日々の仕事の成果か、程よく締まった彼女の尻が英と触れ合うようになる。そして、ペニスが刺激する位置が変化し、これまで存在しなかった天井を先端が擦っていた。

「いっ、あ! ああ、なか、お腹の、ほうっ……あ! いい、ですっ!」

 下半身が密着するたびに鏡花が高めの嬌声を上げる。
 声もふらふらと不確かに揺れている。余裕がなくなってきたのだろう。
 それは英も同じで、むしろ、彼の方こそもう終わりは近かった。

 鏡花から発される声が、音が、感触が、匂いが、彼を三度目へ射精へと引っ張っている。
 彼女自身が敢えて見せつけてくる二人が繋がっているという証。そして彼女の初めてを貫いたのだという事実。
 気づけば彼女を求める心が体を動かしていた。
 鏡花がお尻を落としてくるタイミングに合わせて本能が彼の腰を突き上げさせる。

「っあ、はぁ――もっと……!」

 英からの積極的な突き上げに、鏡花の鳴き声が喜色を濃くする。
 初めは噛みあわなかったタイミングも、鏡花の方で合わせてくれたのか、数度行う頃にはより強い性感を得られるようになっていた。

「ひ、ん……あっああ! あぃっ! あは! んああッ!!」

 鏡花の声音が変わる。
 膣壁を突く感触を得るたびに英は精を放ちそうになるが、もう少しだけ待ってとせがむように、ヴァギナはペニスをキツく締めた。

「ごめん、鏡花……っ」

 それでも堪えられない限界まで来た英がうめくと、鏡花も危うい声で頷いた。

「は、は……ぃ。私も、もう……今までで一番スゴいの……きて……しまっアああ!」

 それすらも快感を高め、焼けそうな意識で英はメイド服ごと鏡花の脇腹を掴んでいた。
 英はパンツにそうしたように、掴んだ彼女の腹を根本まで引き落とした。
 ペニスの先端がゴリュ、と抉る感触がある。先端が熱い肉天井による最後の愛撫を受けて、限界に達した。
 もはや抑えることなく、英は射精欲求に従った。

「――ッ!」

 一回目の放出。その勢いに、英は驚いた。
 尿道の中を精液がかつてない速さで駆け抜けていく。そうでありながら長さをも感じる一射目が、膣壁ではぜた。

「――――ッああアああ!?」

 鏡花は射精の勢いに押されたかのように、陰部を引き寄せていた英の押さえつけを弾いて腰を反らした。
 彼女もまた絶頂を迎えたのだ。
 抜けそうになったペニスのカリ首が締まった膣口に引っかかってつなぎとめる。

「――んィっ!」

 次いで二発目が放たれた。

「ひぃ――あ、あ、出ちゃ、出ちゃいま、あああああ!」

 鏡花の鳴き声と共に、結合部の辺りから英の射精もかくやという勢いで液体が噴出した。
 噴水のように上方に飛んだそれは、放物線を描いて英の胸に降りかかる。その匂いは英が先程嗅いだもので――鏡花はおしっこを漏らしていた。

「あ……は……あ……」

 放尿の勢いが安定してくると、彼女は脱力したようにぺたんと腰を落とした。それでも尚鏡花は鳴きながら、ももや腹を痙攣させていた。
 焦点の合わない目で体をビクつかせて放尿を続ける彼女は、やがて自分の痴態に気付いたのか、見せつけるようにしていた陰部を隠すように前屈みになろうとする。
 彼女の手が股間を隠すより早く、英はその手を掴んで自分の方へと引っ張っていた。
 力が抜けきっている鏡花はほとんど何の抵抗もなく英の上に倒れてくる。
 腰が落ちて深い挿入になっていたところで体勢が変わり、性器が膣内を大きく擦った。

