連載小説
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後編・夢
 夢の町に降り立ったとき、レヴォンさんはすぐ側にいた。
 私の体は昨夜までとは違い、現と同じケンタウロス属の姿。髪も現と同じ……レヴォンさんが丁寧に整えてくれた奇麗な髪で、服だけはローブではなく黒のドレスを着ている。レヴォンさんの方を向いて笑いかけると、彼も笑顔を返してくれた。

 彼の夢は今日も不思議で、複雑に入り組んでいる。ここであの子供たちを捜すのはナイトメアの私でも楽ではない。でもきっと大丈夫。彼が私を信じている限り、私は彼の夢に応えることができるから。

「さあ、乗って」

 手を差し伸べると、レヴォンさんは一つ頷き握ってくれた。彼を背に乗せ、私たちの距離がここまで近づいたことを実感する。レヴォンさんが私の髪を整えてくれたから、少なくとも彼と一緒にいる間は胸を張っていられるだろう。あとは彼の心の棘を、私が抜いてあげよう。それが私にできること。

 蹄で石畳を蹴り、神秘に溢れた町中を走り出す。うねった道を駆け抜けつつ、この世界で動いている物を探した。水溜りに石を落とせば底の土が舞い上がるように、夢の中で何かが動けばその小さな波紋を察知できるのだ。走る道に気を配りながら、神経を集中させる。
 小さな足音に似た気配が僅かに感じられた。距離は遠いけど、方向が分かればどうにでもなる。ガラスでできた家の前を横切り、空中へ続いている階段を駆け上がった。

「飛ぶわよ」

 レヴォンさんに声をかけ、私は先端の途切れている階段から跳躍した。彼は私の肩にしっかりと掴まる。そのまま高く、高く空を駆ける。
 その先に浮いていた雲を蹴ると、雲は柔らかな弾力で私を押し上げる。町中が見渡せる高さで改めて波紋の位置を掴み、そこを目指して降下していく。波紋の数は複数あり、あの子供達と見て間違いない。
 夢の世界の風が優しく頬を撫でた。レヴォンさんの優しさが夢にも表れているかのよう……でも今なら分かる。あのバーテンダーさんが言っていたように、彼の心は沢山傷ついてきたのだろう。もう傷つく余裕が無いほど傷ついて、それでも優しい心になった。そんなレヴォンさんだから。

「……貴方の心は私が支える」

 それが私の決意だった。彼は素敵な人だから、優しい人だから。夢の中で苦しむなんて駄目だ。

「ありがとう、イリシャちゃん」

 レヴォンさんが私の耳元で応える。その言葉の暖かみを感じて、彼の番いになったことを実感した。
 そしてゆっくりと、私たちは石畳に着地。

「あっ!」
「いたわ!」

 私たちは同時に叫んだ。最初にレヴォンさんの夢へ入ったときに見かけた、あの子供たち。水色の髪の女の子が先頭を切って、五人ほどの子供達が後に続いている。

 即座に後を追い、町の中を駆ける。子供たちは私に気づいているのかいないのか、笑い声をあげて元気に駆け回っていた。ケンタウロスの姿で全力を出してもなかなか追いつけない。時々急に曲がったり、私同様重力を無視して家の上に飛び乗ったり、行動も読めない。
 それでもレヴォンさんが一人で追いかけるよりはずっと速く、確実に子供達へと近づいていた。先頭の女の子は活発そうでとても可愛らしく、大人になったら大層な美女になることだろう。額に貼られた絆創膏も、その可愛らしさを曇らせることはできないようだ。友達に声をかけながら、ただただ無邪気に町を駆けていく。

 と、我々は小さな広場に出た。モチーフが何だか分からない曲がりくねったモニュメントが立っていて、その先では細い道がいくつもに枝分かれしている。子供たちは別々に別れてその道へと入って行き、尚も走り続けた。

「誰を追う?」
「あの女の子を!」

 レヴォンさんは迷わず絆創膏の女の子を指差した。その素敵な指が示す細い道へ、私も颯爽と駆け込む。その女の子は後ろを振り向くこともなく、ただ一心不乱に走り続けていた。
 道が狭くなってきたが、私たちはなんとか通過して追跡を続ける。絶対に逃がさない。レヴォンさんのために、その傷だらけの心のために。


『……は……の……して……を……』

「……!?」

 ふいに聞こえてきた小さな雑音。だけどそれは次第に大きくなり、はっきりした言葉になってきた。

『じゃあ、おじょうさまはあいつと結婚するんですね』
『うん、だれにも言わないでね』
『はい! 結婚式のときには、ぼくがふたりの髪を……』


 声は少しずつかすれて元の雑音に戻っていく。でも私にはそれがただの夢の産物ではないことが分かった。

 今のはきっと、レヴォンさんの記憶だ。

「イリシャちゃん!」

 レヴォンさんが叫ぶ。彼にも今の声は聞こえたのだろうか。記憶の奥底に眠っていた、その声が。

「頼むよ、絶対に追いついて!」
「もちろんよ!」

 彼の願いに応え、私は全速で走った。蹄の音が道に鳴り響く。
 ここはレヴォンさんの夢の世界、つまりレヴォンさんの強い願いを実現することもできる。私もまた彼の夢……だから、応えることができるはず。

