雨宿りな再会
俺は雨なんて嫌いだ
雨が降ると『あの時』を思い出す上に『あの時』の夢まで見ちまう
まったく忌々しい
俺の名前はエルムズ＝グラム
今でこそそれなりに立派な館に住んでるが田舎の村の出身者だ
基本的にはギルドから出される依頼をこなして暮らしている
この館は親魔物派の貴族の依頼をこなしたときに報酬でもらったものだ
使ってないからってもらった時は驚いたが
そこまで大きくないとはいえそれでも結構な大きさの館を一人で管理するのは難しいから何人かの使用人を雇ってみたが
全員が魔物のサキュバスの上、全員が俺が知っているやつだし、さらにはしょっちゅう俺を誘惑しようとしてきやがる
「ご主人様、コーヒーを淹れてきました」
「おう、ありがとう」
このメイド服を着た俺にコーヒーを淹れてくれたサキュバスは、俺が使用人を募集したときに最初に来たやつで知っていたやつＡである
名前はセリス＝サリアル
基本的に俺の言うことは聞いてくれるしこいつの淹れるコーヒーはうまいが、たまにコーヒーに媚薬を混ぜたりするのが残念なやつだ
「今回は変なものは混ぜてないみたいだな・・・相変わらずうまい」
「変なものじゃありませんよ、バフォ様印の媚薬ですよ」
「変なものだろうが、そんなもん混ぜんなよ・・・」
「だってご主人様私を抱いてくれないんですもの、それぐらいはしてもいいじゃないですか」
「おまえがどう考えようが俺は今のところはおまえを抱くつもりはねぇよ」
頬を膨らませて怒る姿が少しかわいいなと思ったのは内緒だ
こいつと知り合ったのも仕事の関係で、反魔物派の街で捕まってしまった魔物を助け出す依頼をやった時、処刑される寸前で助けてやったのが最初の出会いだ
その時の俺はセリス曰く「ヒーローみたいですごくかっこよかったです」だそうだ
その時からなぜかは知らないがセリスにご主人様って呼ばれている
「そういえばご主人様、スーちゃんが呼んでましたよ」
「そうか、じゃあいってくるぜ、コーヒーうまかったぞ」
「ご主人様はなんだかんだいっても優しいですね」
セリスがなにか言ってたみたいだがよく聞こえなかった
まぁあいつのことだからたいしたことじゃないだろう
自室から出た俺はそう思いながらリビングに向かうと中ではセリスとは別のサキュバスが掃除をしていた
「スカー、俺を呼んでたらしいがなにか用か？」
「いえちょっと、お湯が入ったから知らせようと思っただけよ」
「おおそうか、じゃあさっそく入らしてもらうぜ」
「背中流してあげましょうか？」
「そう言って昨日背中を洗いながら尻尾で俺を掘ろうとしたくせに」
「あら？そうだったかしら」
俺がスカーと呼んだ胸などが強調されるようになっているセラスより扇情的なメイド服を着たサキュバスは仕事はちゃんとするが、一番俺を誘惑してくるのでやっかいだ
名前はスカーレット＝アルシア
こいつとは、仕事を終わらせた後いつも通りに酒場で静かに酒を飲んでいたらこいつが酔っ払いにからまれていて、その酔っ払いがあまりにもうるさかったので、助けてやったのが最初だ
それ以来よく会うようになったがまさか使用人になるとは俺は思わなかった
「大丈夫ですか？」
「ん？なにがだ？」
「いえ・・・・なんでもないわ・・・」
「まぁ、つーことで入らせてもらうぜ」
まったく優しいやつだ
リビングから離れて脱衣所で服をすべて脱いだ後それなりに大きい（といっても一般の家の何倍もある）浴場に入る
湯船から外の景色を楽しめるように大きなガラスがあるが、今の俺にとってはただひたすらに気に食わない
雨が降っている外を映している窓をそんな風に思いながら体を洗い終えると誰かが入ってきた
スカーが入ってきてまた俺を掘ろうとしたのかと思ってぞっとしたが別のやつだった
「あれ？主様が入ってたんですか？」
「おまえ・・・脱衣所の服を見ればわかるだろう・・・」
「そんなことより主様、買い物に行ってびしょびしょに濡れてしまったからその逞しい物で暖めてくれませんか？」
「体ぐらいなら洗ってやるが、暖まりたいならそこに湯船があるから入ってろ」
この他のやつより小振りの胸ですこしジパング風な喋り方をするサキュバス値切り交渉術はすごいが少しぬけてるところがかわいいやつだ
名前はクサナギ・レン
名前や喋り方からわかるがジパング出身だ、こいつの父親が元は冒険者で、大陸を旅していた時に母親に出会って、ジパングに戻った時あたりに妊娠して、そのままジパングで育てられたらしい
こいつとは俺がまだ旅人をやっていた時にとある港町の砂浜で倒れていたから助けてやった
事情を聞いたら、ジパングから大陸に渡ろうとして船に食料を乗せて海に出たはいいが方位磁石を忘れてそのまましばらく漂流したのちに船が転覆して流されてきたらしい
海だろうが陸だろうが旅をする時には方角がわからなかったら普通は確実に遭難する
まったくかわいいやつだ
「俺はそろそろあがらせてもらうわ」
「むぅ、主様ともう少し喋りたかったので残念です」
「お互いこの館に住んでるからいつでもしゃべれるだろうが」
「そういえばそうでしたね」
やっぱりすこしぬけている
