後編
「何でもない、何でもないデスヨ!」
慌てて袖で涙を拭い、メリーはにこやかに笑う。小さな体でページを持ち上げ、教科書をぱたりと閉じた。そのまま教科書を引きずって退かし、菓子盆を置くスペースを作ってくれた。
俺が菓子盆を置くと、その上の濡れ煎を珍しげに眺める。初めて見るのだろう。家に帰ってくるまで辺りをキョロキョロと見ていたし、見る物全てが珍しいはずだ。ずっと地面の中にいて、ようやく魔物として目覚めたのだから。
「ニホンのお菓子デスネ。初めて食べマス!」
笑顔は女の武器だ。泣くより笑っていてくれた方が、そりゃ男としては気分がいい。メリーはそれをよく分かっている。
だが、無理矢理笑ってるなら別だ。女心なんてろくに分からない俺でもそのくらい察しがつく。こんなときどう言葉をかけてやるか何てことは知らない。
できることと言えば……抱っこしてやることくらいだろう。
「あっ……」
そっと抱き上げると、メリーの青い目が俺を見た。小さな体を胸元に抱え、金色の髪を撫でてやる。髪の感触は本物の髪とは違うが、普通の人形と違って肌の温もりはちゃんとあった。メリーは腕の中でもぞもぞと動くが、やがてぴたりと動きを止める。そして小刻みに、その体は震え始めた。
「泣きたいときにはよ、泣いていいだろう」
「ダメ……デスヨ……!」
俺の胸に顔を埋め、メリーは首を横に振った。服にほんの少しだけ染みができている。必死で我慢しているようでも、小さな目から少しずつそれは流れていた。
「ワタシは……みんなを、笑顔にするために……ニホンに……だから、ワタシが泣いたら……」
「おめぇは人形だがよ、笑うことができるんだろう。だったら泣くこともできて当たりめぇだ」
人形だって泣きたきゃ泣けばいい。せっかくリビングドールになったんだ、笑ったり喋ったりできるなら、涙の一つも流さなきゃ損だろう。思いっきり泣くこともできずに笑っていなければならないなんて辛すぎる。文句を言う奴がいれば、そいつをメリーの代わりに地蔵の所へ埋めてやる。
小さく、嗚咽するのが聞こえた。細かな球体間接のついた小さな手が、俺の服をしっかりと握ってしがみついてくる。髪から背中にかけて撫でてやりながら、こいつはもう俺のものだと改めて自覚した。『ミツコ』なる人物が何者であろうと、うちの蔵にメモが残っていたのだから我が家と関係あるのは確かだ。運命なんてものはあまり信じない主義だが、俺がこいつを幸せにしてやるための巡り合わせだろう。
そのためにも、泣きたいときは泣かせてやらねば。
「……男の子たちがお小遣いを出して……3dollarで私を買って……女の子は服を作ってくれて……!」
メリーはゆっくりと、吐き出し始めた。
「船に乗ってニホンへ……沢山の仲間と一緒に……平和のために……!」
「うんうん」
「ニホンの子供たちと、お友達に……なって……but……but……!」
彼女の言葉を聞きながら、俺は歴史の教科書を開いた。昭和時代の章、『あの戦争』について書かれた項目に、小さくトピックが書かれていた。国と国の友好のため送られてきた、沢山の目の人形たちのこと。そして子供たちの思いを踏みにじり、戦争を始めて人形を焼いた大人たちのこと。
小学校でも習った歴史だ。平和の使者としてやってきた、人形たちの物語である。
「ヨシコ先生は、私を焼こうとして……でも、やっぱりダメだって、途中で火を消して……」
ヨシコ先生。あのメモに書いてあった名前だ。
「ミツコちゃんと、トヨちゃんと、ケンジくんと、タダシくんと、みんなで……箱に入れて……平和になったら、また会おう、って……」
平和な時代に。それまでメリーを守るため、三つ子地蔵の後ろへ埋めて隠してあったのだろう。当時小学校だった我が母校に。
今日までずっと埋められたままだということは、そのときの子供たちはその後どうなったか……愉快な結果は思い浮かばない。小学校だった頃の校舎は一度空襲で焼けて、そのときの慰霊碑が校庭にあった。少なくとも今はもう、メリーの友達だった連中はいなくなってしまったのだ。
「これからはよ、メリー。俺が一緒にいてやらぁ」
「コーキ……」
俺を見上げる青い瞳は潤んでいた。だが小さな頬を撫でてやると、くすぐったそうに笑う。ふにっとした柔らかな感触のほっぺただ。
「今からできることだってよ、あるんじゃねぇかい。今のおめぇは喋ることも笑うことも、泣くこともできるんだからよ」
「今から……できること……?」
「やりてぇことをやりゃぁいい。平和の使者としてでも、女の子としてでも、好きなことができるはずさ」
具体的に何をするべきか、それは俺にも分からない。だがメリーには希望を持たせてやりたかった。
すると、メリーは俺の顔の方へ、ずいっと身を乗り出してきた。青い目がじーっと俺を見つめ、にこりと笑う。
「アリガト、コーキ」
柔らかな唇が、顎に触れた。
………その後、飯時にメリーを親父たちに紹介した。笑顔の可愛いメリーは家族みんなからすぐ気に入られた。湯飲みを抱えてお茶を飲む姿が、お袋からは特に可愛がられていた。メリーもメリーで、緑茶や煎餅といった日本の食文化に難なく馴染んだ。まあ今日初めて食べ物を食べたのだから好き嫌いなど分からないだろう。こうして彼女は無事に我が家の一員として迎えられた。
