後編
「ありがとね」
横たわっているユキさんに、サチさんはそっとお礼を言った。ユキさんは目を閉ざして意識を失っているようだが、口元には笑みが浮かんでおり、まだ快感の余韻に浸っているようにも見えた。
あのときと同じ、パジャマ姿のサチさんはゆっくりと俺の方へ向き直り、無邪気な微笑を投げかけ……そして、抱きしめてくれた。
ゴーストである彼女の体は、ふわっと優しい感触だった。血の気など感じられない真っ白な肌はとても温かく、柔らかい。触れる気体、とでも言うのだろうか。人体の弾力と温かみを持ちながらも、どこか不思議な、気泡のような柔らかさを感じる。すり寄せられた頬もふんわりとしていた。
「シンペイくんとまた会えた。やっぱり私は幸せ者だなぁ」
その瞬間、俺の目から自然と涙が溢れた。彼女とまた会えた。死んだはずの彼女が帰ってきた。言いたいことが沢山あるはずなのに声が出ず、代わりに涙だけが出てくる。
サチさんは奇麗な手で優しく俺の頭を撫でてくれた。頭頂から後頭部、そして背中の方まで、温かな手で擦られる。恍惚としそうな懐かしい手つきだった。
「シンペイくん、大きくなったね」
そう言われて、サチさんの背が俺より低いことに気づいた。もうあれから十年も経っている。サチさんの歳が享年で止まっていると考えれば、もう同い年なのだ。それでも彼女の体にしがみつき、甘えるように泣くのを止められなかった。子供の頃は大人に見えたのに、こんなに華奢な体をしていたのか。それなのに俺の方が彼女に包み込まれているような、そんな安心感がある。
「会いたかった……」
腹に力を入れ、やっとのことで出た言葉は一言だけだった。
「私もだよっ……やっとこうして、触れ合って……」
頬をすり寄せてくるサチさんも涙声だ。俺も彼女も、今までずっとこうして泣きたかったのかもしれない。サチさんが死んだと聞いたときから十年間、一度も泣いていなかった気がする。今なら泣いてもいいのだと、彼女の温もりが言っているように思えた。
「……シンペイくんの体、油の臭いがする。ずっと頑張っていたんだね」
サチさんは目を細め、テケ車を眺めた。十年前とは違い、錆を落とし、塗装し直し、遥かに奇麗な状態になっている。思えばよくここまでやれたと自分でも思うが、やはりそれもサチさんと約束したからだ。
「サチさん、一緒に乗ってくれるよね?」
「もちろん! ちゃんと約束守りに来たよ」
彼女の体がテケ車の上までふわっと浮かぶ。砲塔のハッチを撫でながら俺を見下ろし、ふと彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「まだ元気だね」
「うっ……!」
自分が股間を露出したままで、相変わらずペニスが勃起していることをようやく思い出した。ユキさんの膣内に二回も出したのに、サチさんの体の感触でまた起きてしまったのだ。魔物と一緒に学校生活を送っていると自然にインキュバス化する男子もいるらしいが、俺もそのクチだろうか。
サチさんは空中を滑るように、すーっと俺の側まで戻ってきた。先ほどまでユキさんに取り憑き、俺にいやらしい妄想を流し込んできたのは彼女だろう。今の表情もまた、魔物らしい好色な笑顔である。
「また兵隊ごっこしよっか♥」
「うわっ!?」
背中に抱きつかれ、ペニスに手を添えられる。ぐいっと体の向きを変えられて、ふんわりと優しくペニスを擦られた。
「あぅ……」
気泡のような感触の手はとても滑らかで、くすぐるようにペニスを刺激してきた。ゴーストの体にも重さはあるようで、背中にかかるそれがサチさんの温もりをより一層強くしていた。妄想の中で熱く抱き合ったサチさんが、今現実で俺の股間を触っているという興奮が、さらに快感を増す。
「射撃の練習だよ。的を狙って当てるの♥」
「ま、的って……」
早くも先走りの汁が滲み出たペニス。その鈴口の先にある『的』と言えば、未だ気を失っているユキさんだ。うつ伏せにへたり込む彼女にぶっかけるように、サチさんは手淫を続ける。
「ユキちゃんっていい子だよね。それに凄くエッチなの。シンペイくんとセックスする妄想を見せてあげたら、凄く喜んでたよ」
両手で一生懸命にペニスを撫で擦りながら、サチさんはクスクスと笑う。ユキさんの魅力的なお尻はまだ俺に向けられており、その丸みが欲情を誘った。そして背中に押し付けられる、サチさんの胸の膨らみも気持ちいい。
「シンペイくんのこと、ずっと好きだったんだって。私と同じ」
このままサチさんの手で射精させてほしい。ユキさんにぶっかけたい。そんな思いだけが浮かんできた。インキュバス化した、またはしつつある俺の本能なのか、それともサチさんに流し込まれた妄想が後を引いているのかは分からない。だがとにかく気持ちいい。
「気持ちいい? 出そう?」
「う、うん……」
サチさんも興奮しているようで、熱く甘い吐息が顔にかかる。さらに白い指が亀頭だけをつまみ、くりくりと刺激してきた。思わず身をよじりそうになったが、サチさんは俺にしっかりしがみついて離れない。俺は気持ちよさに酔いしれ、完全に身を任せていた。
