連載小説
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新しい日常
ふぅ

畑仕事も終わったし後はのんびりするだけだな

畑はそれほど大きくないけれど、僕一人が生活していく分には十分すぎる

朝早くから始めたら昼ごろには終わるしね

朝早くに起きて、昼頃まで畑仕事をして、あとはのんびり過ごすだけ

それが今まで十数年の僕の生活スタイルだ

僕の両親は僕がまだ幼いころに病で他界してしまった

その時からずっとその生活を続けている

幼い頃は街の中心部に住んでいる叔父さんに手伝ってもらっていたけど、今はもう僕一人で全部できる

こんなのだけれど友人はちゃんと居る、月に1回会うか会わないかだけれども

お酒や肉類はまだまだあるし、今日はハーモニカでも吹いて過ごそうかな

そう思って家のドアに手をかけた










家のドアを開けると見慣れない人物が僕の前に立っていた


 「あっ、おかえりなさい、ジャノさん」


その人物は僕の姿を確認すると、まるで長年の友人のように出迎えてくれた

彼女の背中からは純白の翼が生えており、綺麗な金色の髪の天辺には明るいリングが浮いていた


 「どうしたんですか、そんな豆鉄砲を食らったみたいなお顔をされて?」


僕が状況の整理が出来ずに混乱していると、僕の顔を覗き込んできた

とりあえず、一番気になる事を聞いてみよう


 「……色々言いたいことがあるけれど…とりあえず、君は誰?」


僕の言葉に彼女はハッとして


 「あぁ、そういえば自己紹介をしていませんでしたね、私とした事が忘れていました」


 「私はお母様より貴方を幸せにするために派遣されたエンジェルです、名前はまだありません☆」


にごりのない満面の笑み、僕は思わずその笑みに見惚れてしまっていた

天使、まさしくその言葉の通りだった

しかし、ひとつ疑問があった


 「……ここは街外れとはいえ親魔物の領地なのに、なんで神の僕であるエンジェルがいるの?」


 「それは、私のお母様は愛の女神を名乗っている方でして……主神様とは違って魔王様の考えに同意しているので、ということですよ」


そういうことらしい

でもどうして僕のところなんかに……


 「あと、名前が無いって言うのは、受肉してからすぐにこっちに来たので、お母様に名前をもらうのを忘れていたんですよ〜」


……案外抜けているところもあるようだ


 「だから名前が無いと呼んでもらうときに不便だから私に名前を付けてくれませんか?」


彼女はとにかく自分の思っていることが口に出るタイプらしい、落ち着くまでは彼女のペースに合わせることにしよう


 「……色々突っ込みたいけどまぁいいや、君に名前をつければいいんだね」


 「そうだなぁ……クンシランから取って、クランなんてどう?」


割と自信があるネーミングだと自分で思う

彼女が気に入るかどうかは別だけど……


 「幸せを呼ぶって言う花言葉の花ですね、そんな花からとっていただけるなんて……気に入りました!私は今からクランと名乗りますね」


どうやら気に入ってくれたようだ

じゃあそろそろ彼女から色々聞こうかな


 「クラン、君のこと色々教えてくれるかな?」


 「もちろんですよ!」


彼女が説明を始めた




要約するとこういうことらしい

彼女は昔から僕のことを天界から覗いていて、色々思うところがあったらしい

そんな彼女の様子をみた彼女の母は、僕のことを幸せにして来い、と言い彼女を受肉させたらしい

正直、よけいなお世話だと思う

今の生活は結構気に入っているし、満足している

不便な事もしばしばあるが、それにもなれてしまったのだ

とはいえ、彼女も好意で来てくれたので断るわけにもいかない

どうしたものか……


 「ということなので、ふつつかものですが、これからよろしくお願いします」


彼女が可愛らしくお辞儀をしてくるのを見ると少しドキッとしてしまった

受肉してまで降りてきたのだ、どうせ断ってもここに居座るだろう

僕はそう思い、彼女と一緒に暮らすことを決意した












彼女に家事や家のことを教えているとあっという間に就寝時間になった

彼女の家事の腕前はからっきしだったが、意外なことに料理だけは驚くほどうまかった

洗濯をさせれば服が破れ、掃除をさせれば余計に汚くなる

そんな彼女の様子を見て、半分諦めながら料理をさせてみた

どんなゲテモノが出来るのだろうと思っていたのだが、見た目、味、香り、全てが良い料理ができていた

彼女自身驚いていた様子だったが、褒めてあげるととても嬉しそうにしていた

夕食を終え、風呂で体を洗い(別々で)今にいたる

しかしここでも一つの問題があった

ベッドが一つしかないのだ

幸いにも寝室には大きめのソファーがあるので、床で寝る事は避けられた

だが、どちらかはそこで寝なければならない


 「こっちに来たばっかりで疲れているだろう、僕は平気だからベッドは譲るよ」


魔物(?)とはいえ女性をソファーで寝かすなんてことをさせるわけにもいかないしね

僕がそう言うと彼女はブスッとした顔で


 「私は貴方を幸せにする為に来たのに、貴方に気を使ってもらう必要はありませんよ、それに今の時季は寒いですから風邪をひいてしまうじゃないですか」


貴方がそんな状態で幸せになれるわけないじゃないですか、と付け足し抗議をしてくる

僕が何か言おうとすると、今度はまるで子供をあやす母親のような優しい表情を浮かべた


 「それに私知ってるんですよ、貴方がこの時季になると寒そうに布団を被って、寂しいって呟いているのを、昨日もしてましたしね」


 「だから一緒に寝ましょうよ!!」


……なんでそんなことを知っているのだろう

そういえば僕の生活を見ていた、と言っていたなぁ

その後、僕は必死に抗議を続けたものの、結局説得され、同じベッドで寝る事になった






暖かい、確かずいぶん昔、両親と一緒に寝ていた頃を思い出す暖かさだ

目の前でクランが規則的な寝息を立てている

少し前までは彼女と一緒に喋っていた

彼女にとって僕は物語の中のような存在だったらしく、僕にいろんな話を聞いてきた

彼女の質問にどう返答するか考えているうちにどうやら寝てしまったようだ

彼女の綺麗な翼は僕を包み込むように閉じられていて、腕は僕の背中に回っている

色々と当たっているが不思議と邪な気持ちは湧かなかった

彼女の顔はかすかに記憶に残っている母親のように優しい表情を浮かべていた


 「ジャノさん……これからは一緒ですよ〜……」


クランが寝るまでこれからのことを色々考えて不安になっていたけれども、なんだかそんな不安も彼女の寝顔をみていると吹き飛んでしまった

明日から新しい日常が始まる

彼女の寝顔を見つめながら僕も意識を闇の中に落としていった

11/02/06 10:20更新 / 錆鐚鎌足
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■作者メッセージ
エンジェルさんのSSは堕落系のものが多いですが、そうじゃないものを書いてみます

バ「じゃが、そういうのは世界観的に厳しいのじゃないかの?」

サ「一応彼女たちも魔物ですから、最終的に精を求めて堕落してしまうんじゃないですか?」

とりあえず、最初から魔王の考え方に賛同しているので、反動などの問題で一気に堕落することはなくて、かなりゆるやかに堕ちていく、というイメージでお願いします

サ「飽きずに頑張ってくださいね」

バ「無事に完結できた暁にはわしから褒美をやろうかの」

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