だが一波乱あったのはその後だ。部屋へ戻り、さっさと宿題を済ませようとしたとき、メリーが遊んでほしいと言い出したのだ。肩に抱きつき頬を寄せながら人懐っこくせがまれては断れない。俺の意思が弱いのではなく、メリーが可愛すぎるのだ。どうせ大した量の宿題ではないしと、先に遊んでやることにした結果。
「フフッ……コーキぃ♥」
いつの間にかメリーを布団に押し倒していた。
この人形の体は俺より少し小さいくらい、つまり普通の女の子と同じ大きさになっていた。手芸部の脅威の技術力か、制服のサイズまで体に合わせて大きくなっている。言わば等身大の女子高生人形を布団に組敷き、抱き合っているわけだ。メリーが絵里奈先輩から聞いた話では、彼女は年を経た人形であり、様々な人の思いが宿っているせいか魔力が強いそうだ。そして手芸部のピクシーから体の大きさを変える魔術を教わり、絵里奈先輩からは催眠の魔術を教わったという。
あの変人から授かった余計な力を、メリーは使いこなしていた。大きくなった彼女が俺の目をじっと見たかと思うと、俺はいつの間にかメリーを押し倒していたのだ。俺の下で微笑みながら俺を見つめる彼女は、先ほどまでの無邪気さだけではなく、妖しい雰囲気も宿している。いかにも魔物である、というような。
青い瞳がボウッと光り、メリーは人差し指をこちらへ向けてゆっくりと回す。
「コーキは人形で遊びたくなーる、遊びたくなーる……」
子供がトンボを取るときのように指を回され、次第にメリーの姿がますます可愛く、魅力的に見えてきた。青い瞳も金色の髪も、白い肌も。服が学校の制服であることも、俺の興奮を強くした。俺は決して絵里奈先輩が言ったような制服フェチではない。だが普段見慣れた制服を着ているメリーとこうして抱き合っていると、彼女の存在がより身近で、自分と縁があるように感じられるのだ。
気づけば、俺はメリーの唇を奪っていた。舌まで使った、恋人同士のキスだ。
「んんぅ……♥」
くぐもった声を出しながらも、メリーはこちらに合わせて舌を絡めてくれた。とても楽しそうに、俺の体にしっかりと抱きつきながら。サイズの大きくなったリビングドールの体は抱いているととても柔らかく、温かだった。キスをしながら制服のボタンを一つ一つ外していく。馴染み深い制服を脱がせていくというのもまた興奮してしまう。
ブレザー、ワイシャツと手探りで脱がせていき、その間互いの口を味わう。時々キスを中断して少しだけ見つめ合い、またキスする。心臓の鼓動がどんどん大きくなっていく。メリーの体から鼓動が感じられないあたり、やはり人形なのだと思う。首にも間接が見えていた。しかし服を脱がせて辿りついたお腹は何とも滑らかな手触りで、柔らかな肌だった。
唇を合わせたまま腹部を撫で擦っていると、指先が小さな窪みにはまり、リビングドールにもへそがあることを知った。ただの人形だったころからあったのだろうか。思えばハーピーやマーメイドのような、卵から生まれる魔物にも何故かへそがある。魔物学の授業では理由は分かっていないと教わった。魔物になって備わったのかもしれない。
「ん、チュゥ……ah……ぷはっ……♥」
「……メリー、へそを見せてくれ」
キスを止めると、メリーは俺に抱きついていた腕を解いた。体を少し起こし、彼女の腹部に視線を移す。これが無機物だったとは信じられない、きめ細かな肌がそこにあった。粉雪のような白さと柔らかさで、小さな胸は制服と一緒に作られたのであろう桃色のスポーツブラで覆われている。
そしてへそもまた可愛らしかった。指先をそこへ入れてみると、メリーは体をよじらせた。
「アンッ♥ くすぐったいデスヨ♥」
お返しとばかりに、メリーも俺の下腹部へ手を這わせてくる。すっかり勃起してしまったそれに、ズボンの上から球体間接の手が触れる。人形相手に発情してしまっても、相手がリビングドールならそれは当然のことなのだろう。奇麗な手でさわさわと撫でられると、じんわりと気持ち良さが広がった。
メリーの白い頬も赤く染まっていた。今触っているものが欲しくて仕方ないのか。
「……コーキと会えて、ワタシ、とってもhappyデスネ」
ゆっくりと、制服のスカートをまくり上げるメリー。腹部と同じ色の奇麗な脚と、膝の球体間接。そして桃色のショーツが露わになった。恥ずかしそうにしつつも微笑むメリーの表情が、とても愛おしい。
「コーキもワタシで遊んで、いっぱいhappyになってクダサイ!」
するり、とショーツが降ろされる。人間と同じ、いや、人間の女のを見たことがないから分からないが、股間にあるその割れ目からとろりと液体が滴り落ちた。その不思議な香りと、目を潤ませて見つめてくるメリー。俺はもう押さえきれなくなった。
ズボンを降ろし、そそり立ったペニスを出す。メリーはそれを見て目を見開き、続いて嬉しそうに微笑んだ。手芸部員たちがしているのを見てから、やりたがっていたのかもしれない。
「……挿れるぜ」
「ハイ……♥」
手で角度を合わせ、メリーの華奢な肩に手を添えながら、そこへペニスをあてがう。
