連載小説
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後編


「ひっく……おかわり!」
「お客さん、もう止めた方がいいですよ」

 グラスを突き出すと、店員の少年にやんわりと言われた。私はふーっと息を吐き出し、空のグラスをぼんやりと眺める。
 町はもう日が暮れている。この料理店が最も賑わう時間で、現に小さい店の中は大勢の客でごった返している。町で最も評判の良い料理店の一つだが、質素でこじんまりとした見た目で、誰でも気軽に入れる印象も人気の理由だった。様々な仕事や身分の人々が訪れ、思い思いに雑談できる場でもあるのだ。
 だから当然、いつも店の中は活気にあふれているのだが、今回は逆だ。どんよりとした重い空気が、客たちの心に圧し掛かっている。そして、その空気を作っているのが自分だということも明らかだ。

「ってか、なんでノンアルコールのカクテルでそんなに酔えるんですか?」
「うるひゃい! 何で酔ってもええやろ!」

 ただの甘い炭酸水に、ホルスタウロスという妖怪の母乳を足しただけの飲み物。本来精力増強の効果はあっても、酒精は含まれていない。しかしそんな飲み物で無理矢理酔いたくなるほどに、私の気分は尖っていた。真水を出されても酔っぱらえる自信さえある。

 店の雰囲気を悪くしているのは分かっていても、この感情はどうにもならない。あれだけ尽くし、絆が芽生えたと思った矢先に拒絶され、差し出した手も振り払われ……女としては落胆の極みだった。彼を止められなかった自分にも腹が立つ。あのような満身創痍の状態で、憑かれたように仕事にかかろうとする姿は、最早人間にすら見えなかった。すでにインキュバス化しているとかいう問題ではなく、形容しがたい気迫があったのだ。誰かが彼に呪いをかけたのだと言われても、私は驚きはしないだろう。

「あの裁縫狂い……何を考えているんだか」

 私と同じ円卓に座る、エーリッヒさんとリウレナさんもため息を吐く。周囲からも時々、私への憐れみやオーギュさんへの怒りの呟きが聞こえてきた。

 ‐‐ウチ、何がしたいんやろ?

 幼いころから神社で学んだ東方医学を、異国の地で役立ててみたい……そんな思いから、身一つで日の国を飛びだした。このルージュ・シティで暖かく迎えられ、鍼灸と指圧で住人達の病を治し、感謝の言葉をもらい満足していた。そんな時、好みの精に釣られてオーギュさんを襲い、なんとか彼を振り向かせようと押しかけ女房を始め……今、料理屋でやさぐれている。
 行き当たりばったりじゃないか。こんなことなら、祖国で大人しくしていればよかったとさえ思う。オーギュさんの味を知り、求めてしまった以上、もう嫌でも彼のことを考えてしまう。妖怪の、哀しい性だ。

 オーギュさんは……私がいなくなっても、何とも思わないのだろうか?

 そんなことを考えた時、店の扉につけられた鈴が、涼しげな音を立てた。店員の挨拶と軽快な足音が聞こえる。

「あらら、何なのこれ? ここは負のオーラを出すような場所じゃないのよ?」

 今の状況だと頓狂に聞こえる、女の綺麗な声。澄み切ったその声だけで、重い空気の中に風が吹き抜けたようにさえ思えた。その声の主は足取り軽く近づいてきて、私と同じ円卓の、空いた席に座る。目をやるまでもなく、最初にオーギュさんと出会った時工房に来た、あの白い淫魔だと分かった。
 彼女は最近、この町やその周辺をぶらぶらと歩いているらしく、時々この店の軒下で野宿しているところを見かけたこともある。しかし何か、普通の淫魔と違うような、高貴な気を身に纏っているのだ。思わず顔を上げ、姿勢を正してしまうような。

「苦労してるみたいね?」
「……あんたには関係ないやろ」

 そう言ったものの、私は心の内を吐きだしたいという衝動に駆られていた。彼女の優しげな、甘えたくなるような声がそうさせているのだろうか。
 店員に料理と葡萄酒を注文し、彼女は赤い目でじっと私を見ている。普段なら血を連想させるような赤が、不思議と夕焼けの穏やかな色に見えた。

