連載小説
[TOP][目次]
第七話 『無事に飛び続けることを祈って……』
「あはぁ……もっと……もっとぉ♥」
「あ、あ、あ、あ……」
「で、出る……!」
「あぁ……あんたぁ♥」

 通路を一杯に使って、世にも背徳的な光景が繰り広げられていた。カーリナと同じ黒い翼の鳥人、その仲間と思われる男たち、そして警備の兵士。いずれも下半身を露出させ、それを激しくぶつけ合っている。他の物が何も目に入っていないかのように、一心不乱に交わりを続けているのだ。カーリナもその例に漏れず、少年兵を押し倒して夢中で腰を降り続けている。犯されている少年兵の方も恍惚とした表情で腰を突き上げており、その度に嬌声が響き渡った。

「……姫、何をしたんです?」

 立ちこめる生臭さに顔を背け、隣で自分の手を……私の精液を舐めているレミィナに尋ねる。股からは未だに液が漏れているようで、白いふとももが艶かしく濡れていた。

「わたしね、気持ちよくなってイくのと同時に、自分の魔力を広範囲にバラ撒けるの。もう爆発的に」

 すっきりした様子で胸を張るレミィナ。淫魔たる彼女の力が一気に撒き散らされた結果がこれ、というわけか。この世界の魔物は全てサキュバスの影響を受けているそうだが、人間でさえリリムの魔力を食らえばこうなるとは。彼女が敵でなくて良かったとつくづく思う。爆炎や鮮血を撒き散らして死ぬ覚悟はできているが、精液を撒き散らして負けるなどご免被る。

「……では私から抜く必要はなかったのでは?」
「栄養補給も兼ねて。それにヴェルナーを巻き込まないようにする手段でもあったの」

 彼女曰く、私の男根を弄りながら魔力をコントロールしていたらしい。詳しい理屈や原理は私の、というより地球人の脳みそでは理解できないのだろう。しかし下手をすれば私も性欲が暴走して彼女を襲っていたかもしれないわけだから、それを防いでくれたという一点には感謝すべきだろう。強姦など誇り高き航空兵のすることではない。

「さて、それじゃ地下三階の研究施設とやらを調べましょ」
「ここの後始末はどうするんです?」

 今は一応無害化されたとはいえ、敵兵はまだ生きており、自由に動けるのだ。カーリナたちとこのまま一緒にいさせていいのか。

「大丈夫。ヤり疲れて正気に戻る頃には『敵兵』から『お婿さん』にクラスチェンジしてるから」
「……敵同士だった男女が、この阿鼻叫喚を通じて結ばれるんですか?」

 いくらなんでも、昨日まで魔物を憎んでいた奴が……とは思った物の、あの馬番のレミィナへの態度を考えると、魔物にかかればそんな心の壁はあっけなく崩せるものなのだろう。そもそも人間には男と女しかいないのだから、そのシステムに付け入るという魔王のやり方はかなり合理的と言うべきかもしれない。

「こうやって男を手に入れる魔物は結構多いよ。自分も気持ちよくなれるし、手間もかからないし、獣人タイプの魔物はそれが主流ね」
「お手軽ですな。ドイツではジャガイモでフルコースを作れるようにならないと、嫁の貰い手も無いというのに」
「え、そうなの?」

 どうでもいい会話をしながら、けたたましい嬌声の渦を背に我々は歩き出した。レミィナが下の階へ続くルートを察知し、私がそれに続く形だ。ライフルはいつでも撃てるように用意しているものの、出会う敵兵たちは全く害がない。誰もがズボンを脱ぎ捨て、自慰にふけっているのだ。近くに女性兵士がいた場合はカーリナたちと同様の光景が繰り広げられている。もうとどめを刺すのも馬鹿馬鹿しい。


 かくして我々は悠々と、下へ続く階段を見つけ出し降りていった。地下三階でも警備兵は鼻血や精液を撒き散らし呻くばかりである。勝利の光景としては最悪の絵面だが、私にとっては久しぶりの勝ち戦だ。そう思うことにしよう。
 しかし油断は禁物だ、何せ敵にはまだ……