「さっき私のことを考えながら、一杯出したよね? 今度は直接、私の手でイってよ……♥」
ペニスを擦る動きが加速した。滲み出た汁と、付着しているユキさんの汁が卑猥な水音を立てる。滑らかにしごき立てられ、快感はどんどん高められた。サチさんの吐息と、眼前の的……ユキさんのお尻の丸みがさらに情欲をかき立てる。
竿のみならず玉まで撫で擦られ、俺はとうとう達してしまった。
「うっ……!」
「わぁ♥」
勢い良く噴き出す白濁。サチさんが歓声を上げた瞬間、びちゃっと音を立てて、ユキさんの桃のようなお尻にべっとりと着弾した。ユキさんがもぞもぞと体を動かしたが、まだ目は覚めないようだ。
妄想ではなく、実体を得たサチさんに抜いてもらった。十年間ずっと思い続けてきた女性に。感動が射精の快感を増している。
「……ね、私、幽霊になっちゃったけど」
ふいに、サチさんは静かに言った。少し不安そうな声で。
「こんな私のこと、どう思う? ユキちゃんに取り憑いてエッチなことさせたり、エッチなことばかり考えてる私でも、側にいていいかな?」
「どんなサチさんでも、サチさんだろ」
ぼんやりした頭でも、ここは即答できた。すでに決まりきったことだからだ。
「今までずっと、サチさんのことを考えながらテケ車を直してた。サチさんはずっと俺の『隊長』だったんだ。どんなサチさんでも俺は好きだよ」
「……ありがと」
俺たちは再び向かい合った。彼女の真っ白な頬はほんのり赤く染まっている。頭に妄想を流し込まれなくても、何をしようとしているのかは分かった。何せサチさんはもう魔物なのだから。
ふわふわした体をそっと抱き寄せると、彼女も俺の肩に抱きついてくる。生前とは違う真っ赤な瞳でじっと見つめられた。メドゥーサやゲイザーのように視線に魔力をこめる種族でなくても、魔物の目はどこか正気を失わせるような光が宿っている。サチさんの瞳もまた、生前と変わらぬ優しさの中に、扇情的な色を帯びていた。
現実で彼女の中に挿れたら、どんな表情をするのだろう。この不思議なゴーストの体の内側は、どんな感触だろう。そう考えた途端、股間のものがいきり立った。
「あ、私のお腹に当たってるよ」
サチさんが楽しげに実況する。
「俺、サチさんと……」
「うん。さっき頭の中で私とやったこと、全部してもいいよ。料理も添い寝もできるし、一緒にお風呂にも入ってあげる。シンペイくんのおちんちん舐めてあげるし、私のアソコも舐めさせてあげる。犯してあげるし、犯されてあげる」
彼女の言葉と同時に、先ほどの妄想が再び脳内で上映された。あらゆる痴態を惜しげもなく晒すサチさんだが、今本物が目の前にいる。彼女の言う通り、ヤりたいだけヤれるだろう。妄想ではない本物の彼女に、情欲を好きなだけ注ぎ込むことができる。
だがその前に。男として、格好つけておきたいところがある。
「サチさん、目を閉じて」
「え……?」
疑問符を浮かべながらも、彼女は素直に目を閉じた。俺はその後頭部に手をまわして、そっと抱き寄せ……
唇を奪った。
「んっ……♥」
妄想の中でしたことを思い出しながら、サチさんの唇に舌を割り込ませ、口の中を舐め回す。サチさんの唇はぷるぷるとしており、中では舌がねっとりと唾液をはらんでいた。彼女の舌の動きは妄想の中よりぎこちない。それでも俺に合わせ、懸命に舌を絡ませてくるのが可愛い。
「はっ、ん、ちゅ……はぅ♥」
唇を離すと、サチさんはお風呂揚がりのようにとろんとした表情を浮かべていた。頬の赤みが増している。
「えへへ……大人のキス、されちゃった♥」
照れくさそうに、嬉しそうに俺から目を逸らすサチさん。初めてだったのか、などということは聞くまでもない。やっぱりこの人もまだ子供だったんだ。そして俺も。
「俺とサチさん、これで恋人同士みたいになれたかな?」
「……うん♥」
にこっと幸せそうな笑みを浮かべ、サチさんはパジャマのボタンに手をかけた。彼女と同じ霊体である服は一瞬で消え、真っ白な裸体が露わになった。魔力でできているという肉体は神秘的で、触れてみると吸い付くような感触だった。気泡のような儚げな柔らかさも気持ちいい。
「ん……そう、触って……♥」
うっとりした声で囁きながら、サチさんは俺の手を自分の胸へと持っていく。ふにょっ、と蕩けるような柔らかさだった。恍惚感に浸りながらそれを揉み、ゆっくりと視線を下に向ける。すらりとした腰に可愛らしいおへそ、そしてその下にある神聖な器官。あの割れ目にいきり立ったものを挿入したら、包み込まれたら……
「サチさん、行くよ……?」
「うんっ、来て……シンペイくんを、幸せを私に感じさせて……♥」
俺に身を委ねるサチさんの入り口部分に、俺はペニスをあてがった。彼女はぴくんと震えたが、自分でそこを指で開き、肉棒を迎え入れる意思を示した。
腰を進める。くちゅり、と粘液が絡む音。
「あ……! 入ってる……すごぉい♥」
さらに奥まで入れる。ねちょねちょと絡みついてくる肉洞の内部。もっと奥へ、奥へと誘うようなうねりをしている。