「ああっ……っ、は……あ、もれ、もれちゃってるのに、だめ、ぇ……!」

 悶える鏡花が身をよじり、濡れた英の胸にメイド服越しに胸が合わされて布地が水分を吸っていく。
 擦れ合わされたヴァギナの締め付けは絶頂に至ったためか、それとも異物であるペニスが体になじんだのか、ぴったりと吸い付くようなものになっており、射精で敏感になったペニスを優しく包み込んでいた。

「ん……んん……っ」

 脚をくねらせた鏡花が、弛緩していた体に力を込めた。
 すると、下腹部で弾けていた放水の勢いが弱まった。

「や、やった――あ!?」

 括約筋が締められた影響で、緩んでいたヴァギナが絞られて、ペニスが刺激に応えるように精を吐き出す。
 すると、ヴァギナがとろけ、衰えた放水の勢いがまた増えた。

「や、あ、あ、い……ああっ、あああ……」

 一回二回とそれを繰り返し、やがて諦めたのか「ごめんなさい……」とかぼそく口にして、鏡花の身体が脱力した。
 ちょろちょろと放水が続き、英はそれに応じるように鏡花の中へ精を注ぎ込んだ。
 そうして英がこれまでの人生の中で一番長く雄の満足感に満ちた射精を終えると、ぴゅ、ぴゅ、と残滓を零しながら鏡花の身体がぶるるっと、これまでとは違う震え方をした。

「はぁ――……」

 という長い吐息が首元で聞こえる。放尿が終わったらしかった。

   ●

 英も鏡花も言葉を交わすこともなく、ただ相手の香りを感じ、呼吸に聞き入ったまま抱き合っていた。
 やがて、二人を濡らした黄金色の液体が冷えてくる。
 温もりを求めて英が鏡花の背に腕を回すと、彼女は羽毛の生えた手首を首に回してくれた。英の首筋に顔を埋め、一際長い呼吸をした鏡花は、羞恥や申し訳なさがこもる声で恨みがましく言った。

「英君が悪いんです」
「うん」
「英君のせいなんです……」

 何が、とは言わないが、どのみち今日の件だと大抵のことは英が悪い。

「ごめん」
「謝らないでください。悪いのは私なんです」
「あー、えっと、ごめん?」
「あやまらないでって言ってるじゃないですかぁ……」

 英もまだ現状に頭がついていってない。これまでの人生で最高の射精を行い、更にペニスはまだ鏡花の中だ。考えようとしてもうまくいくはずがなく、英はただごめんと繰り返すしかなかった。
 鏡花は不満そうに擦り付ける形で首を振り、その動きに英の身体にかけられた黄金の体液が音をたてる。
 どうしたものかと考えていた英は、自分の身体が性感との震えとは別の震えに見舞われていることに気付いた。
 寒さの震えだった。

(夏とはいってもずっとこのままってわけにはいかないか)

 鏡花の体がいくら暖かくとも、濡れたメイド服が冷めてしまう冷たさはどうしようもない。
 それでも鏡花からは離れがたく、強めに彼女を抱きしめてみる。
 すると、鏡花が「ん、しょ……っ」と気合を居れて英の顔の方へと体を移動させた。

 ペニスが抜けて、外気に晒される。
 時間にして十数分ぶりであろう外気を妙に心細く感じていると、鏡花は英の上から身をどけた。
 床に正座すると、淫らな気配を引きずる表情で、それでも真剣に頭を下げた。

「申し訳ございません……その、私、また粗相を……」
「い、いや――」

 英も半身を起こした。
 腰を引いて机を背もたれにし、なんとか座った状態になる。自分と鏡花の体液でヌラヌラと光っている股間の逸物は、呆れたことにまだ完全には萎えきっていなかった。その幹を伝い落ちる赤い色に、鏡花のことがやはり心配になる。そんな鏡花は顔を上げ、ペニスをぼぅっと見つめていた。
 どこか物欲しそうな彼女の様子に、先程あの艶やかな唇に吸い付かれたということを思い出させてくる。
 ひとまず淫らな記憶を追い払うために咳払いをして、自分の制服のシャツを引っ掴んでとにかく股間を隠す。

「……俺も、初めてだっていうのに最後かなり強引になってたし……その、血も出たままだったし、本当に大丈夫か?」
「血につきましては先程も申しました通り、初めてを主に捧げることができた証拠。誉なんです。最後に力強く突き上げてくださった際は天にも昇る心地でした」

 そう言って、鏡花は自分の臍の辺りに手をやった。

「そして、最後にここに精を賜り……私は幸せ過ぎて、嬉し過ぎて……だから、その」

 言いづらそうに口にした。

「お、おもらしを……」

(……うん?)