「……姫」
「うん」

 私が感じた気配を、レミィナも察知したようだ。というより私が気づいて彼女に分からないはずがない。今まで対空砲火をかいくぐり、シュトルヒの三倍以上の速度で飛ぶ敵戦闘機をやり過ごし、何回か撃ち落とされても生還してきた私だが、やはり地上戦は空とは違う。曲がり角の先から聞こえる足音が、徐々に近づいてくる。
 レミィナが右手を空中にかざすと、ふいにそこから黒い霞のような物が発生した。それが彼女の手から肘近くまでを多い、さらに空中へ真っ直ぐ伸びて細長い形状を構成したかと思うと、次の瞬間にはその中から白銀の刃が姿を現す。パタと呼ばれるインドの剣に似た、篭手と刀身一体化した形状の武器である。
 通路の幅はそれなりに広く、剣を振り回して戦うことはできそうだ。深呼吸して、レミィナを援護できるよう後方から銃を構えた。前に立ちたいところだが、私より彼女の方が強いのが事実である。

 足音が間近まで接近し、そいつはゆっくりと姿を現した。

「……!」

 厳つい鎧に身を包み、剣を握った美少女。露出しているのは顔だけだが、肌も髪も土のような褐色である。その中でただ一つ、暗い赤の瞳だけが虚ろに我々を見つめていた。

 ――こいつが、ゴーレム……!

 幼い頃、母から何度か話に聞いた魔物。この世界では巨人ではないようだが、この無機質な気配と殺気は戦闘機に追われているとき以上の緊迫感を感じる。
 だがゴーレムの様子は明らかにおかしかった。剣を握る手は小刻みに震え、口元からは唾液が垂れており、アルコールか薬物中毒にでもなったかのような佇まいである。だが目だけは我々を見つめ、明らかに敵と認識されていることが私にも分かった。

「やば。私の魔力で暴走してるみたい……!」
「どうするんです?」

 母から聞いた話では、ゴーレムの額にはヘブライ語で「emeth(真理)」と書かれており、最初の文字を消して「meth(死せり)」に書き換えればゴーレムを土に戻せるとのことだった。しかし目の前にいる少女の姿をしたゴーレムにはそれらしい物が見当たらない。
 そうこう言っているうちに、ゴーレムは剣を振り上げた。

「ヴェルナー、下がって!」

 剣光が二つ閃き、交差した。レミィナはゴーレムの一撃をパタの篭手で受け流し、すり上げて胴体を薙ぎ払う。
 呪文の刻まれたパタの刀身が鎧を切り裂くも、ゴーレムは構うことなく次の手を繰り出してくる。元々痛覚が無いのか、それとも暴走しているためか。
 ゴーレムの動きはぎくしゃくしており、斬るというよりも剣を叩き付けるような動きだ。レミィナの流麗な剣技と比べ明らかに不格好……それなのに妙に強い。

「はっ! てい!」

 レミィナが連続攻撃を繰り出すが、ゴーレムは防ごうともせずに攻撃を続ける。鎧の数カ所が切り裂かれ、土色の肌が露出しても止まる気配はない。ライフルのアイアンサイトにゴーレムを捕らえてはいるものの、レミィナがこうも近くにいては撃つに撃てなかった。

 ゴーレムが力任せに剣を叩き付けた。レミィナは篭手で受け止めるものの、そのままの体制で後ろに押しやられていく。腕力は申し分無くても体重が軽いのだ。

「わわっ、靴の踵がすり減る!」
「心配するところが違うでしょう!」

 叫びつつ、私はゴーレムに体当たりするように肉薄。剣を握る腕を横から蹴り上げる。
 女性に暴力を振るったのは生まれて初めてであるが、その代償は高くつくことになった。レミィナへの攻撃は止められたものの、ゴーレムの手が私へと伸びてくる。
 伊達に航空兵をやってきたわけではない。反射的にかわしたが、次の瞬間には相手が体ごとぶつかってきた。