「……もう、訳分からんわ」

 ぽつりと、言葉が漏れた。堰の一か所に穴が空き、せき止められていたものが流れ出て行く。

「寝ても覚めても、仕事のことばかり……なんであんな命がけで服を作らなアカンのや。なんであんなに一生懸命なんや……」

 空いた穴がどんどん広がり、心の中から愚痴が流れ出て行く。全て吐き出せば、楽になりそうな気がした。そして吐きだしているうちに、それでも自分がオーギュさんを愛していることを実感する。
 最初は稲荷好みの精に釣られただけ。しかし工房に行って身の周りの世話をし、時折夜を共にしているうちに、彼の様々な要素に魅かれていった。あの顔の痣も、ハサミを握る掌も、職人としての誇りに満ちた眼差しも、稀にほんの少し見せる笑顔も、私は全て好きだったのだ。それだけに、彼が私よりも仕事を選んでいるのが辛いのである。

「ウチにはもう分からへんわ、あの人の気持ちが……」
「……そうかな」

 何か切なそうな目をしながら、白い淫魔は呟いた。すっと懐に手を入れ、優雅な手つきで何かを取りだした。黒い円盤状の物体から鎖が伸び、服の内側に繋がっている。彼女が縁にある突起を押すと、ぱかりと蓋が開いた。懐中時計というやつだ。
 文字盤を眺めながら、白い淫魔は再び口を開く。

「職人っていうのはね、わたし達魔物に近い人たちだと思う。自分の本能や欲求に忠実、って意味ではね」

 何処かで聞いた言葉だった。
 そうだ。五日前、朝食を共にした際にオーギュさんが言った言葉だ。「魔物は嘘の笑顔をしない。欲望に忠実だ」と。

「この時計を作った人も、そうだった。あの仕立屋ほど狂気染みてはいなかったけど、時計作りにひたすら拘っていた……」

 懐かしそうな眼差しで、大切な人を見つめるかのように、彼女は時計を眺めていた。ふと、今の言葉が過去形ばかりであることに気付く。もしかしたら、彼女の言っている人はすでに死んでいるのかもしれないと思った。少なくとも、過去の人物であることは間違いないのではないか。
 彼女の夕焼け色をした瞳は、悲しみを知っている女の目だ。そしてその悲しみを忘れず、常に向き合っている。強い女だ。
 不意に、彼女は隣に座るエーリッヒさんたちに目を向けた。

「ねえ。ギター弾きに一番大切なものって、何?」

 突然尋ねられ、エーリッヒさんは包帯に覆われた頬を掻いた。ふーむ、と唸り、僅かに露出している焼け爛れた唇から、ゆっくりと言葉を紡ぎ出す。

「改めて聞かれると、答えられないな」
「何故?」
「俺は火事でこんな顔になり、親類や友人からも気味悪がられ、リウレナに会うまでギターだけを心の拠り所にしてきた。いや、その前からギターに夢中で、ただひたすら練習してきた。何が大事かなんて考えたこともないし、そんな余裕もなかった」

 エーリッヒさんは傍らに置いたギターケースをそっと撫で、包帯の隙間から覗く目を細めた。リウレナさんも、遠い目で彼の顔を見つめていた。それぞれ顔の火傷と喉の傷を負い、逆境に抗って出会った二人の言葉には説得力がある。オーギュさんほどでないにしろ、彼らもまた一つの道に命をかけているのだ。

「そう……まるで粘土遊びをする子供みたいに、何も考えず熱中していくのが職人というものなのよ」
「……例え、寿命を縮めても?」
「譲れないものがあるなら、それも本望なのかもね」

 ‐‐やっぱり、分からんわ……。

 自分の決めた道のため、平然と身を削るのか。彼は、いや、人間たちは何故そんなことができるのだろう。私も医者としての技術に誇りを持っているし、患者の命を預かる責任は相当なものだ。だがオーギュさんの狂人のような熱中ぶりは真似できないし、したいとも思わない。
 やはり、私には彼が理解できないのだ。