「もう少しで……ああッ♥ そ、そこぉ♥」
「うっ、きつっ……!」
サチさんが快楽に顔を歪めた。最新部に到達したのだ。そこは締め付けがきゅっときつくなっており、ペニスを程よい力で締め付けてくる。それでいて胸の膨らみと同じふにょふにょ感がペニスをくすぐる。このままただ挿入しているだけでも射精してしまいそうだ。
「はぁ、はぅぅ♥ 私のおまんこに、シンぺイくんのがぁ……♥」
嬌声と共に、彼女の瞳から涙が零れ落ちる。ゴーストでも涙を流せるのか。
ユキさんにしたように、腰を引き、突く。また引いて、突く。
「ふわぁっ、はぅ♥ んっ、そ、そこっ♥ い、イイよぉ、あんっ♥」
俺の動きの一つ一つに反応し、サチさんは喘ぎ、よがる。肉洞でペニスがこねくりまわされ、汁がいやらしい音を立てた。ぬめりを帯びた感触がたまらなく気持ちいい。だがセックスに大事なのは物理的な気持ちよさよりも、精神的な快感だと身をもって知ることになった。膣内のうねりよりもサチさんの可愛い表情や声が、俺を激しくかき立てているのだ。
「サチさん、サチさんっ!」
「シンペイくん、ふぁっ、あぅ♥」
再びディープキス。互いの口の中を舐め回す。
その間、サチさんも艶かしく腰を動かし、下の口でペニスを味わっていた。とても気持ちよさそうに。そして俺を気持ちよくするために。
「ぷはっ……はふぅ♥」
唇を離し、サチさんは蕩けた笑顔を見せる。
いつの間にか俺たちの体は宙に浮きあがっていた。ゴーストの力によるものか、重力から解放され、テケ車やユキさんを見下ろす高さで浮いている。地に足がついていない浮遊感を味わいながら、互いに腰を動かす。
「あぅ、やっぱり、んっ♥ 現実で、するのって……あはぁ♥」
「うん! 俺も、う……気持ちいい……!」
彼女がユキさんを通じて俺に見せてきた妄想。あれは単に精を吸収して実体化するためにやったわけではない。サチさんは心の底から、俺とそういうことがしたかったのだ。機械馬鹿でも魔物たちと一緒に過ごしてきた以上、彼女たちの習性はある程度分かる。俺がサチさんのことを忘れなかったが、彼女も俺を好きでいてくれたのだ。ユキさんと同じように。
「あ、ああ……出したい、サチさんの中に出したい……!」
「きてっ♥ 一番奥にぃ、たっぷり……温かいのを出してぇ……♥」
まるで結合部から体が解け合い、一つになってしまったような錯覚を覚える。俺とサチさんの快感はリンクしているように思えた。こみ上げてきた射精感を解放しようとした瞬間、サチさんの肉洞もきゅーっと締まってくる。
サチさんがイくんだ。俺がイかせるんだ。そう自覚した途端、俺は彼女の奥で果てた。
「で、出るよ!」
「ぁ、あぁ、ぁ、き、きたぁ♥ 出てる、熱っ、はうぅぅぅぅん♥」
幽霊の膣は貪欲に蠢き、迸る精液を吸収していく。漏れるのはゆっくりだったが、射精自体は長かった。ちょろちょろとおねしょをするように迸っていくそれが、サチさんの肉洞に受け止められる。
「はふぅ……あぁ……やぁン……♥」
可愛らしく喘ぎながら絶頂の快楽を味わうサチさん。その顔がたまらなく愛おしくて、繰り返しキスをした。胸も揉んだ。ゴーストとなった彼女の体を満喫する。
やがて快楽が徐々に収まってくると、彼女は俺の目をじーっと見て、にこりと笑った。肩で息をしているのがいじらしい。対する俺は泣いていた。今までしてきたことが無駄でなかったこと、彼女が約束を守ってくれたこと。
そして、一つになれたことへの喜びの涙だった。
………
……
…
死ぬのは怖くなかった、とサチさんは言う。自分が死んでも誰も困らないと思っていたからだそうだ。彼女の両親はやっぱり、褒められた人間ではなかったのだろう。
ただ最期に何か幸せを見つけたくて、病院のベッドから抜け出した。惨めに死ぬのは嫌だから。雑木林に行ったことに特に理由はなかったようで、あんな所に昔の戦車が転がっているなんて思ってもみなかったとのことだ。
だがその思わぬ発見よりも、それに夢中になっている男の子と出会ったことが幸せに思えた……そう言ってくれたサチさんは今、
「ほらほら、もっと強く挟んじゃうよ♥」
「イっちゃう? イっちゃうのよね♥」
ユキさんと二人掛かりで、俺のペニスを胸で挟んでいたりする。
「ふ、二人とも。もうすぐ試験走行の時間だから……」
「分かってるなら早く出しちゃえばいいじゃない。私たちのおっぱいに♥」
意地悪く笑うユキさんの背には、コウモリのような翼が生えていた。未成熟なその翼はクラゲのように透き通っており、お尻から生えている尻尾も同じように色素がない。そして竿を挟み込む胸のふくらみはふさふさとした、薄紫色の柔らかい毛で覆われている。実体のない状態のゴーストも魔物であり、憑依されればやはり人間のままではいられなかったのだろう。レッサーサキュバスとなった彼女は授業中こそ相変わらず地味だが、二人っきり、あるいは三人きりになったときにはこの上なく好色になる。
「ユキちゃんっておっぱい大きいよね。いいなぁ」