 女の子がひょいっと屋根の上に飛び乗ると、私も石畳を蹴って跳躍する。屋根の上を少し駆け、今度は空中を流れる川の上へ。水面をスケートするかのように滑り、水しぶきを上げながら追いかけっこを続ける。彼女はそれほど速く走っているようには見えないのに、なかなか追いつけない。単純な速さの問題ではなく、レヴォンさんの心の問題なのかもしれない。
 それでも少しずつ、距離は縮まってきた。私の力と、レヴォンさんの強い想いが功を奏したのかもしれない。

 もう少しで……そう思ったとき。

 女の子が突然、私たちの方を振り向いた。小さな手を真っ直ぐにさし出し、私たちを指差す。……いや、私たちの後ろを。

「……ああっ」

 レヴォンさんが怯えたような声を上げる。川の水面を滑る私たちの後ろに、あの妙な兵士たちが迫っていたのだ。教団に似た鎧を身につけて不気味な声を上げながら、徐々に近づいてくる。下を見れば地上にも大挙して押し寄せていた。
 こいつらが何なのか、今なら分かる。これはレヴォンさんの夢に食い込んだ心の棘だ。かつて彼を傷つけて今なお苦しませる忌まわしい記憶。私の力なら、今こいつらを消し去ることはできる。

 でもそれだけでは駄目。レヴォンさん自信が棘の痛みを超えていかなくては、完全に消すことはできない。

「レヴォンさん! 幸せを心に思い浮かべて!」

 彼の方を振り向き、私は叫んだ。

「自分は幸せだって、過去になんか負けないって信じるのよ!」

 心の傷に打ち勝てるのは幸福。私の力だけではなく、レヴォンさん自身がその力で悪夢を打ち破らなくてはならない。
 大丈夫……彼ならきっとできる。私に自信をくれた人だから。私の愛する人だから。

 私が彼を信じる。

「きゃっ」

 突然後ろから伸びてきた手が、私の胸を鷲掴みにした。

「イリシャちゃん……僕の、幸せ……」

 頬をすり寄せ、私の胸を夢中で揉むレヴォンさん。乳房が彼の手からはみ出してひしゃげる。私の着ているドレスは生地が薄く、その刺激が邪魔されることなく伝わってきた。同時に乳首がじわじわと疼き、布をふくらませてツンと勃つ。胸の鼓動も早まってきた。

「もう、レヴォンさんってば……♥」

 上半身を捻り、彼とキスをする。同時に着ている服を消し去って胸を曝け出すと、彼はさらに激しくそれを揉んでくれた。
 私が、私との交わりが彼の幸せだというなら。この場でもやることは決まっている。

「ん……んみゅ……ちゅ……♥」

 舌を絡ませつつ、胸への刺激を味わう。レヴォンさんの手つきは激しいのに優しさがあって、いつまでも触って欲しいくらい。時々乳首をつままれる。
 私もお返しに、彼の股間へ手を伸ばした。

「あっ……!」
「ふふっ……レヴォンさんも楽しみなさい♥」

 彼の服も消し去り、そそり立ったおちんちんに直接触ってあげた。レヴォンさんを背に乗せて後ろ手での手淫……現と同じ体勢ではあっても、ここは夢の世界。今度はレヴォンさんが翻弄される番だ。
 手首を素早く動かし、激しく肉棒をしごいた。握る力を強めたり弱めたり、優しく揉み解すような動きも加えて、おちんちんをいじめてあげる。彼の幸せを願いながら。

「あはっ、おちんちんがピクピクしてるわよ……♥ 私の手、そんなにイイのかしら……?」

 今度は亀頭だけをちょんとつまんであげると、鈴口からヌルヌルしたのが出てきた。今度は先の方だけを揉むように擦ってあげる。

「うぅぅ……」
「レヴォンさんはこれが幸せなんでしょう? 私のおっぱいを揉みながら、おちんちんを弄られるのが……♥」

 さらに亀頭を揉みしだきつつ竿部分をしごく。レヴォンさんの方も胸を揉むだけじゃなく、私のアソコに手を伸ばした。くちゅっ、と小さな音を立てて割れ目が広げられる。

「あんっ……♥」

 レヴォンさんの素敵な指が、肉芽を優しくくすぐる。気持ちいい刺激が体中をピリピリと駆け巡り、脚から力が抜けそうになった。それを純粋に楽しみながら、今度は今までのように髪を伸ばして肉棒を搦め捕った。おちんちん全体を覆い尽くすように。