 英は言われた言葉の意味を受け取りかねた。

「嬉し過ぎて……?」
「……はい」

 鏡花は目をつぶって続ける。

「屋上でもそうです。あまりに唐突に英君があんな……あんなに嬉しいことをおっしゃるから。気が付いたら私、ああなっていたんです……ああなるなんて思ってもみなくて、私、焦ってしまって……。何もお言葉を返すこともできないままに逃げてしまいました……」

 英は鏡花の言葉を聞きながら、おもらしの被害にあっていたのか、一部黄色に染まっていたシャツを見る。
 今の鏡花の言っていることを英は初め理解できないでいた。聞き間違いかと思って尋ね返してみても、返答は同じで、どうやら聞き間違いということはないらしい。
 嬉しいからおもらしをしてしまった。それではまるで、

「嬉ション……?」
「――!」

 鏡花は身を縮こまらせる。
 嬉ションというのは子犬などに見られる、興奮や喜びのあまり本人の意思に関係なく失禁してしまう現象のことだ。成長すれば大概は落ち着くものでもある。

(いや、まさか)

 鏡花はもう高等部の学生だ。体だって、密着していたからこそ分かる実感として十分成長している。それに、これまで彼女がその手の悩みを持っているという話は聞いたことがないし、分かる範囲ではその兆候も無かったはずだった。
 しかし鏡花はそれはそれは恥ずかしそうな顔で頷いた。

「……はい」

 嬉ションで間違いないらしい。
 いつも完璧に仕事をこなす、大人びたイメージである幼馴染にこのような幼い弱点があるとは思ってもみなかった。そして、彼女が嬉ションを肯定したということは、もう一つ、重大な意味を持つ。
 彼女は、屋上の時のおもらしも嬉ションだと言ったのだ。
 それはつまり、告白を受けて嬉しかったということであり、

「え? もしかして、鏡花も俺のこと好いてくれてる……とか?」
「そうでなければあんなに我を忘れて襲いかかるような真似などいたしません……っ」

 鏡花が訴えるように言う。英はそういえば、とあの凄艶な挿入に至る直前に彼女が言っていたことを思い出す。
 鏡花は英のことを心に決めた主人であると言っていた。
 アンナが航のことを旦那様と呼んでいるように、彼女たちキキーモラにとって、主人という言葉は時に恋人以上に重みのある関係となる。
 つまり、彼女はそれほどまでに英のことを大事に思っていてくれているということになるのではないか。
 そんな英の中の願望を全肯定するように、鏡花は訥々と話す。

「私は、もうずっと、ずぅっと昔から英君をお慕い申し上げておりました。ですが、小等部のときのようなことがあって、それから私は英君に従者として認められることがないのではないかといつも不安だったのです。近頃は英君、不調なようでしたし、その相談もしてくれなくて……私、どうしようってずっと考えてたんです。
 それが、いきなりのあのお言葉。嬉しくならない方がおかしいです」

 その言葉を聞いて、英は屋上での告白の失敗以降、交わりの直前まで抱いていた罪悪感や疑問が解けていった。
 それと同時に別の疑問も生まれる。

「えっと、小等部の時といえば、俺、結構ひどいことをして鏡花に迷惑かけてたと思うんだけど」

 むしろ、鏡花が従者として認められないと思う理由こそ英には思いつかない。どちらかといえばよくやってくれていた鏡花を一方的に無下にするなど酷いことをしていたのは自分の方で、その一方で鏡花は始終素晴らしい家政婦さん、従者であったように思う。