プニッとした、ぬめりを帯びたそこが先端に当たった。俺とメリーの体が同時に震える。それがおかしかったのか、メリーはくすりと笑った。
「アっ……♥」
「うお……締まる……!」
ゆっくり、腰を進めていく。人間とこういうことをするために、魔力によって作り替えられた人形の体だ。すんなりと俺を受け入れてくれた。強くペニスを締め付けながらも、奥へ、奥へと引き込むように蠢いている。ねっとりと絡む汁を襞が竿に塗り付け、マッサージするかのように刺激してくるのだ。
そして挿入されているメリーの表情。目尻に涙をため、脚で俺の腰に抱きつき、うっとりと笑みを浮かべていた。
「め、メリー。どうだ?」
「アァ、ゥン♥ キモチ、イイ……♥ コーキのチンチンで、もっと遊んで欲しいデスヨ……♥」
こんなことを言われてしまえば、反射的にぐいっと腰を進めてしまうのも当然だ。メリーが欲しい。メリーも俺が欲しい。その欲求が男の本能を突き動かした。
ぬるりと、奥まで一気にペニスを突入れる。その瞬間メリーの中が激しく蠢いた。
「ハァァァッ♥」
「うっ、すげ……!」
メリーが色っぽく、それでいて子供のように無邪気な笑顔でよがる。その度に人形の膣はグネグネとペニスを愛撫し、気持ちよくしてくれる。
じっとしていることに耐えきれず、俺は腰を前後に動かした。引き抜く度、突入れる度にメリーは嬌声を上げ、膣は絡み付いてくる。強い締め付けなのに動きはスムーズだった。ペニスをある程度抜くと中へ引き込むような力が加わり、一番奥に達するとその負荷がなくなる。まるで自分の意志ではなく、メリーに動きを制御されているかのようだった。
「コーキィ♥ アン、アアンッ……♥」
そしてメリーも、膣の壁と竿が擦れ合うのがたまらなく気持ちいいようだ。青い瞳を熱っぽく潤ませ、蕩け切った表情は魔物そのものだった。口から漏れる喘ぎ声がたまらない。
時に大幅に、時に小刻みに腰を突き動かし、それに応じてメリーが手足をバタつかせるのを楽しむ。さらさらの金髪を撫でてやると、今度は彼女からキスをしてきた。唇も柔らかい。また甘いキスが始まった。
「ンぅぅ……♥ ちゅ、ンっ……♥」
舌の動きに合わせ、ペニスを突入れる。繋がっている部分からメリーの愛液が溢れているのが分かった。動かす度に水音が大きくなっている。子供の頃夢中で粘土をこねて遊んだときのように、メリーに夢中になっていた。この奇麗な体にも、優しい心にも。
こみ上げてきたものがそろそろ出そうだ。するとメリーは腰に抱きつく脚にぐっと力を込めてきた。華奢な脚なのに、人間より遥かに強い力だった。人間サイズになったリビングドールなら他の魔物と同様、このくらいの力を出せるのか。
一番奥までペニスを突入れた状態で、腰が固定されてしまった。そのとき、メリーもまた達しそうなのだと何となく分かった。
そしてそのまま、俺は射精した。メリーの一番奥、人形の胎内に、勢いよく。
互いの唇を味わいながらの絶頂。言葉はない。ただぎゅっと抱きしめ、快感に震えるだけだった。自分の体から出るものが、メリーの中に吸い込まれていくのが分かる。魔力を宿した人形はこうやって力を得るのだろう。だが他の魔物と同じく、ただの栄養補給ではない。密着してくる彼女の手足から感じるものは、愛情と喜びだった。
「……っはぁ♥ コーキ……♥」
唇が離れたとき、メリーは泣いていた。今度は喜びの涙だった。にっこりと笑いながら、快楽の余韻を顔に滲ませ、涙を流している。奇麗な顔だった。
それを見た瞬間、不思議と俺の目からも涙が出てきた。
「んぅ、コーキ? 男の子が泣いちゃダメデスネ。ヨワムシケムシは挟んでポイされちゃうデスヨ?」
「はは、そうだな……」
メリーは指先で優しく、涙を拭ってくれた。
「何か、メリーが幸せそうに泣いてるからさ……俺も嬉しくてよ」
「……コーキ」
俺の頬を撫で擦るメリーの掌は、球体間接があるため独特の感触だった。続いて、額にキスをされた。こういうキスは男の方がするものだろうが、これはこれで良いものだ。
などと思っていると、異変が起きた。キスをされた直後、またメリーの体が大きくなり始めたのである。俺の下に寝ているメリーの背がゆっくりと伸びていき、それに比例して肩幅、そして服も大きくなっていった。メリーを組敷く姿勢だった俺が、メリーに抱きしめられるような形になっていく。
だが奇妙なことに、どれだけ大きくなってもメリーの体が布団からはみ出すことはなかった。布団も一緒に大きくなっている。いや、それどころか部屋全体が大きくなっていた。
それも間違いだと気づいたのは、メリーの膝の上にちょこんと乗せられ、頭を撫でられたときだった。
「フフッ。人形のコーキ、カワイイ♥」
俺の体が小さくなってしまったのだ。普段のメリーと同じ、人形サイズに。
両手で俺の胴を挟み込んで、高い高いをするように持ち上げるメリー。青い瞳も大きく見えた。ぬいぐるみで遊ぶ女の子のように、俺を見て微笑んでいる。先ほど繋がっていた股間の穴から、僅かに白濁が垂れているのが見えた。そのサイズが自分の何倍にも巨大に見えて、迫力と同時に奇妙な楽しさがある。
「コーキに可愛がってもらえたから、今度はワタシが可愛がってあげマスネ♥」