「ほぉら……♥ レヴォンさんが、ひぅんっ……奇麗にしてくれた髪よ……♥」
「うわっ……す、すごい……!」

 繭のようにおちんちんを包み込んだ髪を不規則に動かし、刺激を与えていく。締めてみたり、くすぐってあげたり、尿道口をつついたり。レヴォンさんの先走りのお汁だけではなく、私の髪からも潤滑液が出ている。これも夢だからできることだ。

「か、髪が……!」
「んぅっ……レヴォンさんの手つき、すごく、やんっ……♥ すごく上手……♥」

 彼もまた、私の感じるところを的確に刺激し続けていた。アソコの弄り方も、胸の揉み方もとても気持ちよく、私もどんどん高まってしまう。現での交わりで、私の体のことを知ってくれたのだろう。

「ああ……イリシャ、ちゃん……」

 だけどやっぱり、夢の世界では私が上。彼のおちんちんを弄び、甘い幸せを与え続ける。
 それをさらに大きくするため、私はもっとサービスしてあげた。

「んぷっ!?」

 全裸で空中に現れた私の分身が、レヴォンさんの顔に胸を押し付ける。後ろにも分身が現れ、大きく股を開いて彼の背中にアソコを擦り付けた。分身の感覚は私に繋がっており、私の胸とアソコも愉しませてくれる。
 分身の乳房で顔を挟み込んで優しくマッサージしてあげると、髪の繭の中でおちんちんが脈打ちはじめた。今まで何度も感じてきた、射精直前の素敵な脈動。その感覚が髪を通して伝わってくると、私の興奮も最高潮に達した。

「イく? イっちゃうのね? 私の髪、べとべとに汚したいのね……♥」
「うぁぁ、出る……ああああああっ!」

 レヴォンさんが叫ぶのと同時に、髪に包まれたおちんちんも悲鳴を上げた。髪に絡み付いてくる白濁の感触を味わいながらも、私は髪を解いて亀頭を解き放った。

「ふああっ♥ ひあぁん♥」

 今度は私が悲鳴を上げる番だった。髪の包みから解放された精液が、私の体に惜しげなくぶっかけられる。その火傷しそうに熱い感触にとろけそうに濃厚なニオイが、私の快感を激しく増幅させた。

「やぁっ♥ イっちゃう……精液でイっちゃうぅぅ……ふあああぁん♥」

 割れ目から潮を吹き、私は彼を背に乗せたまま絶頂に身を震わせた。夢の世界でも頭の中が真っ白になりそう。そんな私の体に、どんどん白濁が降り注いでいく。

「あはぁ……♥ 凄いわぁ……レヴォンさんの精液ぃ……♥」

 ……やがてレヴォンさんの射精が止まったとき、私の肌には粘つく白い液体がべっとりと塗られていた。私がこんなに気持ちいいのは、彼が私の最も愛する男性だから。そしてレヴォンさんも私を、彼専用の雌馬になった私の恥態を恍惚の表情で見つめながら、息を整えている。

 彼のさらに後ろを顧みても、そこにあの悪夢の兵士たちはいなかった。地上からもその姿は一切消えており、見えるのは不思議で美しい夢の町だけ。それも今までよりずっと輝いて見え、幸せに満ちているかのよう。レヴォンさんの心が、幸福を実感できたのだ。

 そして。
 私たちの目の前には、水色の髪の女の子が立っている。川の水面を滑ってはいるが、私たちと向き合い、もう逃げる様子はない。レヴォンさんは私の背から女の子を見つめ、彼女もレヴォンさんを見て微笑みかける。



「……ウィルマリナ様」

















 ………















 夢の町の、とある家の中。レヴォンさんは大きな鏡の前で、女の子の髪を切ってあげていた。明るい水色の髪がぱらぱらと床に落ち、髪型が整えられていく。
 私は彼の様子をじっと見守っていた。黙々と作業を続けるレヴォンさんの表情は楽しそうにも、物悲しそうにも見える。女の子はじっと椅子に座り、鏡を見つめる。

 やがてレヴォンさんは彼女の頭を洗い、丁寧にタオルで拭く。女の子も気持ち良さそうだ。

 散髪が終わり、女の子は椅子から立ち上がった。額の絆創膏はいつの間にか消えており、整えられた髪と溌剌とした笑顔が可愛らしい。

 彼女はレヴォンさんにぺこりと頭を下げ、家の玄関へと向かう。そこには彼女と一緒に遊んでいた男の子が待っていた。どこにでもいそうな顔のその男の子と、彼女はしっかりと手をつなぐ。

「またね」

 女の子は私たちに笑顔を向けた。

「うん、いつかまた、必ず……」

 そう応えるレヴォンさんの顔は、何かを決心したようだった。
 子供達が再び夢の町へと駆け出して行く。ふいにラヴォンさんは私に歩み寄り、ぎゅっと抱きしめてくれた。

「ありがとう、イリシャちゃん」

 しっかりと私を抱きながら、彼は言った。


「見つけられたよ。忘れ物を……」
12/12/22 20:05更新 / 空き缶号
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