(従者扱いじゃなくて奴隷扱いされると思ってたとか、そんなかな……)

 だとしたら納得だ。
 英が一人で頷いていると、鏡花は首を横に振って、

「それをおっしゃるなら、私だって英君にはご迷惑をおかけしております……今だって」

 更に縮められた膝の間で水が跳ねる音がする。
 気が付けば、鏡花の服はまたもや無残な有様だった。
 どこか食い違っている過去についての認識や、見られてしまった盗撮アングルの写真などについてなど、話したい、というか言い訳をしたいことが山ほどあるが、お互いこのままでは締まらないし、もたもたしていると両親が帰ってきて部屋から出るに出られなくなってしまう。

「後で話す時間作ってもらっていいか?」
「はい、英君が望む通りに」

 控えめな返し方が愛おしくてたまらない。
 ともあれ、全ては一度身支度を整えてからだ。

「このままだと風邪ひいちゃうかもしれないから、とりあえず風呂にでも入ってきなよ。あと洗濯。部屋は、まあ親父もお袋も入ってこないから後回しでいいや」

 そう言うと、鏡花が身を乗り出した。

「いえ、風邪をひくということでしたら人間の英君の方こそ、お体を壊しやすいのです。それに、いろいろとかけてしまいましたので……あの、英君こそ、お先に」
「いや、それをなら俺だって色々と、まあ出したわけだから、そういうとこ、先に洗いたいだろ?」
「そんな! 英君の精液を洗い出すなんてとんでもない!」

(いかん、このままだと平行線だ!)

 どう説得したものかと考えている英の口からくしゃみが出た。
 いよいよ鏡花が立ち上がって英の手を取ろうとする。

「さあ、英君、本当に風邪をひいてしまいます――」

 と、鏡花の体がぐらついた。
 慌てて抱きとめると、鏡花は「あらら」と笑い、

「申し訳ございません。まだ、力が上手く入らなくて」
「ごめん、無理をさせちゃったな」
「い、いえ。これは、その、余韻と申しますか」

 本当に幸せそうに言う鏡花に救われる気分だが、これでは一人で風呂に行かせるのはいささか不安が残る。

「「あの――」」

 二人は同時に提案を口にしようとしていた。
 鏡花が発言を譲り、英は最近出番が多い勇気を出して言った。

「風呂だけど……もういっそのこと、一緒に入らないか?」

   ●

 幼馴染と一緒にお風呂。
 遥か子供の頃ならともかく、高等部でそうなっている自分の今の境遇に、英はなんとも言えない感慨を抱いていた。
 既に全裸のようなものだった英は一足先に浴室に入って体を洗っていた。
 少しばかり名残惜しいものを感じながら体を流し切ると、風呂の湯も満たされる。
 そうなってもまだ鏡花は浴室に入って来なかった。

 扉を開けると、脱いだものを抱えた鏡花は洗濯機を前に悩んでいるようだった。
 できるだけ雫が垂れないように丸められた服の上にちょこんとブラジャーが乗っかっている。
 パンツと柄を合わせたそれを見て、パンツは鏡花自身が裁縫したものだと言っていたことを思い出す。ブラジャーの方も鏡花が作ったのだろうかと思っていると、鏡花が英の方を向いた。

「あ、もう洗い終わってしまったのですね……」

 少し残念そうに言う彼女に、「お背中流しますとか言うつもりだった?」とからかい気味に言うと、彼女は本当に残念そうに頷いた。
 惜しいことをしたか。と思いつつ、英は鏡花が洗濯機を前にして何をそんなに悩んでいるのか訊いてみた。
 朝、珍しく遅くまで家に居た芹が気まぐれに洗濯もしたのか、洗濯機の中は鏡花が洗濯する前だというのに空っぽだった。
 特に遠慮することもないと思うのだが、