サチさんがユキさんの胸をつつく。着やせするタイプなのか、作業着の上からだとよく分からなかったが、ユキさんの胸は大きかった。無骨な作業着を脱いだ瞬間、二つの塊がたゆんと揺れたときは俺も思わず生唾を飲んだ。
「サチさんだって十分あるじゃない。それに大きさよりも……」
合計四つの膨らみの隙間から、ちょこんと顔を出した亀頭。ユキさんはそれを軽くつついてきた。思わず「うっ」と声を出してしまう俺を見て、ユキさんは楽しげに笑った。
「ほら。シンペイくんが私たちの体で気持ちよくなってくれることが、私は幸せよ♥」
「うん、幸せだね♥」
左からは柔らかな体毛に覆われた巨乳、右からは真っ白で朧げな美乳。二人は互いの体を抱き寄せるようにして、むにゅっとペニスを挟んでくる。蕩けるような幸せな圧迫感が、俺を限界まで高めた。
そして、弾ける。
「ううっ!」
派手な音を立てて迸った白濁は真上に打ち上げられ、二人の顔を、魅力的な胸をべっとりと汚していく。
「あははっ、出てる出てる♥」
「んっ、美味し……♥」
迸る精液を競い合うように舐める二人。互いの顔についた分まで仲良くわけあっていた。
サチさんの長い巻き毛、ユキさんのさらさらした髪を撫でながら、快楽の余韻に浸る。幸せだな、と思った。彼女達とこうしている間は理屈なんていらない。ひたすら多幸感に浸るだけでいいような気がした。
だが今日はいつまでもこうしているわけにはいかない。それは二人も分かっている。
精液をすっかり舐めとってしまうと、ユキさんはウェットティッシュで股間を奇麗に拭いてくれた。出したての精液を飲んで少しは情欲も落ち着いたのか、火照った体にしっかりと作業着を着込む。サチさんの方も霊体の作業着を着ていた。意外と彼女にもこの無骨な格好は似合っている。
「……行こう」
パンツとズボンを上げ、俺は二人の手を取った。
……漢字を発明したのは大昔の中国人だが、彼らは一文字ごとにいろいろ考えて作ったらしい。「辛い」という字は刃物で刺されている状態を示すという。苦痛は大抵の人には辛いことだろう。だが逆に幸福な状態というのは人によって違う。だから「辛い」と一文字違いの「幸せ」という文字は手枷を外された姿、つまり辛いことが終わった状態の象形だといわれている。
俺と出会って幸せだったということは、俺はサチさんの苦痛を終わらせたのかもしれない。そして今度は、「彼女の寿命を縮めてしまったかもしれない」という自責の念を持っていた俺の苦痛を、サチさんとユキさんが終わらせてくれた。
今の俺たちは幸せだ。だがまだやるべきことがある。
「じゃあサチさん、辺りを一周したら交代だからね!」
砲塔のハッチから顔を出すサチさんに、ユキさんが言う。軽装甲車という名前であれど実質豆戦車であるテケ車、砲塔と操縦席には一人ずつしか入れないのだ。
「分かってるよ。終わったらまた三人で、ね♥」
「当然ですっ♥」
互いに挿入の手真似をしながら笑い合う。操縦席ハッチから頭を出して聞いている俺は顔から火が出そうだ。こういう卑猥なガールズトークも人魔共学の学校では珍しくもないので、車庫にいる学友たちも何も言わなかった。キャタピラ転輪の隙間に挟まったケサランパサランを取り除いたり、テケ車に念力をかけようとするマンティスを追い払ったり、ガヤガヤ騒ぎながら最後の点検を終える。
「よし。新平、行ってこい!」
「はい!」
先生の声に応えつつ、サチさんを見上げる。
「隊長、エンジン始動します!」
「うん! エンジン始動!」
笑顔でびしっと叫んだ彼女の声に合わせ……始動(イグニッション)。
車体後部のエンジンが唸りを上げ、やがて小気味よい音を立て始める。回転数などは問題ない。砲塔にいるサチさんに身振りで発進を合図すると、彼女も大きな動作で前方を指差した。
ギアを入れる。二本の操縦レバーを握り、前へと倒した。
キャタピラが回り、震動が体に伝わる。九七式軽装甲車『テケ』はゆっくりと、車庫の外へと前進する。
動いている。安全のため、周囲が見えるようにハッチは開けたままだ。詰めかけている見物人たちの顔が見えた。路面保護用のゴムパッドがついた履帯がアスファルト道を踏む。
「走ってる! 走ってるよ!」
俺の隊長が叫んでいる。前を見たまま、操縦席から拳を振り上げてそれに応えた。学校のみんなに見守られながら、まずはグラウンドまで向かう。そこでさらにいろいろな試験走行を行う予定だ。
この世界に魔物が現れるずっと昔、人間同士の最も悲惨な戦争の時代があった。人間を愛する魔物たちはその戦争の話を忌み嫌う。だがそんな過去から蘇った車両は、平和な今の時代を満足げに走っていた。こいつにとっても、辛い時代は終わったのかもしれない。
なら、もっと先の幸せを掴みに行けるはずだ。
快調なディーゼルエンジンの音が、俺たちを勇気づけているかのようだった。「進め」と。
「本当の幸せはこれから、だね!」
「ああ!」
――fin