「お、おい……」
うろたえたのも束の間、メリーは俺を胸元に抱き寄せた。そして先ほど大量に出して下を向いていたペニスを、それより遥かに大きな指でつつき始めたのである。リビングドールの指もまた、女の子のそれだった。ペニスに対していくら巨大でも、柔らかくてすべすべで、悪戯っぽい動きをしてくる。
自分でも呆れる回復力で、ペニスは再び極限まで怒張してしまった。
「アハッ♥ やんちゃなチンチン、カワイイデスネ♥」
「め、メリー……っ」
勃起したペニスを、尚も弄くり続ける無邪気なリビングドール。人形に人形扱いされて可愛がられ、射精した後のペニスは敏感に反応してしまった。スポーツブラをつけた胸に頭を乗せ、その温かみに酔いしれながら脱力してしまう。
「今だけ、子供に戻って遊びマショ? ネ♥」
人差し指で股間を刺激しながら、メリーは優しく頭を撫でてくれた。ああ、大事にされている人形というのはこういう気分なのか。良いものだ。
遊んでもらいながら、指先の動きだけでどんどん気持ちよくなっていく。
「メリー、また出る……」
「ハーイ。Happyになってくださいネ♥」
そう言って抱きしめ、甘やかしてくれるメリーの指先で、俺は二度目の射精をした。俺の顔を覗き込んでくるメリーと目を合わせたまま、気持ち良さを味わう。飛び出した白濁はメリーの指の付け根まで飛び、ねっとりと糸を引いた。
体を汚されたのに、メリーは嬉しそうに笑った。指についた精液を興味深げに見つめ、口へ運ぶ。垂らした練乳を指で取って舐めるように。
「ンンーッ、オイシイっ♥」
うっとりと頬を緩め、俺を抱きしめて横になるメリー。全身が彼女の温もりに包まれた。俺はもはや枕元に置かれる、少女に抱きしめられるためのぬいぐるみになっていた。
もうしばらく。明日の朝まで、このままメリーの胸に抱かれていたい。
俺は明朝、滑り込みで宿題を仕上げる覚悟を決めた。
………
……
…
「それで、結局ミツコさんってのは何者だったんだ?」
「校庭の空襲死者慰霊碑に久坂部光子って名前があったんです。やっぱり俺の先祖というか、親戚だったようでして」
翌日の放課後、学校の倉庫で顔なじみの先輩と話をした。俺は普通科だが、工業科の連中とはウマが合うのでよくこの倉庫に来る。相手はこの学校の三大偉人の一人、工業科三年生の浦和新平先輩だ。この人はいつも機械油の臭いにまみれているが、最近では良い香りも纏うようになった。常にゴーストの女の子と、サキュバスの女子がくっついているからだ。この人は小学生時代、洞穴に隠されていた小型戦車を発見し、それを修復して走らせるという夢に高校生活全てを費やしたという凄い漢なのである。もちろん一人でやったことではないが、浦和先輩が学校の名を大いに上げたことは間違いない。
ちなみに三大奇人というのもいて、絵里奈先輩がその一人であることは言うまでもない。
「時間を超えていろいろな物が集まるなぁ、この学校」
俺たちの視線の先には浦和先輩たちが修理した戦車『テケ』と、その上に載って遊ぶメリー、砲塔のハッチから顔を出すゴーストの子がいた。
「それでね、そのピザ屋さんのリビングドールは盗塁王って呼ばれていて……」
「ワオ! 会ってみたいデスネ!」
元の大きさに戻ったメリーと談笑するそのゴーストは、十年前に死んだこの学校の女子だ。詳しくは聞いていないが、浦和先輩とは特別な関わりがあるらしい。メリーや戦車ほどではないが、過去から来た存在だ。彼女もメリーも学校の魔物たちとすぐ仲良くなり、女子同士で気軽に言葉を交わしている。昼休みのときは俺の机の周囲に人だかりができていた。
そのとき教室を訪れた絵里奈先輩は、メリーに帽子を作ってくれると言っていた。「シルクハットとテンガロンハットとチロリアンハットとジャバザハットのどれがいいか」と言うので、とりあえず最後のやつ以外にするよう頼んだ。
今やこの学校は何でもアリだ。例え過去に悲しい歴史があっても。
「メリーもこの戦車も、負の遺産なんでしょうかね」
「かもしれないけど、負の遺産だって全部が全部マイナスじゃないさ」
スパナを掌の中で回転させつつ、浦和先輩は言った。
「新幹線だって軍用機設計で培った技術があったからできたんだ。あの子の経験してきたこともきっと、未来へのプラスになる。しなきゃならない」
技術者の言うことには重みがある。先輩の言う通りだ。メリーの過去を無駄にしてはいけない。
彼女と一緒に日本へ来た人形は一万を超すというが、敵国の人形として大半が焼却され、残っている人形は三百体ほどらしい。しかしその残っている人形たちは、処分に反対する人々が密かに隠していたものである。メリーもそうだった。
だからまだこの国のどこかで、見つけてくれる人を待っている人形がいるかもしれない。メリーと同じリビングドールになって、だ。
いずれ、探し出してやろう。彼女たちの存在を無かったことにしてはならないから。
「コーキ!」
「おっと!」
また、俺の胸に飛び込んでくるメリー。俺は一旦難しい事を考えるのを止めて彼女を抱き上げた。
とても小さくて柔らかな唇が、頬に触れた。
――fin