「うっ!」

 弾みで引き金を引いてしまうが、ライフルの銃身はあらぬ方向を向いていた。発砲音だけが空しく響く。
 そして私の背が壁に叩き付けられ、ゴーレムの手が首を押さえつけてくる。痛みと苦しさのあまりライフルを手放し、首を締め付ける手を引きはがそうとした。しかし信じられない怪力で太刀打ちできそうにない。
 ゴーレムの背後からレミィナが組み付こうとするが、ゴーレムは私の首を掴んだまま『振り回した』。私の体を武器に使い、ゴーレムはレミィナを振り払う。息苦しくてたまらない中で体を振り回され、しかも再び壁に叩き付けられた。

 痛い。苦しい。これだから地べたは嫌だというのだ。いや、ここは地下か。なら尚更悪い。
 だから……私の死に場所は空だ。

 腰のホルスターからワルサーPPを抜き、安全装置を外す。そして素早く、銃口をゴーレムの額に向けた。いくらなんでも、頭を打ち抜かれれば無事では済むまい。

 私の首を押さえつけたまま、ゴーレムの瞳はもがくように動き、周囲をせわしなく見回している。彼女もまた苦しんでいるのだろうか。助けてと叫んでいるようにさえ見える。

 ――そうだ……私は……!

 自分とレミィナが何をしに来たのかを思い出し、私は拳銃の向きをずらした。鎧に包まれたゴーレムの右腕……しかしそこには、レミィナの攻撃で亀裂が入っていた。
 体が酸素を欲して勝手に藻掻き出す。それでも右腕だけは鎧の亀裂に銃を押し込み……トリガーを引いた。反動で銃口が跳ね上がる。その瞬間、私の首はゴーレムの拘束から解放される。そのまま無様によろめきつつ荒く息をつく私に、ゴーレムは攻撃してこなかった。手入れをしていない機械のように、ガクガクと震えて動かないでいる。

 そしてその背後から、体勢を立て直したレミィナがパタを振り降ろした。

「ごめんね!」

 その叫びとともに繰り出された一撃は、ゴーレムの右腕を上腕部分から一気に切り裂いた。鎧付きの腕が石の床に落ち、ガシャンと音を立てる。
 ゴーレムの動きがぴたりと止まった。だが口元だけが震えながら動く。

「……あ……り……が…………と………う……」

 息とほとんど区別がつかないような声だったが、彼女は確かにそう言った。そして地面にゆっくりと倒れ、鎧が大きな金属音を立てた。

「ヴェルナー、大丈夫!?」

 レミィナが私の背をさすってくれる。息は苦しかったが、その手の温もりが生きていることを実感させてくれた。今回もどうにか生き残れたようだ。

「……申し訳ありません、足を引っ張ったようで」
「そんなことないって」

 右腕を失ったゴーレムは倒れたまま、起き上がる気配はない。開いたままの目を閉ざしてやると、眠っているかのような無垢な表情になった。
 レミィナは落ちている右腕を拾い、鎧の留め具を外す。やがて露になったゴーレムの腕は土の色をしているものの、それ以外は人工物とは思えない質感で、女の肌を完全に再現していた。だが上腕部分に石盤のようなパーツが着いており、そこに何らかの文字が刻まれているようだ。とはいえ表面には私の撃った銃弾が食い込んでおり、傷のせいで一部の文字が見えなくなっている。

「ゴーレムは腕のルーン文字で性格が決まるの。教団にひたすら服従するようにすることも理論的には可能ね」
「彼女は先ほど姫にお礼を言いました。感情があるのですか?」
「ゴーレムの動力源も人間の精。同じ男の人と長い間一緒にいると、ゴーレムも自我に目覚めることがあるの。でもそうなったら、ルーンを書き換えられても自分で元に戻せるはずなんだけど……」

 やはり、魔法かなにかで無理矢理言うことを聞くようにしたのだろう。レミィナの魔力を受けて暴走しだしたのもそのせいかもしれない。

「彼女はもう動かないのですか?」
「洗脳魔法を完全に除去して、ルーン文字を書き直せば大丈夫よ」

 レミィナは倒れているゴーレムの髪をそっと撫でる。その姿を見て、私は『勝利』を実感できた。カーリナの仲間たちも、そしてゴーレムも助け出すことができたのだから、祖国が滅亡寸前だった私に取ってはかなり久しぶりの勝ち戦と言っていいだろう。残念なのはレミィナの足を引っ張ってしまったことか。
 しかし彼女は私を見て、にこりと笑った。