風呂場から出て脱衣所で服を着ていると脱ぎ捨ててあったはずの上着と靴下が無いことに気がついた、犯人の心当たりはあるので仕方が無いので裸足のまま犯人がいると思われる書斎へ向かう
書斎に入ると一人のおとなしそうなサキュバスが静かに本を読んでいた
俺の上着と靴下をはいて頬を少し赤らめて
「おいそこの変態」
「・・・・・・」
「おい、シィ」
「何かしら？」
「『何かしら？』じゃねえよ、人の服を勝手に着るな！」
「だって貴方の匂いが嗅ぎたくなったから・・・」
「だからって勝手に持ってくなよ」
このアブナイ香りがするサキュバスは基本的にはおとなしいが、この屋敷の中で一番の変態だ
ちなみに一番夜這いとかをかけてくる回数が多い
名前はシィタ＝オミクロン
実は使用人ではなく、気がついたら勝手に居候としてこの館に住み着いていた
こいつとはこの館に住むようになる少し前に知り合った、街の本屋で本を探していたときに少し喋っただけだったのだが、その日からなぜかストーキングしてきて、気がついたら屋敷に住み着いていた
「いい加減にしないと追い出すぞ」
「貴方は優しいからそんなことはしないわ」
澄んだ水のような目で見つめてきやがる
仕方ねえな
「寝るまではここにいてやるから返して来い、スカーが困るだろ」
「やっぱり優しいわね」
そう言ったあと何かを呟くと俺の服が消え、黒をメインにしたゴスロリのような服になった
「転移魔法よ、応用すればこういう風に使えるわ」
「急ぎのときには重宝しそうだが、それ以外のときは需要がないだろ・・」
「新妻プレイから陵辱プレイへ移行するときに使えるわ」
「要するに俺には関係ないということだな」
「貴方をリビングとかみんなの前で素っ裸にすることができるわ」
「勘弁してくれ・・・」
「そう？みんな喜びそうだけど・・・」
みんなが集合している時にこいつには注意をしておこう
シィと喋っていたらそろそろ寝る時間になったので俺は自室に戻った
暗い部屋の中に雨が降る音だけが響く、雨の音を聞いていると『あの時』を思い出す
「そうか・・・『あの時』からもう十年ぐらいたったのか・・・」
俺は十年前までは、とある田舎の村に住んでいた
親父と母さんは元旅人で宿屋を経営していた
親父は厳しくも優しかったし、母さんも優しくて温厚な人だった、もっとも母さんは俺を産んだ後サキュバスになったので人と言えるのか微妙だったが
妹（サキュバス）も元気でかわいいやつだったし、友達も多くはなかったがちゃんといた
なにより俺には将来を誓い合った幼馴染がいた
まぁそいつもサキュバスなんだがな
どうやら俺には昔からサキュバスには何かしら縁があるらしい
そいつは俺の近所に住んでいて、よくローパーの子とその子の彼氏と4人で遊んでいた
名前はドロシア＝レイスダム
料理はうまいし魔法もかなりうまいが、少々子供っぽいやつだ
ドロシーとは許婚だったのだが別にそうでなくともいずれは結婚していただろうと思う
俺は昔から将来は親の宿屋を引き継いで、ドロシーと結婚して、そのまま村で一生を終えるものだと思っていた
１０年前、俺が１５の時のあの忌々しい雨の日までは
「今日は雨が降ってるね」
「そうだな、俺としてはのんびり本を読めるから別にかまわないが」
「私としては外でムー君やみんなと外で遊びたかったけど・・・」
「まぁいいじゃないか、たまには二人でゆっくりすごすってのも」
「ムー君とふたりきりでいれるからいっか」
今日は雨が降っている
父さんと母さんは買出しに街まで行ってるし、妹のマールも父さんたちについて行ってる
よく一緒に遊ぶローパーのマリアとその彼氏のヌルは今頃しっぽりヤってるだろう
だから今日はドロシーと二人きりですごせる
「いまごろマリアちゃんたちはしっぽりヤっちゃってるだろうからわたしたちもヤっちゃう？」
「ドロシー、勝負のこと忘れてないよね？」
そう、僕たちはちょっとした約束を兼ねた勝負をしている
内容は結婚するまでお互いが襲わないこと
変な内容だけどちゃんとした理由はある
この村の昔からの言い伝えで「結婚するまでお互いが純潔でいるとその夫婦は一生幸せにすごせる」っていうのがあるんだ
もっともこの言い伝えを知ってる人と魔物は少ないし、知っていてもそんなもの実行する人なんてほとんどいないと思う
まぁこの言い伝えをドロシーと調べ物をしていたときに見つけたんだ
そしたらドロシーが「このいいつたえをためしてみたいからしょうぶしようよ」なんていったのが始まりだ
「ムー君からおそわせて私のかちにしようと思ったのに・・・」
「僕から襲うことなんてないと思うけどね」
そんな風にドロシーと喋っているとそろそろ暗くなってきたからドロシーは自分の家に帰って行っちゃった
僕が夕飯を作りながら家族の帰りを待っているとすごい音がしたと同時に強い衝撃が僕の家を襲った
「何があったんだろう・・・」
僕はそう思って家の外に出ると村長の家が燃えていて、そっちの方向からすごい怒声が聞こえる
僕がどうしようかと考えていたらドロシーのお父さんが慌てた様子で駆け寄ってきた