慌てて袖で涙を拭い、メリーはにこやかに笑う。小さな体でページを持ち上げ、教科書をぱたりと閉じた。そのまま教科書を引きずって退かし、菓子盆を置くスペースを作ってくれた。
俺が菓子盆を置くと、その上の濡れ煎を珍しげに眺める。初めて見るのだろう。家に帰ってくるまで辺りをキョロキョロと見ていたし、見る物全てが珍しいはずだ。ずっと地面の中にいて、ようやく魔物として目覚めたのだから。
「ニホンのお菓子デスネ。初めて食べマス!」
笑顔は女の武器だ。泣くより笑っていてくれた方が、そりゃ男としては気分がいい。メリーはそれをよく分かっている。
だが、無理矢理笑ってるなら別だ。女心なんてろくに分からない俺でもそのくらい察しがつく。こんなときどう言葉をかけてやるか何てことは知らない。
できることと言えば……抱っこしてやることくらいだろう。
「あっ……」
そっと抱き上げると、メリーの青い目が俺を見た。小さな体を胸元に抱え、金色の髪を撫でてやる。髪の感触は本物の髪とは違うが、普通の人形と違って肌の温もりはちゃんとあった。メリーは腕の中でもぞもぞと動くが、やがてぴたりと動きを止める。そして小刻みに、その体は震え始めた。
「泣きたいときにはよ、泣いていいだろう」
「ダメ……デスヨ……!」
俺の胸に顔を埋め、メリーは首を横に振った。服にほんの少しだけ染みができている。必死で我慢しているようでも、小さな目から少しずつそれは流れていた。
「ワタシは……みんなを、笑顔にするために……ニホンに……だから、ワタシが泣いたら……」
「おめぇは人形だがよ、笑うことができるんだろう。だったら泣くこともできて当たりめぇだ」
人形だって泣きたきゃ泣けばいい。せっかくリビングドールになったんだ、笑ったり喋ったりできるなら、涙の一つも流さなきゃ損だろう。思いっきり泣くこともできずに笑っていなければならないなんて辛すぎる。文句を言う奴がいれば、そいつをメリーの代わりに地蔵の所へ埋めてやる。
小さく、嗚咽するのが聞こえた。細かな球体間接のついた小さな手が、俺の服をしっかりと握ってしがみついてくる。髪から背中にかけて撫でてやりながら、こいつはもう俺のものだと改めて自覚した。『ミツコ』なる人物が何者であろうと、うちの蔵にメモが残っていたのだから我が家と関係あるのは確かだ。運命なんてものはあまり信じない主義だが、俺がこいつを幸せにしてやるための巡り合わせだろう。
そのためにも、泣きたいときは泣かせてやらねば。
「……男の子たちがお小遣いを出して……3dollarで私を買って……女の子は服を作ってくれて……!」
メリーはゆっくりと、吐き出し始めた。
「船に乗ってニホンへ……沢山の仲間と一緒に……平和のために……!」
「うんうん」
「ニホンの子供たちと、お友達に……なって……but……but……!」
彼女の言葉を聞きながら、俺は歴史の教科書を開いた。昭和時代の章、『あの戦争』について書かれた項目に、小さくトピックが書かれていた。国と国の友好のため送られてきた、沢山の目の人形たちのこと。そして子供たちの思いを踏みにじり、戦争を始めて人形を焼いた大人たちのこと。
小学校でも習った歴史だ。平和の使者としてやってきた、人形たちの物語である。
「ヨシコ先生は、私を焼こうとして……でも、やっぱりダメだって、途中で火を消して……」
ヨシコ先生。あのメモに書いてあった名前だ。
「ミツコちゃんと、トヨちゃんと、ケンジくんと、タダシくんと、みんなで……箱に入れて……平和になったら、また会おう、って……」
平和な時代に。それまでメリーを守るため、三つ子地蔵の後ろへ埋めて隠してあったのだろう。当時小学校だった我が母校に。
今日までずっと埋められたままだということは、そのときの子供たちはその後どうなったか……愉快な結果は思い浮かばない。小学校だった頃の校舎は一度空襲で焼けて、そのときの慰霊碑が校庭にあった。少なくとも今はもう、メリーの友達だった連中はいなくなってしまったのだ。
「これからはよ、メリー。俺が一緒にいてやらぁ」
「コーキ……」
俺を見上げる青い瞳は潤んでいた。だが小さな頬を撫でてやると、くすぐったそうに笑う。ふにっとした柔らかな感触のほっぺただ。
「今からできることだってよ、あるんじゃねぇかい。今のおめぇは喋ることも笑うことも、泣くこともできるんだからよ」
「今から……できること……?」
「やりてぇことをやりゃぁいい。平和の使者としてでも、女の子としてでも、好きなことができるはずさ」
具体的に何をするべきか、それは俺にも分からない。だがメリーには希望を持たせてやりたかった。
すると、メリーは俺の顔の方へ、ずいっと身を乗り出してきた。青い目がじーっと俺を見つめ、にこりと笑う。
「アリガト、コーキ」
柔らかな唇が、顎に触れた。
………その後、飯時にメリーを親父たちに紹介した。笑顔の可愛いメリーは家族みんなからすぐ気に入られた。湯飲みを抱えてお茶を飲む姿が、お袋からは特に可愛がられていた。メリーもメリーで、緑茶や煎餅といった日本の食文化に難なく馴染んだ。まあ今日初めて食べ物を食べたのだから好き嫌いなど分からないだろう。こうして彼女は無事に我が家の一員として迎えられた。