横たわっているユキさんに、サチさんはそっとお礼を言った。ユキさんは目を閉ざして意識を失っているようだが、口元には笑みが浮かんでおり、まだ快感の余韻に浸っているようにも見えた。
あのときと同じ、パジャマ姿のサチさんはゆっくりと俺の方へ向き直り、無邪気な微笑を投げかけ……そして、抱きしめてくれた。
ゴーストである彼女の体は、ふわっと優しい感触だった。血の気など感じられない真っ白な肌はとても温かく、柔らかい。触れる気体、とでも言うのだろうか。人体の弾力と温かみを持ちながらも、どこか不思議な、気泡のような柔らかさを感じる。すり寄せられた頬もふんわりとしていた。
「シンペイくんとまた会えた。やっぱり私は幸せ者だなぁ」
その瞬間、俺の目から自然と涙が溢れた。彼女とまた会えた。死んだはずの彼女が帰ってきた。言いたいことが沢山あるはずなのに声が出ず、代わりに涙だけが出てくる。
サチさんは奇麗な手で優しく俺の頭を撫でてくれた。頭頂から後頭部、そして背中の方まで、温かな手で擦られる。恍惚としそうな懐かしい手つきだった。
「シンペイくん、大きくなったね」
そう言われて、サチさんの背が俺より低いことに気づいた。もうあれから十年も経っている。サチさんの歳が享年で止まっていると考えれば、もう同い年なのだ。それでも彼女の体にしがみつき、甘えるように泣くのを止められなかった。子供の頃は大人に見えたのに、こんなに華奢な体をしていたのか。それなのに俺の方が彼女に包み込まれているような、そんな安心感がある。
「会いたかった……」
腹に力を入れ、やっとのことで出た言葉は一言だけだった。
「私もだよっ……やっとこうして、触れ合って……」
頬をすり寄せてくるサチさんも涙声だ。俺も彼女も、今までずっとこうして泣きたかったのかもしれない。サチさんが死んだと聞いたときから十年間、一度も泣いていなかった気がする。今なら泣いてもいいのだと、彼女の温もりが言っているように思えた。
「……シンペイくんの体、油の臭いがする。ずっと頑張っていたんだね」
サチさんは目を細め、テケ車を眺めた。十年前とは違い、錆を落とし、塗装し直し、遥かに奇麗な状態になっている。思えばよくここまでやれたと自分でも思うが、やはりそれもサチさんと約束したからだ。
「サチさん、一緒に乗ってくれるよね?」
「もちろん! ちゃんと約束守りに来たよ」
彼女の体がテケ車の上までふわっと浮かぶ。砲塔のハッチを撫でながら俺を見下ろし、ふと彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「まだ元気だね」
「うっ……!」
自分が股間を露出したままで、相変わらずペニスが勃起していることをようやく思い出した。ユキさんの膣内に二回も出したのに、サチさんの体の感触でまた起きてしまったのだ。魔物と一緒に学校生活を送っていると自然にインキュバス化する男子もいるらしいが、俺もそのクチだろうか。
サチさんは空中を滑るように、すーっと俺の側まで戻ってきた。先ほどまでユキさんに取り憑き、俺にいやらしい妄想を流し込んできたのは彼女だろう。今の表情もまた、魔物らしい好色な笑顔である。
「また兵隊ごっこしよっか♥」
「うわっ!?」
背中に抱きつかれ、ペニスに手を添えられる。ぐいっと体の向きを変えられて、ふんわりと優しくペニスを擦られた。
「あぅ……」
気泡のような感触の手はとても滑らかで、くすぐるようにペニスを刺激してきた。ゴーストの体にも重さはあるようで、背中にかかるそれがサチさんの温もりをより一層強くしていた。妄想の中で熱く抱き合ったサチさんが、今現実で俺の股間を触っているという興奮が、さらに快感を増す。
「射撃の練習だよ。的を狙って当てるの♥」
「ま、的って……」
早くも先走りの汁が滲み出たペニス。その鈴口の先にある『的』と言えば、未だ気を失っているユキさんだ。うつ伏せにへたり込む彼女にぶっかけるように、サチさんは手淫を続ける。
「ユキちゃんっていい子だよね。それに凄くエッチなの。シンペイくんとセックスする妄想を見せてあげたら、凄く喜んでたよ」
両手で一生懸命にペニスを撫で擦りながら、サチさんはクスクスと笑う。ユキさんの魅力的なお尻はまだ俺に向けられており、その丸みが欲情を誘った。そして背中に押し付けられる、サチさんの胸の膨らみも気持ちいい。
「シンペイくんのこと、ずっと好きだったんだって。私と同じ」
このままサチさんの手で射精させてほしい。ユキさんにぶっかけたい。そんな思いだけが浮かんできた。インキュバス化した、またはしつつある俺の本能なのか、それともサチさんに流し込まれた妄想が後を引いているのかは分からない。だがとにかく気持ちいい。
「気持ちいい? 出そう?」
「う、うん……」
サチさんも興奮しているようで、熱く甘い吐息が顔にかかる。さらに白い指が亀頭だけをつまみ、くりくりと刺激してきた。思わず身をよじりそうになったが、サチさんは俺にしっかりしがみついて離れない。俺は気持ちよさに酔いしれ、完全に身を任せていた。