「逃げるぞ！！教会のやつらがこの村に攻めてきやがった！！」
「ドロシーやみんなはどうしたんですか！？」
「ほかのみんなはわからないがドロシーは俺の妻と先に逃げた！だから俺らも逃げるぞ」
ドロシーのお父さんと一緒に着の身着のまま雨のなか走って村から離れる
冷たい雨が体と叩くたびにこれからの不安とドロシー達とまた会えるかどうかという不安が体中をめぐる
これからどうなってしまうのだろうか？
いつの間にか寝ていたらしい
やっぱりあの時の夢を見ていた、こんな夢をみるならまだ夢の中でナイトメアに襲われる方がましだ
てゆうかなんだか体が重いし右手も変な感触がする
不思議に思って目を開くと、セリスが俺に抱きついていて、シィが俺の右手で自慰をしていて、それをレンがうらやましそうに眺めてるという奇妙な光景が広がっていた
「おまえら何をやってるんだ？」
「ご主人様の寝顔を見にきたらうなされていたのでこうすれば落ち着くと思ったので、あとうなされてるご主人様も素敵だなと思いました」
「私は・・ぁあん・・見てのとおり・・ひゃぁん・・・ナニしてるのよ・・・ふぁあん」
「私は主様に夜這いをかけようと思ったんですけど先客がいたので・・・」
こいつら口ではこんなことを言ってるが、どいつも心配そうな目で俺を見つめている
ほんとにかわいいやつらだ
「セリス、もう落ち着いたから大丈夫だ」
「えー、もうすこしこうしていたかったんですけど」
「シィ、そろそろやめてくれないとベッドが大変なことになる」
「もう、もうすこしだったのに・・・」
「レン、今回はこれで終わりだから諦めてくれ」
「むぅ、どうせなら私もシィみたいに・・・」
これで今回のこいつらの夜這い作戦は終了だ
嫌な夢を見たがこいつらのおかげで落ち着いてきた
そういえばスカーがいないな、いつもなら俺の左手でシィみたいにナニをしているはずだが
「そういえばスカーがいないな」
「呼びましたか？」
声が聞こえたと思ったら部屋の入り口にスカーが立っていた
「いや、こういうときはだいたいお前とシィはセットだから、珍しくいないなと思ってな」
「そうしようと思ったんだけどまだ仕事が残っていたので」
「じゃあ今から参加しようと来たわけか、残念ながらもうお開きだ」
「いえ、そのこともありますが館の周りに住んでいる魔物達がとある旅人を館に雨宿りさせてほしい、とのことで報告に来ました」
「こんな日の来客だからまともなやつではないだろうなぁ」
今までこの館に雨の日に来たやつでまともなやつなんていなかった
ある時は魔物を人間以下の奴隷としか考えていない貴族、またある時は教会派の人間で俺の使用人を殺そうとしたやつ
前者は簀巻きにして知り合いのダークエルフの里に、後者は近所に住んでいるダークプリーストに引き渡してやったがな
少し前に会ったときに泣きながら感謝されたな
ついでに言うと俺は近所に住んでるやつらには「サキュバスホイホイ」とか「サキュバス専のフラグ建築士」とかいう不名誉な称号をもらっている
どちらかというとあっち側からついて来ているので俺にその称号を付けるのはどうかと思う
「でその「お客様」は今どこにいるんだ？」
「以前のこともあるからとりあえず外で待たせているわ」
「じゃあとりあえず、親魔物派か反魔物派のどっちかだけ聞こうか」
「反魔物派どころか魔物よ、ついでに言うと私たちと同族」
「だから近所のやつらは家に泊めさせたいのか・・・」
とりあえずスカーの頭を撫でてやってから玄関に向かう
ほかのやつらがうらやましそうにこっちを見ていたが、仕事をしたご褒美なのでほかのやつらにはやってやらない
玄関の扉を開けるとひとりのサキュバスがびしょ濡れの状態で待っていた
なんだかどこかで見たことが歩きが気がするが、初対面のはずだから気のせいだろう
「待たせて悪かったな、雨の日の来客はいつも厄介なやつしか来なかったから少々警戒していてな」
「そうなんですか、私も雨が降り始めたときに近くの魔物さんに泊めさせてもらえばよかったんですが、その人に『サキュバスならこの近くにある館に泊めさせてもらうほうが待遇がいい』って聞いたんで欲張っちゃってしまって・・・」
「結構現金なやつだな・・・まぁこんなとこで話すのも寒いだろうからリビングに案内するぞ」
俺はそういってその人（？）をリビングにつれてくると、夜這いでもないのに珍しく全員が揃っていた
「この人がスカーが言ってた来客だそうだ、スカー、風呂の湯はまだ残ってるか？」
「あとで楽しもうと思って残してあるから、まだ入れますよ」
「何して楽しもうと思ってたんだよ・・・」
スカーがその人を風呂場に連れて行くと、黙っていた三人が呟いた
「あの人から恋敵の匂いがする・・・要注意ですね」
「主様、なんだか彼女とは仲良くなれそうな気がします」
「これで最大６Ｐまでできるようになったわね」
セリス、レン、シィと喋っていると二人が戻ってきた
「お風呂すごい大きいですね、あとかなりいい屋敷ですね」
「まぁ住んでいたら結構見慣れるもんだぜ、あと紅茶とコーヒーどっちがいいよ？」