「ヴェルナー、お疲れ様。助けてくれてありがと」
「……いえ、姫なら助けなくとも何とかしたでしょう」

 むしろ私が割って入ったせいで、余計な手間がかかったように思える。だがレミィナは首を横に振った。

「ヴェルナーが助けてくれたのは嬉しかったし、一緒に戦えてよかった。誰かと一緒に戦うのって、そういうものでしょ」

 彼女の言葉に、私は『戦友』という言葉の重みを思い出した。シュトルヒの後部座席に座り、私と共に修羅場をくぐった偵察要員。出撃前に「幸運を」の言葉をかけてくれる整備兵。砂漠のど真ん中にパラシュート脱出し、辛うじて生き延びた私を救助してくれたイタリア兵。自らシュトルヒに乗り込んで偵察に赴いた将軍。死を見届けた者もいれば、行方も知らない者もいる。だが共に戦ったほんの束の間の時間で、我々は絆を持っていた。
 こいつがいてくれるから安心して飛べる。あの将軍のためなら命を張れる。そう思っていたからこそ、あの地獄のアフリカを生き延びられたのかもしれない。
 そんな戦友たちを次々と失い……今、目の前にレミィナがいる。

「だからね、ヴェルナー」

 レミィナがすっと顔を近づけてくる。髪の匂いがふわりと鼻をくすぐり、一瞬だけ恍惚に浸ってしまった。
 そしてその一瞬の間に、彼女の唇が私の頬に触れた。経験するのはこれで二度目。柔らかく、甘くて切ない感触。

「お疲れさま」

 心に染みる、労いの言葉。

「……恐縮であります」

 私はすぐさま、起立して姿勢を正した。拳銃をホルスターに納め、彼女に向けて敬礼をする。そんな私を見て、姫君はくすりと笑った。

「あ、ご褒美にさっき履いてたパンツ、あげようか?」
「何でそういうオチにするんですか」











 ……その後、我々は施設を調査して魔術の実験記録などを押収し、研究に携わっていた幹部や司祭を捕らえた。無様に精液を撒き散らしていた狂信者どもは、カーリナたちがルージュ・シティに連れて行くことになった。確かに教団と睨み合っているというあの町にとって、相手の今後の動きなどの情報はいくらあっても足りないはずだ。ゴーレムの洗脳の他にも非人道的な魔術の研究が行われていたようで、それらの記録は我々がこれから向かうエスクーレ・シティに持って行く。レミィナ曰く港町エスクーレには彼女の『悪友』がおり、そいつらへの手土産にするとのことだったが、その悪友とやらはどう考えても堅気ではないだろう。安易に渡していいのか気になる。

 まあそれはその時に考えるとしよう。ゴーレムのパートナーだった男は研究施設に拘束されており、衰弱していたが無事に助け出すことができた。教団の連中はゴーレムを洗脳した際、その『燃料』である男の方も一緒に拉致していたのだ。ゴーレムもまたルージュ・シティで修復を行うこととなり、彼らが市民権を得られるようレミィナが領主宛に手紙を書いた。私のシュトルヒを魔法で飛べるようにしてしまったくらいだ、あの町ならゴーレムを治すのも容易いだろう。
 ちなみに施設を警備していた雑兵はカーリナの仲間たちや、落ち穂拾いにやってきた近所の魔物が持ち帰った。

「とにかく、無事に済んでよかった」

 シュトルヒの点検をしながら、私は呟いた。飛行機はデリケートなので、こうした点検やメンテナンスは欠かせない。ましてやここに整備兵はいないのだ。地味な作業を続ける私を、専門技術好きのレミィナは興味深げに見つめている。