「でもさ。貴女には譲れないものって、無かったっけ?」
「!」

 白い淫魔の言葉に、心臓がどきりと脈打った気がした。

「毎日彼の工房に行っていろいろ尽くしていたけど、あれは上辺だけの安っぽい思いだったの?」

 そう言われた瞬間、私は弾かれたように立ちあがった。

 譲れないもの。そう、オーギュさんだけは、オーギュさんへの思いだけは絶対に譲れない。だから今まで精一杯尽くしてきたし、手を振り払われ涙も流した。だが、元々身勝手を承知で押しかけ女房をやっていたのに、今更悩む必要などあるのか?
 手を振り払われたなら、また差し伸べればいいのだ。彼がハサミと針糸を握らねば生きられないと言うのなら、それを含めて愛すればいいのだ。我々日の国の妖怪が、昔からそうしてきたように。
 そして愛する人が身を滅ぼしかねないことをしているのなら、それを止めるのも女の役目ではないのか。

 ‐‐ウチも阿呆やな……

 不思議と、口元に笑みが浮かんだ。

「……キツイの、ありがと。やらなアカンこと、分かったわ」
「そう。頑張ってね」

 夕焼け色の目を細め、白い淫魔は穏やかに笑う。

 店員に代金を渡して、私は店から飛び出していく。背後から他の客達の、「頑張れよ!」「一発殴っちまえ!」などの励ましの声が聞こえてきた。
 それに後押しされるかのように、私はオーギュさんの工房へと駆けて行った。














 … … … …



 すでに日の暮れた往来。『リベルテ紳士服工房』の看板を見つめ、私は薬箱を握る手に力を込めた。オーギュさんの精のニオイが、彼が中にいることを教えてくれる。後は仕上げだけだと言っていたので、もしかしたらもう仕事は終わっているかもしれない。だがもし彼が治療を拒んで仕事を続けるようなら、金縛りの術を使ってでも止める。オーギュさんが、自分はそういう男だと言うのなら、私がどういう女なのかを率直に伝えてやる。

 ‐‐稲荷の気概、見せたる!

 深呼吸をひとつして、私は呼び鈴を鳴らした。澄んだ音が響き、その後沈黙が戻ってくる。

「オーギュはん、紺や。入るで」

 扉に向かってそれだけ告げ、私は取っ手に手をかけて、ゆっくりと開いた。


 五日ぶりに、工房の作業場が目に入った。作業台に布切れが散らかり、オーギュさんはその椅子にもたれ、疲れ切った目で私の方をじっと見ていた。いつもの鋭い目つきとは違うが、どこか満足げに見える。

 だが次の瞬間、私は彼の背後のマネキンにかけられている、純白の衣類に目を奪われた。

「こ、これって……!?」

 それは明らかに、日の国の着物だった。打掛、下掛、帯にいたるまで純白の布で作られ、よく見ると作業台に足袋も置いてある。そして、同じく白い布で作られた二種類の被り物が、帽子掛けに掛けられていた。大きな楕円形をしたものは綿帽子、頭の周囲を覆う形のものが角隠し。上質な布を使い、オーギュさんが心血を込めて作ったでのあろう。それらは眩いほどに美しく、背筋がピンと伸びるような気が宿っていた。着物はおろか、足袋の縫い目の一つ一つにさえ強い気が感じられる。
 今まで何度か、姉や友人がこれを着たところを見たが、ここまで美しいものは初めてだ。

 白無垢。私の祖国の婚礼衣装。

「……お前と一週間過ごして……お前がこれを着ている夢ばかり、見るようになった」

 少し姿勢を正し、オーギュさんはゆっくりと告げた。混乱していた私がその言葉の意味を理解できるまで、数秒かかった。

「……ウチのために、これを……?」
「ジパングの女物の服など、専門外にもほどがあるが……俺は服作りしか能が無い。他に、誠意を伝える方法は……」
「たったの五日で……?」
「お前に着せるためと思うと……楽しくて楽しくて……手が止まらなかった」

 何故、こんなふらふらの状態になって、楽しかったなどという言葉が出てくるのだ。私を工房から遠ざけたのは、私に着せる服だったからなのか。そんなにも、私のためにこの白無垢を作りたかったのか。
 様々な思いが去来し、呆然としている私を、オーギュさんの灰色の瞳がしっかりと見つめてきた。