「えーっと、紅茶でお願いします」
「んじゃ、淹れてくるぜ」
そういって俺はキッチンに向かう、本来ならセリスの仕事なのだがセリスより俺のが紅茶を入れるのがうまいので紅茶の場合は俺が淹れる、コーヒーはセリスのがうまいけどな
『彼女』の分と自分の分とついでにほかのやつらの分の紅茶を淹れてリビングへ持って行くと
『彼女』とみんながもう仲良く話していた
「それでそのときのご主人様がすごくかっこよくて、そのときに私はこの人について行こうと思ったの」
「確かにそんな状況だったら私も惚れちゃうかもしれません」
「あら？もう戻ってきたの結構速かったわね」
シィにそう返事を返して全員に紅茶を渡し終えると、彼女が話しかけてきた
「貴方ってこの館に住む前は旅してたんですよね？嫌じゃなかったら貴方の旅の話を聞かせてくれませんか？」
「それぐらいなら別にいくらでも話してやるよ」
『彼女』に俺の旅先であった事を話すとその話によって表情をコロコロ変えていった
やはり『彼女』の顔はどこかで見たことがある気がする
だがどの表情にも違和感があった、笑っていようが真面目な顔をしようがどの表情もどこか悲しげだった、俺が見たことのあった時はもっと心の底からの本心を出しているような感じだった気がする
「さて、俺の話はこれぐらいにしてあんたの旅の話も聞かせてくれないか？」
「別にいいですけど・・・・面白い話なんてありませんよ」
「俺も俺の話は面白いもんじゃねぇと思ってるから構わんよ」
俺がそういうと明るかった表情が急に暗くなってしまった、地雷を踏んじまったかな？
「そうですね、まずは私が旅を始めた理由から話しましょうか・・・」
「私が旅を始めたきっかけは私の故郷の村が教会に潰されてしまったからです・・・」
しまったなぁ、完全に地雷を踏んじまったな
しかし境遇は俺の場合と似ているな
「私には恋人がいたんですが、彼ともそのときに離れ離れになってしまって」
「それが10年前に起きたきっかけです」
10年前・・・・・か・・・・
「私はしばらく母と二人で生活していましたが、どうしても彼に会いたくなって旅に出ました」
「もう10年たってしまいましたがまだ、どこにいるのかもわかりません」
「笑えますよね・・・十年も昔の恋人を探しているなんて・・・」
「すいません・・・なんか暗い雰囲気になってしまいましたね・・・」
外したら恥ずかしいがちょいと仕掛けてみるか
「もしかしてそいつの名前ってエルムズってやつか？」
「！！、知ってるんですか！！」
大当たりだ人生初の雨の日でもいいことがあったな
「知ってるも何も俺のことだからな」
「久しぶり、会いたかったよドロシー」
「ムー君なの・・・・ほんとに・・・・夢じゃなくて・・・・・」
「まぁ10年もたってしまったから色々変わったが・・・僕だよドロシー、綺麗になったね」
「私もあいたかったよぉ、ムー君・・・」
「一人称が僕のご主人様もグっときますね」
「そんなことよりムー君って呼ばれてるのも笑えるわね」
外野が何か言ってるが気にしない
俺はそのまま泣きじゃくっているドロシーを抱きしめているといつのまにか俺まで泣いていた
ドロシーと俺が泣き止むまでしばらくの間抱き合っていると、ドロシーがいきなり俺に笑いかけてきた
「ねぇムー君、残念だけど勝負は私の勝ちだね」
「いや、引き分けだ、俺はまだ童貞だからな」
「えぇ、セリスちゃん達がいるのに！？」
「そうなんですよ・・・いくら魅了の魔法をかけようが媚薬を飲ませようが私たちを襲わなかったので・・・」
「貴女達からは襲わなかったの？」
「私達一応は使用人だからご主人様の命令は逆らえないので・・・」
「私は使用人じゃないけどね」
「えっ、じゃあ貴女はムー君の何なの？」
「エルムズのストーカーよ」
「ムー君、なんでストーカーさんが住み着いちゃってるの？」
「気にしたら負けだ、書斎とか研究室の管理を任せてあるから一応は使用人だと思う・・・」
そこら辺は気にしたら負けなんだ・・・・うん・・・・
「まぁいっか、またこうしてムー君と暮らせるようになったんだし」
「ふたりきりじゃないけど・・・」
「そこは仕方ないじゃないか、この屋敷の管理も結構大変なんだぞ」
「まぁ私たちは主様に追い出されてもお金を払ってでも住み続けるつもりですし」
「まぁご主人様は優しいから追い出すなんてことはしないと思いますけど」
こいつらはなんだかんだ言っても俺は大切なやつらだと思ってるから、追い出すようなことは確かにしないな
こうして俺はドロシーと再会できたんだが・・・
ドロシーと式を挙げてからというものセリス達使用人の夜這い作戦が本格化した
俺がドロシーと再会するまでの期間我慢していた分性欲がかなりやばい
具体的にいうと式を挙げたあと3日で俺がインキュバスになってしまったぐらい
まぁ俺が今まで全然相手をしてやらなかったんだから仕方が無いともいえるが・・・
ドロシーもドロシーで今まで会えなかったせいですごいことになってたりする
まぁ色々と大変だが俺は今はすごく幸せだ
大好きな妻と大切な使用人達に囲まれているからな