「さっき私のことを考えながら、一杯出したよね? 今度は直接、私の手でイってよ……♥」
ペニスを擦る動きが加速した。滲み出た汁と、付着しているユキさんの汁が卑猥な水音を立てる。滑らかにしごき立てられ、快感はどんどん高められた。サチさんの吐息と、眼前の的……ユキさんのお尻の丸みがさらに情欲をかき立てる。
竿のみならず玉まで撫で擦られ、俺はとうとう達してしまった。
「うっ……!」
「わぁ♥」
勢い良く噴き出す白濁。サチさんが歓声を上げた瞬間、びちゃっと音を立てて、ユキさんの桃のようなお尻にべっとりと着弾した。ユキさんがもぞもぞと体を動かしたが、まだ目は覚めないようだ。
妄想ではなく、実体を得たサチさんに抜いてもらった。十年間ずっと思い続けてきた女性に。感動が射精の快感を増している。
「……ね、私、幽霊になっちゃったけど」
ふいに、サチさんは静かに言った。少し不安そうな声で。
「こんな私のこと、どう思う? ユキちゃんに取り憑いてエッチなことさせたり、エッチなことばかり考えてる私でも、側にいていいかな?」
「どんなサチさんでも、サチさんだろ」
ぼんやりした頭でも、ここは即答できた。すでに決まりきったことだからだ。
「今までずっと、サチさんのことを考えながらテケ車を直してた。サチさんはずっと俺の『隊長』だったんだ。どんなサチさんでも俺は好きだよ」
「……ありがと」
俺たちは再び向かい合った。彼女の真っ白な頬はほんのり赤く染まっている。頭に妄想を流し込まれなくても、何をしようとしているのかは分かった。何せサチさんはもう魔物なのだから。
ふわふわした体をそっと抱き寄せると、彼女も俺の肩に抱きついてくる。生前とは違う真っ赤な瞳でじっと見つめられた。メドゥーサやゲイザーのように視線に魔力をこめる種族でなくても、魔物の目はどこか正気を失わせるような光が宿っている。サチさんの瞳もまた、生前と変わらぬ優しさの中に、扇情的な色を帯びていた。
現実で彼女の中に挿れたら、どんな表情をするのだろう。この不思議なゴーストの体の内側は、どんな感触だろう。そう考えた途端、股間のものがいきり立った。
「あ、私のお腹に当たってるよ」
サチさんが楽しげに実況する。
「俺、サチさんと……」
「うん。さっき頭の中で私とやったこと、全部してもいいよ。料理も添い寝もできるし、一緒にお風呂にも入ってあげる。シンペイくんのおちんちん舐めてあげるし、私のアソコも舐めさせてあげる。犯してあげるし、犯されてあげる」
彼女の言葉と同時に、先ほどの妄想が再び脳内で上映された。あらゆる痴態を惜しげもなく晒すサチさんだが、今本物が目の前にいる。彼女の言う通り、ヤりたいだけヤれるだろう。妄想ではない本物の彼女に、情欲を好きなだけ注ぎ込むことができる。
だがその前に。男として、格好つけておきたいところがある。
「サチさん、目を閉じて」
「え……?」
疑問符を浮かべながらも、彼女は素直に目を閉じた。俺はその後頭部に手をまわして、そっと抱き寄せ……
唇を奪った。
「んっ……♥」
妄想の中でしたことを思い出しながら、サチさんの唇に舌を割り込ませ、口の中を舐め回す。サチさんの唇はぷるぷるとしており、中では舌がねっとりと唾液をはらんでいた。彼女の舌の動きは妄想の中よりぎこちない。それでも俺に合わせ、懸命に舌を絡ませてくるのが可愛い。
「はっ、ん、ちゅ……はぅ♥」
唇を離すと、サチさんはお風呂揚がりのようにとろんとした表情を浮かべていた。頬の赤みが増している。
「えへへ……大人のキス、されちゃった♥」
照れくさそうに、嬉しそうに俺から目を逸らすサチさん。初めてだったのか、などということは聞くまでもない。やっぱりこの人もまだ子供だったんだ。そして俺も。
「俺とサチさん、これで恋人同士みたいになれたかな?」
「……うん♥」
にこっと幸せそうな笑みを浮かべ、サチさんはパジャマのボタンに手をかけた。彼女と同じ霊体である服は一瞬で消え、真っ白な裸体が露わになった。魔力でできているという肉体は神秘的で、触れてみると吸い付くような感触だった。気泡のような儚げな柔らかさも気持ちいい。
「ん……そう、触って……♥」
うっとりした声で囁きながら、サチさんは俺の手を自分の胸へと持っていく。ふにょっ、と蕩けるような柔らかさだった。恍惚感に浸りながらそれを揉み、ゆっくりと視線を下に向ける。すらりとした腰に可愛らしいおへそ、そしてその下にある神聖な器官。あの割れ目にいきり立ったものを挿入したら、包み込まれたら……
「サチさん、行くよ……?」
「うんっ、来て……シンペイくんを、幸せを私に感じさせて……♥」
俺に身を委ねるサチさんの入り口部分に、俺はペニスをあてがった。彼女はぴくんと震えたが、自分でそこを指で開き、肉棒を迎え入れる意思を示した。
腰を進める。くちゅり、と粘液が絡む音。
「あ……! 入ってる……すごぉい♥」
さらに奥まで入れる。ねちょねちょと絡みついてくる肉洞の内部。もっと奥へ、奥へと誘うようなうねりをしている。
「もう少しで……ああッ♥ そ、そこぉ♥」