「だが……結局夢中になりすぎて、お前を傷つけてしまった。俺は自分勝手な男だ……すまない、うんざりしたなら今のうちに……」

 オーギュさんが言い終わる前に、私は彼に抱きついていた。座ってる彼の頭に手をまわし、胸に押し付けるように抱きしめる。そして、感情を爆発させた。

「この阿呆! ド阿呆! アホンダラ! ええかっこしい!」

 思いつく言葉を片端から浴びせ、目からは涙がこぼれ始める。オーギュさんの息が胸の谷間に当たってくすぐったい。五日間離れていた寂しさとその刺激で、性欲がむらむらと湧き起こってきた。彼の顔を見てみると、何か安心したような、憑きものの落ちたような目で私を見つめている。目を合わせると不思議な気分になれる灰色の瞳は、こんなときでも光を失っていない。彼の芯の強さを表しているかのようだ。
 そんな彼の背に尻尾を伸ばし、自慢の毛並みでふさふさと撫でてやる。続いて、頭と肩の辺りにもゆっくりと。癒しの術をかけられたかのように、オーギュさんの顔が恍惚としていく。

「もう……オーギュはんみたいな人、放っておいたら勝手に死んでまうやろ! ウチが一生面倒みなアカンやないか! もう逃がさへんで!」

 オーギュさんの髪を撫でると、彼も私の尻尾を触って、ゆっくりと撫でてくれた。胸に顔を埋めたまま、子供のように尻尾に夢中になる姿を見て、私はいよいよ抑えが利かなくなってくる。だが、もう何の気兼ねもいらないはずだ。お互いの思いが通じたのだから。

「オーギュはんは、肝で気が停滞しやすいんや」

 抱擁を解き、私は着物の帯を解いた。するとオーギュさんも、ゆっくりとシャツのボタンを外しはじめる。私の意図を汲んでくれたのだろう。もしかしたら私と同じく、五日間溜めこんでいたものが疼きだしたのかも知れない。

「だから怒りっぽくなって、血圧も上がるし、目も充血するし……。また太衝の経穴に鍼を打って、気の巡りを良くしたげるわ。せやけど、それはまた明日……」

 するりと着物を脱ぎ捨て、一糸纏わぬ姿になったとき、私の股はすでに濡れていた。オーギュさんの姿を見る度、子宮の奥がきゅーんと切なく疼く。そして彼の肉棒も反り返るほどに怒張しており、私を待ち望んでいるのが分かった。それが嬉しくて嬉しくて、今度は正面から抱きつく。

「う……」
「ん……♪」

 向かい合って膝の上に座ると、アソコが肉棒の先端にこつんと触れた。それだけで声が漏れるほど、私もオーギュさんも発情しきっているのだ。今の私たちは押しかけ女房と頑固な職人ではなく、淫らな雌狐とケダモノ。それがたまらなく幸せだ。

「今日はウチの体で……オーギュはんを癒したげるわ」
「……頼む」

 互いの体を強く抱き締め、耳元で囁き合う。
 ハサミの魔力によりインキュバス化しているオーギュさんは、妖怪と交わっても疲れないどころか、相手の魔力を自分の活力にできる。最悪食べ物が一切なくても、妖怪と性交だけしていれば生きていけるくらいなのだ。だから彼は疲れ切って尚、性欲は衰えない。そして彼の疲れを癒すには、これが一番だ。

「待ちきれんから……もう挿れるで」
「そうしてくれ……俺も待ちきれない」

 前戯は省略で合意した。乳房を彼の体に押しつけながら、ゆっくり、ゆっくりと腰を沈めて行く。肉棒の先端が肉の割れ目を少しずつ押し開くその感触に、全身の細胞が震える。オーギュさんの肉棒は火傷しそうなほど熱く、彼の情欲が伝わってくるかのようだ。