雨が降ると『あの時』を思い出す上に『あの時』の夢まで見ちまう
まったく忌々しい
俺の名前はエルムズ＝グラム
今でこそそれなりに立派な館に住んでるが田舎の村の出身者だ
基本的にはギルドから出される依頼をこなして暮らしている
この館は親魔物派の貴族の依頼をこなしたときに報酬でもらったものだ
使ってないからってもらった時は驚いたが
そこまで大きくないとはいえそれでも結構な大きさの館を一人で管理するのは難しいから何人かの使用人を雇ってみたが
全員が魔物のサキュバスの上、全員が俺が知っているやつだし、さらにはしょっちゅう俺を誘惑しようとしてきやがる
「ご主人様、コーヒーを淹れてきました」
「おう、ありがとう」
このメイド服を着た俺にコーヒーを淹れてくれたサキュバスは、俺が使用人を募集したときに最初に来たやつで知っていたやつＡである
名前はセリス＝サリアル
基本的に俺の言うことは聞いてくれるしこいつの淹れるコーヒーはうまいが、たまにコーヒーに媚薬を混ぜたりするのが残念なやつだ
「今回は変なものは混ぜてないみたいだな・・・相変わらずうまい」
「変なものじゃありませんよ、バフォ様印の媚薬ですよ」
「変なものだろうが、そんなもん混ぜんなよ・・・」
「だってご主人様私を抱いてくれないんですもの、それぐらいはしてもいいじゃないですか」
「おまえがどう考えようが俺は今のところはおまえを抱くつもりはねぇよ」
頬を膨らませて怒る姿が少しかわいいなと思ったのは内緒だ
こいつと知り合ったのも仕事の関係で、反魔物派の街で捕まってしまった魔物を助け出す依頼をやった時、処刑される寸前で助けてやったのが最初の出会いだ
その時の俺はセリス曰く「ヒーローみたいですごくかっこよかったです」だそうだ
その時からなぜかは知らないがセリスにご主人様って呼ばれている
「そういえばご主人様、スーちゃんが呼んでましたよ」
「そうか、じゃあいってくるぜ、コーヒーうまかったぞ」
「ご主人様はなんだかんだいっても優しいですね」
セリスがなにか言ってたみたいだがよく聞こえなかった
まぁあいつのことだからたいしたことじゃないだろう
自室から出た俺はそう思いながらリビングに向かうと中ではセリスとは別のサキュバスが掃除をしていた
「スカー、俺を呼んでたらしいがなにか用か？」
「いえちょっと、お湯が入ったから知らせようと思っただけよ」
「おおそうか、じゃあさっそく入らしてもらうぜ」
「背中流してあげましょうか？」
「そう言って昨日背中を洗いながら尻尾で俺を掘ろうとしたくせに」
「あら？そうだったかしら」
俺がスカーと呼んだ胸などが強調されるようになっているセラスより扇情的なメイド服を着たサキュバスは仕事はちゃんとするが、一番俺を誘惑してくるのでやっかいだ
名前はスカーレット＝アルシア
こいつとは、仕事を終わらせた後いつも通りに酒場で静かに酒を飲んでいたらこいつが酔っ払いにからまれていて、その酔っ払いがあまりにもうるさかったので、助けてやったのが最初だ
それ以来よく会うようになったがまさか使用人になるとは俺は思わなかった
「大丈夫ですか？」
「ん？なにがだ？」
「いえ・・・・なんでもないわ・・・」
「まぁ、つーことで入らせてもらうぜ」
まったく優しいやつだ
リビングから離れて脱衣所で服をすべて脱いだ後それなりに大きい（といっても一般の家の何倍もある）浴場に入る
湯船から外の景色を楽しめるように大きなガラスがあるが、今の俺にとってはただひたすらに気に食わない
雨が降っている外を映している窓をそんな風に思いながら体を洗い終えると誰かが入ってきた
スカーが入ってきてまた俺を掘ろうとしたのかと思ってぞっとしたが別のやつだった
「あれ？主様が入ってたんですか？」
「おまえ・・・脱衣所の服を見ればわかるだろう・・・」
「そんなことより主様、買い物に行ってびしょびしょに濡れてしまったからその逞しい物で暖めてくれませんか？」
「体ぐらいなら洗ってやるが、暖まりたいならそこに湯船があるから入ってろ」
この他のやつより小振りの胸ですこしジパング風な喋り方をするサキュバス値切り交渉術はすごいが少しぬけてるところがかわいいやつだ
名前はクサナギ・レン
名前や喋り方からわかるがジパング出身だ、こいつの父親が元は冒険者で、大陸を旅していた時に母親に出会って、ジパングに戻った時あたりに妊娠して、そのままジパングで育てられたらしい
こいつとは俺がまだ旅人をやっていた時にとある港町の砂浜で倒れていたから助けてやった
事情を聞いたら、ジパングから大陸に渡ろうとして船に食料を乗せて海に出たはいいが方位磁石を忘れてそのまましばらく漂流したのちに船が転覆して流されてきたらしい
海だろうが陸だろうが旅をする時には方角がわからなかったら普通は確実に遭難する
まったくかわいいやつだ
「俺はそろそろあがらせてもらうわ」
「むぅ、主様ともう少し喋りたかったので残念です」
「お互いこの館に住んでるからいつでもしゃべれるだろうが」
「そういえばそうでしたね」
やっぱりすこしぬけている