「うう……奉公に来ているお家で私の汚れた衣服をお洗濯するなんて……」

 ということらしい。
 鏡花らしいといえば鏡花らしい躊躇の仕方だが、このまま悩んでいたら本当に両親が帰ってきてしまう。

「俺のと鏡花のと合わせて結構な量だろ? その数を手洗いするのは大変だよ。洗濯して乾燥機にぶち込むのが一番だって。しみ抜きはまた今度にしてさ」
「ですけど……」
「家の洗濯機は俺の頼みより大事?」
「いじわるしないでください」

 そう言いながら、鏡花はやっと折れてくれた。
 衣服を放り込みながら、鏡花はまだ口慣れないかのように恐る恐るといった体で言う。

「私は英君の従者、なんですから。お言葉には意味もなく逆らいません」
「意味があれば逆らうんだ?」
「はい、唯々諾々と従うことが従者の在り方ではございません」

 そう言う幼馴染は立派で頼もしい、いつもの幼馴染みだった。
 同時に、今のやり取りで、彼女が家ではなく、英個人を優先すると言ってくれて、これまで自分のことこそが彼女の相島家に対する仕事の中の一業務、おまけ程度のものだと考えていた英は内心で嬉しくなった。

(というか、これって……)

「……? 英君? どうして笑ってるんですか?」
「いや、ごめん。ただ。ちょっと犬っぽいなって思って」

 口もとを押さえて言うと、鏡花はなんともいえない表情になった。

「褒められているのからかわれているのか分からないです」
「ありがたいと思ってるよ」

 そう言うと鏡花は訝しげな表情をしながらも尻尾を振ってくれる。そんな彼女ににやにやしていると、問いが来た。

「ありがとうございます。でも、犬っぽいというのはいったい……?」
「いろいろあるかな。いつも見せてくれる忠実さとか、真面目で凛とした振る舞いとか、それでいて可愛い所とか、家じゃなくて人に居着いてくれてる所とか」

 言葉を重ねるごとに尻尾を振っては表情が朱に染まっていき口もとが笑みを形作る彼女に、これまでこんなに分かりやすい反応をしてくれていただろうかと思う。

(ああ、これまでこんなこと言う機会なんてなかったか……)

 もっと早くこうして心に思っていることを素直に話していたなら、今日のことも何かしら変わっていたのだろうか。
 そんなことを考えながらこれまでの感謝混じりに鏡花の犬っぽいところを挙げていた英は、本当に心に思っていたことを素直に口にしてしまった。

「他の動物でもするけど、マーキングするところもそれっぽいかも。せっかくしてくれたのに洗い流しちゃって、鏡花の匂いが離れちゃうのは惜しいな」

 言ってしまってから、あ、と思うが、時既に遅し。
 鏡花は両手を懇願するように絡めて脱衣場で居づらそうにしていた。

「あの……襲いかかるような真似をしてしまったことは何をしても謝りますので、あんまり、その……この件につきましては……」
「あ、いや。いじめてるつもりはないんだ! 襲われたのだって、俺の方に問題があったわけだし。それに、鏡花のは本当に良い匂いだから! 使ってたのがその証明というか――」

 引かれなかったのは僥倖だが、言えば言う程に恥ずかしくなってくるのは何かの罰ゲームだろうか。
 そんなことを考えていると、鏡花は「お戯れを」と否定を入れた。

「そんなはずはございません。英君はしばらく不調で、ストレスを溜め込んでおられたために気の迷いであんなことをしてしまったのではないでしょうか」
「俺の精液の匂いを良い匂いだの味だのって言ってる鏡花に言われてもな……」
「英君がとても良い香りなのは譲れません!」