「んっ……おっきい……熱ぅい……♪」
「く……紺……」

 私の名を呼びながら、オーギュさんは私の尻尾をぎゅっと握る。その刺激で膣を締めてしまい、さらに快感が走る。

 ‐‐もう、イキそうになってまう……

 少しずつ膣壁を擦られる快感が、私の脳を甘く溶かしていった。どちらからともなく、唇を重ねて唾液を流し込む。五日間待ち望んでいた彼の味に、簡単に高められてしまう。
 肉棒を根元まで股に咥え込むと、その先端が膣奥をつつき、じわ〜っと快感が広がっていく。

「う……紺っ」
「オーギュはん……ひゃうん……」

 オーギュさんもまた、私と同じ状態らしい。私の妖力を彼に流し込んでいるのだから、当然のことだ。肉棒から精の混じった先走りの液が、私の中にちょろちょろと染み出していくのが分かる。早く、早くもっと濃いのが欲しい。
 私は腰を上下させた。

「あんっ♪ ひぁっ……イイ……しゅごく……しあわせぇ……♪」
「………俺も、だ……」

 尻尾を撫でまわしながら、彼は小さな声で言った。確かに聞こえた。
 もっと気持ちよくなりたくて、オーギュさんにもっと気持ちよくなって欲しくて、左右に、前後に腰を揺する。しかし、臨界点はあっという間に訪れることになった。

「ひゃああぅ!?」

 オーギュさんが、下からずんと突きあげてきたのだ。快楽という槍が子宮を突きぬけ、脳天まで抜けそうな感覚。
 お返しに私は膣に力を込め、左右に捻るように腰を振る。今度は彼が喘いだ。
 しかしそれは、私に返ってくる快感も大きかった。

「あ、あ……オーギュはん、アカン……漏れてまう……♪」

 快楽が呼び出した尿意に、私の腰は動きを止める。オーギュさんはそんな私をしっかり抱きしめ、頭を撫でてくれた。逃がさない、と言うかのように。

「構わない……止めないでくれ……!」
「え、ええんやな? ほな、あンっ、遠慮なく、あぅ、漏らすで……? あ、あああ……」

 私もオーギュさんも腰を動かしていないのに、自然と迫りくる絶頂の感覚は止められなかった。
 両手両足で、思い切りオーギュさんにしがみつく。彼の精を、一滴も逃さないように。私の妖力を、精一杯彼に差し出すために。

 そしてついに、波が押し寄せた。

「ーーっ♪」

 声も出ない、緩やかで長い絶頂。身を震わせて、涎を垂らしながら堪能する。
 しかも私の中に、オーギュさんの精液が流し込まれていった。彼もまた、声も出ない快感を味わったのだ。いつもよりゆっくりと、しかし大量に吐きだされる精を、子宮で味わう。
 美味しい。気持ちいい。

 そして私は、ゆっくりと放尿しはじめた。ちょろちょろという水音が、自分でも妙におかしく聞こえる。私とオーギュさんは繋がったままだが、彼は私を抱きしめてそれを受け止めてくれた。
 その手の温かみ……そして、脈打ちが終わった肉棒の、まだ衰えぬ熱さと硬さに、また子宮が疼きだす。もっと頂戴、もっと飲ませて……子供のごとく無邪気に、貪欲に訴えてくる。それはどうやら、彼の肉棒も同じのようだった。

「……もう一回」
「ん、もう一回……♪」

 口づけを交わし、今度は同時に腰を振り始める。彼の突き上げる動きに合わせて、私も腰を降ろす。それがとても楽しい。心の境界線が、溶けて消えてしまったのではないかと思った。

 ‐‐ああ、ウチはこの時のために……♪

 オーギュさんの作ってくれた白無垢を着て、式を上げる。
 私は毎朝、オーギュさんのためにご飯を炊いて、お味噌汁を作る。
 オーギュさんは服を作り、私は鍼灸で町の人たちを癒す。
 そして夜にはこうやって交わり、やがて彼の精が、私の中で実を結んで……。

 ああ、何て楽しいのだろう。
 私は間違いなく、彼に出会うために、彼を支えるためにこの町へやってきたのだ。

 あっという間に訪れた二度目の絶頂を味わいながら、私はそれを確信していた……




〜fin〜

11/10/04 01:08更新 / 空き缶号
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■作者メッセージ

稲荷さんの味噌汁、毎朝飲みてぇ……
あ、まだ余話がございますので、宜しければご覧あれ。

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