「うっ、きつっ……!」
サチさんが快楽に顔を歪めた。最新部に到達したのだ。そこは締め付けがきゅっときつくなっており、ペニスを程よい力で締め付けてくる。それでいて胸の膨らみと同じふにょふにょ感がペニスをくすぐる。このままただ挿入しているだけでも射精してしまいそうだ。
「はぁ、はぅぅ♥ 私のおまんこに、シンぺイくんのがぁ……♥」
嬌声と共に、彼女の瞳から涙が零れ落ちる。ゴーストでも涙を流せるのか。
ユキさんにしたように、腰を引き、突く。また引いて、突く。
「ふわぁっ、はぅ♥ んっ、そ、そこっ♥ い、イイよぉ、あんっ♥」
俺の動きの一つ一つに反応し、サチさんは喘ぎ、よがる。肉洞でペニスがこねくりまわされ、汁がいやらしい音を立てた。ぬめりを帯びた感触がたまらなく気持ちいい。だがセックスに大事なのは物理的な気持ちよさよりも、精神的な快感だと身をもって知ることになった。膣内のうねりよりもサチさんの可愛い表情や声が、俺を激しくかき立てているのだ。
「サチさん、サチさんっ!」
「シンペイくん、ふぁっ、あぅ♥」
再びディープキス。互いの口の中を舐め回す。
その間、サチさんも艶かしく腰を動かし、下の口でペニスを味わっていた。とても気持ちよさそうに。そして俺を気持ちよくするために。
「ぷはっ……はふぅ♥」
唇を離し、サチさんは蕩けた笑顔を見せる。
いつの間にか俺たちの体は宙に浮きあがっていた。ゴーストの力によるものか、重力から解放され、テケ車やユキさんを見下ろす高さで浮いている。地に足がついていない浮遊感を味わいながら、互いに腰を動かす。
「あぅ、やっぱり、んっ♥ 現実で、するのって……あはぁ♥」
「うん! 俺も、う……気持ちいい……!」
彼女がユキさんを通じて俺に見せてきた妄想。あれは単に精を吸収して実体化するためにやったわけではない。サチさんは心の底から、俺とそういうことがしたかったのだ。機械馬鹿でも魔物たちと一緒に過ごしてきた以上、彼女たちの習性はある程度分かる。俺がサチさんのことを忘れなかったが、彼女も俺を好きでいてくれたのだ。ユキさんと同じように。
「あ、ああ……出したい、サチさんの中に出したい……!」
「きてっ♥ 一番奥にぃ、たっぷり……温かいのを出してぇ……♥」
まるで結合部から体が解け合い、一つになってしまったような錯覚を覚える。俺とサチさんの快感はリンクしているように思えた。こみ上げてきた射精感を解放しようとした瞬間、サチさんの肉洞もきゅーっと締まってくる。
サチさんがイくんだ。俺がイかせるんだ。そう自覚した途端、俺は彼女の奥で果てた。
「で、出るよ!」
「ぁ、あぁ、ぁ、き、きたぁ♥ 出てる、熱っ、はうぅぅぅぅん♥」
幽霊の膣は貪欲に蠢き、迸る精液を吸収していく。漏れるのはゆっくりだったが、射精自体は長かった。ちょろちょろとおねしょをするように迸っていくそれが、サチさんの肉洞に受け止められる。
「はふぅ……あぁ……やぁン……♥」
可愛らしく喘ぎながら絶頂の快楽を味わうサチさん。その顔がたまらなく愛おしくて、繰り返しキスをした。胸も揉んだ。ゴーストとなった彼女の体を満喫する。
やがて快楽が徐々に収まってくると、彼女は俺の目をじーっと見て、にこりと笑った。肩で息をしているのがいじらしい。対する俺は泣いていた。今までしてきたことが無駄でなかったこと、彼女が約束を守ってくれたこと。
そして、一つになれたことへの喜びの涙だった。
………
……
…
死ぬのは怖くなかった、とサチさんは言う。自分が死んでも誰も困らないと思っていたからだそうだ。彼女の両親はやっぱり、褒められた人間ではなかったのだろう。
ただ最期に何か幸せを見つけたくて、病院のベッドから抜け出した。惨めに死ぬのは嫌だから。雑木林に行ったことに特に理由はなかったようで、あんな所に昔の戦車が転がっているなんて思ってもみなかったとのことだ。
だがその思わぬ発見よりも、それに夢中になっている男の子と出会ったことが幸せに思えた……そう言ってくれたサチさんは今、
「ほらほら、もっと強く挟んじゃうよ♥」
「イっちゃう? イっちゃうのよね♥」
ユキさんと二人掛かりで、俺のペニスを胸で挟んでいたりする。
「ふ、二人とも。もうすぐ試験走行の時間だから……」
「分かってるなら早く出しちゃえばいいじゃない。私たちのおっぱいに♥」
意地悪く笑うユキさんの背には、コウモリのような翼が生えていた。未成熟なその翼はクラゲのように透き通っており、お尻から生えている尻尾も同じように色素がない。そして竿を挟み込む胸のふくらみはふさふさとした、薄紫色の柔らかい毛で覆われている。実体のない状態のゴーストも魔物であり、憑依されればやはり人間のままではいられなかったのだろう。レッサーサキュバスとなった彼女は授業中こそ相変わらず地味だが、二人っきり、あるいは三人きりになったときにはこの上なく好色になる。
「ユキちゃんっておっぱい大きいよね。いいなぁ」