「ヴェルナー、あの二人のことを結構心配してたよね」

 レミィナの言う二人とは、おそらくゴーレムとその夫のことだろう。カーリナたちに彼らをルージュ・シティへ送り届けるように頼んだのは私だし、領主への手紙も元は私の提案だ。レミィナからしてみれば、終止無愛想で冷静な(と、周りからは評されている)私がそこまで他者の幸せを願ったことが意外だったのかもしれない。

「……以前言ったように私の世界では、魔物の存在は伝承で語られる程度です。ゴーレムも……ある民族の伝承に登場します」

 祖国では滅多に打ち明けなかったことを、私はレミィナに打ち明けようとしている。それはここが私の世界でないからであり、彼女に私の言っている意味が完全には分からないからだ。だからこそ、吐き出せる。

「私の母は、その民族の出身なんです。割礼も母の強い勧めで受けさせられました」
「なるほど。割礼は痛そうだけど、子供思いのお母さんなんだ」

 何も知らない彼女はのどかに微笑んでいる。そう、これでいいのだろう。祖国がその民族を絶滅させようとしていたことや、資産家だった父のコネで私や母がその凶行から逃れたことも、彼女に言う必要はない。彼女に我が祖国の汚さを教えても仕方ないことだ。ただこれは私が背負っていかなければならない、目を背けてはならない過去なのだ。

 そう考えながら主脚を点検していると、後ろから声がかかった。

「お姫様、御者さん」

 聞き覚えのある声に振り向くと、カーリナが溌剌とした笑顔で立っていた。魔物は回復も早く、すでに疲れもとれているようだ。

「本当にお世話になりました。姐さんたちもみんな無事だし……あたいもいい男が見つかったし。全部二人のおかげだよ!」

 心底嬉しそうに彼女は語る。どうやらあの乱交の中で相手となった少年兵を、そのまま連れて行くつもりのようだ。レミィナの言った通りの結果になったか。

「幸せにね。縁があったら、また会いましょ」
「もちろん! またこの辺りに来たら、あたいたちの集落に寄ってください!」

 カーリナは視線を私に移した。人間のくせに妙な乗り物で空を飛ぶ私に対し、彼女は少し距離を置いていたように思える。

「御者さん、あんたにも助けられたね」
「当然のことをしたまでです」
「あんたは不思議な奴だ。人間なのに、鳥みたいなニオイがする」

 そう言われ、ふと自分の腕を嗅いでみた。

「……うーむ、風呂に入った方がいいでしょうか?」
「そういう意味じゃないって」

 私たちのやりとりに、レミィナがくすくすと笑った。レミィナといいカーリナといい、彼女たちの言うことはキャベツ頭の私には理解が追いつかないことがある。慣れるしかないか。
 そんな私に、カーリナはペンダントらしきものを差し出した。草を編んで作られた物で、先端には青く透き通った石と、おそらく彼女たちのものであろう黒い羽がついている。

「あたいたちの群れじゃ、子供が飛べるようになったらお守りを送るんだ。あんたがお姫様を乗せて、無事に飛び続けることを祈って……」

 お守り……飛行機乗りには縁起を担ぐ者が多いが、私はそのような物は持たない主義だった。しかし今は不思議と、受け取りたい気分だ。ペンダントを手に取って眺めると、空と同じ色の石が陽光を受けて煌めく。

「……奇麗だ。ありがとう、大切にします」

 心からの礼だった。カーリナも笑顔を返してくれる。

「じゃ、群れがそろそろ出発するみたいなんで……また!」
「うん、またね」

 地を蹴り、黒羽の鳥人が美しく飛び立つ。飛行機とはまた違う、生物特有の美しさだ。それを見送りながら、レミィナは懐中時計をちらりと見た。

「さて、わたしたちも行こう?」
「了解。目的地エスクーレ、海峡横断飛行。離陸準備にかかります」

 こうして私はレミィナの御者として、少年時代の憧れだった冒険飛行の世界に身を投じていく。旅だって早々トラブルに見舞われたにも関わらず、私の心にはスリルを求める冒険心が湧き立っていた。
12/04/24 05:51更新 / 空き缶号
戻る 次へ

■作者メッセージ
何とか早めに更新できました。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33