だが一波乱あったのはその後だ。部屋へ戻り、さっさと宿題を済ませようとしたとき、メリーが遊んでほしいと言い出したのだ。肩に抱きつき頬を寄せながら人懐っこくせがまれては断れない。俺の意思が弱いのではなく、メリーが可愛すぎるのだ。どうせ大した量の宿題ではないしと、先に遊んでやることにした結果。
「フフッ……コーキぃ♥」
いつの間にかメリーを布団に押し倒していた。
この人形の体は俺より少し小さいくらい、つまり普通の女の子と同じ大きさになっていた。手芸部の脅威の技術力か、制服のサイズまで体に合わせて大きくなっている。言わば等身大の女子高生人形を布団に組敷き、抱き合っているわけだ。メリーが絵里奈先輩から聞いた話では、彼女は年を経た人形であり、様々な人の思いが宿っているせいか魔力が強いそうだ。そして手芸部のピクシーから体の大きさを変える魔術を教わり、絵里奈先輩からは催眠の魔術を教わったという。
あの変人から授かった余計な力を、メリーは使いこなしていた。大きくなった彼女が俺の目をじっと見たかと思うと、俺はいつの間にかメリーを押し倒していたのだ。俺の下で微笑みながら俺を見つめる彼女は、先ほどまでの無邪気さだけではなく、妖しい雰囲気も宿している。いかにも魔物である、というような。
青い瞳がボウッと光り、メリーは人差し指をこちらへ向けてゆっくりと回す。
「コーキは人形で遊びたくなーる、遊びたくなーる……」
子供がトンボを取るときのように指を回され、次第にメリーの姿がますます可愛く、魅力的に見えてきた。青い瞳も金色の髪も、白い肌も。服が学校の制服であることも、俺の興奮を強くした。俺は決して絵里奈先輩が言ったような制服フェチではない。だが普段見慣れた制服を着ているメリーとこうして抱き合っていると、彼女の存在がより身近で、自分と縁があるように感じられるのだ。
気づけば、俺はメリーの唇を奪っていた。舌まで使った、恋人同士のキスだ。
「んんぅ……♥」
くぐもった声を出しながらも、メリーはこちらに合わせて舌を絡めてくれた。とても楽しそうに、俺の体にしっかりと抱きつきながら。サイズの大きくなったリビングドールの体は抱いているととても柔らかく、温かだった。キスをしながら制服のボタンを一つ一つ外していく。馴染み深い制服を脱がせていくというのもまた興奮してしまう。
ブレザー、ワイシャツと手探りで脱がせていき、その間互いの口を味わう。時々キスを中断して少しだけ見つめ合い、またキスする。心臓の鼓動がどんどん大きくなっていく。メリーの体から鼓動が感じられないあたり、やはり人形なのだと思う。首にも間接が見えていた。しかし服を脱がせて辿りついたお腹は何とも滑らかな手触りで、柔らかな肌だった。
唇を合わせたまま腹部を撫で擦っていると、指先が小さな窪みにはまり、リビングドールにもへそがあることを知った。ただの人形だったころからあったのだろうか。思えばハーピーやマーメイドのような、卵から生まれる魔物にも何故かへそがある。魔物学の授業では理由は分かっていないと教わった。魔物になって備わったのかもしれない。
「ん、チュゥ……ah……ぷはっ……♥」
「……メリー、へそを見せてくれ」
キスを止めると、メリーは俺に抱きついていた腕を解いた。体を少し起こし、彼女の腹部に視線を移す。これが無機物だったとは信じられない、きめ細かな肌がそこにあった。粉雪のような白さと柔らかさで、小さな胸は制服と一緒に作られたのであろう桃色のスポーツブラで覆われている。
そしてへそもまた可愛らしかった。指先をそこへ入れてみると、メリーは体をよじらせた。
「アンッ♥ くすぐったいデスヨ♥」
お返しとばかりに、メリーも俺の下腹部へ手を這わせてくる。すっかり勃起してしまったそれに、ズボンの上から球体間接の手が触れる。人形相手に発情してしまっても、相手がリビングドールならそれは当然のことなのだろう。奇麗な手でさわさわと撫でられると、じんわりと気持ち良さが広がった。
メリーの白い頬も赤く染まっていた。今触っているものが欲しくて仕方ないのか。
「……コーキと会えて、ワタシ、とってもhappyデスネ」
ゆっくりと、制服のスカートをまくり上げるメリー。腹部と同じ色の奇麗な脚と、膝の球体間接。そして桃色のショーツが露わになった。恥ずかしそうにしつつも微笑むメリーの表情が、とても愛おしい。
「コーキもワタシで遊んで、いっぱいhappyになってクダサイ!」
するり、とショーツが降ろされる。人間と同じ、いや、人間の女のを見たことがないから分からないが、股間にあるその割れ目からとろりと液体が滴り落ちた。その不思議な香りと、目を潤ませて見つめてくるメリー。俺はもう押さえきれなくなった。
ズボンを降ろし、そそり立ったペニスを出す。メリーはそれを見て目を見開き、続いて嬉しそうに微笑んだ。手芸部員たちがしているのを見てから、やりたがっていたのかもしれない。
「……挿れるぜ」
「ハイ……♥」
手で角度を合わせ、メリーの華奢な肩に手を添えながら、そこへペニスをあてがう。
プニッとした、ぬめりを帯びたそこが先端に当たった。俺とメリーの体が同時に震える。それがおかしかったのか、メリーはくすりと笑った。