風呂場から出て脱衣所で服を着ていると脱ぎ捨ててあったはずの上着と靴下が無いことに気がついた、犯人の心当たりはあるので仕方が無いので裸足のまま犯人がいると思われる書斎へ向かう
書斎に入ると一人のおとなしそうなサキュバスが静かに本を読んでいた
俺の上着と靴下をはいて頬を少し赤らめて
「おいそこの変態」
「・・・・・・」
「おい、シィ」
「何かしら？」
「『何かしら？』じゃねえよ、人の服を勝手に着るな！」
「だって貴方の匂いが嗅ぎたくなったから・・・」
「だからって勝手に持ってくなよ」
このアブナイ香りがするサキュバスは基本的にはおとなしいが、この屋敷の中で一番の変態だ
ちなみに一番夜這いとかをかけてくる回数が多い
名前はシィタ＝オミクロン
実は使用人ではなく、気がついたら勝手に居候としてこの館に住み着いていた
こいつとはこの館に住むようになる少し前に知り合った、街の本屋で本を探していたときに少し喋っただけだったのだが、その日からなぜかストーキングしてきて、気がついたら屋敷に住み着いていた
「いい加減にしないと追い出すぞ」
「貴方は優しいからそんなことはしないわ」
澄んだ水のような目で見つめてきやがる
仕方ねえな
「寝るまではここにいてやるから返して来い、スカーが困るだろ」
「やっぱり優しいわね」
そう言ったあと何かを呟くと俺の服が消え、黒をメインにしたゴスロリのような服になった
「転移魔法よ、応用すればこういう風に使えるわ」
「急ぎのときには重宝しそうだが、それ以外のときは需要がないだろ・・」
「新妻プレイから陵辱プレイへ移行するときに使えるわ」
「要するに俺には関係ないということだな」
「貴方をリビングとかみんなの前で素っ裸にすることができるわ」
「勘弁してくれ・・・」
「そう？みんな喜びそうだけど・・・」
みんなが集合している時にこいつには注意をしておこう
シィと喋っていたらそろそろ寝る時間になったので俺は自室に戻った
暗い部屋の中に雨が降る音だけが響く、雨の音を聞いていると『あの時』を思い出す
「そうか・・・『あの時』からもう十年ぐらいたったのか・・・」
俺は十年前までは、とある田舎の村に住んでいた
親父と母さんは元旅人で宿屋を経営していた
親父は厳しくも優しかったし、母さんも優しくて温厚な人だった、もっとも母さんは俺を産んだ後サキュバスになったので人と言えるのか微妙だったが
妹（サキュバス）も元気でかわいいやつだったし、友達も多くはなかったがちゃんといた
なにより俺には将来を誓い合った幼馴染がいた
まぁそいつもサキュバスなんだがな
どうやら俺には昔からサキュバスには何かしら縁があるらしい
そいつは俺の近所に住んでいて、よくローパーの子とその子の彼氏と4人で遊んでいた
名前はドロシア＝レイスダム
料理はうまいし魔法もかなりうまいが、少々子供っぽいやつだ
ドロシーとは許婚だったのだが別にそうでなくともいずれは結婚していただろうと思う
俺は昔から将来は親の宿屋を引き継いで、ドロシーと結婚して、そのまま村で一生を終えるものだと思っていた
１０年前、俺が１５の時のあの忌々しい雨の日までは
「今日は雨が降ってるね」
「そうだな、俺としてはのんびり本を読めるから別にかまわないが」
「私としては外でムー君やみんなと外で遊びたかったけど・・・」
「まぁいいじゃないか、たまには二人でゆっくりすごすってのも」
「ムー君とふたりきりでいれるからいっか」
今日は雨が降っている
父さんと母さんは買出しに街まで行ってるし、妹のマールも父さんたちについて行ってる
よく一緒に遊ぶローパーのマリアとその彼氏のヌルは今頃しっぽりヤってるだろう
だから今日はドロシーと二人きりですごせる
「いまごろマリアちゃんたちはしっぽりヤっちゃってるだろうからわたしたちもヤっちゃう？」
「ドロシー、勝負のこと忘れてないよね？」
そう、僕たちはちょっとした約束を兼ねた勝負をしている
内容は結婚するまでお互いが襲わないこと
変な内容だけどちゃんとした理由はある
この村の昔からの言い伝えで「結婚するまでお互いが純潔でいるとその夫婦は一生幸せにすごせる」っていうのがあるんだ
もっともこの言い伝えを知ってる人と魔物は少ないし、知っていてもそんなもの実行する人なんてほとんどいないと思う
まぁこの言い伝えをドロシーと調べ物をしていたときに見つけたんだ
そしたらドロシーが「このいいつたえをためしてみたいからしょうぶしようよ」なんていったのが始まりだ
「ムー君からおそわせて私のかちにしようと思ったのに・・・」
「僕から襲うことなんてないと思うけどね」
そんな風にドロシーと喋っているとそろそろ暗くなってきたからドロシーは自分の家に帰って行っちゃった
僕が夕飯を作りながら家族の帰りを待っているとすごい音がしたと同時に強い衝撃が僕の家を襲った
「何があったんだろう・・・」
僕はそう思って家の外に出ると村長の家が燃えていて、そっちの方向からすごい怒声が聞こえる
僕がどうしようかと考えていたらドロシーのお父さんが慌てた様子で駆け寄ってきた
「逃げるぞ！！教会のやつらがこの村に攻めてきやがった！！」