サチさんがユキさんの胸をつつく。着やせするタイプなのか、作業着の上からだとよく分からなかったが、ユキさんの胸は大きかった。無骨な作業着を脱いだ瞬間、二つの塊がたゆんと揺れたときは俺も思わず生唾を飲んだ。
「サチさんだって十分あるじゃない。それに大きさよりも……」
合計四つの膨らみの隙間から、ちょこんと顔を出した亀頭。ユキさんはそれを軽くつついてきた。思わず「うっ」と声を出してしまう俺を見て、ユキさんは楽しげに笑った。
「ほら。シンペイくんが私たちの体で気持ちよくなってくれることが、私は幸せよ♥」
「うん、幸せだね♥」
左からは柔らかな体毛に覆われた巨乳、右からは真っ白で朧げな美乳。二人は互いの体を抱き寄せるようにして、むにゅっとペニスを挟んでくる。蕩けるような幸せな圧迫感が、俺を限界まで高めた。
そして、弾ける。
「ううっ!」
派手な音を立てて迸った白濁は真上に打ち上げられ、二人の顔を、魅力的な胸をべっとりと汚していく。
「あははっ、出てる出てる♥」
「んっ、美味し……♥」
迸る精液を競い合うように舐める二人。互いの顔についた分まで仲良くわけあっていた。
サチさんの長い巻き毛、ユキさんのさらさらした髪を撫でながら、快楽の余韻に浸る。幸せだな、と思った。彼女達とこうしている間は理屈なんていらない。ひたすら多幸感に浸るだけでいいような気がした。
だが今日はいつまでもこうしているわけにはいかない。それは二人も分かっている。
精液をすっかり舐めとってしまうと、ユキさんはウェットティッシュで股間を奇麗に拭いてくれた。出したての精液を飲んで少しは情欲も落ち着いたのか、火照った体にしっかりと作業着を着込む。サチさんの方も霊体の作業着を着ていた。意外と彼女にもこの無骨な格好は似合っている。
「……行こう」
パンツとズボンを上げ、俺は二人の手を取った。
……漢字を発明したのは大昔の中国人だが、彼らは一文字ごとにいろいろ考えて作ったらしい。「辛い」という字は刃物で刺されている状態を示すという。苦痛は大抵の人には辛いことだろう。だが逆に幸福な状態というのは人によって違う。だから「辛い」と一文字違いの「幸せ」という文字は手枷を外された姿、つまり辛いことが終わった状態の象形だといわれている。
俺と出会って幸せだったということは、俺はサチさんの苦痛を終わらせたのかもしれない。そして今度は、「彼女の寿命を縮めてしまったかもしれない」という自責の念を持っていた俺の苦痛を、サチさんとユキさんが終わらせてくれた。
今の俺たちは幸せだ。だがまだやるべきことがある。
「じゃあサチさん、辺りを一周したら交代だからね!」
砲塔のハッチから顔を出すサチさんに、ユキさんが言う。軽装甲車という名前であれど実質豆戦車であるテケ車、砲塔と操縦席には一人ずつしか入れないのだ。
「分かってるよ。終わったらまた三人で、ね♥」
「当然ですっ♥」
互いに挿入の手真似をしながら笑い合う。操縦席ハッチから頭を出して聞いている俺は顔から火が出そうだ。こういう卑猥なガールズトークも人魔共学の学校では珍しくもないので、車庫にいる学友たちも何も言わなかった。キャタピラ転輪の隙間に挟まったケサランパサランを取り除いたり、テケ車に念力をかけようとするマンティスを追い払ったり、ガヤガヤ騒ぎながら最後の点検を終える。
「よし。新平、行ってこい!」
「はい!」
先生の声に応えつつ、サチさんを見上げる。
「隊長、エンジン始動します!」
「うん! エンジン始動!」
笑顔でびしっと叫んだ彼女の声に合わせ……始動(イグニッション)。
車体後部のエンジンが唸りを上げ、やがて小気味よい音を立て始める。回転数などは問題ない。砲塔にいるサチさんに身振りで発進を合図すると、彼女も大きな動作で前方を指差した。
ギアを入れる。二本の操縦レバーを握り、前へと倒した。
キャタピラが回り、震動が体に伝わる。九七式軽装甲車『テケ』はゆっくりと、車庫の外へと前進する。
動いている。安全のため、周囲が見えるようにハッチは開けたままだ。詰めかけている見物人たちの顔が見えた。路面保護用のゴムパッドがついた履帯がアスファルト道を踏む。
「走ってる! 走ってるよ!」
俺の隊長が叫んでいる。前を見たまま、操縦席から拳を振り上げてそれに応えた。学校のみんなに見守られながら、まずはグラウンドまで向かう。そこでさらにいろいろな試験走行を行う予定だ。
この世界に魔物が現れるずっと昔、人間同士の最も悲惨な戦争の時代があった。人間を愛する魔物たちはその戦争の話を忌み嫌う。だがそんな過去から蘇った車両は、平和な今の時代を満足げに走っていた。こいつにとっても、辛い時代は終わったのかもしれない。
なら、もっと先の幸せを掴みに行けるはずだ。
快調なディーゼルエンジンの音が、俺たちを勇気づけているかのようだった。「進め」と。
「本当の幸せはこれから、だね!」
「ああ!」
――fin
13/10/08 22:00更新 / 空き缶号
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