「アっ……♥」
「うお……締まる……!」
ゆっくり、腰を進めていく。人間とこういうことをするために、魔力によって作り替えられた人形の体だ。すんなりと俺を受け入れてくれた。強くペニスを締め付けながらも、奥へ、奥へと引き込むように蠢いている。ねっとりと絡む汁を襞が竿に塗り付け、マッサージするかのように刺激してくるのだ。
そして挿入されているメリーの表情。目尻に涙をため、脚で俺の腰に抱きつき、うっとりと笑みを浮かべていた。
「め、メリー。どうだ?」
「アァ、ゥン♥ キモチ、イイ……♥ コーキのチンチンで、もっと遊んで欲しいデスヨ……♥」
こんなことを言われてしまえば、反射的にぐいっと腰を進めてしまうのも当然だ。メリーが欲しい。メリーも俺が欲しい。その欲求が男の本能を突き動かした。
ぬるりと、奥まで一気にペニスを突入れる。その瞬間メリーの中が激しく蠢いた。
「ハァァァッ♥」
「うっ、すげ……!」
メリーが色っぽく、それでいて子供のように無邪気な笑顔でよがる。その度に人形の膣はグネグネとペニスを愛撫し、気持ちよくしてくれる。
じっとしていることに耐えきれず、俺は腰を前後に動かした。引き抜く度、突入れる度にメリーは嬌声を上げ、膣は絡み付いてくる。強い締め付けなのに動きはスムーズだった。ペニスをある程度抜くと中へ引き込むような力が加わり、一番奥に達するとその負荷がなくなる。まるで自分の意志ではなく、メリーに動きを制御されているかのようだった。
「コーキィ♥ アン、アアンッ……♥」
そしてメリーも、膣の壁と竿が擦れ合うのがたまらなく気持ちいいようだ。青い瞳を熱っぽく潤ませ、蕩け切った表情は魔物そのものだった。口から漏れる喘ぎ声がたまらない。
時に大幅に、時に小刻みに腰を突き動かし、それに応じてメリーが手足をバタつかせるのを楽しむ。さらさらの金髪を撫でてやると、今度は彼女からキスをしてきた。唇も柔らかい。また甘いキスが始まった。
「ンぅぅ……♥ ちゅ、ンっ……♥」
舌の動きに合わせ、ペニスを突入れる。繋がっている部分からメリーの愛液が溢れているのが分かった。動かす度に水音が大きくなっている。子供の頃夢中で粘土をこねて遊んだときのように、メリーに夢中になっていた。この奇麗な体にも、優しい心にも。
こみ上げてきたものがそろそろ出そうだ。するとメリーは腰に抱きつく脚にぐっと力を込めてきた。華奢な脚なのに、人間より遥かに強い力だった。人間サイズになったリビングドールなら他の魔物と同様、このくらいの力を出せるのか。
一番奥までペニスを突入れた状態で、腰が固定されてしまった。そのとき、メリーもまた達しそうなのだと何となく分かった。
そしてそのまま、俺は射精した。メリーの一番奥、人形の胎内に、勢いよく。
互いの唇を味わいながらの絶頂。言葉はない。ただぎゅっと抱きしめ、快感に震えるだけだった。自分の体から出るものが、メリーの中に吸い込まれていくのが分かる。魔力を宿した人形はこうやって力を得るのだろう。だが他の魔物と同じく、ただの栄養補給ではない。密着してくる彼女の手足から感じるものは、愛情と喜びだった。
「……っはぁ♥ コーキ……♥」
唇が離れたとき、メリーは泣いていた。今度は喜びの涙だった。にっこりと笑いながら、快楽の余韻を顔に滲ませ、涙を流している。奇麗な顔だった。
それを見た瞬間、不思議と俺の目からも涙が出てきた。
「んぅ、コーキ? 男の子が泣いちゃダメデスネ。ヨワムシケムシは挟んでポイされちゃうデスヨ?」
「はは、そうだな……」
メリーは指先で優しく、涙を拭ってくれた。
「何か、メリーが幸せそうに泣いてるからさ……俺も嬉しくてよ」
「……コーキ」
俺の頬を撫で擦るメリーの掌は、球体間接があるため独特の感触だった。続いて、額にキスをされた。こういうキスは男の方がするものだろうが、これはこれで良いものだ。
などと思っていると、異変が起きた。キスをされた直後、またメリーの体が大きくなり始めたのである。俺の下に寝ているメリーの背がゆっくりと伸びていき、それに比例して肩幅、そして服も大きくなっていった。メリーを組敷く姿勢だった俺が、メリーに抱きしめられるような形になっていく。
だが奇妙なことに、どれだけ大きくなってもメリーの体が布団からはみ出すことはなかった。布団も一緒に大きくなっている。いや、それどころか部屋全体が大きくなっていた。
それも間違いだと気づいたのは、メリーの膝の上にちょこんと乗せられ、頭を撫でられたときだった。
「フフッ。人形のコーキ、カワイイ♥」
俺の体が小さくなってしまったのだ。普段のメリーと同じ、人形サイズに。
両手で俺の胴を挟み込んで、高い高いをするように持ち上げるメリー。青い瞳も大きく見えた。ぬいぐるみで遊ぶ女の子のように、俺を見て微笑んでいる。先ほど繋がっていた股間の穴から、僅かに白濁が垂れているのが見えた。そのサイズが自分の何倍にも巨大に見えて、迫力と同時に奇妙な楽しさがある。
「コーキに可愛がってもらえたから、今度はワタシが可愛がってあげマスネ♥」
「お、おい……」