「ドロシーやみんなはどうしたんですか！？」
「ほかのみんなはわからないがドロシーは俺の妻と先に逃げた！だから俺らも逃げるぞ」
ドロシーのお父さんと一緒に着の身着のまま雨のなか走って村から離れる
冷たい雨が体と叩くたびにこれからの不安とドロシー達とまた会えるかどうかという不安が体中をめぐる
これからどうなってしまうのだろうか？
いつの間にか寝ていたらしい
やっぱりあの時の夢を見ていた、こんな夢をみるならまだ夢の中でナイトメアに襲われる方がましだ
てゆうかなんだか体が重いし右手も変な感触がする
不思議に思って目を開くと、セリスが俺に抱きついていて、シィが俺の右手で自慰をしていて、それをレンがうらやましそうに眺めてるという奇妙な光景が広がっていた
「おまえら何をやってるんだ？」
「ご主人様の寝顔を見にきたらうなされていたのでこうすれば落ち着くと思ったので、あとうなされてるご主人様も素敵だなと思いました」
「私は・・ぁあん・・見てのとおり・・ひゃぁん・・・ナニしてるのよ・・・ふぁあん」
「私は主様に夜這いをかけようと思ったんですけど先客がいたので・・・」
こいつら口ではこんなことを言ってるが、どいつも心配そうな目で俺を見つめている
ほんとにかわいいやつらだ
「セリス、もう落ち着いたから大丈夫だ」
「えー、もうすこしこうしていたかったんですけど」
「シィ、そろそろやめてくれないとベッドが大変なことになる」
「もう、もうすこしだったのに・・・」
「レン、今回はこれで終わりだから諦めてくれ」
「むぅ、どうせなら私もシィみたいに・・・」
これで今回のこいつらの夜這い作戦は終了だ
嫌な夢を見たがこいつらのおかげで落ち着いてきた
そういえばスカーがいないな、いつもなら俺の左手でシィみたいにナニをしているはずだが
「そういえばスカーがいないな」
「呼びましたか？」
声が聞こえたと思ったら部屋の入り口にスカーが立っていた
「いや、こういうときはだいたいお前とシィはセットだから、珍しくいないなと思ってな」
「そうしようと思ったんだけどまだ仕事が残っていたので」
「じゃあ今から参加しようと来たわけか、残念ながらもうお開きだ」
「いえ、そのこともありますが館の周りに住んでいる魔物達がとある旅人を館に雨宿りさせてほしい、とのことで報告に来ました」
「こんな日の来客だからまともなやつではないだろうなぁ」
今までこの館に雨の日に来たやつでまともなやつなんていなかった
ある時は魔物を人間以下の奴隷としか考えていない貴族、またある時は教会派の人間で俺の使用人を殺そうとしたやつ
前者は簀巻きにして知り合いのダークエルフの里に、後者は近所に住んでいるダークプリーストに引き渡してやったがな
少し前に会ったときに泣きながら感謝されたな
ついでに言うと俺は近所に住んでるやつらには「サキュバスホイホイ」とか「サキュバス専のフラグ建築士」とかいう不名誉な称号をもらっている
どちらかというとあっち側からついて来ているので俺にその称号を付けるのはどうかと思う
「でその「お客様」は今どこにいるんだ？」
「以前のこともあるからとりあえず外で待たせているわ」
「じゃあとりあえず、親魔物派か反魔物派のどっちかだけ聞こうか」
「反魔物派どころか魔物よ、ついでに言うと私たちと同族」
「だから近所のやつらは家に泊めさせたいのか・・・」
とりあえずスカーの頭を撫でてやってから玄関に向かう
ほかのやつらがうらやましそうにこっちを見ていたが、仕事をしたご褒美なのでほかのやつらにはやってやらない
玄関の扉を開けるとひとりのサキュバスがびしょ濡れの状態で待っていた
なんだかどこかで見たことが歩きが気がするが、初対面のはずだから気のせいだろう
「待たせて悪かったな、雨の日の来客はいつも厄介なやつしか来なかったから少々警戒していてな」
「そうなんですか、私も雨が降り始めたときに近くの魔物さんに泊めさせてもらえばよかったんですが、その人に『サキュバスならこの近くにある館に泊めさせてもらうほうが待遇がいい』って聞いたんで欲張っちゃってしまって・・・」
「結構現金なやつだな・・・まぁこんなとこで話すのも寒いだろうからリビングに案内するぞ」
俺はそういってその人（？）をリビングにつれてくると、夜這いでもないのに珍しく全員が揃っていた
「この人がスカーが言ってた来客だそうだ、スカー、風呂の湯はまだ残ってるか？」
「あとで楽しもうと思って残してあるから、まだ入れますよ」
「何して楽しもうと思ってたんだよ・・・」
スカーがその人を風呂場に連れて行くと、黙っていた三人が呟いた
「あの人から恋敵の匂いがする・・・要注意ですね」
「主様、なんだか彼女とは仲良くなれそうな気がします」
「これで最大６Ｐまでできるようになったわね」
セリス、レン、シィと喋っていると二人が戻ってきた
「お風呂すごい大きいですね、あとかなりいい屋敷ですね」
「まぁ住んでいたら結構見慣れるもんだぜ、あと紅茶とコーヒーどっちがいいよ？」
「えーっと、紅茶でお願いします」
「んじゃ、淹れてくるぜ」