 想定外のところで強めに言われ、英は思わず言葉を止めた。

「英君の匂いも味も、全て余すこと無く私のごちそうなんです!」

 熱意の篭った宣言にどう返したらいいのか英が悩んでいると、鏡花も我に返ったのか、視線をさまよわせながら言った。

「私の匂いでしたら後でどれだけでも嗅いでいいですから、湯船に浸かってくださいませ」
「……そうだな」

 大人しく英が湯船に浸かると、鏡花は抱えていた洗濯物を洗濯機に放り込んでスイッチを入れた。

「失礼します……」

 遠慮がちの言葉と共に浴室に入ってきた幼馴染の全裸に、英は思わず見とれた。
 幼い頃を除けば、一糸まとわぬ彼女の姿を見るのはこれが初めてだ。

 凛とした表情も欲情にとろけた表情も似合う顔。
 丁寧に手入れをされているのだろう、流れるような見事なアッシュブロンドの髪と尻尾。
 年齢と共に成長し、濡れて張り付いたメイド服を内側から押し上げていた見事な乳房。
 栄養は胸にやったとばかりにくびれた腰回り。
 細いながらも重労働をこなす腕と、その先で彼女の手首を飾る羽の淑やかさ。そして職人顔負けの器用さを見せる手指。
 尻尾の下からのぞく、引き締まったお尻に程よく肉が乗ったもも。
 そこから繋がる艶めく鱗とブーツのように頼もしい足先。

 全てが余すことなく晒されている。こんな今の状態こそが夢なのではないかと思って頬をつねってみるが、確かに痛い。

「あの……」
「綺麗だ」
「あ、はい……ありがとうございます」

 恥じらう姿がまたいい。
 そう思っていると、鏡花もまた英を見ていることに気付いた。
 そっと湯船の縁に身を寄せると、鏡花が不満げな声を上げる。

「あ、英君ずるいです!」
「いや、とは言ってもなぁ」

 気恥ずかしいものはしょうがない。
 あれほど触られて吸われて繋がったというのに、恥ずかしいのは不思議なものだが、あの交わりがお互いにとっていきなりだったこともあるのだろう。
 それに、英が鏡花に全身を見られたくない理由はもう一つあった。参ったことに、あれだけ射精したのにまた股間の逸物は勃ちつつあったのだ。
 一緒に風呂に入って身支度を整えようと言った手前、これでは締まらない。
 鏡花から視線を外して鎮まれ鎮まれと祈っていると、彼女の声が耳朶を打った。

「私、英君のおちんちんがまた大きくなってくれていることに気付いているんですからね。あれほど触らせてくださったのですから、隠さなくてもいいではないですか。本当なら綺麗にするのも私が受け持つはずでしたのに……」

 ここまで不満を露わにするのもまた珍しい。

「じゃあ、みせてあげようか?」
「本当ですか!?」

 いつになく感情表現豊かな幼馴染に英は笑顔で頷く。これまで知らなかった鏡花の全部を見せてもらいたいと彼は考えていた。

「代わりに、鏡花の体を俺に洗わせてくれたらね」
「そんな! ご主人様に洗ってもらうなんてとんでもありません!
 それに、まだこの体は汚れていますので、触られるのは、その、恥ずかしいです」
「俺だって結構汚れてたんだけど、洗う気満々だったよな? 自分はよくて相手はだめってのは良くないんじゃない?」
「そ、そうですけどぉ……」

 身をくねらせながら困っている鏡花に、これならイケると英は思う。

(さっきはどっちかっていうと一方的に触られてたからな)

 要するに、彼も鏡花の体を楽しみたいのだ。
 勃起がバレている以上、格好つけてもしょうがないと英が開き直った辺り、原因は鏡花自身にあるともいう。

「あれだけマーキングしたんだから今更恥ずかしがることもないだろ? なんならせっかくいくら水まいてもいいところなんだし、もう嬉ションしないようにここで訓練するのも有りじゃないか?」
「え、えっちです……」

 もはや下心を隠すこともない攻め文句に、鏡花は身体を軽く抱きしめてから、ゆっくりと開いてみせた。
 口元に緩みを、声に隠しきれない官能を湛えた彼女は「でも、そうですね」と応じる。

「英君の言う通りです。嬉しくておもらしをしてしまう未熟な雌犬を、どうぞ存分に躾けてください」
17/03/27 08:26更新 / コン
戻る 次へ

■作者メッセージ
ふぃー。魔物娘じゃなかったらフラグ消滅の危機だったぜ……!

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33