うろたえたのも束の間、メリーは俺を胸元に抱き寄せた。そして先ほど大量に出して下を向いていたペニスを、それより遥かに大きな指でつつき始めたのである。リビングドールの指もまた、女の子のそれだった。ペニスに対していくら巨大でも、柔らかくてすべすべで、悪戯っぽい動きをしてくる。
自分でも呆れる回復力で、ペニスは再び極限まで怒張してしまった。
「アハッ♥ やんちゃなチンチン、カワイイデスネ♥」
「め、メリー……っ」
勃起したペニスを、尚も弄くり続ける無邪気なリビングドール。人形に人形扱いされて可愛がられ、射精した後のペニスは敏感に反応してしまった。スポーツブラをつけた胸に頭を乗せ、その温かみに酔いしれながら脱力してしまう。
「今だけ、子供に戻って遊びマショ? ネ♥」
人差し指で股間を刺激しながら、メリーは優しく頭を撫でてくれた。ああ、大事にされている人形というのはこういう気分なのか。良いものだ。
遊んでもらいながら、指先の動きだけでどんどん気持ちよくなっていく。
「メリー、また出る……」
「ハーイ。Happyになってくださいネ♥」
そう言って抱きしめ、甘やかしてくれるメリーの指先で、俺は二度目の射精をした。俺の顔を覗き込んでくるメリーと目を合わせたまま、気持ち良さを味わう。飛び出した白濁はメリーの指の付け根まで飛び、ねっとりと糸を引いた。
体を汚されたのに、メリーは嬉しそうに笑った。指についた精液を興味深げに見つめ、口へ運ぶ。垂らした練乳を指で取って舐めるように。
「ンンーッ、オイシイっ♥」
うっとりと頬を緩め、俺を抱きしめて横になるメリー。全身が彼女の温もりに包まれた。俺はもはや枕元に置かれる、少女に抱きしめられるためのぬいぐるみになっていた。
もうしばらく。明日の朝まで、このままメリーの胸に抱かれていたい。
俺は明朝、滑り込みで宿題を仕上げる覚悟を決めた。
………
……
…
「それで、結局ミツコさんってのは何者だったんだ?」
「校庭の空襲死者慰霊碑に久坂部光子って名前があったんです。やっぱり俺の先祖というか、親戚だったようでして」
翌日の放課後、学校の倉庫で顔なじみの先輩と話をした。俺は普通科だが、工業科の連中とはウマが合うのでよくこの倉庫に来る。相手はこの学校の三大偉人の一人、工業科三年生の浦和新平先輩だ。この人はいつも機械油の臭いにまみれているが、最近では良い香りも纏うようになった。常にゴーストの女の子と、サキュバスの女子がくっついているからだ。この人は小学生時代、洞穴に隠されていた小型戦車を発見し、それを修復して走らせるという夢に高校生活全てを費やしたという凄い漢なのである。もちろん一人でやったことではないが、浦和先輩が学校の名を大いに上げたことは間違いない。
ちなみに三大奇人というのもいて、絵里奈先輩がその一人であることは言うまでもない。
「時間を超えていろいろな物が集まるなぁ、この学校」
俺たちの視線の先には浦和先輩たちが修理した戦車『テケ』と、その上に載って遊ぶメリー、砲塔のハッチから顔を出すゴーストの子がいた。
「それでね、そのピザ屋さんのリビングドールは盗塁王って呼ばれていて……」
「ワオ! 会ってみたいデスネ!」
元の大きさに戻ったメリーと談笑するそのゴーストは、十年前に死んだこの学校の女子だ。詳しくは聞いていないが、浦和先輩とは特別な関わりがあるらしい。メリーや戦車ほどではないが、過去から来た存在だ。彼女もメリーも学校の魔物たちとすぐ仲良くなり、女子同士で気軽に言葉を交わしている。昼休みのときは俺の机の周囲に人だかりができていた。
そのとき教室を訪れた絵里奈先輩は、メリーに帽子を作ってくれると言っていた。「シルクハットとテンガロンハットとチロリアンハットとジャバザハットのどれがいいか」と言うので、とりあえず最後のやつ以外にするよう頼んだ。
今やこの学校は何でもアリだ。例え過去に悲しい歴史があっても。
「メリーもこの戦車も、負の遺産なんでしょうかね」
「かもしれないけど、負の遺産だって全部が全部マイナスじゃないさ」
スパナを掌の中で回転させつつ、浦和先輩は言った。
「新幹線だって軍用機設計で培った技術があったからできたんだ。あの子の経験してきたこともきっと、未来へのプラスになる。しなきゃならない」
技術者の言うことには重みがある。先輩の言う通りだ。メリーの過去を無駄にしてはいけない。
彼女と一緒に日本へ来た人形は一万を超すというが、敵国の人形として大半が焼却され、残っている人形は三百体ほどらしい。しかしその残っている人形たちは、処分に反対する人々が密かに隠していたものである。メリーもそうだった。
だからまだこの国のどこかで、見つけてくれる人を待っている人形がいるかもしれない。メリーと同じリビングドールになって、だ。
いずれ、探し出してやろう。彼女たちの存在を無かったことにしてはならないから。
「コーキ!」
「おっと!」
また、俺の胸に飛び込んでくるメリー。俺は一旦難しい事を考えるのを止めて彼女を抱き上げた。
とても小さくて柔らかな唇が、頬に触れた。
――fin
15/02/02 07:12更新 / 空き缶号
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