そういって俺はキッチンに向かう、本来ならセリスの仕事なのだがセリスより俺のが紅茶を入れるのがうまいので紅茶の場合は俺が淹れる、コーヒーはセリスのがうまいけどな
『彼女』の分と自分の分とついでにほかのやつらの分の紅茶を淹れてリビングへ持って行くと
『彼女』とみんながもう仲良く話していた
「それでそのときのご主人様がすごくかっこよくて、そのときに私はこの人について行こうと思ったの」
「確かにそんな状況だったら私も惚れちゃうかもしれません」
「あら？もう戻ってきたの結構速かったわね」
シィにそう返事を返して全員に紅茶を渡し終えると、彼女が話しかけてきた
「貴方ってこの館に住む前は旅してたんですよね？嫌じゃなかったら貴方の旅の話を聞かせてくれませんか？」
「それぐらいなら別にいくらでも話してやるよ」
『彼女』に俺の旅先であった事を話すとその話によって表情をコロコロ変えていった
やはり『彼女』の顔はどこかで見たことがある気がする
だがどの表情にも違和感があった、笑っていようが真面目な顔をしようがどの表情もどこか悲しげだった、俺が見たことのあった時はもっと心の底からの本心を出しているような感じだった気がする
「さて、俺の話はこれぐらいにしてあんたの旅の話も聞かせてくれないか？」
「別にいいですけど・・・・面白い話なんてありませんよ」
「俺も俺の話は面白いもんじゃねぇと思ってるから構わんよ」
俺がそういうと明るかった表情が急に暗くなってしまった、地雷を踏んじまったかな？
「そうですね、まずは私が旅を始めた理由から話しましょうか・・・」
「私が旅を始めたきっかけは私の故郷の村が教会に潰されてしまったからです・・・」
しまったなぁ、完全に地雷を踏んじまったな
しかし境遇は俺の場合と似ているな
「私には恋人がいたんですが、彼ともそのときに離れ離れになってしまって」
「それが10年前に起きたきっかけです」
10年前・・・・・か・・・・
「私はしばらく母と二人で生活していましたが、どうしても彼に会いたくなって旅に出ました」
「もう10年たってしまいましたがまだ、どこにいるのかもわかりません」
「笑えますよね・・・十年も昔の恋人を探しているなんて・・・」
「すいません・・・なんか暗い雰囲気になってしまいましたね・・・」
外したら恥ずかしいがちょいと仕掛けてみるか
「もしかしてそいつの名前ってエルムズってやつか？」
「！！、知ってるんですか！！」
大当たりだ人生初の雨の日でもいいことがあったな
「知ってるも何も俺のことだからな」
「久しぶり、会いたかったよドロシー」
「ムー君なの・・・・ほんとに・・・・夢じゃなくて・・・・・」
「まぁ10年もたってしまったから色々変わったが・・・僕だよドロシー、綺麗になったね」
「私もあいたかったよぉ、ムー君・・・」
「一人称が僕のご主人様もグっときますね」
「そんなことよりムー君って呼ばれてるのも笑えるわね」
外野が何か言ってるが気にしない
俺はそのまま泣きじゃくっているドロシーを抱きしめているといつのまにか俺まで泣いていた
ドロシーと俺が泣き止むまでしばらくの間抱き合っていると、ドロシーがいきなり俺に笑いかけてきた
「ねぇムー君、残念だけど勝負は私の勝ちだね」
「いや、引き分けだ、俺はまだ童貞だからな」
「えぇ、セリスちゃん達がいるのに！？」
「そうなんですよ・・・いくら魅了の魔法をかけようが媚薬を飲ませようが私たちを襲わなかったので・・・」
「貴女達からは襲わなかったの？」
「私達一応は使用人だからご主人様の命令は逆らえないので・・・」
「私は使用人じゃないけどね」
「えっ、じゃあ貴女はムー君の何なの？」
「エルムズのストーカーよ」
「ムー君、なんでストーカーさんが住み着いちゃってるの？」
「気にしたら負けだ、書斎とか研究室の管理を任せてあるから一応は使用人だと思う・・・」
そこら辺は気にしたら負けなんだ・・・・うん・・・・
「まぁいっか、またこうしてムー君と暮らせるようになったんだし」
「ふたりきりじゃないけど・・・」
「そこは仕方ないじゃないか、この屋敷の管理も結構大変なんだぞ」
「まぁ私たちは主様に追い出されてもお金を払ってでも住み続けるつもりですし」
「まぁご主人様は優しいから追い出すなんてことはしないと思いますけど」
こいつらはなんだかんだ言っても俺は大切なやつらだと思ってるから、追い出すようなことは確かにしないな
こうして俺はドロシーと再会できたんだが・・・
ドロシーと式を挙げてからというものセリス達使用人の夜這い作戦が本格化した
俺がドロシーと再会するまでの期間我慢していた分性欲がかなりやばい
具体的にいうと式を挙げたあと3日で俺がインキュバスになってしまったぐらい
まぁ俺が今まで全然相手をしてやらなかったんだから仕方が無いともいえるが・・・
ドロシーもドロシーで今まで会えなかったせいですごいことになってたりする
まぁ色々と大変だが俺は今はすごく幸せだ
大好きな妻と大切な使用人達に囲まれているからな
10/07/13 21:36更新 / 錆鐚鎌足